カラオケ戦争【後攻】
【登場人物】
◆御勅使 美波(みだい みなみ)◆
高1。身長148センチ。背の高い男子に威圧的な態度をとる女子。赤坂君が好き。
◆赤坂 大(あかさか だい)◆
高1。身長147センチ。超ネガティブ思考の男子。御勅使さんがちょっと気になる。
◆玉幡 遊(たまはた ゆう)◆
高1。身長168センチ。御勅使の親友で学級委員長。甲州弁がキツい。
◆大垈 竜地(おおぬた りゅうじ)◆
高1。身長165センチ。赤坂の親友で侍モノが好きな中二病。
待ちに待った夏休みになって2週間が過ぎ、8月に入り初の猛暑日となったこの日。暑さ関係なく夏休みの宿題に手をつける気が失せている午後、釜無高校1年3組の《御勅使 美波》は、クーラーの効いたカラオケに行こうと友達から誘われて、待ち合わせの場所に向かったが、そこで思わぬ事態に遭遇した。そう、私のことだ。
「ほうけー? んーまぁそれじゃしょうがねーじゃんけ、じゃあまた今度! 」
親友の《玉幡 遊》が電話を切った。あきらかに不機嫌そうな顔をしている。
「どうだった? 」
「どーもこーもねーつーこん! アイツ『親戚が入院してお見舞い』とか言ってたけど、絶対彼氏だよ! デートでも誘われたずら? クソッ」
電話の相手は《鶴城 舞》ちゃん。今回、集まろうとした4人の中で唯一の彼氏持ちだ。
「ったく、『女の友情はハムより薄い』つーけんどラップ以下だわ、絶交だ! 」
遊が吐き捨てるように言った。舞ちゃんは普段から付き合いのいい子で、たまたまこの日は初めてのキャンセルだった。なのにそれで絶交って……。まあ遊は、勢いでしゃべって数分したら忘れるようなヤツだから、私も含め誰も気にしないけどね? なんたって《玉バカ》だから(笑)。
「それより美波、そっちはどうで? まー志麻なら彼氏絡みは絶対ないらー? 」
――おい、それは志麻ちゃんに失礼だ謝れ。
「うん、電話してみる」
私が電話する相手は《上条 志麻》ちゃん。今回は私と遊、そして舞ちゃんと志麻ちゃんの4人でカラオケに行こうと事前に話をしていた。しかし当日になって舞ちゃんがキャンセル。さらに志麻ちゃんも体調不良とニャインがあったけど、遊が電話でちゃんと確認しろというので電話してみることにした。必死だなぁ遊。
――あ、つながった。
「もしもし」
志麻ちゃんの声がしたが、どう聞いても具合悪そうだ。彼女は少し体が弱いので間違いなくズル休みとかではないだろう。今回のカラオケも彼女が一番行きたがっていたので、とても残念がっている様子が電話口からも感じた。
「う、うん……わかった、お大事に! じゃあね」
「どうだった? 」
「やっぱ来られないって」
「マジかー! みんなドタキャンじゃんけー」
他にも大勢の客がいる中で遊が大声を上げた。
「どうする? 2人になっちゃうけど……」
「ええっ? 美波ぃ、他に誘えるヤツいんだけぇ~? 」
いんだけぇ~って言われても……今は夏休み、みんな思い思いに夏休みを満喫しているだろうし、そもそも私の友達って遊とだいたいカブっているし……。
まあ男子も誘っていいっていうんなら、誘いたい人はいるけど……
その人とはこの前、ニャイン交換したから連絡はできる。ただそのとき、ちょっと乱暴な態度をとってしまったので、今は正直言って顔を会わせ辛い。
遊と2人で困り果てていたとき、目の前に見覚えのある2人組の男子が……
「「あっ!」」
「「あ……」」
あっ赤坂くぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううん!! ……と、大垈君だ。
《赤坂 大》君、同じクラスで席が隣。私が誘いたい……けど今は顔を会わせたくない人だ。
――何でここに?
【開戦】
「てっ! 何でぇおまんとう、何しに来たでぇ?」
遊が話しかける。相手を選ばず甲州弁だ。
「何しにって……拙者たちはこちらで漫画を堪能しに参ったでござるよ、で、そちたちは?」
《大垈 竜地》君が答えた。赤坂君の友人で、なぜか時代劇風口調の人だ。
「え? アタシんとうはカラオケしに来ただよー、そしたら2人もドタキャンされちまっとぉ。で、どうしっかって美波と話してただけんども……」
「そうか、それは災難でござるな」
「だろー、にしてもあい変わらずおまんのしゃべり方はみぐせぇなぁ~」
「ななな何を言うか! お主の甲州弁も異様でござるぞ」
いやいや、オマエたち2人の会話自体が恥ずかしくて他人のふりしてたわ。よくこのお互い相容れないカオスな会話が成立するものだ。
時代劇と甲州弁のカオス漫才が行われている隣をチラッと横目で見る。
――赤坂君だ。そういや、学校以外で会ったことがないので、制服以外の格好を見るのは初めてだ。
うーーん、予感はしていたがやっぱ私服がダサい。せめてアニメキャラTシャツはやめようよ。もし付き合えたら、ちゃんとした服買ってあげたいなぁ~。
「「あっ」」
「「……」」
赤坂君と目が合った。でも、お互い何も話せず、すぐに目をそらした。
今は私服のセンスとか言ってる状況じゃない。この前、「御勅使」が読めなかった彼に対し、激高して思わず彼を黒板に押し付けるという暴力的な行動をとってしまったのだ。
あの時は、もう付き合えなくてもいい――くらいの気持ちだったが冷静になってみると、やっぱり付き合いたい気持ちのほうが強かった。私は、自分より高身長の男子とは付き合いたくないので、こんな「好物件」は逃したくない……まあ、キャラに少し不安はあるけど。
なので彼に謝ろうと思っていた。ケガの功名というか、この騒動でニャイン交換をして、当たり障りのない会話だけはできたが、やはりこういう大事なことはニャインで済ませるのは良くないと思っていた。
今度、「直接会ったとき」に謝ろうと考えていた……つまり「2学期」だ。
――まさか夏休み中に会うとは。
赤坂君も話さない……やっぱりあのときのこと、まだ怒っているのかな?
そんなとき、遊がとんでもないことを言い出した。
「あっそうだ!せっかくだからおまんとうも一緒にカラオケやらざあ」
――え?
えぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?
――千載一遇のチャンス! 遊……グッジョーーーブ!!
「んーー、せっかくのお誘いは大変ありがたき幸せじゃが……拙者どもは本日、漫画を読みまくろうという話になっておってなぁ……」
――おいっ! ぽっちゃり眼鏡ヲタ!! オメー断るとはいい度胸じゃねーか!
「あー大丈夫! ここのマンガはカラオケルームに持ち込み可能だっちゅーこん」
――遊ぅうううううううう! ナイスフォロー!!
「なぬ、そうだったのか!? ……ではお言葉に甘えて伴奏合唱機を楽しもうではないか、なあ赤坂殿? 」
――何だ「伴奏合唱機」って(笑)。でもよく寝返ってくれたぞオオヌターー!
「ちゅーこんで美波、一緒でいいら~? 」
「う……うん、いいよ」
――そんなもん二つ返事に決まっておろうがぁああああああああああああ!!
でも、即答なんかしたら完全に「期待していた」と思われるから、ちょっと間をおいてから答える「演技」してたんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!
――赤坂君に謝れるチャンスだ。
※※※※※※※
カラオケルームの前に着いた。私はドアを開け、先に遊と大垈君に入ってもらった。みんながどこに座るか様子を見るためだ。
片側が背もたれのあるソファー、反対側は背もたれのないイスだ。大垈君が「ささっ!姫君たちはこちらへ」とソファーに案内した。へ~、気が利くじゃん!
遊がソファーの奥に、大垈君が奥のイスに座った。私はソファーの手前、なぜか微妙に遅れてきた赤坂君は手前のイスに座った。私と赤坂君がTVモニターに近い場所だ。
あれ?そういえば誰も飲み物とかマンガや雑誌を持ってきてないじゃん。
「「あっ、私 (ボク)が持ってく……」」
入口側に座った私と赤坂君が席を立ち上ろうとしたら、遊が
「いいっていいって! おらんとうが持ちに行ってくるつーこん! 若けぇしんとうははんでくっちゃべってろし」
――オマエはお見合いの世話人か!?
「行くよ竜チン! 」
「竜地じゃ!! ……で、お主たち飲み物は何をご所望か? 」
「ええっと、ボクはアイスコーヒーを」
「あ、私コーラ……悪いねー行ってもらって」
「いいさよぉ~」
「承知致した! 」
遊と大垈君が、ドリンクとコミックを取りに行ったので、カラオケルームは私と赤坂君の2人っきりになってしまった。
――謝るなら今だ!
いくら彼が、私の名前を読めなくて頭にきたからといっても、あれはやり過ぎた。そもそも彼は、私だけじゃなくてクラスメイトほぼ全員の名前を知らなかった――つまり私だけじゃないのだからそこまで責める必要はなかった。クラスメイトの名前を知らなかったのは、それはそれで問題だが。
「あ、あの……」
「この前はゴメンね」
私が謝ろうとする前に赤坂君が何か言いかけた。
「えっ何で? 」
「この前黒板に押し付けちゃって……痛かった? 」
「ううん、それよりこっちこそゴメン、名前間違えちゃって……」
――ああその事か。彼は彼なりに気にしていたようだ。
「あぁ大丈夫、気にしてないよ」
もうそのことは、私にとってどうでもよくなっていた。だって、それがきっかけでニャインも交換できたんだ。これからはもっと赤坂君のことを知ることができるし、私のことも知ってもらえる……はず。
「……」
「……」
でも相変わらず、実際に会ったときの会話は続かない。
「そ……それにしても遅いね? 2人とも」
珍しく赤坂君から話を切り出した。無難な内容だけど――
「ねぇ~全く、いつ帰ってくるんだよあの《玉バカ》はっ! 」
「あっ……」
赤坂君の口から思わず声が漏れた。というのも玉バカとは、「クラスメイトの名前を誰も知らない疑惑」の彼に対し、私が「学級委員長の名前くらい知っているよね? 」と問いただしたとき、彼がテンパって発した言葉だ。
あまりにしっくりきすぎて大笑いしてしまった。それ以来、ことあるごとに使っている……もちろん遊の目の前では使っていないが。
「プッ……」
「クックック……」
「フフフ……」
私たちはその時のことを思い出し、思わず吹き出してしまった。
「はっはっは」
「はははははは」
耐えられず2人とも大笑いしてしまった。お互い目が合った。普段、おびえた顔しか見ていない赤坂君の笑顔を見てたら、更に楽しくなってきた。
「おっ待ったっせーーーーーーーーーー! お、何だご両人? なんか楽しそーじゃんけぇ!? 」
ハイテンションな玉バカが帰ってきた。何だよ「ご両人」って、結婚式じゃねーっつうの!あれ? なんか大垈君、少し疲れているみたいだけど。
遊がマンガと雑誌を大量に持ってきた……オマエ何冊読む気だよ、カラオケしてるヒマねえぞ!!
大垈君が4人分のドリンクを持ってきてくれた。遊はオレンジジュース、大垈君はアイスティー……かな? 赤坂君はアイスコーヒーで、私は……コーラだ。
全員に飲み物が行き渡ったので、せっかくだから乾杯でもして盛り上げよう。
私はグラスを持って――
「じゃあ今日はみなさんお疲れ~カンパ……」
と言っている最中に前奏が……誰?
「はーーーーーーーい歌いまーーーーーーーーーーーーーーーーーーす♪ 」
遊だった。ってかオマエさっきまで雑誌やマンガをみんなに配ってなかったか?
「早っ! アンタいつの間に入れたんだよ!!」
一気ににぎやかになった。
※※※※※※※
ずっと遊ひとりで歌いまくっている……まあいつものことだ。普段、私たちがカラオケするときは、コイツが連続して何曲も入れるので最終的にはリモコンを隠す――っていうのがお決まりのパターンだ。
私はまだ2曲しか歌えてない。そういや大垈君、てっきり見た目からアニソンしか歌わないイメージだったけど最近のヒット曲歌ってんじゃん……意外。
飲み物も減ってきた。そろそろ新しいのが欲しいんじゃないかな? 連続して歌っているので飲んでいるヒマがないヤツを除いて。
私はコーラが大好きだ。体育会系の部活に入っていると炭酸とか飲まない方がいいとよく言われるが、好きなものはしょうがない。あの炭酸が喉を通る刺激と独特の甘さが、ん~~たまらない!
あれ? 赤坂君ってアイスコーヒー飲むときガムシロップやミルク入れないんだ――え? ブラックで飲んでるの?
逆にコーヒーは苦手だ。カフェオレやコーヒー牛乳みたいな甘いやつなら大丈夫だけど……だって苦いじゃーん、ブラックなんて……絶対ムリ!
そういえば……赤坂君まだ全然歌ってないでマンガばかり読んでいるなぁ~、カラオケ嫌いなのかな? 無理に付き合わせちゃって悪かったかな?
「ねえ赤坂君、何か歌わないの? 」
「う、うん……ボク、最近の歌は全然知らないから……」
――あぁそのパターンか。
「え~、せっかく来たのにもったいないじゃん! 最近のじゃなくてもいいから何か歌わない? 」
「う~~ん、ボク歌うの自信ないし……」
――ん? これはもしや……アレに持っていけるチャンスじゃね?
「じゃあ、一緒に歌わない? 昔のでいいから何か知ってる曲ある? 」
――よっしゃあああああ!デュエットに持ちこめるぞ――正確には「一緒に歌うこと」であってデュエット曲じゃないけど。赤坂君は目をまん丸くして少し動揺しているみたいだ。
ただ、ここで重大な問題が発生する、それは「選曲」だ。ここで私だけが好きな曲を選べば当然、赤坂君は楽しめなくて「もう2度としない」ってなるに違いない。それじゃ逆効果だ、それやっちゃったらお終いだよ……ふえーん!
ここは2人の「妥協点」を探すこと。彼はおそらくアニソンとか好きなはず。 最近のアニソンは有名アイドルも歌っていることが多い。実を言うと私はアイドルが好き。なので妥協点は……これだ!
「赤坂君、アニメソングとか好きなんじゃない? だったらコレなんかどう? 」
あらかじめ選曲したリモコンの画面を見せる。
「う、うん……これだったら知ってるけど……」
――ビンゴぉおおおお!
私が選んだのは「φブレイクス」というアイドルグループの「魔法少女は思春期」という曲だ。
「私、元メンバーの忍野萌海ちゃんのファンなんだ~」
「へぇ~、忍野さんって今、山梨で地元アイドルやってるよね?」
「そうそう、県内でイベントやってるときは追っかけしてるんだよ~」
思わぬところで共通の話題が出てきた。なんか嬉しい。
前奏が流れた。赤坂君は少し緊張しているみたいだ。
「大丈夫! 一緒だからミスってもフォローするよ、だから楽しく!」
「あ、ありがとう」
歌い出しで赤坂君は原曲キーが合わず、少し歌いにくそうだった。私は慌ててリモコンでキーを少し下げた。
「おっ何でぇデュエットけ? よっご両人~!」
「おぉお主、懐かしいのを入れたのぉ~拙者も好きだぞこの曲」
遊も大垈君も盛り上がったが……だから何なんだよ「ご両人」って!結婚式しか使わないぞその言葉! しかも一緒に歌ったら「初の共同作業」ってことに?
いやーーーーーっ、照れるじゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!
(注※御勅使さんは少し妄想癖があります)
――曲が終わった。点数は76.055点……まあどうでもいいけど。
「よかったよ赤坂君!」
一緒に歌えたことでテンションが上がった私は、思わず赤坂君に声をかけた。赤坂君も楽しそうだった……よかったぁー!
だがこの後、
――『大事件』が起こった。
歌い終わった私はとても喉が渇いた。目の前にあったコーラを飲もうとストローを咥え、一気に飲み込んだら
――んぐっ!!
口の中に強烈な「苦み」が広がった。
「ぷはっ!」
思わず飲んだ物を吹き出してしまった。
「何これ苦っ! え? コーヒー!?」
グラスを見たら、黒い液体だったが泡がついてなかった。
――コーヒーだった。
私が吹き出したのとほぼ同時に
「ぶっ! ケホッケホッ……え? 何これ炭酸?」
と、赤坂君も吐き出していた。
え??
私が飲んだの……赤坂君の「ブラックコーヒー」?
赤坂君が飲んだの……私の「コーラ」?
2人ともストロー使って飲んでいたけど……まさか
まさか……これって、
『間・接・キス?』
きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああきぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいたぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
――ついにやっちまったぁああああああ!!
いつかやってみたかった「それ」を。
でも何で?……という疑問を持つ前に理由はわかった。
隣で大笑いしている、犯人は、そう――玉バカだ!!
「おっおおオマエぇええっ! 」
私は遊に詰め寄った。そして小声で
「何てことすんだよ!赤坂君もビックリしてんじゃねーか」
と言った。赤坂君は動揺しているみたいだった。すると遊はわざとらしく顔を右斜め上に向け、視線は私のほうに向けながら不敵な笑みを浮かべて
「あ~ら、もしかしてイヤでしたかぁ~? 御勅使さぁ~ん 」
――「う」に濁点っ!!
しらじらしいっ! それと、オマエが甲州弁しゃべらないと何か気持ち悪い。
好きな男の子と間接キスしてイヤなわけないだろぉおおおおおお!! 愚問だ!
ただ、心の準備ができていないのに、これは不意打ちじゃないかぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
「イィ…………イッ……ヤ……イヤ……じゃないです」
「でっしょ~お!? だったらアタシに感謝しろし! 」
――こっこいつぅううう……いつか殴りたい。
まだ頭と心が混乱した状態で自分の席に着いた。どうやら私は
「イヤじゃないです……イヤじゃないです……」
と下を向きながらブツブツ言ってたみたいだ。正直よく覚えていない。
チラッと上目で周囲を見る。赤坂君は動揺して顔が青ざめている。おそらく彼の性格からして、私に殺されるとでも思っているのだろう。でも違うよ赤坂君、私は今、幸せの絶頂だよ。なんならそのストローをお土産に持って帰りたい気分だよ。
ついでに大垈君も動揺して口をパクパクさせている……ん? どうしたの?
「あ……ちょっと、ボク、トイレに……」
「あぁ! でっ……では拙者も厠に……」
男子2人はトイレに逃げ……向かった。部屋は私と遊、2人っきりだ。
――もう我慢できない。
「ねえ、遊……」
「何? 」
「シャウト……していい?」
「まあ、カラオケだし……大声出したっていいらぁ~?」
今までは、自分の心の中で「わぁああああああああああああああああああ」とか「えぇえええええええええええええええええ」とか叫んでいたがもうムリだ。
赤坂君と「間接キス」してしまった私の、この抑えられない感情――これは声に出さずにはいられない。
私はマイクのスイッチを入れ、大きく深呼吸をした。
すぅ~……
「生きててよかったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 」
「いや、生きてりゃもっとイイことあるだろ」
遊があきれた顔で冷静なツッコミを入れた。
【終戦】
※※※※※※※
〈1年後〉
今、私は、この日「間接キス」した人と付き合っている。もちろん《赤坂 大》君のことだ。
この後、男子2人が戻ってきてからのカラオケはメチャクチャ盛り上がったみたいだ。どうやら私がぶっ壊れていたらしく、もうヤケクソ状態だったそうだ。何で「みたい」とか「らしく」なんて言葉を使っているかというと、正直あまり覚えていないので……(笑)。
大くんも今回の「アクシデント」のことは忘れてくれたみたい。ハイテンションな女子2人につられて、男子2人も盛り上がったらしい。最後はザ・ブルーハーツの「キスしてほしい」を全員で歌って終わった……らしい。私たちが生まれる前の歌なんだけど。
それにしても遊の「イタズラ」にはホント、困り果てている。この後も何度かやられているが、そのたびに大くんと親密になったり、逆に誤解を生んで距離ができたり……何とかしてくれー!
そういえば、私がソファーに半放心状態で座り込んでいたときに、大垈君がかなり動揺していたみたいだけど……どうしたんだろう?
さて、この話はこれで終わ……え? で、「正式なキス」の話ですって??
いや、それは…………その……まさか……同じ日に2回って…………あああああああ何でもない何でもないですよー今のは忘れてくださいっっ!!
最後までお読みいただきありがとうございました。
次はちょっと変わった視点の【延長戦】に続きます。