第8話 いや、それはおかしいんじゃないか?
「――いや、それはおかしいんじゃないか?」
俺が発した疑問の声に、場の空気がより重たいものになった。
「お、おかしいって、何が……!?」
どこか虚を突かれたような反応の長澤さんを見て、俺は確信した。
……やはり間違いない。長澤さんが何か隠していること。そして“あの情報”が何を意味しているのか。その先に何があるのか。話を聞いてみないと。
「普通、ただの仲良しグループなら。宮島遥さんがそもそも怪物にならないはずだ」
「そ、それは、城田は遥を虐めてたからだよ!! だから!!」
「じゃあ、なんで他の3人は殺された。殺すのは城田沙耶さんだけで良かった。」
「そ、そんな常識、あんな怪物に求めないでよ! 悪霊が憑りついたんでしょ、ソイツが遥をおかしくして、私たちを!!」
「静かに……! 怪物に見つかっちゃうけど良いの……!?」
楓に言われた途端、長澤さんが口元を手で押さえて荒い息を抑えた。
この反応、よほどトラウマらしい。気持ちは分かるけど、追及は止めない。
「……どうかな。葵ちゃん?」
「怪異は、“怪”しく“異”なる存在。人の道理じゃ正しく理解できないものよ。だけど、今の宮島さんが不可解な状況にあるのは事実ね」
「そもそも他の女子は止めなかったのかよ。友だちが虐められて」
「し、城田は、怖いんだ。逆らったら何をされるか……!?」
「それで、見て見ぬふりか。友だちなのに薄情だな。知ってるか、いじめは見て見ぬふりをしていた奴も同罪なんだぜ。ましてや同じグループならな」
「……っ!!?」
わざと冷たく言い放った俺に、長澤さんの鋭い視線が向けられる。
もちろん俺はいじめを見て見ぬ振りをする心情は理解できる。だからこそ――事実がそうなら、ここまで棘がある言い方はしなかった。
見て見ぬふりなんかじゃない、彼女たちは……それに加担していたはずだ。
「だけど、長澤さん。あの怪物、あちこちにケガがあったな。擦り傷や内出血。体の至るところに。全部、城田さんがやったのか?」
「あっ、そういえば! てっきり怪物だからだと思ってたけど……」
「1人じゃ無理だ。あんなにも暴力を振るうなんて。だけど、他の4人も含めたら?」
「ウソ、違う……違うの……! それに、証拠は……!?」
「もちろん、証拠ならあるぜ」
ここで “あの情報”だ。俺はスマホの画面をみんなに見せた。
異界の中では、スマホは圏外だったけど。閲覧中のサイトは視聴できる。
そして、そのサイトは……例の怪事件のブログ記事だ。そのコメント欄には。
『これ、ウチのクラスメートの連中だ。行方不明とか、アイツら100%死んでるに決まってるじゃん! アイツラ、いつもいじめしてたし(笑)』
このコメント。誰でも書き込める以上、信頼できるかは微妙なラインだ。
だから今まで口に出さなかった。だけど、これまでの情報と……何より長澤さんの恐怖に染まった顔。それで俺は確信した。
「宮島さんに、お前たちは“いじめ”をしていた。そして、この廃校で宮島さんが殺され、怪異となってお前たちに襲い掛かった」
「なるほど、そういうことだったのね。あなた、私に嘘を言ったの?」
俺と楓、それと騙されていた七星さんの視線を一挙に担う彼女。
「しょ、しょうがないじゃない!! アンタらに何がわかるの!? 」
「その反応はありえないよ。あなたたちのせいで、遥さんは……」
だけど、長澤さんの答えは……ただ、感情に任せたものだった。
「知らないよ、そんなこと!? 遥が怪物になったの、私に関係ないじゃない!」
「だけど、原因はそちらにあるんだ。すべてを解決しろとまでは言わないけど、なんとかするのが筋だろ」
「そんなのどうでも良いよ、とにかく出して、生きて帰りたいの!!」
「お前、いい加減に――」
「――ストップ。話はそこまでにしましょうか」
もはや周りが見えないほど、ヒートアップしかけていた……前に。
小さな声だけど、含まれた言葉の重みと七星さんの雰囲気が場を変えた。
まただ、この感覚。言い表しにくいけど、どこか異様な。彼女は時折そうだった。それが何かわからない。だから、俺は彼女から離れていたんだろう。
「今は解決法を探しましょう。彼女の悪事を責めるのもそれからよ」
正論だった。俺も長澤さんも冷や水をぶっかけられたように黙った。
……それにしても、解決法か。どうすれば良いんだろうか。
俺が暴いたコトは飽くまで集団失踪の真相だけだ。どうしたら怪物を倒せるのか、ここから逃げ出せるのか見当もつかなかった。
「んー、原因がわかったら解決法もわかるよ?」
だけど、楓は違うみたいだ。何かを思いついたみたいだけど。
いや、待てよ。この楓の冷めきった表情、低い声のトーン。もしや?
「か、解決法?」
「決まってるよ。遥さんが、いじめの恨みで怪異になったなら……この子が殺されたら、遥さんの恨みだって晴れるんじゃないかな」