第12話 だからこそ、これからいろいろ頑張らなきゃな
「まあ、こうして2人の愛を深めたところで。明日の調査、頑張ろうね!」
ひとまず楓が落ち着いて、俺から離れてくれるまで数十分はかかった。
本当に、人気がない道で良かったと思う。普通の街路なら羞恥心で死んでたぜ。現に、そういうのに慣れていない葵は顔を真っ赤にして今にも気絶しそうだったし。
「……結局、あの事件を調べるのね。あんなことが起きたというのに」
「うん。ちょっと学校での事件とか先輩のコトとか不安だけど、それでも私たちの目の前に現れた不思議だよ。だったら、今回もきっちり真相を究明しなきゃ、だよ!」
そして、出てきた話題は例の怪事件。やっぱりそうなるよな、うん。
というか、そもそも俺たちは呪いのゲームの調査が目的だった。忘れてたけど。
「だけど、今回に限ってはちょっとマズい状況にはなっているわね」
「どういうこと?」
「学校で起きた飛び降り自殺、嗅ぎ回るにはいろいろ面倒だからよ。今まで外で起きていた事件を調べるとではワケが違うわ」
葵が言い出したこと。どう面倒なのか、俺たちにはすぐに予想がついた。
「う、うむぅ、確かに……。先生たちが目を光らせてそうだよね……」
「特に俺たち新聞部は、いろいろと悪名高いからな。しかも、ここ最近は怪事件とかオカルトとか取り上げてたし。真っ先に警戒されてるだろうな」
「それに情報が足りないわ。2つの呪いのゲーム。わからないことだらけよ」
「そうだよね。となると、先生が目を光らせている状況で情報収集かぁ。マリちゃんが事件に関わってるみたいだけど話してくれるかな」
「他に、情報を持っていそうな人物はいるけれど……頼りたくないわね。私はともかく、楓や一秋くんはあまり関わりたくないでしょう」
「……うん」
葵の話はもっともだ。俺も楓も、あまり会いたい存在とは思えなかった。
だけど、”それ”に関しては問題なかった。実は俺の中で見込みがついてるからだ。
「そうだな。だから、ここ数日は2人には俺に従ってもらうぜ」
「えっ? 何かアキに考えでもあるの? 珍しいね」
「……珍しいってなんだよ。まあ、そうだよ。この状況をなんとかするためにな」
「一秋くんがここまで言うなら、やってみる価値はあるかもね。期待しているわ」
再び現れた”複合怪異”、結衣先輩の何もかもと不安要素は大ありだけど。
それでも怪事件の真相を暴き出すしかない。楓と……小鞠のためにも。絶対に。
不安と恐怖、覚悟が心の中で渦を形成している中、俺は楓と葵に向かって頷いた。
「ふぅ〜。やっと帰ってこれたぁ……」
世界で最も落ち着ける場所である、自分の部屋に帰ってきた俺。
まずはカバンを放り捨てて、ベットにダイブ。顔、全身をそれに埋める。
ふかふかな感触。洗剤と太陽の心地良い匂いが広がる。どうやら母ちゃんが布団を洗濯していたらしい。ありがたいことだぜ。
そうして何分くらいかうつ伏せを続けて、ようやく体を回転して仰向けになった。
「正直、今日は何もする気が起きねぇな……」
帰ってきた今でも。どこか俺の心は落ち着いていられなかった。
今日は絶望的なほどに時間の流れが遅く感じる。イベント目白押しだったしな。
「だけど、今のうちに調べられることは調べておかないと」
とはいえ、いつまでもこうしちゃいられない。
やるべきはもちろん呪いのゲームのこと。理解できないことが多すぎる。
せめて現時点で調べたらわかることはわかっておきたい。
……それに、もし本当に。複合怪異がこの怪事件の正体だったとしたら。
前の廃校や駅みたいに”事件名”と”怪異名”が必要になる。怪異を暴くために。
だから俺は、ベッドに寝そべったまま隣の机からノートパソコンを持ってきて、調べ物を始めようとした。
「あら、あんた。もう帰ってきてたの?」
と、思いきや。集中しようとした俺の思考を、なつねぇの声が遮ってきた。
「おう、帰ってきてたぜ」
「まったく、帰ってきたらただいまの一言くらい言いなさいよ」
「うっせぇ。疲れてるんだよ」
「そんな理由で無言で帰ってきてないでよ。夕飯の準備とかあるんだから。というか、それなら私も疲れてるわよ。いろいろサークルでこき使われたんだから」
普段以上のしかめっ面をしたなつねぇが、部屋の扉を背にして俺を見据えていた。
ふーん、なつねぇが疲れてると言うのは珍しいな。普段は強がって言わないのに。
「どうして、なつねぇが。それにサークルでこき使われたって?」
「ウチのサークルの先輩がね、いろいろトンチンカンな企画を言い出すわ、それで振り回されまくるわで散々なハードワークで付き合わされたのよ」
「なんだよ、そいつ」
「これでもその人部長なんだけどね。仮にも歴史と伝統のあるサークルなのに、この体たらくとは。正直ガッカリしてしょうがないわよ」
サークルって。前になつねぇが言ってたオカルトサークルか。
その中の男の先輩。確かなつねぇが見せてくれた歓迎会の写真にいたな。
どこか冴えない顔をして、いかにもやれやれと言った様子の見た目していた男。あの野郎、あんな顔してなつねぇをこき使ってるのかよ。
むしろこき使われてる側の人間だと思っていたけど、人には見た目によらないな。
「んで、あんたはどうしてそんなにぐうたらしてるのよ」
「俺にもいろいろ学校であったんだよ。なつねぇと同じような目にあったんだ」
「ふぅん。まあ、あと1時間後くらいに夕飯ができるから。呼ばれたら来なさいよ」
「へー、へー」
言われて時計を見ると、確かに今は6時半。時間が流れるのは早いぜ。
それにしても、なつねぇも大変なんだな。これもこれで意外だ。
というか、許せねぇ話だぜ。何処の馬の骨ともしれない馬鹿な野郎にこき使われてるなんて。あの男、見つけたらタダじゃおかねぇからな。
「……んなことはさておき、やることやらないとな」
そんな野郎への怒りはどうでも良い。さっさと調査の続きをやらないと。
再びパソコンの画面に目を向けて、あらかじめ用意していたファイルを立ち上げる。中にはいくつか俺自身でまとめておいた事件が集められていた。
内容は、ここ1、2週間で起きた、新聞に報道されるような不審死に自殺事件だ。
もちろん今朝にヤツから話を聞いた人気アイドルの自殺事件もその内の1つだ。被害者が一般人だから、他の事件はそこまで騒がれていなかったけど。
おそらく事件の内容から察するに、彼らが自殺した原因は呪いのゲームのはず。念の為に不可解な事件をこうしてメモしていたのが功をなしたぜ。
「事件名は、このくらいか」
ゲームをプレイしたら呪われて、いずれ自殺する。
これに関して他の事件が関わってるとは今のところは言えないよな。
そうなると問題は怪異名か。結依先輩は”リンフォン”が関係してると言っていた。だけど相手は複合怪異。前の駅での事件のように別の怪異も関わってるはずだ。
それに、そもそも本当にリンフォンがあるのか? 実物のゲームがどんなものかわからない以上、先輩が言うことを素直に信じることができなかった。
そうなると、今の俺には答えの見当がつかない。事件の情報が足りないのもそうだし、怪異の知識も。この辺りは葵に頼らないとな。
「だからこそ、これからいろいろ頑張らなきゃな」
先の見えない未来への不安と恐怖を吐き捨てるように、ベッドに体を投げ捨てた。




