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桜坂高校新聞部の怪事件秘録~事件のオカルト事情は複雑怪異~  作者: 勿忘草
第3章 死に至る遊戯~リンフォン、?????、?????
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第3話 あれ、そんなに面白そうなゲームなんだ。ラッキー

「へぇー。あれ、そんなに面白そうなゲームなんだ。ラッキー」


 不意に聞こえてきた、俺には聞き覚えがあった腑抜けた声。

 いきなり、とんでもない爆弾が飛んできたな。声が聞こえた方向に目をやる」


 そこには……俺が予想していた存在がニヤニヤした目で見下ろしていた。

 後ろで1つ結ばれた、明るい茶色の髪にくりっとした顔立ち。

 すらっとした体と手足に、美しく真っ直ぐ伸びている背筋。ちょっと小柄ながらも、それはまさしく健康的な美少女の姿で。

 ……だらしない寝癖と目のクマ、制服の袖と襟がヨレヨレじゃなかったら、だけど。


 そんな彼女の名前は宿井小鞠しゅくいこまり。俺のクラスメートで、ちょっと昔の知り合いだ。


「おいおい、面白そうって。お前は相変わらず脳天気なヤツだぜ」

「良いじゃん、アッキー。刺激がありそうだし」

「刺激すぎるけどな。というか、そんなに面白そうなゲームって言っていたけど――」

「えっと、ちょっと待て。アッキーと呼ばれてるって、お前は宿井とも仲が良いのか!?」


 俺が小花が話してきたことから、気になっていたことを聞き出そうとすると。

 それを遮るように真人が身を乗り出し、俺の言葉を塞いできた。おいおい、なんだよ。


「まあな。中学が一緒で、ちょっと関わる機会があったんだよ」

「そーそー。そういや、この人とは話したことなかったね。名前、なんだっけ?」

「か、影谷、影谷真人だよ……。クソぅ、覚えてもらってなかった……」


 見るからにガクッと肩を落としている真人。そんなに落ち込まなくても。


「別に、小鞠に自分の名前を覚えてもらなくても良いだろ。俺もお前もヤツらの名前、全員覚えているわけじゃないだろうに」


 どっかの友だちを作りたかった元ぼっちは頑張って名前を覚えてたけどさ。

 そんな慰めの言葉を受けて、真人は睨み付けるような視線を向けてきた。今度はなんだ。


「だって、宿井もクラスの中ではけっこう人気がある美少女だぞ! それに前、ちょっと話しかけられたんだよ! だから覚えてくれてて俺に話しかけてきたのかな、とばかり……。だけど、結局は日陰者なのか、俺は!!?」

「えぇ…‥気にしすぎだって。そりゃお前はオタクで陰キャで、クラスの女子からは教室に転がってる埃よりも気にされてない存在だけどさ」

「うるせぇ! というか、秋公。お前は人を名前で呼ぶのを恥ずかしがってたよな? なのに、なんで宿井は名前呼びなんだ!? まさか、お前はうらやまけしからん新聞部のハーレムに飽き足らず、クラスの中に愛人を作っていたのかよ!? ふざけんな!?」

「別にそういうのじゃねぇよ! というか、その物言いはやめろ! もしアイツが聞いてたら、かなりメンドウなことになるんだよ!」


 この手の話題にはとことん地獄耳になっちまうからな、楓は。

 しかも聞かれてしまうといろいろ大変になる。もっとも今回は楓も知ってる小花が相手だから、変に誤解されることはないだろうけどさ。

 とはいえ、厄介ごとは避けたかった。恐る恐る教室にいる楓の方を見たところ。


「へぇ〜。やっぱりあのお店って」

「ーー、ーー、ーー、ーー」

「えっと、瀬川くんの誘いは嬉しいけれど……ごめんね。私にはアキがいるし、新聞部の調査で気になってただけだからーー」


 当の楓は、クラスのリア充グループに位置する連中と話していた。

 そういえば、前に話していたな。新聞部で学校周りの、今時の流行りの店をいろいろ調べて、ロードマップを作る企画のこと。

 たまには花のJKみたいなことしようよ、だからみたいだ。確かに怪異とか都市伝説を調べるよりは高校生の新聞っぽいな。


 そして、こちらの声が聞こえてなかったことに安心して。同時にすごいと思う。

 よくもまあ自分と価値観の違う人と、あんなにもフレンドリーに話せるよな。なんという行動力とコミュ力。俺も見習いたいものだぜ。


「そうだよ。私たちは単なるゲーム仲間だよ。んで、昨日のゲームのイベントどうだった? ちゃんと回せた?」

「ああ、それが溜めてた石使って全力で回したけどさ。やっぱり無理だったぜ」

「あらあら、無課金だとそこまでだよねぇ」

「うっせぇ」


 小鞠の言っているあのゲームとは。俺たちがやっているソシャゲだ。

 けっこう有名な作品で、プレイヤーも多い。ゲームで何かあろうものなら、すぐさまSNSのトレンドに上がってしまうほどに。

 それだけにイベントは過酷を極めているのだ。報酬が人気キャラの限定イラストとなれば、世のゲーム廃人どもはこぞって競い合うだろう。


「もちろん、アタシは寝る間も惜しんでガン回ししたからね! ランキングも上位でイベしゅうりょーというわけ」

「だから、いつにも増してクマがヒドいのか! ちゃんと睡眠は取れよ!」

「睡眠なんて何もしない時間、超もったいないじゃん。イベントは待ってくれないんだし」


 そして、ヤツは高校生でありながら廃人中の廃人。

 おまけに家は金持ちで課金し放題。同じゲームの話題で話しているのに別の世界にいる。

 うらやましい、とはさすがに思わないな。ここまで必死になる理由が、俺にはないし。


「おうおう、随分と仲良しそうじゃねぇか。なんでお前なんかが宿井と仲良いんだよ。俺と同じオタクで陰キャなはずなのに!」


 おいおい、またかよ。相手にするのもめんどいな。

 別に、小鞠と会話をするくらい騒ぐもんじゃないだろうに。


「あとさ、俺もやってるぞ! そのゲーム!」

「ふーん、そうなんだ。知らなかったよ」

「知らなかった……。そりゃそうだけどさぁ……」

「んで、話を戻すけど。呪いのゲームなんて、すっごい面白そうだよね。クリアしたら呪われるとか聞いたことないし。どんな内容なんだろうなぁ」


 そして、小鞠が話題を戻してくれた。俺が一番気になっていた彼女の言葉だ。


「さっきの話を聞いてたのか? 単なる噂話だぜ。ホントかどうかーー」


 俺が呆れた笑いを見せながら、手を広げて否定を表そうとした瞬間だった。




「いやいや、ウソじゃないと思うよ。だって……私のところにも来たし」





 信じられないような言葉に、俺が反応を返そうとする前に。

 彼女が見せてきた画面には――確かに、噂通りの、無名の白いアプリがあった。

 無機質なほど白い、カラフルなSNSやソシャゲのアイコンの中で異彩を放つそれは……俺たちを驚かせるのには十分すぎるものだった。


「……これ、どうしたんだよ」

「今日の朝、何故かアタシのスマホに入ってたんだ。消しても何度も戻っちゃうから困ってたんだけど、そんなに面白そうならやってみようかなーー」

「ーーいや、やめろ。そんなもんに触ろうとするんじゃねぇ!」

「アッキー?」


 マズい気がして、とっさに叫んでしまった俺。

 真人と小鞠の視線が痛かったけど、それよりも止めないといけなかった。


「お前、そんなの噂だって言ったろ。それもさっき。変にムキにならんでも」

「それは、そうだけど。でもダメだ。そもそも怪しいアプリを立ち上げない方が良い」

「あー、それはそうかもなーー」



「ーーどうでも良いじゃん、そんなこと」



 だけど、小鞠の冷え切った刃のように鋭い言葉が飛んできて、思わず黙ってしまった。


「人生なんて生きるまでの暇潰しだし。どーせ、暇で退屈な人生がこれからウン十年続くくらいなら、呪いのゲームで命を散らすのも悪くないなって」

「……お前な。いくらなんでも自分の人生を投げやりに考えすぎやしないか」

「それに、新聞部はこういう都市伝説を調べてるんでしょ?

「し、調べているけどさ。それがどうしたよ?」

「だったら取材をしてくれるじゃん。私が呪いのゲームをしたら、”あの時”みたいに」

「っ!!?」


 言ってくると思わなかった小鞠の言葉に、俺は思わず口を詰まらせてしまった。


「何かあったら連絡するよ。ゲームの話も明日しようね。話したいこと山ほどあるしさ」


 俺に背を向け、手を軽く振りながら自分の席に戻っていった小鞠。

 クラスメートの合間をすり抜ける彼女の姿を、俺は黙って見送るしかできなかった。


「それで、なんでお前が宿井と仲が良いんだよ!? しかも変な雰囲気だし! あんな明るい茶髪の、生きている世界が違う美少女ともフラグを立ててるのかよ!!?」

「またその話かよ!!? しつけぇな!! だから中学一緒だったんだって! あとアイツの髪が茶色なのは染めてるわけじゃなくて、プールの塩素でそうなったんだよ!!」


 俺の必死の弁明に対して。どこかキョトンとした顔になった真人がいた。


「プールの塩素? 宿井は水泳でもやっていたのか?」

「えっ、あ、ああ。お前は知らないか」


 あっ、やべぇ。あまり話しちゃいけないこと言っちまった。

 ……コイツに話しても大丈夫か? 口が軽い真人が秘密を守れるか心配だ。

 とは、考えてみたけど。ここまで話して何もなかったと食い下がるヤツでもないか。


「中学時代、小鞠は水泳部だったんだよ」

「えっ、そうなのか。今の姿からは考えられないけど」

「けっこう有名な選手だったんだぜ。それこそ新聞部に取材されるほどな」


 そうだ、あの時の小鞠はすごかった。市大会、県大会と勝ち進んでいるほど。

 2年の時には全国大会で3位という成績を取って。校舎に横断幕が飾られたっけ。


「なるほどな。それでお前は知り合い同士だったんだ」

「まあな、中学の時も俺たちは新聞部だったからな。それで話す機会があったんだぜ」

「そんなヤツが今はああなっているのか? なんでだ?」

「いろいろとあったんだよ。それで、今はああなってるわけだ」

「ははーん。つまり、元々プロを目指せる実力を持っていた人物が挫折して、その埋め合わせでゲームに依存するようになったと! それは良いよな、リア充街道まっしぐらだった人間がこちら側に落ちてくるなんて!」

「お前、ほんっとうにイヤな性格しているよな! 地獄の炎に焼かれちまえ!」

「ありがとう。最高の褒め言葉だ」


 なんで、こんなヤツと俺は友達なんだ。もはや定期的に思ってしまうな。


「だけど、だから俺は小鞠のことを心配してるんだよ。呪いのゲームは関係なくな」


 それでも、俺はあんなことを言ってきた小鞠のコトが心配だった。

 だけど、そんな気持ちなんて知らない彼女を傍目に、俺はぼそりと呟いたのだった。

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