プロローグ 死に至る遊戯のエンディング
――ああ、××がやって来る。××がやって来る!!!
暗い暗い部屋の中、私は布団を覆い被り、隠れていた。
すべてはアイツから逃げるため。殺されないようにするため。
扉を何重に閉め、窓は板で塞いだ。鏡もテレビもヤツが入る隙間は失くした。
そうだ、すべて失くした、失くした、失くした。なのに――ヤツは私に迫っている。
この部屋に、私の後ろに、すぐそばに……どんなに逃げたとしても潜んでいるのだから!
「イヤぁ……。私が何をしたというのよ……!?」
ふざけないでよ、私は悪くない、私は悪くない、私は悪くないんだ!!!
私はただゲームを始めただけ、大好きなゲームを、ストレスの多い生活の、ほんの癒し。
だけど、ゲームは。この遊戯は――私の日常を、世界を、生命すらも破壊していった。
クリアしたら殺される。”地獄の門”が開いて私は殺される。怖い、怖い、コワイ。
クリアしなければ殺される。何処かで私を狙う怪異に呪い殺される。怖い、怖い、コワイ。
ああ、そうだ、今も。怪異は私を見ている。閉ざされた部屋の中でも、確かに。
ヤツの目が、おぞましい怪異が、私を見つめる。その度に――強烈な絶望と恐怖を覚える。
私の喉を、心臓を、精神を思いっきり掻き毟って死にたい。何もかも消えてなくなりたい。
だから、気づいた時には覆い被さっていた布団を跳ね除け、スマホを取り出した。
立ち上げるアプリは――もはや1つしかない。『ブレイブ・アドベンチャー2』だ。
ああ、あの噂は本当なんだ。このゲームをクリアしたら死ぬのはわかっているのに。
怪異に逃げるために、クリアする。クリアしたら死ぬけど、ゲームをプレイするしか。
だって、そうしないと。私の精神はどうにかなってしまいそうなんだから
そうして画面に映ったのは普段のゲーム画面じゃなかった。どこまでも暗い画面だった。
――ルリルリさんはしにました――
スマホゲームとは思えないような、無機質な血の色の、淡白な文字。
一瞬だけ自身の時が消え失せたかのように、ぼうっとなった後。現実を直視した。
「ふへぇ、ふへへぇ、えっ、あはっ、なんなの、これ、ゆめ、うそ、ちがうはず」
状況を飲み込んだ後、出てきたモノは笑みと、つながらない言葉の羅列。
――そして、怪異が私を目前で眺めていた。
真っ白な顔をした1つ目のバケモノ。口元は大きく吊り上がっていた。
この世のモノとは思えない怪異の、狂気じみた瞳に、怯える私の姿が見えた時。
「ひ、ひぃぃ……。いやぁ、いやあああぁぁぁ……!!」
喉から声が絞り出てきて、恐怖で全身が”壊されてしまった”。
今までと違う、異様な恐怖。ゲームができない、現実から逃れられない、怪異に殺される。
怪異は笑っている、私は怖いのに、怪異が見ている、怪異が見ている、怪異が見ている――
いや、いやだ、こないで、こないで、こないで、こないで、こないで、こないで、こないで――
「あ、あはははは、あはははははははは、あははは、あはははははは、あはは、あはは――」
ぶちゅり、と。私の両手が、ネチネチした気色の悪い物体を……私から取り出した。
視界は黒に染まっている。見えないけれど、きっと私の眼は空洞になっているんだろう。
そう、私は眼を潰した。だから”ヤツ”は見えなくなった。よかった、助かったんだ!!!?
――ぺたり、ぺたり、ぺたり、ぺたり、ぺたり、ぺたり
だけど、聞こえる、見えなくても、私を殺しに、私を呪い殺しに!! いやだ、助けて!?
度、どこにいるの、私のそば? 後ろ? 前!? ああ、足音が、気配が、あああああああ。
「あああ……ああ……あ……あああああああああ!!!!」
だから、今度は耳を引きちぎった。顔の側面が痛い。声は聞こえたままで、怖いし痛い。
もう一度、今度は耳の穴を、偶然にも手元にあった棒で、ぐさりと。これで聞こえなかった。
――ぺたり、ぺたり、ぺたり、ぺたり、ぺたり、ぺたり
だけど、頭の中で響いてきた。ヤツの、私を殺しに来る怪異の存在を!!
なんでよ、なんでなんでなんで!! ……ああ、そうだ。まだ”残っている”んだ。
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!?」
驚いちゃうほどの力で私は、自分の鼻を、指を、喉を引き裂いていった。
正常な感覚が消え失せ、熱い血で体を纏い、もはや何も感じないはずなのに。
だけど、怪異は消えなかった。私の直前で、ニタニタと見つめているのを感じた。
全身が熱に覆われた感覚と、五感を失ってなおも感じている怪異の気配に。
私は、とても、とても、とても、とても恐怖して、絶望して――私は事切れてしまった。




