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桜坂高校新聞部の怪事件秘録~事件のオカルト事情は複雑怪異~  作者: 勿忘草
第2章 諸人縛りし闇の牢獄にて~きさらぎ駅、?????~
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エピローグ3 暗闇で結われた蠢くヨクボウ

「『バラバラ殺人の真相、“複合怪異”。カシマさんときさらぎ駅の謎に迫る!?』、と。これで、投稿して――よし。今日も無事にしゅーりょー」


 たん、たん、と。キーボードの小気味良い音が部屋中に響き渡る。

 ここは、マンションのとある一室。窓や扉、カーテンは閉め切られて暗い。

 私はキレイ好きだから部屋に物は少ないし、掃除はされているけど……それでもジメジメとした空気は感じてしまう。それが心地よいのだけど。

 

 そして、私は投稿を終えたと同時に、ビーフジャーキーを口に放り込んだ。

 ……うん、美味しかった。だけど塩気が、舌へのザラつく刺激が足りないな。

 ビーフジャーキーの塩漬け。もちろんお店には売ってないから、特別に作ったんだけど中々私好みの味になった。だけど、ちょっと物足りない。

 こんなことなら近所のスーパーでピクルスの瓶詰を買うか、マッ〇でピクルスてんこ盛りにしたハンバーガーを買っとけば良かった。やはり時代はピクルスか。

 

 まあ、そんなことよりも。今の私が気になるのは記事のアクセス数だ。

 記事を投稿して少しばかり経過したけど……それだけで、それなりの人が来ている。タイトルが衝撃的なだけに、いつもよりアクセス数は多めだ。

 どうやら私のオカルトや都市伝説を題材にした、このまとめブログ。科学の浸透した現代社会でもけっこうアクセス数を稼げている。怖いもの見たさというべきか。

 本当は“ある目的”のための道具でしかなかったけど、こうしてお金を稼げて、読んでいる人の、ひと時の娯楽になってるなら構わないかな。


 そして、アクセス数が増えると、比例して誰かしらの反応やコメントが増える。

 大抵は素直な感想だけど……中には怪異を全否定する輩、議論という名の言葉遊びを繰り広げている、口煩い連中が現れていた。

 まあ、そんなことはどうでも良いかな。所詮は、手は出さないのに口だけは偉そうに出すだけの烏合の衆。責任は取らないのに自由は際限なく要求する。

 本当に、存在価値のない連中。あの人たちに、そして“彼”の足元にも及ばない。



『誰が、何の目的で、そんなことをしてるんだよ。こんなブログまで作って』



 そして、耳元から聞こえてきたのは、あの人たち、そして“彼”の声だった。

 あの人たちとは私が通う高校の新聞部。帰宅部の私と違い、彼らは部活中。

 ようやく私に盗聴されていることに気づいたらしい。そういうのも愛らしかった。

 これも彼教室に忍び込み、体育の時間を見計らって、“彼”の着替えを発見して――沸き上がった欲望を必死に抑えて、盗聴器を仕込んだかいがある。


 これで彼らから情報を得ていた。無謀にも怪異を追い求める、彼らから。

 理由は簡単。“私の目的”と1番遭遇しやすいのと……彼が、彼らが好きだから。

 小型の端末から聞こえてくる声に幸福感を覚えつつ。私は、ふと自分が投稿した記事をスクロールして読んでみることにした。


『未知と未知が重なり、さらなる怪異が誕生する。だけど、大きな謎が残る』


『怪異が自立して融合したとは考えられない。何かが関係しているのではないか』


『もしかしたら怪異の裏側に。強大な闇の思惑が潜んでいるかもしれない――』


 スクロールが続き、これらの文章が連なり記事は終わる。我ながら良い出来だ。

 それにしても“複合怪異”とは。無難かつシンプルな名前を付けたものね、あの……その、名前は何だったかしら、あのとことんチョロい娘は。

 思い出せない、ということは大したことないんだろうとそこで考えをやめた。


 思考が一通り終わって、再び暗闇の室内に私の意識は戻されてしまう。

 この部屋には誰もいない。私は1人ぼっち。いや、この世界に誰もいなかった。 

 だから、私は新聞部という賑やかな集団に憧れを抱いた。そして――彼にも。


 小山一秋。彼を見ていると、声を聞いていると私は複雑な感情に包まれる。

 なんだろう、わからない、心地よい高揚感。手に入れたいという歪な独占欲が、私の心を支配して、魅了する。私にとってこんな感情は初めてだったから。

 “彼の秘密”があるにしても、それを抜きにしても私は彼をずっと見ていた。


「…………」


 ああ、また増えてしまった。壁一面に、ぎゅうぎゅうに張られた写真の彼。

 私の方に向いているモノも、明後日の方向を向いているモノも……変な女と一緒に写っているモノすらも、何もかもが愛しい。

 それもこれも写真部のチビ女が小山くんに執着し始めたのが悪い。毎週のように写真を盗撮し、なかなか良い写真を用意してくるんだから。




 ――だけど、もうすぐ会えるんだ。写真なんかじゃない、生身の彼と。




 もし彼が、私がこのブログの管理人と知ったら。ずっと見ていたと知ったら。

 小山くんはどう思うんだろうか。敵意? 不信感? 怒り? 恐怖心? 猜疑心?


 ……うん、もうダメだ。その感情を想像するだけで、そのどれもが幸せだ。

彼の顔、行動、心の中。私に向けられた大きな感情が満たされると考えるだけで、

 下手に好かれるよりずっと良い。だって、好意よりも敵意や不安感の方が何倍も大きい感情を、それも長続きして向けられやすいのだから――


「おっと、いけない」


 またもや思考がアッチの方向に飛んでしまった。唯一の弊害かもしれない。

 荒れていた昔より集中できないようになった、とは悲しいけれど。

 

 だけど、そもそもブログを作った理由は、私が為すべき目的は彼じゃない。

 もっと高尚で、有意義で、呪いと恨みと絶望とに染まった、穢れ切った願い。

 そうだ、すべては怪異を利用して、“複合怪異”を生み出して――私のすべてを破壊した、この世の邪悪を煮詰めたヤツを地獄に突き落とすためなんだから。

 



「――“神林”。これだけやったんだから、あなたは出て来るわよね?」

 



 口に出してしまうほど思いが詰まった言葉は、暗闇の虚空に消えたのだった。

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