エピローグ2 なんで、このブログは、このコトを知っているんだ……?
「一秋さん。ネクタイが曲がってますよぉ。直してあげますぅ」
「えっ、ああ。そういや、そうだな。サンキュ」
そんな時、いきなり俺のブレザーのネクタイを直し始めてきた茜。
おいおい、このタイミングでそれかよ。でも、意外にも手先が器用なんだな。
「何をしてるの、茜ちゃん!? それは私の仕事だよっ!」
「いや、お前。かなり不器用だろ。ちょうちょ結びですら変なカタチになるのに」
「それは、そうだけどっ! それでも婚約者がしてあげないとっ!」
「ロクに家事もできないとはぁ。それで婚約者とは聞いて呆れますねぇ?」
「う、うぐぐぐぐぅ」
なーに、変なケンカしてるんだ。2人のバカげた言い争いに呆れていると。
「ネクタイだけじゃなくて……ありましたぁ。これが目当てだったんですぅ」
烏丸はネクタイを直したと、同じタイミングで“あるもの”を空に掲げていた。
「えっと、なにかな、コレ? なんかの機械かな?」
「おそらく小型の盗聴器かとぉ。けっこう高価なシロモノですよぉ」
「と、盗聴器ぃ!?」
そして、想像すらできなかったシロモノの名前に……思わず驚愕させられた。
「なんで一秋くんにそんなモノが取り付けられているのよ!?」
「お、おおお、俺が知りてぇよ!!?」
本当だよ、なんで俺に盗聴器なんかが仕掛けられているんだよ!?
こんな普通の高校生の会話とか日常の生活とか、そんなものを盗み聞きしたところでメリットなんてねぇよ!?
しかも、俺のネクタイに!? いつ、どこで付けられたんだ!? 覚えがないぜ。
「誰が仕掛けたんでしょうねぇ。こんな盗聴器を仕掛けるなんて、ちょっとやそっとのイタズラではしないと思うんですけどぉ」
「こういうこと1番やりそうなのは……茜ちゃんだけど。その辺どうなのさ?」
「私はそんなことやりませんよぉ! 私は飽くまで盗撮専門ですぅ! 盗撮に心から誇りと信念を持っているんですからぁ!」
だけど、そうだよな。その誇りが正しいかは別として信頼は出来るな。
そもそも犯人が茜なら、今ココで盗聴器の存在をバラしたりしないだろうし。
「かといって楓でもないよな。そんなことしないだろうし」
「そりゃそうだよ! アキのプライバシーを侵害するなんて考えもしないよっ!!」
「楓さんにそんなコトができる知能があるとは思えませんしねぇ」
「違うよ、正妻の余裕なんだよ! 私はずっとアキを信じてるんだから!!」
加えて楓は、俺にそんなものを付けようとは考えもしないだろうしな。
それに俺だって楓を信じてる。まあ、これは……その。幼馴染としてだけどさ。
「なら、そうなると……残っちゃうのは、まさかの葵ちゃんですかぁ?」
「そんなわけないでしょ! なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ!?」
「うーん、そうだよね。ぴゅあぴゅあな葵ちゃんが、そんなことをしないよね」
「だ、誰が、ぴゅあぴゅあなのよ!!?」
葵も……怪しいけれど、そんなことしないとは思えた。ぴゅあぴゅあだし。
「じゃあ、誰がこんなことしたのさ。盗聴なんて」
「それがわかっていたら苦労しねぇよ。本当に心当たりはないしなぁ」
にっちもさっちも行かない、頭上の雲のような不安と共に一呼吸だけ置いて。
そして、どこか悩んでいるような神妙な顔つきで楓がスマホを弄りだした時だ。
「――あああああぁぁぁっっ!!?」
突如、楓の絶叫が、この狭い部室内に響き渡った。
場の空気が一挙に変わり、俺を含めた3人が目を見開いて楓の方を向いた。
「いきなり大声出して、どうしたのよ、楓!?」
「こ、こここここ、これを見てよ! あのブログの記事だけど!?」
必死な形相で俺たちに画面を向ける楓に従うまま、
震える手に握られたスマホ、その画面に映ったのは……例のブログだったけど?
【バラバラ殺人の真相、“複合怪異”。カシマさんときさらぎ駅の謎に迫る!?】
ひとりかくれんぼも、今回の怪異もお世話になってしまったブログサイト。
それの、ちょうど数秒前。投稿された記事の見出しに――俺の息が止まりかけた。
今回の怪異の真相、“きさらぎ駅”と“カシマさん”。俺たちしか知らないはずの情報が、このブログの記事に書かれている。おかしい話だった、
思わず画面を操作して、内容を流し見て。やはり内容は、書かれている体験談まで……俺たちが体験した内容そのものだった。
「な、なんで、このブログは、このコトを知っているんだ……?」
「かなり事細やかに書かれてますねぇ。当てずっぽうでは書けませんよねぇ」
「そ、それよりも!! そもそも“複合怪異”という名前を私が付けたのは先ほどのコトよ!! このタイミングで記事が投稿されるのはおかしいじゃない!?」
確かに、それはそうだよな。偶然だと考えるのは無理だろう。
こうして起きていた不可解な状況、説明できる可能性は幾つかあるけど。
「ここの誰かがやったは……無理だよね。ずっとこの部屋にいたんだからさ」
「そうね。他に不自然なコトをしていた人、いなかったし」
「うーん、そうなるとさ。これを盗聴していた犯人がブログの管理人なのか?」
相変わらず茜の手のひらで転がされている盗聴器が目に入った。
いろいろ考えて現実的な可能性は1つだ。あの小型盗聴器の持ち主が犯人だ。
「それに、この記事の内容から……3日で廃刊になったオータム新聞の内容、記事を書いた人は知っているわ。部外者には漏れてないんじゃないの?」
「まあ、そうだよな。新聞として張り出されたのは学内だ。まさか、こんな新聞の内容を学校の外の人間に知らせるような酔狂な奴はいないだろうしな」
「つまり、この学校に入れる人間。私たちと同じ生徒か先生かになるんだよね」
楓が何気なく言った言葉に、場の空気が重いモノに化した。それは、要するに。
「私たちの他に、それも身近に。怪異に迫ろうとする人がいるなんて……」
「そ誰が、何の目的で、そんなことをしてるんだよ。こんなブログまで作って」
「…………」
こうして新たに得た情報と、それ以上に浮上する謎を俺たちが包んで。
新たな疑念、嫌な予感と気味の悪さを感じながら。怪異は本当の終わりを告げた。




