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桜坂高校新聞部の怪事件秘録~事件のオカルト事情は複雑怪異~  作者: 勿忘草
第2章 諸人縛りし闇の牢獄にて~きさらぎ駅、?????~
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第15話 戻ってこれたんだよな、俺たちは

 ――“カシマさん”。


 “カシマさま”、“カシマレイコ”とも呼ばれる日本の都市伝説。

 過去の悲惨な事件により殺された人間が怪異となった異様な存在。


 だけど、どうしてそのような都市伝説になったのか。正体は定かではなかった。


 ある話では、鉄道に轢かれ、体がバラバラになって死亡した女性。

 ある話では、戦時中に米軍に手足を撃ち抜かれて、死んだ配達員。

 ある話では、事故や事件で醜くなり、絶望して自殺した女性。――など。


 共通点としては事件のこと、“カシマさん”を知った人物を襲い、殺すコト。

 その際には夢や電話などで問いかけをするという。例えば「手をよこせ」、「足をよこせ」や、「この話を誰から聞いた」などといったもの。

 そして、それに答えられなかった人間は――大抵の場合、四肢を捥がれて死ぬ。

 日本全国で語られる都市伝説に関わらず、むしろそうだからこそ地域によって語られ方が違う。ある意味、都市伝説らしい都市伝説とも言える。



『ギャアアアアアアアアアァァァァァァァァッッッッ!!?』



 そして、そんな都市伝説は――現在、俺たちの前でひどく狼狽していた。

 異界の空間が崩れ始め、怪異を構成する闇と肢体とが分解され始めていた。


「な、何が起きているんでしょうかぁ……?」

「さあな、俺もわからないけどな」


 この状況、アイツに何が起きたのか。原理はわからないけど。

 異界が崩れて、怪異が倒れる。目の前で行われている結果だけは理解できた。

 世界の裂け目からは光が漏れていた。あの先に、いや何もしなくても大丈夫だ。



 ――ぶぅぅぅぅん



 そして、唐突にかかってきた俺の電話。送り元は非通知。

 もはや正体がわかれば、力がないとわかれば何も怖いものはなかった。

 意を決して電話を取った。スマホから聞こえてきた怪異の声に、俺を答える。


『テヲヨコセ……』

「今、使っています」


 怪物の胴体から生えていた、闇色の手が。俺の言葉で消え失せた。


『アシヲヨコセ……』

「今、必要です」


 怪物の歩行を手助けしていた、闇色の足が。俺の言葉で消え失せた。


『ソノハナシヲダレカラキイタ……』

「仮は仮面のカ、死は死人のシ、魔は悪魔のマ」


 胴体で地面を這い、俺たちに迫ろうとする怪異に。俺はトドメを刺した。

 都市伝説には決まって対策が存在する。“カシマさん”も例外ではない。それを基に行動すれば、怪異である以上倒されるしかないのだから。

 今まではわからなかった。偽りの怪異として“真実”をあやふやにしていたから。

 だけど、俺の力で、何かわからない力で。怪異の真実を暴き出して、こうなった。

 

 怪異は、異界は、もはや留めようがないくらい崩れ落ちていた。

 目の前で起きている不思議な現象と、妙な温かさと安心感に包まれながら。

 そして、日が昇り。俺たちの目の前が。目を瞑ってしまうほどの光に包まれた。












「んっ……。ここは?」


 目が覚めると、またもや夜の空間が広がっているのが見えた。

 向こうが暗闇の駅のホーム。だけど、人口の光と優しい風が俺に気づかせる。

 間違いないな。ここは、前まで俺たちがいたあの駅だ。現実世界に戻ったんだ!


 歓喜もつかの間。体を起こして周りを見た途端に見えた、寝転がった小さな少女。


「お、おいっ! 烏丸! 起きろって!」

「ふみゅう。えっと、な、なんですかぁ。一秋さん」


 目をパチクリさせながら、なんとか俺に声に答えていた烏丸。

 おいおい、つい前まで怪異に襲われていたのにノンキだな。大丈夫かよ。


「ほら、見てみろよ。現実世界だ。あの駅に戻ってこれたんだぜ?」

「た、確かに。ホントですぅ! 私たちは戻ってこれたんですぅ!!」

「ああ、そうだな」


 もはや終電ギリギリの時間。人がいないホームで喜び合う俺たち。

 現実の世界にいるコトの安心感と帰ってこれた感動。どちらも素晴らしいな。

 えっと、宍倉さんは何処にいるんだ……いたな。あのベンチで寝そべっている。


「――アキ!!?」


 そして、宍倉さんを見つけた瞬間。もっとも聞きたかった声が飛んできた。


「楓!? 良かった、お前が無事で――ぐほおぉ!!?」

「ホントに、ホントに、アキなんだよね!? 生きているんだよね!?」

「あ、ああ、ホンモノだぜ。生きてるぜ。だから放せ!! 苦しいんだよ!!」


 俺を見て全力ダッシュで、速度を止めずに飛んできた楓に抱き着かれる。

 そりゃもちろん嬉しい。だけど、それ以上に痛い!! 衝撃も抱き着いた力も!!

 それに、その。体が押し付けられることで俺の全身で感じる、あの大きくて心地よくて柔らかい感触も。めちゃくちゃ恥ずかしい。この状況で言い出せないし。

 

 そんな俺の苦しそうな様子を見せると、ようやく楓は離れてくれた。

 まったく、少しは力加減と己が持っている豊かなモノに気を配ってほしいぜ。


「良かった。あなたが戻ってきてよかったわ。一秋くんに烏丸さん」

「葵も葵で無事みたいだな。それこそ良いことだぜ」

「いや~。私も大丈夫でしたよ! 一秋さんが命がけで助けてくれましたからぁ。その時には愛の告白も……すっごい嬉しかったですぅ」


 唐突な烏丸の爆弾発言に、葵は顔を真っ赤に染め、楓の眼から光が消えた。

 というか、烏丸は何を言い出してんだ!? まるで意味が分からねぇぞ!?


「……あ、相変わらずね、あなたは。その余裕だけは見習いたいわ」

「むむぅ。どういうことなのかな、アキ。浮気したんじゃないよねー?」

「怪異に巻き込まれていたんだからしょうがないだろ! 浮気なんかじゃねぇよ! あと愛の告白なんてしてねぇし! ふざけんな、烏丸ぁ!」


 そりゃ同じ災難に見舞われたら助けるだろうさ。あと話の半分は嘘だし!

 だけど、俺の思いもむなしく。楓はスネているみたいだ。面倒になりそうだな。


「いいもん。私には葵ちゃんがいるんだもん。浮気性のアキなんていいもん」

「そ、それで良いの、かしら。私は一秋くんの代わりにはなれないのだけど」

「えへへぇ。良いじゃん。ほら、きゅう~」

「ちょ、ちょっと! いきなりやめなさいよ、人前で! 恥ずかしいじゃない!」

「ほほうぅ。お二人、そういう関係だったんですねぇ」


 今度は嫌がる葵に抱き着き始めた楓。絵面的には……良いな、うん。

 なんだか楓たちも楓たちで、さっき以上に仲良くなっている気がするな。

 俺たちが異界で文字通り死にそうな思いをしていた裏で、何があったんだろう。

 というか、異界から脱出して早々。なんでこんな変な話をしているんだ、俺たち。


 だけど、こんなことを面白おかしく話せるのも……生きてるからなんだろうな。


「まあ、何はともあれだ。戻ってこれたんだよな、俺たちは」


 この場をまとめるように呟かれた俺の言葉に。みんなは静かに頷いた。

 そうだ、俺たちはこうして戻ってこれたんだ。今はその実感に浸らないとな。


「さて、宍倉さんを起こしたら帰ろうぜ。夜は遅いし、なつねぇに怒られるし」

「その前に、お願いがあるんですけどぉ……。言っても良いでしょうかぁ?」


 ふと動こうとした俺たちの足を止めた烏丸に。俺たち3人の視線が集まった。


「なんだよ、いきなり」

「一秋くんを――写真部にくださいませんかぁ!?」

「絶対ダメ! アキは婚約者なんだから! 運命を共にする仲なんだから!」

「飽くまで自称ですよねぇ。勝手に誰かの婚約者を名乗るなんて非常識ですねぇ」

「なにをー! 人を盗撮しているような人に常識を説かれたくないよ!」


 何を言っているのか全然わからない、唐突だった烏丸の発言に。

 楓と烏丸で火花を散らし始めた。この状況で何やってんだ、アイツら……。


「そもそも新聞部なんて部活動の体をなしていないじゃないですかぁ」

「それを言うなら写真部も幽霊部員だらけの、崖っぷちの部活じゃない!」


 写真部が崖っぷちなら、新聞部の俺たちは一歩先を進んでるんだけどな。

 なんてジョークを心の中で思っていると。楓と烏丸の視線が一気に俺に集中した。


「ほら、一秋さんも言ってくださいよぉ。私と一緒にいたいとぉ」

「……アキ。わかっているよね?」

「いやいや、俺は新聞部だぜ!? 烏丸の言うことには従えないぜ――」

「あれぇ。烏丸、だなんて。一緒に異界で一夜を明かした仲じゃないですかぁ」

「人聞きが悪いこと言ってんじゃねぇよ!? 楓に誤解されたらどうするんだよ!」


 こ、コイツ。からかい方が一段とイヤらしくなってる。

 ガチで本当にやめてくれ。隣から飛んでくる楓の視線がむちゃくちゃ痛いし。

 

「もう良いじゃないですかぁ。苦楽を共にした私も名前で呼んでくださいよぉ」

「えぇ。そんなコトに拘らなくてもさぁ」

「異界であんなにも濃厚な関係を作ったというのに……ヒドいですぅ」

「あー、もう! わかったよ、茜! これからよろしくな!!」


 諦めた俺がアイツの下の名前を呼ぶと。ぱーっと、眩しいほど顔に花を咲かせた。


「あっはっはっ! 一秋さんはからかいがいがありますねぇ!」

「うぅ……。まさか、こんな結末を迎えるなんて……。アキぃ……」

「そんなことよりあそこで倒れている人を助けないの? 放置しすぎじゃない」


 コイツには一生敵わないな。そんなことを思いながら今日を終えたのだった。

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