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桜坂高校新聞部の怪事件秘録~事件のオカルト事情は複雑怪異~  作者: 勿忘草
第2章 諸人縛りし闇の牢獄にて~きさらぎ駅、?????~
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第11話-2 “きさらぎ駅”と、もう1つ。2つ存在するのよ!!

「ご、ごめんねっ! こんな状況だというのに変な話を長々と喋っちゃって」


 話が終わり、呆然としていた私を見て。彼女は申し訳なさそうに手を振った。


「い、いいえ。ここまで話してくれてありがとう」

「……葵ちゃん」

「楓のこと、理解できた気がするわ。今までよりもずっと。好きになるくらい」


 思いのままを告げて、最初に見えたのはポカンとした顔。

 それを見て、私も赤面した。ちょ、ちょっと、言いすぎちゃったかしら!?

 うぅ……。こういう私自身の本心を語るの、苦手なのに。ついやってしまった。


「そ、そうだ! もう大丈夫だから、そろそろアキと茜ちゃんを探さないと!」


 確かにそろそろ終電も近い時間帯。タイムリミットが直前に迫っていた。

 すぐにでも一秋くんたちを見つけるヒントを見つけ出さないと、2人が危ない。

 これから真夜中、丑三つ時に入る。怪異が動き出す時間。そんな時に異界、怪異が跋扈する空間に取り込まれているなんて狂気の沙汰でしかなかった。


 ……それに、例のバラバラ殺人事件。死体の発見はいずれも早朝だ。

 単なる偶然と片づけられない以上、今度は2人がそうなる可能性もあるはず。


「葵ちゃん。いろいろ言ってくれたのに、また異界に巻き込んじゃってごめんね」


 だけど、唐突に放たれた楓の切実な言葉が。私の足を引き留めていた。


「それはそうね。気を付けなさすぎなのよ、あなたたちは」

「だけど、私たちに協力して欲しいんだ。厚かましいと思われるかもだけど」

 

 何かと思えば、何をいまさら。ここまで来たら付き合うしかない。

 それに――楓の考えには。ちょっと応援したいと思えるようになったから。

 世界の不思議を解き明かす、そんな“怪異を乗り越えし者”。きっと、楓と一秋くんなら。大丈夫と、ちょびっとだけ思えるようになったから。


「わかったわ。あなたに、一秋くんの救出に。全力を尽くしましょう」

 

 私がそう頷いたら。楓は羨ましいと思えるほどの笑顔を返してきた。


 思えば、私。楓にチョロいところはないかしら。そんなことないわね。

 自分から思うのはなんだけど、十分にしっかり者で、頑固なところは頑固だし。


 だけど、ここまで言われたら放っておくことはできなかった。

 一秋くんを、楓の大切な人を助け出しましょう。それが友人の責務よね。

 覚悟を決めて、そう向き直った私に、楓は目を輝かせて――抱き着いてきた!?


「ありがとう、葵ちゃん!! 大好きだよっ!」

「だから、放しなさいよっ!! 恥ずかしいんだから!!」

「えー、葵ちゃん。コーヒー混じりの良い香りで抱き心地良いのに」

「状況を考えなさいよ!! 一秋くんを助けないといけないのでしょ!?」


 一秋くん、その名前を出した瞬間に。再び楓が真面目な表情になった。


「うん。アキを助けるためならなんでもするよ。なんでも協力するよ」

「それは心強いけれど。今は情報を集めるしかない。それしか方法はないわ」

「情報かぁ。うーん、見たこと、ブログ記事の内容しか話せないけど……」

「それでも良いわ。おかしいところがあったら教えて欲しいの」


 私が強めに言い切ると。顔をしかめつつ、楓は口を開き始めた。


「おかしいところ……強いて言うなら、飛び込む前に電話をしていたことかな」

「電話をしていたの? その人は、飛び込む間際に?」


 ……電話をしていた、ね。どこか引っかかるフレーズだった。

 しかも線路に飛び込む間際とは、つまり異界に囚われる直前の行動だ。

 何かしら怪異に、怪異に取り込まれる要因となった可能性が極めて高い。きっと、それはこの時間を切り開くヒントになるはず。


「うん。OLって感じの人が。電話を切った途端、飛び込んだの」

「電話を切った途端ね。どんな人だったのよ」

「なんか、とても暗い感じだったなぁ。今すぐに死んじゃいそうなほどに」


 暗い感じ。怪異に取り込まれたからか、怪異に取り込まれそうな人間だからか。


「それに、ちょっと確認したんだけど……このブログ記事。バラバラ殺人事件の被害者の何人かは、あの人と同じで線路に飛び込む間際に電話をしていたらしいの」


 そして……えっ? あのブログに書かれているというの?

 警察でも情報の取得に難しい状況で、どうして見つけ出せたのかしら。

 信用できない存在、だけど。今はワラだろうがガセだろうが掴みたい状況だ。


 複雑な気持ちになりつつ、不信感を募らせつつ記事を読んでみると、

 どうやら、この記事の目撃者も私たちと同じような場面に陥ったようだった。

 ホームから飛び込む人を見かけて、止めようとしたけど間に合わなかった。終電間際の時間帯で他の目撃者はいなかったみたい。

 そして、この人は……飛び込む瞬間、確かに誰かに電話をかけていたらしい。

 目撃者の人に、その通話内容が耳に入ったようで。内容が書かれているようだ。

 

 電話の会話が聞こえるほどなんて。どれだけ通話の音量を上げていたのかしら。

 そんな疑問を浮かべつつも。私は楓に言われるがまま、記事を読み始めて――



 “この話を誰から聞いた”。電話越しに聞こえたらしい言葉を目撃した。



「“この話を誰から聞いた”。脅迫でもされてたのかな、よくわからないや」


 電話の相手から告げられた言葉は、これのみだったらしい。

 被害者がそれにブツブツと呟き、その後すぐに線路に飛び込んだ。

 普通なら楓の言う通りで、謎のフレーズ。そうだ、普通ならそのはずだ。


 楓の何か思い浮かべたような、どこか誤魔化すような表情を見ながら。

 私は……“とある結論”。ありえないと放棄していた、発想に辿り着いていた。


「――四肢がない死体。――欠損した体の部位。――飛び込む前の謎の電話」


 こうして事実を並べることで浮かんだ、1つの真実。

 もちろん、これも確証を得られていない。おかしい部分だってある。

 だけど、きさらぎ駅。異界駅として要素を持つ存在が見事にそれを覆していた。


 ああ、明らかにこれは私の落ち度だった。これだけの特徴があったのに。

 “四肢がない死体”が出てきた時点で“アレの可能性”を考えるべきだったのに!!


「誰から聞いた、なんて。現代の社会で証明するのは無理難題ね、それは」


 現代の情報社会で“アレ”は“異界”を作ることができないはず。

 だけど、“きさらぎ駅”の要素が含まれたことで……作る必要が消え失せた。


 何も難しい話じゃなかった。変な先入観を持たずに見たらわかる話だ。

 “きさらぎ駅”でもダメ。“異なるアレ”でも相違点が生まれる。としたら。

 そうだ、この怪異は“きさらぎ駅”だけど、“きさらぎ駅”じゃなかったんだ。


「だけど、こんなコトが。本当に起きているとは思いもしなかった……!」


 この事実、いくら私でも驚きで言葉を失うことしかできないでいた。

 怪異とは、“怪”しく“異”なるもの。道理こそあれど人の理解を越える存在。

 だけど――そうとしても考えられるわけがない、そんなことはありえないから。


「ど、どうしたの、葵ちゃん。いきなり慌てて……?」

「こうしちゃいられないわ。相手が異界にいようと関係ないわ!! 一刻も早く、一秋くんたちに連絡をして、教えてあげないと……!」


 すぐにスマホを取り出して、私は一秋くんに電話を掛け始めた。

 もちろん繋がることはなかった。だけど、可能性はあるから繰り返すだけ。


きさらぎ駅を持ち合わせているなら、電子機器による連絡も通じるはず。

 現に、迷い込んだという女性がネット上の掲示板に書き込んでいたんだから。“今回の怪異に”道理が通用するかわからないけど、やるしかない。

 いくら一秋くんの“力”があったとしても。この怪異は無理があるというのに!


「こ、今度は葵ちゃんがおかしいよ。いきなり混乱して……」

「混乱するに決まっているでしょ! だって、この怪異は――」


 刹那、楓に話すか迷ったけど。ここまで来たら話すしかなかった。


「――“きさらぎ駅”と、もう1つ。2つ存在するのよ!!!」


 ホームを行き交う群衆を気にせず。叫んだ話に目が黒に染まった楓が見えた。

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