第5話 連続バラバラ殺人事件の裏に「きさらぎ駅」!?
「ここが第一犯行現場の駅で。心霊写真を撮った駅か」
「そうですよぉ。バッチリ撮っちゃいましたぁ」
あれから学校を飛び出して、俺たちは事件が起きた駅に向かった。
現在時刻は午後4時。帰宅ラッシュより前なのに人の数は多いようだ。
そういや世界の駅の搭乗者数、日本の駅がランキングの大半を占めていたっけ。
「こんな状況で、本当に心霊なんて出てくるのかなぁ。葵ちゃん?」
「私に聞かれても。だけど、こんな都会に心霊が現れる隙間はないでしょうね」
「えぇ~。そうですかぁ? この眠らない街、東京。そんな東京、日本の首都として築き上げるために、どれだけの人が死んだことかぁ」
「……そういう不吉なこと、あまり言わないで欲しいのだけどね」
調査を始めた俺たちは、どこか妙な雰囲気に包まれていた。
その理由は十中八九烏丸のせい。コイツ、掴みどころがないんだよなぁ。
「細かい話はなし、だよ。今はとにかく手当たり次第に調べようよ! これから、この駅の他にも4つ、合計5つの駅を隅々までやるんだからねっ!」
「……おいおい、そこまでするのかよ」
帰る時間、何時になるんだろうな。まったく、やれやれだぜ。
こうして、俺たち4人のバラバラ殺人事件の調査が始まった、だけど――。
「くぅー、疲れましたぁ。これにて完結にしませんかぁ?」
そして、4時間後。何の成果も挙げられませんでしたとさ。
事件が起きた、烏丸が心霊写真を撮影した、その事実を否定するように。
5つの駅を調べても何も起きなかった。駅の中では、ほんの数日前に事件が起きたにもかかわらず生きている人たちの日常が繰り広げられていた。
「ま、まだだよ! まだ終わらせないんだよ!」
「もちろん冗談ですよぉ。だけど、時間を無駄にはしましたよねぇ」
「あとクタクタよね。5駅分、それも東京の大きな駅を調べたのだから」
5駅目の調査を終え、今は駅構内の飲食チェーン店で夕飯を食べていた。
見た目が良い女子高生3人と食事とは良い身分だよな、俺は。実感ないけど。
「ねぇ、アキ。新聞から得た情報とかあるかな?」
「残念だが、みんなが知る以上の情報はないぜ。警察がお手上げなんだから、警察の情報から記事を書いてる記者もお手上げになるからな」
「ふーん、そうなんだ? あの人たち、警察に情報を聞いてるんだ」
「そりゃそうだろ。普通の記者が一々事件を足で見つけるとか無理だし。記者は決まった時刻、警察に電話して情報を集めるんだよ。警戒電話というんだけどさ」
心霊写真は使えない、俺の情報も役に立たない。完全にお手上げ状態だった。
そんなわけで今の俺たち (少なくとも俺は)は諦めムード。歩き疲れもあるから、調査をいったん終わらせたい、というのが俺の願いだけど。
「と、なると。頼れるモノは“このサイト”しかないようだね?」
そんな時。楓がスマホ片手に勝ち誇ったような表情を浮かべていた。
彼女のスマホに写った画面。その向こうには……黒色が基調の見知ったサイト。
どこか奇怪な記事が多数並んでいる、このブログ。それは前の怪事件で廃校の情報を見つけた――あの怪しいブログだった。
「お前、あの時みたいに、これで怪異を調べるつもりかよ!?」
「もちろんだよ。前回の行方不明事件もこのサイトがヒントをくれたんだから。きっと何か重要な証拠が書かれているはずだよ!」
「……うーむ、それはそうだけど。今回もそうという根拠はないだろ」
そりゃ廃校の怪事件の時は場所をピンポイントで当てていたけどさぁ。
たまたまだったコトは考えられるし、仮に本物でも今回はどうか不明だし。
そもそもの話、この変なサイトに。連続バラバラ殺人事件の情報があるのか――
「あっ、あったよ!!」
「マジで!? ホントに!?」
「ほらほら、このページの記事を見てっ!! “連続バラバラ殺人事件の裏に「きさらぎ駅」!? 行方不明者が怪異に殺された!?”だって」
「ウソだろ、“きさらぎ駅”!? それって確か……!?」
「ええ。都市伝説の1つね。かなり知名度のある怪異と言えるでしょう」
――きさらぎ駅。
有名な掲示板、早い話2chのオカルト板に投稿された怪異。
投稿者はある女性。深夜、電車に乗ったところ……中々目的地に着かない。
その後、しばらくして辿り着いた駅で降りた。その場所が“きさらぎ駅”。人の気配も建物も存在しない、完全な無人駅と女性は話していた。
そして、体験談が投稿された掲示板には女性が駅周辺での体験談を順次書き込み、それをオカルト板の住民が反応する。こうした流れで話は進んで。
最後は女性の投稿が絶たれ、消息不明となった。簡単にまとめるとこんな話だ。
「私も聞いたことあるなって思ったんだけど。そうだったんだ」
「うむぅ。私は知りませんけどねぇ。そんなモノ、なんで知ってるんですかぁ?」
「……実は、あの事件の後に。葵にひたすら怪異の情報を叩きこまれたんだよ」
「あの時の葵ちゃん、厨二病全開で、スパルタで異様だったよねぇ」
「当然でしょ。怪異を知らなければ調べることはできないの。もちろん会わないことが最上だけど、やるなら相応の対策はしてもらわないと」
少しだけ鼻息を荒くした葵が、このように強く言い放った。
……ああ、あの時は文献やサイトの情報。情報を叩きこまれて大変だったな。
なんだかんだで俺は大体を覚えることができたけどさ。まさか本当に、覚えた怪異がまた実際の存在として現れてしまう、なんて。
「話を本題に戻すけど。本当に“きさらぎ駅”が関係してるのか?」
「正しいかはわからないけど。このサイトに書かれてるなら間違いな――」
「……残念だけど、記事の見出しで一気に信憑性が怪しいモノに化したわね」
1人で勝手に盛り上がる楓に対して、否定した声を出したのが葵だった。
「な、なんでよ、葵ちゃん!?」
「“きさらぎ駅”と“連続バラバラ殺人事件”の関係性が見いだせないの」
……実を言うと、俺も思っていた。この事件、“きさらぎ駅”との関係。
場がより一層静まったのを感じつつ、俺たちは葵の続きの言葉を聞いていた。
「“きさらぎ駅”の話は、とある女性が謎の駅に迷い込んでしまった。複数回に及ぶ掲示板の書き込みの末、連絡が取れなくなった。そういう話よ」
「うん、その通りだよね。それがどうかしたの?」
「だけど、例の事件の話に関係する要素が存在しない。強いて言うなら駅が関係しているコトくらいだけど……逆に言えば、それだけ。同一とは考えにくいわ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 前回の“ひとりかくれんぼ”みたいに全部が全部、話の通りになるわけじゃないんでしょ?」
そして、これも俺は気になった。だけど、葵は一蹴するように首を横に振る。
「あの時とは傾向が違うわ。もはや別モノと考える方が筋というものよ」
「怪異とは、“怪”しく“異”なるもの。葵ちゃん、そう言っていたよね」
「……ああ言えば、こう言うのね。確かにソレは事実よ。私たちの道理で考えようとすれば限界が生じる。だけど、怪異にも道理は存在するの。こっくりさんが狐狸を飛ばして他の動物にはならないし、口裂け女が絶世の美女にはならないわ」
葵から出た例えはぶっ飛んでいるけど、言いたいことは理解できた。
要するに怪異は人の想像を越えているけど、特定の枠組みは逸脱しないことか。
「厳密に言えば場所の差異もあるわね。あの怪異譚は静岡県の私鉄で起きたモノよ。だけど、事件が起きたのはどれも都内の駅なのだから」
「うーん、それはその人の体験談がその場所だっただけじゃないかな」
「それもまた間違いではないでしょう。きさらぎ駅、大雑把に区分すれば異界駅と呼ばれる存在は地方各地に散見されているわ。かたす駅、やみ駅とかもあるわね」
各地で同じような怪異が存在する、か。良くある話だよな。
ふと俺がそんなことを考えていると、楓がイスにもたれかかり難しい顔をした。
「つまり、どういうことになるのかな。よくわからないや」
「このブログ記事が間違いということよ。双方の存在や真偽はさておき、“きさらぎ駅”と“連続バラバラ殺人事件”は関係ないでしょうね」
情報が集まらない以上、正しいか間違っているか判断できない。
だけど、現時点では記事を鵜呑みにはできない、これが俺と葵の共通認識か。
さすがにここまで言われたら反論できないのか、楓はすっかり元気をなくした。
「うぅ。やっぱりダメかな。この世界の不思議はそのままなのかな……」
「も、もしくは記事から推測するなら。1つだけ考えられることがあるわ」
だけど、しょげた楓を見て気まずい気持ちになったのか。
慌てたようにフォローするカタチで葵は話を始める。妙なとこで優しいな。
「“噂”。人々が噂を紡ぎ出す内に――噂が、内容が変化することがあるの。その手段で“きさらぎ駅”の怪異が変化した、それも考えられるわ」
「へ、変化……?」
「伝聞とは危ういもの。恐ろしい都市伝説として語り継がれる内に……怪異の存在が少しずつ変貌、別の側面を持つことがあるの」
「葵ちゃんの話はわかりにくいけど。要するに噂に尾ひれがつくってことだよね。本当にそういうことが起きるの? 私から言い出してなんだけど」
「もちろん、滅多に起きないモノだけど存在するわ。例えば、か――」
「あのぉ、そんなことよりもぉ! そろそろ調査に出ませんかぁ!?」
かなり重要なはずの話をしていた葵を、烏丸の呑気な声が遮った。
「何よ、茜ちゃん。今、良いとこなのに邪魔しないでよ」
「いやぁ、あれこれ話されてもわからないんですよぉ。早く行きましょうよぉ」
「気持ちはわかるけど……というか、まだやるのかよ!?」
「そうね。もう夕闇が終わりを告げて、夜も遅い時間よ。これから人は減るでしょうけど、そんな時間に怪異の調査に赴くのは得策ではないわ」
そうだよな、現在時刻は20時過ぎだ。まだ5月末でも流石に外は暗い。
俺も帰りたかったけど……烏丸は指を振り、あからさまな表情を浮かべた。
「いえいえ、むしろここからですよぉ。怪異とか心霊とかどうでも良いですけどぉ。暗い駅の方が、調査に火が付くじゃないですかぁ」
「ラッシュは終えたとはいえ帰宅する人はいるし、飲み会後で酔っぱらったサラリーマンは跋扈するし、火が付くも何もないと思うぜ」
「なら、私は諦めないよ。むしろここからファイトなんだから!」
まさかの楓の答え。俺たちの中では結論が出たも当然か。はぁ。
「……楓まで。それなら行くしかないけれど。無駄に終わると思うわよ?」
「おやおやぁ。葵さん、楓さんには頭が上がらないんですねぇ」
「う、うるさいわよっ!? ほら、行きましょう!」
葵は楓に振り回されているな。俺の仲間が増えて嬉しいぜ。
そうして、良いタイミングでご飯を食べ終えていた俺たちは店を出た。




