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桜坂高校新聞部の怪事件秘録~事件のオカルト事情は複雑怪異~  作者: 勿忘草
第2章 諸人縛りし闇の牢獄にて~きさらぎ駅、?????~
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プロローグ とある闇に飲まれた人の話

 ――ああ、もう疲れた。ひどく疲れてしまった。


 まともなモノが見えない、聞こえない、話さない、話せない、感じない。

 脳の中の衝動に苛立ち、殺意が湧き、悲しみ、ひどい疲れを覚えていた。

休みたい。1時間、1分、1秒で良いから休みたい。だけど、休めなかった。

 私は会社に向かわなければならないから。仕事をするために、怒られるために。


 自身の課せられた仕事はシステムを作ること。それを実現するために、客先の会社に送り込まれる。客が嫌がる面倒な仕事をやらされる。

 ひたすら“奴隷”として、いや“部品”として。客や元請けが定めた納期通りに作業を達成しなければならない。それが無理難題でも。

 部品に余裕は与えられない。要求される通りに動かないと罵倒され、八つ当たりされ、やがて廃棄される。それが常識だからだ。

 

『――――、――――、――――、――――、――――』


 通勤ラッシュ時の駅構内は、人が多い割にはやけに静かな空間だ。

 みんな死んだ目をして電車を待ち、乗って、会社に向かう。そうだからだ。

 もうイヤだ、疲れた。絶望が心に馴染んでいると、体の中に倦怠感が蔓延した。

 

 ――ぶぅぅぅぅん ぶぅぅぅぅん


 だけど、電話がかかってきた。“部品”に絶望する暇は与えらないらしい。

 来た時間が、乗る前で良かったという安心感と、それ以上の恐怖が込みあげた。

 電話の先……客か、元請けか、上司か。誰であっても私を攻め立てる、怒鳴りつける、責任を押し付ける。散々味わってきたから、そう思えていた。


『――――、――――、――――、――――、――――』


 電話に出ても何を話しているのか、何が聞こえているのかわからない。

 ただ頷いて、今の私は嵐が過ぎ去ることを待つことしかできなかったから。

 脳が拒絶していた会話を無意識に行い続ける。規則的な動きで首を上下に振っている私が、ふと動きを止め、目の前を俯瞰した時だった。



 ――底知れない闇が、私を招き入れようとしていた。



 普段は何も感じない向こう側。だけど、今は魅力的に思えていた。

恐怖は存在した。ただ、目の前の苦しみが消える快楽には抗えなかった。

ただ、私は一歩ずつ踏み出した。吸い込まれたように、誘い込まれるように。

何が何だかわからないまま。理解する脳も止める脳も、すべて捨てていたから。











 ―――そして、最後には。心地よい浮遊感と甲高い警笛の音がした。

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