エピローグ 七星葵という少女のナゾ
怪事件の調査が無事に終わり、新聞部に人が増えた今日この頃。
今の俺には……ずっと気になっていることがあった。
――七星葵。謎に満ちた、クラスメート。
未だに不吉な予感は拭えないし、異界にいた理由は不明のままだ。
彼女はなぜあんな場所にいて、何をしていたのか。彼女から聞き出せていない。
さらに、彼女には――とんでもない秘密があった。
俺の記憶は確かだし、現物を確認しても該当する記事を見つけた。今の俺の手のひらに収まっている紙切れがソレだ。
『中1女子無事発見 5年前の行方不明者か』
4年前の2月10日。5年の間、行方不明だった少女が生還した。
発見場所は自宅の前。その場所に倒れていて、彼女の母親が発見したらしい。
その少女の名前が――七星葵、13歳。年齢は同じ、場所も同じ東京都だ。
もちろん単なる偶然、単なる一致ということはあるけど。
だけど、七星という名字は珍しいし、彼女以外には考えられなかった。
そして、この事件は未だに真相が不明だった。そもそも地方紙の小さな記事に掲載されたモノ、少女も母親も情報は何も話さなかった。
これ以上、事件が深堀されることはないまま、その後の新聞には取り上げられることがなく……謎に消えていた。
まあ、これだけなら暗い影が残るクラスメート、だけで済む話だ。
彼女が仮に事件に巻き込まれていたとしても関係ない。葵は葵、彼女は彼女。
だけど、あの異界で。葵は不可解なことを話していた。
“まったく。怪異に抵抗する手段も脱出する手段もないのに関わろうとして。これで自分たちに不吉なコトが起きたらどうするつもりなの”
無暗に怪異に首を突っ込んだ俺たちに対する咎め。と、同時に――葵には、怪異に抵抗する手段、もしくは脱出する手段があることを意味する。
もし脱出方法があるなら、みんなで怪異に襲われていた時点で実行している。つまり葵には、怪異に関する対策があるということだ。
だけど、その対策は何だ。教室の扉に張られていた御札か?
そう考えるには微妙だ。現に葵は御札は単におまじないとしか言ってなかった。と、なると。別の手段だけど……それは、何だ。葵には何ができるんだよ。
彼女と思わしき事件に、異界での彼女の不可解な言動。
そして、何よりも。目にした時点で感じた――不思議だと感じた直感。
「……葵は。いったい何者なんだ」
楓には言えない、俺の内に収めるしかない“ナゾ”が。心の中で蠢いていた。