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桜坂高校新聞部の怪事件秘録~事件のオカルト事情は複雑怪異~  作者: 勿忘草
第1章 凄惨なる恨みの果てに ~ひとりかくれんぼ~
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第9話 真実を話してくれる。その言葉に嘘はないよな?

「この子が殺されたら、遥さんの恨みも晴れるんじゃないかな」


 冷めた表情の楓の一言が、ただでさえ厳しいこの場を切り裂いた。


「い、イヤッ! 私はまだ死にたくないの!!」

「きっと、あなたたちに殺された遥さんも同じことを思ってたよ」

「殺したのは城田! 城田なのっ! 私は悪くないんだ!」

「結果的に殺したのは、最後まで遥さんを追い込んだのはあなたたちだよ。弱い人を虐めて、安心してたんでしょ。遥さんの心の傷も知らないで」


 “過去の楓”を知っている俺には、コイツの気持ちは痛いほどわかった。

 だけど、普段の楓からは考えられない発言だった。冷たく、厳しく、鋭い言葉。七星さんは怯えていたけど、楓は言葉を続けている。


「もちろん今すぐ死ねとは言わないよ。だけど、それしか方法がないなら」

「なんで私が死ななきゃならないの!? どうして、なんでなの!?」


 確かに、宮島遥の恨みは彼女たちが原因だから因果応報だ。

 このまま長澤さんが怪異に殺されたら、宮島さんの恨みは晴れて、アイツもどうにかできる。俺たちは脱出できるかもしれない。


 ……だけど、それで良いのか。疑問が俺の頭を回り続けていた。

 見殺しにするのはイヤだという良心の葛藤以上に――彼女が死んだら、この行方不明事件の当事者がいなくなるんじゃないか。


「お、お願い、私を助けて!! この異界から抜け出せたら罪を償うから! ちゃんと真相を明らかにするし、“真実”も話すから!」


 彼女の、そんな言葉を聞いた時――俺の頭の中が、ノイズで溢れた。






『……怖い、怖い……怖いよぉ。誰か、誰か、助けて……誰か……』


 俺は、あの時。村にいた。何処の場所かはわからない。

 その場所で誰かが死んでいた。誰かは分からない。誰もが死んでいた。

 唯一わかることは、そこで事件が起きたこと。人知を超えた何かによる事件。

 周りの大人たちは、俺に「大丈夫だ」「もう心配いらないよ」と優しい言葉をかけてきた。何もわからないのに、何も理解できてないのに。


 ――見えないことは、怖いんだ。――知らないことは、怖いんだ。

 俺は、あの日からずっと知らない恐怖に襲われた。見えない何か、聞こえない何か、触れられない何か。何かに俺は飲み込まれそうになる。

 真実が見えない。何の存在かもわからない。だから、俺は恐怖したんだ。

 だから、俺は、あの時から、俺は。見えない闇の奥、裏、真実を見ようとして――






 突拍子もなく聞こえたノイズの塊が消え失せた時、妙に頭が鮮明になった。


「長澤さん――真実を話してくれる。その言葉に嘘はないよな?」

「……えっ?」

「この異界を抜け出したら“真実”を話すって!! この怪事件の“裏”を明らかにするって! 何が起きたのか、その“ナゾ”を話してくれるって!」

「ちょ、ちょっと、アキ!? 真実のためにコイツを逃がそうとするの!?」


 そうだ、真実を話してもらうさ。そのために長澤さんに死なれては困るんだ!


「楓の言葉はもっともだ。だけど、俺はイヤなんだ」

「……アキ」

「辛いけど、きっと。真実が、見えないものに化すことは1番恐ろしいんだ。だから、全員で脱出する道を探し出すべきだ」

「……小山くん。まさか、彼は」


 自分で何を言っているのかわからない。だけど、止められなかった。

 ここまで来たらやるしかない。俺たちが生きて帰るために、“真実”のために。

 そして、今の自分には――それができるはずだ。異様な想いが俺を包んでいた。


 そんな俺の姿を見て、驚いた楓は……呆然としていた葵に話しかけていた。


「……あ、葵ちゃん。葵ちゃんは、どう思うかな?」

「1つ言わせてもらうと。彼女を殺しても無駄に終わるだけよ」

「そ、そうなの、葵ちゃん!?」


 そして、まさかの七星さんの返し。……おいおい、マジかよ。


「ええ。今の彼女は完全に廃校舎に渦巻いた悪意の淵叢に身を乗っ取られ、完全なる怨霊と化した。例え最後の彼女を差し出そうとも――あまり効果はないでしょう。この異界から生者が消えるまで彼女は蠢き続けるでしょう」

「よ、よくわからないけど……恨みは晴れないし、私たちを殺しに来るの?」


 楓が話した内容に、七星さんは静かに頷いた。


「その通り。アイツをどうにか倒さない限り……異界から出られないわ」

「じゃ、じゃあ、どうすれば良いの? アイツに勝てるわけがないのに」


 奇妙な姿かたち、手にはナイフを持ち、人を殺すことも厭わない。

 おまけに足は速かった。男の俺と同等か、それ以上。そんな怪物を、俺たちだけでどうしろと。俺たちが疑問と視線を七星さんに送ると。

 彼女は、どこか怪しい笑みを少しだけ浮かべながら、口を開き始めた。


「言ったでしょう。あの怪物は“ひとりかくれんぼ”で生まれたと」

「そうだけど。それがなんだよ。今さら怪物の正体がどうこうとか関係――」

「関係あるのよ。残酷なほど、だけど希望的でもある、ね」


 何が何だかわからない俺たちに、七星さんは口元を軽く吊り上げた。


「要するに“ひとりかくれんぼ”と同等の存在なら。対処法も同じなのよ」


 これから七星さんが話してくれた作戦は、こんな感じだ。

 

 ――ひとりかくれんぼ。この都市伝説には“終わらせる方法”がある。

 あの怪異が同一の存在なら、同一の方法でアレを終わらせることができる。

 つまり、それと同じ行動を行い、怪異を滅ぼし、異界を終わらせるのが目的だ。


「言ってみたけど、どうかしら。この方法が現時点で最も可能性があるわ」


 七星さんの問いかけには、俺も楓も長澤さんも少しの間、沈黙を続かせた。

 正直、この作戦が成功するかは不安だった。これが正しいかも疑問だった。


「信じられない、けど。やるしかないんだよな」

「ええ。もし他の方法があるなら、教えてもらいたいわ」

「それなら、やってやるさ。ここから逃げ出すために、真実のためにな」


 自分が自分でないような、何が何だかわからなくなる感覚を覚えつつも。

 根拠がない、だけど頼るしかない自信と高揚感に包まれながら、俺は頷いた。

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