厄介な騎士団入寮日
今回もジョージアナの姉の離婚理由で、若干のDV表現ともとれる部分が御座います。
その為、R-15指定とさせて頂きました。
宜しくお願い致します。
これは、私が前世の記憶を思い出したり、慰労会で泥酔して翌朝ハマス隊長の服が血塗れで号泣しちゃったり、その後…あ、あ…あ、愛を告げて頂けるよりも3年程前のお話しで御座います。
20歳の私、ジョージアナは騎士団の合格通知を手に、一人王都へ向かいました。
試験の時も乗ったのですが、馬車での長距離移動って意外と疲れますね。
ガチガチに凝った体を解しつつ、私は目の前の騎士団寮を見上げました。
御者のお兄さんが親切にも他の人には内緒ね、と寮の前まで馬車を走らせてくれたので助かりました。
試験を受けた騎士団本部と寮は、場所が少し違ったので。
勿論、感謝を込めてチップも多めに渡しましたよ!
そこはケチっちゃいけません。
帰省する時も同じ馬車に乗りますし、良い人でしたからね。
「おはよう御座います。本日、入寮予定のジョージアナと申します。手続きはこちらでしょうか?」
なるべく良い笑顔で『受付』と書かれたカウンターに座る、癖のあるブラウンの髪の男性に声を掛けます。
第一印象って大切ですからね!
「ひぇ…めっちゃ女神…良い匂いまでしてる……あ!おはよう!いや、こっちは男子寮の受付なんだ!女子寮の受付はあっち、分かるかな?案内しようか?俺、アイザック・ウォルター!宜しく!」
「ウォルター先輩ですね、こちらこそ宜しくお願いします。あぁ、女子寮はあちらでしたか。こちらの受付を空にするのは良くないと思いますし、看板も見えましたから一人で大丈夫です。ご親切に有難う御座います」
ちょっと最初の方が小さくて聞き取れませんでしたが、ウォルター先輩は案内までしようとしてくれる親切で優しい人のようです。
握手をして別れると、後ろから『何で家名まで名乗っちゃったの!俺!それに、どうして男子寮の受付なんだ…!』という声が…いや、家名があるなら名乗って当然ですし、男子寮の受付を男性がやるのは普通では?
もしや、心が女性の方だったのでしょうか…
自分の価値観だけで考えてはいけませんね、固定観念いけない!客観的に生きなければ。
姉の離婚劇で色々と思う所があったのですよ、私も…姉の幼馴染みは暴力や借金とは無縁の優しい人だと思っていたので。
姉を庇って殴られた時、もっとボコボコにしておけば良かった!!!
まぁ、ウォルター先輩が親切で優しい人なのは変わりませんし、性別なんて些細な事は気にしなくても良い事でしょう。
「おはよう御座います。入寮手続きに参りました、ジョージアナと申します。女子寮の受付はこちらで間違いないでしょうか?」
「ひゃー!めっちゃ美人が来た。女子寮の受付で合ってるよ!私はアネッサ、寮長も兼ねてるから宜しくね。貴女、今日が入寮ならまだ配属先決まってないのよね?広報課に来る気ない?私そこなのよ!」
「…?美人というのはアネッサ先輩を言うのでは?王都の方は冗談がお上手なんですね。私は周りに埋没するような平凡な見た目ですから、広報向きではないかと」
「わぉ…眼科紹介しようか?」
女子寮の寮長らしいアネッサ先輩はフワフワとした赤毛と緑色の猫目が目を引く明るく気さくな雰囲気の美人でした。
長い髪はポニーテールにすると騎士団でも邪魔にはならなそうなので、髪の長い私も今後は同じ髪型にさせて頂きましょう。
王都に向かう前に切ろうとしたら、家族全員から反対されてしまったんですよね。
姉に双子とお義姉さんまでに、それこそ泣かれるとは思ってもみませんでした。
癖はないけれど、ただの灰色なのにな。
それにしても広報課というのは、口の上手い方がなるんですかね?
お世辞でも褒められて悪い気はしませんから、こういった社交辞令も今後覚えなくては!
美人と言えば、私の姉も儚げな美人です。
私が騎士団に就職する事を気にしていましたから、心配しなくて良いように手紙を出さないとですね。
私のように高身長で体力自慢の人間は、美人という言葉の対極の存在でしょう。
身近に美人が居たからこそ分かるのですが、無縁なのです。
それに、眼は良いですが田舎から出てきたばかりで掛かり付け医が欲しいのも事実、後で紹介して頂かなくては!
私がアネッサ先輩から寮の注意事項を教えて貰っていると、後ろから口論する男女の声が聴こえて来ました。
「どうして!!!どうして、男女の寮が別なの!?僕はリリと一緒に暮らせると思ったから騎士団に入ったのに!リリと新婚さんみたいな毎日が送りたかったから珍しく頑張ったのに!!!何で!!!やだ!!!」
「いや、キースは逆にどうしたら男女で寮が一緒だってなんで思ったのよ。夫婦じゃないのに。一緒に暮らしたいと思うなら、プロポーズを先にしてよね!?待ってるのに!!!アンタの方が酷いわ!」
「はっ!そうだよね!!!ゴメンね、リリ!今すぐプロポーズしたいよ!!!でも、もっとロマンチックな感じでプロポーズしたいんだ!待ってて!?僕、頑張るから!!!」
何でしょう…あの会話は。
騎士団への入団理由が邪過ぎませんか?
まぁ、私も寮があり高給だから決めたので、褒められた理由ではありませんが。
それにしても白昼堂々と人目も憚らず、お互いの名を呼び合って抱きしめ合うのは如何なものかと。
入寮って今生の別れだったのかな?
ちょっと、いや大分お近付きになりたくないな…と思いつつ、今日入寮手続きをするなら同期なのは確実で少しだけ遠い目をしてしまいました。
「アネッサ先輩、あれは何でしょう?確実に関わらない方が良いですよね?」
「そうね。毎年見かける光景だから無視して良いわよ。馬鹿ップル共めが。私なんて田舎に婚約者残して騎士団に入ってるっての!王都に呼べるの来年なんだからね!くそったれ!」
毎年居るんだ…と思いつつ、こいつぁ藪蛇だと私はアネッサ先輩から一歩離れました。
仕方なくない?
怒れる美人はとても怖いのだから。
でも、鬼と化しそうなアネッサ先輩を放置する訳にもいかず、どうにかこうにか落ち着いて貰おうと四苦八苦していると後ろから声を掛けられました。
逃げておけば良かったと、心の底から思います。
アネッサ先輩の荒ぶる感情を優先した、この時の私を私は殴りたい。
「煩くしてゴメンなさい。入寮の手続きをして貰って良いですか?私、リリアンと言います!宜しくお願いします!」
「素晴らしく可愛いリリの彼氏のキースです!僕はリリの手続きが終わったら男子寮に手続きに行くので、それまでここに居ますね!あ、お姉さん達めちゃくちゃ美人じゃないですかぁ。リリの可愛さには敵いませんけど!王都でプロポーズに良さそうな場所を教えて下さい!!!」
リリアンと名乗った彼女は、どうやら彼氏が絡むとポンコツになるタイプのようです。
普段は常識がありそうで安心しました。
ただ、キースと名乗った男は駄目だ。
アネッサ先輩の顔からも表情が抜け落ちている…駄目過ぎる。
リリアンよ、何故その男を選んだんだ?と小一時間詰め寄りたい。
「初めまして、リリアンさん。ジョージアナと申します。私も今日から入寮ですので、宜しくお願いしますね。ですが…キース、貴様は駄目だ。宜しくしようがない」
「同期なんだ?だったら、私は平民だしリリアンで良いよ〜。私もジョージアナじゃ長いし、アナって呼ぶわね!」
「私はアネッサ、この女子寮の寮長もしてるわ。宜しくね。それより、リリアン。その男の何が良かったの?他に良い男なんて腐るくらいに居るわよ?紹介しましょうか?」
「ひぇっ!僕にだけ物凄く辛辣!!!2人共、リリへは普通なのに何で!?どうして!?僕達、初対面だよね!?!?でも、僕に辛辣な2人と直ぐに仲良くなってるリリが可愛い!!!」
おっと。
いけませんね、思わず本音が口から溢れ出ていたようです。
アネッサ先輩から私が言いたい事も全て言って頂けたので黙りましょう。
何処かの国では『口は災いの元』や『沈黙は金』という言葉があるそうですし。
…あれ?
何処でだろ?
その後、ギャンギャンと喚き続けるキースはアネッサ先輩によりウォルター先輩へと押し付…対応を代わって貰い、私とリリアンは無事に入寮を済ませたのでした。
リリアンとは平民同士だった事もあり、直ぐに仲良くなれました。
ただ、キースの事まで知ると厄介事に巻き込まれる未来しか想像出来ませんので、彼女達のプライベートに関しては一切耳に入れるつもりは御座いません。
平和に穏やかに過ごしたいのよ!
でも、まぁ…騎士生活への不安は多少ありますが、寮生活は楽しく過ごせそうです。