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9 始まりの街へ

 あの後、アイテムボックスの発動に何度か失敗し「これを失敗する人なんて見た事ありませんよ……」と盛大にナナを呆れさせた末に、ああでもない、こうでもないと悪戦苦闘。

 そもそも、私からすればアイテムボックスとはなんだと言いたくなる未知の存在なのだ。

 最初からできないのは当然ではないだろうか?


 そして、最終的には「アイテムボックスは見えない押し入れみたいなものです! だから押し入れに物を詰め込む感覚でやってみてください!」というナナの適切な助言によって、なんとかアイテムボックスの発動に成功し、オーガの死体を見えない押し入れから自在に出し入れする事ができるようになった。

 使えてみれば、なんとも便利なものだ。

 鞄いらずではないか。


 そうして盛大に出鼻を挫かれながらも、私はナナの案内によって歩き、道中で出会った魔物(オーガより遥かに弱かった)を斬り伏せてアイテムボックスに死体を収納しながら、東にあるという街へと歩を進める。

 その道中で、街に着いてからの事をナナと話し合った。


「とりあえず、街に着いたら冒険者ギルドという所に行って、冒険者になる事をおすすめします」

「冒険者とはなんだ?」

「……言うと思いました。もうこれくらいじゃ驚きませんよ。

 冒険者というのは、まあ、言ってみれば魔物退治をメインとした何でも屋って感じの職業です。

 何か困った事がある人が冒険者ギルドに依頼を出し、冒険者はその依頼の中から仕事を選んでこなす。そして、報酬を貰う。そんな感じです。

 基本的に自由な仕事ですから、戦闘狂で常に敵の血を浴びてないと正気を保てないリュウマさんに合ってると思いますよ?

 誰にも束縛される事なく、自由に戦う相手を選べますからね」

「お前は私の事をなんだと……」

「特に、今は魔王の影響で魔物が活発になってますから、冒険者ギルドに持ち込まれる依頼の六割くらいが魔物討伐系ですし。

 仕事でなら、いくらでもヒャッハーしてください。ただし、私がドン引きしない範囲でお願いします」

「そうか。だが、せめて反論くらいは聞け」


 まあ、あながち間違ってもいないので、大した反論もできないのだがな。

 それはともかく、ナナの説明を聞いた限り、冒険者とやらになるというのは悪くないように思える。

 最終的には、どこかに仕官するのも悪くないのだが、それはこの闘争に対する餓えを満たしてからでよい。

 それに、普通に考えて、今の私のように家もなく、金もなく、素性も知れぬ、浪人以下の不審人物を雇う職場があるとは思えぬ。

 その論法でいくと、冒険者とやらになれるかどうかも怪しいところだが、どうなのだろうか?


「冒険者とやらは、私のような者でもなれるのか?」

「はい。冒険者はお尋ね者でもない限り、最低限の登録手数料さえあれば誰でもなれる職業ですから。

 なので、職にあぶれた人とか、荒くれ者とか、他のまともな仕事には就けない孤児なんかが最終的に行き着く先でもあります。

 強さこそ正義みたいな業界なので、強くなれさえすれば成り上がれますしね」

「ほう」


 そこはかとなく闇を感じる業界だが、私にとっては都合がいい。

 これならば、問題なく就職できそうだ。


「あ、見えてきましたよ!」


 そんな話をしている内に、目的の街へと辿り着いた。

 だが、ここから見えるのは街ではなく、西洋建築を思わせる巨大な城壁だ。

 この世界は、あるいはこの辺りの文化は西洋に近いのだろうか?

 それはともかく。


「あの城壁の中に街があるのか?」

「そうですよ。この世界の街は殆どが壁に覆われています。そうじゃないと、魔物の襲撃で壊滅するので」

「成る程」


 言われてみれば納得の理由であったわ。

 確かに、あのオーガのような怪物がそこらの草原に出没するような世界で、日本のように丸裸の集落など作れる筈もなし。


「それでは、行きましょうか!」

「ああ」


 ナナと共に街へと近づく。

 目指すは、城壁に設置されている巨大な門の前。

 その門は大きく開け放たれ、いくつもの馬車や旅装姿の者を招き入れていた。

 恐らく、魔物の襲撃時などには急いで閉めるのだろうな。

 ならば、閉まる前に中へと入りたいものだ。


 そんな心持ちで門へと近づいたのだが、


「何やら物々しいな」

「ですね。何かあったんでしょうか?」


 門の前では、武装した大勢の者達が目をギラつかせ、闘志を剥き出しにしていた。

 その装備には統一性がなく、またこの集団にもそれ程の協調性や団結力は感じない。

 寄せ集めという言葉がしっくりくる。

 恐らく、正規の軍隊ではあるまい。

 ならば、これが冒険者とやらなのだろうか?

 ナナに確認すれば「おそらく、そうでしょう」という返事が返ってきた。


「行くぞ、野郎どもォーーーーー!」

『オオオオオオオーーーーー!』


 やがて冒険者(仮定)達は、纏め役と思われる男の号令に従って、街から離れて行った。

 やけに気合いが入っているが、何か大きな仕事にでも行くのだろうか?

 精の出る事だ。


 それを横目に、私達は街の中に入る為の列へと並んだ。

 他の者達から少し注目されているが、これは私の装いが珍しいのか、それとも妖精であるナナが珍しいのか、あるいは、その両方か。


 そして、それから少しした頃、遂に私達の順番がやって来た。

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