8 スキル取得
「とりあえず、ステータス画面にあるスキルポイントの所をタッチしてください」
「こうか?」
言われた通りの場所を押す。
すると画面が変化し、『取得可能スキル一覧』という表示へと切り替わった。
そこにズラリと並ぶ数多の単語。
ナナの説明通りならば、これが私のスキルポイントで取得できるスキルの一覧という事なのだろう。
……多過ぎではないだろうか?
軽く目を通しただけだが、それだけでも確実に三桁を越える数があるように見えるぞ。
「まずはスキル自体の説明ですね。スキルは大きく分けると三種類のタイプがあります」
ナナはまず、指を一本立てて話し続ける。
「その1、『強化系』
強化系のスキルは、持ってるだけで使用者の何かしらの能力を強化してくれます。
常時発動タイプなので、取ったはいいけど使いこなせないなんて事態が起こらないので便利ですね。
リュウマさんの『超回復』もこれに当たります」
続いて、ナナは二本目の指を立てる。
「その2、『発動系』
使う時に「使うぞ!」って念じて使うタイプのスキルです。このタイプのスキルは発動にMPが必要になります。魔法なんかがこのタイプですね。
あと、リュウマさんが持ってる残り二つのスキル、『鑑定』と『アイテムボックス』はこのタイプです」
最後に、ナナは三本目の指を立てた。
「その3、『耐性系』
これは『斬撃耐性』とか『火耐性』とか、要するに特定の攻撃に対する耐久力を上げてくれるスキルですね。
これも強化系と同じで、持ってるだけで効果があります。
リュウマさんにもわかるように説明すると、見えない鎧を纏ってる状態になるようなものです。
以上、この三種類がスキルの大まかな括りになります。
わかりましたか?」
「ああ。なんとなく理解できた」
とりあえず、その2である発動系を使いたくはないな。
戦いの最中に余計な思考を入れては、技の精度が落ちかねん。
この世界の理に慣れてくれば話は別かもしれんが、少なくとも今はいらぬ。
逆に、耐性系には大きな魅力を感じた。
死条一刀流は鎧を必要としない流派だが、それはあくまでも鎧の着用によって機動力が落ちるのを嫌っただけだ。
だが、スキルという形の鎧であれば重さもなく、関節の可動域を邪魔する事もない。
画期的と言えよう。
積極的に取得したいものだ。
「よろしい。では、それを踏まえた上で、わたしのおすすめスキルをお教えしますね。
ただし、スキルポイントは一度使うと戻ってこないので、最終的にはご自分でよく考えて決めてください。
取り返しがつかないので、決定は自己責任でお願いします」
「承知した」
当然の心構えだな。
失敗の責任を他者に押し付けるなど愚の骨頂。
失敗とは、常に己の未熟さから来るものだと心得ている。
「まず最もおすすめで、最低限これだけは取っておいた方が良いと個人的に思うのは『剣』とか『槍』とかの武器スキルです。
これは強化系のスキルで、持っているだけで対応する武器を思いのままに扱えるようになるんです。
あと、スキルLvを上げていくと《アーツ》という必殺技みたいなものも使えるようになります。
アーツの発動にはMPがいるので、そこだけちょっと発動系に近いですかね」
「なんだ、その我ら武術家の努力を嘲笑うかのようなスキルは」
武器を己の身体の如く扱えるようになるまでに、武術家がいったいどれ程の努力をしていると思っているのだ。
そんな努力の賜物である技術が、スキルポイントを支払うだけで手に入るだと?
ふざけるのも大概にいたせ。
思わず、怒気が身の内から溢れ出す。
不快感に顔をしかめてしまう。
だが、それがこの世界の理だと言うのであれば、飲み込むしかあるまい。
「お、落ち着いてください、リュウマさん! 思いのままって言っても、本人のイメージ通りに使えるようになるってだけで、いきなり極めた技とかが使える訳じゃないですから!
それに、スキルLvが低い内は、ちょっと動きをサポートしてくれる程度ですし!」
「何を慌てているのだ、ナナ。私は納得している」
「悪鬼羅刹みたいな顔になってますよ!? 絶対、納得してる人の顔じゃないです!」
いや、私の言葉に嘘はない。
それを証明すべく、私は取得可能スキルの中から『刀』のスキルを選び出し、取得のボタンを押した。
取得に必要なスキルポイントは5。
あまりにも安い対価だ。
吐き気がする。
「何してるんですか!?」
「見た通りだ。『刀』のスキルを取得した」
「え、なんで!? あんなに嫌悪感丸出しの顔だったのに!?」
「そんな事は決まっておろう」
私は折れた刀を鞘から抜きつつ、ナナの問いに答えた。
「それだけ有用なスキルだ。恐らく、この世界の武術は武器スキルを取る事を前提に作られているのではないか?」
「は、はい。まあ、そうですけど」
「ならば、私もまた武器スキルを取得せねば同じ土俵には立てぬ。
いくら不快であろうとも、己の我が儘で強くなる道を閉ざすなど愚か極まる行いだ。
苦手な技の修練をサボる子供と何も変わらない」
そう言いながら、私は折れた刀で死条一刀流のいくつかの技を繰り出す。
刀身が縮んで重心が変わり、更には急激な身体能力の変化というの異常事態に見舞われているにも関わらず、刀は先程以上に手に馴染むような感覚がした。
これがスキルの力か。
私は再びステータス画面を開き、今度は『体術』のスキルを取得する。
死条一刀流には、武器がない時でも戦えるように、素手で繰り出す技もあるからな。
すると、以前までと同じように己の身体を操る事ができた。
激変した身体能力にもう適応している。
凄まじいな。
まだ動きの修正は必要だろうが、最大の懸念事項だと思っていたものがあっさりと解決してしまった。
その事になんとも言えぬもどかしさと虚しさを覚えるが、考えても詮無き事。
私は刀を鞘へと納め、感情を飲み込み、再びナナの方へと向き直った。
「さあ、次だ。続きを聞かせてくれ」
「は、はい!」
そして、ナナによる、ありがたい話は続く。
「次点のおすすめは『HP自動回復』や『MP自動回復』などの、いわゆる自動回復スキルなんですが……リュウマさんに限れば必要ありませんね。リュウマさんはそれらの複合最上位スキルである『超回復』を持っていますから」
「ほう」
先程、腹の傷を一瞬で治した事といい、どうやら『超回復』とは、それなりに凄まじいスキルだったらしい。
さすがは、神に授けられた力と言ったところか。
医者代わりくらいに思っていたのだが、認識を改める必要がありそうだな。
まあ、今はそれよりも他のスキルについてだ。
「次のおすすめは、『攻撃強化』や『防御強化』のようなステータス増強スキルです。
あるだけでステータスを上げてくれるので、これ系のスキルは大抵の人が持ってますよ」
「ふむ」
確かに、肉体の基礎能力は戦いにおいて特に重要だ。
強靭な肉体がなければ、戦う事などできない。
同じ技、同じ錬度の者同士が戦えば、強い肉体を持つ方が勝つだろう。
まして、常人を遥かに超越した怪物と超人が跋扈する世界。
地球と違い、個々人の身体能力に極端過ぎる開きがある以上、その力を少しでも引き上げる事はとてつもなく重要な意味を持つ筈だ。
これは是が非でも取得だな。
最優先取得対象として、心の中に留め置く。
「そして、強化系スキルと同じくらいおすすめなのが、さっきも言った耐性系スキルです。
ただ、これは『斬撃耐性』『打撃耐性』『衝撃耐性』『火耐性』『水耐性』『風耐性』『毒耐性』『麻痺耐性』等々、非常に多くの種類があるので、全て揃えるには膨大なスキルポイントが必要になります。
だから取りたがらない人も多いんですが、あれば確実に死にづらくなるので、やっぱりおすすめです。
命あっての物種と言いますし」
「もっともだな」
ナナの言う事は正しい。
命なくしては何も成し得ない。
私とて、命懸けの闘争を求めてはいるが、命を溝に捨てるつもりはないのだ。
ならば、命を守る鎧である耐性系スキルもまた必須。
これも最優先だな。
「以上が、私のおすすめするスキルになります。
もちろん、他にもスキルは沢山ありますし、どれを取るかはリュウマさんの自由ですが、是非参考にはしてください」
「ああ。感謝する、とても参考になった」
私は早速ステータス画面を開き、次々とスキルを取得していく。
そして、数分としない内に、全ての作業を完了させた。
ーーー
異世界人 Lv36
名前 シジョウイン・リュウマ
HP 3730/3730
MP 155/155
SP 4372/4372
攻撃 3300
防御 3061
魔力 88
魔耐 2083
速度 3294
スキル
『超回復:Lv5』『成長補正:Lv━━』『鑑定:Lv極』『アイテムボックス:Lv5』『刀:Lv1』『体術:Lv1』『HP増強:Lv1』『SP増強:Lv1』『攻撃強化:Lv1』『防御強化:Lv1』『魔耐強化:Lv1』『速度強化:Lv1』『斬撃強化:Lv1』『打撃強化:Lv1』『衝撃強化:Lv1』『斬撃耐性:Lv1』『打撃耐性:Lv1』『衝撃耐性:Lv1』『火耐性:Lv1』『水耐性:1』『風耐性:Lv1』『土耐性:Lv1』『雷耐性:Lv1』『氷耐性:Lv1』『光耐性:Lv1』『闇耐性:Lv1』『毒耐性:Lv1』『麻痺耐性:Lv1』『酸耐性:Lv1』『呪い耐性:Lv1』『魅了耐性:Lv1』『石化耐性:Lv1』『混乱耐性:Lv1』『幻覚耐性:Lv1』『恐怖耐性:Lv1』『睡眠耐性:Lv1』『気絶耐性:Lv1』『飢餓耐性:Lv1』『痛覚耐性:Lv1』
スキルポイント 60
ーーー
「よし」
一先ずはこれでいい。
選んだのは、どうせ使わないであろうMPと魔力以外のステータス増強系スキル全て。
そして、目に付いた耐性系スキルをあるだけ揃えた。
これらのスキル取得に必要だったポイントは、一つにつき10。
武器スキルよりは高いが、思っていたよりも随分と低い。
ナナ曰く、スキルは使用者と相性の良いもの程低ポイントで取得でき、成長も早いとの事だったので、私はこの手のスキルと相性が良かったのだろう。
おかげで、念の為にスキルポイントを温存しつつ、ステータス増強系と耐性系スキルを揃える事ができた。
ちなみに、それを見たナナの感想は、
「は、発動系のスキルが鑑定とアイテムボックス以外、一つもない……!? 遠距離攻撃もないし、特殊なスキルも超回復くらいしかない!?
そりゃ、おすすめはしましたけど、別にそれだけ取れなんて一言も言ってないんですけど……。
なんですか、このLvを上げて物理で殴るの極致みたいなスキル構成。脳筋過ぎでしょう」
という、どことなく馬鹿にされているかのような酷いものだった。
失礼な事だ。
せめて質実剛健と言ってほしい。
だが、なんにせよ、これにて戦いの準備は整った。
今ならば、例えオーガが3体くらい同時に出ようとも、刀なしで撃退できるだろう。
これで、道中で戦闘になったとしても、ある程度は安心だ。
ならば、
「参るとしよう。異世界の街へ」
私は、ここから東の位置にあるという街へ向かって、第一歩を踏み出
「あ、リュウマさん。街に行く前にオーガの死体を『アイテムボックス』で回収しましょう。
冒険者ギルドに売り払えば、結構なお金になる筈です」
……そうとしたが、ナナの言葉によってその足を止める事となった。
出鼻を挫かれてしまったか。
なんとも縁起の悪い。
「……わかった」
内心で少しモヤモヤとした気持ちを抱えながら、私はオーガの死体へと近づいたのだった。