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5 侍にステータスと言っても通じる訳がない

「え? ステータスですよ、ステータス。まさか、わからないんですか!?」

「そのようなものは知らぬ」


 聞いた事もない。

 ああ、いや、先程チートとやらが書かれた紙束を渡された時、その紙束にやたらと出てきた単語ではあるな。

 だが、私がステータスとやらについて知っているのはそれだけだ。

 こんな、にわかとも言えぬ知識では知らぬのと変わらぬであろうよ。


「マジですか……! そんな若者が日本にいるなんて……! 天然記念物か何かですか、あなたは?」

「否定はしない」


 殺人剣術の継承者など、確かに現代社会では天然記念物のようなものであろうよ。

 故に、反論はせぬ。


「ま、まあ、わからないならわからないでいいです、教えますから。

 なので、とりあえず『ステータス!』と叫んでください」

「何故だ?」

「必要な事だからです」


 ふむ。

 実に胡散臭いが、ここは私の常識など通じぬ世界。

 案外、これがこの世界の常識なのやもしれぬ。

 ならば、ここは案内人の言う通りにしておくのが吉か。


 私は大きく息を吸い込み、裂帛の気合いと共に腹の底から声を出した。


「ステータスッッ!!!」


 私の声が咆哮となって周囲に響き渡る。

 ナナは衝撃の顔で耳を塞ぎ、草食獣達は慌ててこの場から逃げ出す。

 どこかで、鳥が一斉に飛び立つような音もした。


 それと同時に、私の目の前に半透明な板のような物が音もなく現れる。

 そこには、あのチートとやらが書かれた紙束のように意味不明な事柄が書かれていた。

 なんだ、この奇妙な代物は?

 これが、ナナが私に見せたかったものなのか?


「ナナ……」

「な、なんて声出してるんですかっ!? 無敵結界越しなのに鼓膜が破れるかと思いましたよ! 何考えてるんですか!?」

「気合いを籠めろと言ったのはお前だろう」

「限度ってもんがあるんですよっ! なんですかアレ!? もはや声じゃなくて攻撃ですよ! 攻撃!

 次からはもっと小声でやってください! 気合いも籠めなくていいです! というか、普通に声にするだけでいいです! わかりましたか!?」

「むぅ……よくわからんが、わかった」


 要するに、これからは普通にすればいいのだな。


「それで、この半透明の板がお前の見せたかったものなのか?」

「ええ、そうですよ。そこに書かれているのが、あなたのステータスです」

「私のステータス……」


ーーー


 異世界人 Lv1

 名前 シジョウイン・リュウマ


 HP 198/198

 MP 11/11

 SP 398/398


 攻撃 225

 防御 144

 魔力 1

 魔耐 66

 速度 231


 スキル


 『超回復:Lv1』『成長補正:Lv━━』『鑑定:Lv極』『アイテムボックス:Lv1』


 スキルポイント 50


ーーー


「……Lv1のステータスじゃないですねコレ。リュウマさん、強すぎですよ。どんな人生送ってたら、Lv1でこんな事になるんですか」

「これで私の強さがわかるのか?」

「はい。それがステータスというものですから」


 ナナ曰く、ステータスというものは、その者の強さを数値化したものらしい。


 まず、HPというのはヒットポイント。

 生命力のようなものだと思えばいいらしい。

 この数字は攻撃を受ける事や、病気などで体力を消耗すると減少し、0になれば死に至る。


 次に、MP、マジックポイント。

 これは、女神が使ってみせた、あの魔法という力を使う為の力らしい。

 つまり、この数値が絶望的に低い私は、魔法の才能がないとの事。

 そのような得体の知れない力に頼るつもりは毛頭ない故、関係はないがな。


 SPはスタミナポイント。

 これはわかりやすい。

 体力そのものだ。

 要するに、このポイントが0になると息切れ状態になる。

 ただし、HPやMPと違い、少し休んだり、動きを緩めたりすれば、すぐに回復するらしい。


 そして、攻撃はそのまま攻撃力。

 要するに、筋力のようなものだと思っておけばいいと言われた。

 これに関しては、SPと同じくすんなりと理解できる。

 鍛えたからこそ、私はこの数値が高いのだろう。


 防御は耐久力。

 つまり、打たれ強さという事らしい。

 これも理解できる。


 魔力は、魔法の強さを決める数値。

 MPと何が違うのかと問うたところ、ナナはこのステータスとやらを車に例え、MPがガソリンの量、魔力が馬力だと言った。

 意外とわかりやすい説明をしてくるものだと、少々感心した。


 魔耐は、その魔法に対する抵抗力。

 防御と何が違うのかと思ったが、考えてみれば、普通に殴られるのと、火で焼かれるのでは、必要とされる防御力の種類が違って当然だと思い直した。

 私の道着も、斬撃には強いが、火には弱いからな。


 速度は瞬発力。

 如何に速く動けるかという数値のようだ。

 これも、攻撃や防御と同じでわかりやすい。


 だが、この下にあるスキルとスキルポイントとやら。

 これに関しては全く理解できぬ。


「スキルとはなんだ?」

「簡単に言うと超能力みたいなものですかね。スキルとは、スキルポイントという対価を支払って獲得できる異能です。魔法とかもこれに当たります。

 スキルポイントは生まれつき持ってる人もいますし、Lvアップで増やす事もできますよ。

 リュウマさんが既に四つのスキルを持っているのは、女神様から頂いたからですね。

 『超回復』はご自分で選ばれたかと思いますが、残りの三つは勇者全員に授けられる特典なのです」


 ナナ曰く、スキルは使えば使う程にスキルLvというものが上がり、より強力になっていくとの事。

 それはステータスも同じで、鍛えれば鍛える程に際限なく上がる。

 そして、スキルLvを含めた全てのステータスは、スキルポイントに限らず、私自身のLvを上げる事で急上昇していくらしい。

 Lvを上げる方法は、自分以外の生き物を殺す事。

 それによって経験値なるものを取得し、それによってLvが上がり強くなる。

 それが、この世界の理のようだ。


「あと、『鑑定』のLvだけ異様に高いのも、勇者に対する優遇措置の一つです。

 異世界に憧れを抱きやすく、その為勇者に選ばれやすい日本の若者というのは、ステータス画面が大好きですからねぇ」

「……本当に得体の知れぬ力だな」

「得体の知れない力じゃないですよ。この世界の力です」

「む」


 私は思わず、嫌悪感で顔をしかめそうになったが、ナナの一言によって、その思いが霧散した。

 そうか、そういう考え方もある、いや、そういう考え方をするべきなのか。

 確かに、この力は不気味だ。

 何故、生き物を殺しただけで強くなるのか。

 何故、スキルなどという異能が使えるのか。

 正直、自分の身体が、まるで異形の化け物になったかのような不快感すら感じていた。


 だが、最初に思ったではないか。

 この世界は私の常識が通じない世界だと。

 理自体が違うのだと。

 そして、そんな世界に望んで飛び込んだのは私だ。

 文句を言う資格など、ある筈もなし。

 郷に入っては郷に従え。

 それこそが、私の持つべき心構えであった。


「感謝する、ナナ。お前の言葉で目が覚めた」

「え、えぇ!? なんで、そんな重々しい感じで頭下げてるんですか!? わたし、そんな感謝されるような深イイ感じの事を言った訳じゃないんですけど!?」

「何を言う。お前の言葉は真理をついていたぞ」

「やめてください! 恥ずかしいですから! ていうか、いい加減頭上げてください!」


 ナナは何故か一通り慌てた後、気を取り直すように「コホンッ!」とわざとらしく咳払いをした。

 先程もしていたが、癖なのだろうか?


 そんな呑気な事を考えた瞬間、私の感覚が突如として警鐘を鳴らした。


「と、とにかく、リュウマさんがステータスというものを理解してくれたみたいなので、次の説明に移りますね。

 とりあえず、最初にこれだけは覚えといた方がいいスキルについての説明を……」

「いや、待て」

「……なんですか?」


 突然、話を遮った私に、ナナが訝しげな目を向けてくる。

 だが、それどころではない。

 私が今感じている、この全身の産毛が逆立つような感覚は……


「何か来るぞ。それも敵意を持った何者かがな」

「え? それって……」


 ナナが疑問の声を上げようとした瞬間。

 私達のいる場所に影が差した。

 咄嗟に上を見上げれば、そこには太陽の光を遮って跳躍する何かの姿が。

 そして、その何かの落下予測地点はここだ。

 このままでは、踏み潰されるであろう。


 即座にナナの体を片手で掴み、その場から飛び退いた。

 その直後、先程まで私達がいた場所へと轟音を響かせながら着地、否、着弾した巨体。


 その姿を一言で表すのであれば、大鬼と言ったところか。


 姿形は人に近い。

 だが、身長は5メートルを越えているであろう、人間ではありえない巨躯。

 黒曜石のような漆黒の色をした、額から伸びる二本の巨大な角。

 そんな角と全く同じ色合いをした、漆黒の肌。

 その身体に纏う筋肉は、ボディビルダーを遥かに凌駕し、筋肉達磨という言葉を想起させる。

 それは、まごうことなき……


「怪物」

「魔物です! って、それどころじゃないです! オーガですよコレ! かなり高位の魔物です! 間違っても序盤で遭遇していい敵じゃないんですよ!? なんで、こんな所に!? 女神様、転送位置間違えたんですか!?」


 ナナが慌てふためく。

 一方の怪物、オーガとやらは、殺意に満ちた視線で此方を睨んだ。

 そういえば、女神が言っていたな。

 魔物とは、この世界において人に害を成す害獣であり、その魔物の王こそが私の倒すべき存在、魔王なのだと。


 ならば、こやつは魔王の尖兵と言ったところか。

 見たところ、身体能力では決して勝てぬ怪物。

 おまけに、私の流派である死条一刀流は、当たり前だが対人専門の剣術だ。

 果たして、人ならざる化け物相手にどれ程通じるか。


「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 オーガが咆哮を上げる。

 先程の私の大声とは訳が違う、本物の獣の咆哮。

 殺意に満ちた声。

 日本に居ては、まず聞く事のない声だ。


「おもしろい」


 そんなオーガを前に、私は腰に差した刀を引き抜き、構えた。

 気分が高揚する。

 心拍数が上がっていく。

 これだ。

 これこそが、私の求めた戦い、殺し合いだ。


 今までとは違い、これから振るう剣に一切の手心は加えぬ。

 殺人剣の名に相応しく、正真正銘、相手を殺す為に刀を振るう。

 この時、この瞬間を、どれ程夢見た事か。


「ナナ、下がっていろ」

「リュウマさん!? まさか戦うつもりですか!? 無茶ですよ! 鑑定使ってみてください! 相手はオーガで、しかもLv60超えです! 今のリュウマさんが勝てる相手では……」

「ナナ、もう一度だけ言う」


 私はナナを鋭く睨み付け、告げた。


「下がっていろ。戦いの邪魔をするな」 


 私がそう口にしたと同時に、オーガが咆哮を上げ、その巨体からは考えられぬ速度で突撃してきた。

 私はそれを迎え撃つべく、刀を振るう。


 さあ、殺し合いを始めようではないか。

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