27 苦戦
私は全速力でスカルとの距離を詰める。
奴には翼があり、飛翔というスキルがある。
空を飛ばれては厄介だ。
地上にいる内に仕留めてしまいたい。
━━死条一刀流 弐ノ型 無明突き
やはり初撃にはこの技が最も適している。
殆ど事前動作なしで繰り出せる高速の突きだ。
数ある技の中で最も使いやすい。
「うぉ! 速いねぇ!」
だが、スカルはそれを片手の鉤爪で簡単に止めた。
その程度の事は予期している。
私とスカルは単純なステータスが大きく離れている上に、こやつには思考加速や予測と言った、こちらの動きを予期するスキルが備わっている。
簡単に攻撃が当たるとは思っていない。
「お返しだよぉ! 《スラッシュクロー》!」
反撃にスカルが鉤爪を振るう。
速い。
先程の魔族よりも遥かに。
これは避けきれんな。
━━死条一刀流 漆ノ型 風前柳返死
「うおっ!?」
顔を横に倒しながら斜め前に踏み込み、左頬を大きく抉られながらも、すれ違い様にカウンターを叩き込む事に成功した。
攻撃の瞬間は守りが薄くなる。
その隙を突いた形だ。
私の刀がスカルの首筋を捉える。
しかし、スカルは咄嗟に体を横に倒し、致命傷を避けていた。
刀はスカルの首を半分斬るも、その程度の負傷は即座に回復される。
一方、私の傷も超回復によってスカルと同程度の速度で回復し、振り出しに戻った。
「わぉ。君、本当に人間? 俺らと同じ魔族じゃないよね?」
「一応はな」
そう言いつつ、再びスカルへと向かって行く。
だが、スカルは近距離戦では不利と判断したのか、翼を広げて空へ舞い上がろうとする。
逃がさん。
「《風斬り》」
「おっと! 《フライングクロー》!」
遠距離攻撃のアーツを放つも、それは簡単に相殺された。
否、相殺に留まらない。
スカルのアーツが私のアーツを容易く押し切り、私は回避を余儀なくされた。
前へと進む足が遅れる。
その間に、スカルは空へと飛び立とうとしていた。
だが、それはさせぬ。
私の次の刃は、既にスカルへと届いている。
「じゃあねぇー、ってなんだこれ?」
スカルの目の前に一本の剣が降ってくる。
私がスカルのアーツを目眩ましにしてアイテムボックスから飛び出し、投擲していた剣だ。
それは、先程の魔族が使っていた炎の魔剣。
自壊寸前のボロボロの魔剣。
それにありったけのMPを注いで投げた。
結果、魔剣はその負荷に耐えられず、爆炎を上げながら爆発した。
「うぉおおおおう!?」
こうなる事はあの魔剣を鑑定した時に気づいた。
勝利の為に、敵を殺す為ならなんでも使うのが死条一刀流のやり方だ。
勝つ為ならば爆弾でもなんでも使う。
そして最後には、この刀で敵を斬る。
私は爆炎に包まれたスカルに向けて走る。
スカルのダメージ自体はそう大きなものではない。
既に再生が終わっている。
だが、生じた隙は決して無視できまい。
その隙を突いて刀を振るう。
スカルは両腕で頭を守った。
それを読んでいた私は、空中にて刀の軌道を変える。
━━死条一刀流 捌ノ型 騙し討ち・縁斬り
本気の殺意を叩きつけて敵に守りの姿勢を取らせ、別の部位を斬り裂く技。
それによって、私は頭部への攻撃を囮に翼を狙った。
だが、ただ斬った訳ではない。
斬っただけでは数秒で再生されてしまう。
故に、斬るのではなく峰で打った。
それによって翼の関節を砕く。
そして、更なる技で追撃をかけた。
━━死条一刀流 番外参ノ型 封殺
砕いた腕などを押し潰し、無理な形で治癒させて二度と使い物にならなくさせる技。
これで多少は再生の妨げになればよいが。
「いった!? やるねぇ! 《ソニックブーム》!」
「ぬ!」
スカルは自身を中心に強大な衝撃波を放った。
全方位に拡散する攻撃。
避けられる筈もなく、攻撃の直後で防ぐ事も叶わず、私は吹き飛ばされた。
受け身と超回復のおかげでダメージこそなかったが、距離を開けられたのは大きい。
その隙に、スカルは空へと飛び立っていた。
若干ふらついているものの、あの傷ついた翼でも飛べるようだ。
「うわ、上手く飛べないわ。でも、こうなったら俺の勝ちでしょ。 《フェザーストーム》!」
「くっ!」
上空から一方的に攻撃を受けた。
恐らく風の魔法と思われる竜巻がいくつも発生し、その中に混入した羽が私の体を斬り裂いてゆく。
大したダメージではないが、服がズタズタになっていった。
「そらそら! いつまで避けられるかな! 《フォールダウン》!」
「ぐっ!」
今度は、まるで空が落ちてきたかのような下向きの強風が吹き付ける。
体が重い。
動きが鈍る。
「《フェザーブレード》! 《エアーカッター》! 《ハリケーンブラスト》!」
そこを狙って放たれる数多の攻撃。
いくつかは避け、いくつかはアーツで相殺したが、完全には防ぎ切れぬ。
私は魔法を使う者と戦った経験が殆どない。
初見の攻撃を捌き続ける事は困難を極めた。
戦う内に少しずつ、少しずつ慣れてはきたが、それ以上に精神力の消耗が激しい。
超回復でも補い切れない程に集中力を使う。
やがて、真空の刃が私の右腕を切断した。
一瞬の気の緩み。
時間にして瞬き一回分程度の集中力の途切れ。
そこに魔法が直撃した。
不覚だ。
右腕はすぐに超再生で生えてきたが、刀を手放してしまった。
おまけに、私の手から離れた刀は魔法の嵐を前にもみくちゃにされ、砕け散る。
この隙は大きい。
「万事休すか」
だが、絶望するには早すぎる。
この苦境を乗り越えた時、私は一段階強くなるだろう。
それに、苦戦するという事が純粋に嬉しい。
それ程の強敵に出会えた事が嬉しい。
高揚する。
研ぎ澄まされる。
この強敵を倒す為に、私の武が凄まじい速度で研鑽されてゆく。
そうして、私が更なる高みへと至らんとした、その時。
「小僧! これを使え!」
聞き覚えのある声が聞こえ、それと同時に一本の刀が投げ渡された。




