26 十魔
「成る程、確かに街が戦火に包まれているな」
「冷静に分析してる場合じゃないですよ! 急いでください!」
「既に全力疾走している」
ナナに報告を受け、街の窮地を知った私は急いでダンジョンを逆走し、30分もしない内に街へと戻って来た。
魔族を倒してLvが上がったからこそ、たったそれだけの時間で戻って来れたのだが、それでも相当高位と思われる魔族に襲撃された状態での30分は長すぎたようだな。
城壁を飛び越えて内部に入ってみれば、街は既に崩壊の一歩手前まで破壊し尽くされていた。
「酷い……!」
ナナが顔を青くする。
だが、私は冷静だ。
何故なら、私は女神との契約によって、戦争をする覚悟でこの世界へとやって来た。
そして、戦争とはこういうものであろう。
争いが終わらぬ限り、いつ何時どこが襲撃を受けてもおかしくはない。
こういう悲劇を見る覚悟は決めてきた。
そして、私が今やるべき事は嘆く事ではない。
一刻も早く敵対者を滅する事だ。
その為に、私は凄まじい砂塵の舞い上がる、今まさに戦いが行われているであろう場所へと駆けた。
そこに到着した時、━━私の目の前で、エドワルド殿が魔族と思われる男の抜き手に貫かれた。
「《風斬り》」
「おっと」
その魔族、先程の幼子とは違い、鳥のような姿をした鳥魔族は、私のアーツによる遠距離攻撃を回避し、エドワルド殿を投げ捨てて距離を取った。
私は其奴とエドワルド殿の間に立ち、刀を構えながらナナに指示を出した。
「ナナ、エドワルド殿を頼む」
「は、はい!」
私の指示通り、ナナは倒れ伏したエドワルド殿の治療に入った。
確か、ナナは蘇生の魔法まで使える回復の専門家だった筈。
であれば、エドワルド殿はナナに任せておけば問題なかろう。
私は、この鳥魔族の相手に専念すれぱよい。
「いきなり危ないなぁ。初対面で斬りかかって来るとか常識がないんじゃない?」
「ほざけ。私の知人を刺し貫いた者が何を抜かす。刃を振り上げたのであれば、反撃される覚悟を持つのは当然であろう」
「あー、言われてみれば確かに。君、いい事言うなぁ」
鳥魔族は飄々とした態度を崩さない。
だが、おどけて見えるのは表面上だけだ。
その目は鋭く光り、敵である私の事を見据えている。
先程の幼い魔族とは違う。
明確な知性を持ち、経験を積み上げた強敵と見た。
私は意を決して鑑定を発動させる。
ーーー
魔族(タロンイーグル) Lv211
名前 スカル
HP 23300/23300
MP 27719/30019
SP 37799/37799
攻撃 24222
防御 19999
魔力 28000
魔耐 20001
速度 40110
スキル
『飛翔:Lv104』『HP自動回復:Lv41』『MP自動回復:Lv66』『SP自動回復:Lv70』『体術:Lv30』『気配感知:Lv81』『危険感知:Lv77』『暗視:Lv70』『千里眼:Lv71』『思考加速:Lv44』『予測:Lv41』『並列思考:Lv49』『MPブースト:Lv51』『SPブースト:Lv55』『風魔法:Lv91』『HP増強:Lv50』『MP増強:Lv71』『SP増強:Lv77』『攻撃強化:Lv44』『防御強化:Lv40』『魔力強化:Lv70』『魔耐強化:Lv41』『速度強化:Lv88』『斬撃強化:Lv69』『打撃強化:Lv40』『衝撃強化:Lv40』『風強化:Lv77』『斬撃耐性:Lv21』『打撃耐性:Lv20』『衝撃耐性:Lv20』『火耐性:Lv28』『水耐性:Lv24』『風耐性:Lv21』『土耐性:Lv19』『雷耐性:Lv30』『氷耐性:Lv30』『光耐性:Lv18』『闇耐性:Lv15』『恐怖耐性:Lv31』『気絶耐性:Lv51』『痛覚耐性:Lv55』
スキルポイント 0
ーーー
「成る程」
化け物だな。
先程の魔族を遥かに上回るステータスに、エドワルド殿に匹敵するスキル構成。
まさに人の強さを手に入れた魔物。
これが本物の魔族か。
「あー、そういえば自己紹介がまだだったわ。魔王様にそういうのはちゃんとやれって言われてるんだよなぁ。
じゃあ改めまして。俺は魔王軍幹部『十魔』序列十位、タロンイーグルのスカルだ。どうぞよろしく」
……ほう。
これが十魔。
ナナの言っていた、魔王軍最強の一角。
そのような者と、こんなにも早く合間見える事になろうとは。
相手に取って不足なし。
そして、名乗られたのであれば、名乗り返すのが礼儀というもの。
「私は勇者候補の一人にして、誉れ高き死条一刀流継承者、死条院龍馬だ。
スカルとやら。いざ尋常に勝負」
「ああ、そっか。君勇者の一人だったのね。それなら望むところなんだよなぁ。粋のいい勇者は大歓迎だ」
スカルがニヤリと笑う。
そして私は、強敵との戦いの予感に胸を踊らせながら、スカルに向けて一歩を踏み出した。




