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武人勇者の戦闘記 ~最強殺人剣の継承者、勇者に選ばれたので、異世界で死合を謳歌する~   作者: 虎馬チキン


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25/30

25 襲来する者

 リュウマがダンジョンへと修行に行き、道中で魔族とエンカウントする少し前。

 街に残ったナナは目的の人物の情報を手に入れるべく、あくせくと聞き込みをしていた。


(なんで私だけがこんな苦労を……いえ、サクヤさんはいい人でしたし、人助けの為に苦労する事自体はバッチコイなんですが、その苦労を言い出しっぺのリュウマさんがしてなくて、私だけがしてるって事には納得いかないです)


 しかし、ナナの内心は不満タラタラであった。

 無論、ナナとてリュウマの行動が間違っているとは思っていない。

 エドワルドという冒険者ギルドの長が動いてくれている以上、リュウマができる事などタカが知れているし、むしろ、リュウマが斎藤を探しているという噂でも立ったら斎藤が夜逃げしかねない。

 ならば、リュウマはおとなしく修行しているのが一番なのだ。

 勇者候補の中でも屈指の実力を持ったリュウマのLvアップは、最終目標である魔王討伐にも繋がるのだから。


「でも、理解するのと納得するのは話が別というか……って、あ!?」


 ぶつくさと文句を言っていた、その時。

 ナナの目が見覚えのある銀髪と獣耳を捉えた。

 急いでその人物の元へと行けば、この一週間探し続けていた人物が肉屋で買い物をしている所だった。


「サクヤさん!」

「ん? ああ、ナナじゃないか。一週間ぶり」


 その銀髪獣耳少女、サクヤは気軽な様子でナナに笑いかけた。

 相変わらず、不幸の絶頂にいるとは思えない笑みである。


「探しましたよ! 今までどうしてたんですか?」

「リュウマ殿に一喝されたあいつが、ビクビクと震え上がりながら宿屋に引き込もってね。私は命令されて身の回りの世話をしていたんだ。

 おかけで掃除や料理が上手くなってしまったよ」

「うわぁ……」


 サクヤが苦笑する。

 どうやら、あまり現状を良しとしていないようだ。

 一方、ナナは斎藤が引き込もってんじゃないかという自分達の予想が完璧に当たってしまっていた事に、なんとも言えない気持ちになった。

 お説教されて引き込もる勇者とか……。

 まあ、異世界行きを強く望むような現実逃避野郎なんて、所詮はこんなものなのかもしれないが。


(やっぱり、あの勇者召喚の魔法は欠陥品ですね)


 ナナは強くそう思った。

 あんな、数打ちゃ当たるとでも言わんばかりの魔法ではロクな勇者が出ないのだ。

 望まない者を強制的に拉致してくる訳にはいかないという製作者(女神様)の意図はわかるが、それを差し引いても、もう少し改良してほしい。

 これなら、この世界の人間達が独自に開発した勇者召喚の魔法の方が百倍マシである。

 まあ、あっちはあっちで多大な問題がある訳だが。


「まあ、それはさておき。サクヤさんは今どこの宿屋に泊まってるんですか?」


 ナナは本題を口にした。

 ただし、あくまでも自然に、サクヤさんを奴隷から解放しよう計画を悟られないようにしながら。

 なんとなく、それを伝えたらサクヤが気に病みそうな気がしたのだ。

 そして、サクヤが不自然な様子を見せて、斎藤に原因を聞き出されれば、夜逃げされる可能性が高まる。

 中心人物を蚊帳の外にするのはアレだと思うし、リュウマならどストレートに「お前は解放を望むのか?」とか聞きそうであるが、ナナは確実性を優先した。


「ああ、それならあそこの高級宿に……」


 サクヤがここから近い位置にある高級感の漂う宿を指差した瞬間……その宿屋が爆発した。


「「………………………へ?」」


 当然の超展開に、二人揃って呆然とする。

 斎藤、逝ったか……。

 そんな感想を抱く余裕すらない。

 異変は止まらない。

 今度は街のあちこちが同様に爆発していく。

 響く悲鳴、飛び散る瓦礫、泣きながら近くまで吹き飛んできた斎藤。

 街は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していった。


「い、いったい何が!?」


 ナナは混乱しながら、なんの前触れもなく破壊されていく街に視線を走らせる。

 その時、ふとサクヤの横顔が目に入った。

 見た事もない険しい顔で、殺意と憎悪に満ちたような顔で、上空(・・)を睨み付けていた。


「サ、サクヤさん……?」


 その横顔にナナが戦慄した瞬間、この事態の元凶が上空から舞い降りた。


「あー、ちょっと失礼。ここら辺に同胞の気配を感じてスカウトに来たんだけどさぁ。何か知らない?」

「!?」


 そいつは、人の形をした異形だった。

 人型の身体を持ちながら、背中からは巨大な翼が生え、両手両足は猛禽類のような鋭い鉤爪になっている。

 獣人族とは似て非なる姿。

 そして何よりも、この禍々しい気配。

 それは間違いなく、


「魔族……ッ!」


 サクヤが憎悪の籠った声で、その存在の名を呼んだ。

 ナナは咄嗟に鑑定を発動し……直後、絶望する。


(こ、こんなの始まりの街に現れていい敵じゃないですよ!?

 魔王城の中ボスとか、そういうレベルじゃないですか!?)


「おーい、聞いてるー? あ、いきなり街ぶっ壊しちゃったから呆然としてんのか?

 そりゃ悪い事したなぁ。でも、俺らは魔王様の命令で人間を追い詰めなきゃいけないからさぁ。

 仕方のない事として、ここは一つ……」

「《抜刀剣》!」

「おっと」


 ペラペラと気安く喋り続ける魔族に、サクヤが斬りかかった。

 だが、サクヤと魔族の間には決して越えられない程に実力差がある。

 渾身の殺意を籠めた攻撃は、魔族の鉤爪に意図も容易く受け止められた。


「人が喋ってるところに攻撃してくるなよ。マナー違反だぞ?」

「うるさい! 故郷の仇! 一族の仇! 今ここで討ち果たしてやる!」

「ん? ……ああ、君、もしかして前に滅ぼした獣人族の国の生き残り? あの一位の奴が盛大に暴れた時の。

 言われてみれば君、一位の奴が殺した王様に似てる気がするなぁ」

「ッ! 死ねぇ!」


 魔族の言葉はサクヤの逆鱗に触れた。

 憎い仇が、自分達を滅ぼした時の事を気安く話す。

 まるで、取るに足らない話をするかのように。


(憎い! 憎い! 魔族が憎い!)


 サクヤの心を憎しみが覆い尽くす。

 だが、どれ程の強い感情を籠めようと、歴然とした実力差を覆す事はできない。

 想いだけで強くはなれない。

 サクヤが渾身の力で振るった刀は、魔族が軽く、本当に軽く振っただけの鉤爪に粉砕され、そのまま鉤爪はサクヤの身体までも斬り裂いた。


「がっ……!?」

「サクヤさん!?」


 ナナが即座に今の攻撃で倒れたサクヤに近寄り、回復魔法をかける。

 魔族は、そんな二人の様子を、正確にはサクヤの事を興味深そうに見ていた。


「アレだな。君は俺達を絶対に許さねぇって目をしてる。

 そういう目をした奴は強くなるから、強くなるまで殺すなって魔王様に言われてんだわ。

 だから俺は君を殺さない。良かったな。生き残れて。

 じゃあ、俺は他の奴に聞き込みを……」

「《フルパワースラッシュ》!」

「おわっ!?」


 そんな魔族を、誰かの攻撃が襲った。

 凄まじい力で大剣を叩きつけられ、魔族は瓦礫の中へと突っ込んでいく。

 それを成したのは、完全武装した初老の男だった。


「エドワルドさん!」

「リュウマん所のお嬢ちゃんか! リュウマはどうした!?」

「ダ、ダンジョンに修行に行っちゃいました!」

「チッ! 間の悪い奴だ!」


 嘆きの声を上げつつ、エドワルドは魔族を吹き飛ばした方向から視線を離さない。

 あれで仕留められるとは微塵も思っていないからだ。


「まあ、嘆いても仕方ねぇか。何せ、魔族が近隣の村を潰しながらこの街に迫ってるって報告があったのは、ついさっきだからな……。

 お嬢ちゃん! ここは俺が死ぬ気でこいつを足止めする! お嬢ちゃんはその間にリュウマを連れて来てくれ!

 この街でこいつに対抗できるのは、リュウマしかいねぇ!」

「で、でも……」


 ナナは躊躇した。

 さっき鑑定に成功した魔族のステータスを考えれば、リュウマですら勝ち目があるとは思えない。

 それに、リュウマが来るまでエドワルドが持ちこたえてくれる保証すらないのだ。

 だが、


「頼む!」

「わ、わかりました……」


 完全に余裕をなくし、ただ叫ぶように懇願するエドワルドを見て、だが断るなどとは言えなかった。

 そして、ナナは倒れたサクヤに視線を向ける。

 気絶はしているが、最低限の回復は完了したから死にはしない。

 だが、ここに置き去りにすれば、戦闘の余波で死ぬだろう。

 だからと言って、ナナの非力な身体では連れて行く事はできない。

 困って周囲を見渡したその時、視界の隅にガタガタと震えながら腰を抜かしている斎藤の姿が見えた。


「そこの斎藤さん!」

「はひぃ!?」

「あなた、一応はサクヤさんの仲間で、一応は勇者でしょう!?

 だったら勇者らしく、命懸けで仲間を守ってください!」

「は、はいぃ!」


 勇者らしくという斎藤のトラウマスイッチを押し、無理矢理サクヤの事を押し付ける。

 これで最低限、本当に最低限のギリギリだが、サクヤの安全は確保できた。


「では、行って来ます! 死なないでくださいよ、エドワルドさん!」

「おう! 引退したとはいえ、俺も元S級冒険者だ! 老いぼれの意地見せてやるよ!」


 そうして、ナナは全速力でダンジョンへと飛んだ。

 一刻も早くリュウマを連れて戻る為に。

 Lv1の状態でオーガを倒した、あの規格外超生物なら魔族だって倒せると信じて。


 一方その頃、リュウマがダンジョンにて魔族とエンカウントしていた事など、ナナは知る由もなかった。

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