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武人勇者の戦闘記 ~最強殺人剣の継承者、勇者に選ばれたので、異世界で死合を謳歌する~   作者: 虎馬チキン


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24 VS魔族

「《スラッシュ》!」


 魔族が剣を振り下ろす。

 その速度は、今までに出会った敵の中で最速。

 しかも、武器スキルの効果によって、ある程度の技術とアーツの力を内包した一撃だ。

 今の私ですら、まともに受け止める事は不可能だろう。


 だが、まだまだ技量の差によって対応できる範囲。


 ━━死条一刀流 (ろく)ノ型 (じゅつ)(うば)い・心殺(しんさつ)


 大振りの一撃が振り抜かれる前に、出鼻を制して魔族の剣を握った右腕を斬り飛ばす。

 いくら武器スキルを覚えたとはいえ、武術の心得がある訳でもない魔族の技は粗く拙い。

 それに、いくら速いと言っても、今の私ならば目で追える速度。

 その程度ならば、余裕を持って対処できる。

 普通に腕を斬り飛ばせた事といい、初めてオーガと戦った時よりも遥かにやり易い。


 しかし、やはりと言うべきか。

 さすがにそう容易く倒せる相手でもないようだ。


「《スマッシュ》!」


 腕を斬り飛ばされた魔族は、即座に私に向けて左の拳を振るう。

 これは体術のアーツ。

 痛覚耐性も持っていないというのに、腕を斬り飛ばされようとも欠片も臆さず、連続攻撃を仕掛けてきた。

 斎藤に爪の垢を煎じて飲ませたい程の精神力。

 だが、それも見えているぞ。


 ━━死条一刀流 (いち)ノ型 首斬りの太刀


 体を反らして拳を避け、反撃に首筋へと斬撃を叩き込む。

 しかし、それは魔族の右腕(・・)によって防がれた。

 先程斬り飛ばした筈の右腕がもう再生している。

 オーガも多少の怪我ならば即座に回復するだけの生命力を持っていたが、それと同種のオーガから進化したと思われるこの魔族は、四肢の欠損すらも即座に再生するらしい。

 まさに化け物だな。


 私の刀は、その再生した右腕を再び斬り裂き、魔族の首筋にめり込むも、そこで止まった。

 首の切断には至らない。

 そう判断した瞬間、即座に刀を引き抜いて後ろに下がる。

 追ってくるようであれば返し技を決めてやろうと考えていたが、魔族は勢いに任せて追撃する事なく、冷静に地面に落ちた自分の剣を回収しながら引いた。

 やはり、多少は考えて動くか。


 そして、互いに油断なく剣を構えた状態での睨み合いへと突入する。


 魔族の構えは隙だらけだ。

 此方から攻める事は容易い。

 だが、それで殺し切れるかと言うと、難しいだろうな。

 あの再生力を相手に、手だの足だの斬ったところで効果は薄い。

 腕を斬った時の手応えからして、胴を斬り付けたところで深手を負わせる事はできないだろう。

 例え、最高火力のアーツを直撃させようともだ。

 そんな事をしても、即座に再生されて無駄骨に終わるのが落ち。


 ならば、狙うはオーガの時と同じく一撃必殺。

 首から上を破壊し、一刀を持って命を絶つ。


「燃エロ!」


 私が攻略法を定めた時、魔族もまた次の行動を起こしていた。

 魔族の持つボロボロの剣が激しく燃え上がり、剣身が炎を纏う。

 これは。


ーーー


 魔剣『ボルケルノ』


 耐久値 450/5000

 効果 『攻撃+1500』『火炎攻撃:Lv30』『自動修復:Lv15』


ーーー


「成る程、これが魔剣というものか」


 魔剣。

 強力な魔物の素材を使って作られ、素材となった魔物の力を宿した特殊な武具。

 その存在はナナから聞いている。

 ガルドン殿に依頼してある私の刀も、オーガというそれなりに強力な魔物の素材を使っている為、もしかしたら魔剣になるかもしれないという話の流れで。


 そんな魔剣を魔族が持っているとはな。

 恐らく、下層に挑んだ冒険者辺りから奪ったのだろう。

 なんにせよ、どうやらここからが本番のようだ。


「《スカイスラッシュ》!」


 魔族が剣を振るう。

 ここは互いの間合いの外。

 普通に剣を振ったところで届く訳がない。

 だが、スキルという超常の力は、その程度の常識を容易く粉砕する。

 今、魔族が使ったのは斬撃を飛ばすアーツ。

 そして、どうやら魔剣の炎は飛ばされた斬撃にも付与されるらしい。


 斬撃の形をした巨大な炎が私に迫る。


 その様は、まるで魔法のようだ。

 だが、魔法とは決定的に違う。

 むしろ、この場合に限れば本家の魔法よりも厄介かもしれん。


 これが魔法であったのならば、魔力のステータスによって威力が決まる。

 そして、この魔族の魔力のステータスは低い。

 元となったオーガが、魔法を一切使わず物理ステータスの高さに任せて暴れる魔物だからだ。


 だが、この攻撃は魔法ではなくアーツによる効果。

 武器スキルの効果の一つであるアーツの威力は、魔力ではなく攻撃のステータスによって上下する。

 つまり、この魔族や私がアーツを使えば、苦手な魔法に頼る事なく高威力の遠距離攻撃を繰り出す事ができるのだ。

 そこに魔剣による炎が加わればどうなるか?

 それが目の前の光景だ。

 炎によって膨れ上がった斬撃は、私の予想を遥かに超える攻撃範囲を持っていた。


「くっ……」


 私は目測を誤り、被弾した。

 念の為に大きく横に飛んで回避したのだが、それですらまだ回避距離が足りなかったようだ。

 だが、その判断のおかけで、かすり傷程度の負傷で済んでいる。

 右腕の二の腕付近が抉れ、露出した肉が焼かれただけだ。

 痛みはあるが、痛覚耐性の効果もあって、それ程苦痛には感じない。

 そして、その傷も超回復の力で即座に治り、無傷の状態へと戻った。

 ……初めて、超回復の本当の力を目の当たりにしたが、目の前の魔族の事を言えぬ程に化け物じみているな。

 やはり、あまり頼りたいとは思えん。


「さて」

 

 では、次は此方から仕掛けるとしよう、

 あの攻撃を連打されては堪らない。

 遠距離戦は絶対に避けるべきだ。

 幸い、今のアーツは攻撃動作が大きく、相当な技量がなけれはば、連続で放とうと時に少し間隔が空いてしまう。

 その隙を突いて接近する。


 私は魔族に向けて駆け出した。

 魔族は、再びアーツの発動体勢に入った。

 さすがに、一撃も撃たせぬ程の速度で接近するのは無理か。

 だが、問題はない。


 魔族が剣を横薙ぎに振るった。

 炎の斬撃が地を這う。

 逃げ場はただ一つ、上だ。

 全力で上へと跳躍し、炎を避ける。

 そして、直後に全力でダンジョンの天井を蹴り、加速と落下の勢いを乗せて魔族へと斬りかかった。

 

 ━━死条一刀流 (さん)ノ型 正中(せいちゅう)頭蓋(ずがい)()


 この攻撃には、加速と落下の勢いだけでなく、アーツの力をも加えている。

 少々大振りになって隙が出来るが、その分、斬撃の威力を大幅に強化するアーツ《大烈断》の力を。

 それが魔族の脳天に直撃した。

 直撃させる事に成功した。


 しかし、


「なんと……!」


 それを食らった魔族は、全くの無傷。

 なんという硬い頭蓋。

 なんという石頭。

 鑑定による効果で、頭蓋が一際硬いという事はわかっていたが、それにしても、まさかこれ程とは。


 だが、それでも効果はあった。


「ア、ガ……!?」


 私へ反撃を繰り出そうとした魔族が、ふらりとよろめいた。

 恐らく、脳震盪でも起こしたのであろう。

 斬撃は効かずとも、衝撃は確実に脳へと届いていたという事だ。

 今の私には『衝撃強化』のスキルもある。

 いくら頭蓋が硬かろうと、その奥の脳に衝撃が通ればただでは済むまい。


 そして、この隙を逃す私ではない。


 ━━死条一刀流 (いち)ノ型 首斬りの太刀


 《大烈断》程の威力はないが、隙も小さく扱いやすい刀の基礎アーツ《烈断》の力を籠めた一撃。

 しかし、魔族は脳震盪を起こしているというのに、驚異的な反射神経でこれを防いだ。

 魔族の剣と私の刀がぶつかり合う。

 ならば、追撃あるのみ。


 ━━死条一刀流 ()ノ型 (きざ)連舞(れんぶ)塵殺(じんさつ)


 フェイントを織り交ぜた連続斬りで、胴や腕などへの攻撃を目眩ましに、本命の首を狙う。

 だが、私は全ての斬撃に《烈断》のアーツを使っているのだ。

 目眩ましが目的の攻撃とはいえ、それなりの傷を魔族に刻んでいく。

 すぐに再生されるだろうが、気を逸らすには充分。


 そして遂に、斬撃の一つが魔族の両目を斬り裂いた。


「ギッ!?」


 魔族が反射的に両目を押さえて悶絶する。

 致命の隙。

 ここで終わらせる。


 ━━死条一刀流 変型()ノ型 喉笛(のどぶえ)(どお)


 本来であれば目を狙う弐ノ型の突きを、喉に向かって放つ。

 当然、この攻撃にも突きの威力を強化するアーツ《貫き》の力を乗せて。

 その一撃が、魔族の喉を貫通した。

 確実に頸骨を破壊した感覚。


 だが、


「これでも死なぬか……!」


 魔族は再生させた両目に消えぬ殺意の光を灯し、私を睨み付けてくる。

 首の神経が断たれれば体は動かぬ筈。

 にも関わらず、魔族は当たり前のように剣を振るい、私を振り払おうとする。

 魔族は人型ではあるが、人間とは身体の作りが違うのかもしれん。


 前方に無理矢理踏み込みながら刀を捻り、内側から魔族の首を斬る。

 だが、それで斬れたのは首の半分だけ。

 頸動脈を斬られた事で大量に出血するも、魔族の動きに衰えは見えない。

 脳震盪も回復したらしく、振るった剣に乱れはなかった。

 そして、半分にまで斬った首が、みるみる内に再生していく。


 このままでは仕切り直しになってしまう。

 それは許さぬ。

 首が取れかけている今が最大の勝機なのだ。 

 あと一撃。

 弱くとも、あと一撃当てれば奴の首は落ちる。


 ここで仕留める。


 私はその意志を固め、刀を鞘へと戻した。

 これより使うは、死条一刀流最速の型。

 私にこれを使わせた事を誇りに思うがいい、魔族よ。

 そして、この技を目に焼き付けながら、


「死ね」


 ━━死条一刀流 ()ノ型 居合い斬り・死線(しせん)


 かつて、銃弾すら斬り裂いた最速の太刀。

 最速の居合い斬り。

 そこに、エドワルド殿が使っていた不自然に剣を加速させるアーツと同種のアーツ《加速剣》を組み合わせた一撃。

 その一閃は、魔族が私の方へと振り向く前に放たれ、振り向く暇さえ与えずに、その首をはねた。


「!?」


 驚愕の表情をした魔族の首が胴から別たれ、地面に落ちる。

 同時に、激しく暴れていた魔族の体は、糸が切れたように動きを止め、倒れた。

 ここまでくると、首を落としても死なぬのではないかと危惧していたが、さすがに杞憂だったが。


 だが、私のその考えは、半分正解で半分間違っていた。


「ニンゲンッ!」

「……驚いたな。首だけでまだ生きているのか」


 しかも、喋っている。

 肺も声帯も失った筈だが、どういう原理だろうか?

 だが、喋ろうともここから蘇りはしないらしい。

 体は動かず、首の方も傷口が再生する気配すらない。

 鑑定してみれば、HPは風前の灯火であり、その僅かに残ったHPも急速に失われていく。

 どうやら、勝負ありのようだ。


 私はトドメを刺すべく、地面に転がった首の方へと近づいた。

 無論、警戒は怠らない。


「最後に言い残す事はあるか?」


 そう言いつつも、あまりまともな言葉が返ってくるとは思っていない。

 こやつは恐らく、成り立ての魔族。

 言動からして、見た目相応に精神が幼いと見た。

 まともな遺言を残せるだけの知性があるかは怪しい。

 それでも、この世界で初めて私に傷を負わせた強敵として、聞かずにはいられなかった。


「オマエ殺スッ! 魔王様ノ為ニ! ニンゲン殺シテ追イ詰メル!」


 魔族は、そうしてただ叫んでいた。

 叫ぶだけだった。

 対話の意思は感じない。

 高い知性も感じない。

 その様は、まるで癇癪を起こした幼子のよう。

 それを手にかけるというのは、あまりいい気分ではない。


 だが、私の使命は魔王を倒す事。

 その魔王に味方する魔族を見逃す理由はない。


「……もっと成長したお前と戦いたかったものだ」


 至極残念な気持ちでそう呟き、私は魔族の生首目掛けて刀を突き刺した。

 眼球を狙って上から一突き。

 最初に戦ったオーガと同じく、魔族は脳を破壊され、完全に沈黙した。

 そのHPは0になり、確認してみれば私のLvも上がっている。


「終わったか……」


 さて、この魔族の死体をどうするか。

 個人的には弔ってやりたいが、強い魔物の素材は貴重な資源と聞いている。

 実際、オーガやジャイアントスパイダーは、骨や皮まで解体されてギルドが買い取った。

 ならば、この魔族もそうしてやるのが礼儀というものか。

 幼子の死体を解体するというのは、倫理的にどうだろうかと思わんでもないが。


「あ、いた! リュウマさん!」


 私がその事で悩み、とりあえず死体とあの魔剣をアイテムボックスに回収した時、背後からそんな声が聞こえた。

 この異世界生活で随分と聞き慣れた声、ナナの声だ。

 気配感知で近づいて来ている事には気づいていた。

 が、ナナは何やら焦っているように見える。


「どうした?」

「大変です! すぐに街まで戻ってください! 街が魔族に襲われてるんですよ!」

「……なんだと?」


 どうやら、魔族との戦いはまだ終わっていなかったようだ。

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