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武人勇者の戦闘記 ~最強殺人剣の継承者、勇者に選ばれたので、異世界で死合を謳歌する~   作者: 虎馬チキン


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22 銀狼少女の事情(推測)

「リュウマさん、あれでよかったんですか? サクヤさんの事」


 街に着き、サクヤと別れた後。

 すっかり辺りは暗くなり、宿屋へと向かう道すがら、ナナがそんな事を問うてきた。


「あの斎藤とかいう勇者を脅すなりなんなりして、サクヤさんを解放させる事もできた筈です。なんで、やらなかったんですか?」

「それは道理に反するだろう」


 斎藤が言っていた中で唯一正しかった言葉がある。

 それは、サクヤが奴隷であり、囮にしようが何をしようが罪には問われないという事だ。

 ナナの話が確かならば、奴隷とは社会システムの一環。

 如何に斎藤がクズで勇者に相応しくない弱者といえど、無理矢理取り上げていいものではない。

 それが許されるならば、ムカつく奴には何をしてもいいという事になってしまう。

 それは道理が通らないだろう。


「まあ、そうなんですけど……リュウマさんて、やっぱり変なところで律儀ですよね。

 時には無理を通して道理を引っ込めた方がいい時もあるし、それで救える人もいると、わたしは思いますがね」

「……心に留めておこう」


 確かに、ナナの言う事にも一理ある。

 ならば、ひとまず奴隷を穏便に解放できる方法がないか、エドワルド殿にでも聞いてみるとするか。

 命を救ったついでだ。

 それに、私は個人的にサクヤという少女が気に入った。

 そのくらいの手助けは許されるだろう。


 しかし、


「サクヤは何故、あのような者の奴隷になどなってしまったのだろうな」


 言っても詮無き事ではあるが、そんな言葉がつい口から漏れてしまった。

 サクヤが奴隷でさえなければ、なんの憂いもなく死条一刀流の門下に誘えたものを。

 なんとも口惜しい。

 

「……多分ですけど、魔王軍との戦いが原因でしょうね」

「む? 何か知っているのか?」


 私の呟きに対して、予想外の返答があった。

 それを語るナナは、とても渋い顔をしている。


「これはあくまで推測なんですがね。

 まず、サクヤさんの種族である銀狼族って、獣人族の中でもかなり強い一族なんですよ。

 それこそ、完全実力主義の獣人族の中で、何度も獣人族の王である『獣王』を輩出するくらいに。

 ちなみに、先代の獣王もまた銀狼族でした。

 ここまではいいですか? 理解できてますか?」

「ああ、続けてくれ」


 この世界の大まかな人種については、以前ナナに軽く教わっている。

 故に、獣人族とはなんだ? などという初歩的な問いをする事はない。

 獣王という単語は初めて聞いたが、ナナが噛み砕いて説明してくれるおかげで、すんなりと理解できる。

 どうやら、私達は相互理解が程々にできてきたらしい。


「では、続けますね。

 この世界では基本的に多くの人種が交ざり合って生活していますが、一部の国や種族は閉鎖的だったり排他的だったりとかの色んな理由で、特定の場所に引きこもって、その場所以外には出て来ないって事があるんです。

 鎖国中の日本人みたいな感じで。

 銀狼族もその一種でして、元は獣王が住まう獣人族の聖地と呼ばれていた場所『ガルシア大森林』にだけ住まう一族でした」

「ほう」


 つまり、サクヤの一族は鎖国中の日本人のようなものだったと。

 そのような者が国元を離れた場所で奴隷となっているという事は、それ相応の理由がありそうだ。


「そして、ここからが本題なんですが。

 そのガルシア大森林は、10年くらい前に魔王軍によって攻め滅ぼされたんです。

 当時の獣王は戦死。

 ガルシア大森林に住んでいた獣人族も多くが殺され、生き残った者は他国に逃げました。

 ただ、銀狼族みたいな希少な種族は、人拐いや奴隷商人なんかに喉から手が出る程欲しがられる存在なので……恐らく、サクヤさんはその時、奴隷になったのではないかと」

「……成る程な」


 そこから巡り巡って斎藤の下に辿り着いたと。

 あり得ん話ではない。

 エドワルド殿の対応を見てもわかる通り、勇者候補はかなり優遇されている。

 その勇者候補に恩を売りたい奴隷商人でもいれば、斎藤の下にサクヤが売られる可能性は充分にあるだろう。

 そして、この推測が当たっていた場合、サクヤは齢5つ程の頃から約10年に渡って奴隷を続けているという事になる。

 ……胸糞の悪い話だ。

 ナナの言う通り、無理を通して道理を引っ込めてでも救った方がいいのかもしれんと考えてしまう程に。

 まあ、所詮は推測に過ぎないのだから、なんとも言えないのだが。


 だが、ここまで聞いた以上、聞かなかった事にはできんな。

 私にできる事はするとしよう。

 まずは明日、エドワルド殿に話す事からだ。






 ◆◆◆






 そして、翌日。

 サクヤの事を話す為、ついでにダンジョンで倒した魔物達の死体を売り払う為、冒険者ギルドへとやって来た。

 エドワルド殿に話がある旨を受付嬢に告げた後、解体を担当する部署へと赴く。

 そこでアイテムボックスを開き、今回の獲物を取り出した。

 その中で、ジャイアントスパイダーの糸だけは売らない事も伝えておく。


「……こりゃまた大量に狩ってきたな、オイ。ダンジョンが過疎化するんじゃねぇか?」

「エドワルド殿」


 そんな作業をしている最中、エドワルド殿がやって来た。

 早いな。

 しかも、わざわざエドワルド殿の方から出向いて来られるとは。

 別に火急の知らせという訳ではないと伝えておいたのだが。


「なぁに、俺も丁度暇してたところだ、気にすんな。

 それより話があるって聞いたが、ここで話すか? それともまた客室行くか?」

「……では、すまぬが客室を使わせて頂きたい」

「おう、全然構わねぇよ」


 そうして、私達は再びギルドの客室でエドワルド殿と向かい合う事となった。

 早速、今回の用件であるサクヤの事を話す。

 ついでに、それだけでは説明が足りないと判断したらしいナナが、昨日の出来事もほぼ洗いざらい吐いていた。

 それを聞いたエドワルド殿は、


「ブアッハッハッハ! そうかそうか! あのクソ餓鬼をぶん殴ったのか! よくやった!」


 大笑いした上で、あろう事か褒めてきた。

 冒険者の長が冒険者同士、それも勇者候補同士の揉め事を笑って褒めていいのだろうか?


「よろしいのか? そんな事を口にされても」

「まあ、公式の場だったらダメだろうよ。だが、ここは非公式の場だ。ちょっとくらい本音を溢してもいいだろう?

 俺は、前々からあのクソ餓鬼が気に食わなかったんだ。

 やたら態度がデカイわ、しょっちゅう他の冒険者に上から目線で絡むわ、受付嬢に色目使って付き纏うわ。

 極めつけに、勇者候補のくせして魔王軍との戦いにも参加せず、この街でやりたい放題だぜ? 嫌いにもなるわ」

「それはまた……」

「うわぁ……典型的な勇者の失敗例ですね。自分が特別だと思い上がって調子に乗りまくったタイプですよ」


 愚か極まりないな。

 自分がなんの為に力を貰い、なんの為に優遇されているのか理解せず、義務も使命も果たさずに、人様に迷惑をかけながら好き放題とは。

 なんとも見下げ果てた奴。


「指導の一つでもして、根性を叩き直した方がよろしいのでは?」

「できる事ならやってるわ。勇者候補相手に下手な事すると教会がうるせぇんだよ。それで勇者候補が敵に回ったらどうするー、とか言ってな」

「成る程」


 確かに、勇者候補の持つ力だけは凄まじい。

 一人に一つ授けられる、チートという名の超強力スキル。

 他の者よりも遥かに早く強くなる『成長補正』。

 敵の能力を簡単に丸裸にする『鑑定:Lv極』。

 アイテムボックスがおまけに思える程に、女神が勇者候補達に与えた力は強大だ。

 それが敵に回る事を危惧する気持ちもわかる。

 ままならんものだな。


「まあ、それはともかくだ。

 お前さんの用件は斎藤が所有してる奴隷の解放だったな。

 とりあえず、俺の権限で強引に取り上げるとかは普通に無理だ。

 だが、お前さんが斎藤と直接交渉して、勇者候補同士の取引って形にすればできなくはないし、教会も何も言ってこねぇだろう。

 交渉の場はこっちで整えてやる。

 ただし、斎藤をやり込める手段は自分で用意しろよ。

 わかったな?」

「……かたじけない」


 私はエドワルド殿に深々と頭を下げた。

 ギルドの利益にもならない私の我が儘の為に、ここまで骨を折ってくださるとは。

 このご恩は忘れぬ。


「気にすんな。優遇するっつたのは俺だからな。それを果たしてるだけの事だ」

「……感謝する」

「だから気にすんなっての。

 さて、そろそろ暇な休憩時間も終わる事だし、俺は仕事に戻るとしよう。

 お前さん達も、とっとと行きな」


 そう言ってエドワルド殿は席を立ち、退室していく。

 だが、扉を開けようとした時、ふと動きを止め、


「……にしても、ジャイアントスパイダーが中層に出てきたか。

 この前のオーガと言い、何かありそうだな。

 お前さん達も充分に気をつけろよ」


 最後にそう言い残してから去って行った。

 ……肝に銘じておくとしよう。

 そうして、エドワルド殿との話は終わった。

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