13 ギルマスとのお話
「何故そう思われた?」
「簡単だ。鑑定で見たお前さんのスキルの中に、神の祝福と思われる強力なやつがあったからな。
見る奴が見れば、一発でわかる」
ふむ、そういうものなのか。
しかし、勇者候補?
私のような者は、候補も何もなく全員勇者と呼ばれるのではなかったか?
「今のところ、真の勇者として人々に認められてるのは、ある四人組のパーティーだけなんです。
なので、それ以外の勇者達は勇者候補と呼ばれています」
私の疑問を察知したのか、またしてもナナからフォローが入った。
説明感謝する。
まあ、あまり興味のない話ではあったが。
「して、私が勇者候補とやらであったのなら、どうされる?」
「別にどうもしねぇよ。強いて言えば、教会から勇者候補を優遇するように言われてるから、その通りにするってだけだ。
取って食いやしねぇから安心しろ」
「教会……?」
「女神様の信託を受けて行動してる聖職者の人達ですよ。
正式名称は『聖女神教会』。
直接的には世界に干渉できない女神様の代わりに色々とやってくれてます。
ちなみに、世界中に根を張る巨大組織でもありますね」
説明感謝する。
そうか。
この世界の宗教というのは、信仰する神が直接口を出すものなのだな。
さすが異世界。
私の知っている宗教とは違う。
「まあ、そんな事情は置いといてだ。
肝心の優遇措置なんだが、とりあえずB級冒険者の資格をくれてやる。
普通の勇者候補ならC級スタートだが、お前さんは既に素のステータスだけでもB級冒険者並みだ。
戦闘力だけならA級以上かもしれねぇが、まあ、冒険者ってやつは戦闘力以外にも求められる力があるからな。
これ以上のランクが欲しけりゃ、地道に依頼をこなして、地道に鍛えて、地道に上げろ」
「B級冒険者……?」
「剣道の段位みたいなものです。受けられる仕事の数に直結します」
説明感謝する。
「それと、さっきの戦いは見事だったぜ。
鮮やかに殺されてるオーガの死体を見た時から思ってたが、実際に戦ってみて確信した。
お前さんの戦い方には確かな技術がある。
鍛練を積み重ねた者特有の重みがある。
スキルやステータスの強さだけで粋がってやがる、クソ生意気な他の勇者候補どもとは違うって事だ」
「……称賛の言葉、痛み入る」
正直、オーガとの戦いは誇れるようなものではないのだがな。
それを褒められてしまうというのは、少々居心地が悪い。
それと、今の会話で、エドワルド殿が他の勇者候補を嫌っているという事がわかった。
私以外の勇者候補とは、どのような者達なのであろうか?
エドワルド殿が他の勇者候補をクソ生意気と称した時、一瞬不快感に顔を歪ませたのを見て、少々不安になった。
せめて、魔王討伐に支障をきたさない面子であってほしいものだが。
「あとは、何か困った事があった時に多少は助けてやる。
特にお前さんは、勇者候補云々を抜きにしても有望株っぽいからなぁ。
俺の期待を裏切らない限りは、それなりに贔屓してやるぜ」
ほう。
それは実にありがたい。
組織の長が一人を贔屓するというのは如何なものかと思わなくはないが、それは現代社会の常識だ。
この世界では普通の事なのだろう。
ならば、遠慮なく頼らせていただく。
「では、早速一つお頼みしたい事が」
「おお、何でも言いんさい」
エドワルド殿は、そう言って快活に笑った。
頼もしいものだ。
「実は、不甲斐ない事に、オーガとの戦いで刀を折ってしまいまして。
代わりの刀が欲しいのです。
できればオーガを斬りつけても壊れない程度には頑丈な刀が」
「成る程な。いいだろう。昔馴染みの武器屋に口を聞いてやる。頑固な爺だが、俺からの紹介なら断らねぇだろうよ」
「感謝する」
そうして、エドワルド殿はどこからか紙とペンを取り出し、昔馴染みの武器屋とやらへの紹介状を書いてくれた。
これを、この街にいる『ガルドン』という名の武器屋に渡せば、何かと融通を効かせてくれるだろうとの事だ。
「他には何かあるか?」
「いえ、今のところは何も」
残る問題は衣食住だが、それは私が自分でどうにかすべき事だ。
そこまでエドワルド殿の手を借りようとは思わぬ。
「そうか。また何かあったら言えよ。
それと、そっちの妖精族のお嬢ちゃんはどうする? お前さんも冒険者になるか?」
「いえ、わたしは戦闘力ないので結構です」
「そうか。まあ、無理にとは言わねぇよ。じゃあ、あとは……」
コンコン
と、その時。
エドワルド殿の言葉を遮るように、部屋の扉がノックされた。
「入れ」とエドワルド殿が告げると、「失礼します」という言葉と共に、先程の受付嬢が部屋に入って来る。
手には、何枚かの書類を持っていた。
「エドワルドさん、オーガの買い取り査定が終わりました。こちらが買い取り価格となります」
その書類をエドワルド殿に渡しながら、受付嬢はそう言った。
「ご苦労。なら、次はこいつの冒険者登録の準備をしておけ。ランクはB級だ」
「いきなりB級ですか……! わ、わかりました」
指示を受けると、受付嬢はエドワルド殿と私達にペコリと頭を下げた後、小走りで部屋を出て行った。
何やら、あの者は先程から走ってばかりだな。
忙しない女だ。
ナナよりは遥かにマシだが。
「てな訳で、この後、受付の方に行って冒険者登録を済ましてくれ。
あと、これがオーガの買い取り価格な。
読んで金額に納得したら、書類にサインしてくれや」
そう言って、エドワルド殿は先程受付嬢から渡された書類を、今度は私へと渡してきた。
ナナと共に、その書類を見る。
見た事のない言語だったが、言葉と同様、自然と理解する事ができた。
そして、そこには、オーガの買い取り部位一つ一つの値段と、その合計金額が書かれていた。
その合計金額は、金貨850枚。
特に、角と牙の値段が高い。
しかし、これがどのくらいの価値なのかがわからぬ。
「ナナ……」
「金貨1枚が大体一万円くらいだと思ってください。ちなみに、銀貨1枚が千円、銅貨1枚が百円くらいです」
説明感謝する。
そうなると、オーガ一体で約850万円の収入という事か。
なんという、ボロ儲け。
実家の道場を運営し、門下生達から月謝四千円を貰って慎ましく暮らしていた生活が、とたんに馬鹿らしく思えてきた。
剣術とは、その価値を正しく見出だしてくれる世で振るえば、これ程の金になるのだな。
喜ぶべきか、今までの不遇ぶりを嘆くべきか。
「惜しかったなぁ。今はギルドでオーガ討伐の特別依頼を出してたから、お前さんがもう少し早く冒険者になってりゃあ、依頼達成の報酬と合わせて、更にウハウハだったのによぉ」
……この上、やり方次第では更に儲かるのか。
最早、声も出ぬわ。
「まあ、オーガ討伐って普通、冒険者ならA級以上のパーティーが相手するか、大規模な討伐隊を結成して対処するレベルですからね。
それを一人で倒せば、そりゃ報酬独り占めでウハウハですよ。
ホント、なんでLv1の状態でそんな事ができちゃったんでしょうねぇ、この化け物は……」
ナナが思わずといった様子で、そんな事を口走った。
最後の方は小声だった為、エドワルド殿には聞こえなかったようであるが。
「ま、とにかく。とっととサインするなりなんなりして、冒険者登録の時、一緒に金を受け取ってくれや。
お、そうだ。なんなら、角一本くらいは売らずに自分で持ってくか?
ガルドンの所に持ち込みゃあ、それでかなり強力な武器を作ってくれるかもしれねぇぞ」
「む」
成る程、そういう手もあるのか。
確かに、あのオーガの角はやたらと硬かった。
超人となった今の私でも、普通の刀では切断できないと断言できる程に。
それを使って作る刀となれば、非常に期待が持てる。
書類によると、オーガの角一本で金貨200枚程の価値があるらしく、その分の金は少々惜しいが、金と武器のどちらを選ぶと問われれば、私の答えは決まっている。
「では、それでお頼みする」
「おう。じゃ、ちょっくら書類よこしな」
言われた通りに書類を渡せば、エドワルド殿による多少の手直しがされて戻ってきた。
その内容を改めて確認してから、サインを書く。
読めるだけでなく、書く事もできるとは……。
女神の魔法の凄まじさを感じる。
「さて、これで話は終わりだな。
改めて、ルドル冒険者ギルドにようこそ。歓迎するぜ」
最後にエドワルド殿はニヤリと笑い、そのまま席を立ったのだった。




