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挑戦

「………ここがドラクル迷宮」


 翌日、ロングたちと一緒にケンキは目的の迷宮の前へとたどり着く。

 入らなくても分かる巨大な気配にケンキは口元に笑みを浮かべる。

 その様子にロングは感心した笑みを、他は呆れている。


「はぁ……。取り敢えずノウルたち皆には衝撃を防ぐ魔法を付与をしたよ。まずは、これで防げるか実験しようか」


 ロングと一緒に楽しそうにしているケンキ達を見て溜息を吐きながら自然な動作でノウルたちに魔法を付与する。

 その技量に歓心の声が上げる。


「ふふん。このぐらいは当然のことさ」


「いや、本当に凄いわよ!宮廷魔術師の中でもトップクラスなんじゃない!?」


「まぁね。即座に展開させるのは一番得意だし宮廷魔術師たちの中でも技量は私は上位にいるよ。といっても私より優れた者も当然いるんだけどね」


「やっぱり宮廷魔術師は凄いわね」


「よく言うよ。サナだって推薦はされているんだろう」


「あれ?何で知っているの?宮廷魔術師だから話には出ているの?」


「そういうこと。まぁ私と違って最初は見習いからだろうけどね。頑張って私の所まで来な」


 どうやらサナは宮廷魔術師に推薦されるほどの実力があるらしい。

 見習いからなのは誰もが通る道だ。

 むしろ、それをすっ飛ばして宮廷魔術師になる方が珍しい。


「話はいい加減に終わりにしろ。迷宮に挑むぞ」


 ロングの言葉に全員が気を引き締める。

 これから挑む迷宮は悪魔やドラゴンといった強力な存在が徘徊する迷宮だ。

 気を抜いたら死んでしまう。

 だがずっと気を引き締めるのは誰であろうと無理だ。

 気が抜けてしまっている間、誰かに頼る必要がある迷宮だからこそ、ここをロングたちはここを選んだ。


「まずは俺が挑んで良い?」


 そして迷宮に入りケンキの言葉に頷いた。

 他人を頼ろうとするには己の無力さを知る必要がある。

 そう考えてロングたちは頷いた。

 ケンキの動きで発生する衝撃波のこともあるが。




「ここまでとはな……」


「メイちゃんが惚れるだけあるわね」


「すご……」


「強すぎるな。本当に入学して間もない一学年か?だが……」


 ロングたちの目の前ではケンキが少しも休まずに迷宮を進んでいる。

 壁があれば壊し、魔獣がいれば切り殺し、罠があっても全て無効化して突き進む。

 お陰で速いペースで階層を超えていく。

 しかもケンキの発生させた衝撃波は魔法で無効化できると確認できてケンキがパーティを組めるハードルは低くなった。


「強引過ぎるな。特に行き止まりになったからと壁を強引に壊して進むのはダメだろう」


「宝箱もあったのに無視をしているしね」


「罠を無効化するのも凄いけど、気付いているんなら迂回もしようよ……」


「戦闘能力が高いが、それ以外が雑過ぎる」


 ケンキに関して戦闘に特化しすぎた一学年だと判断する。

 速いペースで迷宮を進んでいるが、ところどころ迂回した方が早く進める場面も多くあったからだろう。

 戦闘以外はダメダメな場面が多すぎる。


「おぉ、でかいドラゴンだ」


 何階層か突破して辿り着いたボスの間。

 そこには今までの階層の途中で現れたドラゴンが巨大化したモノがいた。

 否、むしろ今までのドラゴンは小型化したものか、子供のドラゴンなのだろう。

 だとしたら今、目の前にいるのは大人のドラゴンだ。

 最初のボスがこれなのは予想外だが挑み甲斐があると、ロングとメイを除いた全員がそれぞれ武器を構える。


「何をしているんだ貴様ら?」


「本当だよね。まだ手を貸すには早いよ。最悪でもソロで死にかけるくらいじゃないと……」


 目の前でケンキがドラゴンを両断して終わらせる。

 まさしく一瞬の結末だった。

 直前までは輝いた目を向けていたのに今ではゴミを見るかのような目をしている。

 予想外に弱く、一瞬で終わったことに期待外れだったからだろう。


「「「は?」」」


「流石だなケンキ君。勝てるとは思っていたが、まさか一撃で両断するとは」


「生徒会長もできますよね?」


 ロングの言葉に何で称賛されているのか理解できないというかのように答えるケンキ。

 それに対してロングも笑って返すだけ。

 その対応に、それが事実だと理解させられる。


「「「はぁぁぁぁぁぁ!?」」」


 そしてノウルたちはケンキの実力に驚きの声を上げる。

 少なくとも自分達でも楽に倒せる相手だが、それはパーティを組んでだ。

 ソロでは苦戦してしまう。

 ケンキが強いのは解っていたつもりだったが、つもりでしかなかったことをノウルたちは自覚した。

 今、ケンキの実力を最も正確に測れているのはロングとメイだけだ。


「それじゃあ、このまま進みますね」


 ケンキは両断したドラゴンからメダルを回収して後ろのノウルたちに声を掛ける。

 それに返事をしてケンキの後を着こつとしたところにメイがケンキに質問した。


「ケンキ君。君は今までソロで挑んでいるがキツイかい?」


「キツい」


 メイの質問に対してのケンキの答えにロングたちは予想外の答えで驚いた。

 てっきり楽勝だと答えると思っていたのだ。

 これまでの魔獣はボスも含めて全て一撃で終わっているからこそ。


「どうしても宝箱の回収や事前に罠の解除をする余裕が無いです。ソロで挑んでいるから前に進む以外に魔力の無駄使いは出来ません」


 回収している途中に魔獣に襲われたらピンチだしと続けるケンキ。

 ソロで挑むのは危険だと、ちゃんとわかっているようだ。

 これまではソロで挑む危険性、パーティの必要性を実感させるために態とソロで挑ませていたが、ここからは自分たちが参加しても問題無いとディンたちも武器を手に構える。


「ふむ。ケンキ君、俺たちの力は必要か」


「別に」


「そうか。まだソロで挑むのか……」


「当然。その方が強くなれる」


「………はぁ。死んでも知らないよ」


 ロングの助力を拒否し、メイの言葉に楽しそうに笑う。

 強くなるために死地へと楽しそうに挑むケンキはまさしく修羅だろう。

 ディンたちもそんなケンキに背筋が凍ってしまっている。

 例外はロングとメイの二人だけ。

 ロングはライバルとしてケンキを見て負けられないと奮起する。


「まったく……」


 メイはそんなケンキに顔を赤くして見ている。

 呆れているように聞こえるが実際はケンキの行動に強く関心を持って見ている。

 そんなメイにケンキの後を着きながらノウルは口を出す。


「メイちゃんって、ケンキ君みたいな人が好きなの?あんな修羅みたいな人が?」


「何を言っているのさ!?私がケンキ君を好きだなんて……!それにケンキ君は修羅みたいじゃなくて修羅だよ!」


「そっち!?」


 ケンキに関してはメイは修羅だと認識しているようだ。

 ただ自分がケンキのことが好きだというのは認め無くないみたいだ。

 それが恥ずかしいからなのは一目瞭然だ。

 乙女なメイの様子にノウルたちは今いる場所を忘れて和んでしまう。


「突然の背後からの奇襲は流石にケンキも防げないぞ。位置的にもな」


 そんなノウルたちに警戒を促すロング。

 運よく今まではケンキの前にしか魔獣は出て来なかったが後ろから奇襲を仕掛けてこないとは限らない。

 しかもケンキの後ろに位置する以上、一番最初に危害を与えられてしまうのはノウルたちになる。


「そうだったわね。気を付けないといけないわ」


「………何が気を付けるているんだ?」


「へ?」


「ほぉ」


 急にケンキが会話に入り、しかもタメ口であったことにノウルたちは驚く。

 今までは普通に敬語で話していたのに何故、タメ口になっていたのか不思議がる。

 それとは別にロングは感心した声を上げる。


「おい、ケンキ……ってあれ?」


 目の前にいる筈のケンキに問いかけようとして声を掛けたがいなかった。

 メイもノウルたちと一緒に消えたケンキを探す。

 そんな全員にロングは溜息を吐く。


「何で溜息を吐いているのよ!ケンキを探さないといけないのに急に何処へ行ったのよ!?」


「そうだ!ロングも探してくれ!」


「後ろにいるだろう?」


 ディンとノウルの責める声にロングは答えを教える。

 ケンキのタメ口の後に感心した声を上げたのは単純にロング以外の全員が気付かない速度で後ろに回ったからだ。

 そして言われた通りに後ろを向くと十を超える悪魔の死体が転がっていた。


「な……!?」


「嘘だろ?全く気付かなかったぞ」


「…………」


「すごい……」


 それぞれが自分の背後で起きていたことに驚きの声を上げる。

 途中で何も無い空間を切り裂いたと思ったら、そこから両断された悪魔が現れて地面に落ちる。

 姿を消している悪魔すら認識している。


「ふむ。ケンキ、済まないが少し手を出させてもらうぞ」


「………好きにしてください」


 ロングもまた姿を消しているはずの悪魔を殺していく。

 本来なら魔法を使わなければ認識をすることは難しいのに、それを必要とせずに二人は殺していく。


「なるほどな。こうすれば良いのか。ケンキ、礼を言うぞ。お陰で俺は更に強くなった」


「そうですか」


 その言葉と共にケンキの姿が掻き消える。


「また消えた!」


「今度は何処に!?」


 消えたケンキを探す皆にロングは冷めた視線を送ってしまう。

 ロングにとっては目で追えるからこそ簡単に何処にいるか分かるが、目で追えないパーティメンバーには一緒のパーティを組むことに不安になる。

 目で追えないということは対処も何も出来ない。

 もしケンキと同等の素早さを持っている魔獣が相手になったら、気付いたらロング一人残して全滅することも有り得る。

 そうならないためにも鍛え直す必要があるとロングは考える。


「今度は前の方にいるよ」


 メイの言葉通りに本当にケンキは前の方へと戻っていた。

 どうやらメイもケンキの動きを追えるようだ。


「すみません。ソロではキツイです。手を貸してください」


「気にするな。今回ばかりはしょうがない」


 ケンキはソロで挑むのはキツイとギブアップする。

 当然だ。

 姿を消しているとはいえ後ろから奇襲を仕掛けてくる悪魔に気付かない者達も護るようにしてケンキは戦っている。

 最早、これは護衛としての行動だ。

 その事を把握しているからこそロングとメイも頷いてケンキのソロで活動させることを終了させた。

 ここからはパーティで挑む。


「それじゃあ殲滅しようか」


 メイの言葉を合図に集まって来る悪魔を殲滅に走り出しだ。




「本当に殲滅してしまっているよ……」


 ロングたちが宣言通りに襲ってくる悪魔を殲滅したことにディンたちは呆然とする。

 百は確実に超えている数の悪魔を三人で殲滅したことに目の前で見て呆れてしまっている。


「凄すぎでしょ!どうやったら、こんなに強くなれるのよ?特にケンキ君!私たちより六歳は年下でしょう?」


「………そうですけど特別なことをしているつもりは無いですよ?」


「一応、言っておくけど一日中、休まずに訓練することは特別だと解っているかい?」


 サナの疑問にケンキは特別なことはしていないと返すがメイの言葉に振り向く。

 そんなことが特別なのかと驚いている。


「普通は一日中、休まずに動いていられないよ。ロングも一日中は動いていられないだろう?やるとしても、どうしても休憩は必要なはずだ」


 メイの言葉に頷くロング。

 その事に理解不能な顔をするケンキ。

 自分が出来ているのに他者が出来ないことが不思議なようだ。


「それと言っておくけど、今度から絶対に一日中鍛錬は止めなよ。オーバーワークで身体が壊れるからな。そうなったら、もう二度と戦えないし強くもなれないよ」


「強くなるなら、そのぐらいのリスクは必要だろ!」


「止めろと言っているんだ!」


 鍛錬のことで言い合いをする二人にロングは溜息を吐く。

 ロングとしてはメイに賛成だ。

 一度休憩を挟むことで壊れた筋肉が回復と共に強くなる。

 そのことを知らないのだろうかとケンキに説明して休むように説得しようとする。


「え?そうなんですか?」


 するとケンキはやはり知らなかったらしく説得に耳を傾ける。

 ここで決まるとメイは強く説得し始めた。


「まさかケンキ君、知らなかったなんて」


「可笑しくは無いだろ。俺たちも授業中に教えてもらったんだ。それまでは知らなかった奴が殆んどの筈だ。時期的にもまだ教えてもらっていないはずだ」


「それもそうね。それでロング、迷宮はまだ進むの?」


 ノウルの質問にロングは頷いて答えを返す。


「以前は初めのボスをクリアして次のボスへとたどり着く前に脱出したからな。今回は次のボスも倒したい」


「ケンキ君がいるとはいえ、キツくない?戦闘に特化して学園最強の貴方と同等クラスだけど、まだ一学年だよ」


「それを補う程の実力があると俺は見ている。それにパーティとなって迷宮に挑むなら経験という観点から俺たちの指示にも素直に従うはずだ」


「………わかったわよ。だけど!危険だと判断したら直ぐに逃げるわよ!」


「いつも通りだな。ディンたちも構わないか?」


「ボスに挑むのは、そこに辿り着くまでにケンキの態度を見てからだ。素直に指示に従うなら挑んでも良いし、理由なく反対するなら戦わない」


「私も同じ!今日組んだパーティだし挑戦するのも良いけど、余計なリスクを負ってまで挑戦したくない!」


 ディンとサナの言葉にたしかにと頷いてケンキを見る。

 そこには必死に形相でケンキに説得しているメイがいた。

 思わず和んでしまった。

 先程まで襲ってくる悪魔を殲滅尽したお陰で和む余裕はある。

 説得が終わるまでロングたちは待っていることにした。




「さてと説得も終わったし探索を再開するぞ」


 ロングの言葉にケンキ達は頷く。

 ケンキの時とは違い壁を壊して進まず、行き止まりになっても引き返したりと普通に攻略をしていく。

 罠はあるが、それでもスムーズに進んでいく。

 やはり最初の階層にいた悪魔全てが集まって来ていたのだろう。

 全然、魔獣が現れない。

 

「さてとケンキ」


「何ですか?」


「この階層は魔獣は出なかったけど次からは頼むわよ」


 メイの言葉にロング達も全員がケンキを見る。

 それに対してケンキは首を縦に振ることで答える。


「行くぞ」


 そして次の階層には悪魔が当然ながら数多くいた。

 姿を消す悪魔にはそれを見破る魔法を使って姿を暴き。

 奇襲を仕掛けてくる悪魔にはケンキとロングがそれぞれ真逆の位置に立って防いでいく。

 毒や呪いを使ってきてもディンが直ぐに治療する。

 空に浮かんで魔法を放つ相手には攻撃をロングとケンキが撃ち落とし、サナが逆襲をして堕とす。

 そしてノウルは罠や解除するほか作成して有利な状況を作り出している。


「ふぅ。やはり前衛は最低でも二人は欲しいわね。今までロング一人だったのかバカに思えてくるくらいよ」


「いや気付いていたけど、まだ前衛は一人だったのかい!?増やさなければ、どこかでボロが出るに決まっているじゃないか!」


 メイの言葉に恥ずかしそうにするメンバーたち。

 だが正直に言えば他の者を加入させようとしても同学年でも足手纏いにしかならないのだ。

 だから誰も加入させることはできなかった。

 その事に関してメイは文句を言うが、ノウルの説明に納得はする。


「足手纏いにしかならないならしょうがないけどね。それでも前衛は必要だと思うよ。多少は妥協する必要があるんじゃない?」


「学生としての試験では問題ないわよ。それ以外だと厳しい部分もあるけど。………ねぇ、ケンキ君。私たちと一緒にパーティを組まない?学生としての試験とは別に個人的な集まりとして」


 ノウルはそう言ってケンキにしなだれかかる。

 その顔はメイの方向を向いていて、からかう気満々だ。


「ノウル」


「ねぇ、どうかしら。頷いてくれたら良い事してあげるよ?」


「ノウル!」


 更に身体をケンキに押し付けるノウル。

 その所為で顔がノウルの胸に隠れてしまう。

 それを見て更にメイは声を荒げる。


「ならメイがしてあげるの?」


「はぁ!?………な、何で私が!?」


 そう言いながらもケンキをチラチラと見るメイ。

 そしてケンキは気合を入れ直す。


「お前たちも良い加減にしろ。ケンキはボスの前だからと気合を入れ直しているぞ。お前たちも見習え」


 ロングの言葉に頷く。

 先程までメイをからかっていたのはボスがいる部屋の前で魔獣が寄って来ないからだ。

 休憩を終えてボスへと挑むために気合を入れる。


「行くぞ」


 そしてロングが扉を上げて中に入ると巨大な悪魔がいた。


「この迷宮のボスは迷宮に出現する魔獣を巨大化させたものなのか……」


 ケンキはその姿を見て思わずぼやく。

 その間にも悪魔は空を浮かんでいく。


「ケンキ」


「わかりました」


 だがロングの呼びかけにケンキはお互いに目を見合わせて同時に斬撃を飛ばして翼を切る。

 その所為で浮かんでいたところから地面に落ちる。


「二人とも流石!次は私の番ね!」


 そこにすかさずノウルが悪魔を縛り付ける。

 地面から鎖を召喚し悪魔の足に何十も縛り付ける。

 これで空中に浮かんで逃げることは出来なくなった。

 だが悪魔は逃げることを止め、その場で抵抗する。

 特に強力なのが魔法で連射する速度と威力が尋常じゃない。

 一瞬の間に十数発の一つ一つの種類が違う魔法で威力も直撃すれば意識が飛びかねない。

 それにロングは全てを叩き落とし、ケンキは全てを避けながら前へと進んでいく。


「はっ!」


 そして魔獣の胸を切り裂き距離を取る。

 魔獣は絶叫を上げて魔法を撃つのを止める。


「ナイスだ。ケンキ君!サナ、行くぞ!」


「えぇ!これでも喰らいなさい!」


 サナとメイが強力な魔法を放つ。

 数え切れない雷と炎が嵐の様に悪魔へと襲い掛かる。

 射線上はボロボロになり悪魔も傷だらけになるが、まだまだ戦えそうだ。


「もう一撃!」


 ボロボロになっている悪魔を見て好機だと思ったのかサナはもう一度、巨大な魔法を放とうとしてケンキに抱きかかえられて移動させられる。


「ちょっ!何を!」


 そしてサナが元いた場所には悪魔がいた。

 鎖を壊し翼も含めた傷が回復していた。


「全快まで回復されるのか。厄介だな」


 もう一度、ノウルは足止めをしようとするが、それよりも速く空を浮かんで悪魔は避ける。


「ふん。流石はドラクル迷宮のボスだな。かなり厄介だ」


「どうします。もう一度、斬撃を飛ばして落としますか?」


「いや、避けられるだろう。地面に落とすのはメイとサナとノウルに任せる。俺たちは、それまでに攻撃してくる悪魔の攻撃を防ぐぞ」


 ケンキはその言葉に頷き、ロングと共に上空からの悪魔の攻撃を防ぐことに専念する。

 メイとサナは悪魔を地面に落とそうと護りはケンキ達に任せ強力な攻撃を放つことに集中する。

 そして何度も強力な攻撃をしても相殺され、躱され、直撃してダメージを負っても直ぐに回復させられる。

 手が足りない。


「くそっ!ケンキ、お前も俺が護るから魔法で攻撃してくれ!」


「一人で他の者たちを護れるならいりません。悪魔を地上に落とします。それまで他を護ってください」


「方法があるのか!?」


「はい。その間、さっきも言いましたが護りを一人に任せる必要があります」


 ケンキの提案に全員が顔を見合わせて頷き合う。

 腹は決まったようだ。


「全員俺の後ろに回れ。その方が護りやすい。ケンキ、頼んだ」


 ケンキは頷き魔法を無視して走り始める。

 ロングはその所為で分担していた魔法を防ぐ役が一人になってしまい防ぎきれない魔法を受けてしまい怪我を負っていく。

 ディンの魔法で魔法の威力を減らし、傷を負っても回復されるが死んでしまっては意味が無い。

 だから重点的に自分の頭と心臓を護りながら後ろの者達を護る。

 そして。

 

 ケンキはその間に如何な手段を使ったのか悪魔より上空にいて落ちながら翼と腕を切り落とした。


「……すさまじいな」


 ロングはその光景に痛みを忘れて見惚れる。

 そして自分では同じことは出来ないと思い、対等ではなく挑戦者として後で挑むことを決意する。


「ノウルさん!今の内に悪魔を拘束!」


「え……。わかったわ!」


「ここで終わらせましょう!」


 そしてノウルが拘束したことでケンキの言葉に応え、それぞれが悪魔をここで斃そうと決めにいった。




「終わった……」


「そうだね。かなり厳しい戦いだったね」


「全くだ。死ぬかと思った」


「もう無理。帰って寝たい~」


「ホントにね……」


 疲れ果てた先輩たちと無視してケンキは倒した悪魔の元へと行く。

 目的はアイテムの回収のためにだ。

 悪魔が最初いた位置へと進むと光り、ケンキの手に人数分の悪魔を倒した証が現れる。

 それをそれぞれに手渡しした。


「あぁ。済まないな、ケンキ。礼を言う」


 ロングを初めとして渡してくれたことに感謝する先輩達。

 動く気力すら沸かない。

 それを見てケンキは大剣を何もない空間に振るう。


「え……」


「何これ」


 ロングたちからではなく大剣を振るった空間の先から聞こえる声。

 そこには寮があった。


「行きますよ」


 ケンキはいつまでも動かないでいる先輩達、全員を掴んで寮の前へと移動する。

 五人も一斉に抱えているせいで無茶な形になってしまっているが、一歩動けば良いだけなので問題は無い。


「また空間転移とか。絶対に宮廷魔術師、全員で調べてやる」


「………そういえばメイさんって、ここから帰れるのか?他の女性陣は女子寮も近いから大丈夫だろけど、メイさんは違うだろ?」


 そんなことを言いながらケンキは男性陣は男子に女性陣は女子に預ける。

 自分で運ぼうとしないのは場合に寄ってはメイを運ぶ必要があるからだ。


「無理だね。指示するから、おぶってくれないかい?」


 メイの提案に頷いて背中に背負う。

 そこでケンキは先輩たちと別れ指示通りに歩いて行った。

 そこらかしらから今にも殺さんと嫉妬の視線を浴びながら。




「ふふっ。私の身体はどうだい?」


 メイはケンキに背負われながら体を押し付けるように身体を預ける。

 ケンキは何も言わながいが質問を返すように何度も問いかける。

 それに疲れたのか漸く口に出す。


「体重を全て預けるようにしていませんか?お陰で重いです」


 ケンキの言葉に首を絞めるように更に強く抱き付く。

 そのお陰で更に密着し、見ようによってはイチャ付いているようにも見える。


「あら、もしかして恋人?」


 そこに私服姿の女性が現れる。


「あ、先輩。違いますよ。………えぇ、本当に」


「これをどうぞ。何時までも背負うのは疲れますし」


 メイの言葉から先輩だと理解して渡そうとするケンキ。

 その際にお姫様抱っこをされたことに顔を赤くするメイ。

 それに楽しそうに笑う先輩。


「うーん。そのまま来ても問題ないわよ」


「大丈夫なんですか?」


「うん?あぁ、宮廷魔術師、それも女性を抱きかかえて邪魔しても文句は無いわよ。そもそも私が許可してあるんだし。それに君はまだまだ子供でしょ。何かあるとは思えないし、逆にあったとしても彼女がショタコンだと思われるだけよ。条件としてそのまま状態で来てもらうけどね」


「えぇ……」


「何、不満?」


「正直言って重いです。途中で落としてしまいそう」


「「おいこら」」


「あれ?少し軽くなった?」


 重いと言った瞬間にメイは抱きかかえられながら首を絞めようとする。

 そのお陰で少しだけ軽くなる。

 先輩は理屈が分かりニヤニヤと笑いながらメイにそのままの状態でいることと注意する。

 そっちの方が負担がかからないと言われてメイは従うしかない。


「まぁ、近いから頑張りなさい。それと女性相手に重いは禁止だからね」


 これは絶対とばかりに凄んで来る。

 かなりの圧の強さに頷くことしかケンキは出来ない。


「よろしい。それじゃあ私の後に付いて来なさい。部屋まで案内してあげるわ」


 先輩の行為に甘えてケンキは後ろに付いて行った。

 ちなみにメイはケンキに抱きついて顔を真っ赤にして何も言えなくなっていた。

 後日、同僚や先輩たちにからかわれていたのは言うまでも無いだろう。

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