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悪意

「まずはこれだけの人数が集まってくれたことに感謝する」


 人知れず集まった場所で一人の男が頭を下げる。

 それに対して、気にするな、俺たちも同じ気持ちだ、私もよ、と声が投げかけられる。


「では、ここにケンキを殺すための集会を始めよう」


「「「「「オォォォォォ!!」」」」」


 掛け声と主に雄たけびが奔る。

 どうやら本気でケンキを殺そうと集まっているらしい。

 集まった全員の目に本気の殺意が籠っている。


「あの男はメイに気に掛けられるどころか意識すらされているようだ!許せることか!!」


 そうだ!そうだ!と叫ぶ皆。

 意識は一つだと満足な表情をしている。


「それでだ。殺すための手段を考えたい」


 その言葉を聞いて全員が顔を突き合わせるために自然と円になる。


「はい!」


「そこの方、どうぞ」


 まずは一人が手を上げる。

 最初に頭を下げて感謝した者が司会となって意見を促す。


「確実に殺すなら、今の期間中が良いと思います。少なくとも迷宮内で殺したら私たちが殺したことはバレずに事故だと判断されるはずです」


 最初の意見に全員が頷く。

 そのことからテスト期間中に殺すことに決める。


「そうだな。前提としてテスト期間中にしよう。次はどうやって殺すかだ。訓練所でのケンキを見たら分かるだろうが正攻法では殺せない」


 嬲り殺しとかもダメだ。

 下手に反撃を与える機会を与えてしまい逃げられる可能性が高い。

 そして事情を話されたら終わりだ。


「やはり奇襲が必要ですよね。そうだ!魔物を強化して襲わせればどうでしょうか?」


 魔物を強化する方法はクスリでも使えばよい。

 それで意識を魔獣に向けている最中に奇襲を仕掛ける考えた。


「成程、良い案だ。だけど意見を言うときは挙手するように。全員が好き勝手話しても聞き取れるわけではない。それを防ぐための方法なのだから」


 もっともだと頷いて頭を下げて謝罪する。

 そして、また一人手を上げる。


「はい。どうぞ」


「ケンキは生徒会長やメイさんと迷宮を挑むらしいが、どうやって引きはがす?流石にメイさんを巻き込みたくは無いんだが?」


「そうだな。どうやって引きはがすか?この点も話し合う必要がある。生徒会長も巻き込みたくないがメイと比べれば、どうでも良い存在だ。最悪、一緒に死んでもらおう」


 もともとケンキを殺そうと集まった狂った集会だが、目的のために関係の無い者も目的のために殺そうとしている薄気味悪い集会となっている。

 もし他の者が見たら顔を青ざめさせるだろう。


「もう嘘を言って騙すしか考えられない……」


「私もだ」


 メイとケンキが一緒に迷宮に挑むのをどうやって引きはがすが嘘しか思いつかない。


「そういえばケンキはソロで迷宮をクリアしたんですよね?ならソロでこちらが指定した迷宮に挑ませることって出来ませんか?」


 一人の意見に耳を傾ける。


「本来ならパーティが必要な迷宮をソロでクリアできたから自信もあるでしょうし、ソロで行くことにも抵抗は無いでしょう。生徒会長なんて学生最強と一緒に挑ませても生存する可能性は高くなりますし一人でいるときに直ぐに向かわせるように話すべきですね」


 その言葉に多くの者が頷く。

 学園最強である生徒会長のロング。

 それと互角、もしかしたら凌駕するケンキ。

 二人がいたら奇襲を仕掛けても殺せる可能性は、この場にいる全員が挑んでも勝てないかもしれない。

 なら一人で迷宮に行かせた方が良いと納得する。


「そうだな。それじゃあ、早速だが頼めるか?」


「任せてください」


 その言葉に頷く。


「ケンキを殺すために」


「「「「ケンキを殺すために!」」」」







「阿保か」


「急にどうしたんだケンキ?」


「そうだよ?何かあったの?」


「別に」


 ところ変わってケンキ達は幼馴染三人でレストランで食事をしている。

 かなり美味しい料理で舌鼓を打ちながら食べている。


「本当に美味しいね。ユーガは何処で知ったの?」


「色んなところか美味しい店の名前で出て来てな。それで比較的一番安いのがここだったんだ。以前にも一人できたが本当に美味しかったしな」


「そうか。ありがとう」


「気にしなくて良いさ」


 ユーガの行動にケンキは礼を言う。

 本当に美味しいか調べるために一人で確かめてくれたことに感謝するしかない。

 サリナも頭を下げてお礼をしている。


「それにしても、これはどうやって作っているのかしら?ケンキくんは分かる?」


「さぁ。特製のチーズやソースをかけて炙っているんじゃないか?多分、片方だけでなく両方。他にもソースとチーズの比率の分配もあるかもしれないな」


「やっぱり、そう思う?だとすると、この味を再現するとしても年単位の時間が必要かもしれないね」


「だから美味しいんだろう」


「あはは。そうだね」


 ユーガは料理の話について行くことが出来ないために会話に入れない。

 だが大事な幼馴染二人が楽しそうに話しているのを見て満足している。

 ずっと、この時間が続けば良いのにと思っている。


「そういえばケンキくん。私たちのパーティから脱退させてからどうかな?」


「相変わらずソロで挑んでいる」


「はぁ!?あれだけの実力を見せつけられたら引く手数多じゃないのか!?」


 話題が変わりケンキの状況を聞いて絶叫する。

 その所為で視線が集まりケンキはユーガの頭を上から叩いて周りの客に頭を下げる。

 当然、サリナも頭を一緒に下げて謝っている。

 その様子に自分の仕出かしたことにユーガは顔を白くさせる。

 そして許してもらい二人が着席するとユーガは二人に謝った。


「すまん」


「あはは。まぁ、まだソロのケンキくんには驚くのは分かるから気にしなくて良いよ」


 サリナは苦笑して許しているがケンキは何も言わない。

 その様子にユーガはケンキを伺いみるが何かを考えているようだ。


「ケンキ?」


「あぁ!ごめん。気にしなくて良い」


「ありがとう。それと何か悩んでいるのか?相談ぐらいなら、いくらでも力になるぞ」


 ユーガの言葉にサリナも頷く。

 昔から何だかんだ言って手助けしてくれるのはケンキの方なのだ。

 少しでも借りを返す意味でも手助けしたい。

 ならソロで困っていたらパーティを組めば良いと思うだろうが、ケンキに頼らないように少しでも追いついて驚かせたいから考えもしない。


「いや。ただ単に実力が知られたからと言ってパーティを組むことにはならないだろうと思っただけだ」


 ケンキの言葉にユーガとサリナはお互いに視線を交わす。

 そして苦笑する。

 自分の実力が客観視しないのもケンキの欠点だ。

 相手が自分より強い弱いは判断しても全体でどのくらいの位置かは全く考えていない。

 ストイックといえるかもしれない。


「それにテスト期間中はパーティを組むのは無理だろうな。最低でも終わってからだ」


「「あっ」」


 苦笑しての言葉にユーガ達は思い出したかのように声を上げる。

 期間中、クリアした者は新しく別のパーティを組んで挑むことは出来ない。

 もし、それを許してしまえばクリアしたパーティの一人変えてクリアしていけば全員が突破できるからだ。

 それを防ぐために禁止されている。


「それもそうだったな」


 ユーガはその時に手伝えば良いかと思っている。

 サリナも同様だ。

 だが同時にまたソロでクリアするんじゃないかと心配してしまう。

 ケンキの事だから、だれかに手を借りるよりは一人でクリアした方が良いと考えそうだ。


「誰かとパーティを組めよ?」


 心配して言った言葉に顔を逸らすことで答えを返すケンキ。

 その反応にユーガもサリナもイラっと来る。

 何で心配しているのに理解しようとしないのかが分からない。

 ソロで挑むのは危険なのに。


「そんなに不満そうにされても無理だ。ちょっと本気を出しただけで死にそうになる奴とは組みたくない」


((手加減しろと言っても聞き入れないからなぁ))


 それで死んでしまったら、どうするんだと言われたら何も言えない。

 何も言っても平行線だと諦めて溜息を吐く。


「話は変わるが俺たちを鍛えて貰えないか?」


「は?」


 ユーガの言葉にケンキは聞き返す。

 サリナも初耳だったのか驚いてユーガを見ている。


「ケンキと話していて不安になる。いつか一人でどこかに行って死んでしまいそうだ。それを防ぐには早急に強くなる必要がある」


「それもそうね」


 ユーガの言葉にサリナはケンキを見て納得する。

 ケンキは不満そうにしているが、これからもソロで挑む以上は他の者より死ぬ可能性は高い。

 それを防ぐためには早急に強くなる必要がある。


「………ねぇ。ケンキくん。私たちが今の実力でパーティを組むとしたら、どう立ち回れば良い?」


「俺一人が前衛。他はバフを掛けたり罠の警戒をしたりと別のことに集中してもらえばよい。後ろからの奇襲もあるから、そっちの警戒も頼めば良いか?」


 最後は悩んでいるようだが、即答で答えられてしまう。

 あくまでもケンキがメインのパーティになってしまうが、たしかにこの方法なら一緒にパーティを組んでもケンキに巻き込まれて死なないのかもしれない。

 プライドが邪魔をしてくるだろうが。


「たしかに、それなら大丈夫かもしなれないがな……」


「見方を変えれば俺の後を着いてくるだけのパーティだな」


「絶対に嫌だ」


 その言葉に今は絶対にパーティを組まないとユーガは決意をする。

 ケンキとパーティを組む際にはケンキが動いた後に発生する衝撃波が邪魔だ。

 それをどう対処するから考える必要がある。

 それさえ、どうにかすればケンキと組めるのだ。


「はぁ……。衝撃波がね」


「ふむ。何か良い案が無いのか?」


「………試しに衝撃を無効化する魔法やそれが付与されている鎧などを着たらどうなるか気になる。万全を期して、それなり以上の実力者じゃないと不安だけど。ユーガ達だと実力不足」


「そうか。なら俺が代わりに手伝ってやろうか?」


「お願いします」


「任された」


 ケンキは突然に会話に入ってきた相手の方を向くと、そこには生徒会長であるロングがいた。

 突然の登場にサリナとユーガは悲鳴を上げる。

 今度は周りの客も視線を向けて、また同じ者かと思ったが後ろにいるロングたちを見て考えを改める。

 悲鳴のこともあって驚かせたロングたちが悪いと判断したようだ。

 しかも年齢的に見てもユーガ達はまだまだ少年少女と言える年齢だから気にせずに許したが、ロングたちは大人にも見える。

 その所為で視線もユーガ達とは違って厳しい。


「びっくりしたぁ……」


「すまない」


 ユーガとサリナは胸に手を抑えている。

 全く気付かなかったのもあって心臓の動悸が痛いくらいに激しいのが原因だ。

 その姿にロングたちはユーガ達も謝る。


「君は驚かないんだね?もしかして気付いていた?」


 ノウルの質問にケンキは頷く。

 自分達が座っている席に近づいた時点でケンキ気付いていた。

 ただ、それ以上にユーガ達と話すことを優先していたのだ。

 それに態々、気配を隠して接近してきたために気付かない方が良いと考えたのが理由だ。


「本当ならケンキ君を驚かすつもりだったんだがな。まさか失敗するどころか大勢の者に迷惑をかけてしまったとはな」


「たしかにね。それでケンキくんは明日こそ一緒に迷宮に挑まない?」


「「………え?」」


 サリナとユーガはケンキが上級生とパーティを組んでいることに驚く。

 それはアリなのかと困惑している。

 自分たちは同学年で組んでいるのに他は上級生と組むのズルくないかと不満を抱く。

 だが、それも一瞬で混乱する。

 何故ならケンキは既に指定された迷宮の十層をクリアしている。

 それなのに新たらくパーティを組む意味が分からない。


「………今回の試験の目的は何だ?」


「ケンキ君?」


「パーティを組む重要性や必要性だろ」


「俺はソロでクリアしたせいで、その部分が不安に思われているらしい」


「あはは。ケンキくんは必要性を理解しても組むつもりが無いみたいだし当然じゃないかな?」


「「「「少し待て」」」」


 サリナの言葉にロングたちがストップをかける。

 ユーガ達が今回の試験の目的を察しているのは問題ない。

 テスト期間が終わったら知らされる内容だ。

 その前に察したことに関しては称賛しても良い。

 だがケンキがパーティを積極的に組む気が無いのはダメだろう。


「ケンキ君、パーティの重要性を理解して組む気は無いのはダメだろう。いくら君が強くても迷宮学園の生徒である以上、組まなければならない。でなければ退学になるぞ」


「本当だよ。まだ説明はされていないだろうけど、絶対にパーティを組んでの試験や逆にソロで挑まなければいけない試験もあるわよ」


「本当ですか!?」


 ロングとノウルの言葉にケンキよりもユーガとサリナが驚く。

 特にサリナは顔を青くして震えている。

 逆にケンキはパーティをどうするか考え込んで集中している。


「そこまでだ」


 そんな二人にロングは手を叩くことで集中させる。


「さっき言った試験も「それよりも良い加減に座ったらどうですか?同席で構いませんから、何時までも経っていないで下さい」……そうだな」


 説明を続けようとしたロングにケンキの突っ込みで静かになる。

 当然、ロングたちと一緒に来ていた者たちも言葉に甘えて同席する。

 ハッキリ言ってレストランにいたのに何時までも立って会話しているのは目立ってしょうがなかった。


「ごほん。取り敢えず、もう少し先の事だからそれまでに鍛えておけば大丈夫よ。最低限の実力があれば合格になる試験だから」


 そうフォローをされてもサリナの顔色は変わらない。

 直接的な戦闘はどうしても苦手だ。

 その時の事を思って絶望的な心情になる。

 そんなサリナにユーガも慰めようとするが、その前にケンキがサリナの頭に手を置く。


「ケンキくん?」


「少しずつでも戦えるようになるまで面倒を見てやる。だから諦めるな」


「……うん」


(もしかしてケンキ君はモテるのか?)


(メイちゃんがいるのに。まあ、それとは別に考えると、これはモテるわ)


(尊い)


(この娘、可愛い)


(俺も付きっ切りで鍛えて欲しいんだが)


 頭をポンポンと叩かれてサリナは嬉しそうに綻ぶように笑う様子に思うことは違っても温かい気持ちになるのは共通している。

 そのまま穏やかな気持ちになっていると突然にロングたちと一緒に来た男性が思い出したかのように机に手を叩きつける。

 料理が乗っている机にだ。


「何をしている」


 当然、ケンキは料理を無駄にしないためにも叩きつけられる直前に腕を掴んで止める。

 ケンキの行動に何かを言おうとしたが料理が吹き飛んだらどうするつもりだという言葉に何も言えない。

 そして男性は一度、深呼吸をして落ち着こうとする。

 その姿にケンキは手を放して食事を再開する。

 それには溜息を吐くしかなかった。


「はぁ……。取り敢えず君に自己紹介していなかったな。俺の名前はディンだ。僧侶をしてる」


「あぁ、そういうこと!わたしの名前はサナよ。魔法使い。取り敢えずテスト期間中はよろしくね!」


「ちなみに俺も自己紹介をしておこう。ロングだ。生徒会長をしている。そっちの二人は初めましてだな」


「そう言うことなら、私はノウルよ。副生徒会長をしているわよ」


 思いだしたのは自己紹介をしていなかった事らしい。

 たしかにケンキがされたのはロングとノウルの二人だけだ。

 他はされていなかった。

 ロングたちも再度、自己紹介したのはユーガとサリナの為だろう。

 二人にはこうして会うのは今が最初だから自己紹介をしていない。


「初めましてユーガです」


「サリナです」


 年上であり学園で生徒では一番上の人物だからユーガ達は緊張している。

 この状況で変然と食事をしているケンキが羨ましいぐらいだ。

 生徒会のメンバーはマイペースなケンキに呆れてはいるが。


「生徒会の皆さんは料理を頼まないんですか?」


「そうだな。俺は初めて来たんだがおススメは何だ?」


「俺も初めて来たので適当に選びました」


「なら俺も君と同じ者を頼ませてもらおう。なんて料理なんだ?」


「これです」


「そうか。すみません!これをお願いします」


「かしこまりました。他のお客様はどうしますか?」


「え……。すみません、もう少し時間をください」


「かしこまりました。決まりましたら、お声を掛けてください」


 ケンキの疑問から流れるようにロングは料理を頼んでいく。

 そして他のメンバーたちも少ししてからメニューから料理を選び頼んでいく。

 全員に料理が行き渡ったところでケンキが驚かせる発言をした。


「俺は学生達に嫉妬で命を狙われているみたいです」


 突然のカミングアウトに全員がむせる。

 その中でも生徒会長であるロングは直ぐに平静を取り戻しケンキにどういうことか質問した。

 それに対してケンキはメイと親しいからだと答える。


「あぁ~。嫉妬で殺意まで抱いてくると奴なんて俺は一人しか思い浮かばないぞ」


「私もよ」


 ディンとサナは思い当たるようで溜息を吐いている。

 それはロングとメイも頭を抱えて頭痛を堪えている。

 随分と悩まされてきたようだ。


「一人?俺は複数人に睨まれて、睨んだ者たちが全員集まって何かをしていましたが」


 更なる言葉に頬を引き攣らせる。

 よくよく考えればメイは宮廷魔術師であるせいで国でもトップクラスに有名で人気のある女性だ。

 メイの学生時代とは比べ物にならず、親しいだけでも相手は嫉妬されてしまう。


「そうか……。命を狙われているって何をされると思う?」


「信じるんですか?」


「俺たちも同学年のある男にメイのことで命を狙われた経験があるからな」


 ロングの言葉にノウルたちもそれぞれ死んだ目で頷いている。

 本当に命を狙われたことがあるみたいだ。

 それも何度も何度も経験したのだろう。

 同類を見る眼でケンキを見ている。


「話は戻しますけど、たぶん迷宮で事故を装って殺しにくるでしょうね。メイさんは確実に殺してしまわないように配慮はするでしょうけど」


「だろうな。俺たちも迷宮で事故を装って何度も狙われた。その経験から言うとメイからは離れるなよ。メイから離れた瞬間に奇襲を仕掛けてくるぞ」


 実感の籠った言葉にケンキは苦笑して頷く。

 本当に命を狙われてきたんだと理解してしまう。

 ユーガ達も同情の視線でロングたちを見ている。


「先程、犯人はわかっているみたいですが捕まえたり退学にしたりしないんですか?」


 ユーガの言葉にロングたちは溜息を吐く。


「……証拠が見つからないんだ。その所為で泣き寝入りをするしかないんだ」


「「なっ………!?」」


 ユーガ達は他人を殺そうとしておいて逃げ回る犯人に不快な感情が湧く。

 関わり合いたくないためにケンキは名前を聞く。

 同時に無理だろうと考えているが。


「そうか。名前はファメルという。メイのことが好きな癖に告白もしない卑怯者だ」


 その情報に嫌そうな顔をするケンキ達。

 ケンキ達だけでなく話をしているロングたちも思いだしたのか忌々しそうな表情をする。


「すみませんが俺が囮になって捕まえませんか?現行犯なら逮捕できますし」


「ダメだ」


 ケンキの言葉に誰よりも速く否定したのはロングだった。

 考える間もなく拒否をしている。


「生徒会長として、それは許されない。良い案だろうが実行に移すわけにはいかない」


「いつまでも殺気の籠った視線を向けられるのは嫌だから一人でも実行しますが?どうせ確認の為にも直接、殺す相手と同じ場所に来そうだ」


「ふざけるな。それで死んでしまったらどうするつもりだ。少なくとも一緒にレストランに来るほど仲の良い友達を悲しませることになるぞ」


「だから?」


 生徒会長の心配を無下にするケンキ。

 これにはサリナが頭を叩いて引っ張っていく。

 ユーガも冷たい視線をケンキに向けてからロングに頭を下げる。


「なんでケンキは昔からそうなの!?少しは他人の心配する気持ちが分かってよ!」


「そんな事を気にしてたら強くなれないだろうが。無茶をした先にこそ強くなれる」


「強くなって、何をしたいの!?」


「………特にないが」


「じゃあ何で強くなろうとするのよ!目的が無いなら強くならなくても良いじゃない!?」


 サリナの言葉にケンキはムスッとした様子で目を逸らす。

 何を言われても止める気はないという反応に更にサリナは更に目じりを吊り上げる。

 こっちは心配して言っているのに無視をされるのは非常にいらただしい。

 少なくとも女性陣は厳しい視線をケンキに向けている。

 対して男性陣は少しだけ理解するような視線を向ける。


「……それが男の性なんだ。許してくれ」


「……そうだ。男は大した意味が無かろうと最強になりたい生き物なんだ」


「……ごめん。否定できない」


 男性陣のフォローに男はそういう生き物だと理性では納得しようとする女性陣。

 だが、やはり感情では理解が全くできる気配がしない。

 ケンキをフォローする男性陣にも憤りを感じながら責めるのを一度、止める。


「それよりもファメルに対しての対策だ。ユーガ君、ケンキ君は先程言っていたように一人で解決しようと動く男か?」


 その質問にユーガは頷く。

 他人に頼ることは、ほとんどしないで一人で解決すると言ってロング達の頭を抱えさせる。

 今、教えたのも軽い愚痴だけで協力すると考えていなかったのだろう。


「はぁ。取り敢えず迷宮に挑む時は絶対に俺に声を掛けろ。一人で挑むのは絶対に許さない」


 ロングの言葉にケンキは残念そうな顔にする。

 一人で挑めないことに窮屈を感じているらしい。

 本来なら迷宮はソロで挑むべきでは無いのだが突っ込む気力がロング達には湧かない。


「取り敢えず明日は一緒に迷宮に挑むからな。訓練もするなよ。先日みたいにほぼ丸一日訓練をしていたのは問題だ」


 その言葉に流石に素直にケンキは頷く。

 集中していたとはいえ丸一日使うとは予想もしていなかった。

 他の者たちもケンキを見て訓練所を使わないように協力し合おうと目で頷いている。

 ほぼ丸一日ケンキの所為で使えなかったのだ。

 ハッキリ言って生徒たちはケンキは訓練所の使用禁止にしたいと思っているのが大半だ。

 それ以外の面々は、もう一度ケンキの動きを見て参考にしたいと反論意見を言っていて抵抗している。


「わかりました。訓練はしません。先に着いていたとしても柔軟体操だけにします」


 ケンキの言葉にロングたちは不安そうになる。

 だがユーガ達は安心する。

 ケンキは自分で口にしたことは基本的に絶対に護る。

 破るとしても何か理由があるときだけだ。

 その内容も今回の場合は時間に遅れるか先程の話の内容から襲われた場合だけだと、訝しげなロングたちにフォローするユーガ達。

 それでロングたちも納得する。


「わかった。納得はする」


 それでも不信な表情は変わらない。


「そういえば、どこの迷宮に挑むんですか?」


 それに対して対して興味がなくケンキは疑問に思ったことを正直に質問する。

 他人の感情を全く気にしていないことに頬を引き攣らせる。

 よく、こんなのと友達になれたなとサリナとユーガに視線を向ける。

 特にサリナに関してはこんな男の何処が良いんだ、と視線で問うている。


「ふむ、たしかに重要だな。ドラクル迷宮と呼ばれている迷宮だ。難度がSクラスの迷宮だ」


「「はぁぁぁ!!?」」


 ロングの答えにユーガ達は絶叫する。

 この場で聞いてよかった。

 迷宮にはS、A、B、C、D、E、Fまでの7クラスあり、Sは当然、最上級クラスの迷宮だ。

 そして当然トップクラスだからこそ許可書も必要になる。

 そこに挑めることも驚きだが、いくら強くてもケンキを連れて行くのは幼馴染として心配だ。


「安心しろ。いざとなったらケンキ君を最優先に逃げてやろう」


 ロングの言葉にメンバーたちは同意するように頷いている。

 先輩である以上、後輩を気に掛けるのは当然のことだからだ。

 それを認識してケンキは面倒くさそうにする。

 自分も先輩になったら後輩に対して同じことをしなくてはならないと考えると憂鬱だ。


「ケンキ、どうしたんだ?」


 憂鬱な表情になっているケンキにユーガが質問し考えていたことを、そのまま話すと涙を浮かべる。

 サリナも同様に涙を浮かべて胸に手を当てている。

 まさかケンキが他人に配慮する考えをするとは思ってもみなかったのだ。

 思わぬ成長に本当に感動していた。


「「「「うわぁ」」」」


 そしてロングたちは幼馴染の反応とケンキの他者に関する無関心さに引いていた。

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