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パーティを追放されました。でも痛くも痒くもありません  作者: 霞風太
新しき日々

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62/62

未来へと

これで本当に完結です。

以前は途中で無理矢理に終わらせたから気になっていました。

今回は自分の中で区切り良く終わらせたと思っています。

これまで読んでいただきありがとうございました。

「皆、これから連続して学園に留学生が来ることになる。その最初の者たちが彼だ。そして転入するクラスはここになる」


 急に留学生が来ると聞いて目的はケンキなのだろうと予想できてしまう生徒たち。

 来るのならケンキのいる学校にすれば良いのにと考える。

 そちらの方が接触できるチャンスは多いはずだ。


「それと転校生もいるから仲良くするように……」


 何故か目を逸らす教師。

 そしてその動作にシーラとラーンは目を輝かせる。

 転校生と聞いて何となく察したのもしれない。


「では入ってきてくれ……」


「「「「「はい」」」」」


 そして入ってきたのは複数の女子と一人の男子。

 女子の方はともかく男子の方はものすごく見覚えがあった。


「「「「「「「「「ケンキ!!!???」」」」」」」」」


 この場にいるはずのない男がいることに生徒たちは驚く。

 他校にいるはずなのだ。

 そして礼儀作法を覚えるために別の学校に行くことになったのも聞いている。

 それなのに、ここにいるのは謎でしかない。

 身に着けさせるために転校させたと聞く二人はどうするのか疑問を抱く。


「っし!!!」


「やった!!!」


 そしてシーラとラーンの二人はケンキが同じ学校、同じクラスで生活できることに喜ぶ。

 ケンキと一緒にいれるなら、どうでも良かった。

 ついでだし自分達の護衛もしてもらおうと考える。


「あの………?」


「なに?」


 視線を向けられているのが分かっているからか他にも教室に入った者がいるのにケンキが応える。

 何を聞かれても応えるつもりだ。


「どうして転校を……?」


「留学生がこの国に多く来るので、王族のシーラとラーンを最優先して護るためですね」


 そういえば教師も多くの留学生が来ることになったと言っていた。

 目的はケンキだとは思っているが、他の目的がある可能性も十分にある。

 そう考えれば納得も出来る。


「そうですか……」


 ケンキがいるのなら最強の護衛だと思う生徒たち。

 どうせなら自分たちも鍛えてもらうかと考えている。

 強さはあっても困る者ではない。


「あぁ!それと出来るのなら放課後、望む者は鍛えようと思っています。その為の手続きや許可を貰う必要はありますが強くなりたい者は来てください」


 ケンキのその言葉にざわめきが奔る。

 あのケンキじかじかに鍛えられるのだ。

 強くなれる未来しか見えなかった。


 逆にシーラとラーンは目を逸らす。

 鍛えてもらったからこそ分かるが、アレはキツイ。

 いくら強くなれても怪我する可能性が高い。

 参加をするのなら柔軟だけはやっておけと注意する必要がある。


「待って。もしかして騎士たちにやっているのと同じことをするつもり?」


「そうだけど?」


「下手したら身体を壊すから止めろ!少ないとはいえ何人身体を壊して止めたと思っているんだ!騎士でもそうなんだから学生はもっと壊れるだろうが!実戦だけではなく基礎訓練も入れろ!」


 身体を壊すと聞いて鍛えてもらう気がなくなっていく。

 壊れるのは嫌だった。


「………わかった。実戦形式を減らして、その分素振りでも増やしておく。それで大丈夫だな?」


「それで良い。お前らも本当に鍛えてもらうなら柔軟だけはしておけ。そうすれば壊れる可能性も低くなっていく」


 ラーンの言葉に深く頷く生徒たち。

 身体を壊して動けなくなるのは嫌だった。


「一応言っておくけど、普通に過ごしても壊れる可能性は普通にあるからな?ただ更に動く必要があるから壊れる可能性が増えるだけで……」


 ケンキの言葉にそれでも出来る限りは怪我をしないように気を付けるべきだろうとラーンたちは思う。

 自分達が言わなければ柔軟するべきだとも言わなかったはずだ。


「…………やっぱり男性も連れて来るべきでしたね」


「えぇ……」


 そしてヘルガたちはケンキの言葉に男性を連れて来なかったことに後悔する。

 連れて来れば鍛えることも出来た。

 そして鍛えられた内容を国に伝えられれば他の者たちも強くなれる。

 事前にシーラから内容をある程度教えられてもいるが、やはり実際の内容と聞いた内容は違うと思っている。


「申し訳ありませんが、私も参加して良いでしょうか?」


 そんな中、ハニートラップの一員だが同時にヘルガの護衛の少女が声を上げる。

 その意見には頷きたいがあくまでもヘルガの護衛なのだ。

 ヘルガから離れるのはできるだけ避けたい。


「ヘルガ様、私達がどんな手を使ってでもお守りしますので彼女を参加させてもらっても良いでしょうか?」


「その通りです。この中で一番動ける彼女を参加させた方が良いと思います。そして私たちも基礎訓練だけは参加しましょう」


 もし逃げるのなら近くにいた方が良い。

 そしてある程度の体力を残しながら体も鍛えた方が良いと思っていた。

 流石に昨日の今日で襲撃には来ないだろうと予想する。


「それに父たちも国に戻ったら私たちがこの国に留学したのを周辺国に広めるはずです。その後に下手に襲われたら国際問題。国の信用に関わるはずです。そう考えたら少しは安心できませんか?」


 その言葉に最もだと頷く留学生たち。

 他国にいるからと言って敵対国でも無いのに警戒しすぎたと反省していた。




「それで急にどうしたのよ?」


「何がですか?」


 学園の授業が終わり、放課後に鍛えるための訓練の許可を貰った後ケンキたちは王城へと戻る。

 その中にあるケンキの部屋でレイナとシーラがいた。

 そしてシーラはケンキの部屋でくつろぎながら急に鍛えるつもりになったことに対して質問する。


 レイナは話の流れが見えずに首を傾げていた。

 その様子に少しだけ癒されながら説明をする。


「そうなんだ………。仕事が増えるみたいだけど大丈夫なの?辛くなったら私は止めた方が良いと思う」


「大丈夫。本当に辛くなったら辞めるつもりだから。今のうちに騎士になろうと思っている生徒を鍛えた方が楽になりそうだとしか思っていない」


「あぁ、そういうこと……」


 将来、騎士になることを目標にしている者たちを今から鍛えているのだとシーラは納得する。

 学生の頃から鍛えられれば、いざ騎士になった時から戦力になりそうだ。

 戦える者は多ければ多いほど良いとシーラは王女として納得していた。


「………でも学校の活動だから、他国の者たちも鍛えることになるけど良いの?」


「………それが目的」


「「はぁ!?」」


 ケンキの言葉にシーラもレイナも本気で言っているのかと疑ってしまう。

 他国の者たちを鍛えて何の意味があるのか疑問だ。

 そんなことよりも自国の者を鍛えて欲しいと思う。

 自分達で鍛えた相手が襲ってくると想像して賛成したくなかった。


「………一緒にキツイ体験をして仲間意識を抱いて貰うため?」


「………うわぁ」


 それを聞いてシーラは引いた表情を見せ、レイナは微妙な表情を浮かべる。

 上手く行ったらケンキの掌の上で転がされたことになるし、そう思ったようにいかないだろうと思ったからだ。


「良い案だとは思うけど、上手くいくかなぁ?」


「………上手くいかなくても別に良い。ただ単に俺が他国の者同士が協力するところを見たいだけだから」


 そんなところを見たくて鍛えるなんて、とシーラはケンキを睨む。

 個人の都合で他国を強くしないで欲しい。

 王族の権力を強引に使って鍛えるのは止めてやろうかと考える。


「……あとは同じ目的があるのに、ただ相手が気に喰わないからと協力しないのは付き合いはいらないかな?距離を取るようにって出来る?」


「………そうね」


 王族の権力を使って強引に鍛えるのは止めてやるのは無しにしようと考えを改めた。

 その目的もあるのなら最初から話して欲しいとシーラは思う。

 最初から、そのことも話してくれれば止めようと何て考えなかった。


 それにしてもキツイ訓練をさせ、同じ目標を持たせ、その対応で国として付き合いを変えるのは良い考えだとシーラは思う。

 特にホーネスト王国からは王女が来ているのだ。

 国のトップに近い存在。

 彼女を見て、これからの付き合いを考えるのに相応しい存在は無い。


「………王女が来ているんだ。他の国も王族が来るよな?」


「来るでしょうね。少なくともホーネスト王国は貴女を引き抜くために王女を連れてきた。なら他の国も王族を連れて来なければ、そこまで本気じゃなかったと思われても不思議じゃないわ」


 他国のトップクラスに権力がある者が、この国に集まるのだと考えてケンキは深くため息を吐く。

 この国の王族ではなく、他国の王族を狙って暗殺も怒るかもしれない。

 その余波やこの国にいることが原因で襲われたと責められることを考えると面倒になる。


「………シーラ」


「何?」


「………取り敢えず、お前とラーンは登下校するまではずっと傍にいて。その方が安全だから。どうしても用事があって離れる場合は他の護衛を絶対に複数につけて」


「……えぇ!」


 ケンキの言葉にシーラは嬉しそうに頷く。

 自分達を凄く大事にしているのが伝わるからだ。

 シーラ自身もケンキの意見に同意する。

 シーラにとってはケンキと一緒にいれるから何も文句はなかった。


「ケンキはどこにも行かないのよね?」


 当たり前のことを質問するレイナに二人は視線を向ける。

 そして向けられた当人の瞳は不安に揺れていてケンキたちは何も言えなかった。

 付き合いはまだ半年も経っていないのだ。

 互いに知らないことは、まだまだある。

 不安になるのもしょうがないと理解する。


「ケンキ、私とレイナを一緒に抱き締めなさい?」


「………まぁ、良いけど」


 ケンキがシーラの望み通りに二人を抱きしめる。

 何で急にそんなことを言ったのか分からないが大好きなシーラと可愛いレイナを抱きしめられるのだから文句は無い。

 そうして抱きしめるとシーラもまたケンキとレイナを抱きしめる。


「大丈夫。私もケンキも貴女を捨てる気は無いわ……。だから安心して?」


 優しく語り掛けるシーラ。

 その姿にケンキは見惚れていた。

 だがシーラにとってはそうかもしれないがケンキにとっては違う。

 最優先はシーラなのだ。

 もしどちらかしか助けられないのならレイナを切り捨てるつもりだった。


「今日はもうこのまま抱きしめあって眠る?」


「そうね。レイナもそれで良い?」


 二人の意見にレイナも顔を赤くして頷く。

 ケンキのがっしりとした感触とシーラの柔らかさを味わいながらレイナは眠りに落ちて行った。




「はぁ………」


 ケンキは眠っていたのに不意に目が覚めため息を吐く。

 もう実行するのかと思っていた。


「暗殺とか本当に面倒くさいな……」


 目的はホーネスト王国の王族だろうとケンキは予想する。

 もしこの国で殺されてしまったら怪しいのはこの国になる。

 それだけはケンキも避けたい。


「もしかしたら他の留学に来る者たちもそうなのか……?」


 もしそうだとしたら面倒だとケンキはため息を吐く。

 多くの者を護らなければいけないからだ。


「優先するべきはシーラなんだけどな………」


 どこかの誰かを護りに行くせいでシーラを危険な目に遭わせたくない。

 取り敢えずシーラを起こそうと考える。


「シーラ、起きろ!」


 身体を何度も揺さぶって起こすケンキ。

 多少、手荒だが許して欲しいと思う。


「ん……」


 目を覚ましそうになっているのをケンキは更に顔を軽く叩く。

 少し嫌そうにしているが目覚めさせるためだった。


「何よ……」


 不機嫌そうにしながらも目を覚ましたことにケンキは息を吐く。

 そして起こした理由を口にする。


「………ヘルガ様が襲われているかもしれないから起きて、メイドたちの働いている場所へと移動しろ。後、これも身につけていろ」


 ケンキはそう言って二人分のお守りを手渡す。

 そして暗殺者のいる場所へとケンキは直行していった。



「はぁ………」


 シーラはケンキが王城から飛び出して行ったのを見送ってため息を吐く。

 渡されたお守りや起きているメイドたちの元へと向かえと言ったのも心配しているからだろう。

 それが嬉しくもあり、不満を抱いてしまう。

 ケンキにとっては弱い存在かもしれないが、護ってもらうだけの存在では無いのだと声を大にして言いたくなる。


「ほら、レイナも起きなさい!」


 そしてシーラは一緒に寝ていたレイナを起こす。

 一人にするのも一緒にいるという言葉が嘘だったことになるし、一人で行動するのも寂しかったからだ。


「………どうしました?」


 眠気混じりに起きるレイナ。

 意識がまだハッキリとしていないがシーラが手を引いてくるのを素直に従う。

 まだ暗いのに何で起こされたのかもわかっていなかった。


「留学生が襲われているかもしれないから私たちはケンキを安心させるために一緒に移動するわよ。取り敢えずメイドのいる場所まで移動しましょう」


「…………分かりました」


 まだ眠気は覚めてないのか襲われていると聞いても特に反応をしないサリナにシーラは苦笑する。

 そのままでも別に良いやと思っていた。

 何せケンキがいるのだ。

 無駄に心配させるよりは良いかもしれないと考えていた。






「くっ……!」


「これで終わりだ。あんたをこの国で殺せば疑いは、この国の者たちに向く」


「何故、この国で殺すことを企むのかしら?」


 そう言いながらシーラはこの国で殺す理由をいくつか予想していた。

 例えば敵対国、例えば自国の王政を廃止して民主制に移行するべきだと企んでいる者、そして自分たちの思うがままに権力を振るいたいからこそ邪魔だと思っている者たち。

 いろいろな予想を立てれてしまう。


「さぁな。俺たちは依頼があった。だから、それをこなすだけだ」


 ヘルガはある意味、運が良いと思っていた。

 あくまで狙っているのは自分だけ。

 他の貴族令嬢には視線も向けていなかった。


 そして不埒な目も向けていない。

 必要なのは自分を殺すだけ。

 苦しみも無く死ねるだろう。

 もう逃げ場はなく諦めるしかヘルガは無かった。


「それは残念だ………」


 そして眼をつぶると同時にそんな声が聞こえてきた。


「なっ!?」


 更に聞こえてくるのは暗殺者の驚いた声。

 ヘルガはそれにつむっていた眼を開ける。


「え………」


 そこにはケンキがいた。


「なんで……」


 何時からいたのか。

 そしてどうして気付いたのか疑問だった。

 少なくとも暗殺者は深夜に襲撃を掛けてきた。

 王城にいるはずのケンキが気付くはずが無い。


「………さぁ」


「くそっ!?」


 暗殺者は必死にケンキを振りほどこうとしているがピクリとも動けない。


「………そもそも優秀な奴は揃って情報を吐かないか」


「当り前だろうが!何をされても絶対に情報は吐かない!聞き出すのは諦めるんだな!」


 悔しそうにするケンキ。

 目の前の暗殺者の言葉は決して嘘ではないと見抜いていたからだ。

 何をしても応えないのは厄介だ。


「別に良いよ……」


 だがケンキからすれば、絶対に応えないのなら殺すしかないという決断を早める結果にしかならなった。

 目の前に女性がいるのにも関わらずケンキは暗殺者の首を刎ね飛ばす。


「えっ」


 刎ね飛ばされた首はヘルガの隣に転び、もとの暗殺者の首から上は血の噴水が起きて倒れる。

 そしてヘルガとケンキは血の噴水を浴びて、ところどころに血が付着する。


「ひっ」


 そしてヘルガは悲鳴を上げてケンキを見上げ、ケンキはヘルガのその様子に笑みを浮かべた。

 怯えてくれるのならハニトラも減るだろうと考えていた。


「っし」


 ケンキは思わず声に出して喜んでしまう。

 そして強引にヘルガの腰を抱え、ケンキはヘルガたちが住んでいる場所へと移動した。



「すいません!ヘルガ様を………」


 ヘルガが住んでいる場所へと進んでいくと、途中でヘルガを探している留学生と出会う。

 ケンキはヘルガがいなくなったことに今頃気付いたのかと冷めた目を向けてしまう。


「何で………」


 目の前の留学生が睨んでくることにケンキは不快な気分になる。

 このままヘルガを投げ捨てようとさえ考えてしまっている。


「こいつ、暗殺者に襲われていたんだけど気付かなかったのか?」


「え?」


 呆気にとられた顔。

 本当に気付いていなかったのかとケンキは呆れた。


「何人かは護衛じゃないのか?」


 未成年だが護衛として、それはダメだろうとケンキは考える。

 暗殺者に気付かないなんて、これでは頼れなさそうだ。

 もっと、マシな者はいないのかと思う。


「目の前で殺したから、気分がすぐれないのなら休ませとけ」


 だが、それはよその国の問題だ。

 気付いたら助けようとはするが、巻き込まないで欲しいとケンキは思う。


「それじゃあ俺は戻りますので。ゆっくり休んでくださいね?」


 ケンキはそう言って気分よく王城へと戻る。

 久しぶりの命の奪い合いでテンションが上がっていた。




「大丈夫だった?」


 ケンキはシーラとレイナの二人を見つけると抱き着く。

 今までにない対応にレイナは驚きで声が出ず、シーラはため息を吐く。

 付き合いが長いためにハイテンションになっている理由が思いついたせいだ。


「何?暗殺者でも殺してきたの?」


 シーラの質問にレイナは目を見開き口を開けては閉めてを繰り返す。

 こんな簡単に人の生き死にを確認できるなんて、やはり異世界なんだと実感していた。


「何をしても話しそうにないからな!それに他国のとは言え王族を殺しに来たんだ。殺されても文句は無いだろ」


「まぁ、殺しに来といて返り討ちに会わないと考えるのはふざけているわね」


 何かを思い出すように吐き捨てるシーラ。

 ケンキはそれに苦笑し、レイナはシーラも暗殺者を差し向けられたことがあるのだと理解する。

 そして同時に何か不快なことがあったのだろうかと想像していた。


「お前の時は命乞いをしていたからな……。あんまりにも生き汚くて笑ってしまった」


 その時のことを思い出しているのかケンキは笑う。

 それがレイナには少しだけ恐ろしかった。

 関係を持っていなかったら、もっと恐ろしく思っていたかもしれない。


「あぁ、それとヘルガ様だけど俺が暗殺者を殺したところを見て怯えていたから。多分、本気でハニートラップを仕掛けてくることは、もう無いと思うぞ」


 面倒なことは減ったと嬉しそうに言うケンキにシーラは本当かと疑いの視線を向ける。

 同じ王族なのだ。

 死者は見慣れている筈だと思っている。


「本当に?死者なんて暗殺者とかで見慣れているんじゃないの?」


「………だけど実際に俺を見る目には怯えがあったぞ?」


「暗殺者に襲われたことが無いほど大事に扱われていたのかしら?」


 他人が死んだ程度で怯える王族に疑問を持つ二人。

 レイナはこの点に関しては王族という元々身分の違う者たちの話だから何も疑問には思えなかった。

 ただ国によって違うんだろうなとしか思わなかった。


「まぁ、明日………。もう今日かしら?学校に行けば分かるでしょ」


「……無理じゃないか?人が死んだのを見て気分が悪くなっていただろうし。………多分、休むだろ」


 シーラはそれを聞いて軟弱だとため息を吐く。

 だが、それでケンキはヘルガがなびかないだろうと安堵していた。

 たかが人が一人死んだ程度で怯える者にケンキが好意を持つわけが無い。

 平民だったら気に掛けるかもしれないが、留学生は貴族や王族たちなのだ。

 その者たちが人が死んだ程度で怯えるのは軽蔑する。


「そう……。それじゃあ部屋に戻りましょう?」


 シーラも気分よく二人に自分たちの部屋に戻ろうと声を掛けてくる。

 ケンキは何も考えずに当然のように後をついて行き、レイナは自分は捨てられない様にと後をついていく。

 人一人死んだことを怯えることに軟弱だと軽蔑されるのなら自分もいずれ軽蔑されて捨てられるんじゃないかと思ってしまう。


「………レイナ」


「はい!?」


「………最近までは平民だったんだろう?お前が死者を出したことに怯えても誰も気にしない。……ただ」


「ただ?」


 ケンキの言葉にまだ捨てられないのだと安堵するが、続けられた言葉に再度不安になるレイナ。

 シーラは捨てる気が無いのに不安を抱いていることが不満に思いながら話を聞く。


「………いずれは慣れてもらう。王族に関わっている以上は人死にもどうしても関わってしまうだろうしな。意外と直ぐに慣れるから安心しろ」


 その言葉にレイナは慣れなければ、もしかして捨てられるかもしれないと予想し必死に首を縦に振った。

 その姿にケンキはレイナは有用な能力を持っているから、どうしても無理なら諦めるが捨てるつもりは無い。

 だが、そのことは本当に無理でない限り教えるつもりは無かった。

 そしてシーラはそんなケンキを冷たい目を向けていた。

 捨てないのなら、そう言えば良いのに敢えて嘘をついている理由が分からなかったせいだった。


「………部屋に戻ったら二度寝をする?」


「そうね……。まだまだ朝には時間があるし、そうしましょう?」


 ケンキの提案にシーラは欠伸をしながら頷いていた。

 取り敢えずだが事件も解決して安堵して気も抜けたのだろう。

 ベッドの中に入ればすぐに眠ってしまいそうだ。


「………はぁ」


 ケンキはシーラとレイナの二人を抱き上げて運ぶ。

 二人とも眠気が辛そうだ。

 レイナも散々怯えさせたのに眠そうにしていて今にも倒れそうだ。


「………運んでやるから二人とも寝てろ」


 突然に抱き上げられたことに驚いたが運んどくれるという言葉に二人は安心する。

 そのまま身を任せ眠りについた。



 そして朝。


「………起きろ」


 ケンキは二人を叩き起す。

 これ以上は学園に遅れるかもしれないからだった。


「………おはよう。何か機嫌が良いわね」


 二度寝をする前と同じように機嫌が良さそうなケンキに何があったのか思い出す。

 本当にハニートラップを仕掛けて来ないのか疑問だ。


「………はぁ。それじゃあ朝食を食べたら学園に行きましょう?」


 本当にハニートラップを仕掛けて来ないのかは学園に行ったらわかる。

 シーラはどうせケンキの予想は外れているだろうなと考えていた。


「そうだな!」


 圧倒的な実力は見ているだけで憧れるし、神々しさも感じてしまう。

 そして、おそらくはピンチの時に助けられたのかもしれない。

 それなら怯えながらも好意を持つ可能性は十分ある。


「………まぁ、私が頑張れば良いわよね」


 ケンキが本気で惚れられ奪われようとしていても自分の魅力に惚れさせたままにすれば良いとシーラは考える。

 その為にはレイナにも協力してもらおうと考えていた。



「なんか今日のケンキは機嫌が良いな。何があった?」


「実は……」


 そして学園にはラーンと一緒に向かう。

 ラーンの疑問にシーラは答えるが、ラーンは微妙な表情になる。

 それでハニートラップを仕掛けるのを止めるのはあり得ないと思っていた。

 それどころかむしろ悪化すると考えている。

 シーラやラーンも圧倒的な力を目にしてからケンキに惹かれていったのだ。

 助けられた者もそうなる可能性が高い。


「~~~~~」


 それがわからず鼻歌を歌っているケンキ。

 学園ももうすぐだ。

 直ぐに現実を理解できそうだった。


「ケンキ様~~~!」


「っ!?」


 ケンキは様付けでヘルガが自分を呼んだことに絶句する。

 しかも走り寄ってくる。

 まさか助けただけで好意を持つなんて有り得ないとケンキは考える。

 そして、これはハニ―トラップだと予想してため息を吐く。

 自分にはシーラがいれば十分なのに、他にレイナもいる。

 これ以上は大事に出来ない。

 だから他の女はいらないのに迫ってくるのは面倒で深くため息を吐いていた。

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