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パーティを追放されました。でも痛くも痒くもありません  作者: 霞風太
新しき日々

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皆と観光

「それじゃあ頼むぞ」


「お願いしますね。二人とも……」


 ホーネスト王国の王とその娘ヘルガはケンキに頭を下げて頼みこむ。

 その姿にホーネスト王国の者たちはケンキたちに不満そうな眼を向ける。

 いくら相手が圧倒的な強者だとしても、王族のそんな姿は見たくなかった。


「いえ……。こちらこそ不慣れな身ではありますが、よろしくお願いいたします。その分、その身を危険から護って見せます」


「あぁ、頼む」


 マオもまた頭を下げてその身を護るという言葉に少しだけため息が下がった。

 彼ほどの強者が護衛についてくれるのなら安心できる。


「それでは……」


「え?」


 だが、その一瞬後に姿が消えたことに困惑する。

 護衛をするんじゃないのかと一緒に来ていたシーラに思わず視線を向けてしまった。


「ケンキは私たちを影ながら護衛をするつもりです。存在が気付かれない様に隠れていますが、ちゃんと護衛しているので安心してください」


 シーラの言葉にホーネスト王国の者たちは残念に思う。

 護衛にかこつけて自分達の国に来てもらおうと言質を取ろうとしていたからだ。

 特に残念そうにしているのが王族で言質を取られない様に引き離されたのだと思っていた。


「近くにいなくても護衛が出来るんですか?」


 それでも引き抜くためのチャンスは欲しいとヘルガは本当に大丈夫なのかと疑問を投げかけるが、シーラは笑顔で頷くだけ。

 大丈夫だという自信があった。

 何せ護衛はケンキだけではない。

 彼に鍛えられた者たちも護衛についている。

 誰が相手でも大丈夫だという自負があった。


「えぇ。ケンキと彼に鍛えられた者達。誰が相手でも大丈夫です!」


 余程、自信があるのか力強く頷くシーラ。

 その様子にケンキを隣に呼ぶことは出来ないだろうなと諦めるしかなかった。


「そう………」


 残念そうにヘルガはため息を吐く。

 この国にいる限りチャンスはあるのだ。

 なんなら学園も同じ場所だ。

 絶対に国へと引き抜いてやろうと考えていた。




「ここが普段から私たちが使っている店よ。かなりの品揃えがあるから何か足りなくなったら、ここで購入すると良いわ」


 最初に案内されたのはデパートだった。

 シーラは王女なのに、こんなことを知っていることに疑問を抱く。

 望めば城へと届くのに不思議だった。


「随分と詳しいのね……」


「そう?ずっと城の中にいるのも退屈じゃない?だから護衛はいるけど顔や身分を隠して普通に色んな所へと歩いているわよ?」


「「…………」」


 ヘルガはキリカの言葉に羨ましそうにする。

 いつも身の回りはガチガチで護られていてデパートなんて行ったこともなかった。

 しかもシーラは来慣れている見える。

 何で国が違うだけで、こんなに違うのだろうと思ってしまう。


「そうなんですか。ですが私はこれまで庶民の店に行くことは許されなかったので」


 だけど、それはケンキのお陰だと予想できてしまった。

 圧倒的な力を持つケンキがいるからデパートに行くことも許されたのだろう。

 護衛というのもケンキが専属についていたのだと想像が出来る。


「一応、言っておきますけど。ここは貴女たちの住んでいた国ではないですからね?違うところがあって当然ですし、誰も代わりにやってくれませんから……」


 その言葉に頷くヘルガ。

 今までは当然のように誰かにやってもらっていたが、ここでは誰かに任せていたことも自分でやらなくてはいけないのだと理解していた。


「わかっているわよ。王族だからって自分の身の回りのことはこなせないわけないじゃない。必要だから普段はしないだけよ。それは貴女も同じでしょ?」


 非常時のために自分の身の回りは自分でできるように仕込まれていることを思い出してヘルガの言葉にシーラは頷く。

 王族は生きているだけで希望になりえることもあるのだ。

 自分の身の周りのことが出来ないという理由で足手纏いとして捨てられるわけにはいかなかった。


「そうね……。ケンキがいなかったら必要となっていたでしょうね」


 ケンキがいなかったら、この国はドラゴンに攻め落とされていた。

 つまりは亡国になっていたということだ。

 自分達は運が良かっただけなのだと深く理解している。

 だから他の国がケンキを求めるのも納得できる。

 とはいえ渡すつもりは無い。

 またドラゴンが襲ってきたらと考えると有り得ない選択肢だった。


「でも今はそんなことはどうでも良いわ。このデパートの案内をするから付いてきて」


 これ以上、ケンキの話は終わりだとシーラは切り上げて案内を再開する。

 そして辿り着いた先が本屋だった。

 ここが一番最初に案内したかった場所なのかとホーネスト王国の者たちも隠れて護衛していた者たちもシーラを見る。

 だが自分は何も間違っていないと自信満々だ。


「一番最初に案内するのが本屋ですか……?」


「そうよ!」


 プルプルとふざけているのかとヘルガたちは震えている。

 それに気づいていないのか説明を続けるシーラ。


「ここはかなり本の品揃えがあるから、勉強するための資料を探したいなら、ここで見つかるわ!それに他国の本も頼めば輸入してくれるし、他の店と比べてかなり安いわ!」


 勉強と聞いて、この国は大義名分として留学に来たことを思い出す。

 もちろん、本来の目的は違うが一国の王女として、そして留学してきた身としては無様な点数は取れない。

 最初はふざけていると思ったが善意で案内したのだとホーネスト王国の者たちは理解した。


「そうね……。ありがとう……」


 そしてお礼を言って本屋の中へと入る。

 実際にどれだけの品揃えがあるのか興味があった。


「いらっしゃいませー」


 中へ入って見ると店の中はどこにでもあるような本屋の風景だった。

 本当に品揃えが豊富なのかと本のタイトルを手に取って眺める。

 それはホーネスト王国に住んでいる作者の本だった。

 ファンだった貴族令嬢はそれを手に取って喜ぶ。

 人気だからこそ貴族という立場があっても入手するのが困難なのだ。

 それは購入できることに素直に喜ぶ。


「あの……!」


「どうしましたか?」


「少しの間だけで良いので、案内するのを待っていてくれませんか!?」


 貴族令嬢の言葉に何を言っているんだと怪訝な目を向ける多くの者達。

 理解を示したのはシーラだけだ。


「もしかしてずっと欲しかった本でもありましたか?人気がある本もこの店では、それが他国の本でも売ってあるんです」


 その言葉に更に視線を本を向けて目を輝かせる令嬢。

 どれもが自分が欲しくてたまらなかった本。

 また売り切れになって入手できないのなら今すぐに購入したかった。


「お父様!この本はお父様がずっと欲しかった本じゃありませんか!?」


「何!?」


 そして眼を輝かせた貴族令嬢は自分の父親にも欲しかった本があることを伝える。

 そのせいで父親も目を鋭くして売ってある本を確認していく。


「すみませんが、少し待っていただきたい!!」


 そして娘同様に父親も本を手にしていった。


「…………まぁ、見ての通り本好きには理想の店ですね。初めて来た客はだいたい似たようなことをしているので、見慣れた光景としてある程度は騒いでも大丈夫です」


「あ……あぁ」


 暴走したあの家族は貴族の中でも特に一族揃って頭が良く宰相も輩出したこともある家系だ。

 宰相も何度か輩出した家系で、今でもその知識には助かっている。

 その家系が入手できなかった本をどうやって店に置くことが出来るのか謎だ。


「それにしても本が好きな貴族なんですね……。もしかして宰相を輩出したこともあったりしますか?」


「そうだが、何で分かった」


 予想が当たっていたことに微妙な表情を浮かべるシーラ。

 その表情にホーネスト王国の者たちも理解する。

 この国の宰相を輩出した貴族に本好きがいるのだと。

 どこでも同じような存在はいるのだなとホーネスト王国の者たちも微妙な表情になった。


「やっぱり本を読むと知識も広がるし、頭が良くなるんですかね?」


「そうかもしれないな……。うちの貴族はその分、身体能力が低いがそちらはどうだ?」


「私たちの所も同じです。知識はあって使うことも出来ますけど、どうしても体力が無くて……」


 王族たちは揃ってため息を吐く。

 意外と他にも似通ったところはありそうだなと思っていた。



「お待たせしました!!」


「待っていただきありがとうございます!!」


 親子揃って大量の本を両手に下げて元気よく戻ってくる二人。

 その姿に一緒に来ていた者たちも苦笑してしまう。

 ここまで嬉しそうな笑顔で向けられていると文句も言えなくなっていた。


「二人も戻ってきましたし、次の案内をしますね?」


 シーラの言葉に頷くホーネスト王国の者達。

 最初、本屋に案内されてムカついたが理由を聞いて納得した。

 次は似たようなことをしないために、次に向かう場所と理由を聞こうとする。


「次はどこに行くの?」


「服屋ですよ。見たところ留学に来るのは女性だけの用ですし、お洒落もしたいでしょう?それに他国のデザインの服ばかり着ていたら浮いてしまうでしょうし……」


 シーラの提案に留学に行くことになる女子たちは全力で頷く。

 お洒落をしたい年頃なのだ。

 この国の王女が案内してくれることもあってデザインが良い服もあるのあるのだろうと期待している。


「ありがとうございます!早速行きましょう!」


 それに私服だと浮くからという理由にも感謝している。

 特に王族のヘルガは見られるのも王族の仕事だとは理解しているが、やはり常にみられるのはキツイ。

 この国にいる間は休みたかった。


「…………さっきは急に暴走していたから止めれなかったけど、今日は服を買うのは止めろよ?あくまでも案内してもらうのが先だ」


「えぇー」


 王の言葉に不満を漏らすヘルガ。

 他の貴族令嬢も同調して不満を漏らしている。

 だが王も他の貴族令嬢も父親たちもそれだけは拒否したかった。


 女性は服を買うのに時間が掛かる。

 それを身をもって知っているせいだろう。

 それで更に時間を減らしたくなかった。

 もっと色んなところを観光に行きたい。


「どんなに不満でも駄目だ。今日は服を買うのは諦めろ。ここに留学するんだから時間はあるだろう?」


 どうしても認めてくれない父親に娘も折れるしかなかった。

 だから留学をしたら国の皆と一緒にシーラの案内された服屋で服を買おうと考えていた。


「………わかったわよ。皆、留学してから落ち着いたら皆で服を買いに来ましょう?」


 父の言葉に頷き、ヘルガは他の留学する皆に今度は皆で服を買いに行こうと提案する。

 それに他の皆も頷く。

 その日が楽しみにしていた。


「あはは………。服を買うのは女性の楽しみですから……。少しは大目に見てください」


 同じ女の子だからこそのシーラの言葉にホーネスト王国の王は、だから何だと視線を向ける。

 いくら楽しみだとは言っても時間を掛け過ぎるのは問題だと思っている。

 プライベートなら良い。

 だけど今はプライベートではなく案内してもらっているのだ。

 娘たちの我がままに付き合うつもりは無かった。


「プライベートの時間なら、ともかく。今は君に案内してもらっているんだ。これ以上は予想外の時間を使いたくない」


 その言葉にシーラも頷くしかなかった。

 だからシーラは案内に気合を入れなおした。


「ここが私のお気に入りの服屋です。ヘルガ様たちは留学したら一度は寄ってみてください」


 そして服屋へと着くが中に入ることは無く、そのままスルーする。

 そのことに誰も文句は言わず次の案内を求めていた。

 娘たちは不満そうにしているが、その分もあってシーラを無意識に睨みながら次の案内を求めていた。


「次は………」


 次の案内をしようとしたら昼を知らせる鐘が鳴った。

 そのことにシーラは案内はいったん止めて昼食を取ろうかと考える。

 庶民のレストランだが目の前に貴族たちは舌に合うのか疑問だ。


「どうした?」


「えっと、お腹がすきませんか?我慢が出来ないなら、庶民の味ですけどレストランで腹ごしらえできますけど……」


「ふむ………」


 昼の鐘がなったことでシーラは自分達を心配しているのだと理解する。

 そして同時に顔を見せて頷き合い、昼食を食べることにする。

 庶民の味だと言うが、だからこそ口にする機会が少なく興味があった。


「それなら、その庶民の味でも良いから腹ごしらえをしよう」


「わかりました。それじゃあ付いてきてください」


 シーラの言葉に全員で後をついて行った。



「…………ん?」


 途中でホーネスト王国の者の一人が何かに気付いたのか首を傾げる。

 そのことに察して何人かが視線を向ける。


「シーラ様って王女なんですよね?」


「そうですけど……」


「それなのに庶民の味を知っているんですか?」


「えぇ……。でもデパートにも詳しいし今更でしょ?」


 それにほとんどの者が納得したが疑問に思った一人はそれに納得しない。

 デパートに詳しいということは、それなりの頻度で行っているということだ。

 ホーネスト王国では王女が頻繁に通うこともあるなんて考えられない。


「そうですけど、服を買いに行ったり本を買いに行ったりは納得できます。だけど庶民の味にも詳しいのはおかしいです。流石に毒を入れやすいレストランで食べなんて命の危険を感じなかったのですか?」


「えぇ。常に解毒薬は持っていますし、耐性をもつ訓練をしていますから……」


 シーラの言葉に王族はそんなこともするのかと視線を自国の王族に送る貴族たち。

 それに対して慌てて首を横に振る王族。

 そんなことは危なくてしたこともない。


「私たちはしていないけど、そちらではやっているの?」


「………ケンキに誘われて」


 ホーネスト王国の者たちはまたケンキか、と思う。

 護衛もケンキに鍛えられた者たちらしいし、ドラゴンを倒したのもケンキ。

 闘争に関わるものは全部、ケンキも関係しているんじゃないかと考えてしまう。


「もしかしなくてもラーン様も耐毒の訓練をされているんですか?」


「………えぇ」


 王族自身が戦闘能力を持っているのは珍しく思えてしまう。

 当然、他の国の王族も鍛えられてはいるがケンキがいる国よりは鍛えられていないんじゃないかと思ってしまう。


「ちなみに私は下手な護衛よりは強いです。………そうですね、あなた達全員が急に襲い掛かってきても勝てます」


 急にそんなことを言ってくるシーラにホーネスト王国の者たちはどういう意味だと警戒の視線を向ける。

 まさか危害を加える気かと思って身構えてしまう。

 ここは他国の中だ。

 襲われて殺されてしまっても、全員を殺してしまえば真実は誰にも伝わらない。

 護衛達も言い換えれば他国の隠密に優れた者たちに囲まれていると言い変えることが出来てしまう。


「どうしましたか?」


 そして警戒するホーネスト王国の者たちにシーラは怪訝そうな顔を向ける。

 シーラからすれば、自分はこれだけ強いんだと自慢するつもりでしかなかったから疑問だ。


「………あだっ!」


「………この人はただ単に自分はそれだけ強いんだと自慢しているだけです。貴方たちに危害を加える気は全くありません」


「何をするのかしら!私はただ単にケンキに鍛えられて、これだけ強くなったのだと言いたいだけよ!」


「………そういうことですので」


 突然のケンキの出現と行動、そしてシーラの発言に毒気が抜かれる。

 ただ単にケンキに鍛えられた自分はこれだけ強いんだと自慢したいだけだと分かったせいだ。


「………では俺はまた離れたところが護衛していますので」


「ちょっ………」


 折角目の前に来たのだから一緒に昼食を食べようと思ったが、引き留める前にケンキは消えてしまう。

 ホーネスト王国の者たちにとっては、それが酷く残念だった。



「このレストランが私の中で特におススメです。特に肉料理が美味しいです」


 肉料理が特に美味しいと聞いて目を輝かせるホーネスト王国の者たち。

 是非、食べたいと男性陣は思う。

 逆に女性陣は微妙な表情を浮かべてしまっていた。

 肉は美味しくて好きだが、それでもカロリーが高くて好んで食べれるようなものではないせいだ。


「ちなみにここの肉料理はカロリーが出来るだけ低くなるように色々と工夫をされていますよ。私も毎週食べに行っているのに太っていませんし……」


「「「「は」」」」


 シーラの言葉にホーネスト王国の女性たちはシーラの腹回りを見る。

 毎週食べているというのに全く太っているようには見えない。


「………君はもしかして毎日、汗を流しているんじゃないか?」


「そうですけど、よくわかりましたね?」


「肉を多く食べても太らないのは、単純にそういう体質か毎日汗をかいて運動している者ぐらいだろ……。だから肉のカロリーを抑えているとはいえあまり喰い過ぎるなよ?」


 それもそっかと女性陣は太っていないことに納得する。

 毎日運動をしていれば確かに太らない。

 ケンキに鍛えられているのだから訓練も相当キツイだろうと想像する。


「訓練もケンキに鍛えられているんですよね?」


「そうよ?」


 何を当然のことと返すシーラにホーネスト王国の者たちは興味を持つ。

 耐毒のことは聞いたが他にどんな訓練をしているのか興味がある。

 食事をしながらでも話を聞きたいと思った。


「それじゃあ食事をしながらでも聞かせてくれないか?」


「えぇ~?」


 思わずシーラは微妙な表情を浮かべる。

 正直に言って食事の途中で話す内容ではない。

 別の内容にしないかと提案する。


「もしかしてダメ?」


 シーラの反応にダメなのかと質問するホーネスト王国の令嬢。

 強くなる秘訣を聞き出せるのかもしれないのなら、どうしても聞きたかった。


「食事の前にする話じゃないとは思うわ……」


「それでも興味はあるわ。そうね……。肉料理を頼むのは止めて軽いものを頼みましょう。他の皆もそれで良いかしら?」


 その言葉に全員が頷き、シーラへと視線を向ける。

 どうしても話を聞きたいらしい。

 そのことにシーラはため息を吐き、話をすることにした。


「わかりました……。それじゃあ話をさせてもらいますね……」


 シーラが話してくれることにホーネスト王国の者たちは歓声を上げていた。



「それじゃあ早速、訓練の内容を離していきますね?」


 シーラの話してくれる内容にワクワクするホーネスト王国の者たち。

 少しでも強くなる秘訣を聞けると楽しみにしている。


「まずは訓練内容ですが、ひたすらに実戦形式です」


「…………基礎訓練とかはしないのか?」


「しないです。準備運動もしません。突然、奇襲から始まることもあれば予定通りに始まることもあります」


「うわぁ………」


 準備運動もしないと聞いて、かなり怪我をしてしまいそうだと予想できてしまう。

 怪我をした者はいないのか疑問だ。


「それって怪我をしないの?」


「しますよ」


 あっさりと肯定される事実に、もしかしてかなりの頻度で怪我をしてるんじゃないかと想像できてしまう。

 怪我をすることが当たり前の日常になっていそうだ。


「だから訓練の無い日でも朝起きたら柔軟するのが日課になっているわ。急に襲われても抵抗できるようにね……」


 訓練を受けている騎士たちなら、まだ納得できる。

 だがシーラもなると、おかしいとしか思えなかった。


「貴女も奇襲を受けているんですか?」


「当然でしょう?強くなりたいと望んだのは私も同じ。事前にお父様たちにも話して許可を貰っているわ」


 王にも認められているのかと深くため息を吐く。

 普通は自らが望み強くなるためだとはいえ自国の王女にも奇襲を仕掛けるなんて、おかしいとしか思えない。

 何で王も認めたのか疑問だ。


「吐いても止めないし、平然と腹を殴るし、顔も殴られた経験があるわ……。泣いても絶対に止めてくれなくて、どれだけ辛かったか……」


 目の前の綺麗な女の子相手を泣かせて、どれだけ酷いんだと思ってしまうホーネスト王国の者たち。

 婚約者相手なのだから、もう少し優しくしてやれと思ってしまう。


「本当に酷いのよ!何人の前で吐いてしまったのか覚えていないもの!確かに強くなりたいとは言ったけど、容赦がなさすぎるわよ!」


 ヒートアップするシーラ。

 話を聞いていたが段々とシーラのケンキへの愚痴となっていく。

 色々と話を詳しく聞けそうな為、邪魔をせずに愚痴を気分よく零すように相槌を打っていく。


「他は出来る限り丁寧に教えている癖に何で戦闘に関しては厳しいの!?お陰で確かに強くはなれたけど失ったモノも多いわよ!お父様もお母様もむしろ推奨しているし!」


 どうやら王たちは止めるどころか推奨しているらしい。

 たしかに強くなれば、その分だけ生きていけるが娘に対して容赦がなさすぎるように思えてしまう。


「恋は盲目って言うけどケンキだからこそ嫌わなかったし信頼して強くなれたのに……そうじゃなかったらボイコットしてたわよ!」


 強くなるためには師弟の信頼関係も必要なんだなと理解させられる。

 どんな訓練でも強くなれると信じれなければ、やる気にならない。

 最悪逃げ出すかもしれない。

 良くも悪くもケンキの強さが信頼となって応えられたのかもしれなかった。




「…………」


 ケンキはそれを聞いて微妙な表情を浮かべる。

 地味な基礎訓練をするよりは、かなり楽しそうに見えたからだ。

 実際に説明した時は皆も喜んでいた。


「………面白そうだし他国の者たちも巻き込んでみるか?」


 ホーネスト王国の他にも様々な国が、この国に集まっていることは知っている。

 ある程度集まったら一斉に厳しく鍛えてやろうと考えていた。

 そうすれば同じ苦労をした仲間として仲良くなれるかもしれない。

 少しやってみたくなった。


「実際にやる前に確認する必要はあるな。キツイ訓練だからと王に泣きつかれるのも嫌だしな……」


 内容が辛すぎて王族に対する攻撃だとは勘違いされたくなかった。

 それが原因で、この国に戦争を仕掛けられたら困る。

 契約書を絶対に書く必要があった。


「………楽しみだなぁ」


 将来、他国の者同士が協力して挑んでくるのを予想して期待で胸を膨らませる。

 それを成したのが自分で挑まれるのは自分だと想像すると顔がにやけてしまいそうになる。


「さてと何国が留学に来るんだか……」


 予想は聞いていたが正確な数は知らない。

 だが多くの国の者が留学に来るのは知っている。

 対応するのも大変だろうなと考える。


「十か国以上が来たら笑お……」


 どれだけ留学に来ているんだと笑ってやろうと考えるケンキ。

 目的は自分だと聞いているから笑うことしか出来ない部分もあった。


「ハニートラップを仕掛けられても、この国から出ていくつもりは無いんだけどなぁ………」


 これから言質を取ろうと仕掛けてくる者がたくさんいると考えてケンキはため息を吐く。

 留学に来る国が多ければ多いほど、仕掛けてくる者も多くなる。

 常に気を張る必要が出てくるのは面倒だった。


「…………色んな者たちにフォローを頼まないとな」


 ケンキは他国に引き抜かれないために頼めば引き受けてくれるだろうと想像する。

 この国で一番強いのは自分だ。

 奪われるようなことはしないだろうと考えていた。


「あぁ、面倒くさい。余計なことを言わない様に俺もあまり近づかない様にしないと……」


 言質を取られると面倒くさいのだ。

 それを理由に他国に行くことになったら目も当てられない。


「…………それにしても何時まで愚痴をこぼしているんだ?」


 シーラたちの方を確認してもまだまだケンキに対しての愚痴が終わらない。

 ケンキ自身も隠れているが護衛をしているのを忘れているらしい。

 そして他の護衛達を確認すると何度も首を縦に振って頷いているのを確認できてしまう。


「護衛達には後で実戦形式の訓練を更に厳しくしてやる」


 キツイのは知っていたが、やはり何度も首を縦に振って頷かれるのはムカついてしまう。

 シーラも含めて厳しくしてやろうと考えていた。


「…………あ」


 何時までも愚痴をこぼしている者たちを見ていたらようやく終わったようだ。

 立ち上がり店から出ていく。


「さてと……」


 それを確認してケンキも護衛対象が誰からも危害を加えられない様に後ろから付いて行った。

次で本当に完結。

来週の日曜日に投稿予定。

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