話し合い
「よく来てくれた。ホーネスト王国の者たちよ」
「あぁ、久しぶりだな。こうして、また会えて幸運だ」
「それにしても急にどうしたんだ?お前の国の者が留学に来るのは知っていたが、お前まで来るなんて……」
「お前の国にはドラゴン殺しを成した者もいるだろう?一目でも見たくて来たんだ」
「ふぅん。引き抜くためにか?」
「ははは。そんなつもりは無いよ」
王たちは城で再開すると会話を楽しむ。
だが周りで話を聞いていた者たちは誰もが身構える。
「一応、言っておきますけど。俺はこの国で骨を埋めるつもり何ですが……」
「君がそう言ってくれて嬉しいよ。だけど向こうはそう思っていないみたいなんだ……」
「そうですか……。ハニトラには気を付けます」
ホーネスト王国の者たちの前でお前らの企みは気付いていると会話をする王とケンキ。
だが貴族や王だからこそ企みをバレていても顔色を一切変えない。
「何を言っているんだか。単純にドラゴンすら殺した男を見に来ただけだよ。お陰で天地を割るという物語の中にしかモノも見れて満足だがね」
「………ケンキ。何をした?」
「国の外に連れ出して思いきり大剣を振り回しました。そのお陰で俺がドラゴンを倒してことを信じて貰いました」
大剣を振り回すごとに天地を割ったのだ。
それは確かに信じられるだろうなと思うが同時に何をしているんだと呆れる。
魔物に襲われるかもしれないのに国の外に出すなんて危険すぎる。
いくらケンキが強くても万能ではないのだ。
「次からは証明するためとはいえ国の外の連れ出すな。いくら何でも危険すぎる」
「わかりました……」
鋭い視線を向けられて怒られケンキは反省する。
護衛らしき者もいたから大丈夫だと思っていたがダメだったらしい。
「………はぁ。それでそちらの王女も留学するんだよな?何人ぐらいが留学するんだったか?」
「我が娘を含めて六人ほどだ。ケンキ君、君と同じ学校に通うからよろしく頼む」
何故かケンキに頭を下げて頼んでくるホーネスト王国の王にケンキは首を傾げる。
女の子だらけだし他国の王族や貴族の者だからシーラと同じ学校に通うのではないかと想像したせいだ。
だから確認してしまう。
「シーラと同じ学校ではないのですか?この国の身分の高い者はシーラやラーンが通う学園で学んでいるのですが?この国のことを学びたいなら、そちらの方が通う価値はありますよ?」
「国民がどんな生活をしているのか一番知れるのが平民も通っている学園でしょう?だから貴方の通っている学園の方が良いわ。いざとなったら守ってくれそうだし……」
「俺一人よりも、それなりの実力者が複数人いる学校の方が安全ですよ?俺の場合は数の差で襲われたら限りある数しか守れませんし」
他国の王女の護衛をケンキは拒絶する。
そちらを重視して本当に護りたいものを後回しにするのは嫌だった。
「ふむ。確かにな……。ケンキがいくら強くても手が回らないか………」
王たちもどれだけ強くても手が回らず護り切れないというケンキの言葉に納得する。
そして更に評価を上げた。
自分一人で何でも出来ると思いあがっていない様に見えたせいだ。
「なぁ……」
「何だ?」
ホーネスト王国の王の言葉に何か思いついたのかと耳を傾ける王。
「ケンキをそちらの子供たちと同じ学校に通わせることが出来ないのか?生まれは平民かもしれないが実力は認められているのだろう?」
「………そうだな。ケンキ、娘と息子と同じ学園に入って最優先に護ってくれないか?他国の姫君たちは出来ればで良い。お前とシーラを引き離そうとしているからな」
「わかりました」
本人たちを目の前にして喧嘩を売る王。
ケンキが自分達の国から出る気は無いと聞いて強気で対応しようとした結果だ。
これが戦争となってもケンキがいるから負ける気がしない。
数の差で厳しいというのも護る立場からすればだ。
攻勢に回れば関係ない。
単独で国ぐらいなら亡ぼせるだろうと考えていた。
「お前………」
「ちゃんと留学生の中に護衛も混じっているんだろう?我が国にだけ頼るな。そちらでも対策を取っているのが普通だろうが」
「ぐっ……」
否定できなかった。
だがホーネスト王国としてはケンキを護衛になってもらうことによって接点を増やしていこうと考えていたから残念だ。
接点を増えればシーラより自分の娘に惚れると考えているからホーネスト王国の王は悔しかった。
「はぁ………」
それを見てケンキはため息を吐く。
何を考えているのか理解できてしまう。
他にも理解している者たちは冷たい視線を向ける。
目的があからさま過ぎる。
本気で隠すつもりが、あるのか疑問だ。
「もしかして他に何か目的があるのか……?」
ケンキから聞こえてきた言葉に他の者たちも納得する。
たしかに有り得そうだ。
目の前に分かりやすく狙いを定めていて裏では本当の目的を隠れて定めている可能性がある。
ケンキはそれを探るために、ある程度は近くにいるべきかもしれないと考える。
そして、これは周知させるべきだと考えていた。
「何か企んでいる筈が無いだろう?」
そしてそれは当然ホーネスト王国の者にも聞こえていた。
当然だがケンキの言葉を否定する。
「そうですか………。それならそれで良いです。………それよりも王様」
ケンキは問い詰めても無駄だろうと話を切り上げて自国の王へと声を上げる。
「どうした?」
「シーラたちの学校に通うということは転校することになるんですよね。手続きなど準備に時間が掛かりそうです」
「あぁ、安心しろ。私の権力で明日からシーラたちと一緒に通えば良い。面倒なことはこちらでやってやる」
「ありがとうございます」
面倒な手続きなどは王様の権力でどうとでもしてくれると聞いてケンキは有難く思う。
そして親へと報告しなければならないと考えていた。
「………そろそろ失礼します」
「あぁ。明日から頼んだぞ」
王からの言葉に頷き、ケンキは目の前から去っていく。
そしてケンキは親の住んでいる実家へと向かっていった。
「ところで、留学に来た者たちはともかく他の者は直ぐに帰るのか?」
「そうだな……。取り敢えず今日は休ませてもらって、帰るにしても明日からだな。………どうせだ。観光させてもらおう」
「そうか。帰る時は報告してくれ」
「あぁ、わかっている」
王たちは、これからのことについて話し合っている。
何時ごろ帰るのか。
観光をするとして、自分の国の護衛は必要なのかと意見を出しあっていた。
「始めしてシーラ様。私の名前はヘルガといいます。これからよろしくお願いしますね?」
「こちらこそ、ヘルガ様。これから同じ学園で学ぶ者同士仲良くしましょうね?」
ニコニコと王女同士で会話をしている。
両者の背後には龍と虎が見えていた。
「………それにしてもケンキさんは特別扱いされているんですね?敬語を使っていましたが自国の王相手に気楽に受け答えしていましたし」
「それが何?昔からお父様たちが可愛がっていたり、他の者も力になって貰ったりと助けてもらったという実績があるからよ。誰もが認めているわ」
「へぇ、なるほど。昔から実績を上げているんですか。例えば?」
「そうね。我が国の兵士の実力が高くなったり、新しい魔法や魔道具を広めてくれたり……。正直、天才だからこそ性格に難ありだと受け入れているわ。あとポンコツの部分もあるし……」
天才だからこその性格に欠点があると言われてホーネスト王国の者たちは深く納得する。
たしかに天才は性格に難があるというのは良く聞く話だ。
「それにしてもポンコツって気になるわね。何があったの?」
「単純に昔から関りがあったけど、私達が王族だって気付くのにかなり時間が掛かったのよね。いくら隠されていても普通は気付くと思うのに……」
王族だと長い間気付かれなかったと言われて、それは確かにポンコツだと頷く。
他の貴族たちよりも色々と洗練されているのに気づかなかったのかと思う。
「どうも偉い貴族だとは思っていたみたいだけど王族だとは思わなかったみたい。今よりも小さい身体で護衛の騎士をボコボコにしたり鍛えたりしていたしね。護衛や騎士たちが弱くて信じられなかったみたいね」
「そのころから強かったの?」
「えぇ、大人顔負け。私たちの護衛の騎士だから実力も国の中でも上位から数えた方が早いのにケンキはボコボコにしていたわ」
ヘルガはその話を聞いてケンキを正直バケモノだと思ったが、朝の天地を割った光景を思い出して今更だと考え直す。
あの光景を見ていれば昔からとんでもないことをしていても納得できてしまう。
むしろしっくり来ていた。
「それにしても本当にケンキさんのことが好きなんですね?」
惚気を聞かされている気分になる。
好きな相手と結婚出来て、その相手は国として見ても有能。
本来なら王女は国の利益となる相手で好きでもない相手と結婚するのが普通だ。
それなのに目の前の彼女だけは好きな相手と結ばれようとしている。
妬ましかった。
そして、それは一緒に来た他の貴族令嬢たちも同じだ。
「えぇ。私ともう一人の女の子の三人で一緒に生きて行こうと思っているわ」
「二人も抱えているんですか……?なら他にも増えそうですね?」
「増えないわよ。もともと私一人で良かったのに強引に増やしたんだから」
「なるほど。理由があれば増えるんですね?」
付け入る隙はあるのだと目を鋭くさせる王女たち。
シーラはやはりケンキを狙っているんじゃないかと敵視する。
自分の男を狙われ奪われるのは我慢ならなかった。
だが決定的な言葉を口にしていないため憶測で勝手に拒絶することも出来ない。
「一つだけ言っておくけど、私とケンキは婚約者。それなのに奪ったら他人の婚約者でも気に入ったら奪う男好きの女と思われるわよ?」
「だから?あれだけの男を自国に引き込めるなら、どんな手でも使うべきでしょ。………そうね、宣戦布告するわ。あの男は私たちの国がいずれ貰うわ。あの男さえ手に入れれば、彼が生きている限り平和に生きて行けるでしょうしね………」
予想通りにケンキを奪うつもりだと言うホーネスト王国の王女。
宣戦布告までされてしまう。
「ふざけるな……!あいつは俺たちの者だ!!絶対に誰にも渡さない!!」
シーラが宣戦布告に応える前にラーンが口を挟んで来る。
大事にしているのはラーンもだから女性同士の会話に入ってきたのだろう。
絶対にこの国から逃がさないと告げている。
そしてヘルガはそれを好機と見る。
普通は自分が誰かの物扱いされるなんて受け入れれない。
だからケンキもいずれラーンを嫌うだろうと想像する。
その時に言葉巧みにケンキを奪ってやろうと企んでいた。
「ふぅん。彼のことが好きなんですね?」
「あぁ。唯一無二の友だ。絶対に渡さない………!!」
執着されていることにヘルガは思わずケンキに同情してしまう。
もし自分が同じ立場だったら耐えきれなかっただろう。
絶対に逃げていた。
「すごい執着ですね。もしかして彼を逃げられない様にしていたりしています?」
例えば家族とか。
彼にとって身近な者を人質にすれば逃げることは出来なくなるだろう。
もしそうならホーネスト王国で保護しようと打算する。
「そんなわけが無いだろうが!!我が国の民に誰がそんなことをするか!!」
ラーンの言葉を信用するのは難しい。
だからヘルガは国に戻るまでにケンキを堕とせなかったら、ご両親を自分の国に招待しようと考えていた。
「はぁ……。何を喧嘩しているんだか……」
「確かにな………。それにしてもケンキ君は人気だな。まさか二人ともに執着されているようだとは」
「本当にな。昔から付き合いだがあの子はかなり執着されているよ」
ため息を吐くガザ―王国の王にホーネスト王国の王は心配そうな眼を向けてしまう。
王子王女だからこそ洗脳をされないように教育を受けているはずだ。
それなのに、あの執着は心配になってしまう。
娘も同じように執着し始めたら国よりもケンキの方が優先しそうで不安だ。
「大丈夫なのか?」
「あぁ。たしかに執着はしているが王子王女としての責務は忘れてはいないからな。結婚できるように色々と手は回してはいたが、それぐらいだ」
それぐらいなら大丈夫かとホーネスト王国の王は納得しようとする。
責務を忘れていないのなら大丈夫だろうと予想していたからだ。
自分が好きになった相手と国なら国を選ぶはずだと自らの教育に自信を持っていた。
「………洗脳されるとは思っていないのか?」
「ケンキにか?」
ケンキに洗脳されるんじゃないかという疑問にガザ―王国の王は目の前の相手は何を言っているんだと首を傾げる。
昔からの付き合いがあるからこそかもしれないが有り得ないことだった。
「一応言っておくがケンキは洗脳なんてしないぞ?そもそも必要ないしな……。長い付き合いだから情があるのは否定しないが、それはケンキも同じだ。私たちの情があるからこそ大切にしてくれいる」
そう聞くと信頼し合っているのだと理解する。
そしてケンキを奪うのは話を聞くたびに難しく思えてくる。
娘でも奪えない気がしている。
「必要な言ってどういうことだ?」
同時に気になったことがある。
何でケンキにとって洗脳が必要無いかということだ。
王族を洗脳して自分の意のままに操れば国も好きなように操れる。
それなのに必要ないと言ったことが疑問だ。
「あいつはドラゴンすら単独で殺せるんだぞ?洗脳をしなくても、その気になれば暴力だけで言いなりに出来るんだぞ?今のところ、その様子は無いがな」
ドラゴンすら倒せる男だ。
それが自分の国で命令を聞かせるだけに力を振るわれたらと考えると背筋が凍る。
どれだけの民が死んでしまうのか。
確かに言いなりになるしかない。
「それとあいつは洗脳に関して対処法はかなり持っているからな。洗脳しようとした時点で報復されるだろうよ」
昔からの付き合いのある目の前の男の言葉に深く頷くホーネスト王国の王。
規格外に強いというのは、それだけで危険だった。
「………それにしてもケンキは何度も死にかけて強くなったと言っているが本当か?」
「………何度か死にかけていたのは知っている。だけど絶対に真似をするな」
「まぁ、危険だしな」
質問に真似をするとなと返されて、たしかに命の危険だしなと頷く。
見ているだけでも本当に危険で不安になるかもしれない。
「何人が我が国の者が真似をして本当に死んだり、生きて戻っても何も得なかったり、得ても性格が歪んでしまったり、何も得られず性格が歪んだけで終わったりしていた。しかも力を得る可能性自体が低い。基本的に力を得る以外の結果ばかりだ」
「…………まさしくハイリスクハイリターンだな」
真似をさせるのは危険だと禁止にするつもりのホーネスト王国の王。
真面目な騎士が九死に一生を経て性格が変わったのは聞いたことがある。
ガザ―王国の王が嘘とをついているとは思えなかった。
「そうだな。信じれないのなら、その情報を纏めてある記録もあるから読むか?」
「頼む。部下にも何度も死にかけて強くなったという話を聞いた者もいるから、それと一緒に説得して禁止にさせたい」
ガザ―王国の王の提案を有難いとホーネスト王国の王は受け取った。
「……父さん、母さん、ただいま」
ケンキは一度、実家に帰る。
両親に学校を転校することになったことを伝えるためだ。
「お帰り。どうしたんだ?」
「……今、通っている学校をやめてシーラたちと同じ学校に通うことになった。手続きは王様たちがやってくれるから大丈夫。そのことを報告しに来た」
「そうか……。もしかして護衛で転校することになったのか?」
「……正解」
転校することになった理由を当てられてケンキは驚いてしまう。
まさか転校と言っただけ理由まで当たられるとは思っても見なかった。
「もし護衛なんて辛くなったら、すぐに帰ってきなさいよ?必要なら別の国に逃げるからね?」
「そうだぞ。俺たちは国より王よりお前の方が大事だ。この国を捨てる覚悟は既に出来ている」
「………」
両親が覚悟を決めた目で見てくることにケンキは微妙な顔になる。
ケンキからすれば国や王に対して信頼していない様に思える。
「大丈夫だ。俺たちは絶対にお前の味方だからな?」
親として愛してくれることにケンキは有難く思っているが心配し過ぎだとため息を吐いてしまった。
「………安心して。たしかに護衛だけど相手は王女だから気にもならない。将来的には結婚する相手だろうし」
「そうか……。最近は王城で暮らしているが今は幸せか?」
寂しそうに質問する父親。
よく見ると母親も寂しそうな眼でケンキを見ている。
また一緒に暮らしたいと思っているのかもしれない。
「………まぁ、好きな者と一緒に生活できているから幸せだよ」
「そうか……」
ケンキの言葉に両親は残念そうにする。
言葉通りに幸せそうだし家に帰ってくるのは、まだまだ先だろうと考えていた。
「………今度、シーラやラーンと一緒に帰ってくれば良い?」
「え?」
「………当然、許可が下りればだけど」
許可が下りればという条件があるが息子が家に帰ってくることに両親は非常に嬉しそうにする。
そのことにケンキはくすぐったい気持ちになり王たちに実家に帰る日を相談しようと考えていた。
「そうか。そうか!それで今日は家で過ごすのか?」
「いや……。このあとは王城に帰るつもり」
ケンキが家で過ごさないことに少しだけ残念に思うが、それよりも久しぶりに家に帰ってくるかもしれないことに喜ぶ。
帰ってきたら久しぶりに色々と話をしようと思っていた。
「疲れた……」
ケンキは久しぶりに両親に会って気疲れしていた。
二人ともにケンキを可愛がっていて年齢のこともあり恥ずかしく感じていた。
ケンキからすれば、もういい歳なのに子供扱いされるのが嫌だった。
そして、それを拒絶できないのも愛しているのが伝わってきてしまうからだ。
「ようやく産まれた子供だからってなぁ……」
ケンキはドラゴンも殺せるのだから心配はいらないのにと思ってしまう。
殺されることも、よっぽどのことが無ければ大丈夫だ。
「それにしても家に帰る時は面倒だな」
家から離れたところから、もう一度自分の家を見る。
そこでは多くの者がいたる所に隠れていた。
恐らくはケンキの実の家族だからこその護衛と監視、そして人質として人員を配置しているかもしれない。
もしケンキが裏切ったら殺すかもしれなかった。
そしてケンキの他に王族が泊っていたらもっと人員が増えるのだろう。
住んでいて気が休まらないと思う。
「裏切ることは無いけど、王としてはしょうがないんだろうな……。護衛の部分もあるし」
両親に悪いと思うがケンキは国と両親なら国を選ぶ。
そしてシーラと国ならシーラを選ぶことに決めている。
誰かになんと言われようとそこを変える気は無かった。
「さてと………。今日はこれからどうしようか?」
まずは王城に帰るのは決めている。
だが学校に行くつもりはさらさらなかった。
明日から別の学校に転校することになるし行かなくて良いだろうと思っていた。
学校にも置いている物は無いし、あったとしても忘れている以上、大事なものでないはずだ。
もしかしたら王に何か頼まれるかもしれない。
その場合、観光の案内でなければ良いと思う。
ハニートラップも目的にあるから、一緒にいて娘を薦められたりすると考えると面倒だ。
何度、同じことを言っても薦めてくるのが目に見えている。
そして一度でも受け入れるようなことを言ったら、それを見逃さないことも予想できてしまう。
油断して余計なことを言わないためにも別の誰かに観光の案内を任せたかった。
「まぁ、どうなるかは王城に帰ってからだな」
もし観光の案内を頼まれたらケンキは絶対に拒否してやろうと考える。
どうしても護衛として傍に置いておきたかったらホーネスト王国の者たちから隠れて護衛に着くことにしてほしかった。
「ケンキ!」
にこやかな笑顔で近づいてくるシーラ。
それだけでケンキは癒されたような気持になり、自分はそうとうシーラのことが好きなんだろうと再度自覚する。
何か頼みがあるのだろうと予想できても癒されてしまっていた。
「一緒に観光案内しましょう!?」
「嫌だ」
だからと言ってシーラの頼みを断れないわけでは無いが。
「何で!?」
「あの国の者たち俺を引き抜こうとしているだろ。下手に言質を取られたくない。安全のためといっても隠れて護衛すれば良いだけだし」
「それは………」
「もしくは、どうしても本人が必要な転校手続きがあるから、そちらにいるとでも伝えれば良い」
「そうね。王家の権力だけじゃどうしようもない部分があったと言えば良いわね」
シーラもあっさりと頷く。
どうやらホーネスト王国の者がケンキを引き抜こうとしているのも、わかっていたため一緒に観光案内するのは嫌だったらしい。
それに自分の男が誘惑されているのを見て我慢したくなかっただろう。
「ちょっと、お父様に………」
「必要ない。俺が直接行く」
早速、王のもとへ相談しようとしていたシーラをケンキは止める。
シーラが意見を出したら嫉妬深く一緒に行動させないために邪魔をしたのだと思われてしまう。
その結果、シーラは心が狭いとケンキは言われたくなかった。
「王様……」
「どうしたケンキ?」
「俺も一緒に護衛をすると聞きましたが、せめて陰から護衛することにしてください。表向きにはどうしても本人が必要な転校手続きがあるから無理だったことにして」
「………なんでだ?」
王はケンキの申し出に首を傾げる。
どちらにしても護衛をするのなら隠れる意味があるのかと疑問だ。
むしろ隠れていないで堂々と護衛をすれば良いだろうと考える。
「正直に言って勧誘され続けるのがキツイです。下手に言質を取られたくありませんし。護衛なら隠れてやりたいです」
だが、勧誘されているのは知っていたがケンキがウザそうにしている表情に王もその提案に頷く。
あまりケンキを不快にさせたくないし、言質を取られて別の国に奪われたくなかった。
「良いだろう。それじゃあ陰から護衛をしてくれ」
許可を貰えたことにケンキは安心したように頷く。
そして誰にも気付かれない様に存在感を消してシーラがいる場所へと向かおうとしていた。
だが、それは一瞬目を話しただけで消えたように見える
「…………はぁ」
そして王はケンキが見えなくなったことに深くため息を吐く。
一瞬前までは確かにケンキが目の前にいたのに気づいたら消えていたのだ。
相変わらずのわけのわからなさにため息を吐く。
だからこそ強いのだろうが理解の出来ない行動をするのはもう少し抑えて欲しいのが本音だ。
「臣下たちにも子供にケンキを他国に奪われない様にフォローをするように命じる必要があるな」
ケンキを他国に渡さないために王はどんなことでもするつもりだ。
必要とあればケンキの両親、幼馴染でも人質にする覚悟はある。
殺されるかもしれないが、それだけのことをやる価値はあった。
「まぁ、ケンキの言っていることが本当なら娘にべた惚れをしているのが救いだな」
我が娘ながら良くケンキを堕とせたなと思う。
もしかしたら娘がいる限りケンキはこの国から出て行かないのかもしれない。
次の王であるラーンよりも重要になるだろう。
「それにしても王となるための教育は失敗したかもしれないな」
シーラもラーンも王となる教育を受けたにしては、あまりにも個人に入れ込んでしまっている。
大勢を平等な目で見なくてはならないのに一人だけ公正でも何でもなく贔屓をしてしまっていた。
王としてはそれは許されることでは無い。
「いや……。でもシーラは大丈夫か?」
このままいけばシーラはケンキと結婚する。
結婚相手となるケンキ相手に甘いのは意外と許されるかもしれない。
王となるのはラーンだしシーラに権力は無い。
「やはりラーンだな……」
そうなると問題はラーンだった。
シーラと同じようにケンキが大好きなラーン。
王となっても贔屓をしてしまうのが目に見えてしまう。
「王を引退しても息子の治世で心配して過ごすことになるのかもしれないのか……」
何て面倒だと王は嘆く。
幸いにも、まだ時間がある。
少しづつ矯正しようと考えていた。
「ケンキの為だけの国になるのは否定しなければ……」
もしケンキの為だけの国になったら、ケンキ自身も嫌になりそうだ。
自分のせいで国が変わったと罪悪感も抱くのかもしれない。
「ケンキを出汁にすればなんとかなるか?」
ケンキのために国を変えてしまうのなら、上手くケンキを理由にすれば大丈夫かもしれないと考える。
もしくはケンキに協力してもらうのも良いかもしれない。
そうなるとケンキにも政治に関わってもらう必要がある。
「………ケンキにも政治を覚えてもらうか」
ケンキ自身は政治に関わるのは嫌で逃げてしまうかもしれないが、どんな手を使ってでも説得して覚えさせようと決める。
自分のせいで国が傾くかもしれないとケンキも聞いたら、政治を覚えようとしてくれるだろうという打算もあった。




