再開
「へぇ。こうすれば良いのか……って、あ。また消えた」
「惜しいですね。もう少し魔力を込めれば良かったんじゃないですか?」
「そのようだね。お陰で改変のコツは掴めたよ。後は魔力の量の調整だね」
ユーガ達が目を覚ますとケンキと有名な宮廷魔術師がいた。
親し気に話していて何をしているのか気になってしまうのもあり起き上がろうとする。
「………起きたか」
だが視線を向けた瞬間にケンキはユーガ達が目覚めたことを察知して近づく。
その歩みが威圧感を伴っていることにユーガ達は恐怖した。
ケンキの怒っている理由に冷や汗が流れていく。
特にケンキの本当の実力を知らなかったマイナたちは顔を青ざめさせて震えている。
「ユーガ、お前が女子の後ろを付け回して怯えさせたのは本当か?」
((((は?))))
威圧感を放ちながら近づいての言葉に思考が止まる。
同時にそういえばと原因のユーガへと視線を向ける。
「おい、答えろ。場合によってはお前の両親に手紙で報告してやる。ついでに無理矢理、パーティを組んだこともな」
「それは違う!」
無理矢理パーティを組んだという言葉にナトは全力で否定する。
否定したのがユーガではなくナトであったこと。
様子からして咄嗟に出たであろう言葉にケンキは驚いて視線をナトに向ける。
「本当だ。たしかにユーガは女子の後ろを付け回して怯えさせたが、パーティを無理やり入れたのは誤解だ。ちゃんと話し合って決めた」
その言葉にケンキは新しく入った女子に目を向けると頷かれる。
自分の誤解だったことを知ったケンキは頭を下げた。
「悪い、誤解をしていた。それはそれとして手紙で女子の後ろを付け回したことを教えるが」
「……やめてください」
「嫌だ。もともとお前は俺の後ろを付け回していたからな。興味を持った相手なら女性相手でも付け回すんじゃないかとお前の両親は心配していた。もし、そうなったら絶対に伝えてくれと頼まれたから無理だ」
ケンキの言葉にユーガは絶望する。
自分の両親にケンキの後を付け回していたことを知られていたことと、報告されることに対してだ。
「ハッキリ言ってお前の両親は俺や俺の両親、サリナの両親に毎日のように頭を下げていたからな。これからも友達でいてくださいって」
ケンキの言葉にユーガは魂が抜かれた顔をし、サリナは自分の身体を抱きしめて出来る限りユーガから離れる。
どうやら自分も後を付け回されていたことは知らなかったようだ。
生理的な反応で引いたせいで壁に頭をぶつけてしまっている。
「………ユーガ、私の後を付け回したことは無いよね?」
サリナの質問に目を逸らすユーガ。
答えはそれだけ分かってしまい、その場にいた全員が白けた視線を向けている。
しかも全員が侮蔑の表情を浮かべている。
一緒にパーティを組んだのが間違いだと後悔していた。
マイナとシャルはサリナを慰め護るために近づいて目に入らないように守る。
実際にはサリナを隠すようにシャルが護り、そのシャルごとマイナが護るように立ちはだかっている。
「ケンキ。ユーガを抜いて私たちのパーティに入れない?」
「無理だ。お前らだと、少し本気で動いただけで殺してしまう。最低でも衝撃波を抑えれるようになってからだ」
ケンキは口でそう言っているが本人としては手加減をするつもりは全くない。
下手に手加減をして死に懸けるよりは断然マシだと考えだからだ。
一緒にパーティを組みたいなら衝撃波を簡単に防げるようになってからにして欲しい。
ケンキがそう考えているのを知ってかユーガとサリナは白けた視線を向けている。
長い付き合いからケンキの考えていることを予想出来ているようだ。
文句を言わないのはケンキの考えも正論で否定できないからだ。
それに自分たちが魔獣相手に手加減をさせて戦わせた結果、死にかけた目にも合っている。
だから全力のケンキとパーティを組むためにも強くなる必要がある。
他のメンバーには言っていないがケンキを脱退させたのは、そういった目的がある。
ケンキがいるからと無意識に甘えてしまわないようにするためだ。
少なくともユーガ達はケンキと一緒のパーティでいることで強くなれない確信があった。
「そう、残念。ところで、そちらの方は?」
マイナはケンキの言葉に残念そうにし、最初からいた女性について質問する。
声が震えてしまっているのは誰なのか予想出来ているからだ。
しかも自分が憧れている存在が目の前にいることに感激している。
「宮廷魔術師のメイって人」
「「「キャァァァァァ!!」」」
「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」
ケンキが名前と所属を告げた瞬間、男女問わずに雄たけびを上げる。
予想はしていたが明言をされたことで歓喜の感情が爆発する。
それだけメイは人気のある女性だ。
慣れているのか簡単に手を振って笑みを浮かべている。
その事でさえ歓喜の涙を流している者もいるほどだ。
「どんだけだ」
「ふふっ。どうだい?私はかなり人気なんだよ」
本人の言う通りかなりの人気のある女性だ。
特に迷宮学園に通っている生徒には人気がある。
なにせ迷宮学園に通い、飛び級をして国でも有数の証である宮廷魔術師になったのだから。
今ではメイに憧れて迷宮学園に入学しようとしている者もいるくらいだ。
「あの!私、貴女に憧れて迷宮学園に入ったんです!握手してください!」
「あ!俺もお願いします!」
「私も!」
急な握手会が始まりメイは笑顔で答えて、ケンキは一歩下がってそれを眺めている。
それを数十分ほど続いて満足していたマイナが何かに気付いてケンキに視線を急に向けた。
その反応にケンキは何の様かと視線を向け返す。
「貴方とメイさんって、どんな関係なのよ?」
マイナの質問に他のメンバーも頷いている。
有名人と知り合いなことに疑問を抱いている。
「ただの知り合い」
「一緒に迷宮に潜っているのにか?」
「そうだけど?」
只の知り合いが一緒に迷宮に潜るわけが無いだろうと思いつつメイの方を見るが頭を抱えている。
溜息も吐いていることから正確にはやはり違うのだろうと確信している。
ケンキではなくメイに聞こうと質問するが、その前にケンキがメイに質問する。
「そういえば、何でメイもここにいるんだ?」
気軽そうに話しかけているケンキに怒りと困惑の感情がマイナたちを襲う。
一緒に来たんじゃないかと言いたいくなる。
「君の後に付いていったに決まってるじゃないか。いや、本当に追いつくのに大変だったよ。一人だと危ないのに、何で一人で行こうとしているのさ……」
「この程度の迷宮なら一人で十層までクリアできたが?学園でも一学年は十層でクリア扱いだから問題無いと思うんだけど?」
「ハッキリ言うけど、この迷宮は一人では普通そんなに進めないんだけど。絶対に誰かに頼らないと一層を進むことすら難しいはずなんだけどさ……」
メイの言葉にケンキに視線が集まる。
誰かに頼らないとクリアできない迷宮って、それでどうやってクリアしたのか謎だ。
「器用貧乏なら誰だって出来る。それに一学年はという条件でだろ。三学年とかなら出来るだろ」
「………否定はしないよ。但し、その学年だと破格の実力を持ったトップクラスの実力者じゃないと無理だけどね。それに、それ以上の学年でも上位の成績を持っている奴で今、君が言った器用貧乏か万能な者だけだから」
やはり規格外かとケンキの対する評価が決まっていく。
それにしても、どうしてこんな高難度の迷宮を挑ませるのかとマイナたちは頭を悩ませている。
それに対して微笑ましそうにメイは見ている。
「もしかして協力の必要性を学ばせるためですか?」
「へぇ」
ユーガの言葉にメイが感心したような声を上げる。
他に悩んでいたメンバーもユーガの言葉に思い当たる節があるのか納得し、複雑な表情でユーガを見る。
正直、ストーカー行為をしでかす癖に優秀なことに腹が立ちそうにもなっている。
「正解。まさか、これだけで気付くなんてね。これでストーカー行為を仕出かさなければ、かなり優秀なんじゃないかい?」
「ちょっ!?」
ストーカー行為の事を聞いていて話題に出されたことにユーガは止めてくれと懇願している。
その状況に笑いが起きるが、ハッとしてマリナが声を上げる。
「って待って!結局、ケンキとメイさんの関係を聞いていない!」
「だから……」
「ケンキは黙りなさい!私はメイさんに聞いているの!?」
マイナの言葉にケンキは不満そうになる。
自分の答えに納得していないことに不満を抱くが当然だろう。
少なくともメイはケンキの説明に頭を抱えていた。
それを見て納得するほうが無理だ。
「関係と言っても最近、知り合ったばかりだからね。まぁ、ちょっとした弟子と師匠みたいなものだよ。彼は魔法を新しく創ったり、既存のモノを改変したりしていたからね」
マイナとナト、シャルはメイの言葉にケンキを見て、ユーガとサリナはやっぱりかと納得する。
その反応にメンバーたちよりもメイが反応して問い質す。
「その反応!君たちもケンキ君がそれらを出来ることを知っているんだね。もしかして君たちも出来るのかい!?」
「ひゃっ!!ケンキ君……!」
「うわっ!」
あまりの反応にサリナは怯えてケンキの後ろへと回り込む。
その行動にケンキは驚くが、それよりもユーガがメイに掴まれて逃げられないようにされていることに溜息を吐く。
何度も身体を揺らされて気持ち悪そうだ。
だから後ろに回り込んだサリナを無視してユーガ達に近づいてメイの頭を叩いて落ち着かせる。
「いたっ!」
「何度も揺らせて答えられるわけがないでしょう?それと俺の記憶が正しければ使えなかったはずです」
ケンキの言葉にメイは次第に落ち着き納得するが、ユーガとサリナの表情に二人を呼ぶ。
それに対してケンキはユーガをサリナと同じように後ろに回して行かせないようにする。
メイはその反応に悲しくなるが、さっきみたいに暴走しないと言って二人を抱き寄せて耳元に口を寄せる。
「ケンキ君は異端と言っていいからね。できなくても不思議ではないよ。落ち込むよりは今の自分のできることを鍛えなさい。あれもこれもと手を出して鍛えるよりは絞った方が良いからね」
どうやら二人の落ち込んだ表情に励まそうとしている。
だが、ケンキに追いつこうとしている二人からすれば逆効果となった。
どうすれば追いつけるのかと途方にくれた表情になる。
「焦らない。少しずつでも毎日強くなれば、いつか追いつける。焦れば焦るほど差が広がるだけだよ」
メイの言葉に二人は強く睨む。
知ったようなことを諭すように言ってくる、この女性が気に入らない。
憧れの相手でもあるが、こうまで言われると嫌いになりそうだ。
「正直、魔法の改編や新しい創造は私でも難しいんだ。どちらか一方だけでも数年はかかりそうだ」
その言葉に更に二人は怒りが湧く。
その反応に全員が理解できない。
何かを話しているのは理解しているが遠く小声で話している為に聞き取れないでいる。
メイが怒らせているのは理解できたが何を言っているのか不思議に思う。
「当たり前です!ケンキがどれだけ時間を掛かったと思っているんですか!?それをちょっとコツを教えてもらったからって出来るわけないじゃないですか!?」
「サリナの言う通りだ!あいつがどれだけ努力していたか知らない癖に簡単に真似出来ると思うなよ!数年間、ずっと暇さえあれば毎日やっていたんだ!あまつさえ身体を鍛えている時間も必要だからと徹夜して魔力の制御の訓練をしていたんだぞ!」
だから線が細く、背も小さいのかとメイは納得する。
ナトとマイナも隠していたことはともかく努力の内容に感心する。
徹夜や夜更かしは身体の成長は調子に悪影響を及ぼすと聞いたことがある。
それの影響だとしたら、どれだけ自分を徹夜して鍛えてきたのだろうと視線がケンキに集まる。
ハッキリ言ってケンキの容姿は白髪赤眼で150センチ以下の身長で合法ショタだ。
その手の相手にはたまらない容姿だ。
「だから、そんなに小さいのね」
「こんなに小さいのに努力をしてきたんだな」
「すごい……」
マイナたち三人はケンキの頭を撫でて褒めている。
明らかに年下の子供に対する扱いに死んだ目で何も言わないケンキ。
普段から、このような扱いをされている為だろう。
小さいせいで撫でやすい位置に頭がある。
「わかっているよ。だからこそ私は彼を尊敬している。そして繰り返しになるが、焦るなよ。私は自分に憧れて追いつこうと焦って身体に障害を抱えた者を知っている」
「だから……!」
「中には自分の責任なのに私を責める者がいたね。それとは別に仲が良かった子も無茶のし過ぎで障害をおったりね。その子は責めなかったけど当時は辛かったよ。いや今も思い出すと悲しくなる」
続けられる言葉に反論しようとした言葉が出てこない。
特に追いつきたくて無茶した結果の話が他人事とは思えなくて先程までとは違い素直に聞いてしまっている。
自分たちもただケンキに追いつきたいだけで、その所為でケンキを責めてしまうような結果になるのは避けたい。
それを、この女性は経験しているのかと理解して焦るなという言葉に素直に頷くことが出来た。
「ケンキ、私の膝に乗せて上げるわ」
「止めろ」
「嫌よ。………やっぱり軽いわ。しかも抱き心地が良くて手放せないわ」
「あの……?私にもさせてもらえませんか?」
「後、十分は貸して」
「約束ですよ………」
「わかってる。わかってる」
一方、ケンキは女子二人に玩具にされている。
背が小さい為に簡単に持ち上げられ抱きしめられる。
ナトからも微笑まし気にみられ表情が死んでいる。
「って何をしているんだ!?」
ユーガがケンキの状況に気付いて叫ぶ。
その所為でメイがズルいと叫び、目にも止まらぬ速さでケンキを奪って抱きしめる。
「うぐぉ」
余りの早業にケンキも悲鳴が漏れる。
そしてメイの活動にユーガ達はある疑念を覚える。
(((((もしかしてメイさんってショタ?)))))
だからこそ一緒に迷宮に来たのだと想像して首を横に振る。
まさかの憧れの目標がそんなわけが無いと必死に否定していた。
「ふむ。結構、抱き心地が良いね。これからテスト期間はずっといることになるんだし、その間はこうやって癒されるのも良いかもしれないね」
「「「「「はぁ!?」」」」」
「小さい子供に癒されたいなら幼稚園のアルバイトでもすればどうだ。毎日、触れあえるぞ」
「「「「「「んん?」」」」」
ケンキの突然の突拍子の無い言葉にメイも含めた全員が理解できないでいる。
本人としては自分の背が小さいから子供の様に思い癒されていると思っていた。
「あぁー。ケンキ?」
「なんだ?」
「何で幼稚園?」
今度はケンキが首を傾げている。
何で分からないんだという表情にユーガ達はイラっとしながらも説明を求める。
「俺は背が小さい。そんな俺を抱きしめて癒されると言った。なら背の小さい者なら誰でも癒されると思ったんだ。そして俺以上に小さい子供なら更に癒されると思ったんだが?」
つまり小さい子相手なら誰でも癒されると判断されたらしい。
メイはそれを聞いて首を横に振る。
ショタコンと思われたくないのだろう。
「自分で背を小さいと言うのね……。まぁ、言いたいことは理解できるわ。でも幼稚園のアルバイトは無理だと思うわ」
マイナの言葉にケンキは何故だと視線を向ける。
メイは自分がショタコンだと前提の意見に項垂れる。
「宮廷魔術師だから副業は出来ないわよ。基本的に普段から城から出ないで鍛錬をしているか研究しているぐらいだし」
マイナの言葉に今度はメイに視線が集まる。
その宮廷魔術師が何でここにいるのか疑問なのだろう。
「私は溜まってた有休を使ったからだよ。後、私はショタコンじゃない!」
「じゃあ、抱きしめるな」
「無理だね」
ショタコンじゃないという言葉にケンキが口を出すが即答した答えに白い眼を向ける。
ケンキからすればどうしてそこまで抱きしめようとするのか理解できない。
「溜まっていた有休を使うって。それよりも可愛いものとか好きなんですか?」
「あれ?今、俺って喧嘩売られている?」
「そんなつもりは無いから黙って」
「ふざけるな。この場合で可愛いモノ好きって小さいモノ相手だろうが。これでも背が小さいことは気にしているんだ」
「「「「「可愛いなぁ」」」」」
背が小さいことを気にしているケンキに男性女性問わずに可愛いと言われるケンキ。
その事に更に不快な気分になるケンキ。
そして、その様子が理解できて更に可愛く思う全員。
悪循環になっている。
「腹立つ。無理矢理、迷宮から脱出させてやる」
「へぇー。転移でもさせるの。あんな古代魔法、御伽噺で使える者がいないのに」
有り得ないと考えているから笑って、そんなことを言うメイ。
マイナたちも御伽噺しかない魔法の話題に苦笑する。
バカにして笑ったりしないのは再現する為、もしくは開発するための研究は各国で行われているからだ。
少なくともそれが扱えるようになったら今よりも遥かに安全に各国を移動できると期待されているからだ。
何よりも今は御伽噺としか残っていないが過去には実際に使って移動していた者もいるという文献は多く残っている。
だから決して笑い話ではない。
「そうだけど?」
その言葉と一緒にケンキが抱きしめられたまま剣を振るうと、空間が斬られた先に迷宮の入口近くが目の前に開かれた。
「ほら」
ケンキがそう言って近くにあった石を投げる。
「いたっ」
「あっ」
そうすると向こう側にいる者に当たってしまう。
「すいません。この空間が繋がっていると証拠を見せたかったんです。これで許してください」
ケンキがぶつかった者に渡したのはかなりの価値がある金塊。
これを売るだけで数年は遊んで暮らせる代物だ。
あまりの高価のものにぶつかった者は狼狽える。
「いや、怪我はしてないし大丈夫だ。それより、これは一体」
「空間を切って繋げただけ。魔法と剣技の応用。それと、そろそろ離れろ。死ぬぞ」
ケンキの言葉と共に繋がれた空間が閉まっていく。
「え?なにこれ」
目の前で起こった光景に混乱する。
それを尻目にもう一度ケンキは剣を振るう。
今度は学園の前。
そして開いた瞬間にケンキは全員を投げ飛ばす。
さっさと入って欲しいからだ。
距離に応じて魔力も使うから何度も使えるわけではないのも理由だ。
「メイ君?それにユーガ君たちも一体何が……?」
何もない空間からケンキ達の姿が映り出現したことに偶々、居合わせた者達は混乱している。
無論、メイたちも混乱している。
むしろ直接、経験したからこそ混乱しているのだろう。
そんなメンバーたちを無視してケンキは寮へと戻ろうとする。
「いや、待てよ!」
ユーガが真っ先に気付いて止める。
マイペースに行動しているケンキに聞きたいことがあったからだ。
「お前は何時から出来るようになった!」
「今のことか?」
ユーガはケンキの質問に首を縦に振って答える。
少なくともユーガは知らない。
サリナに視線を向けるが首を横に振っている。
「最近、なんとくなく実行したら出来るようになった。もしかしたら魔法に適性無い者は御伽噺に有る魔法の何かに才能が有るんじゃないか」
その言葉と共に新しい事実が発見したことに鳥肌が立つ。。
同時に更に実力がかけ離れていることに悔しさで何人かが拳を強く握っている。
「そ……そう。ケンキ君、貴方は学生として過ごすよりも宮廷で研究していたほうが良いんじゃないかい?」
「…………身体が訛りそう」
ケンキの否定の言葉に頭が痛くなる。
体が訛りそうって、そんな理由で拒否されるものでは無い。
「そんな理由だったら、無理矢理にでも宮廷魔術師にさせるわよ」
「思い付きが偶々、成功しただけで理論も癖も無いんですけど。妄想が元ですし」
「なら、その思い付きを提供してくれないか?妄想でも良い。今の実際に見せたり魔法の改編のことも実演して見せれば真面目に受け取ってもらえるはずだ」
「妄想を真面目に受け止められるとか……」
ケンキの嫌そうな顔に口に出した言葉を真面目に考えると、確かに嫌だなと頷く。
その表情に不満そうな顔をしていた者も説明を冷静にされると不満の感情も消える
自分の妄想が真面目に考察されてるのは嫌なのだろう。
だが当然ながら説明を受けていない者、されても感情が出来ていない者もいる。
それらはケンキに対して憎々し気に見ている者もいる。
「………そう。まぁ良いや」
「うん?ケンキどうしたんだ?」
「何でもない」
ユーガは直ぐに立ち上がりケンキの傍へと歩いて行く。
その光景にサリナも急いで立ち上がり一気にケンキへと後ろから抱きつく。
急な行動にケンキは前に倒れそうになり、ユーガが慌てて支えたこともあり倒れなかった。
「サリナ、お前は何をやっているんだ?」
「う……。ごめんなさい」
「次からは止めて。最悪、怪我をする」
「うん。ケンキ君、ごめん」
「そうだケンキ。久しぶりに一緒に飯を食べないか?おススメの店があるんだが」
幼馴染たち三人はそのまま帰路へと歩いて行く。
気安く見えるそれはたしかに幼馴染だと理解させる。
「良いけど、他のメンバーは良いのか?」
「偶には幼馴染だけで揃って食べに行きたいんだがなぁ。悪いけど偶には許してくれ」
「その……。お願いします!」
二人が頭を下げたことにマイナたちは慌てて頷く。
自分たちも偶にはパーティとは別の親しい者と集まりたくなる気持ちはわかっている。
特にケンキは元パーティメンバーだ。
だから、そこまできにすることではない、
「なら先に解散させてもらうぞ」
ユーガはそう言ってケンキを引っ張って今度こそ帰路へと歩いて行った。
そして暫く、その場にいた者が何もせずにいたところに叫び声が響き渡る。
「有り得ないだろう!!」
その声はメイのモノだ。
急な出来事で誘うことしかできなかったが、本人としては聞きたいことが山ほどある。
それが空間転移なんて代物を見せられた動揺もあって言葉に出来なくなった。
「どうしたって……。まぁ、大体は把握しているけど確認したい。転移魔法何て開発されているのか?」
教師との話し合いが終わったロングがメイに尋ねるが首を横に振って答えを返される。
つまりはこの時点でケンキは誰よりも魔術師として優れていることになる。
どんな手を使っても囲みこみたい人材だ。
「無茶苦茶ね。案外、ハニトラ要因としてメイちゃんが送り込まれるんじゃない?」
「なっ!急にバカなことを言うな!」
顔を真っ赤にして否定するメイに可愛いと抱きつくノウル。
メイの反応に周囲にいた面々はざわつく。
まさか、という考えでケンキに嫉妬する者もいる。
「そんなことよりケンキの勧誘に手伝ってくれないかい?彼が本格的に宮廷魔術師になって研究を手伝ってくれれば、どれだけの技術が進歩するか……」
「お前の言っていることも分かるが、彼はまだ15の子供だぞ。そもそも、こんなことを信じられるかどうか」
「その辺は実際に見せれば大丈夫の筈だよ。実際に見て信じられなければクビにさせられるだろうしね」
厳しい意見に苦笑するロング。
「それでメイは実際に見て理屈はわかったの?」
ノウルの言葉に首を横に振る。
「私には大剣に魔力を纏わせたようにしか見えなかったよ。もしかしたら、あの大剣に仕掛けが有るのかもしれないね」
「有り得るけど、それを何処で手に入れたのかも問題だし。彼の言葉を信じるなら純粋の彼の実力にもなるんじゃない?」
「そうなんだよね。魔法を独自に改変したりと全てを話して貰うのに王様にも絡んでもらう必要があるよ」
「まぁ、しょうがないか」
メイとノウルの会話にケンキに対する嫉妬の感情が学園内に更に渦巻く。
「済まないけど、私は宮廷に戻らせてもらうよ。もしかしたら明日は参加できないかもしれないけど許してくれないか?」
「構わない。それだけの事をケンキはしていたからな。報告も時間がかかるだろう」
「そういうこと。まぁ、来れたら行くし連絡はしておくよ。じゃあね」
そう言ってメイは宮廷へと戻っていった。
他の者もそれをきっかけにそれぞれ寮へと帰る。
だが何人かは帰らずに自然に集まっていた。