留学生
「…………ん」
ケンキが目覚めベッドから起き上がった姿にシーラは何かあったのだと察して首を傾げる。
自分では何があったのか理解できないため隣に座って確認をする。
「何があったのかしら?」
「他国の者たちが来た感じがする?」
シーラはケンキの言葉にスパイか、それとも留学生かと想像する。
スパイだとしたら捕えなくてはいけないし、留学生だと迎えの準備をしないといけない。
相手も自分と同じ王族。
丁寧に迎え入れる必要があった。
「そう……。今、どこにいるのか分かる?」
「多分、国の外」
なら相手は留学生だろうとシーラは予想していた。
「なら着替える必要があるわね。ケンキも誰に見られても問題ないように着替えなさい。迎えに行くわよ」
「わかった」
ケンキが頷いたのを確認してシーラとケンキは着替え始めることにする
まずはシーラがメイドを呼ぶ鐘を鳴らした。
「何の用でしょうか?」
すると朝はまだ早いのにメイドがしっかりとした服装で来る。
「他国の王族が来たらしいわ。迎えに行くから、それに相応しい服装をしたいのだけど……」
「わかりました。それではシーラ様はこちらへ。ケンキ様はそちらの者が準備させていただきます。王様方も起こすように指示も出させていただきます」
「えぇ、お願い」
メイドの働きぶりにシーラは感心し、それで良いと許可を出す。
こんな朝早くに来たのだ。
向こうも迎え入れる準備が出来ていないのを理解していると思う。
それでも来ているのだと知っているのだから出来るだけ早く準備をしたかった。
「…………」
そして着替えてからケンキは自分の姿を鏡で見て微妙な雰囲気になる。
正直に言って似合わないと思っている。
それに色んな所に豪華な装飾が付いており動きにくいと思っていた。
「どうしたのかしら、ケンキ?」
「似合わないし動きにくい」
ケンキは自分の姿を見て正直に着替え終わったシーラに言うが首を傾げられる。
シーラから見れば普通に似合っている。
豪華な服にもケンキは敗けていなかった。
「そんなことは無いわよ。それよりも他国の王族の元へ行くわよ?案内している間にお父様たちも着替え終わっているだろうし」
シーラの言葉にケンキは少しだけ自信を持ちシーラをお姫様抱っこをする。
「ちょっ……」
そして、そのまま他国の王族がいる場所へと移動した。
「この国にドラゴンすら倒す戦士がいるのか……。この国の王女と婚約しているみたいだが、色仕掛けでも何でもして奪ってこい。その為にお前以外にも国でも有数の家格もあり容姿を優れているお前らを連れて来たんだ」
他国の者たちは何時までも外にいるのはマズいということで中に入れてもらった。
そして使わせてもらった部屋に盗聴防止魔法を使用し王は自分の娘と家臣の娘に念押しをする。
「はい。わかっています」
それに対して王の娘自身が代表として全員が頷いた。
天災であるドラゴンすら単独で屠れる戦士。
それが国にいればドラゴンに襲われても安泰だし、他の国に対しても強く出れる。
国の為を思えば自分達がハニートラップをするのも抵抗は少なかった。
もともと自分の意志で結婚できること自体が可能性として低いのだから。
「………ところで私たちは女の子同士で話し合いたいと思いますが、少し離れて大丈夫でしょうか?相手がどんな女が好みなのか詳しく話し合いたいので」
「わかった。こんな朝早くに来たのだ。どうせ、この国の王族たちもまだ起きていないか、準備をしている最中だろう」
娘の言葉に王は許可を与える。
そして娘を含めた女たちが別の部屋に移動したのを確認して深くため息を吐いた。
「お前たち、すまない……」
そして残った家臣の男たちに王は謝罪する。
ハニートラップ要因として連れてきた女の子たちの中には彼らの娘もいた。
本来なら別に政略結婚に使うはずの者もいたはずだ。
そして、その相手は互いに信頼できるか協力しようと約束した相手。
だが今回は信頼も人となりも分からない相手を国に引き抜くために強引に王は引き抜いた。
「いえ、これも国の為です。そして王自身も娘を差し出しているので文句はありません。それに我が娘たちを含めて政略結婚に使おうとは思ってはいても誰も婚約者はいない状態でしたので」
その言葉に頷く家臣たち。
「できればドラゴンを倒した戦士が性格に難がある者でなければ良いのですが……」
「ドラゴンを単独で倒すことを考え実行し成功した男だぞ!性格に難があるに決まっているだろ!」
それもそうだと男たちは頷く。
あとは下半身直結屑野郎ではないことを祈るしかなかった。
娘たちがハニートラップを成功する前提で話しているが、この場にいる父親たちからすれば娘に惹かれない男はいないと思うぐらいには娘を可愛がっていた。
「ところで私たちもドラゴンを倒した戦士に会えるんですよね?婿になるだろう男はどんな者か直接会ってみたいのですが?」
「あぁ。そこは必死に頼むつもりだ。お前たちも実際に会って確かめてみろ」
王の言葉に感謝する家臣たち。
自分の家を任せることになるだろう者もいるのだ。
性格ぐらいは確認したかった。
「すいません。ここにホーネスト王国の方がいると聞いたのですが?」
その言葉に何の用だろうと王族たちは疑問に思う。
そして家臣たちと頷き合って扉を開けた。
「はじめまして……」
「ホーネスト国の王。お久しぶりです」
そこにいたのは背の小さい男と国同士の会談で見たことのある少女がいた。
少女に関しては誰なのか直ぐに理解できた。
この国の王女だ。
「あぁ、久しぶりだ。それにしても、その男の子は一体?」
背の小さい男の子の正体について王たちは全く予想できずにいる。
誰なのかと疑問を持つのも当然だろう。
「初めましてホーネスト王国の方々。俺の名前はケンキと言います。以後お見知りおきを……」
「「「「!!!」」」」
小さい男の子がケンキと名乗ったことに王族たちは視線をケンキに集める。
こんな小さな男の子がドラゴンを倒せたことも信じがたい。
「一応、言っておきますがドラゴンを倒せたのは事実ですよ。証拠を見せましょうか?」
ケンキの提案にホーネスト王国の者たちは頷く。
証拠を見せれるなら見せて欲しいと思っていた。
ドラゴンという天災をこんな小さな子供が倒せるなんて思いたくもない。
「それでは……」
そしてケンキは手当たり次第にプレッシャーを掛ける。
それでも配慮はしていて、王族たちがいるこの施設以外には影響が無いように配慮していた。
「まぁ、この程度なら誰でも出来るでしょうし……。それよりも一度、国の外に出ましょうか?」
その方がもっとわかりやすい証拠を見せれると言えば王族たちも頷き、国の外に出ることになった。
「お父様、先程のは一体!?」
外に出るためにプレッシャーを解除すればハニートラップ要因の娘たちを筆頭に王たちと同じ部屋に集まってくる。
そして王は娘たちに、あの小さな男の子がケンキだと告げる。
「え?」
思っていたのと違い、かなり小さい男の子の姿に動揺する。
ドラゴンを倒したのも嘘なんだろうと言いたくなるぐらいには予想とは違い過ぎる。
「今から、その証拠を見せてやると言われてな……。お前たちも実際に見た方が良いだろ?」
王の言葉に頷き、ドラゴンを倒した証拠を見るために一緒に国の外に出る娘たち。
どんな手品を見せてくれるのか期待していた。
「さてと国の外に出たが何を見せてくれるのかね?」
そして王も目の前の男の子が何を見せてくれるのか期待していた。
たしかにプレッシャーを掛けられたが国にもそのぐらいのことが出来るものは普通にいる。
今までは王という身分から掛けられることが少なかっただけだと王は理解していた。
「こんなのとかでしょうか?」
それに対してケンキは手にしている大剣を上から下に振り下ろすだけ。
確かに見た目に似合わず剛力の持ち主なのだろう。
そして剣の振り下ろした姿も全く見えなかった。
だけど、それだけかと王はやはりドラゴンを倒したのは嘘だったのだとため息を吐く。
「な………」
だけど王以外の者たちは男も女も関係なくに口を開けたままにして驚いていた。
「何を驚いているんだ?」
「王こそ何で平然としているのですか……?よく見てください。先程大剣を振るった先の光景を……」
その言葉に王はもう一度しっかりと見て声を失ってしまった。
「…………」
「……ついでにもう一度」
そう言ってケンキはもう一度、大剣を振るう。
その結果、地平線まで斬撃の後で大地は切り裂かれ、空も切り裂かれて割れてしまっている。
それが二度。
目を疑いたくなるが確かな証拠として、そこにあった。
「あとこれも実際に振るって確かめてみますか?」
ケンキは武器に何か理由があるのではないかと思われることを想像したのか自分の使った大剣を手渡す。
天を裂き、地を割ったのは武器の能力で誰でも出来ると思われたくなかった。
この武器さえ使えばドラゴンを倒せると勘違いするのを見たくない。
それで死んで自分のせいにされるのは嫌だった。
そしてホーネスト王国の者たちは言葉に甘えて大剣を手に取る。
何人かは持つことが出来たが多くの者は大剣の重さに持つことが出来なかった。
「本当だったんだ……」
地を裂き、天を割る。
そんなことは物語の中でしかありえない出来ことだとホーネスト王国の者は思っていた。
そして、それが出来るからこそケンキはドラゴンを倒せたのだと理解する。
もはやケンキがドラゴンを倒したことに疑う気持ちは無かった。
そしてだからこそホーネスト王国に留学する者たちは決意を新たにする。
この男を自分に惚れさせて国に連れて来ることが出来れば、少なくともケンキが生きている間は他国の侵略からも天災からも安全だと。
それにこれだけの強さだ。
ほんの一端でも強さを秘訣を理解することが出来ればケンキ以外の者たちも更に強くなれる可能性がある。
今だけでなく将来的にも民を守り国を残すことにも力になりそうだった。
ホーネスト王国の者たちはケンキを天才なのだろうと完全に理解するのを諦めて僅かでもケンキの技を盗む必要があると考える。
その為には娘たちの努力が必要だ。
父親たちは娘に対して確実に堕とせと無言のエールを送り、娘たちもそれに対して頷いて答えた。
「それにしても綺麗な女性たち多いですね……。男の者はいないんですか?」
ケンキの疑問にシーラは無表情で冷めた視線を送り、留学生たちは自分達が綺麗だと褒められたことと男がいないのかと残念そうな表情をするケンキに黄色い悲鳴を上げる。
もしかして男が好みなのかと思い、現実に同性愛者がいると聞いて嬉しくなった。
そういうのがいるということは知識では知っていた。
だけど現実では見たことが無かった。
「そうだが、君は女より男の方が好みなのかね?」
それを聞いてケンキは笑った。
「同性愛の気は無いですよ。ただ……」
「ただ……?」
「留学生だから男女両方いると思っただけですよ。それなのに女の子しかいませんし。勉強しに来たんですよね?俺のことを知っているなら鍛えたり強さの秘訣を教えてもらいに来る男がいると思いましたしね。教えてもらえなくても実際に来て盗めば良いだろうし。………あぁ、ドラゴンを倒したなんて信じられないか」
ケンキの言葉にホーネスト王国の者たちは恐怖する。
ほとんどが合っていた。
特に女の子しかいないということでハニートラップを仕掛けようとしているのも見抜かれたと感じている。
それはこの国の王族のシーラも同じで女性陣を睨んでいた。
「あらあら。そちらには有望な男がいないのかしら?他人の婚約者を盗もうとするなんて?」
「………そん「単純に俺がお前以外の女にも手を出しているから隙があると思ったんじゃないか?お前自身も薦めてきたし……」へぇ?」
シーラと向こうの王女が会話でやり合う間にケンキが間に入る。
そしてケンキの発言に向こうの王女が口を吊り上がる。
その情報は入ってきてなかった。
「あらあら、それなら別に良いじゃない?浮気推奨なんでしょう?もしかして寝取られ趣味?」
「違うわよ。それに貴女自身、何を言っているのか理解しているのかしら?私の男を狙っていると言っているような者なんだけど?」
「王族の娘として当然でしょう?それに奪われたら奪われたで貴女の魅力が私より下なだけでしょう?」
「なら奪われなかったら貴女の魅力が私より下になるわね?」
女の子同士の会話に男性陣全員が怯えて距離を取る。
ケンキも離れてため息を吐いていた。
「一応、言っておきますけど俺が好きなのはシーラだけですからね?」
「ほう、うちの娘には魅力が無いと?」
「綺麗だし容姿も優れていますけど、シーラがいるので相手にしようと思いません」
ホーネスト王国の王はケンキがシーラに心底惚れているのだと察する。
誰が相手でもシーラ以外は魅力的に思わないのだろう。
自分の国でもそういった者がいて見たことがあるから厄介だった。
そして同時にそこまで考えて首を横に振る。
ケンキの他の女をシーラに薦められて手を出すことになったという発言を思い出したせいだ。
もしかしたらケンキよりもシーラを先に堕とした方が我が国に連れて行けるんじゃないかと考える。
「それと他の女に手を出したといっても訳ありで自分達が後ろにいると広めるためですし」
訳ありと聞いて納得し警戒する。
王族の女が受け入れ、後ろに着くと明言するのだ。
基本的にプライドの高い女が自分と同じ男をあてがう。
どれだけ有能なのだろうと想像していた。
「そうか。訳ありか……。どんな女性なんだ?」
「教えませんよ?」
何を言っているんだというケンキの発言に王は内心、舌打ちをする。
ここまで気軽に警戒していないんじゃないかと色々と話してくれたのに、それだけ教えてくれない。
調べればわかるかもしれないが危険に感じる。
ドラゴンすらも倒せる男が王族と一緒に護る相手。
そう考えると娘に無事でいたいなら出来るだけ探るなと忠告する必要があるかもしれない。
「それにしても俺ってどれだけ知られているんです?」
話を変えてきたケンキに王は何のことかと視線を向ける。
あまりにも急すぎてついていけない。
「俺がドラゴンを倒したってことですよ。それを知ったからこそ貴方は娘たちを留学させたんですよね?他にも、どれだけの数の国が留学しに来るんだろ」
そして、その数だけホーネスト王国と同じようにハニートラップが仕掛けられる。
愛している者と婚約しているのに引き裂かれそうに色々と仕掛けられているのは同情してしまう。
だけど自分も同じことをしている立場だからホーネスト王国の王は何も言えないし、そんな資格は無かった。
「…………さぁな。詳しいことは私も知らないが結構な国の数が君を獲得するために動いているはずだ。少なくとも大国はそうだろう」
ホーネスト王国の王の言葉にケンキはため息を吐く。
他国に行く気は無いのに勧誘されるなんて、ひたすらに面倒に思っていた。
シーラも理解はしても嫌な気分になるだろうし、自分もシーラと同じ立場だったら不安になり不快で嫌だった。
「さてと、王城に案内しますけど大丈夫でしょうか?城の者も準備できていると思いますし」
「時間稼ぎか……」
「そのお陰で俺がドラゴンを倒せるだろう実力は示せただろ」
「たしかに………」
時間稼ぎという言葉にホーネスト王国の王は不満を抱かない。
話を聞いていた他の者たちも同じだ。
ケンキたちと一緒に行動を始めて、それなりに時間は経っているがまだ早い。
こんな時間に来られても対処なんて出来るはずが無い。
「そうですか……………。あれ………?」
「どうしましたか?」
家臣の者が一人、首を傾げる。
「貴方はどうやって私たちのことを知ったんですか?明らかに城とはかなり離れていますし、城から私たちのとこまでに来るのに普通ならもっと時間が掛かるはずですよね」
そういえばと思い出す。
たしかに城からは距離もあるのに知らせを受けてから来たには早すぎる。
「国の中に入った時点で気付けましたので。だから直ぐに着替えて城の皆にも起きて貰って準備をしてもらっています」
国の中に入った時点で気付くと聞いて思いついたのは結界だった。
それで侵略者や他国の者が国の中に入ってきたら知らせる結界を国を覆うぐらいの規模で張れている時点で魔法使いとして優秀なんじゃないかと思ってしまう。
「それにしても……。あいつらは何時まで言い合っているんでしょうね?」
ホーネスト王国の者たちを城へと案内しようと思っているが、目の前には口喧嘩をしている女性陣。
あれが終わるまでは行きたくないと思ってしまう。
「そうだな……。片方は君の恋人だろう?止めないのか?」
「それを言うなら、もう片方は貴方たちの娘さんですよね?貴方が止めてはどうですか?」
二人は互いにどっちが止めるかと押し付け合う。
家臣たちも距離をとって遠巻きに見ている。
「………それか家臣の人たちに代わりに止めてもらってはどうでしょう?」
遠巻きに見ていた家臣たちも急に巻き込まれて首を必死に横に振る。
自分達の娘もいるが関りたくなかった。
「………そうだな。彼らの娘もいるし頼むことにしよう」
首を横に振って断っているのが見えているのにホーネスト王国の王は家臣に任せようとする。
自分の娘もいるのは知っているが、それでも恐れ関わりたくないらしい。
「いえ、私達より身分の高い王にお願いします。自分より立場が上の相手の方が話を聞いてくれると思いますので……」
押し付け合う男性陣。
ケンキもその中に入っていたはずだがふと時計を見る。
そして、これ以上余計なことをして時間を取らせるわけにはいかないと考える。
「…………」
「「がごっ………!!」」
ケンキはため息を吐いて同時に同じ威力で同じ場所に拳を落とす。
そしたら同じ反応をして結構似ているんじゃないかと思う。
ケンキの行動に女性陣は邪魔をしたことで睨み、男性陣は止めれるんじゃないかと睨む。
先程までの恐れていたのは何だったんだと思ってしまう。
「良い加減に我が国の王たちも待っているのと思うので終わらせて付いてきてくれませんか?何時までも口喧嘩を見ていても飽きるので」
飽きるという言葉に自分達の喧嘩を楽しんでいたのかと女性陣は思う。
男性陣は恐れているように見えたのは勘違いだったのかと自分の眼を疑う。
「女性の会話を見ていて飽きるの?」
「何十分も会話を見て終わるのを待つのは飽きます。こちらとしては何時までも外にいるよりも城へと案内したいので」
「なら割り込んで止めてくれば良いじゃない?」
「怖いから無理です」
「殴って止めたのに?」
「そうしないと何時までも喧嘩をしているでしょう?」
ケンキとの会話に女性陣もため息を吐いた。
確かにそうかもしれないが色々とズレているようにしか感じない。
これと結婚することを決めたシーラに尊敬の視線を向ける。
それに対してシーラは鼻で笑う。
これで苦労をしそうだからと諦めるのなら相手にもならない。
警戒する必要すら無かった。
それにイラっと来る王女たち。
この程度の男も掌握できないのかと言われたような気分だ。
「また喧嘩をするのか………。気絶させて良い?」
ケンキは女性陣にではなく父親たちに視線を向けて確認する。
本当に城まで案内するのに喧嘩をされていると迷惑だった。
だから王も本来なら失礼かもしれないが特別に許すことにして頷く。
それに甘えてケンキも女性陣の意識を奪った。
「…………結構な人数もいるし馬車を用意するか」
女性陣、全員がバタバタと一瞬の間に倒れる。
どうやって意識を奪ったのか見ることが出来ない。
更に説明されたわけでも無いのに、それぞれの女の子を父親に抱えるように渡す。
全員が合っていたせいで偶然だとは思えなかった。
「すいません。今から馬車を用意しますので待っていてくれませんか?」
「あぁ……」
どうして親子だと理解できたのだと確認しようと思ったが、それより先にケンキが馬車を用意するために離れてしまう。
だが城に着くまでも時間があるし、その間に聞けば良いと少しだけ落ち着いていた。
「………お待たせしました」
そうして用意されたのは複数台の馬車。
全員が余裕をもって馬車の中に入れる。
「そうか。礼を言う」
そしてホーネスト王国の王はケンキの腕を掴んで同じ馬車に乗らせ、その娘とシーラも一緒に乗った。
他の貴族たちはそれぞれで集まって馬車に乗る。
同じ女性同士で乗る者も入れば男性同士で乗る者、そして親子で固まってと様々だ。
「それで、どうやって君は彼らを親子だと理解できたんだ?中には似ていない者もいただろう?」
性格も雰囲気も顔のいずれか、またはどれもが似ていない親子も正確に当てたことにホーネスト王国の王族は質問する。
そういう鋭い観察眼はとても王族としても価値がある。
「見ればわかります」
当たり前のように告げるケンキに王族三人はため息を吐く。
理屈ではなく感覚でわかってしまうようだ。
「そう………」
「そうですか……。それだけ見る目があるんですね?どうやって身に着けたんでしょうか?」
そう言って近づいてくる王女にケンキはシーラを抱き寄せて防ぐ。
そうして抱き着くスペースを消す。
「「は?」」
だがホーネスト王国の王族の二人は急に現れたように見えるシーラに驚いていた。
気付いていなかったのだ。
一緒に馬車に乗ったことに。
それは他の家臣たちも同じだ。
「ちょっ、ケンキ!?」
「勝ち誇った顔でも向けたら?他にもお前にあてがわれた女は他にいるけど一番はお前。どっちを選ぶか迫られたらお前。今は……」
今はという言葉に王族の二人はチャンスがあるとほくそ笑み、シーラは不安を抱く。
キスをされて恥ずかしくも嬉しく思うがやはり不安の方が強い。
「俺とお前の子供の場合はどうなるかわからない」
そして誰にも聞こえない様に言われた言葉にシーラは顔を真っ赤にする。
更に顔をケンキの胸の中に隠していた。
「可愛いでしょう?」
ケンキは自分の胸の中に隠したシーラを指して惚気る。
まるでお前らの割り込む隙は無いと言っているような態度。
その態度に王はハニートラップは失敗するだろうなと考え、娘は更に熱意を燃やす。
壊すのは最低だろう。
引き裂くのは最低だろう。
奪うのは最低だろう。
だけど壊したら引き裂くチャンスが出来る。
引き裂いたら奪うチャンスが出来る。
奪ったら元の婚約者を捨てたと自分だけでなくケンキも評価される。
自分もあんな風に愛されたいと思ってしまったから欲しくなる。
ドラゴンすら倒せるよな存在に何よりも愛されているのなら誰よりも平和に安全に生きていけるように思えてしまった。
最悪、愛人でも良いから隣にいさせてもらいたいと考える。
「これ以上はいらないので」
急に発した言葉に王は首を傾げ、娘は肩を跳ね上げる。
心を読んだんじゃないかと思いケンキを見るがニッコリと笑われる。
「ねぇ、心を読んだのかしら?」
心を読まれたと確信して娘はケンキに怒りをぶつけた。
流石にハニートラップを仕掛け自国に連れて行き婿にする相手かもしれないが心を読まれたことは怒りをわく。
「何?本当に愛人でも良いからなんて思っていたんですか?予想通りですね」
「そうね。合っているわ。そこまで合っているとここが読まれているんじゃないかと思うんだけど?」
「残念だけど心なんて読みたくないので。読もうとしても理解できませんし。本当に読めて生きていける者は凄いと思いますよ。どうやって本心とか判断しているのか理解できませんし」
「どういう意味だ?」
娘の心を読まれたと理解して父親も怒りの声をわく。
心を読めるのなら娘たちが倒れた時、誰が誰の父親かわかるのも理解できる。
「人って相手のことが好きだと考えている一方で真逆の嫌いって感情もあるんでよね……。どんなことでも相反している感情があって、無理に理解しようとするこちらが自分じゃなくなって壊れる」
二人とも、それを聞くと心を読める者たちは凄いなと思ってしまう。
たしかに相反する感情が常にあるのなら、どっちが本当か理解が出来ない。
そしてやっぱりケンキは心が読めるんじゃないかと思う。
そんなことが分かるなんてケンキが心を読めるからとしか想像が出来ない。
「たしかに、すごいな。………ところで私たちが心を読めるようにすればどうすれば良いと思う」
「一回死ねば?俺もそうやって強くなったし」
何となく興味本位で質問したら即答された。
しかも嘘か本当か信じがたいことを言われてしまう。
「何回も死ねば、それまで見えなかったものが見えたり気付いたりするから少しだけ楽しくなりますよ?」
何故か王族二人はそれが嘘だとは思えなかった。
ケンキがドラゴンすら倒せた理由の一つだと確信できてしまう。
「他に方法が無いのか?」
「あるかもしれませんけど、一番手っ取り早いのはそれですよ?」
ケンキの言葉に生死の境を乗り越えた者の中には以前と比べておかしくなった者もいるという話を思い出す。
目の前にいる男もそれなのだろうと理解していた。




