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パーティを追放されました。でも痛くも痒くもありません  作者: 霞風太
新しき日々

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57/62

幼馴染とのデート

「サリナ、それじゃあ行こう」


 学園の授業が終わるとケンキは直ぐにサリナのもとへと向かう。

 目的は当然、サリナとデートをするためだ。


「なっ……!?」


「え?」


 シールとレドの二人はケンキの行動に動揺を隠せないでいた。

 婚約者のであるシーラがいるのに他の誰かとデートをするとは主をないがしろにされているみたいで不快な気分になっている。

 ちなみにシールやレドはケンキから何で知っているか聞いていない。

 全く信頼されていない。


「………うん」


 手を差し伸べてくれたケンキにサリナは嬉しそうに手を重ねる。

 そして一緒に教室から出て行った。


「あれ、良いの?」


 当然、他の皆も困惑する。

 婚約者がいるのは有名なのに別の女の子とデートをすることがおかしいと考えれる。

 これは問題なんじゃと冷や汗を流す。

 しかも、その女の子は婚約者がいるからとフラれた幼馴染の女の子だ。

 もう一人の幼馴染であるユーガに視線を向けてしまう。


「………一応、言っておくが婚約者であるシーラ様から許可を貰ったみたいだぞ。最後の二人きりで遊べる思い出として。だから黙っててくれ」


 最後の二人きりの思い出として許可をされたと聞いて、それなら良いかとクラスメイト達は納得する。

 別の女の子とデートをしているのを婚約者が許可しているなら良いやと細かいことを考えるを止めたのもあった。

 シールは少し不満だが理解はしている。

 自分も女の子だから主をけなされているわけでは無いと理解する。

 何よりも主自身が認めたのだからしょうがないとあきらめていた。

 ただ自分が知らないのに他の者は知っているのかと不安になった。




「…………とりあえずはここで別れて、三十分後に待ち合わせをしよう」


「うん」


 ケンキの指示にサリナは頷く。

 変装をするようにケンキからも言われてサングラスなども用意する。

 本当は、そのままの姿でデートをしたかった。

 だけど立場からそれも難しくなってしまった。

 そのことに不満を持ちながらも我慢して受け入れる。


「…………ケンキ?」


 私服に着替えてバレないように変装して待ち合わせ場所に着くといつもとは全く違う姿のケンキがいた。

 姿が全く違うのに分かったのは幼馴染の勘としか言えない。

 名前を呼んだことに気付いたのかケンキはサリナへと近づいていく。


「…………俺のことは取り敢えずケンとでも呼んで。後、お前のことはサリと呼ぶから」


 どちらもお互いの名前の二文字からとった名前。

 安直な呼び名にサリナは苦笑してしまう。


「………それと」


 ケンキはサリナのサングラスに手を伸ばして外す。

 流石にそんなことをしたらバレるのではないかとサリナは思い焦る。

 せっかく、ケンキのために変装をしてきたのに無駄にしたケンキに不満を抱く。


「………サングラスじゃなくて、これを使え」


 そして別の眼鏡を渡される。

 つけてみると度が入っていなく、オシャレ用の眼鏡だとわかる。

 わざわざ用意してくれたんだと思うとサリナは嬉しくなった。


「………変装するときはサングラスは止めろ。あれは年齢的に大人じゃないと怪しい。………その大人も怪しくないと思わせるのは少ない」


 ケンキの言葉にそこまで言うかとサリナは冷や汗をかく。

 ちなみに、どんな人なら怪しくないと思うか質問してみたくなっている。


「どんな人なら怪しくないと思うかな?」


「…………とりあえず夏場は誰がつけても怪しくないと思う」


 まさかの季節で答えを返されて思考が止まってしまっていた。

 でも、たしかにそれなら全く怪しくない。

 そしてサリナは今の気候と時間を考えてサングラスをかけているのはおかしいと自覚する。

 学園が終わった放課後だから、まだまだ明るいが少し時間が経つと暗くなってくる。

 そして気候も暑くなく日差しも強くなかった。


「………そうだね」


 自分の考えた変装がダメダメなことにサリナはショックを受けていた。

 変装について学ぶ必要があるとユーガと一緒に行動することを考えている。

 ユーガもおそらくはケンキと一緒に働きたいはずだと想像し。

 そして協力し合って王城で働けるように努力することを勝手に決めていた。

 ケンキの幼馴染だと言うことで他の者よりは覚えが良いはずだと打算もサリナにはあった。


「………それじゃあ行こう」


 ケンキの差し出された手を繋いでサリナは一緒に歩いていく。

 学園が卒業するまでケンキにも出来る限り鍛えてもらおうと考えていた。




「…………まずはここか」


「うん。今日は新作の発売日だもん」


 まず最初に来たのは本屋だった。

 入って正面に新作の広告があり、レジの近くに現品が置いてある。

 本屋での用事は直ぐに終わってしまいそうだ。


「……ねぇ。鍛えてくれって頼まれていたよね?」


 突然に学園でケンキが頼まれていた内容を口にするサリナ。

 ケンキはそれに頷いて何を言いたいのかと首を傾げる。


「ついでに一緒に教導用の本を買わない?」


 どういうことかと更に首を傾げるケンキ。

 そんなケンキにまだまだ私がいないとダメねと安心したような顔をサリナはする。


「ケンキ君。鍛えてくれって頼まれていたからだよ。少なくとも必要になるとは思うんだけど……」


 これまで通りのやり方でいようとケンキは思っていた。

 少なくとも、それでユーガや目の前にいるサリナ。

 そして隠れてみている者たちも鍛えて強くなった。

 それではダメなのだろうか疑問に持つ。


「それで勉強した方が良いのか?」


「うん。形だけでもした方が良いと思う」


 サリナがそう言うならとケンキは素直に従って教導の本を探していく。

 一緒にサリナも探しており軽く中身を読んで良いと思う物を探していった。

 最終的には5冊ほど教導の本を買って他にも面白そうな本を数冊買った。

 それはサリナも同じで新刊以外にも本を買っていた。


「…………結構買ったな」


 ケンキは教導の本以外にも本を数冊買ったことに後悔していた。

 正直、読む時間が足りない。

 これを全て読むとしたら自分の鍛える時間を減らす必要がある。

 また学園でも休憩時間ごとに読んでいかなければ終わらない。


「ねぇ、ケンキ君?」


「………何?」


 次の場所へと行く最中に腕を組んでいるサリナからの疑問の声にケンキは反応する。


「ケンキ君って、休んでいるの?医学書では毎日のように鍛えていたら完全休養日を作らないと体を壊して動けなくなるみたいことを書いてあったんだけど」


「……………」


 ケンキはその質問に目を逸らす。

 完全休養日なんて作ってないからだ。

 いつも鍛えようとしていて幼馴染たちの誰かが遊びに誘ってたり、両親に怒られたりと訓練を出来ない日があった。

 あれが休養日代わりになっていたのかもしれないと予想する。

 だから無事だったのかもしれないと背筋を冷やす。

 そうなったら魔法で回復できないのか知りたくなる。


「…………一週間に一度は休養日を作って。シーラ様達にも言っておくから」


 どうやって伝えるのか疑問だが怒られることが確定したなとケンキは遠い目になる。

 少しは休めと何度も言われ続けたのに休養日を作ってこなかったのだ。

 多くの者に怒られるだろう。


「………医学書にそんなことが書いてあったんだよな」


「えっ、うん。筋肉が疲労して筋が切れやすくなるとか、そんなことが書いてあったはずだけど………」


 これからは休養日を作ることにケンキは決めた。

 もしもの時に、それが原因で動けなくなったら後悔するからだ。

 怒られるのは気が滅入るから嫌なのだ。

 上手く逃げ切れていても、それが何度も成功するわけでは無い。

 現に何度か失敗して怒られたこともある。


「…………着いた」


 気分が憂鬱になりそうなのをケンキは首を何度か横に振って追い払った。

 今はデートの時間だ。

 サリナと一緒に楽しむことを考えることが最優先だと気分を一新させる。


「何か見たいものがある?」


 サリナはケンキに見たいものがあるかと質問するがケンキは首を横に振って答える。

 映画館に来たのもデートといえば何となくイメージしたからだ。

 興味が無いのなら行かなくても構わない。


「それじゃあ、これにするけど良いかな?」


 サリナは映画のチケットを二人分買って手渡してくる。

 買ったチケットの名前を見る限り恋愛もののようだ。

 なんでも良いと言ったこともありケンキは頷いた。


 そしてケンキは映画が始まる前に二人分の飲み物を買う。

 サリナには先に座って待っているようにした。

 そしてサリナの元へと戻る間、ケンキは周りの者たちを見る。

 ほとんどが男女二人きりで来ている。

 今、一人でいる自分が場違いじゃないかと考えてしまう。


「…………カップルに人気の映画なのか?」


「そうだけど、もしかして一人で来たのかい?」


「………違うけど誰?」


 ついつい呟いてしまった言葉に誰かの声が帰ってくる。

 ケンキは声がした方に身体を向けて質問を返す。


「やぁ、それじゃあ相手の女の子はどこにいるのかな?」


「…………」


 声を返してきた男は女性に周りを囲まれている男だった。

 女性が十人近い人数がおりケンキは圧倒され、無言で距離をとってサリナの元へと行こうとする。


「待って!」


 服をつかんで止めてきた男にケンキは嫌な顔をする。

 ぶっちゃけ関わりたくないのだ。

 将来的に人数の差はあれ同じような人になるとわかってはいてもだ。


「いや、その分だと初めてのデートだろ?いろいろと教えてあげるから助けて」


 意味が分からずにケンキは首を傾げてしまう。

 その姿に女性たちから可愛いと合唱が聞こえてくる。

 ケンキはそれに不機嫌になる。


「……………実は彼女たちに浮気がバレてな」


「…………」


 これ以上いるのかとケンキはドン引きしてしまう。

 知り合いの女性陣には絶対に近づかないように顔を覚える。

 そして名前を聞く。


「………名前は?」


「興味を持ってくれたかい!?ごへっ……!?」


 名前を聞いたことに興味を持ったと思ったのか男は嬉しそうにする。

 そして笑顔で名前を教えてくれようとしたところで近くにいた女性たちが、それぞれ蹴ったりしている。


「ダメよ。こんな男に興味を持ったら。貴方の彼女も奪われるかもしれないわよ」


「いや、人の女に手を出す趣味は無いって……!」


「信じられないわ」


 複数の女性に手を出している時点で信じられるものではない。

 ケンキも女性の言葉に頷いている。


「いやいやいや!この子、どう見ても13とか、それ以下の子供だろ!そんな子の彼女とかロリじゃん!俺ロリコンじゃないよ!」


 13歳以下の子供だと思われていることにケンキは青筋を立てる。

 そんなに自分の背は小さいかと男を睨んでしまう。

 本当の自分の年齢より二つは下だ。


「可愛い子だっただらキープすることに戸惑いはないと思っているわ」


「そ……そんな「この男のどこが好きになったんだ?」ことないよ?」


 ケンキは男に騙された女の理由が気になる。

 これと同じような男にサリナと騙されたら腹が立つからだ。


「一番はお金があることね」


「…………」


 ケンキは思わず目が遠くなる。


「私はアレが上手いからだけど……」


「もっと上手いやつはいるわよ」


「そうなの?」


「こんど紹介してあげようか?」


「お願い」


 それ以外の理由から続けられた会話に女性が怖くなる。

 一緒に他の話を聞いていた男たちは隣にいる女性に怪しむ視線を向けてしまってた。

 どうやら女性というものに不信感を抱いてしまったようだ。

 ケンキもシーラやレイナに対して不安を覚え、直ぐに婚約した経緯を思い出す。


「………よく考えたら、俺も同じようなものか」


 金が力に変わっただけ。

 何よりも大事なのは国民。

 だから婚約して子供まで出来ることまでした。

 そう納得できる。

 レイナも子供という弱みを作って逃げられなくさせるためかもしれない。


「どうしたんだい?」


「………何でもない」


 ケンキは助けてくれと頼まれたことを思い出す。

 裏を上手く考えさせてくれたお礼に出来ることなら助けてあげようと考えていた。


「………それよりも助けてくれって言っていたけど、どういうこと」


「あぁ、そういえば」


 男も忘れていたという風に思い出す。

 それだけ付き合っている理由がショックのようだ。


「浮気をしていることがバレたことは話したよな?」


 まず、その言葉に頷く。


「それでも付き合ってはくれるらしいんだ」


「…………」


 思わずケンキは男の肩を叩いてしまう。

 他にもこの場にいた男性たちは順番に男の肩を叩いていく。


「今もデートの最中に何度も蹴られたり殴られたりしてな。正直、かなり痛い。子供の前では殴らないだろうから近くに座ってくれないか?」


「………嫌だ」


 ケンキは普通に嫌そうな顔をする。

 修羅場を作っている男の隣なんていたくない。

 直ぐに背を向けてサリナの元へと歩いていく。


「頼む!待ってくれ!」


 男はケンキの足をつかんで離そうとしない。

 それでもケンキは途中で話すだろうとサリナの元へと歩いて行った。




「………何をしているの?」


 結局サリナの元へと着くまでにずっとつかまれていた。

 その姿のまま歩いてきたせいでサリナには呆れられていた。


「………浮気で助けてくれって頼まれた」


「え?」


「………無視したら足を捕まれて逃がそうとしない」


 ケンキの説明に足元にいる男に冷たい視線を向けるサリナ。

 浮気をしていただけでも最低なのにケンキに縋り付いているこに不快感が増している。


「なぁ、君。デートと言っていなかったか?」


「………それがなに?」


 突然、男が真面目な顔になりケンキへと問いただす。

 周りにいた女性たちも厳しい目でサリナを見ている。

 サリナは複数人に見られていたことで身を引いてしまっていた。


「この女の子とデートをしていたのよね?」


 一人の女性がケンキに質問してきて、それに頷く。

 それを確認すると何人かの女性がケンキの前に護るように立った。

 その行動にケンキは困惑する。


「ああいう小さい子供が好きな女の子に騙されちゃダメよ。たしかに可愛いけど変態よ」


 意味が分からずにケンキは首を傾げる。

 どうしてサリナが小さい子供が好きだと判断したのか謎だ。


「君もまだまだ若いんだ。あんな小さな子供を愛するんじゃなくて、もっと年相応の相手を選ぶべきだ。今のままだと犯罪だぞ」


「………えっと」


 サリナは男に説得をされている。

 ケンキが小さいからショタコンだと思われているようだ。

 実はケンキが裏切らないように隠れて監視していた騎士たちもいる。

 ケンキとサリナのデートでショタコン扱いされたのは思わず爆笑をしてしまっていた。


「………俺とサリは年齢が同じなんだけど」


「いや、嘘を吐かなくて良いんだ。彼女を護るための嘘だろ。どう見ても君の方が幼いだろ」


 更に笑い声が大きくなった。



「………じゃあ証人を連れてくる」


 正直に言えばデートの最初から後をついてきたのはわかっていた。

 致命的な浮気をしないかの確認のためだろう。

 あえて無視をしていたが爆笑をしていたので連れてくる。


「「「「え?」」」」


 当然、サリナは気づいていない。


「…………連れてきた」


 ケンキはグロッキーになっている男を引きずってくる。

 そのことにサリナは顔を赤くし、男はギョッとする。

 女性の何人かはサリナが顔を赤くしたことに何かを察して余計なお世話だったかもしれないと判断した。


「…………俺の年齢を教えて上げて」


「………十五です」


 ケンキが連れてきた男は腹を痛そうに抑えながらケンキの年齢を言う。

 これで信じてくれたかと女性に囲まれた男へと視線を向けるが微妙な顔をしている。

 男からすれば無理矢理言わせたようにも見えるからしょうがないのかもしれない。


「…………これの言っていることは事実。もう帰ってよいぞ」


 ケンキの雑な扱いの監視をしていた騎士は頷いて帰る。

 腹を抑えていて、歩くのもかなり大変そうだ。


「彼は大丈夫なの?」


「………監視をしていた癖に爆笑をするミスをするバカ。俺じゃなくても、直ぐにバレる。あれだけで済ませたことに感謝してほしい」


 監視をされているということにケンキが何者なのかと男は冷や汗を流す。

 もしかしたら、かなり失礼なことをしたのではないかと心配になってしまう。


「………あ、悪いけど色々と聞きたいことがあるから逃がすつもりはない」


 ケンキは冷や汗を流している男を今度は自分から捕まえる。

 少なくとも複数人の女性と付き合っているのなら参考になると考えたからだ。

 既にシーラ以外にもレイナと付き合うことが確定されているのが原因だ。

 多くの女性と付き合っているということは、それだけ経験豊富だということだ。


「………ういっす」


 女性たちも二股をするらしい話を聞いて何も言えない。

 政略結婚なんてものも聞いたことがあるし監視がつけられているだろうから悪いことも言えない。


「………それじゃあ映画を見ながら複数の女の子と手伝うコツを教えてもらおうか」


「ダメ!」


 だが直後にサリナに否定をされる。

 サリナとしては自分とのデートに意識を割いてほしいのに別のことを考えて欲しくないのだ。

 だから、その切っ掛けとなる男とは離れて欲しい思っている。

 サリナはケンキの手を取って、その場から離れる。


「………ごめん」


「………別に良いよ。その代わり手を繋ぎながら映画を見てもらって良い?」


 ケンキはサリナのことを忘れて自分と別の女の子のことを優先したこと謝罪し、サリナは受け入れる。

 サリナからすればケンキと婚約者であるシーラからの好意から許されたことを自覚しているから文句は少ない。

 心が狭かったら今日のデートすらできなかったはずだ。


 ケンキはサリナの頼みに頷いて手を繋ぐ。

 サリナの手を繋ぎながら、こうしているのはいつ振りかと昔を振り返ってしまう。

 今度はユーガも一緒に三人で遊びに行こうと考えていた。


「………どうしたの?」


 さっきも言ったのに直ぐに自分以外のことを考えるケンキにサリナは不快になりながら問いかける。


「………今度はユーガとも一緒に来たいな、と思ってしまっただけ」


 ケンキの言葉に確かにとサリナも頷いてしまった。

 不満をあらわすつもりが同意してしまったことに文句も言いにくくなった。





「面白かったね」


 サリナの映画を見ての感想にケンキも頷く。

 臨場感のある場面では繋いでいた手を強く握ってきて、それだけ熱中して楽しんでいたのだと理解できる。

 そこまで楽しんでくれたのならとケンキも嬉しくなる。


「…………ケンキ。少し休憩しない?」


 サリナが指差したのは喫茶店だった。

 ケンキは一息つくには丁度良いと頷く。

 それにサリナが何を企んでいるのか興味があった。



「ふぅ。結構、人がいるね」


 サリナの言葉通りに喫茶店の中を確認すると、たくさんの人がいて賑わっている。

 結構な人気店のようだ。


「私が飲み物を持ってくるから待っていて」


 サリナがケンキの分も飲み物を持ってくると言ってくる。

 ケンキはおそらく、その飲み物の中に何かをするつもりだろうな想像する。

 そうでなければ、ここまで積極的に動かない。

 ケンキが行こうとしても止められてサリナが行っていただろう。


「…………ごめん」


 サリナが離れると数人の男女が集まってくる。

 何の用かとケンキは首を傾げる。


「君が良かったら相席をさせてもらえないか?」


 周りを見ると店の賑わいで空いている席は少ない。

 本当なら断るべきかもしれないが、何となくそんな気にならなかった。


「あれ?誰でしょうか?」


「………席が空いてないから相席をしてほしいみたい」


 サリナは嫌そうな顔を浮かべてしまう。

 せっかくのデートなのに結局邪魔が入ってしまう。


「もしかしてデートだった?」


 女の一人がもしかしてと尋ねてくるが一緒にいた者たちに否定される。


「それは無いだろ。どれだけ年齢差があると思っているんだ」


「そうよ。そうなら相手はショタコンよ。たしかに可愛らしいけど付き合ってたら犯罪じゃない」


 ケンキはまた子供扱いされていることにムカついてしまう。

 映画でもそうだったが、そんなに子供っぽいかと自分自身を確認する。


「………彼、私と同い年なんですけど」


「「「「嘘!」」」」


 ケンキとサリナが同い年だと言うことに信じられなかったことにケンキは腹を立てる。

 サリナの持ってきた飲み物を口にして店から出る。

 最初から否定すれば良かったと考えていた。

 さっきか子供っポイと言われて不機嫌になっている。


「丁度良いし、ここで泊っていく?」


 歩いているとホテル街に入っていた。

 何も考えずにサリナの歩いている先に付いて行っての結果だ。

 既に日は傾いており、周りには男女のカップルで賑わっていた。

 これ以上、ここにいたら変装をしているとはいえ浮気を疑われてしまう。


「…………泊まらないし帰る」


「………ちっ」


 ケンキが否定するとサリナから舌打ちの声が聞こえてくる。

 そのことに驚きケンキが振り向いても残念そうにするサリナがいて舌打ちをしたとは到底思えない表情をしている。

 全く気付かせない姿にケンキは冷や汗を流していた。


「えいっ」


 サリナは掛け声と共にケンキへと腕を組む。

 その姿に二人の周りにいた者たちは何度か目の様子を確かめて二人を確認する。

 決して微笑ましいものではなくて犯罪者を見る眼付きだ。

 それだけケンキの背が小さく幼げな雰囲気を醸し出しているのだろう。

 ざわざわ、と二人を見て連絡をするべきかと話してさえいた。


「…………急いで帰らないか?」


 ケンキは周りからの視線に急いで去ろうと提案する。

 見られているせいで居心地が悪い。


「嫌」


 ケンキの提案に否定するサリナ。

 もう少し周りの者たちに見せつけるように帰りたいのだ。

 そうすることによってホテル帰りだと周知させようと考えている。

 変装をしていても、むしろ変装をしているからこそ疑い深くなってしまう。

 吹っ切れているのは嘘で実際は虎視眈々とサリナは狙っていた。


「あの?少し良いでしょうか?」


 そうしていたら見回りの騎士らしきものが来る。

 明らかに厳しい目をしていて、サリナは好都合だと認識していた。


「年下の男の子をホテルに連れ込んでいる少女がいたと聞いたんですが、貴方ですね?」


 見回りの騎士に、そんなことを言われてサリナの頭の中は真っ白になった。

 ケンキはそんなに年が離れているように見えるのかと落ち込んでいる。

 いまだに監視をしている騎士たちは陰で爆笑していた。

 今回は殴ってでも連れてくる気はケンキには無いらしい。


「………ホテルの中には入っていない。ただ横を突き切っただけ」


 ケンキの言葉に見回りの騎士は本当かとサリナへと視線を向ける。

 サリナは残念そうな顔をしながら頷く。

 そのことに見回りの騎士たちはサリナへと怪しい視線を向けた。

 真剣に犯罪者だと考えたためだ。

 本気で幼い男の子を食べるつもりだと判断してしまっている。


「………なんかもう面倒くさいな。帰るぞ」


 ケンキはサリナを無理矢理に抱っこして、その場から走り去る。

 当然、見回りの騎士たちも追ってくるが全く捕まる気はない。

 逃げ切ってやると活き込んでいた。


「ふふっ」


 サリナはこんな状況でもケンキに抱きしめられていることに気分が良くなっていた。

 外の視界を見ればかなりの速度で動いているせいで普通は恐怖を覚えるはずだが、そんな様子はない。

 抱きしめられているという現実に他の所に意識が割いていないだけだろう。

 それにケンキなら絶対に落とさないという信頼もあった。


「……………着いた」


 あっとう言う間にケンキは女子寮の前へと着く。

 サリナは抱きしめられていた時間が少なかったことに不満そうな顔をしてしまう。

 抱きしめられていたことの幸福に時間が短く感じたのではなく、実際に短かった。


「………もう?」


 サリナの疑問にケンキは頷いて下す。

 女子寮の前までずっと抱っこをしているのは視線が辛い。

 形も何もないはずなのに物理的な痛みが刺さってくる。


「………ケンキ?」


「………それじゃあね。今度は三人で行こう」


 ケンキはそれだけを言って女子寮の前から去った。

 それだけ女子寮からの視線から逃げたかった。




「………少しだけ休むか」


 ケンキは王城に行くまでにある喫茶店で一息ついた。

 既に日が隠れて暗いが、まだ店を開いている。

 炭酸系のジュースを飲みながら買った本を読む。


「申し訳ありません。少々よろしいでしょうか?」


 そうしていると喫茶店の店員が話しかけてきた。

 その顔は心配そうに見てきていて何の用で話しかけてきたのかケンキは予想できてしまう。

 今日だけで散々、子供扱いされたのだ。

 この時間に親と一緒にいずに喫茶店にいることに心配になったのだろう。


「親はいないのですか?」


 事件性があるんじゃないかと表情が真剣なものになっている。

 それに対してケンキはため息を吐いて自分の年齢を告げる。

 だが残念ながら信じてもらえない。

 証拠を見せるにしても変装をしているから意味が無い。

 ホテル街を手を繋いで歩いていた者だと特定されるのも面倒くさがっていた。


「嘘を言わなくても大丈夫だから。ちょっと待っていてね」


 騎士たちやら呼ばれて取り調べを受けそうだなと想像してケンキはため息を吐く。

 ここの喫茶店の店員たちには悪いがお金を置いて、この店から出ることにする。

 心配そうに複数の店員が見ているが、頭上におしぼりを投げて視線を誘導する。

 そして全員の視線が誘導された瞬間にケンキは魔法を使って姿を消し、店から出て行った。


「あれ!?」


「さっきの子供は!?」


「どこに行った!?」


 喫茶店からケンキが消えたことに悲鳴を上げている。

 それを聞きながらケンキは王城へと直行していった。

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