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パーティを追放されました。でも痛くも痒くもありません  作者: 霞風太
新しき日々

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学園へ

「………シーラ、おはよう」


 あれからいつの間にか寝てしまっていたのか、いつの間にかケンキに抱き着きついてシーラは寝ていた。

 しかも寝顔を見られたことに恥ずかしくなって顔を隠してしまう。


「………いつから起きていたの?」


「……十分ぐらい、起きてからずっと顔を眺めていた」


「な……!」


 寝顔をずっと見られていたことにシーラの顔は更に赤くなる。

 なんで起こしてくれなかったのとか色々と文句を言いたいが恥ずかしくて口にできない。


「………起きたなら着替えるか」


 ケンキの言葉にシーラは隠していた顔を少しだけ出してケンキに着替える姿をジッと見る。

 視線がバシバシと突き刺さってくるがケンキは無視して着替える。

 視線がどうも気になるが既に裸を見せ合った関係だからと、どうにかだが。

 もしこれで婚約者でも何でもなかったら着替えることすらできなかっただろう。


「おぉ……」


 シーラはケンキの裸に興奮する。

 ところどころ傷はあるが見ていて鍛えられているのが分かる。

 背があんなに小さいのとギャップがあって興奮している。


「…………はぁ」


 ケンキはシーラが興奮しているのを無視して最近の自分の生活にため息が出る。

 最近は朝早くから自分を鍛えられることができずに惰眠をむさぼっている。

 シーラと一緒に寝た場合は必ずと言っても訓練よりもシーラの顔を見ることに意識が咲いてしまっていた。

 どうにか戦闘能力を維持するだけの訓練は最低限しているが、このままでは弱くなるとケンキは危機感を抱いた。


「どうしたのケンキ?」


 シーラはケンキが急にため息を吐いたことに心配になる。

 自分がケンキの裸をジッと見ていたことに不満を抱いてしまって嫌われたのかと不安になる。


「………いや、ただシーラのことが好きすぎて自分の訓練を疎そかにして弱くなってしまうんじゃないかと危機感を抱いただけ」


「そ……そう」


 ケンキの言葉にシーラは少しだけ嬉しそうにした。

 あのケンキが訓練をするより自分の寝顔を見ることを優先することに女としての優越感と恥ずかしさが同時に襲ってくる。


「ケンキ、勝負をしなさい!」


「ちょっ………!ケンキ君、勝手に部屋の中に入って申し訳ありません!」


 突然、部屋の中にシールとレドの二人が入ってくる。

 怒る気はないがケンキはシールに対して不快感を抱き、レドに関しては同情する。

 ケンキから見れば明らかにレドはシールを止めようと行動していた。

 現実に止められなかったのは問題だが男が女を無理に止めようとするのは難しいと理解している。


「………は?」


 だがシーラは違う。

 勝手に部屋の中に入るシールも、それを止められなかったレドも罰を与える存在だ。

 せっかくの二人きりの時間だったのに邪魔をされて、とても不快になっていた。


「………ってシーラ様!?なんでケンキの部屋に!?」


「婚約者の部屋にいて何が悪いの?貴方たちこそ、こんな朝早くからケンキの部屋になんでくるのよ?」


 ケンキの部屋にいることに疑問を持つ二人に逆に質問する。

 ある意味ではケンキは二人より上位に位置している。

 婚約者だし騎士たち相手にも偶に鍛えているのだ。

 見習いの護衛でもあるよりは上なのは当然だ。


「えっと、それは鍛えて欲しくて……」


「鍛えて欲しいから、こんな朝早くから来るの?寝ているのかもしれないのに?」


 二人きりの時間を邪魔されてイライラしてシーラは二人を責め立てる。

 イチャイチャしたいのに邪魔だからだ。

 それにレイナの件もある。

 レイナにも二人きりにさせる時間は作ってあげる必要はあるのだ。

 そんなことを気にするぐらいなら巻き込まなければ良かったとにと思われるかもしれないが、逃がさないためには必要なことだと考えている。


「………これからは騎士たち相手を鍛える時間を減らすか。その代わりにレイナを鍛えよう」


 着替え終わり、レイナのことを考え始めるケンキ。

 シーラが二人を責め立てるのを認識しているが止める気は一切ない。

 目の前に二人がどうなろうと興味が無いせいだ。


「………レイナがどうしたの?」


「………レイナはお前の最後の防壁になるかもしれない。そのために更に鍛えようかと悩んでいる」


「ふぅん。受け入れるんだ?」


「………お前が言ってきたこと」


「そうね。じゃあ今度は三人で一緒に寝るわよ。文句はないわね」


 レイナの言葉が出てきたことにシールは反応し、その会話の中身に責められていた二人は顔を赤くする。

 ケンキは三人で寝るという言葉をそのままに受け取り平然としている。

 レイナは意味が分かっていないケンキにニヤリと笑う。

 三人で寝るという言葉を理解していないのだろうと。

 もしかしたら性行為というのは一対一でやるものだと思っているのかもしれない。


「………それじゃあ、少し早いけど学園に行ってくる。シーラは悪いけどレイナに身体も今まで以上に鍛えると伝えて欲しい」


「わかったわ。けど、ついでに私やラーンも参加してよいかしら?」


 シーラの質問にケンキは頷く。

 護衛される立場の者も鍛えてくれた方が個人的には助かる。

 護りやすいし、もしもの時に逃がしたときに助かる可能性が高くなる。


「じゃあラーンにも伝えてくるわね」


 鍛えてくれることに嬉しそうにしながらシーラは部屋から出ていく。

 兄のラーンに伝えようとしているのだろう。

 最近は学園に通い始めたのもあって鍛えることは減っていた。

 だから久しぶりにケンキに鍛えられるのが嬉しいようだ。


「………良い加減に俺も行くか」


 その姿を見送ってケンキも学園へと向かっていく。

 部屋にいたシールやレドも同じ学園だが一緒に行くという選択肢はなかった。

 これがシーラやラーン、レドだったり、ユーガ達やパーティメンバーだったら一緒に行くか質問していただろう。





「…………ユーガにサリナ。おはよう」


「ケンキか。おはよう」


「えっと。………その」


 ケンキのあいさつにユーガは返事を返し、サリナは返事を返そうとして口ごもってしまう。

 そのことに首を傾げるが、気にせずに二人に近づく。


「ケンキ!お願い!今日は一緒に買い物に付き合って!!」


 サリナの言葉にケンキは一度、断ろうとする。

 だが一度、サリナの瞳を見て考えを改める。

 今日だけは二人か三人だけで遊びに行こうと決めた。

 もう一人はユーガ以外にはいない。


「………ユーガはどうする?」


「え?……は?」


「もしかして二人きりか三人で行ってくれるの?」


「………今回だけ」


「ありがとう。二人だけにして」


 突然、ユーガは自分の名前を出されて驚いたが、それなのに自分を無視して二人で会話をしていることに少しだけ不満になっていた。

 話に出すならちゃんと混ぜて欲しいのだ。


「二人とも、どういうことだ?」


「………今日である程度のケジメをつける。告白してフラれて終わりじゃない。これからも仲良くしていきたい」


 ケンキの言葉にサリナは頷く。

 同じ気持ちなのだ。

 長年の幼馴染だ。

 フラれたことによる行動の変化はあっても、これからも仲良くしていきたいとは思っている。


「…………ごめん。今日は二人きりにしてほしい」


「………わかった。………ヤバいな、シーラに別の女と二人きりになると伝えないと。取り敢えず城に戻るか」


 それはシーラやレドに伝言を頼めば良いのにケンキは城へと戻る。

 その際に遅刻することを頼み、止める間もなくケンキはまた走り去っていった。


「………なんでレド達に頼ろうとしないんだ?」


「もしかして信頼してないのかなぁ?」


 有り得そうだとサリナとユーガの二人はため息を吐いて自分達も教室へと向かおうとする。

 教師に伝えるのは授業が始まってからで良いだろうと考えていた。


「それにしても昨日の今日で本当にケリをつけれるのか?」


 ユーガの質問にサリナは頷いた。

 サリナにとっては早いか遅いかの違い。

 きっぱりと断られたから納得はしている。

 いつも通りにしづらかったのはフラれたのが昨日の今日だったからだ。


「………大丈夫。ちゃんとフラれたから。今日は二人きりで遊ぶのは、もう機会が無いもん」


 ケンキはシーラと婚約した。

 そんな男が女と二人きりになるのは浮気だのと疑われる。

 後になればなるほど、それは大きくなる。


「………俺も行こうか?」


「ううん。私はフラれた直後だから最後の思い出として許されるかもしれないから」


「そうか。それでも一応、変装はしておけ」


 ユーガの言葉にサリナは頷いていると目の前に担任の教師が目に映る。

 丁度良いとサリナは担任の前まで駆け足で近寄る。


「先生!」


「サリナさん?何の用かな?」


「ケンキ、今日は遅刻するかもしれないそうです。先程、学園に来てから忘れ物があったらしく城の方へと戻っていきました」


「……そうか。わかった」


 しょうがないとため息を吐いて担任は職員室へと歩いて行った。

 そして。


「……嘘は言ってないな」


 ユーガはサリナのしたことに呆れていた。

 たしかに嘘は言っていない。

 忘れていたことがあったのも本当だ。

 それが物か言葉は違いはあるが。


「………」


 サリナは目を逸らす。

 ごまかすのが上手くなったと言われて否定できない。


「今頃、ケンキはどうしているんだろうな」


 そんなサリナを苦笑してユーガは別の話を振る。


「もしかしたら、もう城についてるんじゃないかな」


 そしてサリナの返しに有り得ないだろうと笑いそうになった。

 が、次の瞬間にケンキのことを考えて有り得そうだなと二人で苦笑した。




「…………いる?」


 ケンキは城へとたどり着くと、まだシーラが城から出ていないことを勘で察する。

 ついでにラーンも一緒にいることも察して、二人のいる場所へと直進していく。


「………いた?」


 予想通りに二人がいたことが当たってケンキは満足そうにする。

 ただの自分の勘も悪くない。


「なんで疑問形かしら?」


「………今日はサリナと二人きりで遊びに行く。悪いけど何を言われても変更する気はない」


 ケンキの発言にラーンは不快になり、シーラは青筋を浮かべながら冷静に問いただす。


「昨日、サリナちゃんを振ったのよね?」


「………そう」


「わかったけど浮気はしないでよ」


「……当然」


「なら良いわ」


 あっさりと認めたことにラーンは本当に良いのかとシーラに視線を向ける。

 シーラは頷く。


「どうせ私やレイナが以外の女の子と二人きりで遊びに行くのは今日で最後よ。しかも、その相手がサリナだもの。最後の思い出とケジメをつけるために遊びに行くだけよ」


「…………そこまでわかるのか?」


 自分の考えを深く理解していることにケンキは驚く。

 まさか当てられるとは思ってもいなかった。

 というより既にサリナを振っていたことを知られていたことに驚く。


「………よくサリナを振っていたことまで知っていたな」


 教えたのはシールかレドだろうかとケンキは予測する。

 だがサリナとは幼馴染だと情報も監視の際に手に入れていたのかもしれない。


「まぁね。これでも色々と情報網があるし」


「……学園にいる貴族からでも聞いたのか?」


「さぁ?」


 教える気は無いらしいシーラにケンキもそれ以上は聞かない。

 そこまで興味はない。


「なぁ………」


 二人でわかり合っている空気にラーンは声をかける。

 正直に言って二人だけの世界を作って寂しい。

 二人の(義)兄が目の前にいるのに会話に混ぜてくれないのは悲しくなる。


「何度も言わせてもらうけど浮気はしないでよ。ホテルにでも入ったら泣くから」


 遊びに行くのにホテルに泊まる意味が分からずケンキは頷く。

 そもそも明日も学校があるのにホテルに泊まるのは無意味だ。

 それなのにホテルに泊まることを注意してくるシーラにケンキは呆れていた。


「………わかった。話はそれだけ。俺は学園へと向かうから」


 ケンキはそう言って学園へと向かうために身を翻す。

 そしてシーラたちはケンキに手を振っていた。


「………ほとんど俺はケンキと会話していないんだが」


「別に良いでしょう?婚約者なんだし。というか前から思っていたけど男相手にキモイ」


「なんだと?」


 ケンキが見えなくなってから二人は喧嘩を始める。

 昔からケンキと一緒にいるときは、よく三人になっていた。

 どちらか片方と遊ぶとよく片方も来る。

 そのせいで独占することは少なかった。


「キモイじゃない?男相手にそこまで独占しようとするなんて。他にはいないの?」


「いないな。それはお前も同じだろう?だからこそ独占したいんだ」


「それは………」


 王族だからこそ基本的に近づく相手は貴族の子弟ばかり。

 そんな者たちの内心は下心が透けて見えてしまっていた。

 だからこそ、それらが一切ないケンキが一緒にいてほしい。


「でもケンキの他の幼馴染もいるし……」


「そうだな。あいつらは身分という差はあるから遠慮はあるが他の貴族たちよりはマジだな」


 それでも昔から付き合いのあるケンキの方が良いと思っている。

 正直、ラーンはシーラがケンキと婚約して羨ましい。

 婚約者だからと平然と独占してくるだろう。


「それでも一番、一緒にいて欲しいのはケンキだがな」


 ラーンの言葉にシーラは引いてしまう。

 やはり自分の兄は同性愛者なのではないかと。

 王族だから、そこは異性愛者になるべきなのに……。


「一応、言っておくが近くにいて欲しいだけで性的な意味は含んでいないからな?その目を止めろ」


「…………本当に?クラスの知り合いの子の前で話したら格好のネタにされると思うけど」


「………待て待て待て。腐ってないだろうな、お前」


 自分のクラスに腐女子がいたことにラーンは驚く。

 そして妹が兄である自分をネタに腐った想像をしていることに、全く気付いていなかった。


「………自分に関係のない相手の話なら楽しめるけど、身内は無理ね」


 否定になっていない言葉にラーンは顔を引きつらせる。

 ケンキに妹は腐っていると内緒で教えるべきだと決意していた。









「…………ギリギリか」


 ケンキは学園へと再度、たどり着き時間を確認するとまだ授業は始まっていなかった。

 そのことに安堵して教室へと向かう。

 中には自分と同じように数人の生徒が教室へと歩いていた。


「………それにしても見られるのはやっぱり不快だな」


 自分以外の教室の外にいる者たちも教室の中にいる者たちもケンキを見ている。

 そのことにケンキは非常に不快な気分になる。

 ただ黙ってみているのではなく用があるなら話してほしい。

 話しかけないのなら無視をするだけだと決めてケンキは歩いて行った。


「………やっぱりオーラあるよな」


「うん。あれがドラゴンと生身で戦えていた男」


 ケンキを見ていた生徒たちが一目見て感想を口に出していく。

 何度見ても飽きがこない。

 それだけ珍しく有り得ない存在だ。


「彼と一度でも立ち会えたら良いんだけど……」


「多分、相手にもされないだろ」


「だよなぁ。しかも王族と婚約者となったせいで勉強も俺らよりされているらしいしな。余裕もなさそうだ」


 男たちは興味本位で勝負をしてみたいと思っている。

 だがシールやレドの学園中にした注意のせいで挑みにくくなっていた。

 王族の一員として恥ずかしくないように礼儀作法や他国の常識など多くを学んでいる最中で、できれば時間を取らせないでほしいと。

 そのことを聞いたほとんどの学生たちは王族の一員になるのは大変なんだとケンキに同情した。

 勉強なんて好きでやるもの以外は苦痛でしかないのは心身ともに理解してる。


「………そういえばケンキってラーン様とも親しいみたいだけど、やっぱり恋人でもあったりするのかな

?」


「いや、あんたケンキの婚約者はシーラ様でしょ。女性よ。なんでそうなるのよ」


「だってラーン様、ケンキと会いたいために学園にある寮まで来たみたいだし。それに他の幼馴染とどっちが親しいか喧嘩していたみたいだよ」


「私も聞いたけど婚約者はシーラ様で女性よ?」


 女子たちは面白そうに腐った想像を話している。

 流石に同性愛者というのは否定しているが、いろいろな噂を話している。

 特に同性であるラーンもケンキを強く贔屓しているのは否定できない事実だろう。


「それにしてもケンキの強くなった方法は聞きたいなぁ。学園の皆で頼めば詳しく教えてくれるかな」


「………署名でも作ってお願いする?」


 ケンキの強さの理由を知りたい、強くなりたいと考える者たちの意見に聞こえていた者たちも賛成する。

 そして手分けして誰がどこの学年のクラスに行くか教師が来ても気づかずに話し合っていた。




「…………あ、間に合ったんだ」


 ケンキが教室へとたどり着くと、まだ教師は来ておらず授業も始まっていなかった。

 とはいえ時計を見る限りギリギリだ。


「………シーラから許可をもらった。今日、二人きりで遊びにいこう」


 ケンキは自分からサリナに遊びに誘う。

 思い立ったが吉日だと今日行きたいようだ。


「………うん」


 サリナもケンキの誘いに頷く。

 行く前に準備をするから待ってくれるように頼む。

 どうせならオシャレをして最後のデートを楽しみたいと考えていた。


「おはよう。ってケンキ君、遅刻するかもしれないと聞いていたけど間に合ったのか。なら大丈夫か」


 担任の教師はケンキを見て遅刻しなかったことに安堵する。

 教師として遅刻した生徒は注意をしなくてはいけない。

 だがドラゴンと互角以上に戦える相手にそんなことはしたくなかった。

 正直に言えば怖い。


「………別に注意をされても逆切れで暴力は振るわない」


 教師からの視線の意味を察してケンキは安心させようと声をかける。

 少しだけ力で無理矢理支配させようと思われているみたいでショックを受けていた。


(いや、あれもある意味力で支配していたか?)


 思い出したのはファルアのこと。

 あれらが率いるメンバーはケンキの実力に惹かれて下に着いた。

 ケンキ自身が狙ったことでは無いが、ある意味力では支配したのは変わらないと思う。

 これじゃあ仕方ないのかもしれない。


「そ、そうか。それじゃあ授業を始めるぞ」


 その言葉に頷いて授業が始まろうとする。


「すいません!遅れました!」


「申し訳ありません!」


 その直後、シールとレドが教室に入ってくる。

 二人が来たこと教室に全員が二人のことを忘れていたことを思い出す。

 昨日まではいなかったから、ついつい忘れていた。


「………あぁ!そういえば君たちもいたんでしたね。授業がもうすぐ始まりますから席についてください」


 忘れていたとはどういうことだと睨みつけるが、まずは素直に席に着く。

 そもそも遅刻しかけた自分達が悪いと睨みつけるだけでとどめていた。


「それじゃあ今日は………」







「なぁ。ケンキ君、お前ってどうやって鍛えているんだ?」


「………普通に素振りとか」


「素振りとか」


 授業の合間の休憩時間に質問して帰ってきた言葉に、質問した生徒は帰ってきた言葉をそのままにオウム返ししてしまう。

 本気で答える気はないのかと思うが、ケンキの目はそれが事実だと言っているようにしか見えない。

 思わず幼馴染である二人に目を向けるが、そろって二人とも微妙そうな表情で頷いている。


「………多分、生徒会長も同じ答えを返す。衝撃波を生み出すのに素振りはしないといけないだろうし」


 何も考えずに素振りをしても絶対にできないが、と心の中でケンキはつぶやきながら言う。

 信じられない目をしても、それが事実だ。


「意味が分からないわよ」


「ですが、これ以上はたぶん教えてくれませんよね」


 横から聞いていたシールやレドもケンキの言葉に信じられない目を向けている。

 素振りだけで強くなれるわけがない。

 他にも強くなるためにはやるべきことは多くある。


「ならさ、今度一緒に鍛えてくれないか?時間があるときで良いからさ」


 他にも強くなるための方法はあるはずだと学生たちはケンキに訓練を誘う。

 一緒にやってケンキの訓練を方法を学ぶと言う方法もある。

 それをやるつもりだ。


「…………まぁ、良いよ。時間があったら一緒に訓練をする」


 ケンキの賛同に他の学生たちも声を上げて喜んだ。


(なんで、そんなに喜ぶんだか……)


 そんな学生たちにケンキは呆れた視線を送る。

 自分が特にやる訓練は誰もがやっている基礎の訓練ばかりだ。

 特別なことなど、ほとんどやっていない。

 自分の身体能力を上げるのに一番、効率的なのは基本的な訓練だし、戦闘技術は実際に戦うことが効率的だ。


「なぁ、良いのかケンキ?」


「ケンキ君って実際に特別な訓練はほとんどしていないよね?嘘をつくなって責められるかもしれないよ?」


 そのことをよく知っている二人もケンキに心配で声をかける。

 幼馴染だからこそケンキの訓練内容は知っている。

 地味だからこそ信じられないのかもしれないと警告していた。


「…………別に良い。信じても信じなくても俺にとってはそれが事実だ」


 構わないと言うケンキに二人はため息を吐く。

 それが原因で婚約の話に影響が出たら、どうするんだと心配してしまう。

 嘘つきだと責められて王族の婚約者にはふさわしくないと攻撃されるのではないかと考えてしまう。

 サリナにとっては好都合かもしれないが、もしかしたら国から追放されるかもしれない。

 そうなれば新しい地で一緒に生きていくのも良いのかもしれないとサリナは妄想する。


「………もし国外追放されたら教えて。私もついていくから」


 サリナの言葉にユーガはぎょっとする。

 何を想像していたのか本気で気になってしまう。

 なんで追放なんて言葉が出てきたのか想像できない。


「………わかった」


 そしてケンキも当然のように頷いていることに更に驚いた。

 国外逃亡する可能性があるのかとユーガは引いてしまう。

 だが、幼馴染としては黙っておくべきかとも考えてしまう。

 問題は他のクラスメイト達にも聞かれているという点だが。


「…………なぁ、ケンキの訓練方法って、もしかしてたら俺たちと変わらないのかな」


「さっきの話だとな……」


「でも実際に見たりするのには意味があると思うけど」


「………思い出したけど、以前ケンキが学園で訓練したときも同じ行動を繰り返していなかったか?」


「あぁ、あの時の……。確かにすごかったわね」


 思い出すのは手が血で濡れても、ボロボロになっても動き続けたケンキの姿。

 もしかしたら基礎訓練といっても、あれと同じ密度でやっているのではないかと疑ってしまう。

 もし、それが当たっているのならケンキが強くて当たり前だ。

 自分達はあそこまで必死に鍛えてたことは無い。

 だから、ここまでの差があるのかもしれないと想像していた。


「みんなしてどうしたのよ?」


「ケンキ君の強さに何かあったのですか?」


 シールとレドの二人もケンキの鍛え方を知らない。

 そして鍛えているところを見たこともない。

 だからこそ、クラスの皆の反応が理解できていなかった。


「えっと、それは………」


 そんな二人にクラスメイト達は以前、ケンキが学園でやっていた訓練を伝える。

 その内容に二人は顔を引きつらせ、それを見たケンキは不快な顔をする。

 自分の訓練内容を聞いただけで引いた様子を見せると言うことは、そこまで本気になれないことだ。

 口では何だかんだと言って本心ではシーラやラーンたちを本気で守る気はないと考えていた。


「…………やっぱり鍛えるのは面倒だな」


 思わずケンキはつぶやいてしまっていた。

 幸いなのは誰にも聞かれていなかったことだ。

 聞かれていたら、何の話だと面倒になっていた。


「………あれ、みんなどうしたの?次の授業を始めるわよ」


 授業の合間の休憩時間だから、次の授業の教師が教室に入ってくる。

 ケンキは誰にも聞かれていなかったことと、次の授業が始まることにラッキーだと思う。

 こちらに話を振られるよりも、かなりマシだ。

 それよりもサリナとのデートに、どんな変装をするか考える方が重要だった。




(…………今日はケンキとデートね)


 サリナは授業を受けながらも心の中はケンキとのデートでいっぱいだった。

 それは嬉しくもあったが悲しくもあった。

 これでケンキと二人きりになれる時間は最後。

 あとは、どれだけ頑張ってもケンキ自身が距離を取ってくるのは想像ができる。


(どんな服を着て行こうかな?)


 できれば最後のデートになるだろうからかわいらしい服で行きたい。

 変装をさせられる可能性もあるが、最低限で済ませたい。


(………はぁ)


 ケンキを横目で見る。

 きっと、どれだけ可愛らしくしてもケンキは気にしないのが目に見えてわかってしまう。

 シーラがいるからと特に心を動かせるのも出来ないのだろう。


「………リナさん。……サリナさん!」


「はいっ!」


 突然、肩を叩かれると目の前に教師がいた。

 周りを見ると呆れた目でこちらを見ている者が多数いる。

 もしかしたら何度も呼ばれているのに気づいていなかったのかもしれないと顔を赤くしてしまう。


「はぁ。授業に集中してください。罰として、この問題を解いてくださいね」


 サリナは教師の罰に頷いて前に出る。

 思ったよりも怒られていないのはサリナの普段の授業態度のお陰だろう。

 優等生だから、今日は偶々集中できていなかったのだと見逃されていた。


(うぅ。今日は早く終わらないかな……)


 サリナは怒られても集中できずケンキとのデートに期待で胸を膨らませる。

 今日は一日中、集中できないのかもしれない。

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