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パーティを追放されました。でも痛くも痒くもありません  作者: 霞風太
新しき日々

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放課後

 ケンキは放課後になると一直線に王城へと向かう。

 王城に用意されている部屋は以前、ユートの事件で使われた部屋だ。

 そこには歴史の本などがズラリと並んである。


「お帰りなさいませ」


 部屋に入るとシュタとレイナがメイド服姿で出迎えていた。

 その姿にケンキは首を傾げる。

 可愛いが自分の部屋にいる理由が分からない。

 それにメイドの姿をしている理由にもだ・


「………なんでメイド?………あと部屋にいる理由」


「シーラ様が私相手なら我慢できないときに手を出して良いって……」


「ふざけろ」


「取り敢えずの補助だそうです。メイド服なのは女性が使える相手がいる場合には相応しいと……」


「………シュタは以前の事件で補助してもらったから理解できる。………レイナは?」


「完全に性処理対策ですね」


「………ある程度、マジに鍛えた弟子だがいらない」


「そこはシーラ様と話し合ってください」


 ケンキにとってシュタは良い。

 どれだけ有能なのか知っているし、以前の事件で協力し合った。

 メイドに相応しいとも思い違和感がない。

 だがレイナは違う。

 シュタと同じメイド服だがスカートが短く、どこかヒラヒラしている。

 どことなく性的に見えて王城に相応しくないと視線が厳しくなっていた。


「………メイドって、どんな存在?」


 ケンキはレイナに質問する。

 そんな服装で本当にメイドなのかと?


「え?」


「…………メイドは俺にとっては万能の存在。掃除もできて戦闘もできる。当然、食事を作れて栄養バランスも考えれる。最もなるのが難しい職業。執事と同じ」


「は?」


 思わずレイナはシュタに視線を向ける。

 シュタはケンキの考えにため息を吐く。

 言っていることは間違いではない。

 間違いではないが、そこまで出来るのは王城で働いている者たちだけだ。

 これはケンキが昔から王城で働いている者たちという国や世界でもトップクラスの人材を見てきたからの弊害だろう。


「………レイナちゃんの服はシーラ様が市井のメイド喫茶というものを参考に考えたのよ」


「………メイドとして仕事出来るの?」


「………性的な意味で求めるように考えたんじゃない」


「………何度も言うが手を出す気はない」


 ケンキとシュタの話を聞いていてレイナはまずは呆れ、そして相手をさせられることに顔を赤くする。

 レイナとしてはケンキが相手なら不満は特にない。

 自分を助けてくれて力をもらった相手。

 欠点もあり、自分がどうにかしなきゃと思ってしまう。

 他にも幼馴染がいるのに彼女がダメな理由は分からないが、喜んで受け入れていた。


「まぁ、その話は後にして勉強をしましょう。歴史的な勉強はしないといけないですし」


「そうですね。二人ともそこの机に座ってください。今から私が教えますので」


 教師としてのシュタを前にケンキとレイナは並んで椅子に座った。





「…………やはり面倒くさい」


「………難しいです」


 一通りの勉強を終え、ケンキは椅子に寄りかかりレイナは机に突っ伏す。

 勉強が終わった直後だからシュタは何も言わないで見逃す。


「………自国はともかく相手の国の歴史まで覚える必要があるんですか?」


「あるわよ。自分は貴方のことをこれだけ知っていると伝えるのに有効な手段だからね。好意的に見られるし、嘗められて下に見られることもないわ」


 国同士の会話だから代表として嘗められるわけにはいかないのだろう。

 無知はバカにされてしまうと勉強をしている。

 レイナも一緒なのは競い合いをしてやる気を促すためと専属メイドとして無知なのは許されないためだ。


「ケンキ、勉強の時間は終わったわね!」


 そしてノックも無しにシーラが部屋の中に入ってくる。

 これは王女として大丈夫なのかとケンキたちは冷たい視線を送ってしまう。


「シーラ様、ちゃんとノックをして部屋の中に入ってください」


「あだっ!?」


 そう思っていたらシーラの後ろにいたメイドが頭を叩く。

 ちゃんと見ていてくれる人がいるなら治るのだろうと想像した。


「………そうね。ケンキもこの城に住むことになると聞いて興奮していたわ。それでケンキ、これから暇かしら」


 シーラの質問にケンキは頷く。

 そしてケンキにもシーラに聞きたいことがある。


「………聞きたいことがある」


「そうね。ならデートをしながら話し合いましょうか」


 シーラはケンキが何を質問するのか既に予想しているがどうせならデートをしながら話を聞こうと考える。

 本人の意思も確認したからシーラにとっては問題ない。

 サリナやメイなどは絶対に許す気はないが。


「そういうことだからデートしてくるから。護衛はいらないわよ。ケンキがいるから、どうせ大丈夫だろうし」


 そんなことを言うシーラにケンキはため息を吐く。

 たしかにケンキが一人いれば十分に大丈夫だろう。

 だがケンキ一人だけにするのは他にも理由がある。

 シーラは王女だ。

 だから目立ってしまう。

 それを少しでも誤魔化すために人員を少なくしようと考えていた。


「………まぁ、良いか」


 ケンキも頷いてくれたことにシーラは喜び抱き着く。

 その間に机の上にあったノートにシーラに気付かれないように書いた。

 その内容は隠密行動が得意な者に護衛を付けるようにと書かれてあった。


「それじゃあ行くわよケンキ」


 腕を引かれるままにケンキはシーラと共に部屋を出ていく。

 そしてケンキの書いたノートを見たシュタとメイドは、その指示通りに隠密行動が得意な者たちに直ぐに連絡して後をつけさせた。




「それでケンキは私に何を聞きたいの?」


 城下街へと行く途中にシーラがケンキに質問をしてくる。

 何を聞かれるかわかっていてもさっさと終わらせて遊びたいのが本音だ。


「………なんでレイナを専属メイドにして抱かせるように指示を出した?本人の意思は?」


 ケンキの質問にシーラは思わず笑ってしまう。

 レイナの意思に関してはケンキは既に理解していると思っているからだ。


「ちゃんと聞いたわよ。貴方なら良いって。私が妊娠して手を出せないときは彼女でスッキリしたらよいじゃない」


 女性が下の関係でそんなことを言うことにケンキは顔を引きつらせる。

 できれば聞きたくなかった。

 それなら幼馴染にではダメなのかと聞きたくなる。


「………サリナとかはダメなのか?」


「何?私がいるのにサリナちゃんに手を出すの?」


 サリナのことを聞くとレイナとは違い、怒ったように質問をしてくる。

 シーラ以外の女に手を出すなら誰でも同じだろうに怒る理由が分からない。


「………そうやって怒る癖にレイナには手を出すと言うんだな。特別のお前以外は全部浮気になるのに」


「そ……そう?」


 ケンキの言葉に嬉しそうにするシーラ。

 その様子にため息を吐く。

 なんでレイナを抱かせるのか教えて欲しい。


「………で、何でレイナだけは許可をするんだ?」


 再度の質問にようやくシーラは真面目な顔になる。

 その顔にふざけた理由ではないとケンキも身構える。


「まず一つは彼女は異世界から来たのよ。つまり後ろ盾がいない。それなら私の夫の愛人にすれば護れる。これは我が国の者が召喚した責任でもあるわ。帰らなかったのは彼女の責任でもあるけど」


 王族としての孤独にしてしまった責任と聞いて少しだけ納得する。

 それならラーンの側室にしてしまえば良いのではないかとケンキは考えてしまった。


「二つ目は彼女の能力。洗脳されないと言うことは、基本的に信じられる相手ということよ。彼女も私たちに恩を感じてくれているみたいだし裏切る可能性は低いでしょうね」


 これも納得できる。

 あの他人を洗脳して自分に従わせる相手に対しては天敵だろう。

 自分以外が洗脳されてもレイナがいたら挽回できる可能性がある。


「三つ目は貴方のことが好きだからね。万能のように見えて抜けているところとかクリッティカルしたみたい」


 そんなことを言われて既にシーラがいるからとケンキは微妙な表情を浮かべてしまう。

 そんなケンキにますますシーラは嬉しくなる。


「まぁ、そんなところね。納得した?」


 ケンキは頷いた。

 最初の理由でレイナだけは許した理由を理解した。

 自分も利用されているのは納得いかないが、しょうがないとも思う。

 だがラーンではダメったのか疑問だ。

 かなりのイケメンだが。


「………ラーンではダメだったのか?」


「えぇ。どうせなら貴方のほうが良かったみたいよ。付き合いも貴方のほうがあるし、それで選んだみたいね」


 しょうがないかとケンキは諦めて受け入れることにした。

 他に良い男がいると思うが、シーラを護る切り札になりそうだと諦めたのもあった。


「………それでシーラの変装はそれで良いのか?」


「貴方こそ変装はそれだけなの?」


 話変わって二人は変装をしていた。

 シーラは髪の長さは変えずに髪型だけを変えて、ケンキは底上げブーツと髪の色を変えて歩いている。

 ケンキは自分の変装に背の小ささもあってバレないと自信は持っているがシーラに対してはそう思っていない。

 髪の色や瞳の色、王族特有のもので直ぐにバレると考える。


「………俺は背の大きさからバレにくいけど、お前は別。髪や瞳の色が変わっていないから直ぐにバレる」


「………そうかしら?」


 そうだと告げてケンキはシーラの髪に触れる。

 突然の行動にシーラは顔を赤くしてしまった。

 そして、その流れのままケンキはシーラの髪の色を幻覚で誤魔化す。

 その後にシーラにサングラスをかけて城下街へと移動を再開した。


「ちょっと待ちなさい」


 髪の毛を触れてきたと思ったら特に何もせずに移動し始めるケンキにシーラは肩をつかむ。

 魔法を使ったりサングラスを掛けたりはしたが恋人らしいことを全くしなかったケンキに腹を立てていた。

 なんとなく流れでキスを期待していた自分がバカみたいに思えてくる。


「………何?」


 そして相手のケンキは察してこない。

 だからシーラは自分からキスをした。


「………」


 それだけでシーラは怒りを消す。

 顔を真っ赤にしたケンキが見れて満足していた。

 チョロかった。






「………お二人さん!こっち寄っていかないかい!今ならカップル限定で割引だよ!」


 二人は手を繋いで歩いていた。

 そして城下街に着くと早速と言わんばかりにカップル限定だと商品を薦めてくる。

 シーラは顔を赤くしながらも嬉しそうにし、ケンキは冷めた目で薦めてくる商人を見ている。

 手を繋いでいなかったら、わざわざカップル限定とは言わないだろうなと予想していたせいだ。


「貴方は恋人だとみられて嬉しくないのかしら?」


 そんな反応にシーラは文句を言う。

 少しは顔を赤くしてほしいのに冷めた表情なのが不満なのだ。


「………ん。これで良い」


 そう考えていたらケンキからキスをしてくる。

 それだけでシーラは文句を言えなくなり黙りこくってしまう。

 近くで声をかけていた商人も感嘆の声を上げてから黙ってしまった。


「………カップル限定割引でこれとこれを頂戴」


「あっ、はい」


 ケンキは商人からソフトクリームを二人分を買うと片方をシーラに渡す。

 当然、渡したのはシーラの好みの味の方だ。

 しかもお金はケンキが払っているから奢りでもある。


「………ちゃんと好きな方を渡してくれるのね」


「………そのくらいは出来る。で次はどこに行くんだ?」


「どこに行くと思うの?」


「………カップル限定がある店」


 当たっていることに少しの苛立ちと嬉しさがシーラの胸にあふれる。

 本来なら行けないカップル限定の店に行きたいと理解してくれたが嬉しい。

 変装しているのが窮屈だけど、それでも王族としては得難い経験かもしれない。


「…………まぁ、良いか」


 カップル限定の店に行ったり、シーラとイチャついていたりとケンキはそれら全てを陰から護衛達に見られていることを思い出す。

 しかも自分から指示を出しといてだ。

 独り身の者がいたら、そうでなくても目に毒だろう。

 それらを考えて悪い気に一瞬だけなるが直ぐに忘れることにする。

 これからも同じことがあるだろうし、頑張ってほしい。


「それじゃあ、ケンキ。あの店に入るわよ」


 そして次に入る店は見るからに女性に人気の店だった。

 だがケンキは言われるがままに中に入る。

 どんな料理があるのか興味もあったから不満はない。


「…………わぁ」


 そして中に入ると圧倒された。

 店の中にいる自分以外の全てが女性だった。

 自分だけが男という状況に肩身が急に狭く感じる。


「あっ。あの席空いているわね。早速座るわよ」


 ケンキはシーラに腕を引かれて席へと移動する。

 その際に店内にいる全ての客からの視線がキツイ。


「すっごい見られているわね」


 シーラはかなりのご機嫌になっていた。

 ケンキが狼狽え圧倒されている姿というのは稀だ。

 希少な姿を見られたことに歓喜していた。

 周りからは男連れと嫉妬の視線を浴びてしまっていたが、それも優越感から気持ちよく感じてもいる。


「これを頂戴」


「はい。カップル限定メニューですね」


 店員の言葉に店全体がざわついた。

 この店に来るのは女の子同士ばかりで、そんなものを頼むのを見ることは滅多にない。

 どんな料理が来るのか注目を集めてしまう。


「……………本気?」


 来たのは山盛りになっているケーキでクリームがあふれるように乗っている。

 飲み物も一緒にあり、そちらは同じ容器にストローが二本ささっていた。

 正直、ケンキは飲み物だけならまだしもケーキも食べる気力がわかない。

 見ただけで胸焼きを感じている。


「本気でこれを食べるのよ。美味しそうだけど一人で食べきれる量じゃないから食べて貰うわよ」


 ケンキはシーラの言葉に絶望する。

 見るだけで胸焼きしそうなものを食べなければいけないとのろりのろりと口にし始めた。


「うーん。美味しいわね」


 シーラはケンキと一緒にケーキを食べていてご満悦だ。

 しかも全く見ないケンキの絶望した表情に愉悦を感じている。

 あの強者に絶望させていると考えて、すごくうれしそうだ。


「…………あっまい」


「これらは持ち帰ることは出来ないわよ。頑張って食べ切らないと」


「……そう」


 ケンキの言いそうなことを予想してシーラは先に答えを言う。

 持ち帰るなんて許すかとケーキを食べさせていく。

 自分は太るから少しの量だけを口にする。

 当然、そのことに気付いているケンキからは憎たらし気に見られるが変える気はない。


「………なるほど、良い案ね」


「………今度、彼氏と喧嘩したら同じことをさせよう」


 見ていた女性たちもケンキの表情に同じことをさせようと考えている

 男性があんな表情をしているのなら罰になるだろうと考えたからだ。

 甘党には意味がないかもしれないが、それでも十分に罰になるだろう。

 量が量だから、甘党でも罰になるはずだ。


「………やっと終わった」


 ケンキは食べ終わると口の中が甘く感じている。

 腹の中もかなり膨れてしまって、これ以上は食べる気にならない。

 それは飲み物も同じでテーブルの上に突っ伏していた。


「あら飲み物もあるわよ」


「…………」


 シーラの言葉に恨めし気にケンキはシーラを見る。

 これ以上、腹の中に入れろと言う言葉に信じられない目を向けてしまう。


「そんな目で見ても変わらないわよ。さっさと飲みましょう?」


 ケンキは腹を抑えながらシーラと顔を合わせながら必死に飲む。

 近くにいる女性の顔に何も考えることは出来なかった。





「ふぅ、満足満足」


 シーラはケンキを引っ張りながら非常に満足していた。

 食べたパンケーキの量が思ったよりも多くて、これは夕食が食べれないとぼやいている。

 実際にほとんど食べたのはケンキであり、文句を言いたいが腹が膨れてしまってるせいで何も言えないでいる。


「もう、かなり遅いし帰るわよ」


 ようやく帰れることにケンキは嬉しくなると同時に自分の判断に自画自賛する。

 この状態でも誰が襲ってきても勝てる気ではあるが、それでも絶対というわけではない。

 今の状態はどちらかというと万全ではない。

 陰から護衛をさせることにして正解だった。


「それにしても楽しかったわね。また今度行かない?」


「…………勘弁してください」


 シーラの言葉にケンキは懇願するように頼む。

 あれだけの量を食うのはとてもつらかったらしい。

 ケンキの言葉にシーラは残念そうにする。


「嫌よ。量は多かったけどおいしかったし、また食べたいわ」


「…………ほとんどの量は俺が食ったんだが」


「そうね。でも美味しかったから良いじゃない」


 美味しかったのは認めてもあんな量は食べきれないとケンキは首を振って拒絶する。

 それなら、と名案が浮かんだようにシーラが別案を出す。


「ならレイナも一緒にで良いかしら?一人増えたら、貴方の食べる量も減るでしょう?」


 それならとケンキも頷く。

 どうしても、また行きたいと言うのなら他にも誰か一緒に食べてくれる人がいた方が嬉しい。

 女子だからシーラと同じように甘いものが好きだと予想できる。


「なら良かったわ」


 そしてシーラからすれば絶好のチャンスだった。

 ケンキがどう思っていようが周りから見れば二人の女性と同時にデートをしたことになる。

 ある意味では既成事実が出来上がることになる。

 そこで自分やケンキ、そして変装されるであろうレイナの正体をバラせば三人で付き合っていることが噂になるはずだと考えている。


「うふふ」


 そうなれば色んな意味でケンキは逃げられなくなるはずだと想像して楽しくなっていた。

 変装してと想像したが、多くの護衛がつけることで、あえてそのままの姿で三人でデートに行くのも悪くないと考えている。


「…………」


 ケンキはシーラの笑い声に背筋が凍る。

 どうあがいても自分は逃げられないと直感してしまっていた。

 ありとあらゆる手を使って追い込まれている気がしてくる。


「本当にレイナと一緒に来る日が楽しみだなぁ」


 シーラの言葉にケンキは身体を振るえてしまうのが止められないでいた。




「ケンキ君、シーラとのデートはどうだった?」


 王城に用意されたケンキの部屋に王様が突入してくる。

 ケンキは驚くが平静に王が座りやすいように席を準備する。

 一緒に来た護衛の分も忘れない。


「………一緒に食べたケーキが辛かった」


「………そうか」


 楽しかったとかの感想を聞きたかったのに、予想外の答えに王は混乱してしまう。

 一緒に来た護衛は、そんな二人を見て苦笑する。


「………聞き方を変えよう。シーラとのデートは楽しかったか?」


「………とても」


 ケンキの肯定の感想に王は今度こそ嬉しそうにする。

 娘とケンキの仲は良い事だと国のことを考える。

 ケンキほどの実力者であり、子供のころから知っている子なら任せるのも問題はない。

 シーラと違い、ラーンには政略結婚をさせてしまうことに多少、心苦しく思うが許してほしいと思っている。


「…………俺とシーラが将来、結婚するのを考え直したのか?」


 ケンキは一瞬だけ見せた王の心苦しい顔に婚約は無しになったのかと想像する。

 そのことにケンキは少しだけ残念に思う。


「は?いや、違うぞ。ただラーンがな……」


 急にラーンのことが話しに出てきてケンキは困惑する。

 ラーンに何かあったのなら協力したいと申し出ようとする。

 どうせシーラの中心に考えることになるのだから、余裕があるうちはラーンの手助けもしたいとケンキは考えている。


「……ラーンに何かあったのか?俺で力になるなら協力するけど」


「………そう言ってくれるのは有難いが、お前では力にならないだろう」


「………そうか」


 ケンキの申し出に有難く思いながら王は拒否する。

 実際に力になれることは無いし、それよりも娘を相手してほしいと思ったのが本音だ。


「………ところでケンキ君、王族の一員として勉強をしているのは知っていますが、できれば騎士たちにも訓練をしてもらいたいのですが大丈夫ですか?」


「おい」


 護衛の言葉に王は不満を口にする。

 娘を相手してほしいのに、その時間を減らされるのは不満だ。

 だから止めようと声を出す。


「いえ、流石に毎日デートと行くわけでもないでしょう?週に一日程度でも良いので騎士たちを鍛えて欲しいのです」


 護衛の言葉にケンキは少しだけ嫌そうな顔をする。

 今も鍛えているのに更に時間を割くのは好きではない。

 どうしても、これ以上騎士が強くなりたいと思っているのなら自分で努力しろと思ってしまう。


「…………今もやっている。これ以上、強くしたいなら自分で努力しろ」


「それはそうかもしれませんが……」


 ケンキの言葉に護衛は何も言えない。

 最終的に強くなるのは自分で努力する必要があるのはわかっているがケンキに頼りたくなってしまう。

 最も強くなるのに手っ取り早い方法は自分より強い相手に引っ張り上げてもらうことだからだ。

 ケンキという最上の相手がいるのに利用しない手はないと考え食い下がる。


「ケンキ、どうしても無理か?」


 護衛の騎士の食い下がりに王も護衛側の気持ちになってしまう。

 これだけ頼んでいるのだから良いだろう、と。

 それに自分の国の騎士が強くなるには都合が良い。


「………絶対に嫌。そんなことをするくらいなら自分を鍛えたい」


 ケンキの自分の意思を変える気はない姿にため息を吐く。

 正直、これ以上強くなってどうするんだという考えもあった。

 既に天災のドラゴンを倒せるのに何を目指しているのか理解できない。


「ですが私たちが強くなれば国も、貴方の婚約者も今よりも安全になります。それでもダメですか?」


「………俺を利用しなきゃ強くなれないのがおかしい。俺は誰かに強くしてもらった記憶はない。お前らも出来るはずだ」


 ケンキの言葉にそれは無理だと王と護衛は思う。

 二人からすればケンキだからこそ、ここまで強くなれたのだと考えている。

 他の者に同じことをさせても無理だと思っている。


「いや無理だろ。普通はどんなに努力しても、お前ぐらいまで強くはなれない」


 王の言葉に護衛はその通りだと何度も首を縦に振って頷く。

 だがケンキはそれを認めない。


「………大丈夫。必死になれば強くなれる」


 ケンキは必死に努力をすれば自分程度は強くなれると考えていた。

 自分が必死に努力をしていたという自負もあるから、そう考えている。

 他の者よりも強いのも他人より必死に努力してきたからだと。


「ケンキ、この国ではお前より強いものはいない。そして、それは努力だけでは絶対に追いつけないことを覚えておけ」


 ケンキ自身の才能を一切考えていない発言に王は考え直すように改める。

 昔からの付き合いだから、どれだけケンキが努力しているかも知っている。

 子供たちからもストイックだとよく話を聞く。

 それでも、ここまで強くなったのは努力だけでなく才能もあったからだ。


「………俺はいろいろなものに手を出してしまっているよ?」


「ん?」


 ケンキの言葉に王と護衛は首を傾げてしまう。

 その様子に説明を続ける。


「………俺は強くなるために鍛えるだけではなく魔法を遊びながら研究もしているし、道具も作れる。誰よりも強くなりたいのに、それをしているのは本来なら無駄な事」


 あれだけの実力と結果を出したのに無駄だと言うケンキにため息が出てしまう。

 それでも文句を言わないのは決して否定できないことも言っているせいだ。

 本当に誰よりも強くなりたいのなら世俗を捨て学園にも行かず、魔法で遊ばず、道具を作らない。

 今、ケンキを国に引き留めるなら多くのものと関りを持たせた方が良い。

 その最たるものがシーラだろう。


「………そうだな」


 これからもシーラにケンキに積極的に関わるように言っておこう。

 婚約者だからとはいえ、強くなりたいからと全てを捨てるのもあり得ないとは言い切れないのだから。


「ケンキ?今いるかしら?」


 部屋の外から扉を叩く音と娘の声が聞こえてくる。

 いろいろと話していたが娘とデートの感想を聞くことは出来たから部屋から出ようと決める。


「………いる」


「それじゃあ………ってお父様!?」


 部屋に入るなり自分の父親がケンキの部屋にいることに驚くシーラ。

 その姿を見て苦笑し、部屋から出る。


「それじゃあ、ケンキ君。話を聞けて良かったよ」


 王の言葉に頷いてケンキは部屋から出る二人を見送る。


「ねぇ、何の話をしていたの?」


 そしてシーラへと視線を移す。


「………今日のデートは楽しかったか感想を聞かれただけ」


 シーラの疑問に正直に答えるケンキ。

 それを聞いてシーラはため息を吐く。

 娘とのデートの相手の男に聞くなんてと思っている。

 その感想もちゃんと自分に教えてくれるかと疑問を覚える。


「………ケンキは楽しかった?」


 どうせだからとシーラは自分からもケンキに質問する。

 父親が教えても教えてくれなくても、直接相手から聞いた方が嬉しい。


「………楽しかった」


 ケンキが頷いてくれたことにシーラは喜ぶ。

 そしてますます今度のデートはレイナも一緒に連れて行くことに決意を強くする。

 何度も何度も一緒に行っていればケンキも諦めるだろうと予想する。


「それじゃあケンキ、今日も一緒に寝るわよ」


「………そう」


 一緒に寝ると言ったのにケンキは顔を赤くしない。

 何か勘違いしているかもしれないと考えて部屋を暗くしてベッドにベッドの中に引きずり込む。

 ケンキはされるがままにシーラと同じベッドの中に入り抱きしめた。


「ケ……ケンキ?」


 突然の行動にシーラは顔を赤くしてケンキに声を嗅げるが返事をしない。

 思わず確認すると寝ていてしまっている。


「………ケンキも寝ちゃっているし、もしかして朝まで、このまま?」


 相手は婚約者で好いている相手だが、だからこそシーラは抱きしめられて眠れないでいた。

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