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パーティを追放されました。でも痛くも痒くもありません  作者: 霞風太
サバイバル演習編

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53/62

そして

「よくやってくれたケンキ」


「………別に」


 王城の謁見の場でケンキはそっけなく返す。

 その反応に一緒にいた多くの貴族たちや重鎮は不満を爆発しそうになるが王が手をかざして抑える。


「……思ったよりドラゴンが弱かっただけ。大したことはしていない」


 王たちはケンキの言葉に溜息を吐く。

 騎士といった戦える者達も同様だ。

 そう言えるのはケンキだからこそだろう。


「そう言えるのはお前だけだ。どうせドラゴンを倒したのは、お前だろう?国宝は使わなかったのか」


「……必要が無かった。ドラゴンを倒したせいで俺の使っていた武器が何か変な能力を得そうな気がするけど渡した方が良い?」


 ケンキの言葉に多くの者がまた騒めく。

 否定をしないということはケンキ自身の力でドラゴンを倒したのは事実なのだろう。

 そしてドラゴンを倒したことで使った武器に何かしらの能力が宿したことに驚いてしまう。


「そうか。お前はいらないのか?」


「……また新しい武器を手に入れれば良い」


 王はケンキの考え方に溜息を吐く。

 もともとケンキの武器なのだから必要は無い。

 むしろ、その手の武器は国宝に山ほどある。


「必要ない。お前が使え」


 ケンキはその言葉に首を傾げる。

 強力そうな武器はいくらあっても足りないとは思わないからだ。

 どんな能力を得るかはまだ分からないが欲しくは無いのかと思う。


「………そうか」


「そういうことだ。さてと詳しい話を聞こう。ドラゴンをどうやって倒した?」


 本題はここだ。

 天災ともいえるドラゴンをどうやってケンキが斃したのか知りたい。

 ケンキだから単独で倒せたのかもしれないがそれでも聞くだけの価値はあると考えている。


「……ドラゴンの欠点はこちらを格下だと侮っている」


 ケンキは相手が何を聞きたいのか察して話し始める。

 そして最初に口にしたのはドラゴンの欠点だった。


「………ふむ」


 王もケンキが話し始めると判断して興味深く聞いてくる。


「……だからこそドラゴンの防御力を一撃で突破する攻撃を通せば倒せる」


 ケンキの説明にやっぱり無理だと全員が思う。

 まずドラゴンの防御を超える攻撃力が存在しない。

 あったとしても国宝の中にある武器ぐらいだろう。

 やはりケンキでしか出来ない方法だった。


「……なるほど。つまりは初手で攻撃を与えられれば勝てる確率は大幅に上がるんだな」


「……そう。攻撃を一度当てて痛みを感じさせたら絶叫した」


 出来るかどうかは別として良い情報かもしれないと王は考える。

 天災だからこそ思うがままに蹂躙してきたのだろう。

 痛みを知らないのかもしれない。

 だからこそ一撃でも当てて痛みを感じさせれば勝てる可能性が上がるのだろうと想像する。


「そうか。それで一撃を当ててからは有利になったのか?」


「……そう。痛みに絶叫してのたうち回っていて見ていて無様だった。あれなら騎士たちの方が、かなり厄介」


 それはケンキだからだろうなと、この場で聞いていた者達は考える。

 あれだけの巨体だ。

 のたうちまわるだけでもかなり厄介だろう。

 普通の騎士だったら避けるので精一杯の筈だ。


「なるほどな。その後は?」


「……まずは片目を潰した。もう片目は態と残して翼を切断。次は……」


 残虐な戦い方に何人かは顔を引き攣らせる。

 これ以上は聞きたくないと王もケンキの口を止める。


「もう良い。止めろ」


 ケンキも理由は分からないがそれならしょうがないと諦める。

 王はそんなケンキに頭を抱える。

 何で誰にも真似できないことを平然とするのだろうと。

 しかも内容も酷過ぎる。


「………取りあえず皆、ケンキがドラゴンを倒したことは口外しようとするなよ。他国から引き抜きが来ないようにするべきだ」


 王の言葉にその場にいた者全員が頷いて、その場は解散となった。





「ケンキ君」


 ケンキは夜は遅いが食堂の方へと歩いて行くと声を掛けられる。

 何の用だと振り返ると、そこには王直属の騎士や魔術師など複数人がいた。


「………何の用?」


 ケンキの反応に苦笑を浮かべる者達。

 相変わらず親しいもの以外に対する反応が冷たい。


「なに王城の泊まると聞いていたのに用意した部屋では無く、違う所に行こうとしていたからな。気になったんだ」


 監視の様なものかとケンキは想像し後ろをついて来られるのも困るから正直に話すことにした。


「眠れないし、腹が減ったから何か食べるだけだ。誰もいないなら作ろうと思っている」


「「なっ!?」」


 ケンキの手料理と聞いて二人は強く反応する。

 二人もケンキの料理の美味さは知っている。

 だからこそ自分達も食べたいと思う。


「………一応、言っておく。俺は自分の分しか作る気がない」


 ケンキの言葉に二人はショックを受ける。

 それでも頼めば何とかなる筈だと頭を下げようとする。


「………どれだけの条件を突き出されても無理。そこまでの気力は湧かない」


 その言葉にケンキの無気力な姿を確認して諦める二人。

 よくよく考えれば、ドラゴンと長時間戦って、直ぐに王女を国へと戻すまでの護衛。

 そして直後に謁見の間に通される。

 色々な出来事が一気に流れて来て、これは疲れると二人して頷く。

 今回は諦めて次の機会は絶対に食べようと誓った。




「父様」


「何だ?」


 突然のシーラから声を掛けられたことに当人の王だけだけでなく、その妃も視線を娘に向ける。


「今日、私はケンキを部屋に誘います」


「「ぶっ!」」


 娘の突然の宣言に二人してむせてしまう。

 まさか、そんなことを宣言されるとは思ってもみなかった。


「………本気なの?」


「えぇ。私はケンキのことが昔から好きだったんです。卑怯と言われても、どんな手を使ってでも彼を私の男にします」


 娘の本気を瞳を見て理解した妃。

 それならしょうがないと応援する気が満々になる。


「………お前たちは昔からケンキのことが好きだったからな。王としてもお前の夫になるのなら国の利益になる。好きにしろ」


 父親である王も娘の行動を認める。

 女として彼を繋ぎ止めろと。


「えぇ。好きにさせてもらいます。ですから私に婚約の件は持ってこないで下さいね?」


「お前の策が成功したら、もう持ってこないさ」


 父親の言葉に娘は嬉しそうに笑う。

 そして父親たちの前から去っていく。

 次に行く場所は風呂場だ。

 まずは身体を洗おうと考えていた。



 風呂場へとシーラがつくと既に彼女の侍女たちがいた。

 彼女たちは既にシーラが今夜に決着をつけようとしていることも、昔から長い間、想っていたことを知っている。

 だから洗う際にはいつもより力が入ってしまっていた。

 そして。


「最初は痛いけど頑張ってください!」


「相手も初めてだから下手だろうかもしれないけど顔に出さないように気をつけてくださいね」


 自分の経験からのアドバイスを主へと送る。

 仕えている主といえど昔から知っている二人だ。

 つい色々と口に出して応援したくなってしまう。


 侍女たちはアドバイスをしながらシーラの体を洗い少しだけ香りをつけて衣類を着替えさせる。

 ちなみにその服は煽情的で脱がしやすい服だった。

 流石に寝室ならともかく風呂場から、この姿で出るのは恥ずかしい。

 隠す必要があった。


「これで隠してください。私たちも一緒に着いていきますので」


 侍女の一人がマントをもってシーラの服装を隠す。

 そして何人かの侍女と一緒にシーラの部屋と進んでいった。




「まさか今日、決めるつもりだったとは」


「ドラゴンを特別な武具も無しに倒した。必死に隠しても何時か情報はバレるでしょうしね。その時に名も知れぬ誰かに奪われるなら今ここで自分の男にしようと考えていたのでしょうね」


 今までも何度も機会があったのに告白すらしようとしなかった娘の変化に王は疑問を持つが妻の言葉に少しだけ納得する。

 ドラゴンを実際に倒したことで更にどこかに行ってしまう危機感が湧いたのだろう。

 女が理由で他国に行く可能性もあるし、そうでなくとも強者を求めて他国に行く可能性もある。

 そこで自分以外の女と結ばれることを漸く想像したのかとため息を吐く。

 そうでなくともドラゴンを倒した知られたら引き入れるために国でも一番の美人をあてがわせそうとするだろう。

 自分ならそうする。


「ようやく、あの子が決意したんだ。それを祝おう」


 王の言葉に妻はうなずく。

 だけど。


「まさか一気に既成事実を作ろうとするなんて。普通は告白から段々とステップアップしていくものでしょうに………」


 妻の言葉に王は頷く。

 大衆の娯楽小説や貴族ではない平民も段々とステップアップしていって最終的に夫婦になっていた。

 貴族や自分達は、そんな恋愛は滅多にない。

 幼いころから婚約者が決まっている。

 娘や息子に婚約者を決めていなかったのは偶々でしかなかった。


「さて、あの子が義息子になるのか」


 それでよかったと王は笑う。

 信頼できて娘が心から好きな相手が義息子になるのだ。

 昔から知っている分、他の相手よりはマシだ。




「何をしているのですか?」


 シーラの侍女の一人はシーラを部屋まで一緒に連れて行ってから自分の部屋の部屋へと戻ろうとしている。

 その最中に何人もの仕事仲間が食堂に集まっているのを見かけてしまった。


「あぁ。君もケンキ君の料理は美味しいのは知っているだろう?」


 その言葉に侍女は頷く。

 一度食べてみて、また食べたいと思ったのを思い出す。

 そして、それがどうしたのかと首をかしげる。


「実はケンキ君が食堂の調理場を借りて料理を作っているみたいでな。俺達も食べさせてもらおうと思っているんだ」


 侍女は主の部屋に向かわないで何をしているんだと、こめかみに青筋が浮かぶ。

 無理矢理にでも彼を部屋に連れて行くべきかとさえ考え始めていた。


「………何をしているんだ?」


 ケンキは調理場から出ると食堂に多くの者が集まっていることに、つい疑問を口に出してしまっていた。

 自分の分しか作る気が無いのに他の人の分は絶対に作る気はない。

 あの二人はそのことを伝えていないのかと考えるが伝えていたら、こんな目で見られていないだろうなと思う。


「………あ」


 そしてケンキはシーラの侍女を見つける。

 子供の具体的な作り方を教えるとシーラが言っていた。

 そのことで人を使って呼んだのだろうと考えて近づく。


「……悪いけど、これを食べてからで良いか?腹が減ってしょうがない」


「………はぁ。わかりました。それを食べながらでも部屋で食べても良いので着いてきてください」


 侍女のため息を聞きながら後ろに着いていく。


「待ってくれ!俺たちの分も何か作ってくれないか!?」


「……無理。腹が減っているから自分の分しか作りたくない」


 ケンキは後ろから料理を作ってくれと頼む者たちに首を横に振って断る。

 結構な量を作ったが、これは全部自分で食うものだ。

 誰にも絶対に譲りたくない。


 そして言葉に甘えて食べながらシーラの部屋へと歩いていく。


「その……。私が先に言いましたが、本当に食べながら歩いて来るんですね?」


 侍女の言葉にケンキは頷くが、侍女はケンキが頷いたことにため息を吐く。

 本当に食べ歩くのではなく注意されたと考えて止めて欲しかった。

 直接、言わなければ分からないのだろうかと苛立ちがつのる。


「………何か食べなければ本当に無理。今も空腹で腹が痛い」


 腹が痛いと聞いてそれは本当に空腹かと侍女はケンキのお腹に手を当てる。

 もしものために侍女は医療の心得を持っているのがほとんどだ。


「……うん?すみません。お腹に耳を当てますね」


 それから息を吸って吐いてと指示を出しケンキも頷く。

 その結果は。


「確かに空腹ですね。何時から食べてないんですか?」


 何も問題は無さそうだから何時から食べてないか確認する。


「………昼には食べて、それから食べていない」


 それなら少しは我慢が出来るはずだと侍女は首をかしげるが、そういえばドラゴンと戦っていたなと思い出す。


「………普段なら少しは我慢できたかもしれないけど本気で動いていたから無理」


 本当は許したくないが、これ以上は何も言わないことに侍女は決める。

 お腹が痛そうに見えるのは事実だし、何かを口にして和らげれるなら、それでよいと考えていた。

 それに量はまだまだある。

 主と一緒に食べるのも良いかもしれない。




「連れてきました」


 侍女が一緒に来たのはケンキが寄り道していたのを連れてきたのだと理解する。

 そして分からないのは何故、ケンキが食べ物を持って来ているのかだ。


「その食べ物は何?」


「……腹が減ってしょうがないから作ってきた」


 何をしているんだとため息を吐いてしまうシーラ。

 そこで良い案を思いつく。

 それは食事の合間の飲み物に媚薬を混ぜるという考えだった。


「ケンキ、私も食べさせて。それと飲み物を持ってくるから待ってて」


 やり方の知識は無くても本能は知っているはずだとシーラは考える。

 本能のままにやられてみたいと思ったのも理由の一つだ。


「………別に良いが何を飲ませる気だ」


 何かを察知したのかケンキはシーラの持ってくる飲み物を警戒する。

 そのことに、そういえばこういう奴だったと思い出してシーラは顔を歪めるがすぐに他の理由を口にする。


「興奮剤よ。子供の作り方を教えるって言ったのに意識を落とされていたら嫌だもの」


 嘘は言っていない。

 ケンキもそういうことなら納得する。

 同時にそれなら明日でも良いんじゃないかと考える。

 明日の昼とかなら寝てしまう可能性は少ないと考えて。


「できたわよ。これを飲んでから教えるわよ」


 ケンキは持ってきた食べ物を口にしていき、喉が渇いたらシーラに渡された飲み物を口にした。







 そして。


「…………気持ち良かった」


 ケンキはシーラに手渡された飲み物を口にしてから自覚できるぐらいにおかしかった。

 知識にあるかぎり本来は出すべきところに無理矢理、自分のモノをいれたりと無茶苦茶なことをしてしまった。

 シーラも痛がっており傷つけてしまったと後悔している。


「そう。良かった」


 対照的に嬉しそうに笑うシーラ。

 あれだけ痛がっていた癖に、その笑顔をしている理由が本気でケンキは理解できない。

 取り敢えずは服を着ろとシーツを投げる。


「ケンキ、昨日の貴方が本能的に行動したアレが子供の作り方よ。もしかしたら私のお腹の中に貴方の子供がいるのかもしれないわね」


「……………………できていない」


 シーラの言葉の意味をよく理解できなかったがお腹に子供がいるかもしれないと聞いて、答えを返す。

 妊婦を見たことがあるから子供が母親のお腹の中にいることの意味が分かるが、それでもできていないとケンキは何となく判断する。


「あれだけケンキのを私の中に出したんだから有り得ると私は思うわよ」


 そしてシーラはケンキが自分のお腹を見て妊婦のように膨れていないから、そう判断したのだと思っていた。


「………そう。それでお前はもう大丈夫なの?………昨日はかなり痛がっていたと思うけど」


「今はだいぶ平気よ。世の中の女性のほとんどが覚える痛みなのよ。気にしなくてよいわ」


 ケンキは本当に大丈夫なのか疑いの目を向ける。

 もし嘘だったら平気ではいられない。

 これから王たちにシーラを傷つけたと謝罪する気だが放っておく気にならない。


「それともう一度言うわよ。昨日のケンキが私にした行動が子供の作り方よ。他の女に同じことをしたら二股の屑野郎になるわ」


 シーラの言葉にケンキは子供の作り方に疑問を持つ。

 子供を産むのに女性だけが辛すぎないかと考えてしまう。

 昨日は自分はただ気持ち良かっただけで全然、辛くも痛みもなかった。

 むしろ痛みを覚えていたシーラにその顔をもっと見たいと思ってしまっていた。

 それなのに子供ができてしまうのかと。


「父上たちにも私のことに謝罪をしなくて良いわ。知っているし」


 どういうことかと首をかしげる。

 知っていて娘を悼みつけさせたのかとケンキは予想する。


「とりあえずケンキは父上たちと色々なことを話す必要があるわよ」


 さらにケンキは首をかしげていた。


「申し訳ありません。ケンキ君はいらっしゃいますか?」


 扉を叩くが決して開かず、扉の外から質問の声が聞こえてくる。

 それに答えるのはシーラ。


「いるわよ。ケンキがどうしたのかしら?」


「できればシーラ様とケンキ君が一緒に来てほしいそうです」


 ケンキはどういうことだと意味が分からず、シーラは何の用か想像して顔をにやけさせる。

 シーラは扉の外にいるものに分かったと返事をして服を着る。

 ケンキはそこで疑問を持つ。

 なぜか自分の分の服までシーラの部屋にあることに。

 少なくともケンキは自分の服をシーラの部屋に置いた覚えはない。


「ケンキ、行くわよ」


 疑問を口にする前にケンキは強引にシーラに腕を引っ張られていった。




 そして王と妃の前に出る。

 周辺には誰もいない。

 完全にプライベートな空間だ。


「昨日、二人は最後までしたんだな?」


 最後と言われても何を示しているのか理解できないケンキは疑問符を浮かべ、シーラは顔を赤くして頷く。

 その反応に王たち二人は楽しそうに笑った。


「ケンキ、お前は今日からシーラの婚約者だ」


「………は?」


 突然の言葉にケンキは一言しか声を出せなくなる。

 まさか、そんなことを言われるとは思ってもみなかった。


「父上、ケンキは本気で性知識が欠けています。実践で教えましたが知識の面でも丁寧に教える必要があるでしょうね」


「そうか。なら早速、講師を出そう」


「………は?」


 二人の言葉に妃も手を叩いて声を上げる。


「どうせだから私たちも参加しましょう。女の子の大切なものを奪ったんです。婚約は絶対にさせたいですし」


「それもそうだな」


「……は?」


 大切なものを奪ったことに心当たりがないケンキは困惑する。

 そして三人に首根っこを捕まれ、王城にある医務室へと直行されていく。


「邪魔をするぞ」


 医務室に入ると王たちはまず部屋の中を確認する。

 他に誰かいないか確認するためだ。


「誰もいないか。丁度よい、ケンキに性知識を教えてくれないか」


「え……?え……?」


 当然の訪問と頼みに医者は混乱する。

 そんなことを頼まれるなんて想像すらしたことが無い。


「あぁ、その間、俺達もこの場にいるが気にせずに続けてくれ」


 王たちの前で性知識を教えるのは、やりにくい。

 生きているうちに流れで覚えるはずなのに、なぜ教えなきゃいけないのかと不満に思いながら王たちの前で命令だと自分に言い聞かせて教えることにする。


「まずはこれを見てください……」


 最初に男女の裸が描かれた絵を出して見せる。

 文句を聞く気は一切ない。




「…………なるほど。子供とはそういう風に授かるのか」


 医者は説明している最中に気付いたが誰のためにこの時間を使ったのか、ようやく理解する。

 少年とはいえ知ってしてもおかしくないはずの年齢であるケンキに教えるためだったのだと。

 正直、同じ男として性に興味はないのかと疑ってしまう。

 この年頃の少年少女は自分で調べて知っていくはずだと思っていた。


「………だがシーラに俺との子供はできていないが?……授かりにくい時期だからか?」


「………うん?」


 だからケンキの言葉に困惑する。

 今、シーラとの子供ができていないと言った?

 どういうことかと視線を向けてしまう。

 ケンキは平然とシーラは顔を赤くしながらも罪悪感を感じているような顔をしている。


「どういうことですか?」


「………昨日、子供の作り方を教えてあげると実践で教えられた。それが、今教えてもらったのと同じ。ようやく理屈も理解できた。………そうか直接、注ぐ必要があるのか」


 ケンキの発言に思わず王たちを見る。

 すると視線を外されたりにっこりと笑われる。

 これはハニトラでもしたのかと察して医者は顔を引きつらせる。

 実際は媚薬を使ったのだが、それを知ったらさらに引くことになるだろう。


「どちらにしてもケンキ、娘に手を出したんだ。責任を取って婚約者になってもらうぞ」


 無理矢理、子供を産まされて絶望する女性をケンキは知っている。

 そして責任を取りなさいと男を責め立てる女性もだ。

 それは面倒だとケンキは受け入れることにした。

 むしろ、本当に俺で良いのかと疑問に思うが、また後で確認すれば良いだろうと考えていた。


「そうか!ならケンキの両親にも伝えないとな!」


 ケンキが頷いたことに嬉しそうにする王と妃。

 シーラも顔を赤くしながらも嬉しそうに頷いている。

 その姿を見て、流されているかもしれないが悪くないとケンキは考えていた。




「は?」


「………そうなのね。サリナちゃんのことはどうするのかしら?」


 ケンキの両親は自分の息子が王女と婚約すると聞いて混乱する。

 昨日はドラゴンと戦っていて、今日は王女と婚約。

 あまりにも情報が多くて困ってしまう。

 現実逃避をして他にもケンキのことが好きな女の子のことを疑問に口に出してしまうぐらいだ。


「そういうわけで一度、王が貴方たち婚約者同士の親として会話をしたいと言ってましたので、それなりに見れる格好の準備をお願いします」


「「え」」


 更なる情報にケンキの両親は固まってしまう。

 ケンキとシーラの婚約を伝えに来た相手は、そんな二人に同情の視線を送っていた。


「お金やどういった服装が良いのか分からなければ、いつでも連絡ください」


 ケンキの両親は今から王と会話をすることになったことにプレッシャーを感じていた。


「それと婚約したことは、まだ誰にも言わないで下さいね」


 そして圧力を感じた言葉に何度も首を縦に振った。





「ラーン様!至急報告したいことがあります!!」


 ドラゴンの死体を処理する式にあたっていたラーンは突然の王城からの使いに目を丸くする。

 何があったのか分からないが、ここで話して良いと指示をしても首を横に振られた。

 

「申し訳ありませんが今はラーン様にだけです!」


 使いの言葉に急な何かがあったと理解してラーンは指示から離れた。

 そして一緒に、その場から離れる。


「それで報告したいことってなんだ?」


「まずは耳を拝借します」


 そこまで重要な事かとため息を吐いて頷く。

 本当に何があったのかと疑問に思う。


「シーラ様とケンキ君が婚約されました。国に知らせるのは、まだ先ですが王子であり兄であるラーン様には早く伝えようと私が来ました」


「本当か!?」


 そして知らされた報告に声を上げる。

 まさか妹がケンキをモノにするとは何をしたんだと疑問に思うが、詳しいことは城に戻ってからにしようと決める。

 こうして隠して伝えると言うことは、その手段もあまり口外するべきことではないと考えたからだ。


「それにしても……」


「どうしましたか?」


「知られたら荒れるな、と思ってな」


「………そうですね」


 ケンキは強い。

 だからこそモテる。

 知っているだけでも魔術師のメイ、幼馴染というサリナ、そしてレイナもそうだろう。

 他にも惚れている女性は多そうだ。

 今は告白されてないから問題はないが、婚約していることを知らないせいで振られることになる。

 理由を話せないなら大変なことになりそうだ。


「それでも俺は知らせたほうが良いと思うんだがな……」


「何か考えがあるのでしょう」


 その言葉にラーンは頷く。

 そして城へと戻り話を聞くことを楽しみにする。

 幼馴染であるケンキが義弟になるのは知らない相手が義弟になるよりは信頼出来る。

 そして昔から妹の片思い相手だと知っている身としては兄として喜ばしかった。

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