打倒後
「………来たか」
ケンキは後ろからラーン達が来たのを察して振り向く。
既にドラゴンの首を切断して死体だ。
「………ケンキ?」
自分達に振り向くケンキの瞳にラーン達は脚を止めてしまう。
何時もとは違う鋭い目に動揺してしまっているせいだ。
「………それってドラゴンよね?一人で殺したのかしら?」
シーラはケンキの近くにある巨体の死体について尋ねる。
できれば違って欲しいと祈っていた。
それだけの実力があると思っていたが現実に目にすると無意識にでも脚を退いてしまいそうになった。
それでも実際に退かなかったのは、ここで退いたら関係がここで途切れると本能で理解したからかもしれない。
「……そう」
ケンキは当然だと頷く。
本人としては最初は楽しかったが最後はいたぶるだけだったから、つまらなかった。
これなら騎士を相手に戦っていたほうが楽しかった。
騎士たちは自分相手に少しでも強くなろうとどれだけ痛み付けても挑んできたのだから。
「…………疲れたでしょ。先に国に戻って良いわ。後は私たちで処理をするから」
つまらなそうにしていたケンキに気付いてシーラは先に戻るように指示をする。
ドラゴン相手でもケンキには敵にならないと理解して溜息を吐いてしまう。
内心では少しの恐怖を抱いてしまっていた。
「……お前は戻らないのか?ついでだから、お前を護衛しながら国に戻ろうと思うが」
だが続けられた言葉にシーラは内心抱いていた恐怖を吹き飛んでしまった。
まさかケンキから誘われるとは思ってもいなかった。
恐怖を抱いていたはずなのに自分を護衛してくれると聞いて嬉しさで内心が一杯になった自分に現金だと思ってしまう。
「何だ?俺は護衛をしてくれないのか?」
そこで兄のラーンが入って来る。
表情はニヤニヤとしており、からかう気が満々だ。
シーラは折角の誘いなのに、からかう気が満々だとわかっていても邪魔だと思ってしまう。
「………当然、ラーンも一緒に連れて行くが?……騎士たちだけでドラゴンの処分は十分だろう?」
だが肝心のケンキに頷かれたことで状況は変わってしまう。
ケンキはラーンが拒否をしても無理矢理にでも連れて行く気だと目が語っていた。
折角、二人きりになるチャンスを潰してしまったと兄であるラーンは後悔してしまった。
「……行くぞ」
「待て待て待て!!」
ケンキはラーンとシーラをそれぞれ肩に担ぐ。
鎧や武器なども考えれば、かなりの重量なのにケンキは全く気にしていない。
かなりの力だ。
そしてそんなケンキにラーンは待ってくれとストップをかける。
「……何?」
「悪いが俺は、このドラゴンの死体の処理に残る。お前はシーラと一緒に国へと戻ってくれ」
どうしてもラーンはケンキとシーラを一緒にさせたいのか自分は残ると言い出す。
ケンキは何で、そんなことをラーンが考えているのか理解が出来ない。
「……頼む。俺としては二人を護衛するより一人だけの方が楽だと思ったんだ。お前も疲れているしな。それに一緒に来た騎士たちは信用できる」
ケンキは一緒に来た騎士たちを見て全員が鍛えたことがある相手だと確認して頷く。
それに護衛として気を張るのが二人よりは一人の方が確かに楽だ。
シーラに対してもそれで良いのかと確認する。
「……そうね。それでお願いするわ。私たちは先に国へと戻って待機するわよ」
シーラの言葉に従い、ケンキはこの場から去っていった。
「………良かったんですか?本当に二人きりで」
ケンキが見えなくなった後、一緒に来た騎士はラーンへと問いかける。
どういうことかとラーンは視線を向ける。
「シーラ様は美人ですから、流石にケンキ君でも手を出すかもしれませんよ?」
「別にそれはそれで構わないが?」
「え!?」
楽しそうにからかうつもりで話してくる騎士にラーンは構わないと答える。
その答えが意外だったのか、驚きの声を上げる。
「何だ、知らなかったのか?妹がケンキのことを好きなのは周知のことだと思っていたんだが」
ラーンの言葉に女騎士や男の騎士も頷いている。
むしろ気付いていなかったのは少数ぐらいだ。
「そうなんですか!?」
「本当に気付いていなかったのか?ちなみに父上も気付いて推奨している。あれだけの実力があるのに取り込もうとしないのは不自然だろう?」
王族であるラーンの言葉に不敬だとわかっていても不満な表情を浮かべる気付いていなかった者たち。
他に騎士たちも、まるで娘をそして妹を政略道具として使うような言い方だ。
それが分かっているのか騎士たちにラーンは王族として言葉を放つ。
「一つ言っておくが権力を持つということは、そういうことを考えなければならない。俺の父や母も政略結婚だ。だから母の祖国と仲良く出来ている。そういう意味では妹は運が良い。幼い頃からの付き合いがあって昔から好きな男と一緒になれるのだからな。そして、その男も伝説の武具が無いと倒せないドラゴンを自分の力で倒せる。もし、これだけの力が無かったら貴族か顔も知らない国の王子と結婚していたかもしれないんだぞ」
不満を持った騎士たち相手にラーンも王族だからこその不満をぶつける。
そういう意味では平民の方が遥かに幸せなのだ。
結婚相手を自分で選べて好きな相手と結婚できるのだから。
それなのに浮気や離婚もあるのだから笑うしかないが。
「申し訳ありません」
一人の騎士が代表として謝り、他の者達も頭を下げて謝罪する。
王族だからと楽をして生活しているわけでは無いのは知っていたが、結婚まで自由が無いのは考えもしなかった。
そして、だからこそシーラ様には好きな相手と結婚して欲しいと思ってしまう。
それにしても仲が良いと評判の王様夫妻も政略結婚だとは思いもしなかった。
「………俺もすまない。思いきり文句を関係無いのにぶつけてしまった」
ラーンも謝りお互いに謝ったことで、この話を終了にする。
そしてシーラはケンキの何処が好きなのか、何時から好きになったのかと話題になっていく。
女騎士が中心となってラーンへと質問していき、その数の質問の多さに男たちはやはり女は恋話が好きなんだと理解する。
質問攻めにあって、疲れてきているラーンを見て見ぬ振りすらしていた。
不敬かもしれないがテンションの高い女性の邪魔をしてしまって怒りを買いたくないのが理由だった。
「さてとドラゴンの死体を回収するぞ。鱗や爪の破片でもかなり強力な武器になる。ひとつも見落とすなよ」
ラーンの指示に頷き、騎士たちはドラゴンの死体を回収していく。
指の一本一本が切断されており、その上、全てが大の大人と同じぐらいが大きいせいで回収も大変になっていた。
「………無理だな。後日、それ用の馬車でも持ってこないと運べないな。何人かで見張って馬車を持って来てい貰うように進言するしかないか」
「何がだ?」
ドラゴンの死体を運ぶのに、このままでは辛いから別の案を口に出していたらラーンが横から入って来る。
騎士にとっては、かなり上の立場の存在が突然話しかけてきたことに頭が真っ白になってしまっている。
「おい!ラーン様が質問しているんだぞ!早く答えろ!」
頭が真っ白になって何も言えないでいる騎士に上司が頭を叩いて正気に戻す。
そして質問されたことに答えないで黙っていて申し訳ありませんでした、と謝った。
「いや、気にしなくて良い。俺の様な存在に話しかけられると驚きで頭が真っ白になる者もいると知っているからな。敢えて無視していたり、集中して気付かなかったりと悪意が無いのなら構わない」
王子からの許しにホッと一息を吐く騎士。
それで気が緩んでしまったのか進言することを忘れてしまっていた。
「いや、何か質問されていただろ。答えろよ」
「あっ。すみません。……このドラゴンを回収すると言っても全部は無理ですから、運べるように巨大な馬車を用意して欲しいです。それまで何人かで盗まれないように騎士たちが見張ったりして」
たしかに一気に全部は無理だとラーン達もドラゴンの巨体を見て納得する。
そもそもドラゴンを倒すために来たのであって、ドラゴンの死体の回収に来たわけでは無いのだ。
出来るならやろうとしていただけで、実際は出来なかった。
「それか今、気付いたんですが。後日、ケンキ君に手伝って貰ってドラゴンの死体を運びやすいように解剖したいです。そうすれば回収もしやすくなるはずですし」
一瞬だけケンキを使おうとしたこに怒気が湧くが、直ぐに消す。
騎士の考えは間違っていないのだ。
ただ疲れているケンキを更に使おうとしていたことが問題なだけで。
それにちゃんと言った言葉を思い出せば、後日とも言っていた。
それならケンキも体力を回復させているし問題ないだろうと考えもある。
「そうだな。今日は疲れているし既に国に帰らせているからな………。体力が回復していたら明日にでも頼もう。………ドラゴンだから解剖するのにケンキに手伝ってもらうことに違和感は抱かなかったが、お前らは無理なのか?」
ラーンの質問に頷き、実際に回収したドラゴンの指の元へと案内する。
「見てください。本気で剣を振り下ろしても傷がつきません。こんなに硬くては、どうやって加工するのかも問題になります」
精鋭の騎士が使う名剣でもドラゴンの傷がつかない。
たしかにどうやって加工するのか予想が付かない。
だが、だからといってドラゴンをこのままにしておくことも難しい。
「そうか、とりあえずはドラゴンの回収だな。何人かの騎士で見張りながら準備をしよう。回収の準備が終わるまでは、ここでキャンプをすることにしようと思う。何か意見は?」
ラーンの質問に声が聞こえていた者達は顔を見合わせる。
何かあるなら何でも言ってくれとラーンは口にする。
「あのドラゴンの死体も生き物ですから死体になったら固くなると思いますが大丈夫でしょうか?場合によってはケンキ君でも切り裂けない可能性もあると思います」
「……そうだな。そうなったら、そうなったで良いと俺は思っている。そもそもドラゴンを加工できる者も少ないからな。幸いにも我が国にいるから事情を話して連れてこよう。もしかしたら、いや時間的には明日にも来るはずだ」
この固いドラゴンを加工できるなら鍛冶師が戦えば良いんじゃないかと騎士たちは思う。
それとも特別なやり方を使うから加工だけはできるのか興味が湧いてしまう。
もし、それを実践できるなら是非とも教えてもらいたい。
「一応、言っておくがドラゴン加工できる者はドラゴンを倒せない。お前らは戦いのプロだが料理もプロか?もっと正確に言えば戦闘能力が国では無く世界でも上から数えた方が早いか?」
ラーンの質問に騎士たちは首を横に振る。
偶に両方がプロの領域に立っていものもいるが、両方とも国では無く世界でも上から早い実力を持っているわけではない。
何となくラーンの言いたいことが理解できる。
「それにドラゴンから武器に加工できても、防具に加工できなかったり、アクセサリーなど加工できなかったりする者もいる。むしろ、どれかに特化している者がほとんどだ」
それだけドラゴンを加工するということは、かなりの技術を必要とすることが理解できてしまう。
国の中に何かしら加工できる者がいるということに幸運だと騎士たちは考える。
「さて、まずはキャンプの準備をするぞ。見張りの順番も考えてくれ」
ラーンの言葉に全員が返事をして行動を始めた。
「………失敗した」
ケンキはシーラを肩に担ぎながら自分の行動に顔を歪める。
馬車で来たのかを確認して、そうであるのならそれを使えば良かった。
お陰で抱えているシーラの身体の柔らかさと匂いで変な気分になる。
「どうしたのかしら?」
「……別に」
ラーンの質問にケンキは一切、顔に変化を出さずに誤魔化す。
シーラも少しだけおかしく思いながらも何も言わないことにしていた。
むしろ自分から体を押し付けてきている。
ケンキはそのせいで更に少しだけ反応する。
「……シーラ?」
当然、シーラからすれば意図的な行動だ。
そして自分の身体に反応してしていることが直感的に解かってしまう。
あのケンキが反応を示していることにシーラは良い気分になる。
「何かしら?」
自分から体を押し付けていることに少しだけ顔を赤くしながらケンキにどうかしたのかと聞き返す。
ケンキは自分に身体を押し付けているシーラが顔を赤くしていることに気付いていない。
だが気付いていたとしても同じ行動をしていたのかもしれない。
「ひゃん!?」
ケンキは自分に身体を押し付けているのは雨で身体が冷えてしまい寒くなってしまったか、今頃になってドラゴンの恐怖が襲って来たかのどちらかだと考えている。
それを誤魔化すためにケンキはシーラの身体を抱き締めている。
「………どちらにしても密着するのは変わらないか」
「変なことを言わないで……!」
「……間違ってはいないだろ」
自分がキッカケとはいえシーラは今の状況に恥ずかしくなってきている。
己の身体の柔らかさを堪能させ匂いも嗅がせている。
はしたないと言われても文句を言えない。
それにしてもだ。
「ケンキ、貴方って本当に男?」
あまりにも自分の身体に反応しないケンキに男としての機能が本当にあるのか疑ってしまう。
王族は崇拝されやすくするために美に関して妥協しない者が多い。
人は美しい物に価値を見出すのだから少しでも好かれるために努力するのは当然だ。
王族が貴族でもない平民と結婚するにしても容姿の美しさは絶対に関わって来る。
そんな存在が集まって現代で最も美形とされている王族に名を連ねているシーラの身体に少ししか反応していないことに男としての機能を疑ってしまうのはおかしくないだろう。
「………どこから見ても男だろうが。ちゃんと男にしか付いていないものがあるし、逆に女に有る者が無い。……俺の胸を触ってみろ。柔らかく何て無い」
「………そうね」
ケンキの言葉に頷きながらもシーラはケンキの胸を撫でる。
敢えていやらしく自分に欲情を抱いてくれるように。
望むのなら城へと戻ってから抱かれても構わない。
既成事実さえあればケンキも逃げないだろうと考える。
「………くすぐったいから止めろ」
シーラが見るに少しだけくすぐったいとしか考えていないみたいだ。
全く欲情というモノをしていない。
むしろ性知識というモノがあるのか疑問だ。
「………ねぇ、子供のでき方って知っている?」
「………好きな男女が一緒になれば生まれるんじゃないの」
覚悟をして質問して帰ってきた答えはまるで何もしらない子供の答えだった。
「……別に好き合っている男女じゃなくても子供は産まれるわよ」
「……その為に洗脳とかがあるんじゃ」
「……………違うわ」
好き合っていない者同士が子供を産む方法に洗脳を持ってくるあたり、ケンキは頭がおかしい。
しかも子供が産まれる方法に具体的な方法は何も言っていない。
本気で何も知らない可能性が出てきた。
「ケンキ、国へと戻ったら城へと戻るわよ。貴方が知らない良い事を教えて上げるわ」
古来より、ドラゴンを倒したりと国を災害から救った者には男なら王族の姫が渡される。
ならドラゴンを単独で倒したケンキは充分にその資格はある。
「………良い事って何?」
「……………………具体的な子供の授かり方よ」
シーラの顔はかなり赤くなっている。
女の子が子供の授かり方を年下とは言え男に教えるのだ恥ずかしくない筈がない。
そして対照的にケンキは楽しみにしていた。
具体的な方法と聞いて今まで知らなかったことが知れることに期待していた。
「無知ね」
近頃の男の子らしくないケンキにシーラは苦笑する。
そして今日、自分のモノにする決意を決めていた。
そして。
「……着いたぞ」
国の門番の前に何人かの兵士がいる。
ドラゴンの襲撃が来た聞いて、その顔は険しい。
「ケンキ君!一体、ドラゴンは!?」
ケンキがドラゴンと戦っていることは事前に知っているからか目の間にシーラを抱えて戻ってきたケンキに騎士は驚く。
しかも二人で行った王族が一人しか戻っていない。
一緒に挑んいった騎士たちもだ。
「全員、無事よ。というより私たちが着いた頃にはドラゴンは死んでいたわ」
「それって……」
「そういうことよ。悪いけど、こいつが一人でドラゴンを殺したというのは黙って置いて。分かっていても黙っておくことに意味はあるわ」
ケンキはシーラの言葉に引き抜きに応じるつもりは無いが黙っている。
そして騎士はどういうことかと首を傾げるが黙って頷いた。
「………一応、言っておくが俺は別の国に行く気は無い」
「ひゃっ」
「………悪い」
突然の王女の声に騎士は首を振り抜く。
そこにはケンキがシーラの耳へと顔を近寄らせて会話をしようとしていたのだと察する。
悲鳴も突然、耳元で話されたから驚いただけだろうと考えていた。
「……もう一度、言うけど。俺は国の外に出る気は無い」
「恋人が外国に出来たら?」
「……悪い。その場合は出るかもしれないな」
シーラはケンキに恋人が今はいないから、そんなことを言うのだと考える。
そしてケンキにとって好きな相手もいないのだと察せれた。
もし好きな相手がいたら好きな相手は外国に居ないとでも言ってたはずだ。
「そう」
だからこそ外の国の女にケンキが惚れる前に捕まえなければならない。
どんな手を使っても逃がすわけにいかない。
いくら情報を隠してもケンキがドラゴンを殺したことは、いつかバレる。
ドラゴンを殺すほどの実力の持ち主なのだ。
ありとあらゆる国から引き抜きが来てもおかしくない。
「……シーラ!それにケンキ君も!」
シーラの両親、つまり国王たちも城へと戻る最中の道の途中で出迎えてくれる。
そのことに周囲にいる者たちは感動したように目を向けている。
子供が心配でたまらなく直接会いに来た両親だと思っているのだろう。
シーラは両親に笑顔で抱きしめ合い、そしてケンキは無表情に眺めている。
その心情は国民に心情調整は大変だなという考えていた。
「お父様、ドラゴンを倒すのにケンキも力がありました。いえ、むしろケンキの力があったからこそ誰も死者が出なかったはずです。今日は城に誘いたいのですがよろしいでしょうか?」
「あぁ、当然だ。それより死者がいないなら何故、ラーン達がいない?」
王はシーラの言葉に周りを見渡すが騎士たちもラーンもいないことに疑問を持つ。
死者がいないのに何故、ここにいないのかと。
「兄上は私たちに代わってドラゴンの死体の処理の為に残っています。私たちが戻ってきたのはドラゴンを討伐した報告とケンキが疲れているであろうから国へと戻したためです」
シーラの言葉に更に疑問を持つ王。
疲れているのに先程まで肩に担いで運んでいたのかと。
本当に疲れているのなら、そんな余裕は無いはずだ。
「私を運ぶ余裕はあったのでしょう。それにドラゴンを倒した報告するにしても王女として信頼のある私がすること。そしてケンキが護衛として付いて来たのが理由です」
王は疲れているのに運ばれて戻ってきた理由になっていないと告げようとしたが、その前にシーラが話を続ける。
「………正直、私も何人かの騎士と一緒に馬車で国に戻ると思っていたんですけど急にケンキが担いで走ってきて。正直、雨のぶつかる感触が痛かったです」
「………すまん。相手はケンキだもんな。私たちの常識を超えてくるか」
「えぇ。正直、今回もまたかと思いました。ドラゴンを一人で足止めしていた時点であれでしたが……」
ケンキのアレさ加減で王も納得する。
おそらくは肩を担がれて走られたせいで声を出すことも出来なかったのだろう。
人はあまりにも強い風にぶつかると話すことすら難しくなる。
ちなみに王は娘の嘘に気付いている。
それは王妃も同様でありケンキと長い付き合いがあるからそ、ドラゴンを単独で殺したのだろうと予想していた。
そして他国にケンキを奪われないために娘の話に乗って国民に嘘を話すことにした。
ケンキの意味が理解できない実力に国民が怯え害さないように護ろうとする考えもある。
何より政治としてしか使えない筈の娘の結婚が好きな者に嫁げる相手として護るのは当然と言えた。
「そうか。疲れただろう?二人とも城に戻って休みなさい。それまでは一緒に馬車に乗ろう?」
「わかりました。………ってケンキは何処に行くのよ」
二人で馬車に乗れと言われたのにケンキはシーラをその場に置いて離れようとする。
それを防ぐために直ぐにシーラはケンキの服を掴む。
「………何?」
「何?じゃないわよ。二人ともに馬車に乗りなさいってお父様は言ったわよね?」
「………シーラと王妃じゃないのか?それか王様」
「いや、シーラとケンキ。お前だ」
勘違いをしていたケンキに王とシーラは訂正して馬車に乗せる。
あほな勘違いに頭が痛そうだ。
やり取りを見ていた民たちもケンキの阿保かげんに溜息を吐いている。
「はぁ……。取り敢えずは乗れ。詳しい話を聞きたい」
その言葉でようやくケンキは馬車に乗る。
ちなみにケンキのことを良く知っている王と一緒に来ていた騎士たちはケンキの行動に溜息を吐いていた。
「二人とも!ケンキ君が無事に帰ってきたみたいだぞ!」
ケンキの両親はユーガ達からケンキが足止めの為にドラゴンと戦っていると聞いて仕事も抜けだし家で無事に帰って来ることを祈っていた。
仕事の最中に聞いたせいで仕事も手につかず、それを見かねた上司が帰らせてくれたのだ。
そして夜の遅くまで寝ることもせずに無事を祈る。
だからこそ深夜になって入ってきた情報を聞くことができた。
「そうか良かった……!それでケンキは今、どこに?」
「それが王城に今はいるらしい。話を聞きたいと呼ばれたみたいだ!」
ケンキが今、ここに居ないことに疑問を持つが直ぐに帰ってきた答えに安心する。
おそらくは昔から世話になっていた相手の家なのだ。
一番、安心できる。
「そうか。………ありがとう、わざわざ教えてくれて」
「このぐらい構わないさ。足止めしてくれたということは俺たちの子供の恩人でもあるんだからな」
そう言って教えてくれ人は帰っていった。
「良かったぁ!ケンキが無事に生きて帰ってくれるなんて!」
「そうだな。明日も早い。今日はもう夜も遅いし、もう寝よう」
夫の提案に母親は頷こうとするが考えがあるようで止める。
「いえ、明日は二人で仕事を休まない?そして王城を尋ねましょうよ?」
突然の提案に夫は動揺する。
息子であるケンキなら大丈夫かもしれないが自分達は分からないのに、どうしてそんな提案をするのか理解が出来ない。
「入れなくても息子が無事かどうか本当に確認したいわよ。無理でも一目会えばそれで私は満足だし」
「たしかに」
妻の意見に夫も納得する。
たしかに一目ぐらいは無事であるかどうか、この目で確認したかった。
明日、王城に行くことを決意した。
そして王城に行くことを決意したのは両親だけでは無かった。
「ねぇ?ユーガ君……」
「わかっている。明日王城へ行こう」
まずは幼馴染たち。
ユーガやサリナは自分達を護るために足止めしたケンキの無事を一目でも確かめたいと王城に行くことを決意する。
そして当然パーティメンバーでもある他の皆も一緒に行くつもりで頷いていた。
学園のサボりになるかもしれないが知ったことでは無いと考えだ。
「全員、聞け!ケンキが無事に帰ってきた!!」
そこではファルアが一番上の段に立っており演説をしていた。
そしてケンキが帰ってきたことに雄たけびで歓声を上げている。
そこには男も女も関係が無い。
「だが今は王城にいて数日は学園に戻ってこないだろう!故に何人かで王城に本当に無事か確かめたいと思う!」
その言葉に何人もの「私も行きたい」、「行かせてくれ」という声が響く。
「行くのは代表として私!そして五人までだ!」
数の制限にブー、ブーと文句を垂れる。
最初にファンクラブを作った会長であるファルアが行くのは文句も少ないが、行ける人数の制限に文句が出てしまう。
「多すぎてもストレスになるだけだろうが!これで我慢しろ!」
ケンキのストレスになるかもしれないと言う理由を話してようやく黙るファンたち。
本人の迷惑になることは絶対にしたくないと考えていた。
「うわぁ」
学園の一室で騒いでいたから教師と生徒会の一員たちは、その騒いでいる姿を見て引く。
最近までは別の女のいき過ぎたファンクラブを作っていた癖に今度は年下男の子のファンクラブを作っている。
ハッキリ言ってキモイ。
そして崇拝者がいる人生でこんなにはしゃいで楽しいんだろうなと少しだけ羨ましく感じていた。
すぐさまに首を振ってないないと考えを否定したが。
「取り敢えず学園の教師達何人かで行くから王城に生徒たちが行かないように見張ってくれる?」
教師の言葉に生徒会のメンバーは頷く。
あの学園の恥を行かせるよりはマシだろう。
問題はケンキの幼馴染たちだ。
あのケンキの幼馴染なだけあって能力が同学年の生徒より数段高い。
一部では上級生を上回っているぐらいだ。
どう王城へ行くのか防ぐために今から考えなければいけないと考えると憂鬱だった。




