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パーティを追放されました。でも痛くも痒くもありません  作者: 霞風太
サバイバル演習編

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襲撃

 ケンキとシーラが騎士たちの元へと戻ってから少しすると授業が始まる。

 どうやら丁度良い時間に戻って来たらしい。

 ケンキは真面目に授業を受けるつもりは無いのか全員より後ろの方で木に登って授業を眺めている。

 その姿に文句を幼馴染たちも言おうとしたが長年の勘で集中していることも察して黙ってしまった。


「たしか君の名前はユーガだったかな?」


 そんな幼馴染の一人に生徒会長であるロングが話しかける。

 幼馴染だとは知っており、だから文句を言おうとして黙った理由を確認したいのだろう。

 ユーガも話しかけてきた理由を察して話そうとするが、その前に言われる。


「もしかしてケンキ君は警戒のつもりか?騎士たちも大勢いるが一番強いのは自分だという理由で」


「………多分、そうだと思います」


 二人の会話にケンキに不満を持っていた者達の大半は怒りが消える。

 そして変わりに残ったのは自分たちの弱さについての悔しさ、怒り、ケンキの強さに対しての妬みだ。


「なぁ、ケンキ君ってどうやったらあんなに強くなったのか、知っているか?」


 強さの秘訣について聞こうとするがユーガは首を横に振るだけ。

 鍛錬の内容は知っているが、それだけでは納得がいかない強さも持っているのがケンキだ。

 もし同じぐらいの才能があって、同じぐらいの鍛錬の量を積んだとしても同じようになれるとは最近は思うようになってきた。

 そのことを口にすると周りの者たちも頷いてしまっている。


「わかる。明らかに鍛錬や才能という理由では納得できない」


「………ケンキは昔から頭がおかしいと思うような行動をしていたからな。思考が常人とは違うんじゃないか?」


「たしかに。狂っていると言われても今更だとしか言えないことをやらかしているしな」


 ケンキのことに関して愚痴を言い合うようにしている幼馴染と騎士たち。

 昔からの付き合いだらこそ悪口のようなことを言い合っている。

 ケンキにも、その内容が聞こえてきて少しだけショックを受けてしまっているが、いつも助かっているから何も言わない。

 だが同時に助けもしなかった。


「………気持ちは分かるが何時までも話してないで授業に入らせてくれ」


 教師役の騎士の言葉にようやく愚痴が止まる。

 周りからは授業が始めれなかったことに関して責めるような視線で見られてしまう。

 それを甘んじて受け入れて元の位置に戻り授業が始まった。




「………もう少し魔獣を狩れば良かったか」


 そんなことを言いながらケンキは授業風景を眺める。

 そこにはジャンケンで決めて魔獣を捌いている姿が見える。

 一人一人が魔獣を捌ける程の量が無く、代表がメインで他は補佐に回って魔獣を捌いている。

 一番身に付くのは実際に経験を積んだものだとしたら他は身に付きにくそうだと考えてしまう。


「………まぁ、無理か」


 山の中に襲撃してきそうな魔獣を全て狩っての結果だから無理だと考え直す。

 それにしても、どうしてあれだけ大量の魔獣が移動していたのか謎だ。

 一種類だけなら、ただの大移動だと考えられるが今回は種類も多様だった。

 そのことから、一つ予想は出来てしまうが他の誰も予想していないのか疑問だ。

 特に隠れている護衛の騎士たちは予想して伝えているかと思っていたのに、王族がここにいることは伝えてもいないのかと思っている。

 ちなみにケンキは自分の予想通りだったら立ち向かう気満々だ。

 その場合、邪魔になりそうだからさっさと学生たちは国に帰って欲しいと思っている。

 だが騎士たちの場合は巻き込まれても自業自得だと認識していた。


「………ダメだな」


 ケンキは命の危険はあるが予想が当たって欲しいと考えてしまっている。

 そのせいで学園に通っている誰かが事故で死んでしまっても構わないという気持ちだ。

 そもそも、このサバイバルは学園の者だけでも死者や戦うことが出来なくなるイベントだ。

 それがどんな原因だろうと結果は変わらないだろうと自分に言い訳をする。


「………早く来ないかな」


 ケンキは自分にそう言い聞かせると今度は早く予想したことが襲って来ないかとソワソワしてしまう。

 授業をしている生徒や騎士たちはケンキの方を偶に気にして見ているから、当然気付かれる。

 そして何をソワソワしているんだと気にしてしまって集中できないでいた。


「………ケンキ。お前は何をソワソワしているんだ?これから先、何がある?また夜みたいに魔獣の襲撃があるのか?」


「…………さぁ」


 ユーガの質問にケンキは目を逸らして答える。

 確証も無いのに答える気はないからだ。

 だが幼馴染はケンキのことを理解しているから質問はそこで止まらない。


「………予想で良い。間違っていても文句は言わない。だから何が起こると想像しているか教えてくれ」


 ユーガの質問にケンキは溜息を吐く。

 そう言われたら確証も無いのに話すしかない。

 他の者たちも真剣な目で見てくるから話さないという選択肢は無くなっている。


「……強大な魔獣が近くに襲ってくるんじゃないか?夜の魔獣たちも、それから逃げるために種族関係なく一斉に移動していたんだろうし」


「あ」


 夜にケンキの殲滅行為に意識を持っていかれたせいで、その可能性を全員が考えていなかった。

 よくよく考えてみればケンキの予想は有り得る未来だ。

 今すぐに王族もいる学生たちを連れて国へと戻らなかければならない。

 国へと襲い掛かる可能性もあるから情報を持ち帰らなかければいけない必要性もある。


「…………まぁ可能性の話だから、まだ気にしなくて良いんじゃない?」


 ケンキは確認してからでも充分に国へと戻れると考えての発言だ。

 だが騎士たちは常に最悪の可能性を考えて中止にすべきじゃないかと考えている。


「取り敢えず何人かの騎士たちで国に報告をするべきだな。特に脚の早い者達に任せよう」


 騎士の言葉に特に脚の早い者達が頷いて山の中から出ようとする。

 それを確認してケンキは首根っこを掴んで止める。


「「ぐぇっ!?」」


「「「「ちょっ!?何で止めるんだ!??」」」」


 腕の数が原因で二人しか直接止めることは出来なかったが全員が止まったことにケンキは運が良いと考える。

 何人か止められたのを置いて行くかとも考えていたからだ。


「ケンキ君。何で止めるんだい?今すぐに報告しなければならないことだと思っているんだが?」


 その質問に対してケンキは理由を話す。


「……なんで早い者全員で国に戻ろうとする?念の為に何人か残していけ」


 ケンキの言葉に騎士たちが確認すると確かに全員が騎士団の中でも特に早い者全員が国へと戻ろうとしていた。

 それに気付かなかったのは焦ってしまったからだろう。

 ケンキの助言で確かに人数が多いと理解して国に戻るのは二人だけにする。

 後は王族を最優先で逃がすための人員と予備だ。


「………たしかにそうだな。取り敢えず二人だけで国に戻ってくれ。他は待機だ」


 騎士団長の言葉に頷いて二人の騎士たちは今度こそ国へと戻る。

 そしてケンキへと向き直る。


「ケンキ君。俺たちは何をしたら良いと思う」


 そして疑問をぶつけた。




「………知るか」


 そこでケンキは疑問をぶつけられたことに答えを丸投げする。

 ケンキ自身にとっては学生が戻ろうが戻らなかろうが、どうでも良いのだ。

 流石に幼馴染たちは心配だが本人の意思を尊重したいし、王族たちの場合はケンキ自身が何も言わなくても護衛の騎士たちが処罰覚悟で国へ連れ戻すだろうと考えている。

 どちらかというとユーガとサリナの二人も国へと戻って欲しいのが本音だが。


「知るかって……」


 ケンキの答えに非難の視線を向けられるが答えは変わらない。

 結局ケンキは最高戦力かもしれないが決定権は騎士団長と学園長にあると思っている。

 ケンキ自身が何を言おうが組織の行動を決めるのは二人だと考えていた。

 既に強大な魔獣が襲ってくるかもしれないと伝えた。

 後の行動は二人次第だ。


「………ケンキ君はどうするつもりだ?」


「………強大な魔獣と戦うつもり。お前らは邪魔になりそうだから俺たちから離れた方が良いよ」


 ケンキの言葉に悔しそうにする騎士たち。

 言い方はアレだが、どんな答えを出しても時間稼ぎをするつもりなのだろう。

 ケンキ自身の言う通りに力を貸したくても足手纏いにしかなりそうにない自分たちの実力の無さが憎くなってしまう。


「………時間はまだあるし相談して決めろ」


 それだけを言ってケンキはこの場から離れる。

 自分がいたら相談することも難しいだろうと察したからの行動だろう。




「俺たちは本当に危なくなったら退避するつもりだ。魔獣がここを襲ってくるというが、ここは国の近くだ。もしかしたら目的は国でここを通り過ぎる可能性もある。それを考えると国が安全だとは言い切れない」


 王族であるラーンの言葉に確かにと頷ける部分があった。

 だが一つだけ見落としている場所がある。


「ケンキ君はここの近くで魔獣を迎え撃つつもりでしたよね?なら国に戻った方が安全では?」


 騎士の言葉にラーンは顔を背ける。

 たしかにケンキは魔獣と戦うつもりだと言った。

 そして多種多様な魔獣がここを襲ってきた以上、強大な魔獣もここを通る可能性がある。

 少なくとも、ここの近くで戦う可能性は高い。


「何で首を傾げているんですか?」


「………さっきも言ったが本当に危なくなったら退避する。それまでケンキの戦っている姿を直接目にしたい。本当に危なくなったら退避はするから頼む」


 邪魔になるからケンキは離れろと言ったのにそんなことを言うラーンに騎士は呆れてしまう。

 護るべき主だが、だからこそ望みを無視する必要もある。

 直接見たいなど危険すぎて叶えられない。


「頼む。ケンキが本気で戦っている姿は見たことが無いんだ。いつもはどこか余裕がある。夜の魔獣を殲滅した時だって余裕があった」


 ケンキの実力に関しては騎士たちも同意する。

 長い付き合いはあるが結局、ケンキの全力というモノを見たことが無い。

 それは幼馴染たちも同様でケンキの全力の姿に興味が湧いてしまう。


「すみません。俺たちも残ります。ケンキの全力の姿というモノを見てみたい。その結果、死んでしまっても後悔はありません」


「私もです。だから残らせてください」


 ケンキの幼馴染であるユーガとサリナも残りたいと言ってくる。

 この二人も結局のところケンキの全力というモノは見たことが無い。

 幼い頃、助けてもらった時は全力だったかもしれないが、かなり昔の話だ。


「なら俺も」「私も」「彼の全力には興味がある」「私だって」「本気を見てからこそ目指し甲斐がある」「だよね」「まずは本気を知らないと」


 それを切っ掛けに他の学生たちも残りたいと口々に言う。

 これだけの人数が残るつもりだと危険だから拒否をしたいが勝手に抜け出す可能性も零では無い。

 責任は騎士たちに無いと本人たちが言っても世間はそんなに簡単では無いのだ。

 どうするべきか悩んでしまう。


「………どうしますか?全員を気絶させて無理矢理、国に戻す方法もありますけど」


「……良い案だが難しいだろうな。ラーン様たちもそうだが幼馴染たちもケンキ君に鍛えられているから逃げられそうだ。もう俺たちの監視下に置いた方が安全な方が気がする」


 ケンキに鍛えられていると聞いて提案した騎士も難しそうな顔をする。

 同じ人物に鍛えられたという点で条件は同じなのだ。

 もしかしたら自分達と同程度の実力だと想定する必要がある。


「安心しろ。本当に危なくなったり邪魔になると判断したら逃げる、お前たちの指示に従う。だからケンキの戦いを見せてくれ」


 最後の王族の言葉に騎士は心が折れた。

 そしてケンキの予想が外れて欲しいと天に祈り、授業を再開した。

 当然、学生たちは悲鳴を上げた。




「………なんだ?それにしても、ある意味予想は当たり、ある意味で予想は外れたか」


 少し離れても学生たちの悲鳴が聞こえて来てケンキは首を傾げる。

 何があったのかと疑問に思い救助に行くべきかと思うがそんな余裕は無い。

 それに離れて数分も経っていないし、周りには騎士たちもいる。

 だからと自身を無理やり納得させて目の前を確認する。


「グルルルル!!」


 そこにはトカゲの顔を持ち、巨大な身体に翼を生やした魔獣がいる。

 ハッキリと言うのならドラゴンだった。

 殆んどの魔獣が地面に立っており空を飛ぶ魔獣が少ない中で全ての魔獣を含めて考えても最強の魔獣。

 これが国に襲ってきたら滅ぶのを覚悟する天災。


「……………今すぐに全員、この場から離れろと伝えたいが、それすらも惜しいな」


 直後、ドラゴンの爪がケンキに襲ってきた。




「何だ!?今の音は!?」


 ドラゴンの雄たけびと攻撃の騒音で騎士と学生教師たちが集まっている場所で騒ぎ始めてしまう。

 何か起きたのかと、それぞれが騒いでいる。


「黙れ(りなさい)!!」


 それを落ち着かせたのは騎士や教師では無く王族であるシーラとラーンの二人だった。

 本来なら、更にもう一声、二声と声を掛けなければ黙らないだろうに、一言で全員を黙らせた王族たちは流石の血筋と言っても良いのかもしれない。


「ケンキの言っていた予想が当たったのかもしれない!騎士の中でも早い物は強大な魔獣が来たと国に報告!」


「私たちは、この場で待機。先程は国に戻って避難と言いましたが、下手に動くよりはこの山で隠れていた方が安全です!」


 二人の王族の声が全員に響き渡ると同時に光輝く。

 光源の向こうにはケンキが向かった方向。

 もしかしなくても既にケンキが接敵しているのかもしれない。


「もしかしたら既にケンキが戦闘を開始しているかもしれないわね。………全員、五人以下の人数で解散!一か所にこれだけの人数がいるよりはマシよ!先に国に戻っていてもお互いたちの判断で決めなさい!」


 シーラは、そう言ってラーンと頷き合って騎士や学生、教師の集団から離れる。

 二人の王族の指示に騎士たちは文句は無いが二人だけで離れたことに心配になって特に頑丈な者が二人の後を追うことを無言で頷き合って決める。

 そして学生たちが学園でのパーティごとに別れたのを見て、それぞれに騎士が護衛と誘導役として一人付き、それでも足りないところは教師と生徒会のメンバーが付いた。


「………あの雄たけびって何の魔獣だと思いますか?」


 学生のパーティの一人が護衛と誘導役として来てくれた騎士に襲ってきた魔獣の正体について質問する。

 それに対して騎士は首を横に振って答えを返す。


「さぁ。俺たちも実際に見てないが、昨日の魔獣の大量から強力な魔獣ではあると思う。もしかしたらドラゴンかもしれないな」


 冗談交じりの様な言葉に学生たちは笑ってしまう。

 ドラゴンなんて国を一つ滅ぼしかねない存在が近くにいるなんて笑ってなきゃ、やってられない。

 願わくば違うことを祈ってしまう。


「グルゥアァァァァァァ!!」


 魔獣の雄たけびが、また山の中でも響く。

 あえて、この状況で幸運を見付けるのなら魔獣が一匹もいないことだろう。

 強大な魔獣の存在のせいで周囲にいる筈の魔獣は全て逃げ出し奇襲の心配なく行動することが出来る。


 ふと、まだ昼の時間なのに陰で日の光が急に遮られる。

 空を確認するとぽつぽつと雨が降って来る。

 どうやら雨雲らしい。

 それと同時に翼の生えたトカゲが目に映った。


「「「「「「「「「「は」」」」」」」」」」」


 強大な魔獣を想像してたしかにドラゴンだと予想はしていた。

 だが実際に真実だと確認して全員が絶叫した。


「「「「「「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」」」」」」」」」





 牙が身体を喰らおうとし、爪が身体を引き裂こうとし、尻尾が叩きつけようと襲ってくる。

 それに対してケンキはギリギリで避けながらも手にした大剣で反撃をする。

 だが何れもドラゴンの肉体が固く弾かれるか、かすり傷程度にしかならない。


「………最強の魔獣か。他の魔獣と比べても頑丈」


 むしろ頑丈過ぎる。

 これまで倒してきた魔獣だったら一撃で切り殺せたのに、この魔獣は今のところ最も大きい傷で掠り傷でしかない。

 ケンキで、その程度の傷しか与えられないのだ。

 国にいる騎士たちではドラゴン相手に何も出来ないだろう。

 これを倒したと伝えられる勇者とはどんなバケモノなのかケンキは疑問に思ってしまう。


「………やはりドラゴンは特別なのか?御伽噺でも勇者に倒される魔獣と言ったら、ほとんどがドラゴンだし。世界でも選ばれた者にしか倒せないのか?」


 ケンキは疑問を浮かべながらドラゴンの攻撃をギリギリで避け続ける。

 このままでは体力切れで敗けてしまうのではないのかと予想してしまっている。

 攻撃が通らないことにケンキは少しだけ悔しく感じてしまっていた。


「………そういえば御伽噺でもドラゴンを倒すのに特別な武器を使っていたな。………本当にドラゴンって魔獣なのか?特別な武器を使わないといけないとか……」


 ケンキは溜息を吐きながらドラゴンの攻撃を避けていく。

 先程から愚痴を呟きながら避けている。

 自身が思っているよりドラゴン相手に余裕で戦っていた。


「…………雨か?」


 自分の顔にポツリポツリと水滴が当たるのを感じる。

 空を見上げると雨が降っていた。


「グルァァァァ!!」


「ケンキ!!」


 その瞬間にドラゴンがケンキに襲い掛かり、それを見付けた王族であるラーンは声を上げた。


「……何?」


 だがケンキは自分を喰らいに来たドラゴンの牙を掴み上がってドラゴンの頭に上った。

 そして声を上げたラーンの方を見て、何の用かと視線を向ける。


「何って、お前……」


 ドラゴン相手に余裕そうにしているケンキにラーンと一緒に来ていた者達全員が頭を抱える。

 強大な魔獣を相手にしても変わらないケンキの余裕さに安心感を抱くが底の見えなさにも背筋が凍る。


「………何も無いなら、さっさと戻れ。余裕が無い。……おとぎ話の様に伝説の武具が無いとドラゴン何て倒せない」


 ケンキの聞き様によって弱音を吐いた内容に本当かと疑ってしまう。

 何だかんだ言ってケンキならドラゴンでも倒せるんじゃないかと今の姿を見て思ってしまったせいだ。

 現に今も暴れているドラゴンの頭の上にいる。


「………これが証拠」


 そう言ってケンキはドラゴンの首に大剣を思いきり振り下ろしたが弾かれてしまう。

 それを見て少しだけ怪しみながらもラーンは納得する。


「国へと戻るぞ」


 ラーンはシーラと一緒に来た騎士へと国へと戻ると告げる。

 目的は国で保管してある伝説の武器を持ってくるためだ。

 ケンキが本気でドラゴンの首を落せないのは怪しいと思うが、それでも必要かもしれないとラーンは国へと戻ろうとする。

 シーラもラーンの考えたことを理解して頷いた。


「何人かの騎士も付いてきて。ありったけのドラゴンに有効だと伝わる武器を探して持ってくるわ」


 シーラの言葉に騎士たちも頷く。

 正真正銘のドラゴンが襲って来たのだ。

 門外不出の国宝だろうが出してくれるはずだと考えているし、許可が無くても権力のごり押しで出すつもりだ。

 そして学生たちも予定を変更させて国へと戻すことを決めた。

 ドラゴンとなると学生体は邪魔になる。

 少しずつ国へと返すしかない。


「それじゃあ行くぞ!」


 ラーンの声に行動をし始めた。




「…………ん。全員が国へと戻り始めたか?いや、一部だけ?」


 ケンキはドラゴンを相手にしながら学生たちや騎士たちが国へと戻ろうとしているのを察する。

 その姿にホッと一息を吐く。

 本当の全力を出すにしても、やはり離れていても邪魔なのだ。

 可能性は低いと思っていても殺してしまいそうだと手を抜いている。

 さっさと全員がこの近くから消えて欲しいと考えていた。


「……………ヤバいな」


 ケンキはドラゴンの頭上から振り下ろされたと思ったら、ドラゴンの口から光が溢れる。

 咄嗟に国とは真逆の方向へと移動し向けられる位置を変えて発射させる。

 体格差から地面に向けられているせいで飛距離は分からないが威力は絶大だと分かってしまう。

 向けられた地面が底が見えないほどの穴が出来てしまっている。

 下手に距離を取って被害を広げさせないために接近して挑む必要がある。


「グルルル………」


 こちらを完全に敵視していることに国の方へと行かないだろうとケンキはホッとする。

 そして更にドラゴンの攻撃が激しくなった。

 ホッとした態度が舐められていると思われたせいだ。

 ケンキは理由が分かっていないが更に自分に意識をされていることを幸運に思う。


 ドラゴンの爪が襲ってくる。

 それだけで風圧が襲って来り、本来なら身動きが出来なくなる。

 続けざまに食いちぎろうと牙が襲ってくる。

 だがケンキは風圧をものともせずに全てを避けて真面に傷を与えられないと、わかっていて大剣で反撃をする。

 ドラゴンはケンキの攻撃で自分を傷付けられないと理解してニヤリと笑い反撃を無視して攻撃を繰り返す。


「………少しばかり腹が立つな」


 攻撃が通じないことにも、それを理解してこちらの攻撃を一切無視して攻撃を繰り返すドラゴンに剣は愚痴をこぼしてしまう。

 少なくとも、こちらの攻撃が通ればドラゴンも攻撃をする頻度が減るのにと自分の攻撃力の無さに悔しがっていた。


「……それにしても、やっぱ全員が国へと帰るのか?少しずつ森の中から減ってきているし」


 少しずつ、だけど確実に減っていくことに全員が国へと戻ると察して、あとどのくらいの時間で全員が戻るのか予想する。

 一つでも避けるのを失敗すれば死んでしまいそうな状況をさっさと終わらせたい。


「………本当に硬い」


 ドラゴンの翼の付け根を狙って大剣を振るう。

 だが鉄にぶつけたように弾けれてしまう。

 生物なのに、ふざけた硬さだとケンキは呆れる。

 すると今度は空高く飛んでドラゴンは制空権を握る。

 そのせいでケンキは接近を仕掛けにくくなる。


「………マジか。魔法で攻撃するしか無いな」


 接近戦が出来ないことにケンキは溜息を吐いて、今度は魔法を撃ち始めた。






「これで何人が国へと戻ってきた!?」


 国の入り口では騎士が学生と教師を迎え入れる準備をしていた。

 全員が無事に帰って来れたか確認のためだ。


「これで過半数が国へと戻って来ました!」


 過半数が国へと戻ってきた聞いて騎士は少しだけ不安になり、空を見あげる。

 雨はまだまだ降り続けており、全然止む気配が無い。

 それどころが激しくなっており、戻って来る速度が遅くなると予想している。

 せめて天候が悪くなければと空を睨む。

 雨で濡れた服が重さで動きを阻害し、激しい雨が視界を妨げてしまう。


「ラーン様たちも伝説の武具を持ち出す許可と見つけてくれば良いが………」



 そして王宮へと一直線に戻ったラーン達は持ち出す許可を得てドラゴンに効く道具を探していた。

 王もドラゴンが襲撃したと聞いて国宝だからと隠したり、飾っている場合では無いと考えた為だ。


「で、どれがドラゴンに有効な武具だ」


「……さぁ。私から見ても、どれもが強力な武具にしか見えなくて分からないわ」


「安心しろ。その為に私がいる」


 宝物庫には王族のラーンとシーラだけでなく王までも来ていた。

 目的はドラゴンへと効果の高い武具を見付ける為だ。

 この国の宝庫にはドラゴンへの特攻の武具もあるが、邪神への特攻の武具もあり、そして強力な武器だからか目的以外には、なまくらとなってしまう。

 例えば、ドラゴン特攻の武器を邪神に使えば簡単に折れてしまうし、邪神特攻の武器をドラゴンに使えば簡単に折れてしまう。

 それを判別するために王が一緒に来ていた。


「それにしても、この国にドラゴンが襲ってくるとは。ドラゴンが国を襲うなど百年に一度あるかどうかなのに………」


 逆に言えば百年に一度、どこかしらの国が襲われているということだ。

 今回は運が悪く、この国を襲ってきたということだろう。

 何故、ドラゴンが国を襲うのか誰も知らない。

 いつも国が亡ぶか撃退するだけ。

 そして撃退した者は英雄と呼ばれるようになる。


「とりあえず、これとこれだな」


 王が国宝にそれぞれ指輪をかざして光った物を二人に差し出す。

 指輪は望む能力を持っている武器にかざすと光り、そして能力の詳細を教えてくれる一子相伝の宝具だ。

 何時でも使えるように国王が身に着けている。


「……この二つならドラゴン相手でも傷を与えれることが出来る筈だ。ケンキ君もいるし、ドラゴンの攻撃は全て防いでくれるだろう」


 王は強力な武器を自分の子供たちにしか使わせる気は無い。

 どれだけ信頼できる者でも一時の気の迷いで奪われたら問題だと危惧している。


「そうだな。ケンキなら俺たちを護ってくれるはずだ」


「……そうね。ケンキを信じて私たちも行きましょう」


 信頼できる者でも怪しまなければならないと言うのならケンキも同じなのに子供たちは、それを無視してケンキの元へと行き、親はそれを見送る。


「………良いの?」


「ケンキ君に関しては今更だ。既にこの国の総力を挙げても殺せないと俺は思っている。むしろ滅ぼされても当然の事しか思えない」


「………そうね。娘が惚れていて良かったわ。私たちが指示するまでもなく自分から惚れさせようと行動しているもの」


 親から指示されてよりは自分の意思で惚れて行動してくれた方が国を護る為、危害を加えない為に王家に取り込むことが出来る。

 どちらにせよ既にケンキはドラゴン相手に時間稼ぎをしている。

 それを何の特別な武具も無しに成していることは充分に英雄的だ。

 その力を国から逃がさないために娘と婚約させようと王は企んでいた。

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