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迷宮へ

 ユーガが土下座した後、なんとか許してもらいパーティは迷宮へと行く。

 そして一層から再び挑むことになる。

 前回は三層まで進んで撤退したがパーティメンバーが新しくなったために最初から挑むことになった。


「それじゃあ一層から進むぞ。シャルも少しずつで良いから戦闘に慣れてくれ」


「ひっ………。わ……わかりました……」


「だ……大丈夫です!何かあったら私たちがユーガから護りますから!」


「そうよ!だから安心しなさい!」


「………おい」


 完全にユーガはシャルから怯えられている。

 土下座されたとは言え遠くから黙って見守られていたことを知ったせいで完全に恐怖の対象となっている。

 女性陣も完全にユーガに警戒をしている。

 ユーガも少しは信用してくれとは思っているが同時にしょうがないとも理解している。

 それだけに自分のした行動に反省をしている。


「はいはい。遊ぶのはそこまでだ。気を抜いたら死ぬぞ」


 ナトの注意に全員が頷く。

 流石に迷宮に入ってずっとふざけているつもりは無い。

 シャルのユーガに対する怯えは本当だが。


「シャァァァ!!」


 そして一歩進んだところで蛇の魔獣が横から襲ってくる。


「ひぃ!」


 シャルはそれに怯え、ユーガは平然とした様子でマイナに指示を出す。


「マイナ。任せた」


「了解」


 噛み付かれる直前にユーガに指示をされたマイナが魔法で燃やし尽くす。

 マイナの得意な魔法は火だ。

 中級魔法までは扱えており上級に至るのも時間の問題だろう。

 それほどの実力があるからこそ一瞬で燃やし尽くす。


「す……すごい」


 ハッキリ言って一学年の生徒としてはずば抜けている。

 だからこそ、シャルの反応も当然だ。


「貴方こそ凄いじゃない。あの一瞬で私たちに防御魔法を張るなんて!ユーガの言っていた通り実力は本物なのね」


 だが、それはシャルも同じ。

 殆んど反射的に防御魔法を張ったのだ。

 平凡なら魔法を張ることすらできない。

 そう考えると、いかに優秀かがわかる。


「俺の言った通りだろう?後は怯えを無くせば、かなり優秀になるぞ」


 その言葉に頷くパーティメンバーたち。

 シャルも褒めらえて嬉しそうにしている。


「さて、この調子で行くぞ!」


「「「おぉ!!」」」


 ユーガの掛け声に全員が気合を入れて雄たけびの声を上げていた。




「またか!」


 迷宮を攻略して進んでいこうとするが魔獣が絶え間なく襲い掛かって来て進めない。

 そして常に手にした武器を振っている為に休む間も無い。


「くそ!何でこんなに数が多い!ケンキと来たときは、こんなに魔獣が襲ってこなかったぞ!?」


 ユーガの言葉に返すことは無いが全員が内心で頷いている。

 たしかにケンキの時はこんなことはは無かった。

 

 何が原因なのか理解できない。


「ふぅ。………やってみますか」


 シャルの言葉と共に新しい魔法が展開される。

 何をしたのかユーガ達は聞きたいが魔獣を倒すことを優先した。


(あれ?)


 違和感に最初に気付いたのはマイナ。

 倒しても倒しても魔獣が現れて襲ってきたのに段々と減ってくる。

 この分だと休める時間が出来ると理解する。

 同時に何で今まで使わなかったのかと襲ってこなかった理由に疑問が湧く。

 完全に休める時間が出来たら絶対に聞いてやると決意している。


「凄いな」


 逆にナトは全く気付いていない。

 それよりもシャルによって強化された自分の身体能力に驚いている。

 ケンキにも身体強化をさせてもらっていたが比べ物にならない。

 これまでは身体強化をさせてもらっても防ぐたびに身体に衝撃が奔っていたがシャルのものはビクともしない。

 ユーガの言っていたケンキの数倍の能力が有ると言っていたのは嘘では無かった。


「うん。本当にすごい」


 それはサリナも同じだ。

 魔法で身体を強化されるために動体視力も良くなり自分たちに襲って来ても余裕で躱せる。

 それだけはなく動いている間にユーガやナトの怪我も直ぐに見付けられて治療も直ぐに出来る。

 ハッキリ言って予想を遥かに超える実力だ。

 しかもシャル自身も凄い。

 臆病と言っていたが、自分に襲い掛かってきた攻撃を全て避けている。


(これでシャルの加入に文句はないな)


 ユーガは自分の予定通りにいったことにほくそ笑む。

 シャルの実力に不審だった者もこれで納得できるだろうと。

 単純な身体能力を上げる魔法ですら数倍の能力に引き上げられているのだ。

 パーティに入れない選択肢は無いはずだ。


「ふぅ。終わったわね。………で、何をしたの?途中から魔獣を襲って来なかったんだけど」


「ひっ!……た、ただ単純に私たちの気配や匂いといった相手が探ってくる対象になるモノを感じ取れないように隠しただけです!」


 その言葉に成程と頷いたのはユーガとマイナだけだ。


「そうか。戦っている際の音や流れる魔獣の血の臭い、気配などを探って襲って来たのか。………何でケンキの時は襲って来なかったんだ?」


「いつの間にか使っていたんだと思うわよ?今、思い出せば戦闘中に魔獣の悲鳴以外は基本的に静かだった気がするし」


「……そういえば。戦闘に集中して気付かなかったな」


 二人の会話にナトとサリナは納得する。

 ケンキは何も言わなかっただけで気付かないところにもフォローしていてくれたことに溜息を吐く。

 何をしていたかぐらいは教えて欲しかった。

 それとも私たちなら気づいていると思っていたのだろうか?

 言わなきゃ分からないと文句が心に浮かぶ。


「それで!あなたは何時からこの仕掛けに気付いたの?参考にしたいから教えて!?」


 マイナはキラキラと好奇心が輝いた目でシャルを見ながら詰め寄っている。

 自分でもただただ理由が分からずに愚痴っていたのに仕掛けを見つけたシャルには感心をしている。

 上を目指すなら愚痴るだけではなく突破口を絶えずに探す必要があるのは知っているが、自分は成せずにシャルが成せたことに素直に自分より上だと認めた。


「え……えっと。魔獣がどれも私の記憶にある限り、どれもが何かに敏感な魔獣でしたから。例えば音とか、臭いとか熱とか本当にいろいろと」


 つまり記憶力のお陰だということだろう。

 シャルは何時も本を読んでいるのもあって色々な事を知っている。

 その中に魔獣についての本もあったのだろう。


「へぇ。今度、魔獣についてに載ってあるおススメの本とか教えてくれない?私も読みたいわ」


 その言葉に頷いてシャルは何冊かマイナにおススメの本を教える。

 その際に魔術の本でおススメの本を興味本位で聞いたら予想外の本と理由を教えられマイナは歓声を上げる。

 あまりの声の大きさに魔獣が寄ってきた。


「「「マイナ!!」」」


「ごめん!」


 集まってきた魔獣を倒し尽して攻略を再開した。




「それにしても、これはかなり便利だな。戦闘を避けてスムーズに進められる」


「なぁ?これが無ければ、この迷宮って攻略できなくないか?無かったら最初の様に魔獣にただただ襲われて一歩も進めなかった気がするんだが?」


「気がするじゃなくて、そうなんじゃない?もし、私たち以外がシャル以外の誰かを連れてきたら攻略することはできなかったでしょうね」


 マイナの言葉にシャルは顔を赤くして隠す。

 それに対しサリナはよく出来ましたと言わんばかりに頭を撫で始める。


「全くだ。ユーガが選んだ人材で良かった。俺の場合は全員が戦闘タイプだったから補助なんて全く考えていなかった」


「えっと、私もです。私と同じ回復に特化した人を連れて来てました」


 どうやらナトもサリナも自分と同じタイプの相手を選んでいたようだ。

 それだと確かに、この迷宮だとクリアできないのかもしれない。


「……………」


「どうした?何かに気付いたなら口に出してくれ。ケンキの奴は基本的に何も言わなかったからな。………あの野郎」


 ケンキに怒りを抱きながらシャルに話すように促す。

 少なくともケンキが話していれば最初の魔獣に襲われる被害は無かった。


「その……。もしかして、この迷宮って自分とは違うタイプの者達を連れてこなければ攻略できないんじゃ、と思って」


 その言葉に全員が考え込む。

 以前は三層までクリアしたが確かにそうだ。

 魔獣に至っては魔法を扱えない戦士ではどうしても勝てない相手が出現してくる。

 同じように魔法が一切聞かない魔獣も出てきて魔法使いでは絶対に勝てない。

 そして今も魔獣が休む間もなく襲ってくるのに対処するために補助魔法が得意な者が必要だ。

 マイナもシャルも魔法使いだが補助魔法が得意な者は攻撃魔法が、攻撃魔法が得意な者は補助魔法が壊滅的に苦手なのだ。

 やはり互いが必要としている。


「有り得るな。そもそもこの迷宮はパーティの重要性を教えるための迷宮と聞いたことがある。そのための仕掛けは多くありそうだ」


 そして今は特に必要なのは補助魔法使い。

 次の階層は誰が必要なのかと考えながら奥へと進んでいく。

 そして現れたのは巨大なバッタのモンスター。

 ユーガ達にとっては以前に勝った相手。

 だから安心しろシャルに元気つけて、それぞれが武器を構えて挑んでいった。






「あれ、ケンキ君。ソロになったのかい?それにしては生徒会長君のパーティと一緒に居るけど」


「取り敢えずテストの期間中は生徒会長のパーティと組むみたいです。どうもソロでの厳しさを実感させるとか」


「成程なぁ。まぁ、がんばりな。ソロでの厳しさは知っておいた方が良いぞ。皆で挑むのとは違って一人だから何をするのも、一人でやる必要がある。万能な者でないとソロはできないだろう」


 その言葉にケンキは頷く。

 ケンキもソロでクリアできたが個人だけだと、どうしても回収できなかった宝箱や行けなかったルートがある。

 高位の迷宮だと回復や罠の解除に特化した者も一緒に連れて行かなければ攻略は夢のまた夢だと言葉にする。


「なんだ、分かってるじゃないか」


 ケンキに話しかけてきたおじさんの言葉に生徒会長のパーティメンバーたちも頷く。

 ちゃんとソロの厳しさも知っているようだし自分たちの必要はないんじゃないかと考えている。


「ねぇ。彼にソロの厳しさというかパーティの重要性を教えないとって言っていたけど必要?私にはちゃんと理解しているように見えるんだけど」


 その言葉に頷きロングはケンキに質問する。


「ケンキ君、パーティを組むのか?」


「今の俺だと、ついでにパーティを巻き込む攻撃をしてしまう。もう少し自分の力を制御できるようになってからだ」


 その言葉と一緒に先日動き回って訓練所を半壊させていた光景を思い出す。

 斬撃が飛んだり移動中に衝撃波が生まれたりと確かに味方を巻き込みかねない攻撃だった。

 一緒に組むのなら、それなり以上の防御能力が有る者が必要だろう。


「味方を巻き込みかねないって……。何を言っているんだお前は?」


 おじさんは溜息を吐いているが、実際に見ないと信じられないだろうとロングたちは気を悪くした様子を見せない。

 そのことに気付かず会話を続ける。


「そういや、お前の元パーティのリーダが夜な夜な女子を夜遅く遠くからずっと見ていたって言っていたけど気付いていたか?」


「は?」


 おじさんの言葉にケンキが殺気を出す。

 

「「「っ!」」」


「ひぃ!」


 顔も完全に無表情で殺気もあって恐ろしい。

 話しかけてくれたおじさんだけではなく、近くにいる者たちも怯えて後ずさっている。


「おい」


「ひっ!?違う!?そんな話をしていたのを確かに聞いたんだ!?嘘じゃない!」


 ケンキはユーガが侮辱されたことにキレたと思っておじさんは必死に謝る。

 だがケンキが本当に怒っていることは、そこじゃない。


「今、ユーガは何処にいる?」


 ユーガがそういった行動をしたことに対して怒っている。


「ケンキ、お前は今の話を信じるのか?」


 ロングの質問にケンキは頷く。

 もしかして脱退させられたことに対しての怒りもあるのかと疑問に持つ。


「ユーガは最近も俺の後ろを付け回していました。興味を持った相手なら少しでも知るために女性だろうと気にせずに付け回すでしょうね。以前なんて寝てる間も徹夜で俺を観察していやがったし」


「………すまん」


 ケンキの言葉にロングは謝ることしかできなかった。

 そんな目にあっていたら確かに信じられないなと納得してしまう。

 ケンキの殺気に怯えていた者たちもユーガのやらかしに同情した視線を向けてしまう。


「生徒会長だし貴方も狙われると思うから気を付けてね。あぁ、副会長も他の役員も変わらないか。………頑張れ!」


 途中から凄く良い笑顔で伝えてくるケンキ。

 自分だけではなくなり被害が分散することに喜んでいる。


「私は女性なんだけど……?」


 女性の自分にもストーカーに耐えろというケンキに怒りが湧く女性陣。

 生徒会長たちも確かにといった様子でケンキを見ている。


「女性の場合は手を貸すのはしょうがないですけど、それよりも日ごとに交代して見回りとか学生もやる必要があると思うんですが?」


「たしかに見回りがいると知って実際に目にしたら警戒して引くだろうな。それに教えてもいないのに寮の部屋を知られるのを防ぐには必要か」


 寮には見回りといった人材はいない。

 つまり侵入してきても気付かない可能性がかなり高い。

 良く今まで、ここまで不用心なのに襲われた女生徒がいなかったなと生徒会長のパーティメンバーは思う。


「早速、教師にも話して実行の手筈を決めよう」


「なら、今日は無しでお願いします。俺はユーガと話して来る」


 そして一度は収めた殺気を溢れさせてユーガが挑んでいる迷宮へと向かう。


「あぁ、わかった。明日こそ一緒に迷宮に挑もう」


 ケンキはその言葉に頷いて一目散にユーガを目指しに向かった。


「ロング。私も面白そうだからケンキ君と一緒に行かせてもらうよ。また明日だ」


 これまで会話を一つもしていなかったメイがロングに話しかける。

 その内容にロングはニヤニヤと笑って頷く。

 ロングだけは無い。

 他の生徒会のメンバーも笑って頷いている。

 その反応にメイは顔を赤くして駆け足で先に向かっていたロングの元へと走り寄る。

 その姿にまた生徒会のメンバーは笑って学園の教師の元へと向かっていった。






「私としては構わないけど徹夜して授業とか大丈夫なのか?」


 ロングたちは早速、教師に相談するが問題点を指摘される。

 だが、実際に相談するまでに考えていたのか直ぐに提案をする。


「当日に徹夜する者は配慮して頂くか、その日の授業の内容をそのクラスの者がノートに纏めて教えようと考えています」


 その意見に首を傾げているが、まぁやってみるかと教師は頷く。


「わかった。取り敢えずやってみて問題が発覚したら対処していく形で良いな?」


「はい」


「それにしても急にどうしたんだ?いきなり寮の守備に口を出すなんて」


 教師の質問にロングたちは目を逸らす。

 後輩の一人にストーカ気質の者がいるとは確証も無いのに言えない。

 黙って誤魔化すくらいしかない。

 その態度に教師は溜息を吐く。

 少なくとも何年も教師として付き合ってきているから理由があって黙っていることは理解している。

 だから何も聞かないことにして溜息を吐く。


「ところで先生。今まで女子寮は無事だったのですか?無防備過ぎて簡単に襲撃できると後輩が言っていたのですが。俺が知らないだけで襲われていたりは無いですよね」


「ははは。何を言っているんだロング。我が学園の女生徒を思い出せ。ほとんどが返り討ちにする姿しか浮かばないだろう」


 教師の言葉に男性陣が強く頷く。

 たしかにノウルを筆頭にした自分たちのパーティの女性陣や同じ学年の女生徒に寝込みを襲っても返り討ちにされる未来しか想像できない。

 女性寮に見回りとか必要のない気がしてくる。

 ついつい、その場にいた男性陣と見回りの必要があるか相談してしまっている。


「ねぇ?」


 そんな中、ノウルは相談し合っていた男性陣に声を掛ける。

 彼女は自分たちは、か弱い女性なのに見回りの必要が無いんじゃないかと相談している男性陣に怒りが湧く。

 あまりの怒りに声が平坦なものになり、声を掛けられた男性陣を恐怖で身体をを震わせて怯えさせる。


「先生。見回りは必要ですよ?」


「……え」


「必要ですよ?」


「……ちょっ」


「必要ですよ?」


「………はい」


 ノウルだけではない。

 他の女性陣の笑みに圧されて必要だと教師は頷く。

 見回りは必要だと同意することになった。


「それじゃあ、どんな形で何時実行するか話し合いましょうか」


 その言葉に男性陣は頷くことしかできなかった。




「それじゃあ話し合いを始めましょう」


 あの後、ノウルが人を連れてくると言って待っていると理事長が入ってきた。

 そのすぐ後にノウルが入ってきたことで連れてきたのだと理解する。


「まずは女子寮の見回りは男性は不要ですね。女性の貞操を護るための見回りなのに男性がいるのは不安になります」


 その言葉に男性陣も女性陣も納得して頷く。

 ちなみに生徒会のメンバーだけでなく教師も多く集まって会議をしている。

 もう見回りは必要だろう。


「男子寮も見回りは必要にしましょう。見回り以外の女子が夜遅くに侵入しようとしたら捕まえてくださいね」


 恋人のところに向かうのを邪魔しろと理事長は言っている。

 それに関して全力で同意する男性陣。

 女性陣はそんな男性陣に呆れる。


「さてと人員はどうすべきかしら」


 その言葉に一人が手を上げて発言の許可を求める。

 当然、案を話すように促す。


「学年一クラスごとに毎日一人ずつ見回りに参加させるのはどうでしょう?人数は多いですけど、これなら確実に守れるはずです」


 この提案に確かにと頷く。

 問題は人数が多すぎるという点だ。

 まずは七学年で七人。

 そしてクラスは七クラス。

 七に七を掛けて四十九人も配置することになる。

 もう少し人数を抑えるための案が必要だ。


「それでも人数が多すぎる。二学年以下の者は免除したらどうだ?それなら三十人程で見回れるはずだ。屋上と地上で半分ずつ分かれば問題ないはずだろう」


 良い案だと提案者に全員が賛同する。

 これで後は何時から実行するかだ。

 生徒から反対意見があるかもしれないが、そこは大丈夫だろう。

 実際の迷宮でも寝ずの番もあることを考えれば訓練として受け入れられるはずだ。


「それでは何時から実行しましょうか?」


「やはり説明する時間も必要ですし、今はテスト期間中でもありますからね。来月ぐらいでどうでしょうか?」


「でも、これって貞操を護るための時間でもあるのよね。女子だけでも早速、実行した方が良いわよね」


「だけど私たち教師だけでは毎日徹夜は倒れるわよ。いくらか学生にも手伝ってもらわないと」


 実行に移すまでの見回りの事でも紛糾する。

 最終的には既に基準を達成している生徒に協力して貰うことになった。

 まだ上を目指そうとしている生徒には頭を下げて協力して貰い補償もすることに決定した。

 当然、生徒会のメンバーも含まれている。


「悪いわね。急にこんなことも頼んで」


「別に構いませんよ。それより後輩にパーティの重要性を教えるために最低でも一日以上は参加できない日がありますけど大丈夫ですか?」


「あぁ、そこは大丈夫。むしろ後輩に勉強させてきなさい」


 その言葉にノウルたちは甘えることに決めた。





「おっらぁぁぁ!」


 ユーガ達は五層のボス、巨大なスライムと戦っている。

 五層まではシャルの補助魔法で順調に進んで一日でボスの間までたどり着く。

 ケンキとは一日で一層進んでいたのとはかなりの差だ。


「皆、下がれ!」


 巨大スライムが身体を震わせるのと同時にナトが一番前に出て身の丈以上の盾を構える。

 他の皆は指示通りに従ってナトの後ろへと下がり、スライムの攻撃から身を護る。

 そして激しい音と共にスライムから水飛沫が襲ってくる。

 

「ぐぅぅ!」


 水飛沫と言っても直径二十センチほどの大きさで勢いもある。

 あまりの勢いの強さに当たった壁に罅が入る。

 もし直撃でもしようものなら骨が折れ動き回ることすら難しいだろう。


「よし!止んだぞ!マイナ、魔法でスライムの体積を削ってくれ!俺も魔法で攻撃していく!シャルは俺たちの魔法の威力を強化!ナトは次の波状攻撃まで待機!サリナはナトを回復してくれ!」


 ユーガの指示に従って行動していく。

 直接、武器で攻撃せずに魔法なのは物理的な攻撃が効かないからだ。

 むしろ下手に接近すれば取り込まれてしまう。

 その結果、吸収されて死ぬか窒息死するかのどちらかになるだろう。

 かなり厄介だが巨体なのもあって動きが鈍いのが欠点だ。

 攻撃される前に削り切れば倒せる。


「何だ?下がれ!」


 新しい反応に様子見としてユーガは警戒のために下がるように指示をする。

 同時に何が有っても良いようにナトが一番前に進む。

 そしてスライムは巨体でありながら高く跳ねた。

 そのまま重量に従って降りてきた反動で地面が揺れてユーガ達は体勢を崩す。


「くそっ!」


 まともに立っていられたのはナトだけで他は全員が地面に膝を付いている。

 続けざまに放たれた水飛沫を防ぎきれずにいくつか直撃し戦闘不能に者まで出てくる。

 動けるのはナトとマイナだけ。

 ユーガは意識があるが動けず、サリナはナトを回復した後に気絶する。

 シャルもまた直撃して壁にぶつかって意識が落ちてしまう。

 本来なら気絶だけで済まないが、それで済んでいるのはシャルが直撃を受ける直前に全員をダメージを軽減する魔法を張ったからだ。

 勿論、意識が残っている面々はそれに気づいて感謝している。


「ユーガ、動ける?」


「すまん。もう少し回復させないと無理だ」


「しょうがない。マイナ、決して俺の前に出るな。攻撃は俺が全て防ぐから後は任せた」


「わかってるわよ。絶対に倒すわよ」


 そして二人での死闘が始まる。

 ナトは宣言通りにスライムの攻撃の全てをマイナに当たらないように守っている。

 そしてマイナは決してナトの前に出ることは無く得意の魔法で少しずつ削っていく。

 ユーガは何も出来ない自分に歯痒く思いながら回復に専念する。


「くそっ……!」


「拙いわね……!」


 だが、それも長くは続かない。

 スライムの攻撃のたびに盾はボロボロになり、魔法での攻撃も魔力が尽きそうになって削り切る前に撃てなくなりそうだ。

 ユーガも未だに回復が追い付かない。

 ただただボロボロになっていく二人を見ることしかできずにいる。


(くそっ!ここまでか……!折角、この学園に入学してケンキに追いつこうと思っいたのに……!果たせずに終えるのか……!)


 悔しさにユーガは涙が浮かんでいく。


「あ……」


 そしてついにマイナは魔力が尽きて倒れてしまう。

 ナトもそこのことに気付いて意識を向けた途端、盾が壊れて吹き飛ばされる。

 マイナは目の前にいた盾が吹き飛ばされ、スライムが目の前にいることに絶望して諦める。

 そして捕食される未来に諦めて目を閉じた。


「…………あれ?」


 だが何時までも捕食されないことに目を開けると目の前には大剣を手にした背中が目に映る。


「この程度の雑魚にやられそうになるのか。………話はこれを倒してからだな」


 そう言って大剣を構える。

 普通は有り得ない選択に助けられているマイナも文句を言う。


「何をやっているのよ!?相手はスライムよ!物理的な攻撃が聞くわけないじゃない!?」


 それを無視してマイナの目には映らぬ速度でスライムを両断した。

 その所為でスライムは分裂して増える。

 体積は丁度二等分だ。


「数が増えただけじゃない!」


 そして今度は二匹纏めて両断する。


「だから……!」


 マイナが何を言ってようがスライムの両断を続ける。


「どうすれば……!」


 またスライムが増える。

 増えたスライムを両断する。

 スライムが増える。

 両断する。

 増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。増える。両断する。


「………嘘」


 そしてスライムの大きさが全て一層で出現するスライムの半分ほどの大きさになる。

 そして火の魔法で燃やし尽くされて消滅する。


「これで終わり」


「また見知らぬ魔法を使っているじゃないか」


 その言葉を最後にマイナも気を失った。

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