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パーティを追放されました。でも痛くも痒くもありません  作者: 霞風太
サバイバル演習編

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49/62

学習

 ケンキが暴れた次の日、学生たちは仮眠を一度とった。

 そして目覚めてテントから出ると多くの魔獣の死体が目に入ってきた。


「……これケンキが狩った魔獣だよな」


「……多分な。昨日も言っていたけど魔獣の捌き方を教える為だろう。後は山菜の見分け方とか覚えることが多いな」


 役に立つだろうが覚えることが多すぎて溜息が出てしまう。

 一緒にいた学生たちも同じ思いなのか諫めることもせずに苦笑いを浮かべるだけだ。


「それにしても昨日のケンキ君は凄かったよね。あれだけの魔獣を相手に結局、怪我一つ負わなかったし」


「その分、返り血で凄いことになっていたけどな」


 それにと他の起きている学生たちに視線を向ける。

 その視線の先には顔色がかなり悪い学生たちや教師がいた。

 それも当然だろう。

 ケンキの戦い方は途中から残虐だった。

 例え向けられた相手が魔獣だったとしても見てて愉快なものでは無いだろう。


「まぁ素手で魔獣の身体を引き千切っていたからな。アレさえなければ返り血の量も少しは減っていたんじゃないか」


 ケンキの戦っていた姿を思い出して深く同意するように頷く。

 耐性の無い者にとって悪夢が出るくらいに残虐だったようだ。


「たしかに。ちなみにお前なら魔獣を引き千切ることが出来るか?魔獣の抵抗は考えなくて良いぞ」


「………多分、出来るんじゃないか?身体強化の魔法を使う必要はあるだろうが」


「それなら俺も出来るか?」


「まぁ、抵抗できない状況での話だろ。実戦で使うのは技量的な問題もあって無理だろ」


「それもそうだ。でも生徒会長なら実戦でも出来そうだよな」


「全くだ」


 そう言って二人の学生は笑い合う。

 自分たちの学園に規格外が二人いて、どちらとも一生を懸けても追いつけない実力の持ち主だ。

 生徒会長だけでも心が折れそうになったのに二人に増えて頭痛がした。

 だが、そのお陰で戦闘に関してどれだけ実力差があっても受け入れれるようになった自覚がある。

 一人だけなら規格外として見れていたが二人も同じ学園にいるなら世間は自分たちが思っている以上に規格外で溢れていると考えれるようになったからだ。

 現に一人、飛び級をして卒業までした後輩もいるのだ。

 そう考えてもおかしくないと思っている。


「………さてと全員が揃ったな」


 学生全員が集まったのを確認して教師の一人が声を出す。

 それだけで会話をしていた学生も黙り静かになった。

 そのことに満足そうに頷いて教師は一歩下がる。

 そして前に進んできたのは騎士だった。

 予想もしてなかった声にざわめきが生じる。

 これに関しては気持ちが分かるのか教師は苦笑するだけだ。


「………今年は俺たちが食べられる山菜と魔獣の捌き方を教えます。来年もあるようなので特に一学年の生徒は今年で覚えられるように気合を入れてください。今年は君たちより上の学年の生徒がいるし、サバイバルが終了した後も調べる機会はあるから安心してくれ」


 騎士の言葉に特に一学年は緊張する。

 今年は一学年だから気軽に頼れるが来年からはそうはいかない。

 自分たちが頼られる存在になるのだ。

 頼られて分からないなんて想像だけでも情けない先輩になりたくないと気合を入れる。


 そして頼られる立場の先輩たちは自分達も経験したことがあるからか微笑ましい顔で後輩たちを見る。

 自分達でも全員が出来たんだ。

 後輩たちも出来ると確信していた。


「それじゃあ、まずは一学年以外の生徒たちはこちらに来てくれ。君たちは食べられる山菜の見分け方は出来ると聞いているから魔獣の捌き方を教えようと考えている。一学年の子たちは教師たちにまずは山菜の見分け方を学んでくれ。午後から、こちらに来て学んでもらう」


 騎士の言葉に教師たちも頷き、一学年とそれ以外の学年で分けて集める。

 そしてお互いの邪魔にならないよう離れる為にその場から移動した。




「………まずは食べられる山菜の見分け方を教えてあげるわ」


 先輩たちと別れた一学年の生徒たちは教師の言葉に頷く。

 先程も考えていたが来年では自分たちが頼られる立場になるので気合を入れて受けている。


「まぁ、と言っても毒がなければ大抵は洗って茹でれば食べられるんだけどね」


 本当にそんな簡単なのか疑惑の視線を向ける学生たち。

 軽く教えられたせいで信じられない。


「というわけで最初は毒を感知する魔法を覚えて貰います。これは身体強化と同じで魔力が少しでもあれば覚えられます。皆はこの学園に入学したはずだから魔力も当然あるわよね」


 当然だと頷く学生たち。

 そもそも生命であるかぎり全てのものは魔力を持っている。

 適性もあるが知性があって魔法を使えないものは一つとしていない。


「魔法を使えない状況の為にも他にも毒がある山菜の見分け方も教えるから」


 そんな状況が本当にあるのか半信半疑になりながら毒を見分ける魔法について集中して学んでいく。

 その様子に教えている教師も満足げに見ている。

 自分たちの教えを覚えようと真剣に学んでいる姿は何時見ても良いものなのだろう。

 教え甲斐があって教師になって良かったと思える時間だ。


「………質問があるんですけど良いでしょうか?」


「何かしら?」


 特に集中していた学生の質問に気分よく返事をする。

 質問をしてくれるのも真面目に授業を受けている結果だからと悪い気はしない。


「魔法を使えない状況って例えば何があるんですか?もし、そうなったら死んでしまうんじゃ?」


 魔力が尽きたということは死んだことと同じことだと言う生徒に良いところに気付いたと褒める。


「良いところに気付きましたね。ですが迷宮の中や国の外のほんの一部分では魔法を使えない場所が実際にあります。実際に牢屋の中では脱走されないように魔法を使えないようにされていますし」


 魔法を使えないと聞いて振るえてしまう学生たち。

 普段から使える魔法が使えなくなる可能性を聞いて自分の身体の一部が無くなった感じがするようだ。

 顔を青褪め差ている者もいる。


「犯罪を犯さなければ問題ないですから、安心してください」


 そう言われても無理なものは無理だと思っているが恐怖を少しでも忘れるために魔法を習得するのに集中する学生たち。

 その姿に教師は苦笑して魔法習得の様子を見ていた。


「それにしてもケンキ君は凄かったわね」


 学生たちに聞こえないように教師は小声でケンキのしていたことを思い出す。

 身体強化はしていたからこその怪力もあったが、おそらくはしなくても同じ結果を生み出せただろう。

 技量事態もすさまじい程だった。

 学生の中にケンキに対して憧れや異常なほど好感や敬意を抱いている者がいるのも理解が出来る。

 自分たち教師も同じようになりそうだった。

 あれだけの力を見せつけられて憧れない訳が無い。

 異常な程なつもりは無いが一学年の生徒相手に好意を抱いてしまっている。


「……ある意味、あの男より厄介ね」


 最近まで多くの者に魅了を掛けて最後は好意を抱かせた相手に殺された男を思い出す。

 アレは自らの意思で問答無用で魅了させたからこその憎しみがあるが、ケンキに関しては自らの戦闘能力を見せただけだ。

 こちらを魅了する意思なんて当然ながらあるわけが無い。

 むしろ自分の戦闘行為を見ただけで好意を抱いたと言われても頭がおかしい奴としか思わない気がしてくる。


「ん……」


 ケンキの戦闘行為を思い出して教師は一人、生徒たちから離れて身体を震わせる。

 身体が火照り、子宮の奥がうずいてしまう。


「……思い出しただけで、こうなるなんて。いくら強くても相手は小さい子供なのに」


 この教師の年齢は二十六歳。

 まだまだ若いがケンキとは十一歳も離れている。

 事案になりかねない。

 こうなったのはケンキの実力が百を超えた魔獣相手でも無傷で殲滅できたのが大きいだろう。

 強い異性に女性は本能的に惹かれてしまうせいだ。

 これからケンキは女性にモテ始めるのかもしれない。

 教師は自分を落ち着かせてから生徒たちの元へと戻った。






「さて、これでは魔獣の捌き方を教える。既に出来る者もいるかもしれないが静かに聞いてくれ」


 教師に代わって騎士が教えてくれるが当然のことだと黙って生徒たちは頷く。

 その視線は何当たり前の事を言っているんだと感情が籠っている。


「………さ、さてとまずはこの魔獣からだ」


 生徒たちの視線に気圧されながら前に出したのは熊の魔獣。

 そして既にグループで分けられた生徒たちの前にもそれぞれ熊の魔獣を置いて行く。


「説明をしながら捌くから、グループの誰かが真似をしてくれ。他の者はグループで捌く者と私の捌き方を見て覚えてくれ」


 いくらケンキが魔獣を大量に狩ったとしても全員に同じ種族の魔獣が行き渡るわけが無く数も多いわけでは無い。

 そのことが分かっているから生徒たちも真剣に頷き、誰が捌くかで揉めてしまっていた。

 あまりの煩さに騎士も来ていた教師も顔をしかめるがもめている理由も理解できてしまう。

 覚えるなら実際にやった方が効果的だと知っているからこそ止めるのは難しい。


「悪いが今回は熊、オオカミ、蛇、鳥、猪の五種類だ。ジャンケンで勝った奴から抜けてくれ。時間も勿体無いしな」


 騎士の言葉に学生たちはお互いのグループで睨み合い指示通りにジャンケンを始める。

 本当にジャンケンをし始めた学生たちに騎士は素直だなと唖然としていた。

 少しでも反論すると思ったのにそれも無かったが教師たちもそれも当然だと思っていた。

 感情ではともかく理性では時間が勿体ないと理解できるように鍛えたのが教師だから当然だ。


「………全員、決まりました。捌き方を教えてください」


 きっかり五分ほど使って本当にジャンケンで役割を決めた学生たちに騎士たちは微笑ましく感じてしまう。

 この学生たちなら命を懸けてでも本気で護りたいと思ってしまう。


「それじゃあ、良く見てください」


 自分の言葉に集中して見てくれる生徒たちに騎士はこんな学生たちなら教師も悪くないなと思ってしまう。

 同時に自分の学生時代のことを思い出して、この学園の生徒が特別なんだろうなと考える。

 どうやって、こんな素直な生徒が出来るのか教育方法を頭を下げてでも教えてもらいたい。

 そして偶にいる生意気な新人団員に施したいと考えている。


「まず最初はこう切ります」


 一度、例として斬って見ると生徒たちも真似をして切ってくれる。

 切る位置もほとんどの者が正しく切っている。

 少しずれて切ってしまっている者もいるが大した問題ではない。


「それで次は………」


 そうして続けて行って魔獣を次々と捌いて行く。

 一体の魔獣を捌き終わったら次は別の魔獣に代わり学生たちも切る物を交代する。

 それを繰り返し終わらせると昼の時間を少し過ぎてしまう。

 当然ながら学生たちも騎士たちも腹を空かせてしまう。


「昼も過ぎましたし捌いた肉を焼いて食べましょう」


 焼肉だと生徒たちは騎士の言葉を聞いて歓声を上げる。

 そして同時に蛇やオオカミの肉も捌いたことを思い出し、それを喰わなければならないのかと顔をしかめてしまう。


「当然ながら捌いた肉は全種類、ちゃんと食ってください。焼いて調理したなら食べれるはずので」


 つまりは蛇肉なども食えと言う言葉に生徒たちは顔をしかめながらも頷いた。



「あれ?結構、美味い」


 生徒の一人は恐る恐る蛇肉を食べて味の感想を言う。

 それを聞いて他の生徒たちも口にし始めて美味いと言うのは本当だと感想を言い合う。


「そうだろう。たいていの肉は焼いて食べると美味いんだ。じゃんじゃん食えよ」


 騎士たちも学生の言葉に頷いて蛇肉だけではなく他にも捌いた肉を次々と焼いて行く。

 自分で捌いた肉だからか普段よりも美味しく感じている。


「……騎士になったら、やっぱり魔獣とか食う機会が多いんですか?」


 学生の一人は近くにいた騎士に気になったのか質問する。

 魔獣の捌き方について詳しいこともあり頻繁に食っているのではないかと予想した所為だ。


「そうだ。騎士団に入団したら国を襲うかもしれない魔獣を事前に狩る為に遠征に行くことがあるからな。一か月間は国に帰れない時もあるし、食料も足りなくなるから魔獣を狩って食うことが結構ある」


 騎士の説明に学生たちはやはりと納得する。

 騎士団に入るにはどんなものでも口に出来るようになる必要があるらしい。

 強さだけでは無く色々な意味での鈍感さや図太さも必要なようだ。


「それと好き嫌いは無くすように。アレルギーとかならともかく、食わず嫌いは勿体無いからな。場合によっては退団になるからな」


 それを聞いて学生たちは安心する者や顔を引き攣らせるものがいる。

 前者はアレルギー持ちで後者は食わず嫌いが有る者だ。

 特に後者は苦手なモノを克服しなかればいけないということで絶望したような顔をしている。

 騎士団に入ることを目標としていた者達は少しずつ食べるようにして努力することを決意した。


「………肉を焼いているのか?」


 そう決意をしている時にケンキが野苺を食べながら、この場にやってくる。

 野苺を口にしているケンキに騎士たちは、相変わらず野苺が好きだなと呆れられる。


「……そうだけど、ケンキ君も食うか?元々の材料は君が狩った魔獣だし」


「いらない……っだ!?」


 ケンキは肉を食うのに誘われたが拒否をすると頭を叩かれる。

 誰が叩いたのか確認するとメイがいた。


「折角の好意なんだから受け入れなさいよ。野苺だけで足りるの?」


「メイちゃんの言う通りだ。ケンキ君は肉をたらふく食え。ただでさえ平均よりも小さいんだから」


 そう言って騎士は焼けた肉を更に大量に乗せてケンキに差し出す。

 それを見てケンキは嫌そうな顔をする。

 既に野苺を喰っているのに更にこれもとなると腹がいっぱいになって動けなくなる。


「嫌な顔をしてないで食いなさい。お腹いっぱいまで食わないと背が伸びないわよ。どうせ、いつもかなりの時間動いているから太ることはないでしょう?」


「そういうことだ。正直、ケンキ君の小ささは年齢からすると心配になる。だから、もっと食ってくれ」


 騎士とメイの会話に学生たちもケンキの身長を眺める。

 明らかに一学年の生徒の平均より身長が低い。

 昔から付き合いがあるのだろう騎士たちがケンキを心配してしまうのも理解できる。


「…………わかった」


 心配されているのを理解してケンキも複雑な顔を浮かべながら、ゆっくりと肉を口にしていく。

 その様子にケンキは肉が嫌い、もしくは苦手なのかと学生たちは珍しく思う。

 今までの善政で肉を嫌う者と会ったことは無いから余計に注目してしまう。


「………俺は肉が普通に好きだ。ゆっくり食べているのは野苺である程度腹が膨れているのに更に食べさせられているからだ。これを喰い終わったら腹がパンパンで動けなくなりそう」


 ケンキの言葉に納得し、同時にどれだけ野苺を喰っているんだと学生も騎士も教師も関係なくケンキに白けた視線を向ける。

 野苺だけで腹がある程度、膨れるまで食うとなると結構な量になる筈だ。

 終わるまで野苺が保つのが疑問に思ってしまう。


「山の中の野苺を食いつくす気?」


「………いや。無くなったりしたら魔獣を狩って食べれば良いだろう?これ以上、野苺を今回は集める気は無いからな」


 ケンキの言葉にホッとする面々。

 山の恵みを喰い尽くす気はなく、自重もしていたことに安心する。


「………一学年が見えないけど、午後から?」


 学生や騎士たちはケンキが一学年のことを気にしている理由を考えて直ぐに思いあたる。

 ケンキも一学年の生徒だから同じ学年の生徒がいないことが気になってしまったのだろう。


「そうですね。今は食べられる植物の見分け方を学んでいる最中だと思います。午後から肉の捌き方を覚える予定ですね」


「……そう」


 ケンキは自分も学生たちの中に参加すべきが悩んでいる。

 既に知っている事なのに、また一から学ぶのは面倒臭いと考えて個人行動をしようかと考えていた。

 先程、合流するまでは似たような状況だし構わないだろうと考えていた。


「ケンキ君も参加したら?」


 そう思っていたのにメイの言葉に意識を向ける。

 何でメイが決めるのかと非難めいた視線を送る。

 どうせなら自己鍛錬をするつもりだったのに。


「この場にいる学生たちも多分、もう一回説明を聞くことになるんだし一緒に学び直しても良いじゃない。温故知新っていう言葉もあるくらいだし」


 メイの説得にこれ以上、続けられても面倒だとケンキは肉の捌き方を学ぶのを受け入れる。

 話を聞くついでに周囲の警戒をすることにする。

 騎士の人数も多いが何人かは学生の補助などで人数を割けることになるから警戒することに越したことは無いだろう。


「………わかった。周囲を警戒しながら適当に話を聞いておく」


「……まぁ、いっか」


 ケンキの言葉に今度はメイが折れる。

 それに周囲の警戒をしてくれるのは助かるから納得するしかない。

 騎士たちもケンキが警戒してくれるなら安全だと賛成の雰囲気だ。


「………それで捌く魔獣は何をやったんだ?」


「熊、オオカミ、蛇、鳥、猪の五種類です。午後も同じ魔獣を一学年の捌かせるつもりです」


「………で夕食には捌いた肉を焼いて食べるのか」


 ケンキの言葉に騎士たちは頷く。

 騎士たちの頷いた様子にケンキは白けた目を向ける。

 一学年の生徒たちは今頃、野菜などを喰っているのだろうが、こちらは肉だけを喰うつもりみたいだ。

 栄養バランスが崩れているのはサバイバルだからしょうがないとはいえ、今は余裕があるのだから肉だけでは無く野菜も食えば良いと考えている。

 それに一学年の生徒たちは昼に野菜だけを喰って夕食まで保つのか正直不安だ。


「…………使わない予定の魔獣の肉はあるか?一学年が野菜だけって体力が保つ気がしないんだが」


 ケンキの言葉にそういえばと全員が考えるが、そのぐらいは大丈夫だろうと学生たちは考えている。

 野菜だけでも大量に食えば腹が膨れる筈だし、実際に経験して学ぶから覚えれるはずだと予想もしている。

 それにケンキ自身は忘れているがサバイバル用の食料も持って来ているのだ。

 その事を説明してケンキだけでなく騎士たちも納得させる。


「………そうか。それなら良いや」


 それだけを言ってケンキはあらぬ方向に顔を向ける多くの者たち。

 突然の行動に疑問を持つ前に反射で、その場にいた全員が同じ方向を向く。


「ここで魔獣を捌く方法を学ぶんですか?」


「そうよ。先輩たちもいるから、困ったときは手を貸してもらいなさい。既に一度、学んでいるから手を貸す余裕ぐらいはあるはずよ」


 そこには教師を引率として一学年の生徒たちが見える。

 声は聞こえないが何か話しているのは見て分かる。

 ケンキはいち早く察して顔を向けたらしい。

 騎士たちは何人か一学年の生徒たちの中にいる王族の護衛をするために学生たちに近づく。

 それを見てケンキは必要ないだろにと溜息を吐く。

 ちゃんと隠れているが王族の護衛がいるのを把握している。

 何なら騎士たちにも昨日の夜に話したはずだと考えていた。


「ケンキ!」


「…………」


 そんな中、一学年の生徒たちに交じっていたシーラがケンキに抱きつく。

 最初から騎士たちと共にいなかったのは植物とは言え毒の見分け方に興味を持ったのが理由だ。

 そして今日も、もしかしたら一緒に行動できないと考えていたのに覆されたことに勢い余って抱きつく。

 その行動にメイとサリナはムッとする。


「………いや、ケンキ。妹に抱きつかれたんだから少しは反応してくれ。嬉しくないのか?」


 抱きつかれて何も反応を返さないケンキに呆れた目で問いかけるラーン。

 何も反応を返さないことに少しだけ妹が不憫に感じたからこその助け舟だ。

 ここでケンキが嬉しいと言えば妹婿にも出来るという考えもある。

 仲が良い友達が家族になるのは悪くない。

 父王も賛成するだろうし妹の恋を手助けするのも楽しいのだ。


「…………」


 それでも何も言わないケンキ。

 ここまで来ると苛立ち以前に心配になる。

 何時もなら何も言わなかったとしても顔を逸らしたりと反応はあるのにそれすらない。


「ケンキ?」


 流石に心配になって胸の中に閉じ込めているケンキを見下ろすシーラ。

 ラーンや仲の良い幼馴染たちも心配して駆け寄る。

 そこには胸の中に埋もれて顔がすっかり隠れているケンキがいた。


「あ………なるほど。シーラ、ケンキの奴はお前の胸で閉じ込められているせいで話すことが出来ないのか。シーラ、ケンキを放してやったらどうだ?」


 シーラもその事に気付いて漸くケンキを自身の胸から解放する。

 どうせだから自分の胸の感触について感想を聞きたいと考えていた。

 言葉次第では自分の夫にする気満々だ。


「それで私の胸の感触はどうだった?」


 顔を赤くしながらも感想を聞くシーラ。

 周りも者も攻めているなぁと思うだけで関与しようとしていない。

 王族の恋愛事情とか話半分に聞いても実際に関与したくない。

 運が良い事に学生たちも、そのぐらいの考えがあった。


「………男なら女性の胸に抱きしめられたら誰であろうと嬉しいんじゃないか?」


 素直に嬉しかったと言えば良いのに余計な事を付け加えられたせいでシーラの顔をに青筋が浮かぶ。

 これでは婿にすることも出来ないと残念そうに溜息を吐いた。

 それはラーンも同じでケンキに余計なことを付け加えたなと睨んでいた。


「………そういえば二人は一学年の方へと行っていたんだな。食べられる草の見分け方とか必要か?」


 ケンキの質問に二人は役に立つ知識ではあるが必要かと問われると首を横に振る。

 外出する時には自分達には気付かれないように普段から護衛もいるから本来は覚える必要もない。

 それでも毒を見分ける魔法は役に立つとケンキに伝える。


「……そうやって食べれるかどうか見分けるのか。そもそも覚えていなかったのか?」


 毒殺を防ぐのに有効な魔法なのに覚えていなかったことにケンキは信じられない顔を向ける。

 それに顔を逸らす王族たち。

 周りの騎士や学生たちも確かに有効な魔法で王族は必須の魔法じゃないかと思い至る。


「毒味役がいるし………」


 震えながら王族が言うとケンキは何故か納得する。


「………そうか。既にそれがいるのに王族自身がやると仕事を奪ってしまうからか?」


「まぁ、そんな感じだ」


 そんな二人を見ながら騎士と教師たちは午後からの授業を開始するための準備をする。

 学生たちも思い思いの時間を過ごすために距離を離れる。

 このまま聞いてはいけないことを話して聞いてしまうのを防ぐためだ。

 うっかり機密情報まで話し出して聞いてしまい口封じをされるのは嫌だ。

 二人は気安い関係に見えるから有り得ないとは言い切れない。


「………?まぁ良いや。それじゃあ時間まで休んでいたら」


「?あぁ、それと悪いがシーラの事を頼む」


 ケンキは周りの者たちが急に一斉に離れたことに疑問を持つがスルーし、ラーンはケンキが何に疑問に思ったのか気になったが、それよりも妹の事を頼む。


「………は?」


 何故、シーラの事を頼まれたケンキは理解できずに呆然とする。

 その事が分かったのかラーンはケンキのある部分を指差す。


「ふふっ」


 そこにはケンキの腕を無理やりにでも組んでいるシーラがいた。

 ケンキは何も言う気にはなれずに好きにさせていた結果だ。


「………適当に時間を潰すから離せ」


「嫌よ。私も一緒に行動をさせて貰うわ」


 シーラの言葉に独りでいる時間が減ってしまうと嫌な顔を浮かべるケンキ。

 何を言っても離す気が無いのを視線が語っている為に諦める。

 護衛をしながら散歩をするしかないのかと溜息を吐いた。


「溜息を吐くなんて失礼ね」


 シーラはケンキが溜息を吐いたことに不満を持たずに組んだ腕を強引に引っ張って行く。

 王族だからケンキの様な反応が返ってきて珍しいのも理由だ。

 とはいえケンキ以外だったら処刑をされていた。

 ケンキが許されているのは昔からの付き合いがあるからだ。

 そしてケンキは流されるがままにシーラの後を付いて行った。




「………思ったのだけどケンキって好きな娘がいるのかしら?」


「………………?」


 ケンキは少し離れた所でされたシーラからの質問に困惑する。

 よく見るとシーラの顔は赤くなっており、熱のあるのかと心配してしまう。


「ちょっ!?ケンキ!?」


 熱を測る為にケンキはシーラのデコに触れる。

 突然の行動にシーラは更に顔が赤くなる。


「………熱い。熱があるんじゃないか?」


「……違うわよ」


 シーラの否定にケンキは何を言っても無駄かもしれないと諦める。

 ただ、いつ倒れてもフォローできるように身構える。


「それで!ケンキには好きな人がいるの!?」


「………いない」


 何でそんなことが聞きたいんだとケンキは呆れながらも答え、そして理由を考える。

 そして思い当たった理由が王族だからだと察する。

 ケンキは自身が国の中でも強いとは思えている。

 何せ今よりも幼い頃から大人の騎士相手に鍛えたりしているのだ。

 これで弱いと言う方が大人たちに失礼だ。


「……そう」


 ケンキの言葉にシーラは嬉しそうな、そして残念そうな混ざり合った表情を浮かべる。

 おそらくはケンキという戦力を何処かに持っていかれるのは国として避けたいのだろう。

 そして王族であるシーラと結婚すれば他国に持っていかれる心配は無くなる。

 今日の様に胸に埋められたり腕を組んだのも自分を国の中に縛り付ける為の行動なのかもしれない。

 国の王女だから本当に好きな相手と結婚できないのだろうと、ケンキは身勝手に同情をした。

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