見学
「………一体、何があったんだ?」
「そうね。先生たちも何人か驚いているし突然の事みたいね」
生徒だけでなく教師も何で起こされたのか分からない様子で困惑している姿に教師にとっても突然のことだと理解する。
一体、何があったのだろうと学生たちは酷くざわついてしまう。
「皆さん、これから起こした理由を話しますので静かにしてください」
学園長の一声で、そのざわつきも少しずつ治まり、誰も声を発しなくなった時点でようやく説明を始める。
「これからケンキ君の魔獣退治の様子を見に行きます。騎士たちも一緒に護衛として来てくれるようなので命の危険は低いようです」
魔獣退治とかどういうことだとざわついてしまう生徒と教師達。
騎士たちが頷いているから本当のことだと理解できるが何でケンキがそんな行動をしているか、そして見学をすることになるのか理解できない。
「どうやらケンキ君は一人で魔獣を相手にしているようです。その数は既に倒した数だけでも数十は超えているらしいです」
ケンキと聞いて学生たちは生徒会長に勝ったり、訓練の内容が凄まじかった一学年の少年を思い出す。
この山に来る前も威圧だけで地面に膝を付けさせられた。
そして幼馴染たちはケンキのしていることに頭が痛そうに手を当てている。
とんでもなく強いのは理解しているが一人で魔獣を狩っているなんて危険なことをしていることに心配してしまう。
それに倒しただけでも数十を超えているということは相手をしている魔獣の数は百を超えているのではないかと考えてしまっていた。
「それだけ強い生徒が近くにいるのです。騎士たちも出来る限り私たちを護ってくれると言ってくれています。折角の機会です。生徒たちも教師たちも全員、ケンキ君の動きを参考にしていきましょう」
ケンキの見学に言う理由を語られて少しだけ教師たちも生徒たちも納得する。
たしかに参考に出来れば強くなれるかもしれないが実際に参考できるかどうかは別だ。
幼馴染たちはケンキに説教をするために参加に積極的だ。
「話が終わったなら学園の者たちは私たち騎士の後ろに付いてきてください。皆さんの後ろにも騎士を配置しますが、後ろからの奇襲を防ぐためのなので気にしないで下さい」
騎士は学園長の話は終わったと判断して声を掛ける。
その内容に学園の者たちは頷いて声を掛けた騎士の後ろへとついて行く。
最後尾にも騎士がいるから護ってくれるのは本気だと安心していた。
そしてケンキの動きが参考になるか分からないが学生たちもどうやって一人で数十もの魔獣を相手にできるのか興味があるが魔獣に襲われる可能性があるから集中して見れなかったかもしれない。
それが騎士たちが護ってくれるなら集中して見れると感謝していた。
そして。
「なにあれ……?」
ケンキが魔獣を殲滅している姿に生徒たちは理解できない者を見る目でケンキを見る。
視線の先ではケンキが剣を振るう度に魔獣が両断されていく。
生徒会長であるロングは自分も同じようなことが出来るから感心した様子で見ていた。
「斬撃を飛ばしているのか。やはり、アレを使うのはこちらが一人で相手が大勢いるときにしか使えないよな」
納得しているロングの言葉に騎士や生徒たちが視線を向ける。
騎士たちは彼も斬撃を飛ばせるのかという驚きと、生徒たちはそういえばロングも斬撃を飛ばせていたなということを思い出してだ。
「………それにしても俺よりも斬撃を飛ばす飛距離と範囲が広いな。コツを教えて貰うか?」
コツを押して貰おうと悩んでいるロングには悪いが斬撃を飛ばすのに何で条件が一人でかつ相手が大勢で無いとダメなのか騎士たちは問いかける。
学生たちも同じ気持ちだから騎士たちの質問に聞き耳を立てていた。
「斬撃を飛ばすのに、こちらが一人でかつ相手が大勢でないといけないのか?何でだ?」
「あぁ。斬撃を飛ばずと言っても火の魔法とかと違って目で見えるものでは無いですし。巻き込みかねませんから」
たしかにそうだと納得し、どうやって避けるれば良いのか頭を悩ませてしまう。
ちなみにロングならどうやって避けるか質問する。
「あぁ、なんとなくだが避けられる。ケンキも何度も俺の飛ばした斬撃を避けているし、斬撃を飛ばせる者は避けれるんじゃないか?そうでなくても魔法や盾を前にすれば防げるだろうな」
避け方はともかく防ぐ方法が分かっただけでも騎士たちや学生はホッとする。
正直に言って、このままだと同じような者がいたとして勝てるビジョンが全く見えなかった。
同じ時代、同じ場所に斬撃を飛ばせる者が二人いるのだ。
敵対した相手が絶対に同じことができないとは言い切れない。
「…………うわっ。何あれ?」
ケンキが手を上に掲げると強大な火の玉が顕れる。
初級魔法しか適性が無く使えない筈のケンキからは有り得ないことだ。
いくら改変できると言っても中級魔法から上級魔法の威力に匹敵するだろう魔法だ。
「………初級魔法しかほとんどの魔法には適性が無いはずなのに」
「ほとんど?ケンキ君に適性がある魔法があったのか?」
「……はい。それを知って、ほとんどの宮廷魔術師は頭が痛くなったり教えを授けて欲しくなった者が多くなりましたけど」
溜息を吐くメイ。
ほぼ伝説とされた属性に適性があるのに宮廷魔術師たちは阿鼻叫喚となった。
今では何だかんだと宮廷魔術師たちの研究にも顔を出してくれて失われた魔術の再現など、かなりの戦力になってくれている。
「………あれも失われた魔術?」
「………失われたというのは空間とか伝説にされたもので、ああいうのは無いんだけど」
指差された先には巨大な火の玉が回転して、そこから小さな火の弾が放出されていた。
貫通力が高いのか魔獣の身体を貫通して地面に着火している。
「……本当にケンキ君って火の魔法は適性が無いの?」
「調べたところ本当に無いんだけどね……。私もアレを見て信じられなくなってきたわ」
放出された火の弾は魔獣の身体に当たらないものもあり、貫通して地面に着地したのと合わさって大地が燃え広がっていく。
既に死んだ魔獣にも燃え移り、もはや火災だ。
急にケンキは燃え盛った魔獣を見て納得し涎を垂らしてしまう。
血生臭い匂いの中に突然、肉の焼けた匂いがして気になったのだろう。
あれを朝食にしようと一人で決意している。
「………ケンキ君、涎たらしていたんだけど」
「あぁ。もしかして食べるつもりか?」
「良いわね。騎士団に入団すると魔獣の肉でバーベキューなんて当たり前だし。ここまで肉の焼けた匂いが漂ってくるわ」
「そうなんですか?」
「えぇ。宮廷魔術師は研究者の方が多いから知らないし参加もしないだろうけど、男女関係なく集まってバーベキューを毎年、新人の歓迎会としてしてるわ」
「へぇ。私たちの新人歓迎会は男女関係なく甘いものを食べに行きますね」
騎士団と宮廷魔術師の歓迎会の話を聞いて興味津々な顔をする学生たち。
希望する就職先の話が聞けて興奮する者もいた。
だが甘いものを食べに行くと聞いて宮廷魔術師を目指す者は渋い顔をしている。
「そういえば甘いものって脳の疲労回復に良いんだっけか?」
「そうそう。宮廷魔術師になって少し経ってから連れて行って奢りと聞くと毎年、凄く喜ぶって聞いていたわ」
宮廷魔術師の甘いものを食べに行く理由に顔を引き攣ってしまう学生たち。
学生たちは宮廷魔術師になったら嫌でも甘党になるのではないかと危惧してしまう。
「…………お前たちも食うか?」
そんな学生と騎士たちの前にケンキが目の前に現れる。
「「「「「「「うわぁ!!」」」」」」
音も気配も無くケンキが目の前に現れたことに全員が驚く。
中には心臓のある位置に手を当て深呼吸している者達もいた。
「………それ以前に魔獣が大量に襲って来ているけど国に戻るのか?」
ケンキのマイペースな質問に騎士たちは溜息を吐き、教師たちは安堵と頭痛が同時に襲ってくる。
教師たちはケンキに対して結論を急ぐ性急さを教育する必要があると理解した。
もともと騎士や宮廷魔術師を多く輩出する学園だから礼儀作法に対しても教育することが出来る。
「………で、どっち?国に戻るなら多くの騎士を護衛にして戻す。戻らないなら命の危険が例年より多いと思う」
ケンキの質問に対して学生たちは身体を固くする。
特に一学年の者達は明確な命の危険を感じて震えてしまっている者もいた。
だが、それ以外の学年たちは身を固くする者もいたが、多くは平然としていた。
既に自分たちの学年でも命の危険を感じて退学した者も死んだ者もいる。
だからこそ、いつものことだと慣れてしまっていた。
「…………慣れているのか?だから許す?まぁ、良いや。予想は出来るけど答えを教えて」
「私たちは残る。それと悪いが、もう少し君の戦闘を見学して良いかね?勉強で来たんだが?」
「……勉強?座学は?徹夜で?」
「そうだが?良い経験になるだろうし、その辺りは配慮して教えようと考えている」
それなら良いかとケンキは頷いて背中を向く。
そして目にも止まらぬスピードで戦場に戻った。
「今のは……」
「どうしたんだ?メイ」
「あれ多分、風の魔術ね」
「「「「「は?」」」」
どういうことだとメイに視線が集まる。
あんな目に映らぬスピードで移動する魔法何て見たことも無い。
身体強化の魔法でも使ったのではないかと疑っていたがメイは風の真珠だと言う。
「どういうことだ?」
「ケンキ君の足下に風の魔術が発動されたのを確認したわ。もしかしたら風の魔術で自分の身体を飛ばして移動したのかもしれないわね」
自身に向けて魔術を発動するとか危険だとか、そんな発想があったのかと色々と言いたいことが有り過ぎて口に出来なくなる。
それでも、あれだけの距離を移動する技術だから風の魔術を使える者は後で教えて貰おうと決意していた。
「………さてと再開するか」
そしてケンキは手にしていた大剣を大地に突き刺して拳を構え始めた。
「何をしているんだ?」
ケンキが大剣を突き刺したのを見て見学したいる学生たちは首を傾げてしまう。
何故、武器を構えず拳を握るのか理解不能だ。
先程までは大剣を使っていたのに、何故拳にしたのか理由が分からない。
「………」
ケンキは三メートルはある虎の魔獣に一瞬で近づき裏拳を顔に当てる。
それだけで首から上の顔は引き千切られ死んでしまう。
次に巨大な蛇の胴体を掴む。
人どころか同じ巨体の魔獣すらも一呑み出来るだろう蛇の魔獣の胴体を紙を破るように引き千切る。
蛇の巨体さ故にあと少しで呑み込まれる寸前だった。
「ガァッ!!」
オオカミの魔獣が一斉に四方八方から襲い掛かる。
それに対してケンキは一匹だけ掴んで振り回して回転する。
それだけで魔獣はケンキに傷一つ加えることも出来なかった。
そして仲間である魔獣を武器にされ、脚を掴まれながら何度も何度も滅多撃ちにされてしまう。
最後にはケンキに掴まれていたオオカミの魔獣の腕が千切れてしまい飛んで行ってしまう。
「…………力を入れ過ぎたか?」
そんなことを言いながら近くに倒れていた魔獣を踏み殺す。
「ガァァ!!」
後ろから熊の魔獣が爪を振りかぶって来るがそれも避ける。
そして振り向き、拳を放つ。
それだけで魔獣の腹は抉れ、内臓は飛び出す。
当然、熊の魔獣は命を落とす。
そのままケンキは魔獣に対して拳を振るっていく。
拳を振るう、もしくは蹴る度に魔獣の命は散っていく。
百を超える魔獣が襲ってくる場に独りでいるのに圧倒的な強者はケンキだった。
ケンキはただ独りで魔獣を狩っていく。
あまりの圧倒的な実力に騎士も学生も教師も黙って見ている事しか出来ない。
それは幼馴染たちも同じだ。
むしろ、更に実力差が広がっていると悲しいような嬉しいような気持ちに襲われてしまっていた。
「…………こう!」
ケンキが掛け声と共に拳を振るうと目の前にいた魔獣と後ろに位置する魔獣が腹に穴をあけて倒れる。
拳だけで衝撃波を生み出し複数の魔獣を殺したようだ。
「………よし」
そしてケンキは手を手刀の形にして横に振る。
それだけで大剣で斬撃と飛ばしていたときと同じ結果を生み出す。
足刀に関しても同じだ。
何もない空間を蹴って衝撃波を生み出して魔獣を狩っていく。
「………やっぱり、こっちの方が好き」
衝撃波を生み出すのを止めてケンキは魔獣へと一瞬で近づき拳を思いきりぶつける。
その結果、バンという大きな音と共に魔獣は跡形も残さず弾け散ってしまう。
「……ようやく終わりが見えて来たな」
ケンキが魔獣全体を見渡すと十数体まで減ってしまっていた。
少しだけ惜しみながら最後まで拳でケンキは魔獣を狩った。
「なんだよ、あれ……」
ケンキの成したことに学生たちは怯えてしまっている。
自分では一生を懸けても出来ない芸当を見て心が折れてしまっていた。
衝撃波を生み出すのは、まだ良い。
自分たちの長である生徒会長も同じことが出来る。
だが魔獣を素手で引き千切ったりした姿には絶対に真似が出来ないと考えていた。
「あんな笑って魔獣を殺すなんて俺には無理だ……!」
ケンキ自身は自覚が無かったが魔獣を倒している間、ずっと笑っていた。
それも凄く楽しそうに。
その姿がまるで何故か人間相手でも変わらずに同じことをしそうだと恐怖を覚えさせてしまう。
「ケンキ君と同じように笑う必要はないよ。そもそも今回のこれは見学の為だろう。ケンキ君の怖さでは無く技術を学ぼう」
声が聞こえたのか注意してくる騎士の言葉に頷き学生たちはケンキの動きを眺めている。
足さばきや状況によっての構えの変化。
たしかに学ぶべきことが多い。
今のケンキと同じように拳で戦う者にとっては特に。
そして他にも近接で戦う者にとっては武器が違っても構えの意味から勉強になる。
逆にほとんど勉強にならないのが後衛職と分類される者たちだった。
彼らは自分たちの前で戦ってくれる者たちの補助や時間を稼いでくれている間に強力な魔法で攻撃する、自分を護ってくれる者がいることが前提のタイプだからケンキの動きは参考にしにくい。
「………参考にならないな」
ケンキの動きを参考にしている者達にとって、その言葉は聞き捨てならないものだった。
だれがそんなことを言ったのかと探すと直ぐに見つかった。
ケンキの動きに感動して参考にしようとしていた学生は文句を言おうと掴みかかろうとしている。
「………?もしかして君は魔術師かい?」
騎士たちにとっても聞き捨てならない言葉だったが、相手が学生であること。
そしてサバイバルに来た学生たちの中には魔術師もいることから努めて冷静に声を掛ける。
その質問に参考にならないと言った学生は首を縦に振って頷き、騎士たちもそれならしょうがないと納得する。
ケンキの今の戦い方は後衛がするものでは無いと理解していたからだ。
そして学生たちも騎士たちの納得した姿に文句を言うのを止めた。
言った本人が後衛の魔術師だと気付いたのもある。
「参考には出来ないが、凄いな。あんなの他に生徒会長しか出来るのを知らないぞ」
魔術師の学生の言葉に騎士たちは驚く。
ケンキの他に衝撃波を生み出せるのが学生にいたことに信じられないのだ。
王宮を護る騎士たちでも衝撃波を生み出す技量を持っている者は少ない。
「………君たちの学園の生徒会長も衝撃波を生み出せるのか?」
「えぇ?」
思わず確認で質問してしまった疑問に頷かれる騎士たち。
最近の若者は凄いなと現実逃避をしてしまう。
その姿に学生たちも騎士たちでも衝撃波を生み出す者は少ないのだと察してしまう。
「騎士たちの中でも衝撃波を生み出せる者は少ないんですか?」
「そうだ。俺たちも教えて貰って使えるようにしようとは思っているが、全員が感覚的な教え方すぎてな……」
生徒会長であるロングも衝撃波を生み出す方法を教えても感覚的過ぎて覚えられるものは少なかった。
そしてケンキも幼馴染に教える際は感覚的なモノだった。
衝撃波を生み出せる者は感覚的な説明しか出来ないのか謎だ。
「………どうして俺たちと年齢も変わらないのに、あんなに強いんだ」
ケンキを見ながら衝撃波を生み出す方法について頭を悩ませていたり、強さに感心する一方でケンキの実力に妬み嫉妬する者もいる。
ケンキとの差に、これが才能の差かと悔しく歯ぎしりをする。
「単純な努力の差だろう?」
ケンキの実力に嫉妬を漏らしたのを聞こえたロングは単純明快な答えを述べる。
ロングにとってケンキの実力は、かなりの努力をした結果だと思っている。
いくら才能があってもそれだけで負けるつもりは一切ない。
以前、ケンキと戦って負けたのはケンキ自身もかなりの努力をしているからだ。
「……俺の方が努力をしている!」
「本当にか?まだ誰も起きていない時間から剣を振るっているのか?走り回っているのか?最近になってケンキは一週間に最低一回は完全に休養日を作るようになったが最近まで毎日のように自分を鍛えていたぞ。その間、お前が努力をしていた姿は見たことが無いが?」
「それは……」
ケンキの努力の内容を聞いて不満を言っていた者たちは何も言えなくなる。
たしかに、そこまでの努力はしていない。
文句を言っていた学生の努力は学園の授業が終わって放課後に自己鍛錬をするぐらいだ。
それも夕食を食べる時間で終わる。
偶に夕食を食べてからも再開するが、それも偶にでしかなかった。
「何も言えないか……。お前が俺たちの実力に至るのは有り得なさそうだな」
何も言えなくなった学生にロングは失望した視線を向けてしまう。
言い返せるなら期待できた。
それが出来る者は今言った以上の努力をしていくからだ。
言い返さないなら、これ以上の努力をしないのだと想像ついてしまう。
「………っ」
ロングは何も言い返さない学生を置いて生徒会の仲間の元へと向かう。
そこでは騎士たちと仲良くケンキを見学していた。
「ロング。あなたならケンキ君と同じことが出来る?」
その質問に同じ学生の他に騎士たちも期待したような視線を向けられる。
取り敢えず、ケンキと同じことと聞いて何を示しているのか確認する。
剣を振るって衝撃波を生み出すことか?
それとも素手で生み出すことなのか?
どちらだと首を傾げる。
「あ、ごめん。今のケンキの様に素手で生み出すことだけど……」
「無理だ。剣を使うなら出来るが、素手でとなるとやったことも無い」
素手で衝撃波を生み出せるかと質問されてロングは首を横に振る。
どれだけ訓練しても出来る気もしない。
「そう。あ、そろそろ終わるみたいね」
その言葉にケンキの方を確認すると魔獣もあと十数体になっている。
それを確認してケンキは残った魔獣の頭を一体一体殴り飛ばしていった。
終わった頃には名残惜しそうな顔をして、こちらに戻ってきた。
「………忘れてた。騎士たちは魔獣の死体を焼いて食うか?」
「………そうですね。何体か手分けして、こちらのテントのある場所へ持っていきます。ケンキ君は休んでて良いですよ」
「………そう。明日……もう今日か。今日は訓練しない。血抜きで時間使って残りは自由時間。明日から鍛える」
「分かりました。他の騎士たちにも伝えておきます」
それに頷いてケンキは教師の元へと向かう。
「……答えを聞くの忘れていたけど魔獣の肉を喰いますか?」
ケンキの質問に、そういえば先程も聞かれていたなと思い出す教師達。
どうせだしとケンキの質問に頷いて答える。
肉を捌いて焼く方法を教える為にために何体か欲しいと願い、ケンキも頷いてくれた。
後は騎士たちにも手を貸して欲しいぐらいだ。
その頼みをするために教師は騎士たちの方へと向かう。
「すみませんが魔獣の死体を何体か運ぶのに手伝ってもらえませんか?」
「良いですよ。それじゃあ何人か協力させますので指示を出して上げてください」
特に悩むことなく協力することに頷いてくれた騎士たち。
教師達と一緒にケンキによって積み重なった魔獣の死体へと近づいて行く。
ケンキはそれを確認して自分が休むテントへと一人で戻っていった。
「……少し疲れた」
ケンキはテントの中で軽く息を吐いて横に倒れる。
何時もなら同じぐらいの時間、鍛えていても平気だったのに今はかなり疲れてしまっている。
やはり実戦と鍛錬は違うと実感する。
「………気持ち悪い」
返り血や汗で濡れてしまった服を着たまま倒れたせいで、冷たい感触と濡れた服の感触で不快な気分になってしまい直ぐに飛び起きる。
そして濡れた服を全て脱いで水の初級魔法を発動して自分に当てる。
威力も勢いも完全に無くすように改悪?した魔法で汗を洗い流して身体を拭く。
テントの中だから誰にも見られないと気を抜いていた。
「ケンキ君………!!?」
気を抜いていたからこそ、テントの中に急に入ってきた相手に対処できなかった。
入ってきた相手は騎士たちと一緒にいた中で特に年齢が近い女性。
つまりはメイだった。
数秒ほどケンキの身体を上から下までじっくりと見て顔を赤くし、逃げるようにテントから出て行った。
ケンキは見られている間、メイが逃げずにじっくりと見たことに動揺して隠すことすら忘れていた。
あんなにじっくりと見ていて恥ずかしがることも無いだろうにとも思っている。
「………まぁ、良いや」
メイに見られたことよりも汗を流すことを優先して身体を拭く。
完全に自分の股の間に有るモノを見られたが、悪いのは向こうだし過去は戻らないと諦めた。
そして新しい服に着替えて今度こそケンキは眠りに付いた。
近くにメイがいることには察してはいたが声を掛けるつもりはなかった。
「見ちゃった。見ちゃった。見ちゃった。見ちゃった。見ちゃった。見ちゃった。見ちゃった。見ちゃった。見ちゃった。見ちゃった。見ちゃった」
そしてメイはケンキのテントの近くで顔を赤くして何度も同じ言葉を繰り返し呟く。
あまりの形相にテントのある場所まで戻ってきた騎士たちは距離を取って心配している。
近づいて慰めないのは単純に不気味だからという理由だった。
「………えっと、どうしたの?」
それでも何時までも、こんな姿で置いておけないと声を掛けた者もいた。
背中を軽く叩いて自分の存在を認識させて何があったのか聞き出そうとする。
メイも最初は話したくないと首を横に振ったが、誰にも言わないという言葉と吐き出した方が楽になるという言葉に次第に話し始めていく。
「………実は」
そして先程のケンキの身体を見たことについて話し始めると女騎士はニヤニヤとし始める。
話を聞いてまず最初に思ったことはメイがエロいということだ。
「メイちゃんってエロいのね?」
「なっ!?」
女騎士のあまりの言い分にメイは否定しようとする。
どうしてエロいと言われてのかわからず、そして聞き流せる性分ではない。
「だってケンキ君の全裸をじっくりと見ていたんでしょ。普通ならじっくり見るんじゃなくて、見た瞬間ににテントから出るじゃない。それなのにねぇ」
女騎士の言葉にメイは言い返せずに黙ってしまう。
事実だから何も言い返すことが出来ない。
それでもケンキの身体なのだ。
メイよりも幼い年齢で大人の騎士たちより優れている肉体を持っているのだ。
興味を持って当然だろうと言い返そうとする。
「ケンキ君だよ!国のエリートである貴方たちより、あの年齢で優れているケンキ君の身体だよ!じっくり見たいに決まっていじゃない!」
メイの言葉に女騎士は、そして聞こえた騎士たちは色々な感情が混ざった複雑な表情を浮かべてしまう。
たしかにケンキはあの年齢で騎士たちより優れている。
どんな身体をしているのか一度見てみたいし触ってみたい気持ちは男女関係なくあり共感してしまう。
そして、自分達と比べて幼いのに優れているからこその嫉妬と悔しさの感情を抱いてしまう。
また男の身体を見たいと言うメイにエロさを感じたこと。
メイの言葉から研究者としての顔が見えてケンキを心配してしまう感情が出てくる。
それらが混ざりあって複雑な表情が浮かんでしまった。
「……そ、そう」
女騎士はメイの言葉を目の前で聞いて圧倒される。
力のこもった言葉に頷くことしかできない。
「それでメイちゃんはケンキ君のテントの前でどうしたの?」
話を変えようと女騎士は別の気になったことを確認する。
自らのテントの中では無く、ケンキのテントの前で顔を赤くしていた理由が気になる。
もし自分がだったら異性の裸を見て、当人のテントの前にいることは無理だ。
「………別に」
女騎士は詳しいことは何も聞いてないのに、それだけ理由を分かってしまった。
女の勘というものだろう。
そして、その理由にメイはエロいなと思ってしまう。
どうやらケンキと同じテント内で寝るつもりのようだ。
裸を見たことに気にしていないと言うアピールもあるのかもしれないが、若い男女が同じテントにいるだけで女騎士は楽しくなってきていた。
もしメイがケンキと同じテントで寝るのなら明日は思いきりメイをからかおうと心で決めていた。
どうせケンキをからかっても反応が薄いだろうからその分も含めて、からかうつもりだった。




