集合
日が傾き始めると学生たちは最初に山に入った入口へと集合した。
誰もが汗を掻いており息も荒くしている。
学生でこの場に居ないのはケンキだけだろう。
「………やっぱりケンキはいないか」
ユーガは幼馴染のケンキがいないことに残念がり、サリナも溜息を吐いてケンキがいないことに溜息を吐いていた。
「うん。やっぱり騎士たちの方にいるんだよね。できれば一緒にいたかったなぁ」
サリナの言葉に王族を含めた幼馴染全員は頷いていた。
その姿にユーガ達と一緒に走っていた者達全員が引き攣った顔で見ている。
ケンキへの想いに引いてしまう。
どれだけケンキに対して執着しているのかと。
正直、ケンキも問題はあるが幼馴染たちも正確に問題がある。
「まぁ俺たちは明日はケンキと訓練できるかもしれないがな」
「何?」
「忘れたのか?俺たちはそもそも学生じゃない。今回は視察に来ただけだ。どっちに参加しても問題は無い」
「は?兄様がケンキのところへ行ったら私が行けないじゃない。どちらも視察したという証拠を示さなきゃいけないのに」
ケンキの方へと参加すると聞いてユーガ達は羨ましそうにする。
どちらかは学生の方へ視察しないといけないと聞いてユーガ達は王族に対してざまぁ、と思う。
自分達のように片方だけでもケンキと訓練できないことが嬉しい。
「何を言っている?今日は俺たち二人とも学生の方へ参加していただろう?なら明日は二人で視察に行っても大丈夫な筈だ」
「「「あ」」」
ラーンの言葉にそう言えばと思い出す。
今日は二人の王族が共に学生たちのサバイバルに参加していた。
なら明日はケンキのいる騎士たちのサバイバルに参加することが出来る。
そのことに思い至り、次の瞬間ズルいズルいと叫びだす。
子供のようなやり取りに周りの者は白けた眼を向けているがユーガ達は自分たちに向けられている視線に気付いていない。
「うるさい!」
あまりの煩さに教師が騒いでいた全員の頭を殴り呻きさせる。
そこには王族も関係なかった。
「話をするから黙っていろ」
王族だろうと殴る姿に学生も護るべき騎士たちも思わず元の場所に戻った教師に尊敬の念を向けてしまう。
それらを無視して教師は話をするように総責任者の教師へと勧める。
「え~、ごほん。皆さん、特に一年生の皆さんは国の外の自然がいつもと違うことをある程度は知ったはずです。明日は予定通りに自然の中で食べられるものと食べられないものの勉強をして貰います。今日は疲れたでしょうから長い話は終わりにしてバーベキューをしましょう」
「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」」」
バーベキューと聞いて学生たちは歓喜の叫び声を上げる。
そして教師たちがすぐさま魔法を使って隠していたバーベキューの準備を終了させる。
後は火を点けて肉や野菜を焼くだけだ。
「………そういえばラーン達って王族だよな。良いもんばかりじゃないが食えるのか?」
「馬鹿かお前?」
ユーガの疑問に呆れたように返すラーン。
ハッキリ言ってユーガの言葉にブチギレてしまっている。
ユーガもラーンの言い方に不快になるが顔を見て口を閉ざしてしまった。
「王族だからと良いものばかりしか食ってないと思うのか?実際は野営もするからお前らと変わらない物も普通に食う」
どこまで御坊っちゃんだと思っているのかとユーガを睨み付ける。
ユーガもそれに対しバカにし過ぎたと頭を下げて謝る。
「すまん。王族だから過保護にされてると思ったんだ。悪気はない。少し、からかおうと思ったぐらいだ」
「そうか……」
王族だからという理由にラーンも、それ以上は言わない。
何だかんだで過保護に守られている自覚はある。
ケンキも何だかんだ言ってシーラはともかくラーンまでも他の騎士を相手にするときよりは優しくするようになった。
それでも他の教師達よりは手厳しいが。
「確かに俺たちは過保護に護られているかもしれないが、ちゃんと庶民の味や生活という物も実感として経験している。為政者として、この国に住む者たちの色んな生活を知る必要があるからな」
「そうだったのか。だが俺としては、それは過保護だとは思わないが?本当に過保護だったら庶民の生活とか野営とかさせないだろう?」
「そうか?後から知ったが隠れて護衛は付けられていたらしいぞ?」
「当時は知らなかったんだろう。なら気にしなくて良いと思うが……」
そんなものか?と思いながらラーンはユーガの言葉に頷く。
話も一段落すると肉の焼けた匂いが食欲を刺激してくる。
ユーガとラーンは互いに顔を見合わせて頷き焼けた匂いのする場所へと向かった。
お腹が減ってしょうがない。
「………そういえば綺麗な首飾りをしていますよね。それって何処のデザインなんですか?」
「これ?良いでしょう?ケンキに誕生日にアクセサリを造ってくれって頼んだらくれたのよ」
「は?」
シーラがケンキにアクセサリを造ってもらったと聞いてサリナは冷え切った声を出す。
気温は変わっていない筈なのに周りにいた者達は背筋が凍り震えてしまう。
「使っている材料も貴重な物だから、普段から身に着けられるわ」
「ちなみに俺も貰っているぞ」
ラーンも会話に入ってきたが妹に睨まれて黙る。
そして、どういうことかとサリナとシーラ以外が集まって、こそこそと話し合っている。
「どうやら、これは色々と付与されているらしくてな。腕輪にも出来るし、指輪にもできる。当然、シーラのやっているように首飾りにも出来る」
そう言って実際に色々と形を変えて見せて感嘆の声を上げる者達。
これをケンキが作ったのかと器用だと感心する。
「………あいつ、こんなのも造れたのか」
「俺も初めて貰った時は驚いた。本人は戦うことしか出来ないと嘯いているが意外と色々と役に立ってくれる」
「………ケンキみたいなのを天才っていうんだろうな。性格も含めて」
「全くだ」
二人の会話に同意して全員が溜息を吐く。
もう少し他人に興味を持って欲しい。
今のところケンキが関心を持っている者は二桁にも届かないんじゃと思っている。
「それにこのアクセサリはケンキが直接、魔法を込めてあるのよ。その効果はありとあらゆる精神に対する異常耐性や身体的な異常耐性をもたらすわ」
精神に対する異常と聞いて最近転校して殺された男を思い出し嫌な顔を浮かべる。
ケンキのお陰でユーガ達の周囲にいる者は被害を被らなかったが思い出したいことではない。
「それで、貴女たちは無事だったのね」
「運が良かっただけよ。これだと私たちも危険だったから急いで更に効果が高いモノを渡されたし。総合的に見れば、こっちの方が効果は高いしね」
どういうことかと首を傾げるのサリナに更にシーラは説明を続ける。
「そのままよ。あの男の魅了に対抗するためにそれに特化したモノらしくて、他の効果は付けなかったみたい」
自分も欲しかったたとサリナは羨ましがる。
あの時は洗脳されかかったのを直ぐに気付いてケンキの元へと相談してから王宮へと保護されたりレイナと一緒に鍛えられた。
レイナ以外の異世界人は元の世界に帰ったがレイナだけはこの世界に残っている。
「そういえばレイナさんは元気?王宮で働いているって聞いたけど」
ケンキの訓練を共に受けた縁もあって気になっていたから質問する。
「えぇ。私専属のメイドとして色々と鍛えられているわ。それに異世界の知識も有用だから大事にされているわよ」
大事にされていると聞いて安心するサリナ。
ずっと会ってなかったから心配だったのだ。
「良かった。また会いたいな」
「………そういえば何時も王宮の中で見かけるわね。偶には外に出かけさせた方が良いかしら?その場合はケンキか女性騎士を頼んだ方が良いわね」
「護衛でも付けるの?」
「そうよ。言ったでしょう。異世界の知識が有用だって。反映させれるかは置いといて護る価値はあるわ」
純粋に護るべきとい理由では無く知識が有用だから護るというあり方にサリナや話を聞いていた周りの者の多くは不満を抱く。
だが貴族や権力者の子供たちは深く納得する。
それに気付いてラーンは妹のフォローをする。
「一つ言っておくが俺たち王族が何の能力も無いのに大事に護っていたら、お前らは不満に思って色々と攻撃するぞ」
「そんなこと……」
「あるから言っている。その事は貴族も知っているし、教訓として教えられている。権力者は有用な者しか保護しないんじゃなくて、有用な者しか保護出来ないと覚えておけ」
ラーンの言葉に権力者の子供たちは何度も首を縦に振っていた。
その姿を見た権力者の子供の周りにいた者達はそうなのと聞いて頷かれていた。
「そこまで!」
重苦しい雰囲気に教師の一人が手を叩いて注目させる。
意識外の出来事だったせいで全員が注目した。
それを確認して話し始める。
「いつまでも話していないで飯を喰え!王族方も態々、重い話を食事中に話さないで下さい。そういうのは飯の時間以外にしてください!」
教師の叱りの言葉に素直にラーン達は謝罪する。
たしかに飯の時間にする話では無かった。
もう少し考えてから話すべきだったと反省している。
「あ……やべ!これ焦げている!」
「これもだ!」
「野菜も炭になっちゃっているわよ!」
話に集中してしまったせいか焼いていた食材が食えなくなる。
炭となった食材を見て嘆くが量自体は焼き始めた物ばかりだから全体から見て少なくて助かっていた。
「まだまだ量はあるけど話に集中して次は焦がすことはするなよ!」
「「「「「はい!」」」」」」
目の前で焦がしてしまった美味しいはずの料理を見て真摯に学生たちは頷いた。
これ以上、料理を無駄にするのは勿体無い。
会話をするよりも美味しく食べる方に意識を向け始めた。
「ちょっと肉ばかり取らないでよ!私たちも食べられないじゃん!」
「まだ焼けてないだろ。もう少し時間を置いてから取った方が良いんじゃないか?」
「あ、これ美味しい」
学生たちは思い思いに肉を焼き美味しそうに食べる。
教師たちもその姿に安心しながら食べ始める。
先程の様に会話に集中しすぎて食べることを忘れていないのを確認する必要があった。
「………それにしても明日から何人ぐらい騎士のサバイバルに学生たちが参加するんでしたっけ?」
「確か二十名ぐらいかな」
「多いな。いや、少ないか?」
「学園の生徒全体から見れば少ないと思いますよ。騎士になりたい者の中でも優秀な者に声を掛けて参加すると答えた人数ですからね。単純に計算して学年ごとに二人から三人ぐらいしか参加していませんし」
たしかにと、その言葉に頷く。
取り敢えずは騎士たちに大丈夫かと確認して決定することに決めた。
「それにしてもケンキ君様々ですね。多分、彼がいなかったら騎士たちのサバイバルに参加させてもらえなかったでしょうね。多分、関わることも無かったんじゃないですかね」
「全くだ。もしかしたら来年以降もケンキ君が学園に在籍している限り参加できるかもしれないな」
「そうですね。ケンキ君が在籍している間にこれが当たり前になるように努力していきたいですね」
「それだ!」
その為に肉を焼きながら酒を飲んで会話に熱中する教師達。
先程の学生たちとほとんど変わらないどころか酒を飲んでいる為に悪化している。
だが誰も止める者はいない。
「………あの先生たちが酒を飲んでいるけど止めなくて大丈夫なんですか?明日は、どちらかというと座学ですよね?」
明日の勉強は出来るのかと心配してしまう一年に先輩は大丈夫だと答える。
「気にしなくて大丈夫。本当に酔わないように先生たちは手加減して飲んでいるから。毎年毎年、俺たちとサバイバルをしているのは伊達じゃないよ」
先輩の大丈夫という言葉に本当かと酒を飲んでいる先生たちを見る。
手加減して飲んでいると言うがぐびぐびと飲んでいるようにしか見えない。
本当に大丈夫かと心配してしまう。
「ほら、お前も先生のことを気にしなくて良いから肉を喰え、肉を。今日で最後の美味い飯かもしれないからな」
「「「「「!?」」」」
「もう。そういうことを言ったらダメじゃない。毎年死者や戦えなくなる子がいるのに」
「それもそうだな。俺たちもだが、お前らもちゃんと生き残れるように頑張れよ。三日目からは先生たちの言っていたように本気のサバイバルだからな」
先輩たちの忠告に嘘を感じられないからこそ口元が引き攣ってしまう。
そして自分達より圧倒的に上である先輩たちも命の危険があると知って一学年たちは怯え震えてしまった。
「………全員、集合したか」
ところ変わってケンキの前に騎士たちが集まり整列する。
学生たちと違って注意されずとも話をせずに黙ってケンキの言葉を待っている。
「………全員、そこにあるテントの中に食材を入れておけ。その後に夕食を思い思いにとって今日は休め」
「「「「「ハイ!」」」」」
ケンキの指示に従って騎士たちはテントの中に食材を入れていく。
既にケンキは入れていた為に夕食を食べるためにその場から離れようとしていた。
「あれ?ケンキ君はどこに行くんですか?」
ケンキが離れて行くのを見て騎士の一人が声を掛ける。
王族の方へ行くんだろうと思っていたが本人によって否定される。
「……違う。夕食を狩りに行くだけ」
ケンキの言葉に騎士は首を傾げてしまう。
夕食を食べるなら採ってきた食材を喰えば良いと思うのにどういうことか疑問を覚えてしまう。
そのために食材を集めたのに食べないのがおかしい。
「どういうことですか?」
疑問を覚えた騎士にケンキは説明する。
「………肉が食いたい。だから魔獣を狩って切って焼く」
「………なるほど」
ケンキの言い分に納得してしまう騎士。
たしかにケンキや騎士たちが採ってきた食材は野菜が殆んどだ。
肉などは保存する方法が今は無いために狩ってきた者はいない。
だが確かに、その場で狩って食うのなら問題は無い。
「俺も食わして良いか?」
「……量に文句を言わないなら問題ない」
「言わない言わない。ケンキ君のおこぼれに頂く形になりそうだし」
どういうことだとケンキは疑問に思うが何も言わないで受け入れる。
正直、自分が肉を喰えればどうでも良かった。
「二人して何を話しているんだ?」
「先輩!?」
そんな騎士に一人の先輩が肩を組んで話に加わって来る。
言葉通りに気になって話に入ってきたのだろう。
食料を手にしてなかったのも一因だ。
「実は今から魔獣を狩って肉を喰おうかという話になっていて。先輩も参加しますか?」
「マジで!?いや、そうか。その場で肉を焼いて食うなら保存の心配も無いもんな。誰も考えたことは無かったんじゃないか?」
ケンキの眼替えに度肝を抜かれたように先輩騎士は驚く。
今までもサバイバルをしたことはあるが肉を食ったことは無かった。
保存の問題もあって考えたこともなかった。
「何だ?どうしたんだ?そんなに騒いで?」
一人の騎士が騒いだせいで他の騎士たちも集まって来る。
そして魔獣を狩って肉を焼いて食べると聞いてざわつきが生じる。
「………確かに肉を狩っても保存できないから今まで狩ることは無かったが、その日のうちに食べるなら問題ないな。何で今まで誰も考えなかったんだ?」
「………余裕が無いから」
「え?」
「………サバイバルや訓練で肉を狩って調理する手間が面倒だったんだろう」
思い浮かんだ疑問にケンキが答えてくれて、これまでを思い出すと確かにと頷いてしまう。
毎日毎日、体力の限界まで絞られて魔獣を狩って食べる余裕なんて有りはしない。
「………それじゃあ俺は魔獣を狩って来るから」
「待ってくれ!」
ケンキが騎士たちが納得したと感じて肉を狩ろうと、その場から去ろうとするとまた止められた。
その事に不快になりがらも立ち止まり視線を騎士たちに向ける。
「俺たちも参加させてくれ!」
騎士の言葉にケンキは首を傾げてしまう。
折角、食料を採ってきたのに、それではなく肉を食うと決断したことに。
そんなに肉が食いたいのかと呆れてしまう。
「俺たちも肉を喰いたい!だから協力させてくれ!」
肉を喰いたいと正直に叫ぶ騎士にそれに頷く騎士たち。
それを見てケンキは溜息を吐いて首を横に振る。
そのことに何でだ!?とショックを受ける騎士。
「…………一人で魔獣を狩って来るから、持ってくるたびに捌いて焼いて。俺の分もちゃんと残せよ。あと明日に影響が無いように考えること」
「は?」
その言葉を後にしてケンキは騎士たちの前から消え去る。
いつもの様に動きが見えなかったことだけではない。
魔獣を狩る協力を拒んだことに騎士たちはショックを受ける。
そして数分後、ウサギや蛇の魔獣を数匹ほど狩って持ってくる。
「………取り敢えず、これをお願い」
そしてまた魔獣を狩りに行くケンキ。
それを見て少ししてから言われた通りに捌いて焼き始めていく。
それを何度も繰り返していくと狩ってきた魔獣は数十体を超えてくる。
流石に多すぎじゃないかと騎士たちも顔を見合わせる。
「なぁ、これ以上は流石に多いよな……?」
「そうだな。残して血抜きをしても肉の匂いで魔獣が襲ってくるかもしれないしな」
魔獣の死体の匂いで他の生きている魔獣が襲ってくる可能性を想像して次にケンキが現れたら止めることで同意して頷き合う。
そして少ししてからケンキが戻ってきた。
「………もしかして多い?それとも少なかったか?」
ケンキは自分に対して視線を向けてくるのに狩ってきた魔獣に対して文句があるのだろうと質問する。
騎士たちもケンキが質問してきたことで丁度良いと頷く。
「もう十分と足りているから必要ない。結構な肉の量も焼けているから食べてくれませんか?」
騎士たちの好意にケンキは頷き焼けた肉の方へと近づいて行く。
そして手に取った皿の上に肉を次々と乗せていった。
「それにしても多くの種類の魔獣を狩って来てますね。こんなに種類がいましたっけ」
「……いた。単純に獣として襲ってくる以外に魔法や幻術を使う魔獣もいたから明日から気を付けた方が良い」
「………去年も来ましたが、そんな魔獣はいませんでしたよ?」
「……俺も去年も来ていたし、そういう魔獣もいたが?」
「え?」
ケンキの言葉に騎士たちは顔を見合わせる。
少なくとも騎士たちは聞いたことも無い。
山の中を過ぎて別の場所で魔獣を狩ったんじゃないかと予想してしまう。
「本当に山の中で狩ったんですか?」
騎士の質問にコクリとケンキは頷いた。
「………まぁ、今は良いです。明日に備えて沢山食べましょう!」
ケンキの勘違いだと判断して騎士たちは肉を食べることにする。
今までもこの山で魔獣を狩ってきたのだ。
ケンキの言う厄介そうな魔獣は今まで相手をしたことない経験からの判断だった。
「………そんなものかな?」
そんな騎士たちを見てケンキは首を傾げながら肉を食う。
ケンキ当人としては山を越えた自覚は一切ない。
むしろしっかりと確認して超えていなかったはずだと考えている。
「そういえばケンキ君。魔術や幻術を使ってくる魔獣がいたって言う話だけど、どんな魔獣だった?」
山を越えた先の魔獣を狩ってきたと騎士は思っているが情報は得たいとケンキに質問していく。
魔術を使える魔獣は少ないが、いずれも強力だからこその情報が知りたいのだ。
「………魔術を使うのは認識した途端にそれを使ってくるから分かっただけ。姿は色々」
「………そうか」
やっぱり山を越えているんじゃないかと騎士たちは話を聞いて思ってしまう。
この山で魔術を使ってくる魔獣はいないし、いたとしても複数もいないはずだ。
「………そういえばメイに聞きたいことがあったんだった」
「待て」
こちらの話を切り上げてメイの元へと行こうとするケンキに騎士たちは肩を掴んで止める。
こちらが聞きたいことを全く話してくれない。
「………悪いけど魔獣について詳しい情報は語れない」
何でと叫びたい騎士たちは、その前にケンキに理由を語られて口をつぐんでしまう。
「……魔術を使った直後に殺していたからな。最初に使われたのは覚えているけど。逆に言えば、それしか知らない」
「それだけでも良いから教えてくれ!」
ケンキの言葉に騎士たちは頼む。
いくらでも情報は欲しいのだ。
少なくても全く構いやしない。
その事をケンキに告げて漸く教え始めていた。
「…………これは……です。俺の狩ってきた魔獣はこれで全部終わりました」
「そうか。ありがとう」
肉を喰いながらの説明にようやく一息付くとケンキに一人の女性が近づいてくる。
「……わっ!」
「何?」
後ろから声を掛けて驚かせようとした女性は全く驚かなかったケンキに不満を持つ。
「どうして驚かなかったのよ?」
「……普通に気付く。それで何の用?」
答えになってない返しにメイは溜息を吐いて、ケンキの質問に答える。
「いやケンキ君、私に用があったんじゃないの?魔獣のことを聞かれる前に私を探していたって聞いたけど」
「……………あぁ~。忘れてた」
忘れていたことに少しの苛立ちと直前まで説明していたことを思い出して耐える。
「……魔獣って分類別けができるのか?」
「?」
どういうことだと首を傾げるメイに更に説明を続ける。
「………例えば狐の魔獣は幻術を使うタイプが多いとか熊の魔獣は広範囲を攻撃する魔獣を使うとか」
メイも近くで聞いていた騎士もケンキの質問にそういえばと思い出す。
そう言うのは聞いたことが無い。
「………先入観を与えないためかもしれないが、これまでの経験で狐の魔獣は幻術を使うことが多いだか」
ケンキの言葉にそう言えばと狐だけでなくオオカミや蝙蝠、イノシシなど今まで戦ってきた魔獣で魔術を使えるのは姿形ごとに似ている。
そのことに、これは発見だとざわつき始める。
「……そういう分類別けとかは無いの?」
騎士たちの反応に答えは予想しているが、それでも確認の為に質問しているケンキにメイは答えない。
興奮している為にだ。
自分もそんな分類別けなんて聞いたことも無い。
「………ないわよ。聞いたことないわよ!取り敢えず今、現存する魔獣の分類別け手伝ってくれない!?」
顔が近く興奮した様子での協力の申請にケンキは思わず頷いてしまう。
先入観を防ぐため敢えて作っていないのだという可能性を考慮して否定されたら、あっさりと捨てるつもりだ。
「それじゃあ早速……!」
ケンキの腕を引いて王宮に戻ろうとするメイだがケンキはピクリとも動かない。
意地でも動かそうと顔を赤くして力を入れている。
何でケンキは動かないのか?年上の彼女をからかっているのか?と騎士たちは楽しそうに見ている。
「………キャッ」
そしてケンキが逆に腕を引っ張るとメイはケンキの上に倒れこむ。
騎士たちはおぉーと感嘆し、遠くから見ていて女性たちはキャーと叫ぶ。
「……悪いけどサバイバルが終わるまで後回しにする」
「………はい」
((((((ちょろい……))))))
抱きしめられる形になって見上げた顔は赤くなっていてメイはその場にいた騎士たちに同じ感想を持たれれしまう。
そのままケンキは食事を再開し、メイも食っていないことに気付いてあーんをする。
その姿にまた騎士たちは感嘆の声を上げる。
もう、このまま見てていても飽きないぐらいだ。
「………お前たちは食わないのか?」
ケンキの疑問に何を言っているんだと思ったが騎士たちは直ぐに自分たちの事だと気付いて肉を食べるのを再開する。
そのことで漸くケンキは騎士たちの視線を向けるのは止めてメイにも肉や野菜をあーんして食べさせてあげる。
偶に視線を送られるのはずっとでは無い為に無視していた。
「………そういえば」
ケンキが思い出したかのように口にするのを騎士たちは食べながらも集中して聞く。
何を言われるのか予想できないからこそ気になってしまっていた。
「ラーンとシーラの護衛に隠れている騎士たちもるか、こちらに集中しても大丈夫だ」
「あぁ~」
「当然と言えば当然か」
「いない方が可笑しいよね」
王族がサバイバルに参加すると聞いて心配していたが隠れて護衛がいるのなら安心できる。
食料を採っている最中にも気になってしまって集中できないでいた時もあった。
「………くわぁ。眠くなって来たし俺はテントに戻って寝る」
「え?」
顔を赤くしてメイはケンキの言葉に反応し騎士たちも顔を赤くして言葉を告げないでいる。
今もメイはケンキに抱きしめられたままでまさか、と想像してしまったせいだ。
「………それじゃあ、また明日」
だがケンキはメイを放して自分のテントへと向かう。
その姿に騎士たちはホッと安心し、メイは少し残念そうに溜息を吐いた。
そしてメイは女騎士たちに連れられ囲まれてしまっている。
「なぁ、ケンキ君てメイさんのことが好きなのかな?」
「さぁな。そうだとしても昔から知っている子供が恋人を作る年齢になるなんて時間の流れを感じるなぁ」
「ですね。そういえばケンキ君に美少女が抱きついても嫉妬の気持ちを微塵も湧かないのは何ででしょうね?」
「ケンキ君が子供にしか見えないからな。いや、実際にそうなんだが。背の小ささもあってショタコンにしか見えないからだろ」
「なるほど」
思わず納得してしまった騎士たち。
会話していた騎士たちだけでなく周りにいた者も深く頷いていた。
会話が聞こえていたメイは誰がショタコンだと騒いでいた。




