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ケンキの部屋からユーガ達が出て時間が経ち、サバイバルをするための場所へと行くための馬車が集まる場へ生徒たち全員が集まる。
このイベントでは一学年から七学年まで生徒全員が参加する。
それでも参加しない者がいる場合、それは家庭の事情などで参加できない者ぐらいだ。
「今年もサバイバルで演習する場所はピース山かな」
「去年までは、そうだったし今年もそうじゃない。あんな比較的安全な国外でサバイバル出来るなんてラッキーよね」
「全くだ。家族に聞いたら、やっぱり使うにはかなりの金額を使うって聞いたし、やっぱりこの学園は色々と凄いな」
二学年以上の先輩たちが自分たちの通っている学園の凄まじさに呆れてしまっている。
今挙げたピース山は国の外は基本的に何処も魔獣によって危険なのに、かなり強力な魔獣も何故か出現しにくく野良で食べられるものも多い国どころか世界でも最も比較的な地だ。
だから色々なことに使いたいと言う声も多く使わせてくれてと注文も多い。
国を護る騎士たちは当然として優先的に使えるが学園の生徒たちは普通は後回しにされるか拒否されるはずだ。
「え……?先生たちには何処でサバイバルをするか内緒にされたんですけどピース山でサバイバルをするんですか?」
そんなことを話していたら一学年の後輩に聞かれていたらしく先輩たちは頷く。
後輩たちに話を聞かれて入ってきたことに驚くが自分達も同じことをしていただろうから不快には思わない。
「そうなんですか。もしかして騎士たちも?」
「は?いや、そんなことは無いが。たしかに騎士たちも大勢いるが学園には関係ないんじゃないか?」
「………そうかな?もしかしたら学園のサバイバルと演習が被ったから、その説明でいるんじゃない?」
その言葉に有り得ると頷く者が多くいる。
そんな中、一人の学生と騎士と教師達が学生たちの前に出る。
普段なら教師たちが前に出るだけで半紙を聞くために静かになる生徒たちがざわついてしまう。
「皆、静かにしろ。これよりサバイバル前の説明を始める」
教師が注意するが、それでもざわつきが治まらない。
なかには何であの子が前にいるんだと言う声が聞こえてくる。
ケンキはそれが自分だと理解して不満はなく、どうでも良いと思っている。
思っているが認めさせるために殺気を放つ。
「「「「「「「あっ………」」」」」」」
その瞬間、学生も教師も騎士もケンキの周囲にいた者は全て立ち上がれなくなる。
殆んどの者はケンキに対して怯えの視線を向けて、ごく少数の者はケンキに対して何をするんだと睨みつけている。
ごく少数の者を確認してからケンキは愉しそうに嗤い、殺気を解いてしまう。
急に頭を叩かれたからだ。
「………騎士だけと聞いたんだが?」
「別に良いでしょう?私が何をしていたって」
メイが急に表れケンキの頭を叩く。
急に表れたことに対してケンキ以外の全員が非常に驚く。
気配も何も感じなかった。
「はぁ。それで何で殺気なんて出したんだい?」
「………俺が騎士たちを鍛えるから、それで不満を持たれないように納得させるため。………現に何人かは納得したみたいだし」
「私からすれば屈服させたようにしか見えないけど?」
メイはケンキの言葉に溜息を吐く。
幼馴染たち以外で特に仲が良いからと王様に頼まれてケンキのフォローに来たのは間違いないらしい。
ケンキのやっていることは完全に上から押さえつけている。
たしかに手っ取り早いが、それだと後々問題になるからもう少し穏便にやって欲しいのだ。
「………それが?」
「力尽くで従わせるのは止めて。反感を持って従わなかったら、どうするんだ?」
「………死ぬ?」
「結果のことは言ってない!」
ケンキとメイが思ったよりも仲が良い事に微笑ましく見る者、嫉妬する者、尊いと仰ぎ見る者と色々な感情が二人に向けられている。
以前、それでケンキに嫉妬して攻撃し反撃されて死にかけた者達の多くは尊いと仰ぎ見ているのが殆んどだ。
「………さっきも言ったけど俺が騎士たちと学生で騎士の演習に参加する希望者を鍛える。……文句を言っても良いけど従え」
「だから!はぁ……」
ケンキに対してメイは文句を言おうとしたが途中で諦める。
どうせ何を言っても文句は出るのだ。
それなら最初から実力差を理解させるのは良い手だ。
「………俺の指示か近くにいる騎士たちにちゃんと従えよ。学生は実力が低いから死ぬぞ」
「もう……。ケンキ君の言っていることは本当だから。騎士たちの演習に参加したら近くにいる騎士たちにちゃんと確認しなさいよ」
ケンキはそれだけを言って学生たちの前から離れメイはそんなケンキにフォローを入れて後を追う。
そんな二人に溜息を吐いたり白けた眼を向ける者も多くいた。
「はぁ。……ぐだぐだになっていたが、これから予定を説明するのでちゃんと聞くように」
そしてケンキ達が学生たちの前から離れると教師達が説明の為に前に出る。
最初は説明しようとしたらケンキが殺気を出したために、かなり移動する前からかなり疲れてしまっている。
「まずはこれからサバイバルする場所へと馬車に乗って移動する。場所はピース山だ」
行き先を告げた途端に一学年の生徒たちからは歓声が上がる。
殺気を飛ばされたせいでの疲労もこれだけで忘れてしまいそうになっている。
そして、その他の学生や教師たちも馬車に乗っている間に回復するだろうと予想している。
「まず一日目はサバイバル地での走り込みをしてもらう。一学年や上の学年の者達と一緒に走ってもらう。何かあったら先輩に頼るように。先輩たちは頼られたらちゃんと助けるように」
最後の先輩のところだけ語気を強くして学生たちは背筋をしっかりさせて頷く。
教師の脅しとも思える気迫にビビってしまっていた。
「一学年は自然の山がどのような場所になっているから、ちゃんと理解しながら走るように」
また一学年たちも教師の強い言葉に頷く。
「よろしい。二日目からは希望者は騎士の演習に参加してもらう」
「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」
騎士の演習に参加できると聞いて学生たちは学年問わずに歓声を上げる。
国の中でも特に強い騎士たちの訓練に参加できると聞いて誰しもが自分も参加したいと手を上げる。
「悪いが、これに参加できるのは既に騎士になりたいと意思を示してして実力も私たちの目から見てある者たちだけだ。参加したくても全員が参加出来るわけでは無いからな」
「「「「「「えぇー」」」」」」
教師の条件に学生たちが思わず不満を口に出してしまう。
それらの言いたいことは解るが教師たちは無視をして説明を続けていく。
「二日目からは食べられるものと食べられないものについての勉強と基本的な調理方法の仕方を覚えてもらう。特に一学年は来年もやる予定なので、ちゃんと覚えておくように」
教師の言葉に一学年より上の先輩たちは全員が頷いている。
それで教師の言っていることは本当だと一学年たちは気合を引き締める。
「三日目から七日目まではガチでサバイバルをしてもらいます。パーティを組んでも良いですし、一人で過ごしても良いです。流石に死にそうになったら出来る限り助けますが、毎年間に合わないこともありますので気を引き締めてくださいね」
死者が出ると聞いて一学年たちは先輩たちに視線を向け、先輩たちは目を逸らす。
実際は死者が出ない年も多いが怪我で激しい運動が出来なくなって退学した生徒たちは結構出る。
「一応言っておくが、この学園のイベントで死者が出ても事故で済むことになるのは入学した時に同意書で承諾されているからな。これからも学園のイベントで死者が出るのは多いし、ちゃんと死なないように必死に鍛えろよ」
学園の先輩たちは深く頷き、卒業生で騎士になった者たちは久しぶりに聞いた台詞に懐かしそうにする。
そして一学年たちは、あれは本気だったのかと慄いてしまう。
少なくとも入学する当人としては冗談だろうと考えていた。
だが実際は本気だったと知って絶望している者も少数ながらいる。
「それじゃあ、学年ごとに馬車に乗ってくれ」
最後に馬車に乗れと言う指示を出して教師たちはそれぞれ馬車に乗り始めた。
学生たちも次々に馬車へと乗っていく。
そして複数ある教師の馬車が一台走ってから学生たちの乗っている馬車も走り始め、最後に残った教師たちの馬車が走った。
その馬車にはケンキ達も乗っていた。
「それにしても久しぶりだね。ケンキ君とは知り合いだったの?」
「つい最近、知り合うようになって。先生たちもお久しぶりです」
ケンキと一緒の馬車に乗っているのは四人。
騎士とメイ、そして教師の二人だ。
「そうなんだ。メイちゃんは飛び級で、この学園を卒業したから在校生たちや入学してきた生徒たちは君に憧れている者が多いからな。ケンキ君も知り合えてラッキーじゃないか?」
「なるほど。最近ケンキ君の近くにはメイさんがいるけど、ケンキ君から近寄っていたのか?」
「……え?」
騎士の言葉に嬉しそうにするメイ。
そしてメイの反応に教師たちは楽しそうに顔をニヤケさせる。
「………メイが人気なのは知っている。自覚は無いが俺から近寄っているなら、そうじゃないか」
ケンキは馬車の外を眺めながら答えを返す。
一緒にいた者達はこっちを向いて話せと思うが何も言わない。
馬車に乗ってから最初からずっと窓の外を見ているのだ。
その間、一切窓の外から目を逸らしていない。
かなり馬車に弱いのだと予想出来てしまう。
「………ケンキ君が私が人気なのを知っているんだ?調べたのかい?」
だからこそメイはここで色々と質問しようとする。。
他にも人がいるから恥ずかしいことは聞けないが質問すれば弱っているから正直に話してくれると考えている。
何時もは確証が無い限り誤魔化したりすることの多いケンキに他にも質問して推測だけでも聞こうとする。
「……俺はお前のファンに命を狙われた。いくらかは俺の強さに崇拝を向けてきた奴もいるけど、未だ嫉妬で命を狙われている」
「ごめんなさい」
「は?」
ケンキのメイが人気だと知っている理由にそういえばとメイは頭を下げて謝罪し、命を狙われたと聞いて教師と騎士は問い質すようにケンキに視線を向ける。
だがケンキは馬車の外の風景に集中している為に気付かない。
「………聞いていないんだが」
「………全員に教えていないからな」
ケンキの言葉に教えてくれと叫ぶ教官たち。
騎士もケンキに対して報告はするべきじゃないかと冷たい視線を送る。
「あれ騎士たちはともかく教師たちも知らないの?」
「……知っているのは一部の教師だけ。バカバカしくて全員に教える気は無かったらしい」
「バカバカしいって……」
「………卒業生のファンたちが、卒業生と仲の良い男を殺そうとして返り討ちにあい崇拝したとか頭が可笑しくなる」
「そうだね」
思わず頷くメイ。
教師や騎士たちも深く頷いている。
たしかにこんなことは聞きたくもない。
「……ところで質問」
急に話を変えて来て今度は何だと教師や騎士たちは思う。
メイは何となくケンキに近づいて行く。
「……あとどのくらいで目的地に着く?」
声色から、かなり気持ち悪そうに質問してくるケンキにどうしようかと悩む教師達。
一旦、馬車を止めてケンキを休ませるか悩んでしまう。
まさかここまでケンキが馬車に弱いとは想像もしていなかった。
「ケンキ君。少し力を抜いて」
そんな中メイがケンキに更に近づいて指示を出す。
ケンキはメイの指示に素直に従って力を抜いて倒れそうになる。
その隙を狙ってメイはケンキを膝の上に乗せた。
膝枕だ。
ケンキは楽にしてくれると信じたら膝枕をされたことに驚く。
「………何をしている」
「起きているのが辛いなら寝れば良いじゃない?心配しなくてもちゃんと着いたら起こして上げるわよ」
ケンキは嫌そうな顔をする。
こんな場所で寝るとか信頼できる者がいたとしても考えられないのだ。
幼馴染たちがいても拒否をする。
「………私の膝枕がそんなに嫌?美少女の膝枕よ?喜びなさいよ」
嫌な顔をされてメイは女のプライドが傷付けられる。
これでもファンがいて親しい男には襲い掛かるのは知っている。
そんな自分の容姿は優れていると理解しているのに全く喜ばないケンキに不満を抱く。
「………だから何?」
嫌そうな顔をしながら膝枕をされて、されるがままに頭を撫でられているケンキに良い様だとメイは思う。
己自身の女のプライドを圧し折った男を無防備にして甘やかしているのが最高に楽しい。
特に屈辱的な顔を浮かべているのが見ていて気分が高揚する。
「………あのメイちゃんが」
「甘いな……」
「ケンキ君は本当にモテるな……」
教師たちの声は聞こえておらず、メイは満面の笑みでケンキの髪を解いている。
屈辱的な顔が少しずつ穏やかになっているのに満足げになる。
「…………うぅ」
「寝たら?別に誰も襲いに来ないわよ」
メイの言葉にケンキは白い眼を向ける。
その反応にメイも騎士や教師たちもどういうことだと焦り始めるが、それらを無視してケンキは目を瞑る。
流石にメイも寝ても良いと言ったがケンキの反応に問い質そうとする。
「………可能性があるだけ。低いから気にしなくて良い」
それだけを言ってケンキは詳しい話を聞こうとしても無視をして目を瞑る。
何だかんだと膝枕をされてから髪を解いている感触に意識が暗闇に沈んでいきそうになっていた。
そして抗えずにケンキは眠っていった。
「ケンキ君は本当に……!」
騎士はケンキのマイペースさに溜息を吐く。
相変わらず自分勝手に行動して詳しいことを話さない。
しかも独りで解決することも多い。
それが、どれだけ騎士のプライドを傷つけて来たか想像もしていないのだろう。
「その騎士殿?ケンキ君が可能性だけは襲われてると言っていたが大丈夫だと思いますか?」
教師たちは騎士にケンキの発言について質問する。
自分達よりも付き合いの長い騎士たちの方が詳しいと考えた為だ。
「大丈夫だと思います。可能性が低いと言っていましたから。それと俺の名前はダリードです。好きに呼んで構いませんよ」
「わかりました。それではダリードさんと呼ばせてもらいます。それで悪いですけど卒業した学生の教師として、そして在校生の教師として宮廷でのメイちゃんとケンキ君のことについて教えて貰って良いですか?」
「え?」
突然、自分の名前が呼ばれたことにメイは驚いてしまっている。
そして言われた内容を理解して恥ずかしくなって顔が赤くなる。
第三者からの視点で様子を語られるのは恥ずかしい。
断ってくれてとダリードを睨む。
「構いませんよ。ただメイさんについては噂でしか聞いていませんが、ケンキ君については結構な付き合いがありますので色々と教えてあげることが出来ますよ」
メイは自分の事については噂でしか聞いたことが無いと聞いて安心し、ケンキのことに関しては付き合いが長いからと残念に思う。
幸いなのはケンキが寝ていることで起きていたら、どんな反応をしていたのだろうと想像している。
「それにしてもメイさんがケンキ君に惚れているとは……。このことを広めたら、どうなることやら」
「はっ!?いきなり何を言っているのよ!」
だが騎士の言葉に顔を赤くして反応する。
「いや自分から膝枕をしといて何を言っているんだ?」
「うっ」
正論で返されてメイは何も言えなくなる。
そして自分たち以外がニヤニヤして見ていることに顔を赤くしてしまう。
「まさか、あのメイちゃんがね……」
「学生時代はモテていてファンクラブがあっても決して色事には興味を示さなかったメイちゃんがね……」
「……べ、別に違うわよ。確かに仲が良いとは思うけど、彼の能力に興味があっただけだし」
好きとかでは無くてケンキの実力に興味があるのだと教師たちに言い訳をするメイ。
それに対してダリードは更に質問する。
「能力があるからってケンキ君に毎日のように差し入れを渡しに行ったり、門限には帰るように注意しているのに?」
メイの甲斐甲斐しい行動に教師は更にニヤニヤする。
可愛らしいメイの行動に本当に変わったなと嬉しくもなっていた。
正直、将来メイは仕事が恋人になるんじゃないかと思っていたが卒業してから青春を送っていて微笑ましく感じていた。
「………そうすれば、ある程度の我儘を聞いてくれるのよ」
「へぇ、例えば?」
「魔法の画期的な使い方を教えてくれたり、どんな風に世界を見ているのか伝えてくれたり。色んな技術のコツを教えてくれたり」
ダリードは自分たちは口で説明せずに直接組手をして鍛えて貰っているのが、コツを教えて貰うのが本当に偶にしかないため羨ましいと感じている。
そのコツを教えて貰っていても言っている意味が理解できなくて意味が無くなってしまっている。
「………まぁ言っている意味が分からなくて全く同じことはできないんだけどね」
だから続けられたコツについての愚痴にダリードも思わず頷く。
天才だからか凡人には理解できないのだと諦めてしまっている者も多くいる。
「………そもそも感覚的なモノだから説明するのが難しい。本当に同じ感覚を持つ者はいないだろうし」
ケンキがメイの膝の上から起き上がる。
「……それに俺に才能は無い。魔法なんて初級しか使えないからな」
ケンキがそれを言うと馬車が止まる。
どうやら目的地に着いたようだ。
「……それでも俺は魔法だけでもお前らを殺せるだろうな」
勝てるではなく殺せるという言葉に騎士は溜息を吐き、教師は問題児に頭に手を当てて溜息を吐く。
そしてメイはブルりと震えていた。




