準備
「………対照的な夢を見たな」
過去にケンキが少しでも関り、被害者も加害者も全員が生きている事件と死んだ事件。
余りにも両極端で思い出すと笑ってしまう。
「ケンキ君が笑うなんて珍しい。良い夢でも見た?」
「確かにな」
長馴染みの声が部屋の中にいるのに聞こえて来てケンキは自分の部屋を見渡す。
そこには幼馴染だけでは無く、そのパーティメンバーと最近王族だと知ったラーンとシーラがいる。
どうやって鍵を閉めていたはずなのに入って来たのかと疑問に思ったが、考えるのも面倒臭くもう一度寝ようとベッドの中に潜り込む。
「おい、こら!二度寝をするな。今日からサバイバルだぞ!遅刻は罰則を受けるんだから起きろ!」
「その通りよ!いや流石に今の状況に追いつけなくて二度寝しようという気持ちは分かるけど起きなさい!」
ユーガとマイナの声にケンキは近くにあった時計を盗み見て、まだ大丈夫じゃないかと更に深く潜り込む。
「ほらケンキ、起きなさい。起きたら、そうね。……抱き枕になって上げるわよ」
「なっ!?」
「ほぉ……」
「えぇ!?」
「なぁ!?」
「きゃあ!?」
ユーガたちのパーティを含んだ絶叫とラーンの感心した声を聞きながらシーラの言葉を目覚めたばかりの頭で反芻しケンキはシーラをベッドに引きずりこむ。
ケンキの行動にシーラはあうあうと声にならない悲鳴を上げながらされるがままになっている。
(女の子って本当に柔らかくて良い匂いがするんだな)
知り合いから話半分に聞いていた内容を思い出しながらケンキは自国の王女をベッドの中で抱きしめている。
自分のしていることに寝ぼけて頭に考えが入らずにケンキはそのまま二度寝をしようとした。
「だから寝るな」
だがラーンがケンキに電撃を浴びせて強制的に眼を覚まさせる。
ハッキリ言ってケンキが義弟になるのは問題ないが寝惚けたのが決め手になるのは、妹はそれで満足なのかと不安になったのが原因だ。
「……何?」
「たしかに早いが着替えてサバイバルの準備をしろ。今年はお前らの学園と私たちの騎士の一部が一緒にサバイバルすることになったんだ。ついでにお前は講師側だ」
「「「「「はぁ!?」」」」」
ラーンの説明にケンキでは無くユーガ達のパーティメンバーが驚く。
ケンキはそれを聞いて面倒くさそうにしている。
それよりも、そろそろ予想は付くがどうやって部屋の中に入って来たのか確認したい。
「………そう。それで、どうやって部屋の中に入ってきたんだ。俺は男だから問題ないが女子だったら最悪だぞ。………この国の王子が女性の部屋に無断で侵入とか外聞が悪い」
「わかっている!……はぁ、お前の部屋に入れたのは権力を使って合鍵を貰ったからだ」
自覚して行動している分、質悪いと溜息を吐くケンキ。
ユーガ達やラーン達でなければ攻撃していた。
その所為で寮が壊れたり人死にが出たら問題になっていた。
「………お前らでなければ攻撃していたぞ。まず最初にユーガ達が目に入らなければ侵入者としてマイナたちに条件反射で殺していたかもしれないんだが」
ケンキの攻撃を思い出して納得してしまうユーガ達。
運が良かったと一息ついてしまう。
「悪いな。それで講師のことだが学園の教師や騎士たちと話し合う必要があるから急いで職員室に向かった方が良いぞ」
「………そういうのは事前に話し合うべきだと思うんだが。もしくは事前に伝えろ」
「急遽、騎士団の演習と学園のサバイバルが被ってしまったと聞いてな。俺がどうせなら騎士の演習も合同させようと考えたからな。それで騎士たちに教官役を誰にするか聞いたら全員一致でお前が良いと言ってな。後はサプライズだ。お前の驚く顔を見たかったからな」
「………そうか」
「悪いな。そっちの方が学園も騎士たちも価値のある訓練になりそうだと思ったからな。どうせだからと一緒にやらせようと決めたんだ」
心底迷惑そうな顔をしているケンキに流石にラーンも頭を下げて謝罪する。
驚かせるどころか好感度が下がった気がして冷や汗が流れてる。
「……事前に被っていることは分からなかったのか?」
「向こうで担当した相手は新人らしくてな。話を聞くと給料カットして、散々に怒られたらしい」
ケンキは学園のサバイバルと騎士の演習を合同でする理由を聞いて納得する。
その新人の所為で他にも日程をミスした部分があるのだろう。
講師として自分が駆り出されるのはケンキとしては納得できないが。
「………騎士たちも職員室にいるのか?」
「あぁ、既にいるぞ」
「……わかった」
ケンキは女子の目があるにも関わらず服を着替える。
下着一丁になって女子たちが悲鳴を上げたが、それでもしっかりとケンキの鍛えられた身体をジッと見ている。
ケンキも男性女性問わずに黙ってジッと視線を向けられているのは、わかっているが特に行動に支障なく着替え終わって部屋から出る。
向かうのは職員室だ。
「あ、待ってくれ!俺も一緒に職員室に行く」
その言葉を聞いてケンキはラーンが部屋から出るのを待つ。
何が目的があるのかは分からないが護りやすいようにラーンの斜め後ろに下がる。
ケンキの自然な行動にラーンは微妙な表情になる。
やはり年下との子供に護られるのは複雑な気分になってしまう。
自分より強いのはわかっているが男の意地だ。
現にシーラが同じようにされても複雑な感情を抱かず、むしろ嬉しそうにしていた。
「………はぁ、お前たちもケンキの部屋から出て集合時間にちゃんと来いよ」
「「「「あっ、はい!」」」」
ラーンの言葉にユーガ達は意識を取り戻したかのように声を上げて返事をした。
「ケンキの身体、凄かったわね………」
「………うん。傷だらけだけど凄く筋肉質だった」
「実際に触って見たかったです……」
「全くね……」
背は小さいが筋肉質なケンキの身体を見て女性陣は、ぼぅっとした表情で感想を言い合う。
誰もが二の腕や腹筋を触ってみたいと感想を言い合っている。
「なんだ、あの傷は……」
「また傷が増えているし……」
ケンキの身体つきと傷の多さに男性陣は感嘆する。
まさに身体が小さい分、筋肉を圧縮したような肉体に男でも触って硬さを確かめたいと思ってしまう。
特にパーティメンバーでタンクをしているナトは触って確かめたかった。
「………あれだけ強いのにケンキの身体は傷だらけなのか」
ケンキの実力をある程度知っているからこそのナトの発言の幼馴染以外は頷く。
あれだけ強ければ傷一つ付いていないと思っていたのに実際はすごく傷だらけだ。
昔は弱かったのかと思ってしまう。
「ケンキは強くなるために俺たちの邪魔が入らないところで無茶をしていたらしいからな。それは今も傷が増えているから変わらないみたいだが、どういう鍛え方をしているのかは興味があるな」
「うん……。いくら強くなるために必要だからと場合に寄っては止めるようにしたい」
幼馴染たちも内容は知らないと言い、ケンキが怪我をするほどの訓練に興味が湧くパーティメンバーたち。
どうやって尾行するか話し合うことにする。
「下手に後ろを追うとバレるからな。何か良い案は無いか?」
「……そうね。プロの人に任せて内容を聞くってのはどうかしら?」
「やめた方が良いわ。私たちなら知り合いだからと見逃して貰えるけど、知らない相手だったら容赦なく攻撃して色々な意味で人生を絶たれそう」
「……たしかにケンキ君なら、やりそう。絶対に尾行するほうが悪いって言って容赦なく攻撃するよね。そして一人は死者を出しそう」
「やめろ」
有り得る未来にケンキの部屋に集まった者達は目を泳がせる。
昔から他人に容赦が無い。
知り合いだったりしたら慈悲を与えてくれるが、赤の他人には冷たすぎる。
反撃でやり過ぎて殺してしまっても赤の他人の場合、良心がうずかないのだろう。
「……そういえば、ケンキって騎士たちを鍛えているのよね?どうやって鍛えているのよ?」
「実戦形式でケンキの攻撃を与える訓練ですね。時間はマチマチでケンキが反撃したら次の人に交代したり、騎士たち全員でケンキに挑んだりしています」
「騎士たち全員?」
「ええ。ちなみに一度もケンキに勝てた者はいませんね」
「………もしかして、この国で一番、強いのはケンキじゃないの?」
「そうですよ?」
何、当たり前の事を言っているんだという、この国の王女の発言に固まってしまう。
幼馴染も例外ではない。
「正直、なんで学園に通っているのか理解できないわ」
溜息を吐く王女。
たしかに学園に通わずに王宮に勤めていたほうが色々と発展していたかもしれない。
「権力を使って、無理やりにでも学園から引き取ろうかしら?それとも飛び級をさせる?」
七年もケンキを学園で自由にさせるのは勿体無い。
王宮で働かせた方が施設もやれることも増える。
「…………それだけはやめてください。私はまだ、ケンキ君と一緒に学園で過ごしたいです」
サリナはケンキが自分を置いて何処かに行ってしまうのに怯えてしまっている。
今、ここでケンキが学園を止めて王宮に行けば、もう会う機会も少なくなってしまうと確信したのもある。
「へぇ。悪いけど決めるのはケンキ自身よ。なんで学園に通っているのは知らないけど、何か利益があるのかもしれないしね」
そう言ってからシーラとサリナは睨み合う。
お互いに女の部分で敵だと認識したせいだ。
どうせ他にもいるが、互いに自分以外でケンキに一番近いのは彼女だとも考えていた。
「………修羅場ね」
「全くだな」
「………あはは」
そんな二人以外は一人を除いて部屋の片隅で二人を眺めている。
「ユーガは何をしているのよ?」
その一人であるユーガはケンキの部屋にあるベッドの下や本棚の中を調べたりしている。
まるでエロ本を探すかのような行動にマイナたちは呆れている。
「ケンキの部屋にあるエロ本を探している」
ユーガの発言に聞いた本人どころか睨み合っていた二人も含めて部屋に居る全員がユーガに視線を向ける。
「何だ?ケンキだぞ?あいつがどんなエロ本を持っているか興味が湧かないか?」
その言葉に全員が顔を見合わせて頷く。
ケンキの部屋を探してエロ本探しに熱中する。
あのケンキがどんな女性が好きなのか興味がある。
特にシーラとサリナの二人はケンキの好みに合わせようと必死だ。
「………おかしい。見つからないぞ」
「あっても不快だけど無かったら無いでケンキの場合、心配になるわね」
マイナの言葉に頷いてしまう面々。
恋愛とか性欲があるのか気になってしまう。
それら全てを強くなるために捨ててるような気がしてならない。
「くそっ!どこにある!」
男子としては女のいない場でエロイ話で盛り上がりたい。
女性の魅力的な部分とか語り合って仲を深めたいのだ。
「全然、見つからないわね……」
女性から見れば良い事だが、ケンキの好みの女性を知りたいとシーラとサリナからすれば不満だ。
互いの他の身近な男性。
シーラならラーン、サリナならユーガもエロ本を持っているのにケンキが持っていないのは不思議だ。
男性ならエロ本を持っているのが普通だと母親からも聞いている。
「………もしかしてケンキは不能なのかしら?」
「……何の話?というか何時まで俺の部屋にいる?さっさとお前らも自分の部屋に戻ってろよ」
「「「「「「うわぁぁぁぁ!!」」」」」
ユーガ達はエロ本探しに集中していたせいで後ろからケンキに声を掛けられて酷く驚いて悲鳴を上げてしまっていた。
少し時間を遡る。
「………遅れました」
ケンキとラーンが職員室に着くと中には騎士と教師たちが多くが集まっていた。
騎士は誰もが見覚えがあり本当に騎士と学園が合同で訓練するという話に実感が湧いてくる。
「いや問題は無い。君はサプライズで今日、話し合うのは知ったばかりなんだろう?少しぐらい遅れても文句は言わないさ」
一人の教師の言葉に全員が頷いており、頭を下げてケンキは感謝を示す。
そして念のため自分で最後かを確認する。
「そうだ。ケンキ君も座ってくれ」
頷いて適当な席に座ろうとするが二人ほど騎士たちが立ち上がりラーンはケンキの腕を掴んでその騎士たちが座った場所へと連れて行く。
騎士たちと教師たちとで席が分かれており、教師たちの席の真ん中には理事長や教頭がいる。
ケンキがラーンと一緒に座らせられた場所は丁度、対面になる位置だった。
「………何故ここ?」
「一番強く、教官役として私たちを鍛えるのは君なので」
それだけで詳しい話をするのに真ん中に座らせられるのは止めて欲しいとケンキは考える。
ラーンは当然のように、そこに座っていてケンキは流石王子だと思っている。
実際はケンキもほとんど無表情でいるために当然のように、そこに立っていると見られているのは気付いていない。
「………はぁ。質問。先生たちは騎士の演習の内容は知っている?」
「えぇ?どんな訓練をしているのか授業の一環として見学に行く場合もありますし」
そう言われるがケンキはこれまで騎士を鍛えている最中に学生の姿を見たことが無い。
本当かと騎士たちに視線を向けて確認する。
「学園の教師たちが言っていることは本当ですよ。ただ狙ってケンキ君に鍛えられている姿を見られないようにしていただけで」
ケンキはそれに何の意味があるんだと思い、学園の教師は納得する。
この国の騎士が子供に鍛えられているとか見られたら不安になってしまう。
騎士だからこそ護るべき民には、騎士は強いと示したかったのだろう。
「………まぁ、気にするな。それでケンキは何が聞きたいんだ」
ラーンが本題に戻しケンキも話を戻す。
「俺は学園でやっているサバイバルの内容を知らない。合同でやるなら、そちらの内容を教えて欲しい」
それでケンキは強いが未だ一学年であることを思い出す教師達。
サバイバルの内容を知っているわけがない。
「そうだった。このボードに内容を書くから、気になることがあるなら読み終わってから質問してくれ」
そう言って教師の一人がホワイトボードにサバイバルの内容を書く。
それらは新入りの騎士を始めて演習に連れて行くのと似たような内容だった。
それを読んでケンキは騎士たちに向いて質問する。
「………今回は新人の騎士を連れて行くんだっけか?」
「いえ新人は連れて行かず、既に騎士団に入団して二、三年以上経っている者だけを連れて行くつもりです」
今度はラーンの方を向いて確認する。
「……そう。確認だけど俺は教官役だったな?」
「あぁ、そうなるな。だから学園の方には参加できない」
学園の生徒であるケンキが参加しないことに、教師たちは少し不満だが騎士たちの演習の教官役だから何も言えない。
ただの学園の教師と騎士たちを鍛えている教官では後者の方が立場は腕だ。
先程から教官役と言っているが騎士たちからは尊敬の念を向けていることには気付いている。
「………新人を始めて連れて行くのと似通った部分が多い」
「………そういえば、そうですね」
「ふむ。初めの方は一緒に行動させて途中から騎士と学生で別れるか?生徒たちも希望者は騎士の方に参加させたりして」
「………よろしいのですか!?」
見学だけでなく生徒たちも参加できると聞いて教師たちは目を輝かせる。
やはり見るだけよりは実際に参加させる方が意義はあるのだ。
思いがけぬ幸運に諸手を上げて賛成する。
「ケンキ達も構わないな」
騎士もラーンもケンキに視線を向ける。
どうやら最終的な答えはケンキに任せるつもりらしい。
「……別に死んでしまっても責任を取らなくて良いなら構わない」
ケンキの言葉に全員が固まる。
特に学園の教師たちはケンキの言葉に酷く動揺している。
教官役なのに自分と同じ学園で学んでいる者を殺す気かと睨みつけている。
「………興味本位とか記念にとかで参加したら死ぬよ。本当に強くなりたかったり騎士になりたいものだけが参加して欲しい」
付け加えられたケンキの言葉に騎士も教師たちも考え込む。
たしかに騎士たちにとっては、そんな者達は邪魔だ。
教師たちも興味本位や記念として参加するのは確かに邪魔になってしまうと同意する。
希望者の中でも将来の目的が既に騎士として考えている者達のみにしようかと考えている者もいた。
「たしかにそうですね。では騎士になりたいと目標を持っている者だけにしましょう」
ケンキはそれに頷き、ラーンと騎士たちは微妙な表情を浮かべる。
ケンキの鍛え方は弱い者が参加すると死者が出てしまいそうになる。
騎士になりたいという目標があって真剣にやっても学生が相手だと不安だ。
「ケンキ。手加減して鍛えろよ」
「………騎士たちに文句がないなら通常より難易度を低くする」
「問題ありません。学生たちの為に手加減をお願いします」
騎士の言葉にケンキは頷く。
教師たちは何度も死者が出ると聞いて不安になり選択を間違えたかと後悔してしまいそうになっている。
「………そういえば俺は教官役だと聞いてはいるが最初から騎士たちの方へ行けば良いのか?」
「そうだね。それで構わない」
それだけを聞いてケンキは立ち上がる。
最初からケンキは学園のサバイバルから別行動をするのなら騎士たちの演習の予定を確認するだけで良い。
生徒たちも合同もどうするかも大体話終わったかと考えて部屋から出ようとする。
「大体の内容も決まったと思うので俺は部屋に戻って準備をします」
「あ、あぁ。わかった。遅れないようにな」
ケンキの自分勝手な行動に注意も出来ずに立ち去るのも見送ることしか、この場にいる者は出来なかった。
「あの子は宮廷でも似たようなことをしているのですか?」
「………否定はしない。色々と役立っているから何の処罰も無いけどな。それでも最近は注意してようやく矯正されてきたと思ってたのに」
「案外、急に呼び出されたのもあって準備が何一つ出来ていないのもあるのかもしれないですね」
騎士の一人が面白そうにそんなことを言ってきてラーンは有り得ると考えてしまう。
ただでさえ勝手に部屋の中に入ってから叩き起こし寝起きの頭で会話していたのだ。
機嫌が悪くてもしょうがないかもしれない。
「たしかに。ケンキの部屋に勝手に入って叩き起こしたからな。急に寝起きの頭で話し合うと聞いて頭が回ってなかったのかもしれないな」
「そういえば話し合うのを知らなかったのだったね。今度から話し合いに参加させるなら事前に伝えて上げてください」
例え、この国の王子だとしても教師として言うべきことは言わなければならないと注意する。
幸いにもラーンははい、と返事をして反省を素直にしてくれたようだ。
王子だからといって反論したり、注意した者に文句を言うことも無く安堵した。
「それじゃあ俺もケンキを追って部屋に戻ります」
ケンキの言うように演習についての内容の話は終わったのだ。
ラーンが部屋に戻ると聞いて教師も騎士も頷いた。
「えっと、その……」
ラーンがケンキの部屋の前に着くとシーラとユーガ達のパーティの皆がケンキの前で正座していた。
何があったんだと思わずバレないように隠れて見てしまう。
「……何で正座をしてる?俺は何をしているのか聞いているだけ」
ケンキが後ろか話しかけるとすぐ様にユーガ達はケンキの前で正座をし始める。
何をしていたのかは予想は付いているが正座をする理由が分からない。
それでも赤く人をしているのは考えがあっているか確認をするためだ。
「………エロ本でも探していたのか?」
「「「「「ぶっ!?」」」」
この場にいる全員が噴き出したのを確認して予想があっていたことにケンキは溜息を吐く。
当然、ラーンも近くで隠れていることを察し何をしているんだと呆れてしまう。
「……エロ本なんて俺は持っていない」
「「「はっ?」」」
「「「………」」」
男性陣はケンキの言葉に信じられないおうな表情をし、女性陣は当たり前だと言う表情をしている。
好みを知りたくて探していたシーラとサリナも残念さよりも安心した気持ちで心がいっぱいだ。
「なんでだ!?お前は男だろう!?エロ本を持っていておかしくないだろ!!?」
「そうだぞ!男なら持っていて当然だろう!?」
ケンキがエロ本を持っていないことに信じられないと叫ぶ二人の男子。
女子たちはそんな二人に冷めた視線を送ってしまう。
「………年齢制限で買えないのに何で持っているんだ?」
ケンキがエロ本を持っていない一番の理由は年齢制限があるからだ。
十八歳以上であることを示さないと買えない物なのに何で他の多くの男子は持っているのか内容を話し合ったり女子の目が無いところで見せあっているのか謎だ。
「年齢制限?」
「………エロイのはどこも十八歳以上じゃないと買えない」
それを聞いて女子たちも男子たちもエロ本を持っていない理由を察する。
そしてアホをみる目でケンキを見る。
そんな理由で買ってないのかと。
「まるで年齢制限が無かったら買っていたみたいなことを言うんだな」
「……年齢制限が無かったら買っていた」
ユーガの呆れたように言った言葉にケンキは肯定する。
肯定されたことで、そんな理由で買ってないのかと思わずため息が出る。
「何だお前も男だな。なら俺の部屋でエロ本でも読むか?」
「……興味はあるけど遠慮する。………いや読みたいな。でも自分の好きな時に読むとしたら迷惑が掛かるかもしれないし」
「あぁ~。別に気にしなくて良いぞ読み終わって、もう読む気のない本もあるし、それをやるよ。そうすれば好きな時に読めるだろう?」
「……ありがとう。サバイバル終わったら部屋に寄らせてもらう」
「そうか。約束だ」
男子二人がエロ本のことで手を取りあうが、当然女子たちは目の前で起きていることに表情が能面のようになる。
「二人とも……?」
「ひっ」
「……」
能面の様な笑顔を女子たちは二人に向け片方は酷く怯え、もう片方はどうでも良さそうに眺める。
自分たちが怒っている理由に片方は理解しているのにケンキが理解していないことに更に苛立ちが湧く。
「……男がエロ本を持っていないのはおかしいらしい。……それを話したら男色家だと誤解された。だから俺はエロ本が欲しい」
ケンキのエロ本が必要な理由を聞いて男性陣は目を逸らし、女性陣も微妙な顔をする。
男性陣は確かにエロ本を持っていない同性がいたら、そうからかうかもしれないと予想し、女性陣は同性愛者だと思われるのは確かに嫌だと考えて男性には必要かもしれないと考えてしまう。
それでも思い人が自分以外の裸の女性を見て興奮するのは嫌だが。
「………それよりもお前らは自分の準備は済んでいるのか?こんな朝から俺の部屋にいて」
「あぁ、大丈夫だぞ。全員準備が終わってからお前の部屋に来たからな」
ユーガの言葉に全員を見るが頷いている。
何で俺の部屋に来ているのか溜息を吐く。
「………なんで俺の部屋にいるんだ?」
「早く起きて準備も終わってしまって暇だからな。集合時間まで暇だから遊びにきた」
ユーガの言葉にケンキは冷たい目を向ける。
暇だから来るとは落ち着いていられないのかと思ってしまう。
それにまさかシャルやマイナ、ナトまで来るとは思わなかった。
「……えっと。ごめんなさい。迷惑でしたか……?」
「……ユーガやサリナ、ラーンにシーラが部屋に居なかったら、お前を攻撃していた?」
途中から疑問を浮かべて話し始めるケンキに全員が首を傾げる。
どうしたのかと眺めているとケンキがシャルに近づいて、自分より背の大きいシャルの肩を掴んで顔を同じ位置に合わせる。
ついでにシャルはこの部屋にいるメンバーで平均より小さい。
「……美少女だな」
「ふぇっ!?」
ケンキの発言にシャルは赤くなる。
「ふっ!」
「はっ!」
「っ!」
「ふん!」
幼馴染たちがケンキに対してシャルと距離を取らせるために各々が攻撃したり無理やりにでも引き離そうと身体を掴む。
当然、シャルは途中から顔を掴まれて固まってしまい女性陣に簡単に引き離されたが、ケンキ自身は全て避け切ってしまってる。
「………マイナも綺麗だしな。部屋に入って来るなよ」
「何が言いたいのよ」
ケンキの言葉に顔を赤くしながら質問する。
突然のケンキの行動とユーガ達の行動が謎過ぎて疑問だ。
「…そいつ自分を襲ってきた相手が女性で周りに誰もいなかったら犯そうとしていたからな。気をつけろよ」
「「「は?」」」
「……俺の命を狙ってきたのが悪い。童貞はバカにされるからな」
肯定したケンキに、どんな感情に向けるのか困ってしまう。
強姦するにしても命を狙ってきた相手ならしょうがないとも思ってしまうし、そんな理由で命を狙ってきた相手で童貞を卒業しようとするとかアホかとも言いたくなってしまう。
「……マイナもシャルも魅力的だから絶対に勝手に女性だけで部屋に入って来るなよ」
「……そ、そう」
「……ありがとう」
魅力的と言われた顔を赤くしてケンキに礼を言う。
だがマイナの質問には答えていない。
「………何、私が寝起きや寝る間に一緒に寝ても手を出さないのに二人には手を出すの?」
「……当然。お前は大事だから理性は働くが、そいつらはどうでも良い。男の部屋に入った方が悪い」
女性が無断で男の部屋に入ったら誘われていると男は思ってしまうなとユーガ達男性陣は納得し、女性陣もそれはちゃんと警戒していない女性も悪いと理性的に納得する。
感情的には許せる気がしないが。
それにサリナとシーラは大事にされているから手を出されていないのだと理解して不満を抱く。
「………そうですか」
「……そうっ」
シャルはどうでも良いからケンキの前で不用心な行動をすると手を出されてしまうかもしれないと聞いて警戒心を持ち、マイナは顔を赤くしてゾクリと身体を震わせ声を弾ませてしまう。
マイナの反応に部屋に居た者達は引いた目で見てしまう。
「ん?ところでケンキは童貞なのか?」
だがナトはそれよりも気になったことをケンキに質問する。
それによりマイナに向けられて引いた目が霧散して今度はナトに白けた視線を向ける。
それに対してケンキは答える。
「……違う」