死に尽くす
「ここは……?」
「起きましたか?」
フランの父親が目を覚ますと目の前には女性の騎士がいた。
そして周りを見渡すと真っ白な潔癖さを思わせる部屋だった。
「あなたは義父と戦って気を失ってしまい、この病室に運ばれました。全快をするのには貴方次第だそうです
」
その言葉を聞いて義父に斬られた腕を見るとくっ付いていた。
そのことにフランの父親は驚き幸運だと思う。
腕を斬られた以上は義腕で過ごすことになると思っていたからだ。
「俺の腕は……!」
「斬られた腕に関しても運よく繋げることが出来たみたいです。ただ問題として斬られたせいで以前の様に動かせるようになるには、かなりリハビリする必要があります。普通に生活する分には簡単なリハビリですむらしいので」
「分かりました」
リハビリ次第では腕を斬られても以前の様に動かせると聞いてフランの父親は嬉しくなる。
普段の生活も軽いリハビリだけでも充分だと聞いたことから思ったよりは軽傷だと判断する。
「…………そういえば義父たちは?」
フランの父親は分かり切ったことを聞く。
それでも聞くのは最後の瞬間を見ていないからだ。
だから、まだ生きているかもしれないという希望を持っている。
「死にました。貴方の父も義父も」
「そうですか……」
父に関しては義父に殺されたのを見ている。
だが義父は強大な威力の魔法を放った後に倒れたところまでしか知らなかったが、やはり死んでいたらしい。
「義父の魔法を切り裂いた少年は……?」
複雑だがお礼を言いたくて魔法を切り裂いた少年の事を尋ねる。
すると女の騎士は目を鋭くする。
どうやら教えたくないようだ。
「何故、教えないといけないんですか?一つ言っておきますが、あの強大な魔法を放った時点で貴方の義父は死んでいましたよ。責めることは許しません」
「……わかっている。あの子がいなければ死んでいた。そのことにお礼を言いたいし、それに……」
「それに?」
「あの子が言っていた俺に関しての話を聞きたい」
フランの父親の言葉にあぁ、と言って思い出したかのように頷く女の騎士。
鋭い視線の中に侮蔑が明らかに増えている。
よくよく思い出せば最初から嫌っているような雰囲気を出していた。
「貴方が性奴隷にしていた女性の話ですか?そのことに関しては詳しい話はしないと言っていましたよ」
「………そんな。謝ることも出来ないんですね」
フランの父親は本当に残念そうに思っているように見える。
その姿に女の騎士は決して同情することなく良いざまだと思っている。
「ええ。なんかなんか余計なことを言って死者を出したら怒られそうだと……」
それに話に出てくる子供のケンキが言う死者とは目の前にいるフランの父親が原因だと予想している。
少なくとも包帯が取れて普段の生活が送れるようになるまでは大丈夫だろうと考えていた。
「他に何か聞きたいことはありますか?」
「いえ、大丈夫です」
「そうですか。それでは、私はこれで」
女の騎士はそれだけを言ってフランの父親がいる病室から出て行った。
頭も何も下げずに、同じ部屋に居ること自体が不快だと示すような去り方だった。
「やっぱり俺の過去はバレていると見た方が良いか……」
女の騎士が去った後にフランの父親は一人、呟く。
捕まって牢屋に入れられていないのは、怪我をしているからでは無く確実な証拠が無いからだと考えている。
写真だけだと牢屋にぶち込まれることは無いのだろう。
「それまでにどうするか……」
牢屋に入れられるのも時間の問題かもしれないとフランの父親は考え、それまでに何をするか考える。
腹いっぱいに好きな食べ物を食べるか、それとも時間の許す限り捕まるまでに遠くまで逃げるか。
またまた過去の写真や情報を流した相手に報復するか。
「うん?やっぱりこれか?」
報復を考えるとフランの父親はしっくりくる。
そもそもフランの父親からすれば過去の情報を流されずにいたら今も変わらずに家族みんなが死なずに生きていけたのだ。
こんなことになったのは情報を流した者たちの所為だと考えている。
そして流したのは、おそらく懺悔に行っていた教会の者だとフランの父親は推測していた。
義父の最後の魔法を斬った子供がフランの父親が教会に行った時のシスターの反応の話をしていた。
フランの父親が行く教会は一つだけだし、そこで動揺していたシスターもいた。
そのシスターが情報を流したとフランの父親は考えている。
「この状態で、どうやって殺すか」
どうせ家族で生きている者は自分だけだ。
他の大事な者たちは皆死んでしまった。
なら死ぬつもりで報復しても問題ないと考えてしまっている。
「今の状態だと魔法ぐらいしか使えないな」
それで、どうやって教会の者達を皆、殺せるか考える。
フランの父親は自分も家族の皆を失ったのだ。
シスターも全員死んでしまえという考えでいる。
「………まずは腕を動かせるようになるまでリハビリだな」
何をするにしても腕が動かせないのが不便だ。
普段の生活が出来るように腕を動かせるようになることを優先することにした。
その間に殺す手段を考えることにする。
殺す手段は直接じゃなくても毒といった間接的な手段もある。
簡単なリハビリで済むと聞いたが少しでも早く動けるように努力しようとしていた。
「……もうここまで動けるようになるなんて早いですね。この分だと以前の様に重い物も持てるようになるかもしれませんね」
フランの父親が一週間ひたすらに努力してリハビリに努めると腕も動かせるようになり不安の生活が出来るぐらいにまで回復する。
担当医からも予想以上に早い回復だと言われ努力した甲斐があったと嬉しくなる。
「そうなんですか?参考までにどのくらいの速度で回復すると思っていたんですか?」
「………うーん。最悪、三週間ぐらいは掛かると予想していましたね。なにせ腕が斬られてから繋ぎましたし。そもそも以前の様に動かせる可能性がある時点で奇跡的ですし」
たしかにとフランの父親も頷く。
腕が斬られて落とされたのに軽いリハビリだけで普段の生活が送れるようになるのは奇跡的だ。
だが以前の様に動かせるとなるとは難しいらしい。
「その、以前のように動かせる可能性ってどのくらいなんですか?」
「……申し訳ないけど、わからないわ。一生、以前の様に動かせれないかもしれないし案外、貴方の努力の姿から早く以前の様になるかもしれないし」
わからないという言葉にフランの父親は納得する。
こればかりは運と自分の努力次第なのだろう。
それよりも普段通りの生活を送れるようになったことの方が重要だ。
これでリハビリ中に考えていた教会の者を殺せる手段が実行できる。
「そうですか。それで俺は退院ですか?」
「はい。ただ、腕の調子で何か問題があったら直ぐに病院に来てくださいね」
担当医の言葉に返事をしてフランの父親は職場へと直行する。
目的は退職届を出すためだ。
「お久しぶりです」
「来て大丈夫なのか!?」
退職届を持って職場に着くと上司や同僚に来たことに対して驚かれる。
何があったのかも対しても話を聞いていたらしく心配そうに声を掛けてくる。
「……いえ、申し訳ありません。ただ今日は退職届を出しに来ました」
「は!?」
上司は突然の退職をするという言葉に驚いてしまう。
仕事に関しても優秀な部下が退職するのは惜しい気持ちもあるが、部下に訪れた不幸を思うと仕事が手に着かないのも予想が出来る。
だが優秀な部下がただ去るのも惜しい。
「そうか。私たちも君の不幸は知っている。今は休んでも良いから退職届を出すのは、もう少し後からで良いか?その代わり回復したら仕事は頼らせてもらうが」
優秀な部下を手放すよりは不幸事を理由にして休んで貰うことを提案する。
身に降りかかった不幸を忘れるように仕事に熱中をするかもしれないという打算もある。
「いえ。辞めさせていただきます」
フランの父親はかなりの良い条件に首を横に振る。
どうせ自分はこれから復讐をしに行く。
退職をするのも退職金を得るためだ。
そのお金で毒や油などを買うつもりだ。
「どうしても辞めるのか?」
「申し訳ありません」
「そうか。残念だ。退職することを上司に伝えるから付いて来てくれ」
その言葉に頷いて上司の後に付いて行くと社長の部屋まで連れて来られる。
まさか、社長に会うことになるとは予想していなかった。
「失礼します」
「何だ?」
「退職したいという者を連れてきました」
「は?……あぁ、成程」
最初は退職をすると聞いて良い顔をしなかったが連れて来られてたフランの父親の顔を見て社長は納得する。
社員も知っているのだ。
上司である社長もフランの父親の不幸事を知っている。
「わかった。お前は戻って良いぞ。君はこちらへ来い」
社長は上司を仕事に戻らせ、フランの父親は社長の近くに呼ばれる。
「それでは……」
「え?あの……」
仕事を辞めるのに自分だけ近くに来るように言われたフランの父親は何の用だと緊張する。
普通は逆じゃないかと考えている。
「君の身に起きた不幸は知っている。正直、休んでいても心がある程度回復するまで文句を言う気にも無かった。それでも辞めるのか」
「……はい」
社長にも心配され引き留められことに申し訳なさを感じつつも辞める気は無くならない。
そのことを察して残念そうにしながらも社長は受け入れる。
「そうか。十年以上、働いてくれたし退職金はこのぐらいで良いな」
そう言って手渡されたお金は封筒に入っているが予想以上に多そうな金額だった。
これなら必要な物も問題なく買えそうだと予想している。
「ありがとうございます」
「あぁ。仕事が出来るまで回復したら、またうちに来ても良いからな」
社長の言葉にフランの父親は頭を下げ社長の部屋から出て行った。
「思った以上に退職金を貰ったな」
これだけあれば油も大量に買えると考えているし、他にも色々と買えると喜ぶ。
それは例えば黒い服とか。
明るい服だと月の光などで来たことがバレてしまう。
そうなれば怪しまれて逃げるしかない。
例えば消臭剤。
大量に持ってきた油をばら撒いても匂いで気付かれないようにするためだ。
魔法薬を使うから金額は高いが、これだけあれば買えるはずだ。
「…………もうすっからかんだな」
退職金を全て使い切り、かなりの量の油を魔法の袋の中に詰めた。
いくらでも中に入るが袋を開けたらかなり油臭い。
消臭剤を買ってきて正解だった。
油をばら撒く前に開いた時点で探されて見つかる可能性があった。
「……後は夜まで待機だな」
深夜なら眠っている者もいるだろうし気付かれる可能性も低くなる。
慎重に教会の者を殺すための準備を整えていく。
そして深夜まで誰にも怪しまれないように路地裏などへと行って時間を潰した。
それでもどうしても見つかってしまうこともあるが怪しまれても路地裏にいるお陰が何も聞かれずに助かったこともあった。
そして深夜になった。
殺すために夜の時間も見回りをしている騎士たちに見つからないようにフランの父親は教会へと向かう。
途中、見つかりそうになったが黒い恰好をしているお陰でバレずに済む。
自分の判断に自画自賛をしながらフランの父親は慎重に確実に教会へと近づいて行き、辿り着いた。
「ふぅ。ここまで来るのにかなり疲れたな……」
フランの父親は普段ここまで来るのに汗一つも掻かないのに今は汗だくになっている。
何時もと違うのはやはり警戒して進んでいたのもあるのだろう。
「………教会の中の光は消えているな」
そして教会の様子を外から調べれる範囲で調べていく。
何度も何度も同じ場所から繰り返し調べてから油を教会の外からかけていく。
教会だけではない。
教会の周囲に生えている草にも油を掻ける。
シスターたちが教会の外に出ても逃がさないためだ。
そして火を点けた。
「燃えるなぁ……」
教会のまわりに掻けた油に火を点けると勢いよく燃え上がる。
教会の周囲は燃え、教会自身も燃えており逃げようとしても確実に火傷は負うだろう。
更に魔法などで火を消されないように、フランの父親も魔法を使って更に教会を燃やしていく。
外からでも教会の屋根が焼け落ちたのが見える。
「キャァァァ!!」
教会のシスターたちは突然、教会が燃えているのを確認して悲鳴を上げる。
中には未だ眠っている者もおり、目覚めているのは数人しかいない。
しかも全体的な人数から考えると起きているのは、わずかな者達だけだ。
「起きなさい!起きて!お願いだから起きてよ!」
起きている者達が声を高くして起きるように呼びかけても目覚めない。
中には既に部屋の中に炎で閉じ込められて目を覚まさないままのシスターもいる。
しかも燃え落ちた屋根の部品が邪魔をして助けることが出来ずに見捨てることしか出来ない状況にされた者もいた。
当然だ。
フランの父親が強力な睡眠薬を気化させた物を教会の中に投げ捨てていた。
その所為で眠りから目を覚まさないでいる。
今、起きているシスターは偶然にも教会の奥で寝ていたから影響が無かったのだろう。
「キャァァァ!!」
目の前に屋根が落ちてくる。
あと少し前に進んでいたら下敷きになっていた。
そのことに安堵をしながら今度は後ろへと振り返って進む。
「………これは何事です!」
その瞬間、教会の奥の奥から声が聞こえてくる。
神父の声だ。
そのことに安堵し、魔法を使って火を消化してくれることを頼む。
「わかりません!何か匂いがして目覚めたら火が燃え盛っていて!何人かのシスターに声を掛けても起きてくれないんです!できれば魔法で消化してくれませんか!?!私たちが魔法を使っても全く消えないんです!」
「何!?分かりました!?!こちらでもやってみます!」
先程から水の魔法で消化しようとしても全く火の勢いが止まらない。
魔法の威力が弱いのかと思い、一番実力がある神父に頼むことにする。
「なっ!?いくら水の魔法を使っても消化しない!?まさか外から魔法で攻撃されている!?」
神父の言葉を聞いて、どういうことだと絶望する。
明確な悪意を持って攻撃をされ死んでしまいそうなピンチな目に遭っているのだ。
身体を震わせ怯えているシスターたちもいた。
「こうなれば、こちらから魔法で教会を壊して逃げるしかありませんね!みなさん!声を出してください!私の魔法で教会から脱出します!その前に合流しましょう!」
「私たちの目の前に焼け落ちた屋根があって合流できません!!」
「それも壊すので居場所がわかるように声を出してください!数でも何でも良いので声を出し続けてください!」
神父の声に集まっているシスターたちは頷き合って数を数え始める。
「1!」
「2!」
「3!」
シスターたちの声を頼りに神父はシスターたちと合流しようと探す。
声を出している間はまだ生きていることを確信できるが、死んだら聞こえなくなる。
だから、こちらかも生きていることを伝えるために神父は声を出しながらシスターたちを探し続ける。
「ここか!?」
そしてシスターたちの前にある焼け落ちた屋根を壊して神父とシスターたちは合流した。
「神父様!」
「皆さん!無事で………」
そしてお互いの無事を助け合おうとしたところで神父の首が吹き飛ぶ。
「キャァァァ!!?」
目の前で突然に神父の首から上が吹き飛んだところを見てシスターたちは悲鳴を上げる。
中には吐いてしまっている者もいる。
そして逃げる為の手段も無くなってしまった。
シスターたちでは教会の壁を壊して外に出ることも、燃え盛っている炎を消すことも出来ない。
そして上からガタンという音が響いてくる。
「あっ」
上を見上げると屋根が落ちて来て、それが最後に見た光景だった。
「……これで教会にいたほとんどのシスターは死んだはずだ」
教会の屋根が全て燃え落ちたのを確認してフランの父親はシスターたちは全員死んだと認識する。
少なくとも目を覚まして行動していたシスターたちは死んだのを確認した。
運よく教会の中を少しでも覗ける場所があったから、そこで確認するとシスターたちの姿が見えた。
神父が合流した時点で殺したのもフランの父親の仕業だった。
「さてと逃げるか」
教会を後にし、この地から去ろうとフランの父親は移動する。
その足取りはかなりフラついていて今にも倒れそうだ。
火が消えないように魔法を使っていたせいだ。
命を燃やし尽くす勢いだったために寿命もほとんど削られていて立っているのも辛い。
「やばいな。色々と集まってきている」
それでも自分の身体に鞭を打って急いで、この場から離れようとする。
炎のせいで、遠くから見ても教会が目立ってしまっているだろう。
多くの者が教会に集まってきている。
このままでは容疑者として捕まってしまう。
夜の中、黒い服装だから姿を見つけるのは難しいかもしれないが絶対に見つからないわけではない。
「何だ!?これは!?」
フランの父親は自分以外の声が聞こえてくることに焦りながらも確実に距離を取っていく。
「………凄いなぁ。自分の命を削ってまで教会にいる者達を殺したのか」
だが途中で何かにぶつかり転んでしまう。
しかも男の急所に当たり股間を抑えながら悶えてしまう。
「………ねぇ、家に来る?そんなボロボロだと不安になるし」
「……俺を助けてくれるのか?教会を燃やしたのを見ていたんだろう?」
「………教会を燃やしたのは実際に見たわけでは無いけど」
「……カマかけか」
「……………」
フランの父親の言葉に少年ケンキは笑うだけ。
そんなことよりも、と身体を抱えて運び始める。
自分を助けてくれるのかとフランの父親は嬉しく思ってしまう。
なぜだが分からないが自分の事を、ここから離れていくのに安堵して意識を失ってしまった。
「………ここで良いか」
ケンキはフランの父親を抱きかかえて教会から離れた位置に置く。
犯人を捜すのに、ここまで来ないだろうと考えた位置だ。
意識を失っているのもあり、適当な木に縛って逃げられないようにする。
更に見つけられないように魔法で姿を隠し、声も気付かれないように口を塞ぐ。
「……さてと生き残りのシスターを探すか」
教会にいたシスターは全員死んでいるが、運よく生き残ったシスターもいるとケンキは確信している。
偶々、今夜は教会にいなかっただけで別の場所で夜を過ごしていたのだろう。
だが教会の事件を知って直ぐに確認に来るはずだ。
「……………何これ」
夜が明けて朝になり、ずっと生き残ったシスターが来るのをケンキは待っていた。
その間にフランの父親が目を覚ましていたのを横目で見ながら無視をする。
そして教会の焼け跡の前に生き残ったシスターが来て嗤ってしまう。
生き残ったシスターはメルシーだからだ。
「皆は……」
教会の焼け跡に呆然とし、掘り起こされた一緒に暮らしていたシスターや神父の遺体を見て泣き崩れる。
誰か一人でも生き残っていないかと声を掛けて揺さぶるメルシー。
その姿を誰一人として止めずに好きなように気が済むまでやらせる。
「………何で、誰も応えてくれないの」
そんなメルシーを慰めようと肩を叩く者達。
それをきっかけに皆が死んだことを理解してメルシーは泣き叫んだ。
「泣き疲れて寝てしまっているな」
それから数十分後、泣き叫んでいたのがようやく終わると寝ていた。
途中から女性が抱きしめて慰めていたせいで抱きついたままの体勢で寝ている。
起こさないように気を付けて手を放して横に寝かせる。
「この教会を撤去するぞ。子供たちが冒険と称して入り込むのも危ない」
一人の言葉に全員が頷き、焼け落ちた教会を完全に撤去する。
そして作業に集中している間にケンキはメルシーをさらう。
一人だけでもメルシーの近くにいたら出来なかったが全員が大丈夫だろうとメルシーの傍を離れてしまったのが失敗だった。
「………起きろ」
ケンキはメルシーをさらって早速、目覚めさせる。
「……ここは?」
メルシーは目が覚めると自然の中にいたことに困惑する。
それらを思考に入れずケンキはメルシーにフランの父親を指差す。
「……あれを覚えているか?状況からしてお前の住んでいた教会を燃やした犯人だが」
ケンキの言葉にメルシーはフランの父親とケンキを睨む。
もしかして、それを知っていて止めなかったでは無いかと思ったせいだ。
「……何?」
「もしかして、こうなることを知っていた?」
「……全然。何かすることを事前に知れても内容は分からない。……流石に人殺しとなったら俺も止めるように動く」
メルシーはケンキの言葉は嘘を言っていないと理解して、それ以上の追及は止める。
それよりもフランの父親をどうするか考えている。
「……俺は少しの間、離れている。殺すなりなんなり好きにすれば良い」
ケンキはそれだけを言って完全にこの場から離れていった。
「フガッ!?」
フランの父親はケンキが離れていったことでメルシーに対して憎むような怯えるような視線を向ける。
それに対してメルシーもそんな視線を送りたいのはこちらの方だと蹴り上げる。
「バッ!?ヴゥ!?」
何度も蹴り上げて憎しみをぶつけていく。
ケンキの言葉を信じるならシスターや神父を殺したのは、この男なのだ。
死んでも構わないと言う気持ちで何度も蹴り上げる。
「ねぇ。先程、ケンキが言っていた教会の皆を殺したのは貴方だって本当ですか?」
「……黙れ!お前のせいで家族は死んだんだ!いっそのこと、ずっと昔に死んでいれば良かったのに!」
自分を性奴隷にして一生消えない心の傷を負わせたくせに、そんなことを言うフランの父親に殺意が増して更に攻撃を激しくしていく。
「ふざけるな!一番、悪いのは貴方でしょうが!貴方が罪を犯さなければ良かったくせに!何で私たちが貴方の家族を殺したことになるのよ!」
「良く言う!貴様が俺の昔の写真を犯罪者として提出したんだろうが!」
「何の話よ!」
お互いに罵り合い相手の言葉を一切、信じない。
メルシーにとっては自分が性奴隷から救ってもらい心を少しずつ癒してもらった者達を殺されて憎悪の念しか湧いてこない。
「じゃあ誰が俺の写真を今更、提出したって言うんだ!」
「知らないわよ!」
その叫び声と同時に思いきり蹴り上げる。
それで意識を失った姿をメルシーは確認して殺す準備を始める。
手には殺すための物は一切ない。
だが人は首を絞めれば殺せる。
意識を失った今なら抵抗もされずに殺せるとメルシーはフランの父親の首に手を掛けた。
「ゔっ」
そして力を込めて絞めていくと眼を見開く。
それが段々と上の方を向いて行き白目になる。
次には口から唾液が溢れ、泡を吹く。
そうしているとピクピクと震えも無くなった。
「………死んだわね」
念のために心臓に耳を当てても音は聞こえないし、口元に手を当てても息を感じられない。
死んだと確信してメルシーはシスターと神父の元へ自分も行こうと自殺をしようとする。
先程は気付かなかったが自分の服を脱いで紐代わりにすることは出来た。
それを応用して首つりをするつもりだ。
「……何だ?お前も死ぬのか?」
まるで止めようとケンキはメルシーに声を掛ける。
その声にメルシーは振り返る。
「何時から見てたの?」
「………最初から」
「私が殺すのを止めなかったのに自殺は止めるのね」
「………否定はしない。それにさっきまでは止めようと思ったけど今はそんなつもりは無い」
メルシーの瞳を見てケンキは、これはもう心が壊れているなと思っている。
大切な者を奪われて生きる気力が無いのだと理解してしまう。
「そういえば聞きたいことがあったんだけど」
今、思い出したという声にケンキは何だと答える。
もう死ぬことは止められないと冥途の土産に何でも答えるつもりだ。
「貴方は初めて会った時、この未来を何処まで知っていましたか?」
メルシーの疑問にケンキは嗤う。
それはとてもとても愉しそうに。
「お前とそこの男の家族が全員死ぬのは可能性として一番高かった」
「私とその男の家族だけ?」
教会の神父とシスターは違うのかと冷静に質問するメルシー。
本来なら見殺しにされたことに文句を言っていたかもしれないが、もう死ぬことしか頭に無いので冷静になってしまっている。
「……まさか教会の神父とシスター全員が死ぬとは思わなかったなぁ」
少しだけ面白そうに嗤うケンキに更に質問をするメルシー。
「貴方は未来が見えるの?」
「……見えないし、分からない。……占いみたいなものである程度が分かるだけ」
「実際には当たっていることもるけど外れる部分もあるということ?」
「……そう。お前が自殺するとは分かっていた。その前に教会の神父とシスターが殺されるとは思わなかったけどな」
「貴方の占いでは生きていたの」
「……そう」
ケンキの占いでは教会の神父とシスターは生きていたと知ってメルシーは何も思い残すことは無くなった。
後は自殺するだけだが、その前にケンキに言いたいことがあって目を合わせる。
「私は私とこの男の家族の未来を知っていながら救ってくれなかった貴方を赦します」
それだけを言ってメルシーは首を吊って死んだ。
その姿にケンキは何も言わずに後を去った。
「生き残っていたシスターを見つけたぞ!」
遺体が見つかったら騒然とするのだろうと思いながらケンキはその場から離れていく。
興味が無いがメルシーに言われた赦しのことを考えてしまう。
ケンキにとっては誰かの死ぬ未来が見えるのは当たり前。
誰が何時に死ぬとか毎日のように見ている。
「……何で赦しという言葉が出てきたんだ?」
今生きている誰かが明日には死ぬ未来がケンキには見えている。
親も友達も、そして自分自身も。
それでもケンキは自分含めて皆はまだ生きていた。
見える死の未来は可能性が最も高いだけで別の死因もあるし、どんなに可能性が低くても死の可能性は見せつけられる。
そして今日も明日もこれからも多くの死の可能性を見せつけられてケンキは生きていく。




