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パーティを追放されました。でも痛くも痒くもありません  作者: 霞風太
赦し

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復讐と死

「は………?」


 その日、ホテルに泊まっていたロアは無視の知らせが来てホテルから出て家へと帰る。

 そして帰った先には家が燃え盛っていた。

 そのまま呆然としてしまっていると妻と娘、そして孫娘と娘の結婚相手の母親が住んでいたことを思い出す。

 家の中にいるのだとしたら助けなければいけないと考え、燃えている家の中に入ろうとする。


「何をしているんだ!?」


 だが周りの者からすれば自殺行為にしか見えないために羽交い締めで止められる。

 それを振り切ってでも家の中に入り無事を確かめたい為にロアは暴れまわる。


「放せ!孫娘や娘、妻がいるかもしれないんだ!放せ!」


 そんな言葉を聞いて止めている者は放そうとしない。

 どうせ家の中に入っても死ぬだけだ。

 そんな分かり切った結果から止めるのは当然だ。


「だからと言って死にに行くのを止めない訳には行かないだろ!既にその道のプロが救助に向かっているから待っててくれ!」


 そう騒いでいると家の中から何人かの死体を持って出てくる者がいる。

 四人の遺体。

 それら全てが見覚えのある姿で近寄り姿を確認すると妻と孫娘、そして娘とその結婚相手の母親だった。

 そして泣き叫んでしまう。

 まだまだ未来があったのに死んでしまうなんて悲しすぎる。

 多くの愛する者が一気に失ってしまってロアは生きる気力が無くなる。


「………申し訳ありません。そちらでは誰かに酷く憎まれた覚えはありませんか?」


「あんた急に何を言っているんだ!?」


 大切な者を失って直後に言うようなものでは無いと周囲にいた者が質問してきた騎士に掴みかかる。

 他の者たちも同意してか睨んでいる。

 だが騎士もひるまない。

 それだけ死体が可笑しかったのだ。


「……悪いが、それだけ死体が可笑しいのです。場合によっては今、この場で保護をする必要があります」


 決してひるまず、その上保護をする必要があると言った言葉に掴んでいた者も手を離す。

 むしろ、どういうことだと泣き叫んでいる男を見る。


「そんな覚えはない!何でそんなことを……!?」


「貴方の家族の死体が明らかに暴行を受けていました。まるで何度も何度も蹴られたような傷跡があれば、ところどころ切り裂かれたような者もいる。それにしては首を切り落とすだけで終わっている死体もありました。何が目的なのか、わからなくなってきています」


 復讐なら全員を惨殺するのだろう。

 だが子供と一人の女性には何が起きたのか分からない表情で死んでいる。

 対照的に他の二人は絶望と怒りの形相で死んでいる。

 まるで関係のない者には何も見せずに痛みも感じさせずという中途半端な意図が感じられたのだ。


「分からないのなら、他に家族がいますから確認させてもらいますが大丈夫でしょうか?」


「……わかった」


 いつ知らぬところで恨みを買っているか分からない。

 自分に心当たりは無いが今は一緒に住んでいる二人にも確認するのは当たり前だろうと頷く。


「………どうした?」


「すみません。保護をする可能性を話していたら理由を聞かれまして」


「こんなところで話す奴がいるか。誰に聞かれるか分からないんだぞ。こんなに多くの者がいるし」


「あ……」


 当然現れた上司らしき者の発言にヤバいというような表情を見せる騎士。

 それに青筋を立てながら男とロアをつかむ。

 無理矢理にでも保護をするためだ。

 話してしまった以上は保護をする必要がある。

 誰に聞かれたかわかったものでは無い。


「申し訳ありませんが、保護をさせてもらいます。それと聞きたいことがあるので、それに対しては絶対に答えてもらうので」


 最後の言葉には敵意を向けてロアに言う。

 敵意を向けられている理由に検討がつかない。

 本当に何をしてしまったのか気になる。


「行くぞ……」


 そしてまるで逃げ出すのを防ぐかのように縛られてロアは連れて行かれた。




「おい、ハッキリ私はお前の家族が殺されたのは復讐だと思っている」


「………どういうことだ!!」


 先程の部下らしき男にも言ったが、そんな覚えはない。

 何でそんなことを言うのが全く理解できない。


「貴様の家からこの写真が出てきた」


「それが何だ?最近、娘の相手の両親が遊びに来てアルバムも持ってきたせいで写真の量は多いがそれだけだろう?」


「なら、この写真に見覚えはあるか?」


 その言葉に男の写った写真を見るが誰なのか分からずに首を傾げる。

 何をしたいのか全く理解ができない。

 その様子に本当に何も知らないのだと理解して溜息を吐く。

 確かに姿形も変わっていて普通は気付かない。

 何も知らないだろう、この男は被害者だと考えることも出来る。

 もしかしたら、あの家にいた者達、全員がそうかもしれない。


「ハッキリ言って貴方の義息子は犯罪者です」


 そう告げられてロアは娘の言った通りだったと絶望する。

 そうと知っていたら結婚を許さなかった。

 しかも義息子が犯罪者だったせいで娘や愛する妻まで死んでしまった。


「絶望はしているようですが、義息子が犯罪者なのは踊りていないようですね。もしかして知っていましたか?」


 その言葉に頷くことも首を振ることも出来ないかった。


「……今日の昼に娘が夫が犯罪者だったかもしれないと相談は受けていました。それで私が人質になるかもしれないとホテルに泊まってくれって」


「………今日の昼に?」


「………はい」


「その……。娘さんは何でホテルに泊まってくれと?」


「もし本当に犯罪者だったら離婚のことも視野に入れているし、そして義息子の犯罪を義両親も知っていたら隠すために私を人質にするかもしれなから……と」


 その理由に娘さんは夫が犯罪者だというのは本当に最近知ったのだと理解する。

 それでも信じきれなくて確認しようとしたところで殺されたのだとしたら不幸だと感じる。

 犯罪者だと知らずに結婚し子供も成していた。

 何も知らなかったこそ騙された被害者だろう。

 卑劣な犯罪者だ。

 人質にされるかもしれないからとホテルに泊まらせたのは正しかった。


「これから犯罪者として義息子さんに確認しようと思いますが同行しますか?」


「お願いします」


 その言葉に頷いて一緒に義息子へと尋ねに行くことにする。

 ただ質問の最中に暴れないように取り押さえる者が必要になる。

 その分も増えた人数で犯罪者がいる家へと向かった。




「………はい?」


 フランの父親がいる家の呼鈴を鳴らすと本人が出てくる。

 そして呼鈴を鳴らした相手を見るとひどく驚いた表情をする。


「本日は聞きたいことと報告することがあって来ました」


 そんなことの為に態々来るなんて、本当は過去の罪がバレたのではないかとフランの父親は冷や汗を流す。

 通常なら、その両方とも手紙で済ませている場合が多い。

 それなのに来たのだ。

 いざとなったら逃げる為の準備の心構えをする。


「聞きたいことと報告することとは何でしょうか?」


 取り敢えずは玄関の前で家の中に入らせないようにする。

 そうすれば家の構造も分からないし上手くいけば障害物として色々なモノが利用できるかもしれない。

 フランの父親がそんなことを考えているのに気付いているのか、いないのか要件をこなそうとする。


「……まず貴方の妻と娘、そして貴方の母親と貴方の妻の母親が殺されていました」


 その言葉を聞いた瞬間、フランの父親はその言葉を言った相手の首元を掴む。

 冗談でも言って良い事と悪いことがある。

 そのことが分からないのかと睨む。


「お前、喧嘩を売っているのか!そんなことを急に言われて信じられるか!それに死んだなんて嘘まで言いやがって!!」


「事実です」


 フランの父親に首元を掴まれ恫喝されても平然と男は返す。

 いくら否定しても事実は変わらない。

 そして、この男にも情はあるのだと密かに感心していた。


「そんな平然としていて良く言えるな!」


 男はフランの父親が信じていない理由を察して納得する。

 たしかに相手にとって大切な者の死を伝えるなら同情などといった感情や視線を伏せて伝えるかもしれない。

 だが相手は犯罪者だ。

 そして殺された理由も告げる相手にあるのだとしたら同情など向けない。

 むしろ、お前が犯罪者だったから無実の者が殺されたのだと文句を言いたい。


「何度も言いますが事実です。そして私たちには、どんな理由があろうと人を殺した者を捕まえる義務があります。その為に心当たりが無いか教えて欲しい」


「……無いな」


「本当にですか?」


 男の質問にフランの父親は無いと答え、それに本当かどうか確かめる男。

 本当は過去に罪を犯したことを知っている。

 それでも確認するのは反応を確認するためにだ。

 もし、この場で心当たりがあると言えば自分の罪を認めたことになるし、言わなければ自分の罪を認めないことになる。


「知らないと言っているだろう!?なんで俺に聞くんだ!!」


 そしてフランの父親は罪を認めない。

 それはすなわち自分の過去の罪の所為で殺されたとは思ってもいないことになる。


「じゃあ、この写真は何だ?」


 それに対してロアは二人の前に現れて二枚の写真を見せる。

 その写真はフランの父親の若い頃の写真だった。


「それは……!?」


 ロアが突然現れたことにフランの父親は酷く驚く。

 全く気配を感じていなかった。


「……この二枚の写真は両方とも君らしいな?」


 フランの父親は頷く。

 それが、どうしたと言わんばかりの様子だ。

 これで罪の証になるとは思ってもいない。


「片方は当時の犯罪者の写真だ。それをお前は両方とも自分の写真だと頷いたな……?」


 ロアの言葉にフランの父親は顔を青くする。

 警戒をしていたのに、うっかり頷いてしまった。

 それだけロアの突然の出現と身近な者の死に動揺してしまっていたのだろう。


「だから何だと言うんだ!?偶々、似ているから間違えてしまっただけだ!」


 フランの父親の言葉に男は殴る。

 自分の姉も似たような事件の被害者なのだ。

 騎士になったのも少しでも自分の姉と同じような被害者を防ぐためだ。

 だからこそ自分は関係無いと告げるフランの父親に敵意を抱いてしまう。


「……何を!?」


「ふざけるな!!自分の罪を認めろ!少なくとも貴様の罪の所為で貴様の身近な者が殺されたのだ!それとも見てないから知らないと言うつもりか!」


「………それは」


 騎士の男の言葉にフランの父親は口ごもる。

 その所為で死んだと言うのなら過去の自分を殺したくなる気持ちが湧き上がる。

 だが言いたくない。

 自分の罪を知られれば、その罪を持った男の娘だから。

 罪人を選んだ女の自業自得だと言われて貶しめる誰かの姿が予想付く。


「……なんだ?」


 何も言えないでいるフランの父親に騎士たちが視線を集めているのをキアが見つける。

 今、起きたばかりで息子が見当たらないのを探しに来た形だ。


「……親父」


「貴方の父親ですか?すみません、報告したいことがあるのですが……?」


 キアは息子を見て、そしてロアが持っている写真を見る。

 そして。


「なっ!親父!?」


 急に魔法を騎士に向けて放つ。

 怪我をさせる為ではない。

 むしろ怪我をしてくれたらラッキー程度の意図でしかなく、目的は騎士たちの目をくらませるためだ。

 その間に息子を騎士たちから距離を取らせて回収する。


「逃げるぞ」


 息子の家を壊して一直線に騎士たちから逃げる。



「親父!?何をしているんだ!?」


 フランの父親は突然騎士を攻撃し、自分を抱えて逃げている父親に驚く。

 だが父親としては当然なのだろう。

 母親が息子の罪を知っていたのだ。

 父親も同じように黙って知っていてもおかしくない。


「うるさい!お前は私たちの大事な子供だ!どんな罪を犯していようと絶対に騎士に捕まえさせてたまるか!」


 フランの父親は自分の親が己の罪を知っていることに動揺する。

 上手く隠していたつもりなのにバレていたことに顔が羞恥で紅くなる。

 そして父親が知っていたということは母親も知っていたのではないかと察してしまう。


「そうだ。母親もお前の罪を知っている」


 キアは息子に、そのことを教える。

 そして。


「おそらくだが、お前の妻と娘を殺したのは母親だろうな」


 衝撃を与える言葉を告げられた。


「は?」


 信じられない言葉に何度も何度もフランの父親の思考は停止する。

 フランの父親が見た所では妻とも仲が良かったし、娘も可愛がっていた。

 それなのに殺した理由が分からない。


「お前の母親の一番はお前だ。必要なら夫である俺を殺すし、妻である自分を殺せと言うぞ。当然、俺も同意している」


 フランの父親としては意味がわからない。

 それに言っていることが本当なら誰が母親を殺したのか謎だ。


「まぁ、まさか妻が殺されるとは思わなかったがな。あいつなら皆殺しにして隠蔽工作も出来たはずだろうに」


 そう言いならキアは歯ぎしりする。

 一番大事なのは自分の息子だが、愛した妻なのはかわりない。

 殺した相手を想像して憎む。


「………何でだ?何で俺のことが、そんなに大事なんだ!?」


 意味がわからないのだ。

 そこまで大事にしてくれていることに。

 息子だからという理由だけでは納得できない。

 間違いなく自分の所為で妻と娘を殺されたとフランの父親が考えているからだ。


「………お前が俺たちの息子だからでは納得いかないか?」


「当たり前だ!こんな俺でも妻と娘は愛していた!いくら捕まることに怯えていても、それが妻たちにとって幸せな道につながるなら後悔は無かった」


 事実だ。

 どれだけ捕まらないように努力をしても最終的に逃げる切ることが出来なかければ捕まることも考えていた。

 妻と娘に犯罪者の夫と父がいたという事実を示されるかもしれないが上手くいけば被害者としても扱われるとも予想していたのだ。

 迫害される可能性もあったが祖父母たちが護ってくれると考えてもいた。

 それでも逃げ切れるように最大限の努力をしていたが。


「だが逃げる算段を立てていただろう」


 フランの父親は、その言葉に頷く。

 捕まるのは、あくまでも最後の手段。

 そうでなければ逃げ切るつもりだった。


「俺たちはお前を牢獄に入れたくない。どんな手を使ってでもな……」


「その為なら孫娘も殺すと……?」


「……そうだ」


 ふざけるなとフランの父親は思う。

 自分の娘でもあるがキアにとっては孫娘でもあるのだ。

 それなのに殺したことに理解が及ばない。


「孫ならまた結婚して子供を産ませればよい。そうでなくとも昔は女を無理やり抱いていたんだろう?嫌がっていても無理矢理、産ませたらいい」


 キアの言葉にフランの父親は顔を青くする。

 自分の父親だが予想もしていなかった言葉だ。

 己が犯罪を犯したのも血が理由では無いかと考えてしまう。

 八つ当たりになるが、自分の父親の言葉からそうでしか考えられない。


「………なんだ、そんなに顔を青くして?」


 そう言って身体に寒くないように羽織をかぶせる父親。

 自分に対する優しさとそれ以外の冷酷さに寒気がする。

 おそらくは母親もこうだったのだろうと考えると自分の鈍さに涙が出てくる。


「……ねぇ、俺が息子だからって理由で本当にここまでしたのか?」


「そうだ。お前はやっと生まれた俺の息子だからな。………お前が生まれるまで何人の子が死産になったか」


 父の理由を聞いて少しだけ納得するフランの父親。

 それでも娘を殺したことには変わりはないと憎む気持ちは全く変わらない。


「………だから何だ。よくも妻と娘、そして孫娘を殺してくれたな」


 その言葉が聞こえると同時にフランの父親は地面に身体を叩きつけられる。

 何が起きたのか全く理解していない。

 叩きつけられた身体に鞭打って原因を調べるために周囲を見渡す。


「ガァァァァァ!!?」


 そこには片足を斬られて抑えている父の姿があった。

 脚を斬られたのはおそらく逃げるのを防ぐためだろう。

 それでも捕らえにきた騎士たちはこんなに物騒だったかと首を傾げる。


「貴様らは良い奴かもしれない。実際に集まった時には気が良かったし一緒に酒を飲んで楽しかった」


 そう言って更に剣を振るい片足を斬り落とす。

 続いて響き渡る絶叫。

 いくら騎士だとしても父に行う蛮行に自然と視線は厳しくなる。


「だが。貴様らは俺の家族を殺した」


 そして見た男はフランの父親の義父だった。

 見渡すと周りにはフランの父親とその父、そして義父しかいない。

 捕まえに来たであろう騎士たちは、はるか遠くにそれらしき姿が見えるだけ。


「それの何が悪い。俺の大事な者は息子だけだ。他は死のうがどうでも良い。それに……」


「貴様……!」


 自らの父親の言い分にフランの父親は死んだ目になってしまう。

 己自身も怒りを覚えるが、それ以上に相手の義父と自らの父の怒りに呑まれてしまい冷静になる。


「貴様の妻が俺の妻を殺したんだろうが!あの場にいた状況的にそれしか考えられない!」


「何を根拠に……!」


「予想位は付く!俺の妻が貴様の家族を殺した時に反撃にあって殺されたのだろうよ!でなければ妻は当たり前のように隠蔽工作をして逃げきれただろうさ。貴様たちさえ、いなければ逃げ切れたのに!?」


「ふざけるなぁぁぁ!!!」


 フランの父親はもう何も考えたくない。

 自分の所為で父と義父が殺し合い、そして愛した女の家族が母を殺したと予想され何をしたら良いのわからない。

 ただただ、その場に突っ立って殺し合いを見ている事しか出来ない。

 いつ殺し合いの余波に巻き込まれ死んでも良いとすら考えていた。




「死ねぇぇ!!」


 ロアは両手に剣を持ってキアに切りかかる。


「甘い!」


 だがキアは両足を切られようと魔法で浮かび、更に攻撃までしてくる。

 大量の血を流している上で複数の魔法の同時発動。

 かなりの集中力を使うはずなのに、その上で挑んできている。

 火事場の馬鹿力というモノなのかもしれない。


「まだまだぁ!」


 連続して攻撃される魔法を突き進んで殺そうとロアは直進する。

 何度直撃しても決して、ひるまない。

 ただただ、殺すために突撃していく。


「いい加減に死ねぇ!」


 キアは殺すために命を削りながらも魔法で攻撃する。

 既にかなりの出血をしているのだ。

 命を懸けてロアを殺そうとしている。


「貴様が死ね!」


 そうでなければ自分の息子が殺されてしまうと考えている。

 何せ自分ならそうするとキアは考えている。

 相手の家族が死んだ元凶は自分達だ。

 殺しても殺したりない。


「………貴様ら良い加減に止めろ!」


 ようやく追いついて来た騎士たちが二人を止めようとするが、それを無視して殺し合いを続ける二人。

 下手に近づいたら巻き込まれて死にそうで止めたくても止められない。

 取り敢えずは近くに立っているだけのフランの父親を回収しようと近づく。


「そういえば貴様もいたな」


 ロアは何度か直撃を受けながらもジッとフランの父親を見る。

 その視線に気づいた騎士とフランの父親は背筋が凍り動きが止まる。

 それを見逃さすロアは一気にフランの父親との距離を詰める。

 それを防ごうとキアはロアに攻撃を激しくする。

 だが。


「っつぁぁぁ!!」


 既にフランの父親の腕を斬り落とす。

 同時にロアの片腕も吹き飛んでしまう。

 残った腕でフランの父親の首を切ろうとするが近くにいた騎士に防がれてしまい叶わない。


「貴様ぁ!!」


 その叫びと共に連続してロアへと魔法が直撃する。

 何度も何度も連続して魔法が直撃していき、止まったのは他の騎士がキアを止めてからだった。

 これにはもう死んでしまっただろうと死んでしまっただろと騎士たちはフランの父親とキアへ死なないように応急処置をする。

 まずは事情を知る為に生きている者へ対処が先だ。


「………死ね」


 だがそれも失敗に終わる。

 キアがこれで死んだと安堵した瞬間にロアが手にしていた剣を投げ頭に突き刺さったせいだ。

 当然ながら即死だ。


「親父!?」


「ぐっ!?」


 そして自分の父が死んだことに驚くフランの父親にも魔法が襲い掛かる。

 自分の父親よりも弱い魔法だが直撃したら危険な威力。

 だが隣にいた騎士が防いでしまう。


「許さない……」


 そう言って体中が血だらけになりボロボロなロアがフランの父親に近づいて行く。

 その姿に騎士もフランの父親も距離を取るように後ずさる。


「貴様の所為で。妻も娘も孫娘も殺されてしまった。貴様なんかとの結婚を許した己が憎い」


 義父の言葉にフランの父親は何も言えない。

 たしかに殺されてしまったのは己の所為なのだ。

 殺してしまったのは自らの父の言葉を信じるなら己の母なのだから。

 自分が夫でなければ、そして父でなければ妻も娘も殺されなかったと予想できる。


「すまない」


「っ!!」


 義息子の言葉に義父は怒りで思考が飽和し己の生命の全てを使って殺すことを決意する。

 義父が何をしようとしているのか理解した義息子は近づいて止めようとし、騎士たちは狙いである義息子を護る為と命を護るために距離を取る。

 そして莫大な威力が込められた魔法を義息子に向けられる。

 もはや近くにいた騎士諸共、死ぬしか無いと思った瞬間に声が響いた。


「………すごい威力」


 小さい子供が義息子の前に現れ手にしている身の丈を超えた大剣を斜め下から振り上げたことにより義父の生命を賭けた魔法は両断された。





「………え」


 それを見た騎士たちは何で子供がここにいるのとか、どうやって魔法を斬ったのか意味がわからずに困惑している。

 それは義息子も同じ様で死んだと思ったのに助かったことに酷く動揺していた。


「……珍しい。生命全てを使った魔法とか。斬れるか確かめたくて邪魔したけど何があったんだ?」


 少しだけテンション高くケンキは首を傾げる。

 生命を全て賭けるとか珍しいモノに興奮してしまっている。


「………何でここにケンキくんがいるんだい?」


「……?」


 この中でケンキのことを知っている者もいる。

 国の中でも特に偉い者たちに気に入られていることを知っているからか気を悪くしないように慎重に聞いている。


「………お前たちこそ何で?護衛じゃないの?」


 ケンキが自分達をちゃんと認識していることに驚く騎士。

 面識は互いにあるが鍛えられている者の一人としか認識していないと思っていたのだ。

 個人として覚えているとは思わなかった。


「まぁ、出張のようなものです」


 それなりに付き合いがあるのに覚えないことに関してクソガキとも思っているが、同時にしょうがないとも考えている。

 この年齢で大人の自分たちより強すぎるからこそ色々と犠牲にしているんだなと納得している。

 むしろ幼い子供がイカレテしまっている姿を見て心配している者も多い。


「…………そう」


 少しだけ非難の視線が向けられていることが分かり苦笑する。

 騎士にとってケンキを特に認めているのは忠誠を向けている相手を大事にしていることが分かるからだ。

 ケンキ自身は忠誠を向けているわけでは無いかもしれないが己のできる限り気に掛けているのは理解できている。


「安心しろ。主からの指示だし、俺は皆を信頼している。俺がいなくても主たちを護れると」


「………そう」


 騎士の言葉を聞いてケンキはフランの父親を見て楽しそうに哂う。

 そのことに騎士は溜息を吐き、顔を見た者達は怖気が奔る。

 無意識ながらも一歩後ずさっているのが大半だ。


「……おい」


「……っ」


 平然とケンキの頭を叩く騎士に畏れの視線が集まる。

 殺されはしないだろうかと心配してしまう。


「なんで、そんな哂いをするんだ?ハッキリ言って怖いぞ」


「……ただ単に教会にいるシスターを奴隷にしていたらしい男だなって」


「は?」


 誰よりもケンキの言葉に反応したのはフランの父親だった。

 そして教会のとあるシスターが自分を見て怯えていた理由も理解する。


「俺たちは知らないんだが……」


「……こいつが教会に行った時のシスターの反応とこいつ自身の罪を知ればわかることだ。……今のはカマかけなのもあったし」


「そういえば君は大雑把なことしか事前に予知することが出来ないんだっけか?」


「……うん?」


 ケンキの言葉に溜息を吐く騎士。

 本人自身も詳しく理解していないからか適当に頷いているのが分かってしまう。


「……待ってくれ」


「………今、言ったのは事実」


 フランの父親の疑問を口にせずとも察し返答するケンキ。

 何で疑問を口にする前に答えられてのか謎だが、それが事実なら自分がこの地にいることを知られたのは教会の所為では無いかと予想する。


「………流石にそこまでは知らない」


 心を読めるのではないかと思い、今すぐに馴染みの教会へ行こうとするフランの父親。

 だが血を流しすぎているせいで動けない。

 それどころか意識を失ってしまっていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 母方の祖父祖母とか父方の祖父祖母は名前を言った方がややこしくなくなると思います。 すごくややこしくて読みづらかったです
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