懺悔と決意の結果
「その……。久しぶりです」
「久しぶりですね」
「はい、久しぶりです」
久しぶりに会った親子にメルシーは挨拶を返す。
急に来なくなった理由が気になるが敢えて聞かないことにする。
言いたくない理由があるかもしれないし、聞くとしても向こうから話すことを決めてからだ。
「最近、そちらに行かなくてごめんなさいね。娘が急に体調を悪くしちゃって。それに男の人に恐怖を抱くようになっちゃったのよ」
そういう理由ならしょうがないとメルシーは納得する。
自分も男性が信じられなくなった時期があるから深く頷いている。
実際は今も神父以外は警戒して過ごしている。
「大丈夫?男の人が怖いなら学校にも行けないでしょう?この教会は私や他にも男性に恐怖を抱いて克服した者も多いから安心して過ごせば良いわ。それに勉強についても教えてあげることは出来るし」
「本当ですか!?」
フランはメルシーの言葉に顔を上げるが、それよりも母親が大きく反応する。
最悪、転校しなくてはいけないと思っていたのに、こんなところで教えてくれる教師がいることに母親は喜ぶ。
支払うべきお金も最小限で済むかもしれないと、こちらから頭を下げてお願いしたいと考えているぐらいだ。
他にもシスターが通っていた学校にも小学校を卒業したら通わせれるかもしれないと眼を日かrセル。
「え……えぇ。本人が良ければ教えて上げますよ」
「なら、お願いします!」
メルシーは学校に行っていないから学業について母親が不安になっているのだと予想する。
そして、その理由に納得する。
この世界では根本的に男性よりも武力が付きにくい女性は将来的に学力を得ることで安泰な生活ができる。
武力で活躍できる女性は数少ないのだ。
「おや、三人とも何の話をしていたのですか?先程から頭を下げていたり、お願いしますと言う声が聞こえてきたのですが?」
「ひっ」
突然、神父から声を掛けられたことにフランは悲鳴を上げて母親を盾にする様に挟んで神父から隠れる。
その反応に神父はショックを受けてしまい、母親は慌てて娘をフォローする。
「すみません!うちの娘、急に男性恐怖症になっていて!許してください!」
娘を後ろに必死に謝る母親の姿に神父は周りから冷たい目で見られる。
事情を知っているメルシーも冷たい目を向けて来ていて神父は辛くなる。
これ以上は冷たい目にさらされるのも辛く頭を上げるように神父は頼んで漸く頭を上げてくれて胸を撫で下ろす。
「そうですか。急に男性恐怖症になるなんて何があったんです………か!?」
神父が男性恐怖症になった理由を聞こうとしてメルシーに頭を叩かれる。
あまりにも無神経すぎると怒りを覚えたからだ。
「神父様、そんなことを聞かないで下さい。一歩間違えたら女の子の心を傷付けてしまいますよ……」
メルシーの過去を知っているからこそ神父は顔を青くしてフランに謝る。
女の子の心を傷付けるつもりは無かったのだ。
「……大丈夫。情けないけど、この写真を見てから男性が怖くなって」
「フラン!?」
娘が写真を取り出して理由を告げたことに母親は驚く。
まさか理由を教えるとは思わなかった。
写真を見るだけで男性恐怖症になったのはおかしいのだと分かるからこそ、理由を更に母親は付け足す。
「その……その日は体調が悪かったのか、写真を見せた日に男性に襲われた夢でも見たみたいで……。それがトラウマになってしまったと思うんです」
夢が原因だと聞いてメルシーはホッとする。
そして神父はそれだけで男性恐怖症になるのかと首を傾げるが、幼い女の子だし繊細なのだろうと納得していた。
メルシーがホッとしていたのは実際に襲われていないと分かったからだ。
それでも繊細な女の子が傷付いた事実に抱きしめて慰める。
「………そう辛かったわね。そんな夢を見るということは近くにいる男の子や大人の男に警戒をしているの?」
「うん」
「……そう写真をもう一度見せて……!?」
メルシーがフランが男性恐怖症になったのは実際に近くにいる男性が襲いそうだと察知したのも理由だと考えている。
実際に自分も襲われた日に何か嫌な予感がしていた。
そして写真をもう一度、確認すると自分を襲ったあの男が写っていた。
「……せんせい?」
フランはメルシーが写真を見て固まった姿に困惑する。
気付けば顔は青くなっており身体も震えていた。
「……先生!?」
突然のメルシーの様子の変化にフランは身体を揺さぶって意識を確かめる。
それで漸く母親も神父もメルシーの変化に気付く。
「急に何があったんですか!?」
「……ひっ」
怒声というわけではないが近くで叫ばれたことでフランは完全に怯えてしまい何も話せなくなる。
幼い女の子の近くで叫んで怯えさせてしまったことに神父は後悔しながらも原因を探る。
そうしているとフランの手にある写真を見付ける。
先程、見せて貰った写真をもう一度、確認すると神父は険しい顔になる。
これはメルシーを性奴隷にしていた男の写真だ。
ついつい険しい顔でフランに尋ねてしまう
「………何でこの写真を持っている?」
メルシーの過去を知って、からかう為に持ってきたのだったら許せるはずが無い。
この教会で勉強など教えているがメリットを無視してでも出来んにするつもりだ。
「なんのつもりですか!?それは学校でもらった写真でこの街に住んでいるらしいから気を付けるように渡された物です!」
「え……」
母親の説明を理解すると神父は怒りが引いて落ち着く。
簡単に頭に血が上ってしまったと反省してフランたち親子に頭を下げて、頭を冷やして教会の奥へと行こうとする。
「待ちなさい」
それを母親は引き留める。
理由も言わずに去るのは許すつもりは無いのだ。
「……その写真の男はそこにいるメルシーを性奴隷にしていた男です。トラウマなので出来ればメルシーに見せないで下さい。それと頭を冷やしてきます」
それだけを言って神父はフランたちの前から去る。
母親はそういうことかと納得して二人を慰めようと抱きしめた。
「え………」
フランは神父から父親が自分が特に慕っているメルシーを性奴隷にしていという事実を知って絶望する。
そして父と同じ血を引いていると考えて吐き気が襲ってくる。
「………この写真の男が先生を苦しめたの?」
「フラン!」
嘘だと言ってほしくてフランはメルシーに問いただす。
母親は余計に苦しめてどうするつもりだと娘を叱る。
だがフランは止めずに確認しようとする。
「答えて!?」
メルシーは何でそんなことを聞きたいのだと嫌な気持ちになるが真剣な顔で青ざめている様子のフランに考えを変えて頷くことで答え、そして質問する。
「もしかして知り合い?」
「………うん」
何となく思い至った考えが当たっていたことにメルシーは顔を青褪めフランを心配する。
知っている人が犯罪者なのは、たしかに恐怖を覚えてしまう。
そして、これまでよく無事だったなと思ってしまう。
「よく無事だったね。何もされていなかった?」
「……うん。いつも優しくしてくれる人だったから信じられなくて」
「フラン?」
メルシーの質問に大丈夫だと返すが母親の怒りを感じてフランは身体を震わせる。
当然のことだ。
母親にとって見知らぬ男と娘に付き合いがあったのだから。
「男の子と仲良くなるのは良いけど、大人の男の人には警戒するようにしなさい。男はオオカミなのよ。しかも相手は犯罪者だし」
母親の発言にフランは写真の男が父親だと気付いていないことに呆れと安堵が混ざった息を吐く。
これで気付いていたら、どうなっていたか全くわからない。
「ふう。それじゃあ帰るわよフラン。そちらも体調が悪いようですし休んだ方が良いと思いますよ?」
「……ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますね」
一礼してメルシーは神父と同じように教会の奥へと向かって行こうとする。
「……へぇ、面白いな」
そこに妙に教会内で声が響き渡る。
その声の持ち主を探してフランは教会内を見渡す。
声からして自分と同じぐらいの男の子だと判断して探すと教会の入口に男の子がいた。
それを確認するとフランは走って駆け寄る。
彼なら自分のすべきことが分かっていると直感したからだ。
答えを教えてもらおうと近寄る。
「私は!どうすれば良い!ですか!」
「……?」
「教えてください!」
母親はこの娘は急に何を言っているんだと呆れる。
何も知らない少年に質問しても答えられるわけがない。
しかも質問の仕方も知っていることが前提だ。
「……取りあえず知っていることを、気付いたことを話したら?それが嫌なら黙っていれば良い」
「それは……」
「他にも大好きな親が犯罪者として捕まえられたくないなら殺せば良い」
「成程」
なんか危険なことを言っていてフランもそれに頷いてしまっている。
目をぐるぐるとさせていて話の内容に混乱しているようだ。
娘を人殺しにはさせないと母親はフランに駆け寄り抱きしめて少年から離す。
「………あぁ、男の見る目が無い女性か。しかも子供まで産んでいる。お前は自分の娘を可愛がっているみたいだけど、事実を知ったらどうなるかな?」
「訳のわからないことを言わないで!!」
子供が訳の分からないことを言ってくることに母親はキレて怒鳴る。
娘が子供の言葉を聞くたびに怯えるように震えているのも気に食わないのだ。
「貴方は何を知っているのよ!?」
「……何も知らないが?」
「ふざけないで!じゃあ何でこんなに娘が震えているのよ!?あなたが何かしたんじゃないの!?」
「……さぁ?適当なことを言っただけ。聞きたければ娘から聞けば良い。でなければ後悔するよ」
そう言って少年は教会から去ろうとする。
面白そうなところに出くわしたとも思っているが、ずっと怒鳴られているのも面倒なのだ。
それに詳しい事情は何も知らないのも事実だ。
聞き出すところも見たいが話すのは、どうせ家の中だろうし、それで不法侵入する気にもなれないから少年は諦める。
「……あぁ、そうだ。君は隠していることを話した方が良いだろうね。そのままじゃ近い内に潰れるよ」
ただ余計なことを言って少年ケンキは教会から出て行った。
「………あぁ、愉しみだ。どんな答えを出すのだろう」
そう言いながら教会から離れてケンキは独り言を漏らす。
実際には、どんな未来があるのか想像もついている。
それでも見に行ったのは、どんな女性なのか知りたかったからだ。
只の興味本位だ。
「………それにしても何で、あの女の子は俺に近づいて来たんだ?」
しかも、どうすれば良いか聞いて来た。
会ったことも無いはずなのに答えを求めてきたのが謎だ。
そんな答えは俺は持っていないのにとケンキは首を傾げている。
「……それにしても、可哀想にあんなに三人とも若いのに残念だ。まだまだ、やり直しが効くだろうに」
彼女たちの未来を想像してケンキは本当に残念そうにつぶやく。
未来が予想出来ているからこそ残念に思うのだ。
だからと言ってケンキには止めるつもりは一切ない。
興味があるから見に来ただけで干渉するつもりは一切ない。
それで誰かが死のうが不幸になろうが知ったこっちゃない。
「……さてと興味のあった相手の顔は見れたし今日はどうするか?」
これからの時間の使い道に頭を悩ませるケンキ。
とはいっても、やることは決まっている。
訓練だ。
「……よし、国の外へと行くか」
そこでなら邪魔することなく鍛えられると判断してケンキは城壁の外へと向かって歩く。
頭の中では、どんな魔獣と相対するのかでいっぱいだ。
「待ちなさい!」
そこへケンキへと声を掛ける者が現れる。
その声に面倒そうな顔をしながらもケンキは振り返る。
そこにはサリナとユーガがいた。
「要件は終わったの?」
ケンキはバカ正直にサリナの疑問に頷く。
言わない方が好きに行動できたが、嘘がバレたときのことを考えると正直に話した方が楽だと考えた理由もある。
「それなら鬼ごっこに付き合ってくれ」
隣でサリナも頷いており、ケンキはまたそれかと溜息を吐く。
最近、鬼ごっこを学校でやり始めてから妙に流行っている。
昨日も参加させられて教師まで鬼ごっこに参加し始めていた。
教師の参加して良いかの言葉に頷いたのはケンキだが本気で参加して来るとは思わなかった。
何となく挑発したら攻撃もしてきて、いつもより楽しめたが、その教師と一緒に怒られて説教もされた。
「………また説教されるのは嫌なんだが?」
「大丈夫だ。そこは既に先生が納得してくれている。怪我をしたら治せるように回復魔法を使える者も準備してくれたらしい」
「……準備万端だな」
話を聞いてケンキは呆れてしまう。
そこまで鬼ごっこがしたのかと。
普通は、もう二度としないように行動すると思っていた。
だが実際は推奨するように準備をしている。
どれだけ流行っているのだと、溜め気が出る。
「何だ、不満か?折角、少しはお前の訓練になると思ったのに」
「………いや、わかった。一緒に学校へ行けば良いんだな?」
ケンキが鬼ごっこをすることに嬉しそうに笑いながらユーガとサリナはケンキと手を繋いで学校へと向かう。
逃がさない為に手を繋いでいるんだろうとケンキは考えながら引きずられていった。
「………それじゃあフラン、教えてくれないかしら?」
ケンキが教会から去った後、フランたちも教会から去り家で母親から質問責めにあっている。
突然現れた少年の言葉に反応し、意味深に言われた言葉の意味を知っている娘に確認をするためだ。
どうも後悔すると言われて母親は気になってしまっている。
「それは……」
漸く話そうと気になっている娘に母親は焦らないで答えを待つ。
焦りで急かして話すことを止めるのを防ぐ目的もある。
「多分だけど、この写真はお父さんの若い頃……っ!!」
その写真を見た瞬間、母親は考えるよりも先に手を出してしまった。
大切な娘が愛する夫を犯罪者だと告げたことに、どうしてそんな悲しいことを言うのか分からずに怒りが湧いたせいだ。
「………いだい…」
娘が泣いているが、泣きたいのは母親もだ。
娘がそんなことを言うなんて考えもしていなかった。
「泣きたいのはこっちもよ。何でそんなことを言うの?」
泣きそうな声で母親は娘を叱る。
何でこんな娘に育ったのか悲しいという気持ちがありありと含まれている。
当然、娘もその気持ちを察する。
「じゃあ!お母さんも調べれば良いじゃん!!おばあちゃんの持ってきたお父さんの写真に同じのがあるもん!!お父さんも夜にこの写真を見てバレたらマズいって怯えていたもん!!」
そして泣きわめく。
言いたい事だけを言ってフランは母の前から逃げ出してトイレの中へと閉じこもる。
鍵を閉めるおまけつきだ。
母親はそんなフランにお腹が空いたら出てくるだろうと考えて放っておく。
だが娘の誤解を解くために義母の部屋へと行って写真を確かめる。
今は丁度、母親と一緒に買い物に出かけているのか居ないのでチャンスだ。
居たら思い出と共に語られて探すのも辛くなる。
「………これは本当にそっくりね」
何となく勘に従ったまま探すと、本当に写真と同じ格好をした夫が出てくる。
嫌な予感もあったとはいえ本当に見つかり、そして似た姿をしていることに嫌な汗が流れる。
「………夫のアルバムと聞いていたけど違う人の写真も混ざっていたのかしら?それとも偶々、同じ格好をしているだけ?」
現実を受け入れられないのか母親は写真を見て否定する。
早く義母が帰って来てくれと祈ってさえいた。
義母さえいれば、この写真が夫の若い頃の姿なのか確認できるのだ。
そして娘が夫を犯罪者だと言った理由も分かる。
これを見たならそう思ってもしょうがない。
「………フラン。お母さんが間違っていたから出て来て。もう怒っていないから」
「………でも」
「本当よ。お母さんもお父さんのアルバムを見たけど同じ格好をしていたし。別の人の写真が混ざりこんでいたかもしれないしね」
「……おばあちゃんはお父さんの写真しか入れてないって言ってたよ。……それに複数人写っているのもあるけど、絶対にお父さんが写っているし一人だけなのはお父さんって言ってた」
「…………そうなんだ」
聞きたくないことを教えてくれる娘に死んだ目になる母親。
義母に確認する必要がる。
もし今までの愛していた夫が嘘なら逃げる必要がある。
そして義母からもだ。
母親だからこそ分かるが自分の子供が罪を犯していたら安全に暮らせるように隠したくもなる。
そして父親のことを思い出して顔を青褪める。
今すぐにでも連絡をしてホテルにでも泊まらせようと頼むことにする。
もしかしたら人質になりかねないからだ。
「もしもし、お父さん?」
『急に電話をかけて来てどうしたんだ、お前?』
家に連絡して出てきたのは夫だった。
夫にはバレたくないために父親に代わって欲しいと頼む。
『………まぁ、良いけど。少し待ってくれ』
「わかったわ」
夫の言葉に頷いて母親は父親に代わるまで待つ。
無事なのか不安になってしまい早く変わって欲しいと焦ってしまう。
『どうした?急に電話をするなんて何かあったのか?』
声の様子から無事なのが予想出来て母親は安堵の息を吐き、自分の父親に要件を告げる。
「悪いけど今から少し会えない?お父さんに相談したいことがあるんだけど?」
『お母さんじゃダメなのか?』
「うん。できれば今回はお父さんが良い」
『わかった。今から、そっちに向かえば良いか?』
「ううん。今から言う場所に来て」
「……わかった」
そして落ち合う場所を連絡して電話機を降ろす。
そして未だトイレの中に隠れている娘に母親は声を掛ける。
「今から出かけるけど、お母さんのおばあちゃんと一緒にいなさい。お父さんの方は出来るだけ近寄らないように」
「……うん」
母親の注意に娘は頷く。
それを確認して母親は自分の父親へと会いに行く。
今日はホテルで暮らすことを告げるために。
「それで、どうしたんだ?」
母親は自分の父親と約束していた喫茶店で落ち合う。
そして席に座って開口一番に呼ばれた理由を聞く父親に口ごもってしまう。
「おい?」
父親が急に黙った娘に、どうしたんだと心配になって声を掛ける。
顔色も悪く気になってしまう。
「多分だけど、私の夫は犯罪者かもしれない。しかも学校でも娘から渡された写真の男かも」
「は?」
娘の言葉に父親は頭が真っ白になる。
信じて娘を任せた男が犯罪者だということにも、それを娘が告げたことにも。
そして指名手配されている事にもだ。
「それで夫の両親が知らない筈が無いと思って」
「待て!それはどうやって知ったんだ!?」
父親の質問にできるだけ冷静になって母親は答えていく。
「夫の母親が、夫のアルバムを持ってきたの。その中に若い頃の写真の中から指名手配された写真と同じ姿の夫がいたの。偶然、似ているにしては何もかもがそっくりだった」
「……そんな」
認めたくない現実に父親はこう垂れる。
受け入れたくないが娘がここまで言うのなら事実なのだろうと認めざるをえない。
「それでどうして欲しいんだ?」
そこで本題に戻る。
こうして直接呼んで話すのは他にも理由がある筈だと。
離婚をしたいなら協力するのも文句は無い。
向こうが何か言って来ても全力で蹴散らすつもりだ。
「………念のために今日はホテルで暮らして欲しいの。今日は私がアルバムと写真を見せて問い質すつもり。………もし知っていて黙っていたなら隠すために何をしてくるか分からないわ。もしかしたら離婚させないためにお父さんを人質にするかもしれないし」
離婚した理由を探られて罪がバレるのを防ぐために、そんなことを考えているかもしれないと娘は想像する。
それを防ぐために父親には離れて過ごして欲しいのだ。
それを説明すると父親も納得してくれる。
そのことにホッとして娘は気合を入れて家に帰ろうとしていた。
その姿に父親は待ったをかける。
「何?お父さん」
「マズイと思ったら、お母さんと孫を連れて直ぐに逃げろよ」
「わかっているわよ」
それだけを言って二人はそれぞれが住んでいる家へと帰った。
そして。
「お義母さんも帰ってきているわね」
玄関で靴を確認すると義母と母親の靴があった。
二人ともどうやら帰って来ていたみたいだった。
これから質問をするとなると自然と緊張して顔が強張ってしまう。
「お義母さん!」
義娘が帰ってきたと思ったら呼ばれて義母は何の用だと振り返る。
そして一枚の写真を見せられた。
それは義母の息子の写真。
いつの間にかアルバムから落ちていたのかと手を差し出して受け取ろうとする。
「あっ」
だがその手を義娘は避ける。
その行動に義母は何をするのだと険しい視線を向ける。
「……なにを「この写真、娘の学校から指名手配犯として受け取った物なんですけど夫と勘違いしましたか?」」
義娘の言葉に義母は更に目が鋭くなる。
隣にいた祖母はオロオロとし孫は近くにいる祖母を盾にする様に隠れてしまう。
「………そうね。息子と同じ格好をしているから間違えたわ。それで、どうしてこの写真を見せたのかしら?」
「夫が、この写真を見せた夜にまるでこの写真が自分であるかのように後悔していましたから。今更、こんな写真が出回るなんてって。もしかして夫は犯罪者なんですか?」
「……それを知ってどうするのかしら?離婚でもするの?」
「えぇ。娘を連れて夫の前から消えます」
母親はこの時点で夫が犯罪者で義両親、少なくとも母親は罪を犯していたのを知っていたと確信する。
罪を犯していたのを知らなかったら何のことかと困惑するだろうに、それはせずにこちらの反応を確認してくる。
たまらずに、どんな攻撃をしてきても対処できるように一歩引く。
そして、異様な雰囲気に孫娘と祖母も身を固くする。
「ふぅ。バレたらしょうがないわね。それに事実を知った結果、あの子が愛している貴女と離婚もさせたくない」
「え……」
だから、そう前置きをして義母は近くにいた孫娘と息子の相手の母親を殺す。
余りにも鮮やかな殺しに母親は何も反応を出来なかった。
「だったら殺すしかないわよね。死んでしまったら離婚も何も無いわけだし」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
義娘は自分の母と娘が首を落されたこと認識して絶叫する。
大切な娘と母親の遺体に飛んでしまった首を回収して繋げようとする。
死んだと認めたくなくて意識を取り戻すはずだと必死に首を繋げようとする。
その姿を哀れに思って義母は義娘を一思いに殺そうと剣を振り降ろす。
「………っつ!?」
だが義娘の魔法で弾かれる。
殺されると察した義娘が魔法を咄嗟に発動したのだ。
「………なんで殺したのよ」
「そんなこと犯罪者として息子が捕まりたくないもの。殺したら口なしだし。後は知っているのは貴方だけ」
「……私の娘をあんなに可愛がってくれたのに?」
「違うわ。貴女では無く息子の娘だからよ。それに、あくまでも一番は息子よ」
そこまで聞いて義娘は憤怒の表情で義母へと魔法で攻撃する。
思い出の家が壊れるのも気にしていない。
「あらあらあら」
だが、それらの攻撃を自分に当たるモノだけを斬り落とす義母。
それほどの剣技を見せられても義娘は義母を殺すためだけに魔法で攻撃する。
重要なのは義母を殺すことで、それ以外は頭には無い。
ただただ殺すためだけに行動している。
「………やるわね」
それでも義母は一歩一歩、義娘へと近づいて行く。
義娘の魔法を全くものとしていない。
「さようなら」
そして義娘へと刃を振り下ろし――
「ぐっ」
「がぁぁぁぁ!?」
義母は刃を握っていた腕を吹き飛ばされ、義娘は片腕を斬り落とされる。
そして義母は痛みに吹き飛ばされた腕を抑え、義娘は痛みを無視して更に追撃として蹴り飛ばす。
「がはっ!」
「………」
「ぎゃあぁぁ!!」
蹴り飛ばされたことで残った腕で蹴られた場所を思わず抑え、義娘に片足を魔法で吹き飛ばされる。
そして更に魔法でもう片足も吹き飛ばす。
「いだいぃぃ……!!ごめんなざい!!これ以上は……ゆるじで!!」
残った腕で降参の意思を伝える義母。
それを見て義娘はゆっくりと近づいて行く。
その事に義母はニヤリと笑う。
魔法を使えるのは義娘だけでは無いのだ。
近づいたところを至近距離で魔法で殺すつもりだ。
「………!!……!!」
そして義娘に攻撃する前に首を踏まれる。
その後に残った腕も吹き飛ばされて完全に抵抗できなくなる。
「………こひゅ!!」
そして何度も首を顔を思いきり踏みつけられる。
何度も使った魔法で攻撃しないのは既に魔力が切れて魔法が使えないからだ。
これ以上、攻撃をするなら物理的な方法しかない。
「う………。あ………」
そして義母も息途絶えになっている。
それが最後に目にしたのは義娘の踏みつけてくる脚だった。
「…………あ」
義娘は義母が死んだことで身体の力が抜けて倒れる。
義母に身体を斬られた傷が深く今にも失血死してしまいそうになる。
周囲には魔法を所かまわずに撃ったせいでボロボロになった家具があり、燃え盛っている。
「………」
母と娘が殺され、仇となった義母を殺したことで頭が真っ白になっている。
余りにも展開が早く当事者でも追いついていない。
それでも殺そうと行動できたのは娘と母を愛していたからだ。
義娘が倒れて少しして火が義娘にも燃え移る。
そして家の中の物が崩れたり倒れる音がしてくる。
義娘には立ち上がる力も入らなく逃げることも出来ない。
それでも娘と母親を殺した仇を殺せたことで死んでも後悔はない。
だが敢えて言うなら夫と結婚したことが人生の最大の過ちだった。
来世ではもう関わることのないように祈って意識が闇に消えていった。




