元パーティメンバー
「何なのよ!あいつ!私たちと一緒にパーティを組んだ時には手を抜ていたわけ!?」
「全くだ!お前らもそう思わないか!?」
ケンキの訓練所での動きを見て文句を言う元パーティメンバー。
嫌いではない、むしろ好感を抱いていだけに実力を隠していたことに不満がある。
「えっと。私としては昔から知っていましたし……」
「あぁ。実力不足なのはケンキでは無くて俺たちだからな」
他の二人にも同意を得ようとしたが知っていたと拒絶される。
「まぁ、あいつも未熟だからな。本気で動くとなると俺たちも巻き込みかねないから自重した結果がアレなんだ。本気で動かれたら……」
「動かれたら……?」
「死ぬぞ」
リーダであるユーガの実感がこもった言葉に何も言えなくなる二人。
それに対して、もう一人も深く頷いている。
「二人も見ましたよね。訓練所で生み出された衝撃波。あれに巻き込まれて無傷でいられますか?」
ケンキと料理を一緒に創ることを約束した幼馴染サリナの言葉に二人は渋々首を横に振る。
「そういうことだ。あいつは本気で動いて怪我をさせることを嫌っているからな」
「それでも、ある程度は手を抜けば大丈夫じゃないのか?例えば衝撃波を生み出せない程度に手を抜くとか」
その言葉を聞いてユーガとサリナは暗い顔をする。
その表情に何か悪いことを言ってしまったかと不安になる。
「あいつ、手加減が苦手なんだよ。どうやっても0か100でしか動けなくてなぁ。試しに動いて見ても、どうしても衝撃波を生み出して大変なことになったし」
「大変な事って……?」
「国の外。といっても直ぐに門が見える場所ですけど、衝撃波のせいで大量の魔獣に入学前に襲われてしまって」
「は!?」
「全部、ケンキが追い払ってくれて助かったんですけどね。もう諦めました」
そう言って溜め気を吐く二人に掛ける言葉が見つからない。
「そういえば、お前らってよく一緒に居るけど幼馴染なのか?ずっとパーティを組んでいたけど、そういえば聞いたことが無いと思ってな」
「お前らも同じだろうが。まぁ仲が良い自覚はあるけど、お互いのことを全く話してないのは問題ありまくりじゃあ……」
ユーガの反論と冷や汗と一緒に出た言葉に全員が暗い表情になる。
「ま……まぁ。今から知っていけば良いんじゃないでしょうか?ちなみに私は先程話していたケンキ君の幼馴染で趣味は料理ですよ。将来の夢は喫茶店を経営することです」
「それ料理の学校に行けば良くないか?なんで迷宮学園にくるんだ?」
当たり前の質問である。
少なくとも戦闘能力は必要ない。
むしろ料理の学校に行った方が良い。
「食材のいくつかは迷宮や国の外で捕れた魔物を使えば良いですし、それである程度は経費も削減できますから……。料理自体も家が喫茶店なので親から学べば良いですし」
サリナの言葉にそれで納得する。
実家が喫茶店なら下手に料理の学校で学ぶよりも受け継いだ味などで勝負した方が良いかもしれない。
ちなみにユーガはサリナの言葉にニヤニヤと笑っている。
「もう!なんでユーガは笑っているの!?」
それに気づいたサリナはユーガをぽかぽかと叩いている。
「俺もケンキの幼馴染だ。趣味は鍛錬だな。将来の夢は騎士団に入ることだ」
サリナたちの説明に納得している二人。
どうしてケンキのことをそこまで詳しいのか謎だったか幼馴染だということで理解する。
「成程。幼馴染だったのか。………ならケンキのことについて教えてくれないか?例えば過去の話とか」
「まぁ、良いが。何を聞きたいんだ?」
ケンキのことについて知りたいと聞くと頷いてくれる。
だが何を聞きたいと言われて悩んでしまう。
その結果。
「どうしてケンキの奴はあんなに強いんだ?俺たち同学年なのに圧倒的過ぎないか?」
一番気になったのはケンキの強さ。
少しでも強さの理由が知りたいと思ったのが理由だ。
正直に言って学園最強が就く生徒会長の座に自分たちと同じ1学年で就けるんじゃないかと思っている。 それは正解だと、この場にいる者は知らない。
「そうだな。ケンキは昔から俺たちが遊んでいる間も剣を振るか、魔法で遊んでいるかのどっちかだったからな。多分、その所為だろう」
昔からの努力と聞いて感心するが、同時に疑問が湧く。
それでどうやって二人と仲良くなったのか分からない。
「へぇ、それでどうやって仲良くなったのよ」
「えっと、私たちの両親が親友で一緒にピクニックに行ったんです。念のため魔獣も出ないような近場の草原で」
「成程。それで一緒に遊んで仲良くなったのね」
「いえ……」
二人は目を逸らして顔を暗くする。
何があったのか聞きたくなるような聞きたくないような。
「話したくないなら別に構わないからな。強さの理由が知りたいだけで過去の話まではしなくて良いし」
その言葉にむしろ話すことを決心する表情を浮かべる。
「いや、俺たちがケンキを贔屓しようとする理由も話したい。それで納得して欲しいし」
その言葉に二人は顔を見合わせて話を促す。
まずは話の内容を聞いてからだ。
「その時は親にケンキと仲良くなるように言われてな。ケンキの手を掴んで一緒に親の目を盗んで離れてたんだ」
「「はぁ!?」」
幼い子供が親の目から離れるのは自殺に等しい。
それが国の外なら尚更だ。
魔獣に襲われたかもしれないのに良く生きている。
運が良い。
「運が良かったじゃない………。待って、その話しぶりからするともしかして襲われたの?」
その言葉に二人は頷き、そして説明を続ける。
「はい。あの時は熊の魔獣に襲われました」
『ケンキ!奥の方へ行こうぜ!』
『そんなことより素振りでもしたい』
『いいから行こ』
二人の子供がぼーとしている子供の手を引いて森の近くへと歩いて行く。
『森の近くに行ったら魔獣に襲われるって聞いたんだけど』
『大丈夫!大丈夫!魔獣が現れても直ぐに逃げれば良いんだし』
『うん。私も冒険がしたいから行こ!』
『はぁ』
手を引かれている子供が溜息を吐く。
戻ったら怒られていることを予想しているのか深い溜息だった。
『ユーガにサリナだっけ?おとーさんたちが心配してるだろうし、戻りたいんだけど』
森の中を結構歩いて途中にケンキが歩くのに飽きたと言わんばかりに文句を言う。
二人はまだまだ足りないとケンキの手を引っ張りながら進んでいく。
『大丈夫だって!それよりも見ろよ、この剣!これでもしもの時は守ってやるから任せとけ!』
ユーガは父親に渡された剣を自慢げに見せ、サリナは羨望の眼差しを向ける。
ケンキはそれに対し溜息を吐く。
『何だよ!なんか文句があるのか!?』
『その剣?で魔獣を倒せると思っているの?』
『てめぇ!!』
ケンキの呆れたような言葉に逆上してユーガは手にした剣でケンキを切り裂く。
『キャアァァアァァァ!!』
当然、ケンキからは血が流れ出てる。
その姿にサリナは目の前で自分と同じぐらいの子が死ぬ恐怖に怯え、ユーガは自分の仕出かしたことに腰を抜かしている。
『違う、違うんだ……』
現実逃避をしている二人にケンキは斬られたまま、どうするか頭を悩ませる。
ケンキからすれば剣で斬りかかってきた相手に優しくしようとも思わない。
それに無理矢理、森の中へと連れてこられた。
このまま二人を置いて親たちの元へと戻ろうかと考えている。
『グギャァァァ!!』
そして近くから魔獣の叫び声が聞こえる。
段々と音が大きくなり近づいてくるのがわかり、ケンキはユーガの持っていた剣を手に取った。
『え?』
『今の叫び声は!?』
『魔獣が現れたか!?クソ!子供たちは何処にいる!?』
ケンキ達がいなくなってから子供の親たちは必死に汗を流しながら探し回っている。
調べれるところは調べ尽し、あとは森の中だけだ。
『皆、もう森の中にいると判断した方が良い。何人か残して森の中を探ろう』
その提案に頷き、二人を残して森の中に侵入していく。
『まさか、こんなことになるとはな。子供たちが無事なら良いが……』
その言葉にユーガの父親が謝る。
『まずは済まない。多分、俺たちの子供のせいかもしれない』
どういうことかと、全員がユーガの父親に視線を向ける。
『念のために俺は子供に剣を持たせたんだ。持って構えることが出来ただけでも魔獣に対する時間稼ぎになる。その間に助ければ良いと思ってな』
それがどうしたというのだろう。
少しでも命を助ける為と考えれば悪くは無い考えだ。
『調子に乗って剣を持っているからと二人を森の中に誘ったかもしれない。特にケンキ君は自己主張が薄いからな。引きずられていく姿が容易に想像できる』
『いや。そのことに関しては息子も悪い。強く否定して私たちを呼べば良かったのだからな』
『………そう言ってくれると助かる』
そうしてお互いに苦笑する。
『ギャ!?』
だが再度、魔獣の叫び声が聞こえたせいで苦笑していた表情が消える。
『っ!急ぐぞ!』
『おう!』
『グルルゥ!』
『護身用で使えないとも思っていたけど結構、使えるな』
魔獣はケンキ達を襲って来たがケンキは二人を背にしながらユーガから奪った剣で戦っている。
既に両者とも血に濡れている。
だが決定的に違う点がある。
ケンキがユーガのせいで血に濡れているのに対し、魔獣はケンキの持つ剣で斬られて血に濡れている。
つまりケンキは魔獣の攻撃を一度も受けていないのだ。
『すげぇ』
『………かっこいい』
その事実に二人は、自分と年齢も変わらないのに魔獣と戦っている背中に憧れてしまう。
『ユーガ。この剣、思ったよりも使えるな』
そう言って、また襲ってきた魔獣を避ける間に切り裂く。
『やべ………』
突然にケンキが剣を手から落とし身体も崩れ落ちる。
『『え……』』
急に倒れたケンキは顔を青くしている。
息は途切れ途切れで呼吸も辛そうだ。
それでも意識はあるみたいだが立ち上がれそうにない。
当然だ。
ユーガに斬られた傷から血が流れたままなのだ。
今まで動けたこと自体が奇跡で、いつ出血多量で倒れてもおかしくなかった。
魔獣も急に倒れたケンキに罠かと疑って警戒していたが、そうでないと知ると絶好の機会だと近づいて殺そうとして来る。
『くそ……!くそ……!』
ユーガ達は目の前でケンキが殺されそうになっているのに動けないでいる。
子供なのだ。
魔獣が怖くて、死ぬのが怖くて動けない。
『ガァァァ!!』
そして魔獣の牙がケンキに突き刺さる瞬間――。
『あぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
ケンキは立ち上がり魔獣の口に剣を突き立てた。
『グギャァァァ!!?』
魔獣は口の中に剣を突き刺されたことに絶叫する。
それでも魔獣は生命力が強く死なない。
『俺は死にたくない!お前が死ね!』
先程まで立ち上がれなかったはずのケンキが剣を持って絶叫している魔獣に何度も何度も剣を突き立てる。
その表情は最初に見せていたぼーとしていた表情ではなく生きる為に必死になっていた。
『ガ……ァ……………』
最初は大きい声で悲鳴を上げていた魔獣も何度も叩き切られているうちに声が小さくなる。
そして聞こえなくなってもケンキは剣を振るのを止めない。
『死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!』
何度も何度も剣を振るのを止めなかった。
『ここか!』
止まったのは子供たちの親が来てからだ。
ケンキの両親が落ち着くように抱きしめて漸く止まった。
『おどうざん!おがあざん!』
ユーガ達は自分たちの親が目の前にいたことで安心して泣きながら抱きついた。
その無事に生きている姿に親たちも安心して抱きしめ説教は後にした。
「その後、ケンキが倒れてな。俺たちの所為でもあるから見舞いに行ったのが仲良くなったのが始まりだ」
「お前ら。……いや子供の頃だから言っても変わらないか」
ユーガ達の過去を聞いてあまりの無鉄砲さに文句を言おうとしたが止める。
自分たちも覚えていないが子供の頃に似たようなことをしていたと言われたら否定できないのもある。
「ねぇ、見舞いに行って本当に仲良くなったの?他にも何か理由があるんじゃないの?」
魔法使いマイナの言葉に頷く。
「ケンキの奴、動けるようになってからも遊びにいかずに剣を振っていたんだよ。しかも以前よりも更に長い時間、集中して剣を振っていたんだ」
「そのことにケンキ君の両親が心配して私たちの無理矢理でも遊びに参加させてくれって頼まれたのが始まりなんです」
二人の説明にケンキの行動に子供らしくないと溜息が出る。
自分たちもそうだが子供の頃は遊んでいた記憶しかない。
訓練なんて嫌がって逃げていた記憶がある。
「うん?なぁ、二人とも」
もう一人の少年ナトが何かに思いつきユーガ達に問いかけようとしている。
「もしかしてケンキは手加減が苦手じゃなくて出来なくなったんじゃない無いか?幼いころの影響で」
「あぁ!?」
マイナはナトの言葉に納得の声を上げ、ユーガ達は目を逸らす。
「多分、そうだと思う。幼いころに魔獣と殺し合った時に死にかけたせいで手を抜くことが出来なくなったんだと思う」
だろうなとナトたちは頷く。
その所為でパーティを組めなくなったんだと思うと残念だ。
少なくともナトたちはケンキとパーティを組んでいて楽しかった。
全力を出さなかった理由も今では説明を聞いて納得している。
「……残念ね。もう一度、パーティを組みたいけど無理かもしれないわね」
「いや、ケンキがサポートに徹すれば大丈夫だろ。それで最初に迷宮に挑んでいたんだし」
それだとケンキのストレスが溜まるだろとユーガ以外の全員が睨む。
ユーガからのパーティを脱退して一日で迷宮をクリアしたのも全力で動けなくて窮屈だったためにストレスが溜まったからだとサリナたちは思っている。
「それか俺たちがケンキの生み出す衝撃波をモノとしないぐらいに強くなるか、ケンキが移動するだけで生じる衝撃波を消すぐらいだな」
前者は自分たちが強くなる必要が、後者は他人任せの問題解決だ。
当然、マイナたちはプライドもあって前者を選ぶ。
「そうね、私たちが強くなればケンキとまた組めるわね。それと……」
気になるのはケンキが移動するだけで生じる衝撃波を消すと言ったこと。
どう意味だろうか?
「衝撃波を消すってどういうこと?」
「よく助けてもらっているからな。お礼に悩み事を何か解決できないか聞いてな。それで移動の際に生まれる衝撃波が邪魔だと聞いてな」
マイナの質問にユーガは詳しく答える。
おそらくは良い方法が思いつかなかったから他の者にも意見を求めているのだろう。
「邪魔って……」
「移動の最中にも衝撃波が生まれるから、どれだけ速くても位置が直ぐにバレてしまうらしい」
そうなのか?と聞いても実際に生み出しているケンキ自身が言っているだけで他に調べようがない。
マイナたちも衝撃波を生み出せるわけでは無いから答えられない。
その反応にわかっていたと返すユーガ。
「まぁ、そうだよな。速すぎて衝撃波を生み出してしまうならスピードをワザと緩めれば良いけど、ケンキは手を抜けないからな」
そして溜息を吐く。
常に全力だから短期決戦にしか向かない。
もし同等の実力者がいたら最初はただひたすらに耐えるだけでスピードが落ちてくる。
そして体力が尽きたところを反撃すれば勝てる。
そのことをケンキも理解しているから手を抜くことを覚えようとしている。
「へぇ。なら私たちでも勝てるかもしれないわね」
その事を説明するとマリナはそんなことを言ってナトも頷く。
それに対して更にユーガは説明を続ける。
「ケンキは昨日、何時間ほど動いていたのか覚えているか?ずっと見ていた人が言うには一度も休んでいないんだぞ。少なくとも十時間は動けたはずだ。それまで耐えきれるか?」
ユーガの言葉にケンキの訓練所を使っていた時間を思い出して首を横に振る
マイナだけではない。
ユーガや一学年全員で挑んでも、あの訓練を見て勝てるとは思えない。
「何であんなに体力があるのよ……」
「全力で動いているから体力も訓練するたびに増えているんだろ……」
同学年の圧倒的な実力差にユーガ達は揃って溜息を吐いた。
「話を変えるけど誰か良いメンバー候補を見つけた?」
ケンキを抜けさせて空いたパーティを埋めるための人材を探した結果をマイナは聞く。
ちなみにマイナ自身は見つけていない。
それでも聞いたのは確認のためだ。
「その……。何人か見つけましたけど、まずは見てみませんか?」
「俺も有能そうなのは見つけたぞ。後はお前らの承認すれば連れてこれるが」
「俺は何人かメモをしたから、その者を一人一人確認して欲しい人材の順番に声を掛けようかと考えていたが」
マイナ以外の全員がそれぞれ見つけ出してきたことにマリナはショックを受けている。
見つけれていないなのは自分だけだと地面に手を付いてしまっている。
急な落ち込みにユーガ達も焦る。
「ど………どうしたんですか!?どこか調子でも悪いんですか!?」
サリナが落ち込んだマイナに近づいて背中を撫でる。
必死に心配しているサリナにマイナは大丈夫だと安心させようとする。
他の皆が見つけてきたのに自分だけが見つけれていなかったことにショックを受けていたと皆に説明されて、ようやく安心する。
「何だ心配させるな」
「全くだ。苦楽を共にするパーティなんだから気にするな。たかかパーティの候補を見つけられなかったぐらいで落ち込むな。探し始めて昨日の今日だぞ。むしろ俺たちの運が良かっただけだ」
そんなものかとマイナは考え込むがサリナがそんなものだと頭を撫でて慰めてきて、それどころじゃなくなる。
頭を撫でられるということに恥ずかしくなって何も考えらくなっている。
そしてサリナが当たり前のように撫でてくることに疑問が生まれる。
その撫でかたも相手が落ち着くようにしているのが理解でき、年齢に合わないそれに興味が湧く。
「サリナ。お前のその相手を落ち着かせる技術は何処で学んだんだ?」
「ふぇっ!?ええと……」
急に話しかけられたことにサリナは驚きパニックになる。
それに笑いながらユーガが代わりに教える。
どうもサリナは子供たちに慕われていて近くで転んで泣いたりした子を慰めていたりしていたらしい。
その経験から相手を落ち着かせることができるようだ。
「私は子供か!?」
「うぇっ!?」
その話を聞いてマイナは怒る。
子供扱いをされていると判断したからだろう。
慰められていた手を振り払って子供扱いは止めろと迫っている。
「落ち着け!」
そのことにユーガは頭を殴って止める。
サリナは胸元を急に掴みあげられた所為で怯えて涙目になっている。
その事を指摘するとマイナも悪いと思ってかサリナから手を放す。
実際にはサリナはマイナを子供扱いをしていない。
単純に自らに経験のある行動をマイナにもしただけだ。
幼い子供と同じように慰めたが子供扱いをしたわけではない。
「そうね。ごめんなさい」
「いえ、大丈夫です」
その説明を聞いてマイナは謝る。
サリナは受けれ入れてくれたが自らが余りにも短気過ぎると反省している。
少なくとも、どんなムカつくことでも一度は理由を聞かなけばならないと自戒することに決める。
「はぁ…。それじゃあ早速、俺の見つけた相手を見に行かないか?」
「……そうね。お願いするわ」
ユーガの言葉にマイナは甘えて見つけた相手を探しにパーティのメンバーと一緒に行く。
話を聞くと女性で戦闘能力は低いがケンキの数倍以上、補助能力に長けているらしい。
ケンキの補助能力はお世辞にも高いとは言えなかったが有るのと無いのとでは断然違う。
それの数倍と聞いて、どんな相手かとユーガ以外の全員が楽しみにする。
「どんな女性なんだ?性格とか大雑把なことでも知りたいんだが?」
「あぁ、結構な臆病者だな。直接的な戦闘能力は低くて戦闘訓練では逃げ回っている」
ユーガの言葉に全員が思い当たったような顔をする。
同学年で戦闘訓練で逃げ回るような人材は一人しか思い当たらなかったのが原因だ。
本当に役に立てるのか不安になる。
「えっと。本当に彼女は大丈夫なの?」
誰だが知っているからこそサリナも不安になって質問している。
折角、サポートとしてのケンキを脱退までさせたのに新しいメンバーに妥協はしたくない。
「安心しろ。本当に能力としては優秀だ。だが………」
ユーガがそこまで言うならと納得する。
「ナト、タンクとして確実に彼女を護れよ。俺も実際に組んだわけではないが一撃でも当たれば逃げ回りそうだ」
その言葉にパーティを組むのは止めた方が良いんじゃないかと考える。
「お前らには悪いが成績トップを目指すのは諦めた。目指すのは次だ。それまでに彼女の精神面を鍛え上げる」
成績トップを目指すのは諦めたのは納得する。
既にケンキがそれになっているから、目指すとしても二番手しかない。
それなら諦めて次に目的を定めるのは間違っていない。
それに本当に能力が破格なら、精神面を改善すれば成績トップを目指すのは夢ではないのだろう。
メンバーたちはユーガの意見に頷いた。
「シャルさんはいるか?」
「ひっ!!?」
早速、パーティを組もうとしている少女シャルのいる教室を尋ねる。
教室の中には本を読んでいる少女がいて声を掛けられたことと教室内の視線が一斉に集まったのが原因で悲鳴を上げている。
「悪いが来てくれないか?話したいことがある」
ユーガの言葉に怯えながらシャルが言葉通りにユーガ達の元へと向かう。
まるでイジメっ子がイジメられっ子を呼び出すような空気だ。
その空気に耐えきれなかったのか逃げるようにユーガたちはシャルを引っ張って迷宮へと連れて行った。
「あの何で迷宮に……?」
何も言わずに迷宮の入口へと連れてこられたことにシャルは疑問を口にする。
「すまん。お前は今、だれともパーティを組んでいないよな?」
その言葉に頷くシャル。
どうやらユーガは確認をしていなかったらしい。
パーティを既に組んでいたら、どうするつもりだったのかと全員に頭を叩かれる。
「いたた……。お前が良ければ俺たちとパーティを組まないか?ついでに精神面を鍛えてやる」
その言葉にシャルは目を見開いてユーガ達を見る。
臆病者と蔑まれている自分が学年でもトップクラスの実力を持つパーティに入れられることが信じられないのだ。
当然ながら何故と質問をしている。
「遠目でお前が様々な魔法を練習をしているのを見てな。罠を解除する魔法、創る魔法。対象を治癒させる魔法に身体能力を上げる魔法と、どれもが凄かった」
ユーガの言葉に褒められて照れるかとマイナたちは思ったが、シャルは顔を引き攣らせて怯えている。
何故なら基本、シャルが訓練をしているのは夜。
深夜とはいわないが暗い時間に訓練をしていたのだ。
その間、話しかけられずに見られていただけというのは怖い。
「あの………。私が訓練をしているのは、いつも夜なんです……よ?」
「あぁ、知っている。何度か見たが、いつも夜だったな」
メンバーたちは最初は引き攣った表情を見せたシャルに不快な気分になっていた。
だが二人の会話を聞いてシャルに同情する。
そしてユーガに対して怒りの感情が湧く。
女子に話しかけずに遠目から、ずっと見るのはストーカだとしか思えない。
女性陣はたまらずにシャルにユーガの視線から守るように抱き付き、ナトは深くそれはもう深く溜め息を吐く。
「き……急にどうした皆して?」
メンバーの行動に困惑していることから自分が何をしていたのかユーガは理解していないようだ。
そのことにシャルは更に怯えて身体を震わせる。
それを慰めるように何度も女性陣は背中を撫でて落ち着かせる。
「ユーガ。女性を暗い中、ずっと見ている者がいたらどうする?」
「通報するな」
即答で答えるユーガに何故、分からないと溜息を吐く。
案外、自分の事だと気付かないのかもしれない。
「それ、お前の行動そのものだろ」
「…………あ」
理解した瞬間、ユーガは女性陣の前で土下座をした。