発見
「急に帰ってきてゴメンね」
「別に良いわよ。それで、どうしたの?」
母親は自分の両親の家に娘と一緒に訪れる。
目的は娘を預かって貰うためだ。
「………えっと久しぶり、おばあちゃん」
「ええ、久しぶりね」
シンは久しぶりに会った孫の頭を撫でて可愛がる。
名前はシンだ。
「お母さんたちにはフランを預かって欲しいのよ。詳しいことは、まだ言いたくないし私も分からないけど。一旦、あの人と娘を離して過ごした方が良いと思って……」
娘の言葉に祖母は目を鋭くさせる。
自分たちが知らなかっただけで孫を迫害しているのではないかと疑っているのだ。
「ねぇ、フラン。どうして急にお父さんが怖くなったか言える?」
フランは母親の質問に首を横に振って答えるだけ。
実の親にも娘がこんな状態だとしか言えない。
「……殴られたり虐待をされたわけでは無いんだね?」
「……うん。だけどお父さんが急に怖く感じる」
顔を真っ青にして震えている孫を祖母は大丈夫だと告げるように抱きしめる。
これだけ怯えるなんて娘の夫が何をしたのか気になってしまい、同時に娘へと怒りを抱く。
何でこれだけ震えているのに今まで気付かなかったのか謎だ。
「……それじゃあ、私はあの人にこのことを告げるために帰るわね。お母さん、お願い」
「ダメ!!」
母親が自分を置いて元の家に戻るのをフランは強く掴んで止める。
今度は母親が被害者になってしまうのではないかと予想してしまって強い力で引き留める。
「………フラン?」
母親の言葉に応えず行かないでという意思を宿した目と態度に溜息を吐いてしまう。
このままだと動けないと説得をする。
「大丈夫。今日一日、お父さんと一緒に住むだけだから。それにお父さんは優しいのを知っているでしょう?」
「………うん。でも……」
母親の言葉に頷くがそれでも心配だとフランは言う。
「ふぅ。フラン、何で貴女が急にお父さんの事を怖くなったのか分からないけど後で病院に行くからね。今日の朝から急にお父さんを避けるようになったんだし多分、精神的なものだと思うの。それにお医者さんなら私たちに話しにくいことも話せるだろうし」
病院に行くと聞いてフランは身構えてしまう。
どんなことをされるのか分からなくて恐怖を覚えてしまうのだ。
何よりも話をして確証も無いのに父親のことを犯罪者と予想し、嫌悪して怯えてしまっていると大好きな両親に知られてしまうのが嫌だ。
だけど、心配されているからこそ無理矢理にでも病院に連れて行かれる可能性を考えると頷くしかなかった。
「………わかった」
フランの返事を聞いて母親は家へと帰る。
その前に自分の母へと父親に何かを本当にされてないか確認して欲しいと頼んでいた。
「さてとフラン。おばあちゃんと話をしようね」
祖母は娘である母親の頼みに頷いて孫が父親に何かされていないか聞き出そうと考える。
まだまだ幼い娘だ。
簡単に聞き出せると思っている。
「お父さんは好き?」
「うん。いつも優しくて、急に抱きついても抱き止めてくれるから好き。それに昨日も寝ている最中に急に起きてしまったのにトイレまで付き添ってくれたんだよ」
孫の言葉に嘘を感じない。
本当に父親のことも大好きなのだと感情が伝わって来る。
だが先程の父親に怯えている感情も本当だと理解できたから困惑してしまう。
「……お母さんも好きかしら?」
「大好きだよ?いつも美味しい料理を作ってくれるし、今度テストの結果が良かったらピアノも買って貰えるんだよ。今度、買って貰ったらピアノを弾いて聞かせて上げるね」
「それは楽しみだねぇ」
父親も母親も嫌っている様子は無い。
むしろ言葉通りに大好きだという感情が伝わって来る。
逆に何で父親に関して怯えているのか理解できない。
「そういえば朝はお父さんと会っていたんだよね?その時は大丈夫だったの?」
「うん。いつものと変わらない時間を過ごせていたよ」
ますます意味がわからなくなる。
孫が父親に怯えるようになったのは今日。
そして朝までは普通に接せることが出来た。
予想するとしたら、家を出てから学校に出るまでの間に何かあったかとしか思えない。
「おや、フランもいるのか?」
孫を膝に抱えて、どうして父親に怯えているのか悩んでいると祖父が帰って来る。
名前はロア。
挨拶もそこそこにフランの頭を撫でようとする。
「ひっ!?」
だが直前でフランは祖母の膝から跳び起きて祖母の後ろへと回る。
それで理解する。
フランは父親に怯えているのではなく男に恐怖を抱いているのだと。
これなら直前の朝まで平気で過ごせた理由が納得できる。
「あぁ、おじいさん。この娘、多分男が酷く苦手になったみたいだから少し距離を取った方が良いわ」
「………何があった」
祖母は祖父へと自分の予想を伝えると、孫を撫でられない怒りを祖父は燃え上がらせる。
まだまだ幼いのだ。
この歳から男性恐怖症になるのは、あまりに珍しい。
だからこそ孫娘が男に恐怖を抱くことになった原因を予想して、その原因に殺意が湧き上がってしまう。
「さぁ?聞いても教えてくれないみたいだし、娘も無理に聞きだして思い出させるよりはマシだと聞こうとしてないみたいよ」
「……理解は出来るが聞いていないのか」
その判断は難しいと理解して娘の行動に文句も言いにくい。
今ここで問い質しても娘の気づかいを無駄にしてしまう。
「……うん?そう言えば娘夫婦はいないのか?」
「えぇ。旦那の方は仕事でいないし、孫がこうなったって聞いてないみたい。今日は娘は旦那に孫のことを話して明日から、この家で生活するみたいね」
「旦那はどうするんだ?」
「家で一人暮らしさせるつもりでしょうね」
祖父は孫と娘と一緒に過ごすのが久しぶりで嬉しいが除け者にされた旦那を思うと可哀想に思えてしまう。
いくら娘を奪った相手だとしても一人にさせられるのは可哀想だ。
「急に一人で暮らすように言われて大丈夫か……?」
「孫娘を父親として愛しているみたいだし説明すれば案外大丈夫だと私は思うわよ?それに私からすれば旦那さんより貴方の方が辛いと思うし」
祖母の言葉に祖父はどういうことだと視線を向ける。
「フランは男に恐怖を抱いているのよ。さっきも祖父の貴方にも怯えていたし、少なくとも同じ家に住んでいながら距離を取る必要があるじゃない」
祖母の言葉に孫娘を見る祖母。
相変わらず祖母の後ろで祖父から隠れるようにしている孫娘をみて心が痛む。
何もしていないのに悪いことをしてしまった気分になってしまう。
「………そうだな。少し席を外す」
祖父は自分も傷ついているが、それ以上に怯えている様子の孫娘を見て席を外す。
少なくとも同じ空間にいるよりはマシだろうと考えての判断だ。
「いや、どうせだし男連中と女連中で別々に集まるか?娘の住んでいる家で旦那の方の父親と旦那と儂で。この家には孫娘と娘、それに孫娘から見て両方の祖母で集まるのも面白そうだ。久々に義息子とその父親と酒を飲みたいしな」
席を外してから思いついた案に我ながら良い案だと考える。
早速、電話機を手に取り義息子の実家へと連絡する。
「………」
「………」
「………。ふぅ、よし」
向こうの家にも孫娘の状況を伝えると賛同の意見が帰って来る。
何時からからは決めていないが、そのあたりも祖母に報告がてら相談しようと祖父は考える。
「悪い。今は大丈夫か?」
フランが祖母と一緒にいると推測して部屋の中に入る前に声を掛ける。
急に入って孫娘を驚かせたくはない。
「……入っても大丈夫よ。何か用?」
祖母の言葉に部屋の中へと入って要件を告げる。
「実は義息子の家族と電話してな。女性陣はこの家、男性陣は娘の家で集まろうってなってな」
突然の内容に祖母は驚く。
もしかして今、決めたのだろうかと夫を睨む。
「いや、男性に恐怖を抱くなら一度、身内の女性だけで集まった方が良いんじゃないかと考えてな。詳しい日程は決めていないが、できればすぐ近い内に集まろうと思っている。久しぶりに向こうの家族とも会えるんだ。フランも楽しみだろう?」
フランは急に話を振られて驚くがもう一人の祖母に会えると考えて頷く。
何時もは片方ずつしか会えていなかったから同じ場所で同時に会うのは楽しみになっている。
そんな孫娘に祖母は溜息を吐いて諦める。
「………わかったわ。何時から、そうするのか決まったら教えてね」
祖母の言葉に祖父は頷き部屋から出て行った。
そして次の日。
「久しぶりだ。三人とも」
「今日からよろしくね」
父方の祖父母が朝から来た。
男の方をキアといい、女の方をコランという名だ。
「………早いな」
「そうか?一応、そちらは何時でも来ても良いと言っていたからな。だから今日から来たんだが?」
文句は無い。
むしろ良く言ったと言いたい。
これで男が集まって家内がいない空間が作れる。
何時もは飲み過ぎると注意をされるから今日から好きなだけ酒が飲めると心の中はハイテンションになる。
「この人ったら早ければ早いほど良いだろうって言いだしてね……」
「まぁ、それはそれは」
聞こえてきた話の内容に義息子の父親を見る。
そしてお互いの目を見て共に理解する。
この男も自分と同じ目的が理由で早く来たんだと察しハイタッチをする。
「へ?」
「あら?」
自分達の旦那が急にハイタッチをしあって困惑する妻たち。
ここまで仲が良かったかと疑問に思ってしまう。
少なくとも以前に会ったときはハイタッチ何てしなかったし仲が良さそうに行動していなかった。
もしかして自分たちが知らない間に会って親交を深めていたのかと予想してしまう。
「二人とも急にハイタッチをするなんて。もしかして私たちが知らない間に親交を深めていたの?」
「……そんなことは無いが。急にハイタッチをしたのは、あれだ。何となくお互いの考えていることが理解できたからな。つい、やってしまっただけだ」
シンの質問に否定し別の理由を告げるが疑惑の視線を男連中は向けられる。
女性陣からすれば、それで仲良くなっているなら出会った時期を考えれば、もっと互いに親交があってもおかしくないと考える。
もう自分たちの子供が結婚して十年近く経っているのだ。
「あぁー。それよりフランに会って良いか?身内の男性も恐怖を抱いているみたいだが一目だけでも会って挨拶だけでもしたい」
「………まぁ、そうだよな。同じ女同士だしお前たちはどう思う?」
男連中の頼みと質問に女性陣は少し考えて、お互いの顔を見て頷き合う。
「そのぐらいなら構わないと思うわよ」
「そうね。ついでだし私も会いに行こうかしら」
そしてフランがいる部屋の前まで移動する。
「フラン、入っても良いかしら?」
「……うん、大丈夫」
フランはシンとは違う声だが聞き覚えのある声に疑問を持ちながら頷く。
危険を疑っていないのは家の中にまで危害を与える者が音もせずに侵入するとは思えないし身近な者の声だった気がするからだ。
「久しぶりね、フラン」
「大きくなったな」
久しぶりに会う父方の祖父母にフランは思考が止まる。
何でここいるのかという困惑と会えたことの嬉しさ、そして父方の祖父母に対する恐怖で頭が混乱してしまっている。
まさか昨日、話していた内容が今日くるとは思ってもいなかった。
「あれ?今日は平日だよな。学校は大丈夫なのか?」
「あぁ。なんか娘が今日は病院に行かせるから休むって言っていたから大丈夫らしい」
ロアの説明で学校に行っていない理由を理解するキア。
頭を撫でようとして距離を取られてしまい悲しくなってしまう。
孫娘が男性に恐怖を覚えていることは知っているが、それでも悲しいものは悲しいのだ。
「………こんな早くからお客さんかしら?」
母親の声にフランは二人の祖父から逃げるように玄関へと向かう。
玄関へと向かったのは母親の声がした方向なのと来たばかりなら玄関にいると考えたからだった。
「お母さん!」
「フラン」
駆け寄ってきた娘に母親は当然のように抱きしめる。
出会い頭に抱きついて来た娘が可愛くてしょうがない。
自分が子供の時は覚えている限り、こんなことは自分からは恥ずかしくてしょうがなかった。
だけど実際にこうしていると親不孝者だったと考えてしまう。
「はぁ。羨ましい」
「本当ね。このぐらいの時の私の息子も恥ずかしがって抱きついて来なかったのに」
「そちらも?私たちの娘、そうだったのよ。誰に似たのかしら?」
自分の子供たちが孫娘がしている行動をしていないことに不満を持つ祖父母たち。
やはり母親としては何時まで経っても可愛い子供が全力で甘えてきて欲しいものらしい。
シンは娘に対して自分にも抱きついて欲しいと視線で語ってきている。
「それじゃあ私たちは病院に行ってくるので……」
母親はその視線に病院に行くことで逃げようとしていた。
親不孝だと考えても、やはり抱きつくのは恥ずかしいのだ。
二人の祖母はそんな母親の姿に顔を見合わせて苦笑した。
「さてと……」
母親がフランを連れて行き家の中に入っては持ってきた荷物を置く。
結構な量を持ってきており、着替えの他にも色々と持ってきているようだ。
何を持ってきたのか知りたくて質問してしまう。
「息子の写真とかよ。息子の子供の頃の写真とか見せるのも楽しそうだしね」
「なるほど」
その意見にシンも娘の写真を取り出す。
娘の前で写真をみせてからかうのも面白いかもしれない。
二人は顔を見合わせて笑い合い二人が病院から帰って来るのを楽しみにしていた。
「ただいま」
「ただいまー」
二人の声が聞こえて来て揃って玄関へと迎えに行く。
帰ってきた時間が昼頃なのもあって丁度、昼飯が出来た時間だ。
「二人とも飯を作ってあるから中に入って早速食べなさい。私たち二人で作った料理だから美味しいわよ」
その言葉に頷いてフランたちは家の中に入り二人の祖母が作った料理を食べる。
フランにとっては二人の祖母が作った料理。
そしてフランの母親にとっては久しぶりのお母さんの料理ということもあって、ほっぺが落ちそうなほど美味しく感じる料理だった。
そして祖母たちは二人の反応に気を良くしながら一緒に食べていた。
「そういえばフランは病院に行ってどうだったの?」
食べながらフランの症状について質問する。
食事をしながらなら気分も軽く話してくれるだろうとの考えもあった。
「うーん。私が聞いた話だと結構な男性恐怖症みたい。できることなら学校も女子しかいかない学校に転校した方が良いかもしれないと言われたわ」
「……女子校ってお金がかかるわよね?そんなお金がある」
「無いですね!だか夫と相談して、どうするか決めようと思っています」
この世界では女子校はお嬢様が集まっている学校だ。
その為に入学するだけでもお金が掛かってしまう。
「……フラン、転校できなくて辛くても頑張るんだよ?」
「え?私は転校できなくても友達と別れる必要が無いから嬉しいけど……」
「でも恐怖を覚える男の子もいるんだよ。本当に大丈夫?」
祖母たちの言葉にフランは少しだけ考えて大丈夫だと口にする。
「いざとなれば保健室登校で学校に行ったり勉強は教科書とか問題集をやれば問題ないと思うし」
大丈夫だと強がっているように見えて母親も両方の祖母も心配になってしまう。
「それに何時まで経っても男性恐怖症でいるのは問題だから荒療治だと考えれば問題ないわ」
そう言い切るフランの姿に取り敢えず様子を見ることに家族たちは決めた。
無理そうだったら祖母たちは自分達からも金を出そうと考えている。
「そう。取り敢えずフランは食べ終わったら私と一緒にお父さんの写真を見る?昔のお父さんの姿が見れるわよ」
「見る!」
コランが話を変えようと出した話題にフランは飛びつく。
その形相は必死になっていて少しだけ引いてしまう。
「そんなに見たいの?」
「……うん」
真剣な表情で写真を見たいと頷くフランに、全員が変なものを見る目でフランは見てしまう。
余りにも必死でフランの母親も夫の写真を見たいと思っていたが萎えてしまう。
「それじゃあ食べ終わったら付いて来なさい。この家で借りた部屋に写真があるから」
フランはそれに頷いて昼食を食べる速度を上げていった。
その姿にどれだけ父親の写真を見たいんだと呆れてしまっていた。
「ふぅ。食べ終わったよ!早く写真を見せて!」
「はいはい」
フランが食べ終わりコランは一緒に自分が使わせてもらっている部屋へと向かう。
シンとフランの母親は食べ終わった食器を洗っていた。
「ほら、これがお父さんの写真よ」
フランの父親の写真はアルバムで何冊もあって大量にあった。
全て見るにしても一日使いそうな程だ。
「ほら、フラン。ここに座って」
そう言って指示をされた場所は祖母の膝の上だった。
言葉に甘えて膝の上に乗ると凄く安心感があり眠ってしまいそうになる。
つい身体を預けてしまうと頭を撫でられて幸福感が身を包む。
「………これを見てお父さんが赤ん坊の頃の写真」
身を包む幸福感に味わいながら見ると赤ちゃんの写真が見せられる。
これが父親だと言われても正直、信じられないのが本音だ。
「このころは、良く泣いてね。慰めるのが大変だったわ」
写真を見せられながら、しみじみと当時の思い出を話していく。
一枚一枚、話してきて全て覚えているのかと感心してしまう。
それだけ父が両親に愛されていたのだと理解できる。
「それで………」
父親の写真を見て思い出を語られて結構な時間が経つ。
ハッキリ言って聞いているだけなのにフランは疲労困憊してしまっている。
写真一枚一枚に対して情報が多すぎる。
「お湯が沸いたからお風呂に入っても大丈夫ですよ」
その所為でまだ小学校の時代の話までしかしていないのに日が暮れ始める。
風呂の準備までしてあって入るように促される。
「一緒に入る?」
「ううん。久しぶりに一人で入るから先に入っても大丈夫だよ」
「………そう。それじゃあ先に入らせてもらうわね」
フランの拒否に残念に思いながらコランは風呂へと向かう。
本音では孫娘と一緒に入りたかったから残念に思っている。
一人で入りたいと思うのも自立心からだと思うと微笑ましくて頷いてしまっていた。
「……行ったよね」
だがフランが祖母と一緒に風呂に入らなかったのは他にも理由がある。
それは自分の父親の写真を見る為だ。
勘違いでなければ学校で渡された写真と同じ姿をしている父の姿がある筈だと確信を抱いている。
「………とりあえず、これの最後の写真は………」
一緒に呼んでいたアルバムの最後のページを見ると、まだ小学生らしき姿の写真が載ってある。
どれだけ写真を撮っているのだと呆れてしまう。
もしかして十何冊もある本は全てアルバムじゃないかと冷や汗を流してしまう。
これから探すのは大変だと溜息を吐いた。
「まずは………」
そして適当に取り出したアルバムの一冊。
それを開いて見ると学校から渡された写真と同じ格好をしている父の写真があった。
「……ラッキー」
一発目で当たった嬉しさと、やはり父だったいう証拠が見つかった絶望が混ざり合って複雑な感情を抱いてしまう。
自分の父が女性を売るような仕事をしていたことにフランは男が信じられなくなる。
あんなに自分を大切にしていることを知っているからこそ裏切られた気持ちが強くなる。
もしかしたら父親だけでなく祖父たちも似たようなことをしているのではないか、学校にいる男の子たちも似たような罪を犯すのではないかと恐怖の感情を抱いてしまう。
そもそも自分以外の家族は父の罪を知っているのか確認したいが怖くて出来ない。
もし知っていたなら自分は逃げ出すが絶望で死を選ぶかもしれないとフランは考える。
「………フラン?おばあちゃんが出たみたいだから次に入る準備でもしなさい」
母親が部屋の外から声をかけてきたからフランは出していたアルバムを片付ける。
祖母がいないのにアルバムを勝手に見ていたのをバレたくなかったからだ。
「あら、フラン。お風呂から出たから次に入りなさい」
フランがアルバムを元の位置に戻し終わってから祖母が風呂場から部屋に戻って来る。
そして次にお風呂に入れという言葉にフランは従って風呂へと向かった。
「お風呂から出てきたらアルバムを見るのを再開しましょうね?」
「わかった!」
他のアルバムを勝手に見たことの罪悪感から勢いに任せてフランは頷いた。
「………ここまでが小学生の頃のお父さんよ。次は中学生ね」
「二人ともリビングに来て!ご飯が出来たよ!」
風呂場から出るとフランは約束通りにコランのいる部屋へと戻り、一緒に写真を見るのを再開した。
そして、そのままアルバムを見ながら思い出を聞いていると、フランの母親の声が聞こえくる。
時間を確認すると夕食を普段食べている時間になっていた。
一度、風呂へと入る為に休止したのを考えなければ、コランは昼からずっと喋り続けていている。
フランは聞いているだけで疲れてるのに大丈夫なのか疑問に思ってしまう。
「?どうしたのフラン?」
ずっと祖母の顔を見ていたせいでフランは疑問を持たれるが心配することは何もないと否定する。
代わりにずっと喋っているけど喉が渇いていないか質問していた。
「大丈夫よ。それよりもご飯を食べにいくわよ」
その言葉に頷いてコランと一緒にご飯を食べにリビングへと二人は向かう。
そこには母親とシンがご飯を前に食べないで座っていた。
「………お母さんたちはご飯を食べないの?」
フランはご飯を前にして食べないで座っているだけの二人に思わず質問をしてしまう。
目の前にあるのに食べないのが不思議なのだ。
「二人が来るのを待っていたのよ。ご飯は大勢で食べた方が美味しいでしょう?」
フランの質問に母親はそう返し、娘は急いでご飯の前に座る。
自分の所為でご飯を食べていないのだと知って悪い気分になる。
その後にコランも座り全員が手を合わせる。
「「「「いただきます」」」」
全員が一斉にいただきますと言って食べ始める。
「それにしても二人とも、ずっと部屋にいたけど何をしていたの?」
自分も孫娘と遊びたいが家事をして、それは叶わなかった。
それでも、ずっと部屋に籠り切りだったのは気になって尋ねてしまう。
「孫娘と息子の写真を見て思い出を語っていたのよ。かなり長く話していたのに、ちゃんと聞いてくれるから嬉しくて……」
「羨ましい……」
ずっと子供の思い出を孫に語っていたと聞いてシンは羨ましがる。
自分もしたいのだ。
丁度、家に住んでいるしアルバムもあるから自分も聞かせようと考えている。
「お母さん、羨ましいって。フランに私の子供の頃の話をするつもり?」
「そうよ。ちゃんと聞いてくれるなら私も語りたいし」
「やめて」
絶対に恥ずかしい過去も話すと予想できるからフランの母親は止める。
娘に失敗談なんて聞かれたくないのだ。
親としての威厳が無くなってしまう。
「良いじゃない。どうせ聞かれても問題ないわよ」
「恥ずかしいから止めてって言っているの!」
母親の珍しい態度にフランは目を見開く。
今まで一緒に暮らしてきて、こんな甘えるような駄々をこねているような姿は初めて見た。
「どうしたのフラン?目を見開いて」
「こんなお母さん、初めて見た」
「そう。勿体無いわね、こんなに可愛いのに」
コランの言葉にフランは頷く。
いつもは厳しいところはあるが優しい母親からは想像できない姿だ。
「………そういえば聞きたいことがあったんだった」
「何かしら?」
「持ってきたアルバムって全部、お父さんの写真が乗ってあるやつなの?友達が単体で写っていたりとかしていないの?」
「そうよ。持ってきたアルバムはお父さんが写っていたものだけ。友達も写っているけど、それは全てお父さんも一緒に写っているわ」
それでフランは予想が確信に変わり絶望する。
まさかの父親が追われている犯罪者だとは先日までは考えもしなかった。
フラン自身、夜に父親の呟きを聞いていなかったら今も知らないままだっただろう。
あの日の夜に目が覚めて起きたことに後悔する。
「フラン?どうしたの?」
コランは孫娘が急に顔を青くなったことに心配する。
その必死な声に母親は娘の様子に気付いて駆け寄る。
背中を撫でさすり額に手を当てて体調を確かめる。
「大丈夫?ご飯も食べられる?」
これ以上、心配させられないとフランは母親の言葉に頷く。
そして同時に父親の過去を本当に知らないのか疑問に思う。
片や親子、片や妻。
かなりの親しい間柄の筈だ。
本当に知らないというのも考え辛い。
「ねぇ?お父さんが犯罪者だと思う?」
ついそんな質問をフランはしてしまう。
フランの質問に聞いた家族たちはどういうことだと厳しい視線を向けてしまう。
片や愛する息子、片や愛する夫。
いくら愛する娘であり、孫娘でも何でそう思ったのか疑問に思う。
「何でそう思ったのかしら?」
「その………。お父さんが罪を犯している姿が夢に出て来て」
娘の理由に体調が悪くなったからそんな夢を見たのか、それともそんな夢を見たから体調が悪くなったのか、どっちが先なのか悩んでしまう。
「一応、言っておくけどお父さんはそんなことはしないわよ」
「そうよ。夢で見て不安になったのかもしれないけど大丈夫だから」
精神上、娘は体調が悪くなったから夢で見た内容を信じてしまったと考える。
そうでなければ、娘が父親に不信を抱いてしまうことになる。
「うん、そうだよね」
娘は未だに怯えている。
そんなに怖い夢だったのかと家族たちは考える。
少なくとも実の父親にも怯えてしまう程の悪夢だったと予想する。
「………そうか、知らないのか」
誰にも聞こえない声でフランは呟く。
実際は夢で出てきたと言うのは嘘だ。
ただ知っているかどうか反応を確かめるために咄嗟に出たのがそれだけだっただけだ。
結果は全員が知らないようだった。
そのことにフランは安堵する。
少なくとも、この家にいる家族たちは犯罪者ではない。
「今日は一緒に寝る?」
きっと悪夢を見ないように一緒に寝ようと誘っているのだろう。
これを断るのはマズイとフランは判断して頷く。
そして夕食後、皆で集まって父親のアルバムを見ながら思い出話を聞き、二人の祖母に挟まれる形でフランは眠りについた。