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勉強

「………次はフラン」


 名前を呼び渡されたのはテストの結果。

 緊張して見てみると点数の欄には100と書かれている。


「やったぁ!」


 100という数字を見てフランは喜ぶ。

 フランがテストの結果を見ての反応に他の生徒たちもフランの結果が気になってテストの点数を見ようとする。


「そんなにテストの結果が良かったの?見せてもらって良い?」


 その言葉にフランは頷いて100と書かれた点数を見せる。


「「「「おぉぉぉ!!」」」」


 フランの見せたテストの結果にクラスメイト達は驚嘆の声を上げる。

 喜びの声から良い点数を取れたのだとは予想していたが100点だとは思ってもいなかった。

 素直に褒めるしかない。


「まぁ、私からしたら驚くことでは無いけど頑張ったな」


 教師もそう言ってフランの頭を撫でる。

 だが驚くことの程では無いとはどういう意味なのか疑問に思ってしまう。


「だってフランはここ最近、授業も真面目に聞いて分からないところは先生に直接聞きに来ているからな。それだけの努力を見ている先生からすればこの結果はおかしくない」


 そういえばとクラスメイト達もここ最近のフランの授業の様子を思い出して確かにと考える。

 今までにないほどに集中して授業を受けていて毎日毎日、頭をふらふらにして帰っていた。


「本当にどうしたんだフラン?ここまで勉強に集中してくれるのは嬉しいが何があったんだ?」


「ふっふっふ。テストで良い点数を取り続けることが出来たらピアノを買ってくれるってお母さんが言ってくれたからね。買ってくれるまで頑張るわよ」


「………そうか」


 フランの説明に思わず先生もクラスメイトもアホの子に向ける視線を向ける。

 どう考えても勉強させるための方便としか思えないのに本気で受け取っているフランの姿に溜息が出てしまう。


「え?何?何で皆して溜息を吐いたの?」


 全員が同時に溜息を吐いてしまって不審がられるが何も言う気にならない。

 当然、騙されているということも教える気にならない。

 特に先生は真面目に勉強をしているからという理由で伝える気は一切ない。


「何でもない。それよりもピアノに興味があるの?」


「うん。最近、興味を持ったの。それでお母さんたちがテストの結果が連続して良かったら買ってくれるって約束してくれたわ」


 フランの話してくれた内容に騙されているという言葉を必死に隠して別の提案をしようと考える。

 それは学校にあるピアノを許可を貰って使うという案だ。


「………学校のピアノを貸してもらったら?許可を貰えたら弾けると思うし」


 そう言って先生の方を向くと首を縦に振って頷く。


「ちゃんと許可を貰ってからなら弾いても問題ないぞ」


 学校の先生に許可を貰ってフランは嬉しそうに笑う。

 教会だけでなく学校でもピアノに触れれるのが嬉しいのだ。

 その笑顔に嬉しく思いながら学校の先生はフランを生暖かい目で見ていた。




 放課後。

 フランは早速、校長先生にピアノを弾く許可を貰って音楽室へと向かう。

 その足取りはピアノに触れると浮足立っている。


「~♪」


 そんなフランにクラスにいる友人たちは後ろから尾けている。

 急に友人がピアノに興味を持ったことが不思議なのだ。

 それにピアノがどれだけ弾けるのか興味もある。


「………よし。誰もいないわね」


 フランはそう言ってピアノに座り、鍵盤に手を乗せる。

 流石に誰か使っていたら諦めていたが音楽室には誰もいない。

 これなら誰にも迷惑を掛けることは無いだろうとピアノを弾き始める。

 弾く曲は教会で少しずつ教えて貰っている聖歌のメロディ。

 楽譜を取り出して弾き始める。



「………すごい」


「……うん」


 ピアノを弾くと聞いて最初はただの興味本位だとクラスにいるフランの友達は思っていた。

 どうせ直ぐに飽きるだろうと。

 だが実際にはフランはかなりの練習をしていたこと聞いていてわかる。

 今、フランが弾いているのは偶に聞く聖歌のメロディ。

 これを弾けるのが、この学校に何人いるのか分からない。


「………フラ「待ちなさい」……なんで?」


 弾き終わったと思って隠れ見ていたクラスの友達がフランの元へ行こうとしたのを別の友達が止める。

 その事に疑問に思うが指示に従って、その位置に留まる。


「もう一回」


 その言葉が聞こえると同時に今度は別の曲をフランは弾きはじめる。

 その曲は誰もが知っているもので思わず聞き惚れてしまっていた。


「次はこれ」


 それが終わったら次の曲、次の曲と繰り返し。

 何度か同じ曲も繰り返していくと一時間は過ぎていた。


「……もう一時間は過ぎたみたいね。今日はここまでかな?」


 どうやらフランは今日はこれで終わるらしい。

 それを聞くとクラスの友達が音楽室に入って来る。


「フランちゃん、凄い!」


「本当にね!もしかしたら先生よりピアノが上手いんじゃない?」


 一人は抱き付き、一人はパチパチと拍手をしてフランを褒める。

 友達が自分のピアノを聴いていたこと、そして拍手をして褒めてくれたことにフランは顔を赤くして受け止める。


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、何時からいたの?」


 全く二人がいたことに気付かなかったのもあり、フランはそれを質問する。


「え?最初からだけど……」


 そして、その事実を知って顔を赤くして隠す。

 全く気付かなかったことが恥ずかしくてしょうがないのだ。


「………全く気付かなかったんだけど」


 フランの言葉に苦笑する二人。

 二人からすれば当然のことだ。

 音楽室へ向かっている途中のフランはピアノを学校でも弾けることに浮足立っていて全く周囲の状況を気にしていなかった。

 後を尾けるにはやり易かった。


「………そう」


 そのことを教えると更にフランは恥ずかしそうにする。

 それだけ浮かれていたと考え付いたのが原因だ。

 そして、それを察して二人も苦笑する。

 そんな三人に間にパチパチという音が聞こえてくる。

 音がした方を向くと、そこには数人の先生がいた。

 一人は担任、一人は許可を出した校長、そしていつも効果を歌うときにピアノを弾いている先生。

 他にもいたが、フランはいつもピアノを弾いている先生の元へと直行する。


「先生も聞いていたんですか?」


 その先生へと目を輝かせてフランは質問する。


「え……えぇ」


 フランのその姿に音楽教師は困惑する。

 あまり話したことのない生徒にここまで慕われている理由が分からないのだ。


「私は先生のピアノを弾く姿に憧れて弾きはじめたんです!ここにいるってことは私のピアノを聴いてくれていたんですよね!どうでしたか!?」


「とっても上手だったわ。直ぐに私より上手くなりそうね」


 その言葉にフランは嬉しそうにする。

 憧れの人から褒められたことが凄く嬉しそうだ。


「え。フラン、この先生に憧れているの?」


「あまり関りなんて無いよね?見るのも学校集会とかで歌を歌うときにしか見ないし」


 子供たちの言葉に大人である先生や憧れられている本人も頷く。

 子供たちの言ったことは事実だから本人も特に気を悪くした様子は全くない。

 むしろだからこそ慕われている理由が分からずに困惑している。


「うん!でも本当にピアノを弾いていた姿がかっこよく見えたんだよ!そうでなきゃ私も憧れたりして実際にピアノを弾いてみたいと思ったりしないし」


 そこまで格好よかったかと思い悩むフラン以外の全員。

 歌を歌うのに収集していたため弾いている姿を思い出せない。


「よくピアノを弾いている姿を見れたね?私たち何て歌を歌うのに集中して見ていなかったのに……」


「並ぶときに前の方ですし、ピアノも近くに位置してあるから見えますよ」


 歌うのに集中していないのかと注意をしようとしていたが、フランの言葉に並び順とピアノの位置を思い出し有り得ると頷く教師達。

 たしかにピアノを弾いている姿が見えるかもしれない。


「………そうか。よかったじゃないか、生徒にこれだけ慕われるなんて」


 ここまで慕われるのは珍しいとからかいながら音楽教師の肩を叩く。


「そうですね。とりあえず、そろそろ三人とも帰りなさい。もう遅いし、親御さんたちも心配になってくる時間よ」


 そう言われて外を見てみると日が沈みかけていた。

 三人はそれぞれの鞄を持ち玄関に向かって走る。


「こら」


 それを先生たちは掴んで止める。

 廊下を走るのは危ないからと、軽く説教をしてから離す。


「走らずに気を付けて帰れよ!」


 教師の言葉に頭を下げてフランたちは学校から去っていった。



「それにしてもフラン、凄かった!」


「そう?」


「うん!いつの間にあんなに上手くなっていたの?」


「うーん、秘密。ただ私を教えてくれる人もピアノが凄く上手くて丁寧に教えてくれるわ」


「へぇ。ゆくゆくはピアノのプロとか講師になったりするのかしら?」


「えへへ。それも良いかも」


 三人は会話をしながら帰路に付く。

 話題は当然、フランのピアノのことについてだ。


「それでフランは何処でピアノを教えて貰っているの?」


「それも秘密。先生たちが秘密にしてくれってお願いしてきたし、教えられないや」


「………残念。恥ずかしがり屋な先生なのかしら?」


「うん。恥ずかしそうに言って来たし、多分そう。教える時間も出来るだけ人が少ない時間にしてくれって言っていたし」


 人が少ない時間と聞いて話を聞いていた少女の一人が目を鋭くさせる。

 普通に教えれば良いのに人が少ない時間、誰が教えているか秘密にしてくれと頼んだこと。

 どれもが怪しく思えてしまう。


「……その人、本当に信用できるの?」


「?うん」


 少女の疑問に何を言っているんだと言わんばかりに雰囲気で頷くフラン。

 それに溜息を吐く。


「……教えてくれる人は男性?」


「基本的には女性の人だけど?」


「基本的に?」


「うん。偶に男性の人が教えてくれるよ」


 男性も教えていると聞いて視線が鋭くなる。

 女性ならともかく男性に人が少ない時間に教えてもらうなんて少女からすれば有り得ない。

 危機感が無いのだろうかと呆れてしまう。


「えっと。何を心配しているの?」


「そうだよ。別にピアノを教えてもらうのに上手くなれるんなら男も女も関係ないじゃん」


 二人の言葉に頭を抱える少女。

 付き合いが長い為に本気で言っているのだと分かってしまい頭が痛くなってしまう。


「その男の人に襲われたらどうするのよ?」


 それで少女の言いたいことが分かって二人は顔を見合わせてニヤケてしまう。


「「エッチだねぇ」」


 二人の少女の言い分に忠告をした少女は顔を赤くする。

 考えていたことは確かに当たっているが口に出して言われると恥ずかしい。


「………うるさい!」


「いやいや良いと思うよ。心配してくれているんだと分かって有難いし」


「そうそう。少しぐらいエッチでも問題ないって」


 明らかにからかってくる二人から逃げるように少女は駆け足で走り去っていく。

 それを追いかけるためにからかった二人も走る。

 そしてお互いの家に帰る分かれ道まで少女たちは追いかけっこをしていた。




「ただいま」


「お帰りなさい」


 フランが家に帰ると母親からの返事が居間からする。

 フランは直ぐに母親の元へと向かいながらテストの結果を取り出す。

 目的は当然テストの結果を母親に見せる為だ。


「見て、お母さん。100点のテスト!」


 自慢げに見せたテストの結果に母親は喜ぶ。

 勉強を頑張っていたことは知っていたが、まさか100点を取れるとは思ってもいなかった。

 今日はともかく、明日は頑張ったご褒美にご馳走を造ろうという気になる。


「それじゃあ明日はご馳走ね。それと、この調子で頑張りなさいよ。そしたらピアノも買って上げるから」


「………うん!」


 母親のピアノを買ってくれるという言葉に満面の笑みを浮かべるフラン。

 次のテストも良い結果を出せるように頑張ろうと早速、部屋に戻って勉強を使用する。


「あっ、フラン。ちゃんと手洗いうがいをしなさいよ」


 が、その前に母親に注意をされた手洗いうがいをしていった。


「あ、そうだ。フラン、今日は一緒にお風呂に入らない?」


 そして終わると同時に母親からの誘いが来る。

 急に今、思いついたと言わんばかりの様子でもありフランも久しぶりに母親と一緒に入れるということで頷く。


「なら、早速入りましょうか」


 そんな娘を見て母親は先に風呂場へと向かう。

 既に自分の分の着替えは用意してある。

 あとは娘の準備だけだ。


「お母さん、着替えも持ってきた!じゃあ入ろう!」


 そして一緒に服を脱いで風呂の中へと入った。


「「ふぅ」」


 フランは母親と一緒にお湯へと浸かり一息をつく。

 後ろからは母親に抱きしめられており、くすぐったい。


「本当におおきくなったわね……」


 母親はそう言って感慨深そうに膝の上に乗せた娘の重さを実感しながら頭を撫でる。

 そして頭を撫でるのを止めて、今度は両腕を使って抱きしめる。


「むぅ」


 娘も母親に抱きしめられるのは嬉しい。

 だが自分も抱きしめたい。

 だから少しだけ力を入れて抱きしめてくる母親の腕から逃げる。


「あ……」


 自分から逃げる娘に反抗期かしら、と母親は残念そうに思い同時に成長をしているのだと嬉しく思う。


「私も抱きしめる」


 そして娘が自分から抱きついて来てくれたことに内心で歓喜の声を上げる。


「ぎゅう~」


 そんな擬音を出して抱きついてくる娘が可愛くてしょうがない。

 こんな可愛い娘を授かったのは人生で一番の幸福だとすら思っていた。

 娘も自分を慕ってくれて、良く抱き付いてくれるのが嬉しい。


「ぎゅう~。ところでフラン。お母さん以外に抱きついたりしていないわよね?」


 だが少し心配な面もある。

 嬉しい時や感謝を伝えるときに抱き付くときがる。

 それで勘違いした男子などがいなければ良いと考えている。


「まずはお父さんでしょ」


 それは構わない。

 愛する夫で娘からしても大切な父親なのだ。

 むしろ母親として自分だけでなく父親とも仲が良いのは嬉しいことだ。


「次に友達」


「………男の子にはしてないわよね?」


 女の子なら、まだ良い。

 普通に抱きついたりしているのは誰でもやっている。

 だが男の子はダメだ。

 勘違いして襲いかねない。


「男の子に抱きつくのはダメよ。抱きつくのは仲の良い友達がお母さんたちにしなさい」


 圧のある注意に娘はビックリして頷く。

 娘の様子に何で男の子に抱きつくのはダメなのか理解していないのを察して母親は溜息を吐いた。


「それで他にはいない?」


「あとは先生だけど……」


 先生なら良い年をした大人だ。

 娘ぐらいの子供に抱きつかれても勘違いも欲情もしないだろうと母親は考える。

 その事に関しては何も言わないで娘の頭を撫でる。


「先生なら構わないわ。それより髪を洗ってあげるから一旦、お湯から出るわよ」


「うん!」


 母親の提案に娘は早速といわんばかりにお湯から出てシャワーの前へと移動する。

 母親に髪を洗ってもらうのが嬉しいようだ。

 娘の行動に母親も嬉しげな表情を隠さずに娘の後ろに回り髪を洗い始める。


「シャワーを浴びせるわよ」


「ん」


 返事をしたのを確認して宣言通りにシャワーを浴びせる。

 目を瞑りながらもシャワーを浴びせられながら髪を洗われているフランは気持ちよさそうにしている。


「さてとまだ目を開けないでね」


 シャワーを切り母親は娘の顔と髪を拭いて洗うのを終わらせる。


「もう大丈夫よ」


「ふぅ。……今度は私が背中を洗って上げるね!」


「あら良いの?」


「うん!」


 今度はフランが洗うと言い背中へと回り込み、母親はそれに甘える。

 そして手に持ったタオルでフランは母親の背中を洗う。


「……お母さん、気持ち良い?」


 ごしごしと洗いながらフランは母親に気持ち良いか確認する。

 出来る限り力を込めて洗っていて痛くないかの確認も兼ねている。


「大丈夫よ。丁度良いわ」


 そんな娘の気づかいに有難く思いながら感想を口にする母親。

 娘も母親の言葉に気を良くして背中を洗っていく。


「………終わったぁ~」


「ありがとう。最後にもう一回、お湯の中に入って出ようか?」


「うん」


 フランが洗い終わったのを確認して、もう一度お湯の中に入る。


「取り敢えず百を数えたら出ようか?」


「わかった!いーち!にー!」


 フランの声に耳を傾けながら母親は一緒に数える。

 そして数え終わり、一緒に身体を拭いて食卓へと向かった。


「すこし待っていてね。今、出来上がった料理を持ってくるから」


 食卓へと着くと母親がフランに向かって言う。

 料理自体は既にできている。

 後は盛り付けだけだ。


「何か手伝うことはある?」


「そうね。なら後は盛り付けだけだし手伝ってくれないかしら?」


「わかった!」


 母親のお願いにフランは快く引き受ける。

 そして盛り付けを手伝い一皿分に持ったのを運んでいく。


「ただいまー」


 そうしていると父親も帰って来る。


「お帰りなさい。ご飯にする?それとも先にお風呂に入る?」


「先にご飯を頂くよ」


 夫へと妻は質問し、夫はご飯を食べると答えると嬉しそうにする。

 やはり一人欠けているよりも家族全員で食べた方が美味しいと感じるのだ。

 最初は自分と娘の分だけ更に持っていたが夫の分も増やして準備をする。


「お父さん、お帰りなさい!」


「あぁ、ただいま」


 父親が居間に姿を現すと娘がお帰りの挨拶をしてきて父親は娘の頭を撫でて返事をした。

 頭を撫でられたことに娘はくすぐったそうにしながら話したいことがあるのだと言う。


「何があったんだい?」


「ふっふーん!私、テストで……「あなた?フランはテストで百点を取れたみたい。褒めてあげて」……お母さん!」


 娘の言いたかった事を先取りする母親。

 その姿に苦笑しながら娘をなだめる。


「ははは。それよりもテストを見せてくれないか?」


「……うん」


 ムスッとしながらフランは父親に百点と書かれたテストを見せる。

 だが父親の感嘆の声を聴いて少しだけ機嫌が良くなる。


「すごいな。テストで百点を取るなんて。頑張り続ければピアノを買って貰えるんだし、続けて頑張れよ」


「……当然!」


 父親の声援にフランは当たり前だと気合をいれて返事をする。

 その姿に苦笑しながら荷物を置いて食卓へと座る。


「そうか。それじゃあ晩御飯を食べようか。フランも座って食べよう」


「そうよ。それと先に言いたいことを言っちゃってゴメンね。謝るから一緒にご飯を食べましょう」


 母親の言葉に頷きフランもようやく座って晩御飯を食べ始める。


「そういえばピアノを習っているけど、どうだ?」


「大変だけど、それが楽しい!それに一曲を完璧に弾けるようになると凄い達成感があるのよ!」


 好きこそものの上手なれという言葉もあるぐらいだし娘が上手くなっているのだろうと予想する。

 決して下手の横好きではないことを祈る両親。

 ピアノを買ったら娘のピアノを聴くことに楽しみにする。


「ふふっ。フランのピアノを聴く日が楽しみね」


「……?なら一緒に教会に来て聞く?そこでなら私のピアノを聴けるし」


「できれば初めてはお父さんと一緒に家で聴きたいから我慢するわ。いつかお母さんに聴かせるまで頑張ってね」


「……絶対に上手いって驚かせてやるわ」


「楽しみね。貴方もそう思わない?」


「あぁ、全くだ」


 フランは少しだけ残念に思う。

 できれば聞いて欲しかったが、そこまで言うのならと諦める。

 それにそれだけの時間があるのなら確実に上達している自身がある。

 絶対に上手くなったなと驚かせてやろうと決意すらした。




「………こんなことがあったんだよ!先生はどう思う?」


 教会でピアノを教えてもらう合間にフランはピアノを教えて貰っているシスターにそんな愚痴を漏らす。

 話を聞いているシスターは家族仲が良いと微笑まし気に聞いている。


「なら、頑張らないとね。頑張って驚かせるようにピアノを練習しなくちゃ」


 シスターの言葉にフランは頷く。

 結局、やることはそれしかないとわかっているのだ。

 そしてピアノの椅子に座る。


「それじゃあ再開するわね。ここから弾いてみて」


 フランがピアノの椅子に座ったことを確認すると練習を再開するシスター。

 フランもピアノの練習に入ると顔を真剣なモノに変えて練習を始めた。


「……ふぅ」


 それから注意を受けたり、弾き方を指摘されながらピアノを弾き続けフランは一息を付く。

 それをきっかけにシスターは時計を見て今日はここまでと指示を出した。


「今日はここまで。ピアノの練習はまた来週ね」


 ピアノを弾くのは誰もいないのなら毎日でも良いがピアノを教えるのは一週間に一度だけにしてある。

 シスターでも毎日が暇な訳では無いのだ。

 週に決めた日にピアノを教えることにして話し合っている。


「それにしてもフランちゃんはピアノが上手くなったね。はい、これ」


「メルシーさん!」


 そう言いながらメルシーは二人に飲み物を手渡して来る。

 その事に感謝しながらフランとシスターは飲み物を受け取る。


「ありがとう。丁度、喉が渇いていたから助かったわ」


「ありがとうございます!」


 先輩シスターは飲み物を口にして一息をついてからかうような表情を浮かべる。


「もしかしたらこの子、既に貴女よりピアノが上手いんじゃない」


「そうかもしれないですね。………頑張ってるね」


 先輩シスターのからかいにメルシーは相手にせず、フランの頭を撫でて褒める。

 その姿に先輩シスターは少しだけイラっと来る。

 挑発に乗ってメルシー自身もピアノの練習に集中して欲しかったのに、これでは意味が無い。

 むしろ嬉しそうにフランを褒め称えている。


「えへへ」


 そしてフランもメルシーの頭を撫でられ、褒め称えらていることに嬉しそうにする。

 フランは教会にいるシスターたちの中では特にメルシーに懐いており、メルシー自身もフランを可愛がっている。

 おそらく互いに馬が合ったのだろうとシスターたちは考えている。


「あ、そうだ。お母さんが家でもピアノを条件付きで買ってくれるんだ」


「そうなの?」


「うん。テストで良い点数を取り続けること条件がだけど、ピアノを買って貰えれば、もっと上手くなれるよね」


「努力をすれば上手くなると思うけど。ピアノを買って貰ったからって努力は何時でも出来ると考えたらダメだよ」


「「「………おぉ」」」


 良い事を言うと先輩シスターとフランはメアリーに感心の声を上がる。

 その反応にメアリーは照れくさくなって赤くなった顔を隠し、それに対してフランたちはニヤニヤと楽しんでしまう。


「それよりもテストで良い点数を取り続けることが条件って言ったけど大丈夫なの?」


「あ、そうだった。見て」


 フランはそう言って100点と書かれたテストを見せる。

 どうやら嬉しくてシスターたちにも自慢をしたかったみたいだ。


「へぇ、100点なんてとれたのね。頑張れば毎回、100点をピアノを買ってくれるまで取れるんじゃない?」


「取り敢えずはピアノを買ってくれるまで頑張るつもり!」


 フランの宣言にシスターたちは取り敢えず安心する。

 怠けてしまったら上手くならないし教えた甲斐がなくなる。

 少なくとも宣言をしたのだから練習をサボることにはならないだろうと予想する。


「………なら良いけど、ついでだし暇な時は勉強を教えて上げようか?」


「良いの?」


「良いわよ。その代わり大人になってピアノのプロになったりしたら教会で偶には弾いてね」


「うん!」


 期待されていることにフランは喜ぶ。

 そのぐらいはお安い御用だし、その程度で良いのならフランも受け入れる。

 そして、その為にも将来はピアノのプロだと本気で考える。


「………一応、言っておくけど。だからといって将来はピアノのプロになるって決めつけなくても良いからね?」


 メルシーの言葉に先輩シスターはフランを見て溜息を吐く。

 こうやってフランの間違った考えにいち早く気付くから慕われているだろうとも理解をする。


「…………え?」


 案の定、本気で今の言葉だけで未来を決めようとしたフランの頭を先輩シスターは叩く。


「メルシーの言った通りに、今の約束は口約束だから、そこまで気にしなくて良いわよ。貴女がプロになったらって条件だから別に約束を守らなくても問題ないわ」


 フランは二人の言葉にお前はプロになれないのだと言われた気分になって不機嫌になる。


「だから約束に捕らわれないで、他になりたいものが見つかったら、それを目指しても構わないからね。私たちとしては、この約束で貴女の将来を縛り付ける方が悲しいからね?」


 シスターの説得をされるが、それでもフランの機嫌は直らない。

 言っている意味は解るし、自分を案じての言葉だとは分かる。

 それでも、どうせならピアノのプロになれなくても気にしなくてよいという言葉では無く、プロになれると応援して欲しかったのが本音だ。


「………わたしはピアノのプロになれると思う?」


「さぁ?」


 メルシーの言葉に傷付くフラン。

 ピアノを弾く意欲が萎えてくる。

 そして先輩シスターは、そう答えたフランを睨む。


「才能だけではプロになれないからね。才能があって、更に努力をしないとプロにはなれないわ」


 フランの言葉に睨むのは止めないが言い分には納得する。

 確かにその通りだと。

 いくら才能があっても努力をしなければプロにはなれない。


「それがどれだけの努力が必要か知らないけど、なりたいなら必死に頑張るしかないわよ」


 フランはその言葉に見返してやろうと決意する。

 その為に毎日、ピアノを弾いて努力する必要がある。

 そして教会に毎日、行くわけにもいかないし、学校も毎日が空いているわけではない。

 自由に弾けるようにある為に買って貰う必要がある。

 それにはテストの点数で良い結果を取り続けるために勉強をまずは頑張ろうとフランは考えた。

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