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出会い

「はぁ、本当に何かしら?あの子供は……」


 ケンキに過去を振り返されたシスター、メルシーは教会内を掃除をしながら愚痴る。

 あれ小さい子供だから許したが、もう少し成長していたら怒っていた。

 あれだと成長したら無神経な大人にもなりそうだが、直ぐ傍に注意してくれる友達がいてくれるから大丈夫だろうと期待する。


「だけど、憎い相手に近い内に会うか……」


 同時に戯言だとは思うが警告してくれたことには感謝している。

 警告だと言っていた本人も心配だと言っていたし善意なのだということは理解しているが言い方を考えて欲しい。

 こちらも気になって聞いたのも原因かもしれない。

 それでも、こちらの思い出したくもない過去を思い返されたのは気分が悪かった。


「………申し訳ありません」


「はい?どうしましたか?」


 こんな夜遅くに教会に来る人は少ないだけでいないわけではない。

 溜息を吐いていたのを直ぐに消して入ってきた相手に笑顔で迎え入れる。


「はい!どちら……!?」


「あの……?」


 入ってきた男にメルシーは酷く動揺する。

 そのことに男性は驚いたようだが慌てて取り繕うと気にせずに懺悔室へと向かって行く。

 どうやら迷わずに進む姿からよく、この教会に来ているようだと推測できる。


「あの?もしかして、よくこの教会に来ているんですか?」


「えぇ。そうですが、もしかして新しいシスターですか?私もよく来ていますが初めて見る方ですし……」


 これまで一年ほど、この教会で過ごしていたが来ていたことは知らなかった。

 めぐり合わせが偶々悪かったのだろう。

 まさか、かって自分を売春婦にして金を稼いでいた男とこうして会えるとは思っていなかった。

 向こうは自分のことを覚えていないのが腹立たしく感じる。


「いえ、もう一年ほどこの教会でシスターをやらせてもらっています。今まであわなかったのも偶々、巡り合わせが悪かったのでしょうね」


 それを笑顔で隠して何事も内容に対応するメルシー。

 その事に違和感を抱かないまま男は懺悔室へと入っていった。

 そしてメルシーは一人、箒を投げ捨てて教会内での自分の過ごしている部屋へと戻る。

 あのまま、あの場にいるとおかしくなりそうだったからだ。


「ちょっと!メルシー、どうしたのよ!」


 一緒に働いているシスターが突然のメルシーの行動して心配して追いかける。

 他にも心配している者達がいたが、あまり大勢行くのも逆にプレッシャーになると思い一番仲の良いシスターが行ったから追いかけていない。

 無論、後で別々に部屋に行って何があったのか聞きに行くつもりだ。

 いつも真面目にしていた後輩が急に仕事を投げ出すなんて心配になる。





「ちょっと、どうしたの?」


 部屋に戻ってベッドの中に潜り込んだメルシーに特に仲の良い友人が問いかける。

 あくまでも優しく声を掛けて決して怒らないようにする。

 そして落ち着くように慰めるようにベッドの中に潜り込んでいる背中を叩く。


「…………ごめんなさい」


 それだけで何も言う気が無いと理解する。

 だが、それを責める気にならない。

 何故なら、あまりにも震えているからだ。

 下手に聞いたら傷付けるだけだと考えて何も聞かないことにする。


「吐き出したくなったら我慢しなくて良いからね?今はゆっくりと休みなさい」


 そして震えが治まるまで仲の良いシスターは背中を叩いて慰めてた。

 数分もすると震えは収まり大丈夫か確認すると眠っていた。

 顔を見ると涙のあともあり泣いていたことが分かる。


「ちょっとメルシーは大丈夫?」


 部屋に入ってきたシスターに口元に指を当てるジェスチャーをして黙らせる。

 そのことに頷いて再度、小さな声で確認する。


「えぇ、さっきまで泣いていたみたいだけど、疲れて眠ったみたい」


「……泣いていたの?」


「えぇ」


 それだけのことがあったのに傷付かなかったことをシスターとして後悔する。


「ねぇ、彼女がこうなる寸前に何かあった?」


 その質問にお互いに首を横に振る。

 あったといっても、良く来る男性が懺悔室へと来ただけだ。

 その男性も決して悪い人物ではない。


「よく懺悔室へと行く男性と会っただけよね?」


「はい。それだけでしかない筈です」


 どういうことかと首を傾げる二人。

 そもそも彼女を教会に連れて来てシスターとしては働かせたのは神父である上司だけだ。

 今までは何か理由アリなのだろうと思って聞かなかったが、こんな心配になってしまうことを起こしてしまったのなら聞かなければ気が済まない。


「どうしたんですか?」


「あっ、神父様。実は……」


 神父も話を聞いて少し考えた素振りを見せてから、険しい顔をする。


「神父様……」


 あまりにも恐ろしい顔にシスターたちは怯えてしまう。

 まるで悪鬼すらも逃げ出すような表情にお互いに抱きしめ合って慰め合う。


「……!あぁ、すみません。二人とも彼女が部屋に籠る直前に会った男性を見ていますね」


 神父の言葉にコクコクと頷く二人。

 それに満足そうな表情を浮かべて笑う。


「これからは、あの男が教会に来ても追い出すように」


 笑顔だが圧の強い笑顔に頷くシスターたち。

 そして神父はメルシーの部屋に入ろうとする。


「あの神父様?メルシーは寝ていますよ?」


 その言葉に入ろうとした神父は手を止める。

 そしてシスターたちは未婚の女性の部屋に勝手に入ろうとした神父に怯えながらも厳しい目を向けてしまっている。

 その視線に冷や汗を掻きながら明日にでも確認しようと神父は自分の部屋に戻っていった。



「………失礼します」


 その後、今度は神父の部屋に二人のシスターが尋ねてきた。

 メルシーが何故、急に部屋に籠って怯えているのか理由を知っているのは連れてきた神父だけだと考えているからだ。


「……えっと、一応言っておくけど私も詳しいことは知らないし、推測が混じってしまう。それで良いなら構わないけど?」


 神父もシスターが何故、自分の部屋に尋ねてきたのか予想していたのか部屋に入ってきた二人が何か言う前に話始める。

 シスターたちも神父の言葉に頷いて話を聞く体勢になる。




 神父は雨の中、買い物をしに外を出ていた。

 晴れの日に買い物にいけば濡れることは無かったが、ここ数日、雨続きで必要な物が不足になりそうだった。

 だから傘を差して雨の中を歩いている。


「ふぅ。やっぱりシスターたちにも手伝ってもらった方が良かったかな」


 片手には傘を、もう片手には小さな子供位の大きさの袋を手に持っている。

 握っている手は赤くなり重そうだ。


「………ん?」


 近くの方からバチャバチャと水が跳ねている音が聞こえてくる。

 それがどうも気になってしまって神父は音の鳴る方へと近づいて行く。

 そして見つけたのは全裸の少女だった。

 息も絶え絶えの姿であり、近くには少女を探すような怒声も聞こえてくる。

 慌てて少女を買ってあった布で顔と身体を隠し、怒声が聞こえなくなるまで共に身を隠す。


「クソ!あの娘は何処に行った!?折角の高価で売れるって言うのに!?」


 聞こえてきた声の顔を確認しようとするがマスクや帽子で隠れており確認が出来ない。

 そのことに苛立ちがくるが見つかるよりはマシだと無理に確認しようとするのは止める。

 そのまま隠れて気配も声もしなくなったのを確認して立ち上がり、少女に手を差し伸ばす。

 少女は差し伸ばされた手を見て動かない。


「何……?」


 何で手を差し伸ばしているのか分からずに少女は困惑している。

 それに何で助けてくれたのも理解できていない。

 少女の疑問に神父の仕事柄か察して答える。


「私は神父なので何かひどい目にあっている人を見かけたら助けないといけないんですよ。詳しく何があったか聞きませんし、話をしなくても良いので来てもらえませんか?」


 神父の答えに驚いて顔を見上げる。

 目を見ても嘘を付いていないように見えて、更に困惑してしまい笑顔を向けられて黙ってしまう。


「それじゃあ行きましょうか」


 その言葉に頷いて差し伸ばされた手を掴んで教会へと行った。




「………初めて会ったときから全裸だったんですか?」


「そうですよ。だから最初の頃は服を貸してくれって頼んだんじゃないですか」


「……そうですね。それにしても人身売買の組織があるなんて国は何をしているんでしょう?」


 国は人身売買を許さないと公言をしておきながら被害者が近くにいる現実に不満を持つシスターたち。

 神父はそれに苦笑をしている。


「おそらくだけど彼女が捕まっていた組織は潰されているよ。それに情報提供をしてくれたお礼にと金を多く貰いましたし」


 神父の言葉に聞いていないと眼を見開くシスター。

 それに笑いながら、お金は教会の補修や改築に使ったと告げる。

 その答えに、そういえば確かにところどころ壊れていた箇所が新品同様になっていたり子供たちがよく遊びに来たことを思い出す。

 それでも、お金のことは言って欲しかった。


「下手に話すと彼女が過去を思い出して傷付く可能性があったからね」


 内心を読まれたのかと思ってシスターは吃驚する。 

 同時に教えてくれなかった理由に納得する。

 一緒に暮らして一年以上は経っているのに心の傷は全然、治ってないように見えたのだから。


「あぁ、それと彼女の過去を知ったからと急にいつもより優しくするのはダメだよ。過去を知られたと察してしまいかねないからね」


 神父の言葉に不満だが頷くシスターたち。

 言いたいことは解るから文句も言いずらい。


「………失礼します」


 聞きたいことも聞けたからシスターたちは神父の部屋から出る。

 そして自分たちの部屋へと戻る前にメルシーの部屋を覗き寝ているのを確認した。


「………おはようございます。昨日は急に仕事を放り投げてごめんなさい」


 朝、一番に出会ってメルシーが謝罪してきたので二人のシスターは許す。

 そもそも部屋の中に入って震えていた姿も見ていたのだから心配にはなったが不満を持っていない。

 それよりも働いて大丈夫なのかと質問すると顔を真っ赤にしてメルシーは頷く。

 ベッドに潜り込んで泣いていた姿を見られたのが恥ずかしいようだ。


「それじゃあ、まずは教会内の掃除をしますね?」


 メルシーの言葉を聞いてシスターたちもメルシーを気に掛けながら仕事に戻っていった。

 そして。


「………近い内に再開すると思ってたけど、昨日会った?」


 ケンキがメルシーに復讐相手に出会ったことを質問をしていた。







「ケンキ、今日は放課後鬼ごっこをするぞ!」


「……いやだ」


 少し時を遡り、ケンキが学校の中にいる時間に戻す。

 これまで関りの無かった二人が急に会話をしたことに昨日の鬼ごっこを知らないクラスメイト達が驚く。

 逆に知っている者達は昨日のことで集中して聞いていた。

 だから拒否をされたことに力が抜けてしまう。


「頼む。リベンジさせてくれ」


 頭を下げて頼み込むクラスメイトにケンキは首を縦に振らない。

 

「……昼休みだったら頷いていたかもしれない。放課後は、取り敢えず一か月ほど予定がある」


 ケンキの言葉にユーガはそういえばと手を叩き、サリナは溜息を吐く。

 教会で会ったシスターを観察するためだ。

 ここだけを言えばストーカーにしか聞こえない。


「一ケ月も何があるんだよ……?」


 一番、時間が空いている放課後が一ケ月も空いていないことに不思議に思って聞くクラスメイトにケンキは答える。


「……教会で会ったシスターの観察」


「え?ごめん、もう一回言ってくれ。聞き取れなかった」


「……教会で会ったシスターの観察」


 二度、聞いたがケンキの言葉は聞き間違いじゃなかったと冷や汗を流すクラスメイト。

 ストーカーじゃねぇかと引いてしまう。


「……ストーカーじゃねぇか」


 ケンキの実力を多少は知っているクラスメイト達がケンキを怒らせたかと身体を震わせる。

 気付かぬ間に殴られてしまわないか次に目に映る光景を想像して目を閉じる。

 そして恐る恐る目を開けると何も光景は変わっていなかった。


「…………たしかに」


 そこには何事も無くストーカーという言葉に深く頷いているケンキがいた。

 クラスメイト達は納得するの!?と驚き、ケンキが暴力を振るっていないことに安堵する。


「……それでも気になるから教会に行くけどな。じゃあね」


 そう言ってケンキは教室から出ていき、サリナも溜息を吐いて後を付いて行った。


「一応、言っておくけどケンキは教会で会ったシスターのことが好きな訳ではないぞ。俺も一緒にいたから分かるが観察というよりは事件に会いそうだから心配になったのが本音だろう」


 ユーガの言葉に安心するクラスメイト達。

 同じ教室で学んでいる少年がストーカーとか一緒に痛くなかったホッとする。

 それでも一ケ月は長すぎだと思うが。


「さてと鬼ごっこなら俺が付き合ってやる。ケンキに勝つためにもな」


「え?」


 ユーガの言葉に驚くクラスメイト達。

 確かにユーガはクラスどころか学校全体から見ても優れているとは思うが昨日、経験したケンキよりは劣っているのだと知っている者もいる。


「安心しろ。俺もこれまで以上に本気で相手をしてやる。反撃もオッケーだ。まずは攻撃するということに慣れろ」


 ユーガの言葉にクラスメイト達はイラっと来る。

 確かにユーガは色々と凄いが鬼に攻撃という反則をしても捕まえられないと言われてプライドが傷付けられる。


「ハッキリと言わせてもらうがケンキならお前ら全員に攻撃をされても避け続けられる。同じ年齢でそれだけのことが出来る奴がいることをまずは実感しろ」


 その挑発にクラスメイト達は乗って教室内でユーガに攻撃する。


「あ……」


 自分のやったことに血の気を引いてしまう子供。

 そして衝動のままに逃げ出そうとするが頭を掴まれる。


「鬼ごっこの最中だといっただろう?攻撃するのは」


「あぁぁぁぁぁ!!」


 万力の様な力で捕まえられ絶叫を上げる少年。

 そのまま外へとユーガは運ぼうとする。


「どこに行く気だよ?」


「グラウンドに決まっているだろう。そこで鬼ごっこをするぞ」


 ユーガはそう言ってグラウンドへと歩いて行き、クラスメイト達もユーガの後へとついて行く。

 ぞろぞろとユーガを先頭にして歩く姿は何も知らずに見ている者達からは異様に見えていた。


「さてと………」


 ユーガはグラウンドに着くと運んで来たクラスメイトを投げ捨て後ろに付いて来たクラスメイト達に向きなおる。


「先程も言ったが、鬼ごっこをするぞ。好きなように攻撃をしても良い」


 ユーガの言葉に頷くが誰も攻撃をしない。

 最初は挑発に乗ってしまったが、冷静に考えて怪我をさせてしまうことを考えるとこちらからは攻撃をしにくい。

 いくら相手が本当に格上でも武器を向けるのは厳しい。

 身に覚えがあるのかユーガはそれに文句を言わずに溜息を吐く。

 はじめはユーガ達もケンキに鬼ごっこの最中に攻撃をするのは難しかった。

 どうやって攻撃できるようになったか覚えていないのを残念に思っている。

 覚えていたら同じことをして攻撃できるようにしていた。


「ハッキリ言っておくが、攻撃できるようにならないとケンキには勝てないぞ。お前たちより格上の俺とサリナが攻撃してもケンキには勝てないからな。本気で何でもアリで挑まないと相手にもならない」


 ケンキのことを語るユーガ。

 その熱の入りっぷりに引いている者もいる。


「ケンキはお前らから見ると天上の存在だ。あらかじめグラウンドに細工しなきゃ勝てないと思え」


 そしてユーガは構える。


「来い。お前たちが本当に反則ありでなければケンキを捕まえられる可能性が0だと教えてやる」


 ユーガの挑発にクラスメイト達は意地になって反則をしないことを決めて鬼ごっこが始まった。

 結果。


「………だから言っただろうが。反則も使わなければお前らは俺さえも捕まえることは出来ないと」


 ユーガ以外は地面に座り込み汗を大量に流している。

 対照的にユーガは軽くしか流れていない。


「………ケンキは本当にお前より上なのか?」


「当たり前だ。そもそも俺たちが強いのはケンキに鍛えられたからだ。そもそも昨日も相手をしていたのをいていただろう?」


 ユーガの言葉に目を逸らすクラスメイト達。

 一日が経っても、やはりクラスで目立たなかったチビがクラスどころか学校全体でも人気者の二人より優れているとか信じたくないのだ。


「………現実を受け入れろ。でないと何れ、あいつはお前たちの挑戦も断るぞ」


 どういうことだと首を傾げてしまうクラスメイト達。

 それにユーガは溜息を吐いて教える。


「ケンキは何度も挑んできて成長をしない奴には厳しいからな。俺たちも以前、我武者羅に挑んで成長しなかった時期があってな」


 ユーガの語りにクラスメイト達は耳を傾ける。

 仲が良いし、それでも鍛えて貰ったんじゃないかと考えている。


「その所為で相手をされなかった経験がある。両親に説明して説得して貰えなかったら鍛えるのも再開して貰えなかっただろうな……」


 ユーガの説明に、所詮は鬼ごっこだし大丈夫だろうと冷や汗を流しながら自分を納得させるクラスメイト達。

 だがユーガはそれを否定する。


「お前たちには悪いが多分ケンキにとってはお前たちとの鬼ごっこは暇つぶしでしかない。少しでも価値が無いと判断したら、どれだけ頼んでもリベンジをさせてもらえないだろうな」


 ユーガの断言にクラスメイト達は頬を引き攣らせる。

 リベンジすらもさせてもらえないというのは厳しすぎるし、傲慢だとも思っている。


「………大丈夫だ!これだけの人数がいれば価値が無いと思うわけがない!」


「いや、ケンキの場合は暇つぶしにもならないと言って価値が無いと判断するぞ。なにせ俺でもお前ら全員を一人で相手取れたんだ。ケンキなら余裕で相手取れる」


 ユーガの言葉に信じられないという顔をするクラスメイト達。

 格上の格上だと聞いたが、やはり実感が湧かないというのもあるのだろう。

 実際に相手取ったユーガに捕まえることは確かに出来なかったが、それでも疲れている。

 これ以上となると汗も流さずに全員を捕まえてしまうしかない。

 そう言うとユーガは頷く。


「そもそも昨日の時点でそんなことはわかっていただろう。何度も鬼ごっこをしてお前らが汗だくになったのに対しケンキはそんな姿を見せなかったのだろう」


 ユーガの言葉に痛いところを突かれたという顔をするクラスメイト達。

 昨日は明かりが少なくなり暗くなったのもあって汗を流してないように見えたのは気のせいだとしたかった。

 あれだけ動いて汗の一つも無いのは有り得ないと思っていたのもある。


「まぁ、明日の昼休みに挑戦してみろ。放課後は無理かもしれないが昼休みなら相手をしてくれるかもしれないぞ」


 本人もそう言っていたしな、と続けるユーガ。

 そこまで言うならと明日の昼休みは絶対にケンキに挑むことを決めたクラスメイト達だった。





「……そうね。君の言葉が無かったら私はもっと醜態をさらしていたのでしょうね……」


 そして、またケンキが教会に来た時間に戻る。

 メルシーは睨み付けるようにケンキを見ている。

 憎い相手とケンキの言った通りに会えるとは都合が良すぎる。

 裏でこの男が手を回しているのでは無いかと疑ってしまう。


「………残念。それを見たかったのに」


 ケンキの言葉にメルシーだけでなく話を聞いていたシスターたちも怒りを覚える。

 可愛い妹分の苦しむ姿が見たいと言われて気分が良くなるはずが無い。

 いくら小さい子供でも言っていい事と悪いことがある。

 サリナは隣で聞いていて睨まれていることもあって冷や汗を流してしまったていた。


「………まぁ、良いや。憎い相手に本当に復讐する気は無いみたいだし」


 だけど、と続ける。

 更に続けられる言葉にサリナはこれ以上は睨まれるようなことを言わないでくれと心の中で祈り、シスターたちは更に険しい視線を向ける。


「……お前は憎い相手の子供を可愛がるだろうな。……最初はそれを知らず、そして後から誰の子供か知って」


 予言のようなことを言い出すケンキ。

 メルシーは憎い相手を見つけたこともあって否定せずにそうなるだろうと覚悟をする。

 どうせケンキが狙って会わせるのだろうと想像しながら。


「………はぁ。一ケ月は通う気はあったけど必要は無かったか。……まぁ、いつも通りに自分を鍛えれば良いだけだ」


「?ケンキ君、教会に通うのは止めるの?」


「………止める。復讐をする気も無いみたいだし関わる必要も無いしな」


 ケンキが教会に来ないということで嬉しそうにするシスターたち。

 サリナもケンキが教会に行かないと聞いて嬉しそうにする。

 これ以上、ケンキが喧嘩を売らないということだけでサリナは凄く安心した。


「……さて、今日はどうするか?」


 そしてケンキは教会を後にして離れようとする。

 荒らすだけ荒らして教会を後にするつもりらしい。

 サリナも教会にいるシスターたちに頭を下げてケンキの後を付いて行く。


「はぁ、本当に何なのかしら?」


 ケンキが教会から去った後、メルシーは溜息を吐き、シスターたちは深く同意をする。

 言いたい事だけを言って去った姿に文句を言いたいが、唖然としている間に既に姿が見えなくなって何も言えない。


「メルシー、あの子に憎い相手に会うって予言されていたの?」


「はい。最初は信じていなかったのだけどね。あの子が手を回していたのかと疑っています」


「有り得るかもしれないけど、違う可能性もあるわね」


「え?」


 先輩の言葉にどういう意味かと視線を向けるメルシー。

 不思議そうな顔をした後輩に苦笑して教える先輩シスター。


「純粋な善意で教えたのかもしれないわよ。言い方が悪かったけど、そうでなければ一ケ月も教会に今まで来ない子が用も無いのに来るわけないじゃない」


「でも……!」


「言いたいことは解るわ。でも素直に心配を口にするのが恥ずかしかったのが理由で言い方が悪かったのかもしれないわよ」


 先輩シスターにそう言われたことで少しだけ冷静になるメルシー。

 言われてみれば確かにそう考えることも出来る。

 それでも言い方が悪すぎると不満な顔を隠せないが。


「無理に好感を抱かなくても良いわよ。私が勝手に想像しているだけだし」


 その言葉にホッと一息を突くメルシー。

 あれだけの事を言われては助かっても好感を抱くのは難しい。

 もう少し言い方が悪くなかったら素直に感謝出来たのかもしれないのにと考える。


「………失礼します」


 そう考えている間に教会に客は入って来る。

 教会の中に入ってきたのは小さな少女。

 先程までケンキに抱いていた気持ちを忘れて教会にいるシスターとして子供に接しようとするメルシー。

 仕事熱心なその姿に先輩シスターは誇らしい気持ちになる。

 同時にケンキの言っていた言葉を思い出し心配になる。

 ケンキの言っていた憎い相手の子供と仲良くなるという言葉。

 それでメルシーが傷付くとなると不安だ。

 そして自分の父親が仲良くなった相手を深く傷つけたと知った子供も心配になってしまう。




「………ねぇ、ケンキ。あの人たちの言っていたように手回し何てしてなわよね」


 サリナの質問に頷くケンキ。

 そんな面倒なことを誰がするというような態度にサリナは安心する。

 それなら何で出会えるのが分かったのが謎で質問をしてしまう。


「………何となくわかる。理屈とかは知らん」


 ケンキの言葉に何も言えずにただただ頭を抱える。

 それが間違いだったら、どうするのだろうと思いながらも既に当たった実績があるから嘘だとも思えない。

 ケンキの予言が外れることを祈るしかできない。


「……まぁ、外れても問題は無いだろう。むしろ当たった方が不幸だ」


「そうだけど」


 憎い相手の子供と知らずとは言え仲良くなるのだ。

 それなら教えない方が良かったのでは、と思うが気になったことがある。


「……ねぇ、それ。子供の方は父親があのシスターにやったことを知っているの?」


「………知らない。後からその事を知って子供は絶望するんじゃないか?」


「は?」


 その言葉を聞いてサリナはケンキの肩を掴む。

 子供が絶望するなんて聞いていない。

 ケンキがまだまだ話していないことがあると分かって、どういうことだとサリナは問い質す。


「……自分の慕っているシスターに父親がやったことを知るとそうなるだろうな、と予想だが?」


「何でそれを伝えないの?」


「……必要無いだろう?これ以上、関わるのも面倒だし、そのぐらいは予想も出来るだろう?」


 ケンキの言っていることも理解できるから何も言えない。

 そもそもケンキのお陰で憎い相手の子供と会って仲良くなることは知った。

 その後は、その子供がどんな性格をしているか、よく理解できるのは仲良くなったシスターだけだ。

 真実を知ったら絶望をするのを一番予想できるのもシスターだろう。


「……その結果がどうなるかは知らないがな」


 絶対に嘘だと思うサリナ。

 何を隠しているのかと険しい目つきでケンキを睨む。


「何を隠しているのか教えなさい」


「……何も隠していない」


 ケンキの言葉が信じられないとサリナは更に強く睨む。

 それに対してケンキは全てを無視して答えない。

 そんなケンキの態度にどうしても話すつもりは無いと理解してサリナは溜息を吐く。

 願わくは被害が自分達に広がらないことを祈ってケンキの後を付いて歩いて行った。

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