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パーティを追放されました。でも痛くも痒くもありません  作者: 霞風太
赦し

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33/62

教会から

「………あら?こんにちわ」


「こんにちわ」


「………」


「こんにちわ」


 ケンキはユーガとサリナと一緒に教会へと来ていた。

 三人とも教会に興味は無いが、それぞれの両親に一度だけでも聖書の話を聞いて来いと言われた口だ。


「もしかして聖書の話を聞きに来たのかしら?」


 シスターの言葉にユーガとサリナは頷く。

 そのことに感心するシスター。

 子供には退屈だろうにと考えている。


「………退屈かもしれないけど、勉強になるからしっかりと聞きなさいね?」


「「はい」」


「………」


 ユーガとサリナは返事をきちんとするが、ケンキはジッとシスターを見ている。

 返事もせずに眺めているケンキにシスターだけでなくユーガ達も不振に思う。


「ケンキ、どうしたんだ?」


 反応が無いケンキの肩を掴んで揺さぶるユーガ。

 そのことに反応して、ようやくケンキは行動する。


「……あぁ、ごめん。この人………何でもない」


 何か言おうとして途中で止めるケンキ。

 そこまで言われて途中で止められるのもシスターは気になってしまう。


「あの……わたしに何か?」


「………容姿は似てない。けど雰囲気が凄く似ている人が知り合いにいて驚いた」


「雰囲気がですか?」


「……そう。雰囲気だけだけど凄く似ている」


 こくりとケンキが頷いて話したことにシスターは納得する。

 それだけ雰囲気だけとは似ていて驚いたのかと。

 どんな人なのか気になってしまう。


「その似ている人って、どういう人かしら?」


「………復讐を望むなら力を貸して上げる。つい最近まで復讐に手を貸していたし」


 ケンキの言葉にシスターは震える。

 この少年は自分の過去を知っているのだろうかと。


「………一つ言っておくけど、俺はお前の過去を知らない。……言ったはず。お前と似ている人を知っていると」


 雰囲気が似ていると言ったのは、そういうことかとシスターは理解した。


「………それにしても復讐と言って震えるか。かまかけが半分だったが、そこも同じか」


「違います!!」


 復讐と言われて震えたのはシスターも認める。

 だが実行に移す気はもう無い。

 ここで運よく拾われ、シスターとして過ごすうちに復讐する気は無くなったのだ。


「………何が?」


「私には、もう復讐する気はありません!ここでシスターとして過ごすうちに無くなりました!」


 復讐をする気は無いと告げてケンキはジッとシスターの顔を見る。


「………そう。………面白そうだから毎日のように話を聞きに教会に行く。……本気で言っていることはわかったけど、少し心配だし」


「………ケンキ?どういうことだ?」


「……近い将来、憎い相手に会う気がする。……勘だけどね」


「そうか……」


 勘だが復讐したいと思っていたほど憎い相手と会うと聞いてケンキを睨み付けるシスター。

 正直に言って信じられない。


「……信じなくて良い。取り敢えず、一か月間は毎日行く」


「なら私も行っても良い?」


「………好きにしろ」


 サリナの提案も自由にさせるケンキ。

 こっちはケンキと一緒に行動するのが目的だとシスターは察する。

 取り敢えず聖書の話もあるし、可愛い乙女心も見れたから今は何も言わないことにして教会内へとシスターは案内した。




「………難しかった~」


「途中から理解すらできなかったな……。ケンキはどうだった?」


「……周りには深く理解しているように見えたけど、俺には無理」


「「だよな(ね)」」


 ケンキ達は聖書の話を聞き終わっての感想を言い合って笑い合う。

 少し離れた場所で聞こえないように話しているが、内容が聞き取れた者達には苦笑が浮かんでしまう。

 子供にはやはり難しかったかと微笑ましくも感じてしまっていた。


「ところでケンキはこれから暇?」


 サリナの質問にケンキは頷いて答える。

 何の用かと視線を向けて促す。


「私とどこか遊びに行こう?」


 サリナの提案にケンキは少し悩んでから頷く。

 訓練もしたいが偶にはサリナと訓練を忘れて遊ぶのも良いだろうと考えての判断だ。


「待て!二人だけズルいぞ。俺も混ぜろ」


 それにユーガが入って来る。

 サリナはケンキと二人きりが良かったがユーガも大事な友達だからと何も言わないことにする。

 二人ではなく三人で何をしようか考える。


「……何か案はあるか?」


「そうだな。取り敢えず公園に行かないか?あそこならスペースもあるし、どう遊んでも問題ないだろ」


「そうだね。他にも友達がいたら人数も増えて楽しそうだしね」


 二人だけでないなら、もっと増えても構わないとサリナは思っていた。

 どうせなら多くの者で遊びたいと考え友達たちがいることを期待する。

 そして皆で遊ぶなら何が良いかなと、公園へ向かいながら考え始める。


「………ケンキ、鬼ごっこをしないか?」


 悩み始めているとユーガがケンキへと話しかける。


「鬼はお前で全員が捕まるまで何分かかるか調べよう。そして俺たちは全員が捕まらない時間を延ばすために必死に逃げるし、お前はどうやって時間を更に短縮できるか競争しないか?」


「………良いぞ」


 面白そうな提案にケンキは頷く。

 無論、ケンキは手加減をするつもりだが手を抜く範囲は決めて最初から最後まで変えないつもりだ。

 変わらないスペックでどう効率よく行動するか良い鍛錬になりそうだと考えている。


「あっ!都合よく居たね」


 そして公園に着くと言葉通りにサリナ達の友人が公園で遊んでいた。

 その姿を確認してサリナはケンキの腕を引っ張って友人たちの元へと行く。

 ユーガもその後ろを追って歩いて行く。


「サリナちゃん!それにケンキ君とユーガ君も!」


 友達の一人の少女がケンキ達を見て声を掛ける。

 遊ぶ友達が増えたのが嬉しいのか笑顔だ。


「よぅ。鬼ごっこで遊ばないか?」


 ユーガの言葉に公園にいた者たちが顔を見合わせる。

 受け入れるか否か視線で意見を交わし合っている。

 十人以上いる中で全員が一度に遊ぶには良い案だとは思ってはいる。


「……良いぞ。早速、鬼を決めないか」


 公園にいた一人の少年の言葉で決まった。

 誰一人も文句が無いことに安堵して鬼はケンキだと告げる。

 ユーガの言葉にケンキを見て、未だ女の子と手を繋いでいることに男子は嫉妬とからかいを、女子はニヤニヤと二人を眺める。


「………何時まで手を繋いでいるんだよ?好きなのかよ?」


「うぇ!?」


「……どうでも良い」


「……うぅ」


「つぅか、女と手を繋いでいる奴が鬼で大丈夫かよ。一人でも捕まえられないんじゃねぇの?」


「安心しろ。ケンキ一人で俺たち全員を余裕で捕まえられる。むしろ全員が必死に逃げないと十分足らずに終わってしまう」


 まっさかぁー、やら嘘だー、とか笑い声に混じって言ってくるがユーガとサリナの真剣な表情に消えていく。


「マジ?」


 コクリと頷くケンキとユーガ。


「まずはタイムウオッチを動かして……と。よし俺たちは今から逃げるから十秒してから捕まえてくれ。あと逃げる範囲は公園の広場内だけだ」


 ケンキに十秒後からと、他の皆に逃げれる範囲を告げてユーガとサリナは一目散に逃げ始める。

 それに唖然とし。


「十………九……」


 ケンキが数え始めている姿に開いてしまった口が閉じらなくなる。


「八……七……六……」


 本気で捕まえる気かと男子は馬鹿にされた気になって本気で走り始め、女子はこれだから男はと呆れて走る。


「五……四……」


 ユーガとサリナは自分達以外は直ぐに捕まってしまうなと距離を取りながら思う。

 特に女子は本気で走っていないし、男子たちも女子が本気でケンキの位置から走っても十秒で着くような位置にいる。


「三……二……一……」


 そしてケンキが動き出す一秒前まで来た。

 ユーガとサリナは鬼ごっこなのに武器を構え、その様子にケンキも含めて他の全員が何をしているんだと呆れてしまう。


「零」


 そしてケンキによってユーガとサリナ以外の全員がほぼ一瞬で捕まった。

 その間、十秒も経っていない。


「え……」


「は……」


「……うそ」


 ケンキに捕まえられ一か所に集められた少年少女は呆然としてしまう。

 ユーガとサリナを含めなくても十人以上いるのに、それら全てを二人を除いて捕まえるとか普通に考えて有り得ない。

 そしてユーガの言葉を思い出し、ユーガの言っていたことは本当だったのだと理解する。


「………後は二人」


 ケンキの言葉が聞こえたと思ったら、一瞬で消える。


「は!?」


 その光景に驚くと同時にガキンッという音が響く。

 音のした方を見ると何時の間にかケンキの手に大剣があり、それを武器を構えていたユーガとぶつけ合っている。


「………ちゃんと反応はするか」


「ぐっ!」


「やぁ!」


 ケンキとユーガが鍔迫り合いをしている隙にサリナが魔法で攻撃する。


「えぇ!?」


 それはアリなのと少年少女は驚く。

 むしろ反則じゃないかと非難の視線を向け、何人かはケンキに当たることを予測して目を逸らす。


「……惜しいな」


 だがケンキは鍔迫り合いをしながらも顔を逸らすだけで、それを避ける。

 それを見て安堵しながらも止めるべきじゃないかと、おろおろする子供たち。

 そして。


「……終わり」


 気付いたら少年少女たちの前にユーガとサリナの首根っこを掴んで持ってくる。

 ケンキは知らないが少年少女たちにとって二人は運動も勉強もできてモテていたのに、それがクラスのチビに容赦なく敗北した姿は信じられないでいる。


「………言っただろう。ケンキなら十分足らずに全員を捕まえる。最後の方も遊んでいたし本当なら、もう少し早く終わっていた」


 ユーガの言葉に頷く少年少女。

 同時にユーガやサリナの運動神経が優れている理由を直感する。

 それはケンキと付き合って来たからこその結果なのだと。


「……で、もう一回やるの?何回かやると言っていたけど」


「え?」


「やる。他の奴らがやらなくて二人だけで挑むことにしても挑戦する」


「え?」


「………そう。自然に二人と言っていたけどサリナも?」


「…うん。十人以上いて一分も経っていないのに全員捕まるって情けないし」


「あ……」


 サリナの言葉を聞いて少年少女は確かにそうだと自覚する。

 たった一人の小さい奴に全員が捕まえられのだ。

 いくらケンキが規格外だと理解しても悔しい。


「そうだな……。ケンキ、もう一回だ!」


「そうだよ!次は逃げきってみせるんだから!」


 そうだ、そうだと騒ぐ少年少女にケンキは頷き、何度も鬼ごっこをして全滅させては繰り返した。




 そして日が暮れ。


「…………疲れた」


「「「「「「………………っ」」」」」」


 ケンキの言葉に突っ込む元気もない。

 疲れたと言っているがケンキからは汗はほんの少ししか流れておらず、逆に少年少女たちは汗だくになって倒れている。

 圧倒的な体力の差にケンキに対する視線が変わる。


「………んで……あれだけ動いて……平気……なのよ?」


「ケンキだからで納得しろ。あれは昔っから規格外だ」


 そういうユーガの目とサリナの目は遠くを見てしまっている。

 疲れ切った、その眼を見て同情してしまう少年少女。

 あれだけの規格外と一緒にいるのだから苦労も多くして来たのだと察してしまい同情する。


「………少し待ってろ」


 ケンキはそう言ってユーガ達の前から去る。

 何をしに行ったのかと倒れながら疑問に思っていたら両手に袋を持って戻って来る。

 そして一人一人の前に冷たい飲み物を置いて行く。


「………それを飲んで少しでも早く回復しろ」


 冷たい飲み物を渡してくれて感謝もするが、どこから持ってきたのか疑問に思ってしまう。


「……ケンキ、これらはどうした?」


「………買ってきた」


「お前の金でか?」


 その質問に首を縦に振って頷くケンキ。

 ケンキの答えに少年少女は手を出しにくくなる。

 貴重なお小遣いを自分たちの為に使ったと聞いて申し訳ないという気持ちで一杯だ。

 それはユーガとサリナも同じで手には取っても開けるのに戸惑っている。


「………飲まないのか?」


 ケンキの質問に本当に良いのか?と周りの者と視線を交わし合う。

 そこにユーガが意を決してキャップを開けて飲み物を口にして一気に飲み干す。


「あぁっ!?」


 ユーガの行動に少年少女は驚いて見上げる。


「ぷはっ!後で値段を教えろよ。絶対に返すから」


「………この程度、気にしなくて良い」


「無理だ。一応言っておくが皆が飲むのを戸惑っているのはお前が自腹で買ってきたせいだからな」


 どういうことだと首を傾げるケンキには溜息しか出ない。

 そして他の少年少女も呆れた視線を向けて冷たい飲み物を口にする。

 先程、ユーガが言ったように後でお金を払えばよいのだと気が楽になっている。


「なぁ、何でケンキはそんなに強いんだ?」


 そして息も落ち着き一人の少年がケンキへと話しかける。

 内容のこともありユーガとサリナ以外は集中して話の内容を聞き取ろうとする。


「…………お前らよりは強いのは鍛えているから」


「え、それだけ?」


「………それ以外に何がある?」


「いや、誰かに鍛えて貰ったりとか……」


「ユーガやサリナ、他にも鍛えている奴はいるけど鍛えて貰った記憶は無い。ほぼ独学」


「いやいやいや。それは嘘だろ」


 そう言ってユーガとサリナへと視線を向けるが眼を逸らされる。


「……ケンキの言っていることは本当だ」


「……知り合いらしき騎士相手にも鍛えていたしね」


 嘘だろと言いたくなる事実に更に驚いてしまい、ケンキをバケモノを見るような目で見てしまう。

 騎士と言ったら護衛のプロなのに、それを鍛えるとか同じ年頃の子供とは思えない。


「初めて会ったのは親に紹介されてからだが、その頃から既に強かったからな。小さい頃に魔獣と出会って一人で殺し尽す位には」


 ユーガの言葉に信じられない気持ちになる少年少女。

 サリナの方を見るが辛そうな顔で頷いている。

 嘘ではないみたいだと理解したが、それでも信じられない気持ちになる。


「ケンキ君は多分、天才。それに私が知っている中で誰よりも努力をしているから強いんだと思う。一週間、徹夜で大剣を手に素振りをしてたりしたこともあったし……」


「あれは俺たちの両親も一緒にケンキに説教していたな。見ているだけでも怖かった。サリナなんて泣いていたし」


「………だって怖かったし」


「あぁ、強くなりたいからと、ケンキはよく言いあい出来るよな……。まぁ、俺たちとケンキの一番の差はサリナが天才と言っていたのもあるが、それ以上に努力の結果だろ」


 お前たちは同じことを出来るかと聞かれて首を横に振る。

 寝るのも惜しんで強くなるために剣を振るうのは辛い。

 一日だけならまだしも、それが一週間となると絶対に途中で飽きてしまいそうだ。


「………そんなに強くなって何がしたいんだ?」


「特に理由は無いらしい。そもそも強くなりたいのに理由は必要かと聞いてくるぐらいだ」


 その言葉を聞いて男子たちはカッコいいと感想を女子は呆れた視線をケンキに向ける。


「……お前たちも回復したし俺は帰る。じゃあな」


 ケンキはチラリと倒れ伏している少年少女を見て帰路に付く。

 思い思いに飲み物を飲んでいる姿から体力が回復したのだと考えたのもある。


「あ、待てって」


 その姿にユーガとサリナは急いで立ち上がりケンキの後に付いて行く。

 少年はユーガの普段とは違う行動に少しだけショックを受ける。

 運動も勉強も出来て凄い奴だと思っていたのに、さらに優れていた奴に簡単に後ろに付いて行った姿に。

 そして可愛くて男子から人気だったサリナも楽しそうにケンキの後ろを付いている姿に。


 女子は安心していた。

 サリナは男子から人気があって好きな男子からも好意を持たれていたことに嫉妬を向けていた。

 それは普段から仲が良いユーガからも好意を持たれているか、好き合っている者同士だと考えていた。

 だが実際はケンキに好意を持っていることが見てわかった。

 自分の好きな男子に相手をしないだろうと確信し、ケンキとサリナを付き合わせるのに協力しようと考える。


「……皆、今までユーガを目標にしていたが変えるぞ」


「……皆、ケンキ君とサリナちゃんを付き合わせよう」


「「「「「おう(うん)!」」」」」


 それぞれの新しい目標を宣言した。

 それはそれとして。


「ケンキ、強すぎない?」


「全くだ。いくら何でも強すぎる」


「最長時間は何分だっけ?」


「五分だったはずだよ」


 ケンキの理不尽さに少年少女は三人が去った後に愚痴り始める。

 本人の前では多少は抑えていたが、今この場で吐き出さないとスッキリしない。


「もう何回も繰り返してたけど回数覚えている奴いる?」


「さぁ?十回以上はやっていた気はするけど、途中から今度こそ逃げ切ってやるってムキになって覚えていない」


「だよなぁ」


「ねぇ、明日も学校が終わったら挑戦しない?」


「良いな、それ!」


 ケンキとの鬼ごっこは何十回と繰り返し全滅させられた。

 一度も逃げ切ることは出来ずケンキ一人に対して十人以上いたのに短い時間で捕まえられたのが悔しくてしょうがない。

 すこしの時間だけとはいえ真面に逃げられたのはユーガとサリナだけだった。


「どうやって時間を延ばすか……」


「人を増やすべきか?」


「良い案だけど、それで良いの?」


「正直、クラス全員が挑んでも全滅しかねない気がする」


「……否定できないわね」


 あーでもない、こーでもないとケンキから鬼ごっこで逃げ切れる方法を話し合う少年少女。

 そのまま日が暮れるまで話し合う。


「はぁ、明日も学校で話し合おうぜ。もう暗いし」


「そうね。それじゃあ、ばいばい」


 ばいばいと手を振って少年少女はお互いの帰路へと着いた。





「なぁ、ケンキ」


 ユーガの呼びかけにケンキは振り返る。


「明日から鬼ごっこを挑まれそうだが参加するのか?」


 ユーガの言葉にケンキはどういうことかと首を傾げる。

 明日もやるとは聞いてもいないのに、どうして理解できるのか謎だ。


「俺はあいつらとも付き合いがあるからな。このぐらいの予想は出来る」


「……それで明日も鬼ごっこをさせられると?」


 ケンキの言葉にユーガは頷く。

 それに対してケンキは渋い顔になる。


「鬼ごっこはつまらなかった?」


 サリナが不安そうに尋ねる。

 もしかしたら自分たちと過ごす時間を無駄だと思ってしまったのかもしれないと。

 そうなったらケンキと一緒にいれる時間が減ってしまうと。


「……ユーガとサリナ以外はいるだけ無駄。普通にユーガとサリナだけの方が良い」


 サリナは自分が考えていたことでは無いことに安心して息を吐き、ユーガはケンキの厳しい意見に溜息を吐く。

 ケンキが早過ぎて自分達以外の少年少女を全員捕まえてからユーガとサリナを捕まえる。

 全てがそのパターンだった、


「……面白そうだと期待していたのに裏切られた気分だ」


 ケンキはこう言っているがユーガとサリナからすれば苦笑しか浮かばない。

 そもそも鬼ごっこで鬼に対して攻撃をするのはルール違反だ。

 ユーガ達も反撃をしなければ一瞬で捕まる可能性がある。


「そうでもないと思うぞ」


 だからユーガはフォローをする。


「ケンキが楽しいと感じたのは俺たちが反撃をしたからだろう?普通は鬼ごっこは鬼を攻撃しないし、するのにも躊躇う。だが攻撃をするようになれば面白くなるはずだ」


 ユーガの言葉にケンキは考え込む。

 サリナとユーガの二人が鬼ごっこの最中に反撃をしなくても、それなりに楽しめそうだと思うが、その差は実力差だと理解する。

 明日も鬼ごっこをするのなら反撃をするように言うべきだと判断した。


「……明日、鬼ごっこをするなら反撃するように説得するのを手伝って。どうせ何人いようと反撃しないかぎり、いるだけ無駄」


 ケンキの言葉にユーガとサリナも頷く。

 わかっているのだ。

 ケンキとの差はそれだけ離れているのだと。

 それに、どれだけケンキが凄いのか多くの者に知ってもらえる機会だ。

 学校ではケンキは大人しいからケンキの実力を知らない者も多い。

 ケンキはこれだけ凄いんだと自慢したい気持ちがある。


「わかっている。それでも最初の内は反撃の数は少ないぞ」


 ユーガの言葉にケンキは不満そうにする。

 どうせなら最初から全員が反撃してくれた方が面白い。

 弱いが数が多い為、予想外のところからも攻撃が来て訓練になると考えている。


「……挑発すれば攻撃をしてくるか?」


「無理だと思うよ…。ケンキって挑発が下手だし。正直そんなことをするよりも直接、攻撃した方が楽だと思っているよね」


 サリナの否定に頷くユーガ。

 事実、ケンキは挑発が下手だ。

 ユーガとサリナ、そしてラーンとシーラを鍛えている際も発破をかけるために挑発する時に同じ言葉しか言わない。

 この程度か、としか言わないため言葉のボキャブラリーが少ないのだ。

 そんなケンキが挑発しても効果は薄いだろう。


「………確かに直接、攻撃した方が早いが鬼ごっこでは俺からは攻撃はしない。…………ユーガとサリナも俺が鬼ごっこに参加するなら、お前らも参加して。あと反撃も積極的にしてくれ」


 ケンキは何か思いついたのか二人に指示をする。

 特に拒否する理由は無い為にユーガとサリナの二人はケンキの指示に首を縦に振った。

 何を思いついたのかは分からないが二人とも明日の楽しみとしてケンキに期待することにした。


「二人とも、また明日だ」


 そうしているうちに帰路の分かれ目に入る。

 そこでユーガは一足先にケンキ達とは別れる。

 ユーガの挨拶にケンキ達は手を振って答え、また明日と約束した。





「ねぇ、ケンキ君」


 二人きりになりサリナはケンキの手を掴んで話しかける。

 それに対してケンキは顔を振り向くことで返事をする。


「………一応、言っておくけど鬼ごっこは強制じゃないからね?やりたくなかったら逃げても大丈夫だからね」


 サリナの言葉に頷くケンキ。

 鬼ごっこをしたくないなら拒否して逃げることも視野に入れる。

 どうせ鬼は自分一人だから、こっちの都合で休んでも構わないだろうとケンキは考える。


「………そうだな。そもそも、鬼ごっこをしないといけないわけではないんだ。やりたくないときは拒否をさせてもらおう」


 ケンキの言葉にサリナは満足そうな顔になる。

 場合によってはケンキが毎日、鬼ごっこをする姿を脳裏に浮かんだために心配になったのだ。

 正直、暇だからと流されそうで不安だ。


「ケンキ君。鬼ごっこをするときは私にも声を掛けてね?」


 当然だとケンキは頷く。

 そもそもユーガとサリナの二人が参加しないと意味がない。

 それ以外は全員、あまりにも弱く遅すぎるのだ。

 少しでもやる価値が無いと時間の無駄でしかない。


「………そっちこそ鬼ごっこの最中に反撃をする様に説得をちゃんとしてくれ」


「……わかっているわよ」


 ケンキの反撃の説得に複雑な顔になりながらもサリナは頷く。

 サリナとしては可能性が低いとわかっていても怪我をする可能性のある反撃は本当は許したくない。

 だけど同時に怪我をしたら無茶も少なくなるかもしれないという考えもあって複雑な感情を抱いてしまう。


「………そういえば俺は明日も教会に行くけど、サリナはどうする?」


「行く」


 ケンキの誘いにサリナは即答える。

 滅多にないケンキの誘いだから考えることはなく本能のままに誘いに乗ってしまった。

 シスターに対してケンキは失礼な事を言っていたから嫌われているかもしれないしフォローをする必要性があると予測している。


「ケンキ君、喧嘩をまた売らないよね?」


 サリナの抱えている不安にケンキは首を傾げる。

 そのことに頭を抱えたくなり教会に同行することを決めたのは正しかったのだと安堵する。


「……俺は喧嘩を売っていない。ありえる事実を言っただけ」


「それを止めてと言っているんだよ?」


 自分が挑発をしているという自覚のないケンキに呆れてしまう。

 ケンキが何かを言う前に阻まなければいけないと考える。


「………鬼ごっこが放課後だったら教会はどうするの?」


 鬼ごっこの件を持ち出して教会に行くことを防ぐ案もサリナは考える。

 挑発を防ぐためなら、そもそも教会に近づかせなければ大丈夫だと考えたからだ。

 強制させることは無いと言ったが、それ以上に誰かに嫌わせてしまうよりはマシだともサリナは思う。


「……鬼ごっこに参加せずに教会に行く。……そもそも俺には鬼ごっこをするメリットが少ない。……場合によっては一人で鍛えていたほうが意義がある」


 そんなんだから私たち以外に友達はいないのだと冷たい視線を送ってしまうサリナ。

 ケンキはその視線の意図も理解しているが、これが俺だと後悔が無いと言わんばかりに胸を張っているような姿さえ見せる。

 ケンキの周囲を見ずに愚直に鍛えている姿はカッコいいとも思っているが、度が過ぎているとも思っている。


「……あぁ、そう」


 サリナはケンキを止めることはしない。

 何を言っても無駄だと理解はしているからだ。

 鬼ごっこをやるなら放課後では無く、昼休みじゃないと参加してくれないことを教えなくてはならないとサリナは溜息を吐く。


「………それじゃあな」


 ケンキの別れの言葉を聞いて前を見ると家のすぐ近くまで来ていた。

 ケンキの家も近所とはいえ、ここからケンキの家に着くには元の道を戻らなきゃいけない。

 こういうところもあるから失望して嫌いになれないのだとサリナは赤くなった顔を隠すように家の中に入って、また明日とケンキに返事をした。

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― 新着の感想 ―
[一言]  良い感じです。  楽しく読ませていただいています。  作者様 お疲れ様です。
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